説明

ステージ位置決め装置

【課題】オイルによる汚染がなく、磁気ノイズを発生しない、エネルギ効率のよい、高性能なステージ位置決め装置を提供する。
【解決手段】Yステージ7をX、Y、Zの3軸方向に移動するステージ位置決め装置1であって、架台に対してテーブル10を水圧によってZ軸方向に駆動する水圧アクチュエータ11と、テーブル10に設けられるガイドレール9に対してXステージ8を水圧によって支持する静圧軸受18と、テーブル10に対してXステージ8を水圧によってX軸方向に駆動する水圧アクチュエータ19と、Xステージ8に設けられるガイドレール20に対してYステージ7を水圧によって支持する静圧軸受17と、Xステージ8に対してYステージ7を水圧によってY軸方向に駆動する水圧アクチュエータ15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージを3軸方向に移動するステージ位置決め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたステージ装置は、テーブルを上下方向について移動可能に支持する静圧軸受と、テーブルにかかる重力を支える空気圧アクチュエータ(圧力室)と、テーブルを上下方向に駆動する電動アクチュエータ(リニアモータ)とを備える。空気圧源から導かれる加圧空気が空気圧アクチュエータと静圧軸受に供給され、空気圧アクチュエータがテーブルにかかる重力を支えるカウンタバランス機能を果たす一方、電動アクチュエータが電磁力によってテーブルを上下方向に駆動するようになっている。
【0003】
特許文献2には、レールに沿って移動する移動体を油圧によって支持する静圧案内装置が開示されている。
【特許文献1】特開2002−71860号公報
【特許文献2】特開2006−231483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたステージ装置は、空気圧アクチュエータと電動アクチュエータが設けられているため、複数の駆動源を必要とすることで以下のような問題点があった。
【0005】
1.電動アクチュエータは、制御性に優れているものの、直進運動を得るために使われるボールねじは、回転運動を直進運動に方向変換することで行われ、その潤滑にはグリースが必要であり、グリースの飛散防止のためにボールねじを蛇腹状のカバーで覆うことがなされている。
【0006】
しかし、ボールねじの伸縮時には、カバー内のグリースの油成分が含まれる空気が出入りするので、クリーンルーム内での使用に必ずしも適さない。
【0007】
また、電動機の磁性は、集塵性をもっているため、これも同様に適さない。
【0008】
2.空気圧アクチュエータは、電動、油圧に比べ制御性に劣り、剛性が低い。制御性については、制御側の工夫で精度向上も図れるが、複雑性が増す。近年の環境面、特に省エネルギの観点から、エネルギ効率が極めて悪い。コンプレッサを含めたシステム全体でみると、エネルギ効率が10%を割ることもある。
【0009】
3.静圧案内装置は、移動体を非接触支持により移動させることを目的としているが、そり多くは特許文献2に開示されたような油圧軸受をはじめとして、空気圧軸受、磁気軸受がある。
【0010】
油圧軸受は、作動流体にオイルを使うことから、周囲環境への汚染防止のために防油、防火対策が必要である。
【0011】
空気圧軸受は、上記空気圧アクチュエータと同様にエネルギ効率の悪さと、制御性、剛性に課題が残る。
【0012】
磁気軸受は、近年、非接触という面から精密除振台等への応用も考えられるが、荷重の大きい場合には磁性材が大型化して発生磁気力が増大し、半導体関連では、製品への磁気影響を回避するために、遮蔽を行う等の対策が必要になる。
【0013】
4.ステージ位置決装置は、必要に応じて上記の駆動源が混載することになるが、平素の管理、補修管理の場合には、それぞれのメンテナンスのスキルが異なり、補修部品の管理も複雑化する。
【0014】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、オイルによる汚染がなく、磁気ノイズを発生しない、エネルギ効率のよい、高性能なステージ位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、架台上にてZ軸方向に移動するテーブルと、このテーブルに対してX軸方向に移動するXステージと、このXステージ上にてY軸方向に移動するYステージとを備え、このYステージをX、Y、Zの3軸方向に移動するステージ位置決め装置であって、架台に対してテーブルを水圧によってZ軸方向に駆動する水圧アクチュエータと、テーブルに設けられるガイドレールに対してXステージを水圧によって支持する静圧軸受と、テーブルに対してXステージを水圧によってX軸方向に駆動する水圧アクチュエータと、Xステージに設けられるガイドレールに対してYステージを水圧によって支持する静圧軸受と、Xステージに対してYステージを水圧によってY軸方向に駆動する水圧アクチュエータとを備えたことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、軸受と駆動手段が水圧によって作動する機構に統一されることで、以下の利点があげられる。
【0017】
1.水の剛性は、油、空気よりも大きいので、水圧アクチュエータは、空気圧アクチュエータや油圧アクチュエータに比べて剛性、作動精度、応答精度が高く、制御性に優れている。
【0018】
2.水の粘性は、温度に対して極めて安定しているので、製品の繰り返し動作に対する精度が向上する。
【0019】
3.磁気等の遮蔽装置やボールねじの覆い、防油、防火、漏電対策も不要になり、装置のコンパクト化に優れた、クリーン度が高い安全なシステムを提供できる。
【0020】
4.作動液が水であることから、ランニング管理に優れる。
【0021】
5.駆動方式の混載がなく、操作性が向上し、保守、点検、管理が容易に行える。
【0022】
6.空気圧駆動を駆動源としないことで、エネルギロスを低減し、省力化がはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0024】
図1の(a)はステージ位置決め装置1の概略構成を示す平面図、(b)は正面図である。ここで、図中矢印で示すように互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が略水平前後方向、Y軸が略水平横方向、Z軸が略垂直方向に延びるものとし、ステージ位置決め装置1の構成を説明する。
【0025】
ステージ位置決め装置1は、図示しない架台上にてZ軸方向(上下方向)に移動するテーブル10と、このテーブル10上にてX軸方向(水平前後方向)に移動するXステージ8と、このXステージ8上にてY軸方向(水平横方向)に移動するYステージ7とを備える。
【0026】
矩形のテーブル10はその4隅に配置される4本の水圧アクチュエータ11によってZ軸方向(上下方向)に移動する。水圧アクチュエータ11はテーブル10を図示しない架台に対してZ軸方向に移動可能に支持する機能と、テーブル10を駆動してZ軸方向に移動する機能とを果たす。
【0027】
テーブル10上にはX軸方向に延びる対のガイドレール9が所定の間隔をもって設けられる。
【0028】
Xステージ8には対の静圧軸受18が設けられ、この静圧軸受18がガイドレール9に対してXステージ8を水圧によって非接触でX軸方向について移動可能に支持する。
【0029】
Xステージ8は水圧アクチュエータ15によって駆動されてX軸方向に移動する。水圧アクチュエータ15は一方のガイドレール9に沿ってX軸方向に伸縮作動するように配置される。
【0030】
Xステージ8上にはY軸方向に延びる1本のガイドレール20が設けられる。
【0031】
Yステージ7には静圧軸受17が設けられ、この静圧軸受17がガイドレール20に対してYステージ7を水圧によって非接触でY軸方向について移動可能に支持する。
【0032】
Yステージ7は水圧アクチュエータ19によって駆動されてY軸方向に移動する。水圧アクチュエータ19はガイドレール20に沿ってY軸方向に伸縮作動するように配置される。
【0033】
各水圧アクチュエータ11、15、19は、水圧シリンダが用いられる。水圧シリンダは、図示しないシリンダとピストンとの間に2つの水圧室が画成され、各水圧室に導かれる水圧力差によって伸縮作動する。
【0034】
各静圧軸受17、18と各水圧アクチュエータ11、15、19に加圧作動水を供給する水圧源として、作動水を貯留するタンク2と、タンク2の作動水を吸い込んで加圧する水圧ポンプ6とを備える。
【0035】
水圧ポンプ6の動力源として電動モータ5が設けられ、この電動モータ5によって水圧ポンプ6が駆動される。電動モータ5は他の機器とは隔離して設けられる。なお、ステージ位置決め装置1の動力源は、上記電動モータ5に限らず、水圧モータ、空気圧モータ等を用いても良い。
【0036】
水圧ポンプ6の吐出通路21には圧力調整弁3が接続され、この圧力調整弁3は、吐出通路21の圧力が所定値を越えて上昇すると開弁する。こうして水圧ポンプ6から吐出通路21に吐出される作動水が圧力調整弁3からタンク2へと戻されることにより、吐出通路21の圧力が所定値以下に抑えられる。
【0037】
水圧ポンプ6の吐出通路21には、3つの圧力調整弁32、33、34を介して3つの作動水供給通路22、23、24が接続される。各圧力調整弁32、33、34は各作動水供給通路22、23、24の圧力をそれぞれ所定値に保つように調整する。
【0038】
テーブル10を駆動する各水圧アクチュエータ11の各水圧室に接続する水圧通路11a、11bは、それぞれ各方向切換弁41を介して作動水供給通路23とタンク2とに接続される。
【0039】
コントローラ40からの指令に基づいて各方向切換弁41がポジションaにそれぞれ切り換わることによって、各水圧アクチュエータ11が伸張作動し、テーブル10をZ軸下方向に駆動する。
【0040】
各方向切換弁41がポジションbにそれぞれ切り換わることによって、各水圧アクチュエータ11が収縮作動し、テーブル10をZ軸上方向に駆動する。
【0041】
各方向切換弁41がポジションcにそれぞれ切り換わることによって、各水圧アクチュエータ11が停止し、テーブル10を停止させる。
【0042】
コントローラ40は4つの方向切換弁41の作動をそれぞれ制御して、4本の水圧アクチュエータ11を互いに同期して伸張作動させ、テーブル10をZ軸方向に平行移動させるように駆動する。
【0043】
Xステージ8を駆動する水圧アクチュエータ15の各水圧室に接続する水圧通路15a、15bは、それぞれ方向切換弁45を介して作動水供給通路22とタンク2とに接続される。
【0044】
コントローラ40からの指令に基づいて方向切換弁45がポジションaにそれぞれ切り換わることによって、水圧アクチュエータ15が伸張作動し、Xステージ8をX軸前方向に駆動する。
【0045】
方向切換弁45がポジションbにそれぞれ切り換わることによって、水圧アクチュエータ15が収縮作動し、Xステージ8をX軸後方向に駆動する。
【0046】
方向切換弁45がポジションcにそれぞれ切り換わることによって、水圧アクチュエータ15が停止し、Xステージ8を停止させる。
【0047】
Yステージ7を駆動する水圧アクチュエータ19の各水圧室に接続する水圧通路19a、19bは、それぞれ方向切換弁49を介して作動水供給通路22とタンク2とに接続される。
【0048】
コントローラ40からの指令に基づいて方向切換弁49がポジションaにそれぞれ切り換わることによって、水圧アクチュエータ19が伸張作動し、Yステージ7をY軸左方向に駆動する。
【0049】
方向切換弁49がポジションbにそれぞれ切り換わることによって、水圧アクチュエータ19が収縮作動し、Yステージ7をY軸右方向に駆動する。
【0050】
方向切換弁49がポジションcにそれぞれ切り換わることによって、水圧アクチュエータ19が停止し、Yステージ7を停止させる。
【0051】
サーボ型の方向切換弁41、45、49は、コントローラ40からの指令に基づいてそれぞれの開度が制御され、テーブル10、Xステージ8、Yステージ7の位置制御が精密に行われる。
【0052】
ステージ位置決め装置1は、水圧アクチュエータ11、15、19によって駆動されることによって、駆動制御方法が統一されるため、操作性が向上するとともに、メンテナンスの技術が統一され、保守、点検が容易に行える。
【0053】
そして、ステージ位置決め装置1は、潤滑油を必要とする軸受や油圧アクチュエータや電動アクチュエータを用いないため、オイルミストの飛散やオイル洩れによって周囲環境を汚染することがなく、クリーン度を高められ、防油、防火、漏電対策等を行う必要がない安全なシステムを提供できる。
【0054】
液圧によって作動する水圧アクチュエータ11、15、19は、空気圧アクチュエータや電動アクチュエータに比べて、剛性、作動精度、作動応答性が高いため、ステージ位置決め装置1の高出力化と高性能化がはかれる。また、空気圧アクチュエータに比べてエネルギロスを低減し、ステージ位置決め装置1の省力化がはかれる。
【0055】
水圧アクチュエータ11、15、19は、作動流体を水とするため、防水、防滴を行う必要がなく、ステージ位置決め装置1の構造を簡素化し、小型化がはかれる。
【0056】
水圧アクチュエータ11、15、19と静圧軸受17、18とは、ワークに磁気影響を与えることがない。
【0057】
本実施の形態では、架台上にてZ軸方向に移動するテーブル10と、このテーブル10に対してX軸方向に移動するXステージ8と、このXステージ8上にてY軸方向に移動するYステージ7とを備え、このYステージ7をX、Y、Zの3軸方向に移動するステージ位置決め装置1であって、架台に対してテーブル10を水圧によってZ軸方向に駆動する水圧アクチュエータ11と、テーブル10に設けられるガイドレール9に対してXステージ8を水圧によって支持する静圧軸受18と、テーブル10に対してXステージ8を水圧によってX軸方向に駆動する水圧アクチュエータ19と、Xステージ8に設けられるガイドレール20に対してYステージ7を水圧によって支持する静圧軸受17と、Xステージ8に対してYステージ7を水圧によってY軸方向に駆動する水圧アクチュエータ15とを備えたことを特徴とする。
【0058】
これにより、軸受と駆動手段が水圧によって作動する機構に統一されことで、以下の利点があげられる。
【0059】
1.水の剛性は、油、空気よりも大きいので、水圧アクチュエータ11、15、19は、空気圧アクチュエータや油圧アクチュエータに比べて剛性、作動精度、応答精度が高く、制御性に優れている。
【0060】
2.水の粘性は、温度に対して極めて安定しているので、製品の繰り返し動作に対する精度が向上する。
【0061】
3.磁気等の遮蔽装置やボールねじの覆い、防油、防火、漏電対策も不要になり、装置のコンパクト化に優れた、クリーン度が高い安全なシステムを提供できる。
【0062】
4.作動液が水であることから、ランニング管理に優れる。
【0063】
5.駆動方式の混載がなく、操作性が向上し、保守、点検、管理が容易に行える。
【0064】
6.空気圧駆動を駆動源としないことで、エネルギロスを低減し、省力化がはかれる。
【0065】
本実施の形態では、共通の水圧源(水圧ポンプ6)から導かれる加圧作動水を各静圧軸受17、18と各水圧アクチュエータ11、15、19とに供給することを特徴とする。
【0066】
これにより、ステージ位置決め装置1の動力源が統一されるため、システムの小型化、省力化がはかれる。
【0067】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態を示すステージ位置決め装置の平面図及び正面図。
【符号の説明】
【0069】
1 ステージ位置決め装置
6 水圧ポンプ
7 Yステージ
8 Xステージ
9 ガイドレール
10 テーブル
11 水圧アクチュエータ
15 水圧アクチュエータ
17 静圧軸受
18 静圧軸受
20 ガイドレール
40 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台上にてZ軸方向に移動するテーブルと、
このテーブルに対してX軸方向に移動するXステージと、
このXステージ上にてY軸方向に移動するYステージとを備え、
このYステージをX、Y、Zの3軸方向に移動するステージ位置決め装置であって、
前記架台に対して前記テーブルを水圧によってZ軸方向に駆動する水圧アクチュエータと、
前記テーブルに設けられるガイドレールに対して前記Xステージを水圧によって支持する静圧軸受と、
前記テーブルに対して前記Xステージを水圧によってX軸方向に駆動する水圧アクチュエータと、
前記Xステージに設けられるガイドレールに対して前記Yステージを水圧によって支持する静圧軸受と、
前記Xステージに対して前記Yステージを水圧によってY軸方向に駆動する水圧アクチュエータとを備えたことを特徴とするステージ位置決め装置。
【請求項2】
共通の水圧源から導かれる加圧作動水を前記各静圧軸受と前記各水圧アクチュエータとに供給することを特徴とする請求項1に記載のステージ位置決め装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−276068(P2009−276068A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124601(P2008−124601)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】