説明

シールの製造方法

【課題】ボールねじ用シールの熱可塑性エラストマからなるリップ部の耐久性および形状精度を向上する。
【解決手段】射出成形で使用する金型のゲートを、ゲート跡30A〜30Dの位置に設けることで、これらの位置にウエルドライン4が発生しない。これにより、リップ部1に大きな力がかかる接触角となる位置にウエルドライン4が発生しないため、リップ部1の耐久性が向上する。また、リップ部1の肉厚部1Aで肉薄部よりも、ゲート位置がリップ部1の先端から近い位置にあり、エラストマ充填が完了する時間の差を小さくすることができるため、リップ部1の形状精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ(内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなる装置)用のシールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動射出成形機などで使用されるボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、を備えている。
このようなボールねじのボールは、ねじ軸の回転運動に伴ってねじ溝を転動するため、ねじ軸に付着した塵埃や摩耗粉などの異物がナット内に入り込むと、ナット内に入り込んだ異物によってボールの転がり運動が阻害され、焼付きなどの損傷が生じることがある。そこで、ナット内への異物の侵入等を防ぐために、ナットの軸方向両端にリング状のシールが配置されている。
【0003】
図5は、従来のボールねじの一例を示す断面図である。同図において、11はねじ軸、12はナットを示し、ねじ軸11の外周面には、ねじ溝(螺旋溝)13が形成されている。このねじ溝13はナット12の内周面に形成されたねじ溝(螺旋溝)14と対向しており、ねじ溝13とねじ溝14との間には、多数のボール15が設けられている。これらのボール15は、ねじ軸11またはナット12の回転に伴って、ねじ溝13とねじ溝14との間のボール負荷転走路(転動溝)を転走するようになっている。
【0004】
ボール負荷転走路を転走したボール15は、ナット12に埋め込まれた「こま」を経由して、元の位置に戻されるようになっている。ナット12の両端には、ねじ軸11とナット12との間の隙間をシールする接触型のシール17が装着されている。このシール17は、ねじ軸11の外周面およびねじ溝13に接触するリップ部1と、ナットに固定される本体2とを有する。
【0005】
下記の特許文献1には、ボールねじのシールとして、ナットに固定される縁部を備えた円環状の本体(芯金を有する取付部)と、ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を含むエラストマ成形体(環状のシール片)と、を有し、リップ部がねじ軸の外周面に対して斜めに当接し、当接するねじ軸の外周面に対して所定の一方向に撓むようになっているものが記載されている。
【0006】
このようなシールは、従来、リップ部を含むエラストマ成形体を、金属製の円環状の本体に対して、熱可塑性エラストマの射出成形により一体成形することで製造されている。例えば図6に示すように、円環状の本体2を金型3のキャビティ3bに配置して、熱可塑性エラストマを金型3内に導入する。この方法で使用される金型3は、エラストマ導入側の可動側型板31と、固定側型板32とからなり、可動側型板31にゲート3a、ランナ3c、スプルー3dが形成されている。
【0007】
図7は、図6に示す金型3の可動側型板31を示す正面図(固定側型板32と対向する面を示す図)である。この図に示すように、ゲート3aは、本体2をなす円環と同心の円Eに沿って複数個形成されている。
スプルー3dから金型3内に導入された熱可塑性エラストマは、ランナ3cを通って、ゲート3aからキャビティ3bに入る。円環状の本体2には、金型3のゲート3aの位置に対応させたアンカー穴2aが形成されている。これにより、図8および図9(図8のIX−XI断面図)に示すように、円環状の本体2にリップ部1を含むエラストマ成形体10が一体成形されたシールが得られる。このようにして得られたシールには、図8に示すように、隣り合うゲート3aの間にウエルドライン4が生じる。
【特許文献1】特開平10−252856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなボールねじ用シールでは、シールの開口形状やリップ部の形状を工夫して密封性能を向上させている。リップ部の形状に関しては、周方向で厚さや径方向寸法を変えている。そのため、ボールねじ用シールには、リップ部の耐久性および形状精度に関して改善の余地がある。
本発明の課題は、ボールねじ用シールの熱可塑性エラストマからなるリップ部の耐久性および形状精度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなるボールねじの、前記ナットの軸方向両端に配置され、前記ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を有するリング状のシールの製造方法であって、前記ねじ軸の軸直角断面で前記リップ部のたわむ向きが変わる位置にゲートを設けた金型を用いて、前記リップ部を熱可塑性エラストマの射出成形で製造することを特徴とするシールの製造方法(本発明の第1の方法)を提供する。
【0010】
前記シールは、ねじ軸の軸直角断面でリップ部のたわむ向きが変わる位置に大きな力がかかる。本発明の第1の方法では、射出成形で使用する金型のゲートを、ねじ軸の軸直角断面でリップ部のたわむ向きが変わる位置に設けることで、この位置にウエルドラインが発生しないため、リップ部の耐久性が向上する。
本発明はまた、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなるボールねじの、前記ナットの軸方向両端に配置され、前記ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を有するリング状のシールの製造方法であって、前記リップ部の肉厚部のゲート位置を、肉薄部のゲート位置よりもリップ部の先端から近い位置に設けた金型を用いて、前記リップ部を熱可塑性エラストマの射出成形で製造することを特徴とするシールの製造方法(本発明の第2の方法)を提供する。
【0011】
前記シールは、周方向で厚さや径方向寸法を変えているが、リップ部の肉厚部と肉薄部とで、射出成形で使用する金型のゲート位置からリップ部の先端までの距離が同じであると、エラストマ充填が完了する時間に差が生じる。本発明の第2の方法では、射出成形で使用する金型のゲート位置を、リップ部の肉厚部で肉薄部よりもリップ部の先端から近い位置に設けることで、エラストマ充填が完了する時間の差を小さくすることができる。これにより、リップ部の形状精度が向上する。
【0012】
本発明はまた、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなるボールねじの、前記ナットの軸方向両端に配置され、前記ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を有するリング状のシールの製造方法であって、前記ねじ軸の軸直角断面で前記リップ部のたわむ向きが変わる位置にゲートを設け、前記リップ部の肉厚部のゲート位置を、肉薄部のゲート位置よりもリップ部の先端から近い位置に設けた金型を用いて、前記リップ部を熱可塑性エラストマの射出成形で製造することを特徴とするシールの製造方法(本発明の第3の方法)を提供する。
【0013】
前記シールは、ねじ軸の軸直角断面でリップ部のたわむ向きが変わる位置に大きな力がかかる。また、前記シールは、周方向で厚さや径方向寸法を変えているが、リップ部の肉厚部と肉薄部とで、射出成形で使用する金型のゲート位置からリップ部の先端までの距離が同じであると、エラストマ充填が完了する時間に差が生じる。
本発明の第3の方法では、射出成形で使用する金型のゲートを、ねじ軸の軸直角断面でリップ部のたわむ向きが変わる位置に設けることで、この位置にウエルドラインが発生しないため、リップ部の耐久性が向上する。また、射出成形で使用する金型のゲート位置を、リップ部の肉厚部で肉薄部よりもリップ部の先端から近い位置に設けることで、エラストマ充填が完了する時間の差を小さくすることができる。これにより、リップ部の形状精度が向上する。
【0014】
本発明の第1〜第3の方法により、ナットに固定される縁部を備えた円環状の本体と、ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を含むエラストマ成形体とが一体成形されたシールを製造する場合には、前記縁部を備え、前記ゲート位置に対応したアンカー穴を有する円環状の本体を前記金型のキャビティに配置して、前記リップ部を含むエラストマ成形体を前記本体に一体成形する方法を採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、ボールねじ用シールの熱可塑性エラストマからなるリップ部の耐久性および形状精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1のシールを下記の方法で製造する。図1のA−A断面図は図9と同じである。
図1のシールは、リップ部1を含むエラストマ成形体10が、金属製の円環状の本体2に一体成形されたものである。このシールには、隣り合うゲート跡30A〜30Dの間にウエルドライン4が生じている。このシールは、周方向でリップ部1の厚さと径方向寸法が変化し、リップ部1は肉厚部(他の部分より厚い部分)1Aを有する。また、このシールは、ねじ軸が2条ねじであるボールねじ用のシールである。
【0017】
図1のシールは、ねじ軸11の同一断面円の各位置での、リップ部1とねじ軸11の螺旋溝13および外周面11aとの接触状態が、図2(a)〜(g)のようになっている。破線はリップ部1の設計形状を示す。各図は螺旋溝13の溝直角断面を示している。図2の「C」は螺旋溝13の中心を、「A」はねじ軸11の同一断面円位置を、「O」はゴシックアーク状の螺旋溝13の一方の円弧の中心点をそれぞれ示す。
【0018】
ねじ軸11の螺旋溝13とリップ部1の先端との接触角が、図2(d)に示すαのときと、図2(f)に示すβのときに、ねじ軸11の軸直角断面でリップ部1のたわむ向きが変わる。そのため、リップ部1を含むエラストマ成形体10を射出成形する際に使用する金型のゲート3aを、接触角αとなる位置と接触角βとなる位置に設ける。図1のゲート跡30Aは、接触角αとなる位置に設けたゲート3aの跡である。図1のゲート跡30Bは、接触角βとなる位置に設けたゲート3aの跡である。また、これ以外の位置にも適度な間隔でゲート3aを設ける。図1のゲート跡30C,30Dは、接触角α,βとなる位置以外の位置に設けたゲート3aの跡である。
【0019】
図1のラインHは、リップ部1の先端から等距離のラインであるが、ゲート跡30Cに対応するゲート3aは、ラインHより径方向内側に設けてある。ゲート跡30Aに対応するゲート3aもラインHより径方向内側に設けてある。これらのゲート跡30Cとゲート跡30Aは、リップ部1の肉厚部1Aに生じたゲート跡であり、これ以外の部分(肉薄部)に生じたゲート跡30B,30Dよりも、リップ部1の先端から近い位置に生じている。すなわち、図1のシールのエラストマ成形体10を射出成形により製造する際には、リップ部1の肉厚部1Aのゲート位置を、肉薄部のゲート位置よりもリップ部1の先端から近い位置に設けた金型を使用する。
【0020】
図3は、この実施形態で使用する金型3の可動側型板31を示す正面図(固定側型板32と対向する面を示す図)に相当する。この図に示すように、この可動側型板31には、図1に示すゲート跡30A〜30Dに対応する位置に、ゲート3aが形成されている。
【0021】
図4に示すように、円環状の本体2には、図3の金型3のゲート3aの位置に対応させたアンカー穴2aが形成されている。この本体2を、図3および図6に示す金型3のキャビティ3b内に配置して、スプルー3dから金型3内に熱可塑性エラストマ(例えば、デュロメータA硬度が75±10である熱可塑性エラストマ、好ましくはオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマ)を導入して射出成形を行う。
【0022】
スプルー3dから金型3内に導入された熱可塑性エラストマは、図6に示すように、ランナ3cを通って、ゲート3aからキャビティ3bに入る。これにより、図1および図9(図1のA−A断面図)に示すように、円環状の本体2に、リップ部1を含むエラストマ成形体10が一体成形されたシールが得られる。このようにして得られたシールには、図1に示すように、隣り合うゲート跡30A〜30Dの間にウエルドライン4が生じる。
【0023】
この実施形態の方法では、射出成形で使用する金型のゲートを、図1のゲート跡30A〜30Dの位置に設けることで、これらの位置にウエルドライン4が発生しない。これにより、リップ部1に大きな力がかかる接触角α,βとなる位置にウエルドライン4が発生しないため、リップ部1の耐久性が向上する。また、リップ部1の肉厚部1Aのゲート位置(ゲート跡30A,30Cに対応するゲート位置)が肉薄部のゲート位置(ゲート跡30B,30Dに対応するゲート位置)よりも、リップ部1の先端から近い位置に設けてあることで、肉厚部と薄肉部とにおけるエラストマ充填が完了する時間差を小さくすることができるため、リップ部1の形状精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態で製造されたシールを示す正面図である。
【図2】図1のシールの、ねじ軸の同一断面円の各位置での、リップ部とねじ軸の螺旋溝および外周面との接触状態を示す図である。
【図3】図1のシールを製造する際に使用する金型の可動側型板を示す正面図である。
【図4】図1のシールを構成する円環状の本体を示す正面図である。
【図5】従来のボールねじの一例を示す断面図である。
【図6】リップ部を含むエラストマ成形体を、円環状の本体に対して、熱可塑性エラストマの射出成形により一体成形する際に使用する金型を示す断面図である。
【図7】従来のシールを製造する際に使用する金型の可動側型板を示す正面図である。
【図8】従来のシールを示す正面図である。
【図9】図1のA−A断面および図8のIX−XI断面に相当する図である。
【符号の説明】
【0025】
1 リップ部
10 エラストマ成形体
2 円環状の本体
2a アンカ孔
3 金型
31 可動側型板
32 固定側型板
30A〜30D ゲート跡
3a ゲート
3b キャビティ
3c ランナー
3d スプルー
4 ウェルドライン
11 ねじ軸
12 ナット
13,14 ねじ溝(螺旋溝)
15 ボール
17 シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなるボールねじの、前記ナットの軸方向両端に配置され、前記ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を有するリング状のシールの製造方法であって、
前記ねじ軸の軸直角断面で前記リップ部のたわむ向きが変わる位置にゲートを設けた金型を用いて、前記リップ部を熱可塑性エラストマの射出成形で製造することを特徴とするシールの製造方法。
【請求項2】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなるボールねじの、前記ナットの軸方向両端に配置され、前記ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を有するリング状のシールの製造方法であって、
前記リップ部の肉厚部のゲート位置を、肉薄部のゲート位置よりもリップ部の先端から近い位置に設けた金型を用いて、前記リップ部を熱可塑性エラストマの射出成形で製造することを特徴とするシールの製造方法。
【請求項3】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道溝の間に配置されたボールと、からなるボールねじの、前記ナットの軸方向両端に配置され、前記ねじ軸の外周面および螺旋溝に弾性変形状態で接触するリップ部を有するリング状のシールの製造方法であって、
前記ねじ軸の軸直角断面で前記リップ部のたわむ向きが変わる位置にゲートを設け、前記リップ部の肉厚部のゲート位置を、肉薄部のゲート位置よりもリップ部の先端から近い位置に設けた金型を用いて、前記リップ部を熱可塑性エラストマの射出成形で製造することを特徴とするシールの製造方法。
【請求項4】
前記ナットに固定される縁部を備え、前記ゲート位置に対応したアンカー穴を有する円環状の本体を前記金型のキャビティに配置して、前記リップ部を含むエラストマ成形体を前記本体に一体成形する請求項1〜3のいずれか1項に記載のシールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−127355(P2010−127355A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301573(P2008−301573)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】