説明

シール構造体及びその製造方法

【課題】 流体シール、防音、断熱の各性能に優れるとともに、各処理部位への装着作業にも優れ、また製造に際しても特殊な材料や設備を必要とせず安価に得られるシール構造体を提供する。
【解決手段】 弾性変形可能な基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合してなり、かつ、前記熱可塑性物物質(b)の軟化温度未満の温度域では基材(a)の変形状態が保持されるとともに、前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上の温度に加熱することにより基材(a)が変形前の形状に復元することを特徴とするシール構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により変形して隙間を閉塞するシール構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や産業用機器、自動車における継ぎ目の流体シール、防音、断熱の目的でウレタンフォーム等の各種フォーム材、シリコーンシーラント等の液状硬化型のシール材が広く使用されている。これら材料が十分な流体シール、防音、断熱の性能を発揮するためには、構造物の継ぎ目の隙間を埋める必要がある。
【0003】
従来のフォーム材からなるシール材は圧縮して必要な部位に装着し、材料自体の弾性力で厚さが復元することにより継ぎ目の隙間を埋めている。しかし、従来のフォーム材は圧を開放すると瞬時に復元するため、圧縮状態のフォーム材の復元力に抗った状態を保ったままフォーム材やフォーム材を用いたアッセンブリー品を流体シール、防音、断熱が必要な個所に装着する必要があり、装着の作業性が非常に悪い。
【0004】
固形物であるソリッドゴムによるシール材も用いられる。ソリッドゴムによるシール材はフォーム材と比較して材料中を流体が透過しにくいため、流体そのもののシール性に優れ、また、流体を介して熱や音波が伝わりにくいため、断熱性、防音性に優れる。しかしながら、圧縮変形させるために高い応力が必要となり、装着の作業性はフォーム材以上に問題となる。
【0005】
シール材を薄くすれば装着の作業性は向上するが、隙間が生じるため流体シール、防音、断熱の性能が十分ではなくなる。柔らかいフォーム材を使用して圧縮状態のフォーム材の復元力を下げることで、作業性をやや改善することはできるが、作業性は十分ではない。また、復元力の低いフォーム材は流体シールの性能が劣り好ましくない。
【0006】
上記のように、流体シール、防音、断熱の性能と、装着性は相反するものであり、各特性を満足するシール材が求められている。
【0007】
このような背景から、熱による発泡が可能なゴム組成物等をシール箇所に配置し、シール箇所を加熱して発泡させて隙間を閉塞する感熱膨張材も用いられている。例えば、熱可塑性樹脂からなる芯材と架橋高分子からなる外装材とを複合させた熱膨張シール材(特許文献1参照)が知られている。しかし、この熱膨張シール材では、厚さ方向に膨張させると、平面方向の長さが減少して平面方向で隙間が生じてシール性が損なわれる懸念がある。また、熱可塑性樹脂と架橋ゴムの混和物からなる熱膨張チューブ(特許文献2、特許文献3参照)も知られている。しかしながら、これらの熱膨張チューブも厚さ方向に膨張させると、平面方向の長さが減少して平面方向で隙間が生じるという問題がある。
【0008】
感熱膨張材として、ウレタンの形状記憶ポリマー発泡体(特許文献4参照)や、ゴム中にポリオレフィン等の樹脂をブレンドした形状記憶性加硫ゴム成形体(特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)も知られてしる。また、ポリノルボルネンやスチレンブタジエン共重合体も形状記憶ポリマーとなることが知られており、これら原料を使用してスポンジを製造し、これを圧縮してさらに圧縮状態のまま形状を固定することで、加熱によりスポンジ状に膨張し、厚さが増加する感熱膨張材を得ることができる。また、ゴム中に樹脂をブレンドした形状記憶性の発泡体(特許文献10参照)も知られている。しかし、これらの感熱膨張材は圧縮状態を保つ性能が不十分であるため、圧縮状態で長期間保管することが困難であり、更には特定温度で急激に膨張する感熱膨張特性が不十分である。
【0009】
その他にも、フォーム材に熱硬化性樹脂等を固着剤として複合させて得られる感熱膨張材(特許文献11、特許文献12、特許文献13,特許文献14参照)が知られているが、これらの感熱膨張材は固着剤としての性能が十分ではなく、長期間にわたって圧縮形状を保持することができないため、保管時に膨張してしまう懸念がある。また、高融点樹脂の発泡体に低融点の熱可塑性樹脂を複合させて得られる感熱膨張材(特許文献15参照)も知られているが、この感熱膨張材はフォーム材が熱可塑性樹脂で構成されているため、圧縮状態で長期間経過するとクリープのために弾性復元力が低下し、長期間の保管後に加熱しても膨張しないことがある。更に、ウレタンフォームと熱可塑性樹脂とアスファルトを複合させて得られる感熱膨張材(特許文献16参照)も知られているが、この感熱膨張材は常温で圧縮され、アスファルトの粘性のみで圧縮形状を保持させているため、長期間にわたって圧縮形状を保持することができず、保管時に膨張してしまう懸念がある。また、逆にフォーム材の素材が架橋ゴムではなくウレタンフォームであるため、圧縮状態で長時間保持すると、ウレタンフォームのヘタリによって加熱しても膨張しないことがある。
【0010】
本出願人も先に、フォーム材に熱可塑性物質を含浸させることによって得られる感熱膨張材(特許文献17参照)を提案している。しかしながら、追試の結果、長期間にわたって圧縮形状を保持することができないか、あるいは例えば夏場の倉庫内を想定した温度である50℃で長期間、圧縮状態で保管すると、加熱しても膨張しない場合があることが判明した。これを改良したフォーム材(特許文献18参照)も提案しているが、ソリッドゴムからなるシール材と異なり、本質的に材料内部を流体が透過しやすく、シール性能や防音性能、断熱性能が必ずしも十分とはいえない。
【0011】
【特許文献1】特開昭56−163181号公報
【特許文献2】特開昭52−146482号公報
【特許文献3】特開昭53−78282号公報
【特許文献4】特公平7−39506号公報
【特許文献5】特開平9−309986号公報
【特許文献6】特開2000−191847号公報
【特許文献7】特開2000−217191号公報
【特許文献8】特開2001−40144号公報
【特許文献9】特開2002−12707号公報
【特許文献10】特開2000−1558号公報
【特許文献11】特開60−171142号公報
【特許文献12】特公昭63−32611号公報
【特許文献13】特公平5−63291号公報
【特許文献14】特開平8−174588号公報
【特許文献15】特開平8−34871号公報
【特許文献16】特公平5−64092号公報
【特許文献17】特開2002−69228号公報
【特許文献18】特開2004−276377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、流体シール、防音、断熱の各性能に優れるとともに、各処理部位への装着作業にも優れ、また製造に際しても特殊な材料や設備を必要とせず安価に得られるシール構造体を提供することを目的とする。更に、本発明は前記シール構造体を用いてシール性能に優れた目地材及び防音性に優れた自動車エンジン用防音カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、弾性変形可能な基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合した構造体を加熱して圧縮や折り曲げにより変形し、変形した状態のまま冷却することにより、比較的高い温度でも変形状態が長期にわたり保持され、加熱により基材(a)がほぼ元の形状に弾性回復することを見出した。そして、この様なシール構造体を処理部位に使用することで優れた流体シール、防音、断熱の各性能が得られるとともに、処理部位への装着作業を容易に行い得ることを見出した。また、このようなシール構造体が装着性と防音性能に優れた自動車エンジン用防音カバーとなることを同時に見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0014】
即ち、本発明は下記シール構造体及びその製造方法、並びに自動車エンジン用防音カバーである。
(1)弾性変形可能な基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合してなり、かつ、前記熱可塑性物物質(b)の軟化温度未満の温度域では基材(a)の変形状態が保持されるとともに、前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上の温度に加熱することにより基材(a)が変形前の形状に復元することを特徴とするシール構造体。
(2)基材(a)が架橋ゴムまたは熱可塑性エラストマーであることを特徴とする上記(1)記載のシール構造体。
(3)基材(a)がEPDMであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のシール構造体。
(4)熱可塑性物質(b)が熱可塑性樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のシール構造体。
(5)熱可塑性物質(b)の軟化温度が30℃以上200℃以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載のシール構造体。
(6)熱可塑性物質(b)がエチレン共重合体であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載のシール構造体。
(7)中空体、断面円弧状またはシート状の基材(a)を圧縮または屈曲してなることを特徴とする上記(1)〜(6)の何れか1項に記載のシール構造体。
(8)基材(a)の変形前の形状がO型断面で径方向に圧縮された形状、もしくは基材(a)の変形前の形状がシート状またはC型断面で屈曲された形状を呈することを特徴とする上記(7)記載のシール構造体。
(9)上記(1)〜(8)の何れか1項に記載のシール構造体からなることを特徴とする自動車エンジン用防音カバー。
(10)弾性変形可能な基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合した構造体を、前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して全体を変形し、変形させた状態で冷却することを特徴とするシール構造体の製造方法。
(11)弾性変形可能な基材(a)に熱可塑性物質(b)を含む液体を塗布して乾燥し、前記基材(a)と前記熱可塑性物質(b)とを複合させた構造体とし、これを前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して全体を変形し、変形させた状態で冷却することを特徴とするシール構造体の製造方法。
(12)弾性変形可能な成形体となる成形材料と、熱可塑性物質(b)とを二層押出機で成形して基材(a)と前記熱可塑性物質(b)とを複合させた構造体とし、これを前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して全体を変形し、変形させた状態で冷却することを特徴とするシール構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、「流体シール、防音、断熱の各性能に優れるとともに、各処理部位への装着作業にも優れ、また製造に際しても特殊な材料や設備を必要とせず安価に得られるシール構造体が提供される。また、本発明によれば、装着性と防音性能に優れた自動車エンジン用防音カバーが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明のシール構造体は、弾性変形可能な基材(a)と、熱可塑性物質(b)とを接合した構造体を、熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して変形させ、変形状態を維持して冷却して得られる。具体的な形状は適用箇所に応じて選択可能であるが、中空体、断面円弧状またはシート状の基材(a)を、径方向に圧縮したり、長手方向に沿って屈曲させた形状とすることができる。例えば、図1〜図6に示す形状とすることができる。尚、図1〜図3は何れも変形前のシール構造体を模式的に示す断面図であり、図4は図1に示すシール構造体の変形後の状態、図5は図2に示すシール構造体の変形後の状態、図6は図3に示すシール構造体の変形後の状態をそれぞれ断面図にて示している。
【0018】
具体的に説明すると、図1に示されるシール構造体は、断面O型のチューブ状またはホース状を呈しており、熱可塑性物質(b)からなる内層と基材(a)からなる外層とを接合したものである。そして、図4に示すように、径方向(ここでは、図中上下方向)に圧縮されている。
【0019】
また、図2に示されるシール構造体は、図1に示したシール構造体を長手方向に2分したもので、断面がC型または半円の長尺物であり、凹面の内層が熱可塑性物質(b)で外層が基材(a)である。そして、図5に示すように、熱可塑性物質(b)が内側になるように2つに折り畳まれている。
【0020】
また、図3に示されるシール構造体は、基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合してシート状としたものである。そして、図6に示すように、熱可塑性物質(b)が内側になるように2つに折り畳まれている。
【0021】
その他にも、図7にそれぞれ断面図で示すように、(A)中央部が窪んだ形状、(B)S字状またはZ状、(C)蛇腹状、(D)楕円状、(E)略8字状等の基材(a)を用い、紙面上下方向に圧縮することもできる。尚、(A)、(C)、(D)及び(E)に示されるシール構造体では、何れも内面側が熱可塑性物質(b)である。また、(B)に示されるシール構造体では、上下の水平部分Hの傾斜部分Sと対向する面、並びに傾斜部分Sの両面が熱可塑性物質(b)である。
【0022】
尚、図4及び図5に示す変形において、その変形量としては、変形前の基材(a)の高さ(H)の半分以下とすることが、処理部位において優れた流体シール、防音、断熱の各性能を得る上で好ましい。また、図7に示す各形状においても、同様の変形量とする。
【0023】
基材(a)は、弾性変形しやすく、かつ、変形後に弾性回復するものであればよく、更にシール性を考慮すると、その主成分としてゴムやエラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が好適である。具体的には、天然ゴム、CR(クロロプレンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(ニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴムおよびこれらの架橋物;軟質ウレタン、PP/EPDM動的架橋型熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。熱硬化性樹脂や架橋ゴムからなる基材(a)は、常温と加熱時との剛性の変化が少ないため好ましい。また、熱可塑性樹脂であっても、架橋されていたり、その軟化温度が熱可塑性物質(b)の軟化温度よりも高ければ、本発明で基材(a)として使用することが出来る。基材(a)で使用可能な熱可塑性樹脂としてはポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレン-ブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル- 40塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
上記の中では、架橋されたEPDMがコストが安く、形状回復特性が良好であり、また、耐熱性や耐水性が良好なことから特に好ましい。
【0025】
基材(a)は発泡体であっても、ソリッドであってもよいが、本発明において良好なシール性、防音性、断熱性を発現させるためにはソリッドであることが好ましい。発泡体の場合は、材料内部を直接流体が通過しやすくなる。一方でソリッドの場合は、材料内部を直接通過し難くなる。
【0026】
また、基材(a)として、鉄、アルミ、ステンレス、銅等の金属や、グラファイト、セラミックス、ガラス等の無機材料を使用することもでき、例えば繊維状や織物状に加工して用いることができる。
【0027】
基材(a)を前述した形状、例えば、O型断面形状やC型断面形状、シート形状とするためには、一般的な材料加工方法にて加工可能であり、加工方法は制限されない。例えば、基材(a)がゴム材料や樹脂材料の場合は、押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、切削加工等の手法をとることができる。これら加工方法は、公知の一般的な技術であり、当業者にとって容易に任意の形状に加工することが可能である。また、市販されているゴムシートや樹脂シート、ゴムホース、樹脂ホース等をそのまま使用しても良い。基材(a)が金属材料の場合は、プレス成形、金属射出成形、板金加工等の方法を採ることが出来る。
【0028】
一方、熱可塑性物質(b)としては、各種熱可塑性樹脂及び各種熱可塑性化合物を用いることが出来る。但し、基材(a)が熱可塑性物質の場合は、熱可塑性物質(b)はその軟化温度が上記基材(a)の軟化温度よりも低いことが必要であり、基材(a)に応じて適宜選択される。
【0029】
本発明のシール構造体は、熱可塑性物質(b)の軟化温度より低い温度域では変形した形状を保持し、熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱することにより、熱可塑性物質(b)の軟化に伴って基材(a)が弾性的に変形前の形状に復元する。そのため、シール構造体の形状保持と形状復元とがより良好に行われるために、熱可塑性物質(b)は、軟化温度の前後で剛性の違いが顕著なものが望ましい。このような特性を有する熱可塑性物質(b)として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリウレタン等の結晶性熱可塑性樹脂、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリルポリアクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリスチレンエチレン-酢酸ビニル−塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル− 塩化ビニル共重合体等の非晶性熱可塑樹脂;低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス、鉛等の各種熱可塑性物質が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中では、エチレン共重合体、特にエチレン酢酸ビニル共重合体は、軟化温度が適当な温度域であり、コストが安く、軟化温度以上での剛性が極めて低いものもあるため、特に好適である。
【0030】
尚、本発明における軟化温度とは、材料が流動を開始する温度であり、熱可塑性物質が高分子材料であり、さらにこの高分子材料が未架橋または架橋密度が低い場合は、結晶性高分子材料の融点、非晶性高分子材料のガラス転移点がこれにあたる。高分子材料が十分に架橋されており、加熱しても流動しない場合、軟化温度は存在しない。
【0031】
基材(a)と熱可塑性物質(b)を接合する方法は、制限がないが、熱可塑性物質(b)を加熱溶融した液、適当な溶剤に溶解した溶液やエマルジョンとし、これら液状の熱可塑性物質(b)を基材(a)に塗布して乾燥する方法が最も簡便で、特殊な装置や設備も不要であり好ましい。乾燥に際して、必要に応じて、加熱してもよい。
【0032】
尚、液状の熱可塑性物資(b)の中でも、エマルジョンが作業環境の汚染を招き難いことから好ましい。ここで、エマルジョンとは、水中に物質が分散した状態である。熱可塑性物質(b)が熱可塑性樹脂の場合は樹脂エマルジョンと呼ばれる。樹脂ラテックスあるいは樹脂ディスパージョンと呼ばれる場合もあるが、同様のものである。樹脂エマルジョンはポリマーを重合する際に、乳化重合すなわちエマルジョンの状態で重合させたものをそのまま用いてもよく、また、任意の方法で重合後のポリマーを水中に乳化させてもよい。例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体やエチレンアクリル酸共重合体等のエチレン共重合体はエマルジョンとして市販されている。熱可塑性樹脂エマルジョンを用いる場合、含浸後に水を揮発させる方法は特に制限されるものではなく、例えば熱風を吹き付ける、真空乾燥等の手法を採ることができる。
【0033】
基材(a)が樹脂の場合には、二層押出機で、中空状の基材(a)の内周に、熱可塑性物質(b)を配置する二層ホース状に成形することも可能である。二層押出機は、特殊で高価な設備であるが、生産性が高いため、生産量が多い場合は有効な製造方法である。また、熱可塑性物質(b)を金型内に挿入し、基材(a)を射出成形するインサート成形にて製造しても良い。
【0034】
以上に例示した各手法をはじめ、基材(a)と熱可塑性物質(b)を複合させるためにあらゆる手法を用いることが可能である。
【0035】
尚、基材(a)及び熱可塑性物質(b)の各厚さは、それぞれの種類、適用箇所等を考慮して適宜設定される。また、熱可塑性物質(b)は、図示されるような基材(a)の一面の全面を覆うように形成される他、基材(a)の一面に、例えばストライプ状、格子状等のように部分的に形成されてもよい。
【0036】
そして、基材(a)と熱可塑性物質(b)との接合物を、熱可塑性物質(b)の軟化温度以上の温度に加熱し、例えば図4〜図6に示すような形状に変形し、この変形状態を維持したまま熱可塑性物質(b)の軟化温度よりも低い温度(通常は室温)に冷却し、しかる後、変形のための圧力を解放することで、本発明のシール構造体が得られる。このような一連の形状保持操作は、オーブン中で加熱し、オーブンから取り出し、直ちにプレスで変形して冷却しても良い。尚、変形するために、プレスを用いずに、錘を載せても良い。また、連続的に生産するためには、カレンダーロールを用いて加熱変形し、冷ロールで変形したまま冷却しても良い。形状保持操作はこれらに限定されるものではなく、加熱変形し、変形した状態で冷却できる方法であれば採用できる。
【0037】
上記工程において、熱可塑性物質(b)の種類に依存するが、加熱温度は80〜200℃、冷却温度は25〜80℃の範囲が好ましい。
【0038】
本発明のシール構造体は、熱可塑性物質(b)の軟化温度より低い温度では変形状態が保持されるとともに、熱可塑性物質(b)の軟化温度以上の温度に加熱することで変形状態が開放されるという形状記憶性を有する。従って、本発明のシール構造体は、形状保持性と形状復元性とについてそれぞれの機構が存在する。本発明によるシール構造体では、特定の理論により限定されるものではないが、本発明者らは以下の機構により形状保持性や形状復元性が発現するものと推定している。
【0039】
基材(a)と熱可塑性物質(b)とが接合状態で変形されると、基材(a)は弾性復元力によって変形前の形状に戻ろうとする力が作用するが、熱可塑性物質(b)も同じ形状に変形し、この熱可塑性物質(b)が基材(a)の弾性復元力を上回る形状保持力を有するときに変形形状が保たれる(形状保持性)。一方、基材(a)の形状復元力が熱可塑性物質(b)の形状保持力を上回ると、変形前の形状に復元しようとする力(形状復元性)が発現する。熱可塑性物質は、軟化温度以上の温度になると軟化して剛性が低下し、場合によっては液状になり、このような状態では少ない応力で変形させることが可能で、また変形させたまま冷却固化することで硬化物となって剛性が高くなり、変形された形状を保つことが可能となる。このような機構により、本発明のシール構造体の形状保持性及び形状回復性が発現する。
【0040】
本発明のシール構造体は、上述した特性のため、自動車エンジン用防音カバーとして好適に使用される。上記のシール構造体を変形状態でエンジン回りの部品のシール箇所に装着することで、エンジンからの発熱により熱可塑性物質(b)が軟化して変形前の形状に復元し、良好なシール状態が得られる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
市販のゴムホース(ブリヂストン社製、材質:EPDM、内径15mm、肉厚2mm)の内側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(融点65℃)のシート(厚さ0.2mm、幅5mm)を挿入した。そして、ゴムホースを150℃に加熱した厚さ10mmの鉄板で挟み、ゴムホース1mm当たり5kgの荷重がかかるように圧縮し、圧縮したまま1時間かけて冷却し、温度を50℃以下とした。得られたシール材は紐状で、ほぼ図4に示す断面形状であり、その厚さは4.2mmであった。
【0043】
(実施例2)
市販のゴムホース(ブリヂストン社製、材質:EPDM、内径15mm、肉厚2mm)の内側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(融点65℃)のエマルジョンを、ゴムホース1mm当たり0.5gとなるよう塗布して乾燥した。そして、ゴムホースを150℃に加熱した厚さ10mmの鉄板で挟み、ゴムホース1mm当たり5kgの荷重がかかるように圧縮し、圧縮したまま1時間かけて冷却し、温度を50℃以下とした。得られたシール材は紐状で、ほぼ図4に示す断面形状であり、その厚さは4.2mmであった。
【0044】
(実施例3)
市販のホース(積水化学工業社製、材質:ナイロン、内径15mm、肉厚2mm)の内側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(融点65℃)のシート(厚さ0.2mm、幅5mm)を挿入した。そして、ボムホースを150℃に加熱した厚さ10mmの鉄板で挟み、ゴムホース1mm当たり5kgの荷重がかかるように圧縮し、圧縮したまま1時間かけて冷却し、温度を50℃以下とした。得られたシール材は紐状で、ほぼ図4に示す断面形状であり、その厚さは4.1mmであった。
【0045】
(実施例4)
市販のゴムホース(ブリヂストン社製、材質:EPDM、内径15mm、肉厚2mm)を半分に長さ方向に切断して図2に示すようなC型断面とし、この内側に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(融点65℃)のシート(厚さ0.2mm、幅2.5mm)を添付し、シート同士が当接するように2つ折りにした。そして、ゴムホース側を150℃に加熱した厚さ10mmの鉄板で挟み、ゴムホース1mm当たり5kgの荷重がかかるように圧縮し、圧縮したまま1時間かけて冷却し、温度を50℃以下とした。得られたシール材は紐状で、ほぼ図5に示す断面形状であり、その厚さは4.1mmであった。
【0046】
(実施例5)
市販のゴムシート(クレハエラストマー社製、材質:EPDM、幅30mm、厚さ2mm)と、エチレン−酢酸ビニル共重合体(融点65℃)のシート(厚さ0.2mm、幅2.5mm)とを積層し、エチレン−酢酸ビニル共重合体のシート同士が当接するように2つ折りにした。そして、ゴムシート側を150℃に加熱した厚さ10mmの鉄板で挟み、ゴムシート1mm当たり5kgの荷重がかかるように圧縮し、圧縮したまま1時間かけて冷却し、温度を50℃以下とした。得られたシール材は、ほぼ図6に示す断面形状であり、その厚さは4.3mmであった。
【0047】
(比較例1)
市販のフォーム材(日東電工社製、材質:EPDM、嵩密度100kg/m3、幅20mm、厚さ20mm)をそのまま用いた。
【0048】
(比較例2)
市販のフォーム材(日東電工社製、材質:EPDM、嵩密度100kg/m3、幅20mm、厚さ3mm)をそのまま用いた。
【0049】
(比較例3)
市販のゴムホース(ブリヂストン社製、材質:EPDM、内径15mm、肉厚2mm)をそのまま用いた。
【0050】
(1)装着性及び復元性評価
上記の各シール材を貼り付けた鉄板を用いて、装着性及び復元性を評価した。即ち、図8に示すように、各シール材を、厚さ1mm、400mm×300mmの鉄板の外周に沿って粘着テープを用いて貼り付け、この鉄板のシール材が貼り付けられていない部分を、厚さ5mmの鉄製スペーサ(図示せず)を介して、厚さ10mm、400×300mmのアルミ板に、シール材が鉄板とアルミ板との間に配置されるようにボルトで固定した。ただし、実施例5については、鉄板の四隅にシール材を配置し、コーナー部のシール材折り曲げで隙間が生じないように配置した。また、ボルトは鉄板及びアルミ板の両端部の2箇所に使用し、鉄板とアルミ板との隙間がスペーサの厚さになるまで締め付けた。そして、ボルト締め付け後、一体化されたシール材、鉄板、アルミ板、スペーサを、75℃の恒温槽内で10分間保持した。
【0051】
装着性の評価は、上記のボルトでの固定時にシール材を圧縮することなく装着できたものは「○」、シール材を圧縮しなければ装着できないものを「×」とした。また、復元性の評価は、恒温槽内で保持後、シール材とアルミ板との隙間の有無を目視で確認し、隙間のないものを「○」、隙間が生じているものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0052】
(2)防音性能評価
シール性能の一つとして、防音性能を評価した。先ず、図7と同様にして、鉄板とアミル板との間に鉄製スペーサを介してシール材を装着し、更にシール材で囲まれた中心部分にスピーカを収容した。そして、図9に示すように、ノイズジェネレータからのホワイトノイズを鉄板側に向けて発生させ、鉄板の上方150mmに設置したマイクロホンで騒音測定を行い、騒音レベルのオールパス値を評価した。尚、シール材を設置していない状態の騒音レベルは85dBAであった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜4のシール材は、何れも変形前の状態では厚さが19mmであり、これを厚さが約4mmに圧縮した状態で形状保持させた。実施例5のシール材は、シート状のものを折り曲げた状態で形状保持させた。比較例1、3のシール材は、未圧縮状態の厚さが約20mmであるが、比較例2のシール材は未圧縮状態の厚さは3mmである。
【0055】
表1に示すように、本発明に従う各実施例のシール材は何れも装着性が良好であった。また、恒温槽で保持後、圧縮されていた形状がスペーサの厚さまで復元し、シール材とアルミ板との間に隙間は生じなかった。また、騒音レベルが低く、良好な防音性能を保持している。これに対して比較例1、2のシール材は、ボルト締め付け時にシール材を圧縮する必要があり、シール材の圧縮応力に抗った状態でボルトを締め付けなければならず、装着性は非常に悪かった。比較例3のシール材は、装着性は良好であったが、恒温槽内に保持した後もシール材とアルミ板との間に隙間が生じたままであり、騒音レベルは高く、防音性能は不十分であった。
【0056】
実際のエンジン用防音カバーを想定した場合、各比較例に示した通常のシール材では、十分な防音性能を発揮するために隙間を埋めるほど厚くとすると装着性は悪化し、逆に装着性を向上させるためにシール材を薄くするとエンジンとの間に隙間が生じて防音性能が悪化する。これに対して、各実施例に示したようなシール材を用いることで、装着時にはシール材が圧縮された形状であることから装着性は良好であり、また装着後に加熱によりその厚さが復元してエンジンとの隙間を埋めて良好な防音性能を示すようになる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のシール構造体の一例(O型断面のシール構造体)を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のシール構造体の他の例(C型断面のシール構造体)を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のシール構造体の更に他の例(シート状シール構造体)を模式的に示す断面図である。
【図4】図1に示すシール構造体の変形状態を模式的に示す断面図である。
【図5】図2に示すシール構造体の変形状態を模式的に示す断面図である。
【図6】図3に示すシール構造体の変形状態を模式的に示す断面図である。
【図7】シール構造体の他の例を示す断面図である。
【図8】実施例において、装着性及び復元性の評価方法を説明するための模式図である。
【図9】実施例において、防音性能の評価方法を説明するための模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形可能な基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合してなり、かつ、前記熱可塑性物物質(b)の軟化温度未満の温度域では基材(a)の変形状態が保持されるとともに、前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上の温度に加熱することにより基材(a)が変形前の形状に復元することを特徴とするシール構造体。
【請求項2】
基材(a)が架橋ゴムまたは熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1記載のシール構造体。
【請求項3】
基材(a)がEPDMであることを特徴とする請求項1または2に記載のシール構造体。
【請求項4】
熱可塑性物質(b)が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のシール構造体。
【請求項5】
熱可塑性物質(b)の軟化温度が30℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のシール構造体。
【請求項6】
熱可塑性物質(b)がエチレン共重合体であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のシール構造体。
【請求項7】
中空体、断面円弧状またはシート状の基材(a)を圧縮または屈曲してなることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のシール構造体。
【請求項8】
基材(a)の変形前の形状がO型断面で径方向に圧縮された形状、もしくは基材(a)の変形前の形状がシート状またはC型断面で屈曲された形状を呈することを特徴とする請求項7記載のシール構造体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載のシール構造体からなることを特徴とする自動車エンジン用防音カバー。
【請求項10】
弾性変形可能な基材(a)と熱可塑性物質(b)とを接合した構造体を、前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して全体を変形し、変形させた状態で冷却することを特徴とするシール構造体の製造方法。
【請求項11】
弾性変形可能な基材(a)に熱可塑性物質(b)を含む液体を塗布して乾燥し、前記基材(a)と前記熱可塑性物質(b)とを複合させた構造体とし、これを前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して全体を変形し、変形させた状態で冷却することを特徴とするシール構造体の製造方法。
【請求項12】
弾性変形可能な成形体となる成形材料と、熱可塑性物質(b)とを二層押出機で成形して基材(a)と前記熱可塑性物質(b)とを複合させた構造体とし、これを前記熱可塑性物質(b)の軟化温度以上に加熱して全体を変形し、変形させた状態で冷却することを特徴とするシール構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−23228(P2007−23228A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210897(P2005−210897)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】