説明

ステージ装置および露光装置

【課題】
スライダエアーベアリングの供給エアーの温度上昇による干渉計計測空間の揺らぎの発生、ならびに6軸微動駆動ステージおよびウエハ支持手段の熱歪の発生を防ぎ、もって、ステージ位置決め精度の向上を図る。
【解決手段】
基準面を有する定盤と、基板を搭載して該基準面上で移動する移動体とを有し、前記移動体に設けられ、該移動体を前記基準面上で移動可能に支持する静圧軸受けと、該移動体を基準面に沿う二次元方向に駆動する平面モータとを有するステージ装置において、前記平面モータは可動子としてコイルを備え、前記静圧軸受けと前記コイルとの間の少なくとも一部に冷却手段を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置などの精密機械において半導体ウエハや露光原版等の基板を移動または位置決めするために用いられるステージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、原版であるレチクル基板のパターンを被露光基板であるシリコンウエハ上に投影して転写する投影露光装置では、レチクルパターンをウエハ上に投影露光する際、レチクルおよびシリコンウエハを投影露光系に対して順次移動させるためにステージ装置であるレチクルステージおよびウエハステージが用いられる。
【0003】
図5〜図9は、従来の投影露光装置の構成および動作を示す。図5は投影露光装置全体の概略構成図である。図5において、1は照明系ユニットで、露光光源(不図示)からの露光光を整形しレチクル(不図示)に対して照射する。2は露光パターンの原版であるレチクルを搭載するレチクルステージで、搭載したレチクルをウエハ8に対して所定の縮小露光倍率比で、スキャン動作させる。3は縮小投影レンズで、レチクルに形成された原版パターンをウエハ8に縮小投影する。4は露光装置本体、5はウエハステージで、露光装置本体4は、前記レチクルステージ2、投影レンズ3およびウエハステージ5を支持する。ウエハステージ5は、ウエハ8を順次の露光位置にステップ移動させるとともにレチクルのスキャン動作時、それと同期してウエハ8をスキャン動作させる。
【0004】
図6を参照して、ウエハステージ5は、ステージ定盤5Dおよびスライダ(移動体)5Cを備える。ウエハステージ5の上面(スライダ5Cの上面)には、照度センサ5Aおよびステージ基準マーク5Bが設けられている。照度センサ5Aは、露光光の照度を露光前にキャリブレーション計測し、露光量を補正するために用いられる。基準マーク5Bには、ステージアライメント計測用のターゲットが設けられている。なお、図5(1)において、スライダ5Cの上面のウエハチャックおよびウエハ部分は、縮小投影レンズ3、フォーカススコープ6の光線およびウエハ8の関係が分かるように、断面で表している。
【0005】
図7(2)の断面図に示されるように、スライダ5Cは、内部にスライダ5Cをステージ定盤5Dの上面(基準面)で面内駆動する平面モータ駆動コイル5Fが設けられている。この平面モータ駆動コイル5Fに対向して、ステージ定盤5Dに櫛歯鉄心ヨーク5Eが設けられ、平面モータ駆動コイル5Fにて励磁されたヨークと櫛歯鉄心ヨーク5Eとの相互作用によりスライダ5Cがステージ定盤5D上でXYの二次元方向に面内駆動される。
【0006】
図8はスライダ5Cの詳細を示す断面図である。同図において、5Gはエアーベアリングである。エアーベアリング5Gは、スライダ5CをXY平面内に移動可能に支持する静圧軸受けで、エアーベアリング5Gへの供給エアー5Hを供給されることにより静圧力を発生する。5Nはスライダ5C上部に搭載された6軸微動駆動ステージで、ウエハ8をXYZ、θx、θy、θz方向に微動駆動し、ウエハ8を露光中に位置決めおよびフォーカスチルト駆動する。5Jは平面モータ駆動コイル5Fからのコイル発熱、5Kはエアー5Hのエアーベアリング5G供給後のエアー排気、5Qはコイル発熱による温度上昇を示す。なお、ここで、エアーとは、清浄化および乾燥化した空気の他、窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスまたはこれらの不活性ガスと空気の混合ガスをも含む概念で用いている。
【0007】
図5および図6に戻って、6はフォーカススコープで、縮小投影レンズ3の鏡筒から、ウエハ8のフォーカス計測を行う。6Aはアライメントスコープで、ウエハ上のアライメントマーク(不図示)およびウエハステージ上のアライメント用基準マーク5Bを計測し、ウエハ内アライメントおよびレチクルとウエハ間のアライメントを行う際の計測を行う顕微鏡である。7はウエハ搬送ロボットで、ウエハ8をウエハステージ5に供給する。8はレチクルに描かれたレチクルパターンを縮小露光系を通して投影転写するために、単結晶シリコン基板表面にレジストが塗られたウエハである。
【0008】
スライダ5Cには、スライダ5Cの位置(以下、ウエハステージの位置という)、すなわちウエハ8の位置を計測するため複数のレーザ干渉計(不図示)が搭載されている。9はX干渉計ミラーで、ウエハステージのX方向の位置をレーザ干渉計により計測するターゲットである。9AはX干渉計計測光である。10はY干渉計ミラーで同じくウエハステージ5のY方向の位置を計測するターゲットである。10AはY干渉計計測光である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、本発明者らは、上記従来例においては、ステージ位置決め精度が位置計測系およびステージ駆動系の構成から予測および期待されるレベルに達しておらず、さらなる精度向上が期待されることを見出した。本発明者らは、この従来例における制御精度悪化の原因を検討した結果、以下の知見を得た。
【0010】
すなわち、図5〜図8の構成で、図9に示すように、スライダ5Cを移動制御する際に、駆動コイル5Fに駆動電流が印加されることにより、スライダ5Cの外周部温度が上昇する。スライダ5Cの温度が上昇することにより、上記エアーベアリング5Gのエアー5H供給系を通してエアー温度が上昇し、結果として排気エアー5Kの温度が上昇し、スライダ5C周辺部の空間温度が上昇する。結果として、空間空気のゆらぎ現象が発生し、X干渉計計測光9AおよびY干渉計計測光10Aに対して計測誤差要因として働き、計測誤差を生む。
【0011】
また、スライダ5Cの温度が上昇することにより、スライダ5Cの上部に搭載された6軸微動駆動ステージ5Nに伝熱し、6軸微動駆動ステージ5Nに温度上昇5Lが発生し、6軸微動駆動ステージ5Nおよびウエハ8の支持手段に対して熱歪を発生させる原因になっていた。
【0012】
結果として、スライダ5Cを干渉計計測値により目標位置に位置決めする際に、目標値誤差発生となり、ステージ装置の制御精度が悪化する。また、ウエハ平坦度の悪化により、露光フォーカス精度の悪化を招き、トータルで露光装置の性能を劣化させていた。
【0013】
本発明では、上記従来例の構成で問題になっていた以下の問題点に着目する。すなわち、(1)平面モータ駆動コイル発熱による、スライダ内部に構成されているスライダエアーベアリングの供給エアーの温度上昇、および(2)平面モータスライダ上に搭載される6軸微動駆動ステージへの平面モータ駆動コイル発熱からの伝熱による6軸微動駆動ステージおよびウエハ支持手段の熱歪の発生である。
本発明では、スライダエアーベアリングの供給エアーの温度上昇による干渉計計測空間の揺らぎの発生、ならびに6軸微動駆動ステージおよびウエハ支持手段の熱歪の発生を防ぎ、もって、ステージ位置決め精度の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を達成するための本発明のステージ装置は、基準面を有する定盤と、基板を搭載して該基準面上で移動する移動体とを有し、前記移動体に設けられ、該移動体を前記基準面上で移動可能に支持する静圧軸受けと、該移動体を基準面に沿う二次元方向に駆動する平面モータとを有するステージ装置において、前記平面モータは可動子としてコイルを備え前記静圧軸受けと前記コイルとの間の少なくとも一部に冷却手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、静圧軸受け手段へ供給される気体を移動体内で温調する温調手段を移動体内に設けるとともに、その温調手段を移動体内の基板保持手段と電磁子駆動手段との中間に配置している。これにより、電磁子駆動手段の発熱による静圧軸受け手段へ供給され排気される気体の温度上昇を防いで干渉計計測空間の揺らぎを防止し、かつ、電磁子駆動手段の発熱の基板保持手段への伝熱を遮断して基板保持手段および被駆動基板の熱歪を防止することができ、ステージ位置決め精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態において、本発明は、スキャナもしくは走査露光装置と呼ばれるステップアンドスキャン型の投影露光装置またはステッパと呼ばれるステップアンドリピート型の投影露光装置のウエハステージまたはウエハステージとレチクルステージに適用される。その場合、前記基板は、原版または被露光基板である。
【0017】
以下に本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1に係るスライダの構成を示す。このスライダは、図5〜図9を用い従来例として説明した露光装置に適用されたもので、図8に示すスライダ部分に冷却手段5Lを付加したものである。したがって、他の構成は同一であるので、図1において、図8と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0018】
図1の構成において、5Lは冷却手段で、冷媒5Mを流すことによりコイル発熱5Jを回収する。冷媒5Mとしては、例えば水、純水、不活性フッ素等を用いることができる。一方、スライダ5Cを移動制御する際に、駆動コイル5Fに駆動電流が印加されることにより、スライダ5Cの外周部温度が上昇する。スライダ5Cの温度が上昇することにより、上記エアーベアリング5Gのエアー5H供給系を通してエアー温度が上昇する。これを防ぐために、平面モータ駆動コイル5Fに隣接して、冷却手段5Lを設けることにより、冷媒5Mを流しコイル発熱5Jを回収する。結果として排気エアー5Kの温度の上昇を低減し、スライダ5C周辺部の空間温度の上昇を防ぎ、空間温調の乱れを防ぐことができる。空間温調の乱れ、すなわち空間空気のゆらぎ現象を防ぐことができる結果、図5〜7に示すX干渉計計測光9AおよびY干渉計計測光10Aに対して計測誤差要因を無くし、計測精度を向上させることができる。
【0019】
また、スライダ5Cの温度上昇を、冷却手段5Lにより低減し、かつ、スライダ5Cの上部に搭載された6軸微動駆動ステージ5Nへの伝熱を遮断することにより、6軸微動駆動ステージ5Nおよびウエハ8の支持手段に対する熱歪の発生を抑制することができる。結果として、スライダ5Cを干渉計計測値により、目標位置に位置決めする際に、目標値誤差発生を無くすることができ、ステージ装置の制御精度が向上する。また、ウエハ平坦度の悪化を防ぐことができ、露光フォーカス精度の向上を実現し、トータルで露光装置の性能を向上させることができる。
【0020】
[実施例2]
実施例2を図2に示す。実施例1では、冷却手段5Lを、平面モータ駆動コイル5Fに隣接させて設けていたが、6軸微動駆動ステージ5Nとスライダ5Cとの間の6軸微動駆動ステージ5Nのベースである微動ベース5Pに設けることにより、平面モータ駆動コイル5Fの発熱が少ない場合は、6軸微動駆動ステージ5Nへの発熱を遮断するのみの構成も可能である。結果として、従来例より高精度の計測と駆動を行うこと、および6軸微動駆動ステージ5Nの制御精度を向上させることが可能になる。
【0021】
[実施例3]
実施例3を図3に示す。実施例1では、冷却手段5Lを、平面モータ駆動コイル5Fの上部面に隣接させているが、平面モータ駆動コイル5Fの発熱が大きく、より厳しい条件での温調が必要な場合、図3に示すように平面モータ駆動コイル5Fの周囲を覆うように冷却手段5Lを設け、冷却手段5Lの外周部に隣接してエアー5Hの供給配管を設ける。これにより、平面モータ駆動コイル5Fのコイル発熱5Jの影響を受けずに、エアーベアリング5Gへのエアー5Hの供給が可能になる。
【0022】
[実施例4]
実施例4を図4に示す。図4に示すように、平面モータ駆動コイル5Fの周囲を覆うように、スライダ5Cが被さる構造の場合、スライダ5C自身の内部あるいは表面に、冷却手段5Lを設けることにより、スライダ5C全体を冷却温調することが可能になる。
【0023】
上記の実施例によれば、平面モータステージで、スライダに設けられた駆動コイルの外周部に冷却温調手段を隣接して設け、スライダのXY平面内移動支持手段である、エアーベアリングへの供給エアー配管経路を、冷却温調手段に隣接あるいは内部を通して配置することにより、スライダの熱源の影響を受けずにエアーの供給が可能になり、スライダのエアーベアリング部から排気されるエアーによる、干渉計計測空間のゆらぎの発生を抑えることができ、ステージ位置決め精度が向上する。また、平面モータスライダ上に搭載される、6軸微動駆動ステージへの平面モータ駆動コイル発熱からの伝熱を遮断するために、平面モータスライダと6軸微動駆動ステージ5Nとの間に冷却温調手段を設けることにより、6軸微動駆動ステージおよびウエハ支持手段への熱歪の発生を防ぐことができる。
【0024】
(発明の適用範囲)
本発明は、上記実施例の限定されることなく適宜変形して実施することができる。例えば、温調エアーは、窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスまたはこれらの不活性ガスと空気との混合気体であっても良い。また、上述においては、主に、本発明をいわゆるスキャナに適用した例について説明したが、本発明は、いわゆるステッパ等他の方式の露光装置や、露光装置以外の半導体製造装置や走査型電子顕微鏡などの精密機械にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1に係る平面モータステージの説明図である。
【図2】実施例2に係る平面モータステージ説明図である。
【図3】実施例3に係る平面モータステージ説明図である。
【図4】実施例4に係る平面モータステージ説明図である。
【図5】従来例に係る露光装置全体の概略構成を示す図である。
【図6】図5の従来例における平面モータステージの構成を示す斜視図である。
【図7】図5の従来例における平面モータステージの動作説明図である。
【図8】図7の平面モータステージのより詳細な構成を示す断面図である。
【図9】図8の平面モータステージの動作範囲の説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1:照明系ユニット、2:レチクルステージ、3:縮小投影レンズ、4:露光装置本体、5:ウエハステージ、5A:照度センサ、5B:基準マーク、5C:スライダ、5D:ステージ定盤、5E:櫛歯鉄心ヨーク、5F:駆動コイル、5G:エアーベアリング、5H:エアー、5J:コイル発熱、5K:エアー排気、5L:冷却手段、5M:冷媒、5N:6軸微動駆動ステージ、5P:微動ベース、5Q:温度上昇、6:フォーカススコープ、6A:アライメントスコープ、7:ウエハ搬送ロボット、8:ウエハ、9:X干渉計ミラー、9A:X干渉計計測光、10:Y干渉計ミラー、10A:Y干渉計計測光












【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準面を有する定盤と、基板を搭載して該基準面上で移動する移動体とを有し、前記移動体に設けられ、該移動体を前記基準面上で移動可能に支持する静圧軸受けと、該移動体を基準面に沿う二次元方向に駆動する平面モータとを有するステージ装置において、
前記平面モータは可動子としてコイルを備え
前記静圧軸受けと前記コイルとの間の少なくとも一部に冷却手段を設けたことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記冷却手段が前記コイルに隣接して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記静圧軸受けは前記移動体に設けられた気体供給配管を備え、前記気体供給配管が前記冷却手段の内部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記移動体は、前記基準面に沿って移動するスライダと、該スライダ上に搭載され、前記スライダに対して少なくとも1軸方向に移動する微動駆動ステージと、を有し、前記コイルと前記微動駆動ステージとの間に前記冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のステージ装置。
【請求項5】
前記微動駆動ステージを駆動する微動駆動手段を備え、該微動駆動手段は前記微動駆動ステージを6軸方向に駆動することを特徴とする請求項4に記載のステージ装置。
【請求項6】
原版面に描かれたパターンを投影光学系を介して被露光基板に投影し、該投影光学系に対し原版と被露光基板の両方、もしくは被露光基板のみをステージ装置により相対的に移動させることにより、原版のパターンを基板に繰り返し露光する露光装置であって、前記原版または被露光基板を前記投影光学系に対し相対的に移動させるためのステージ装置の少なくとも1つが請求項1〜5のいずれか1つに記載のステージ装置であることを特徴とする露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−81449(P2009−81449A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283764(P2008−283764)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【分割の表示】特願2003−128183(P2003−128183)の分割
【原出願日】平成15年5月6日(2003.5.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】