説明

センサ付き転がり軸受装置の製造方法

【課題】センサ付き転がり軸受装置の位置や、センサ付き転がり軸受装置に加わっているモーメント荷重の大きさを、精密に測定することができるセンサ付き転がり軸受装置を製造するセンサ付き転がり軸受装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】内軸1、内輪2、外輪3、第1の玉4および第2の玉5を組み付ける。その後、内輪2の外周面の軸方向の一端部に、ターゲット部材61の軸方向の一端部を圧入すると共に、外輪3と内輪2との間のターゲット部材61側の開口を、シールド板7で密封する。この状態で、内軸1を、略内軸1の中心軸の回りに回転させた上で、ターゲット部材61の外周面を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ付き転がり軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内軸、内輪、外輪および玉を有する転がり軸受装置を組み立てる場合、内軸の測定精度のバラツキ、内輪の測定精度のバラツキ、外輪の測定精度のバラツキ、ボールの規格内における寸法のバラツキ、内軸に内輪を圧入することによる内輪軌道寸法の変化、内軸、内輪、玉および外輪の夫々の温度に依存する寸法の変化などに対応するために、各部品単体の寸法の測定を行う必要がある。
【0003】
ここで、各部品単体の寸法の測定に、大きな時間を必要とし、このことが、転がり軸受装置の製造時間の短縮をおこなったり、転がり軸受装置の製造コストの低減を行ううえで、障害となっている。
【0004】
更には、転がり軸受装置の組み立て精度を、更に精度良くすることについての要請が存在する。
【0005】
また、センサを有するセンサ付き転がり軸受装置の製造方法に関しては、センサの構造が様々であることに対応して、製造方法も千差万別であり、確立した製造方法が存在しないというのが実情である。
【特許文献1】特開平02−159536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、内軸、内輪、外輪、玉および環状の変位センサ装置を備え、上記変位センサ装置が、センシングがされる環状のターゲット部材を有し、かつ、上記ターゲット部材の内周面の軸方向の一端部が、内輪の外周面の軸方向の一端部に圧入される構造の転がり軸受装置について、特に、次に示す課題が存在する。
【0007】
先ず、各部品単体の寸法の測定に基づいて、各部材を組み付けたとしても、センサ付き転がり軸受装置の回転振れが発生して、変位センサ装置によるターゲット部材の正確なセンシングを遂行することができない場合がある。
【0008】
更には、各部品単体の寸法の測定に基づいて、各部材を組み付けたとしても、環状のターゲット部材の内周面の軸方向の一端部のみが、内輪の外周面の軸方向の一端部に圧入される構造では、ターゲット部材における内輪に圧入されている部分と、ターゲット部材における内輪に圧入されていない部分との歪みの差が大きくて、圧入後のターゲット部材の軸方向の位置の違いによる径方向の寸法の変化が大きくなって、センサ本体のセンシングの対象であるターゲット部材の外周面の位置の精度が悪くなる場合があることを見出した。そして、ターゲット部材の外周面の位置の精度が悪いことに起因して、センサ付き転がり軸受装置の位置や、センサ付き転がり軸受装置に加わっているモーメント荷重の大きさを、精密に測定することが困難になる場合がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、環状のターゲット部材の内周面の軸方向の一端部のみが、内輪の外周面の軸方向の一端部に圧入される構造であっても、センサ付き転がり軸受装置の位置や、センサ付き転がり軸受装置に加わっているモーメント荷重の大きさを、精密に測定することができるセンサ付き転がり軸受装置を製造するセンサ付き転がり軸受装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、この発明のセンサ付き転がり装置の製造方法は、
第1軸部と、この第1軸部に段部を介して連なると共に、上記第1軸部の外径よりも大きい外径を有し、かつ、外周軌道面を有する第2軸部とを有する内軸と、
上記内軸の上記第1軸部に嵌合すると共に、外周面に外周軌道面を有する内輪と、
第1の内周軌道面と第2の内周軌道面とを有する外輪と、
上記第1の内周軌道面と上記内輪の上記外周軌道面との間に配置された第1の転動体と、
上記第2の内周軌道面と上記内軸の上記外周軌道面との間に配置された第2の転動体と、
上記外輪と上記内輪との間を密封する密封装置と、
上記内輪の軸方向において、上記密封装置に対して上記第1の転動体側とは反対側に位置する上記内輪の上記外周面の一端部に、内周面の上記軸方向の一端部のみが外嵌された環状のターゲット部材と、このターゲット部材に上記ターゲット部材の径方向に対向するセンサ本体とを有して、上記ターゲット部材の上記軸方向および上記径方向の変位を検出する変位センサ装置と
を備えるセンサ付き転がり軸受装置を製造するセンサ付き転がり軸受装置の製造方法であって、
上記第1の内周軌道面と、上記内輪の上記外周軌道面との間に第1の転動体を配置すると共に、上記第2の内周軌道面と、上記内軸の上記外周軌道面との間に第2の転動体を配置し、
その後、上記密封装置で上記外輪と上記内輪との間を密封し、
上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入し、
上記ターゲット部材の上記一端部が、上記内輪の上記外周面の上記一端部に圧入されると共に、上記外輪と上記内輪との間が、上記密封装置で密封されている状態で、上記内軸を、略上記内軸の中心軸の回りに回転させた上で、上記ターゲット部材の外周面を加工することを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入した後に、上記ターゲット部材の外周面を加工するようになっていて、ターゲット部材に圧入に起因する歪みが生じている状態で、上記ターゲット部材の外周面を加工するようになっているから、ターゲット部材を加工した後にターゲット部材を内輪に圧入する場合と比較して、ターゲット部材を内輪に圧入することの影響が、製造後のセンサ付き転がり軸受装置のターゲット部材の寸法に及ぶことがなくて、ターゲット部材を、所定の位置に精密に位置決めできる。
【0012】
また、本発明によれば、上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入した後に、上記内軸を、略上記内軸の中心軸の回りに回転させた状態で、上記ターゲット部材の外周面を加工するようになっているから、内軸を略上記内軸の中心軸の回りに回転させずに、ターゲット部材の外周面を加工した場合と比較して、上記ターゲット部材の外周面の加工時に、センサ付き転がり軸受装置の回転振れを取り除くことができて、製造後のセンサ付き転がり軸受装置に回転ぶれが起こることがない。
【0013】
したがって、上記2つの理由により、センサ付き転がり軸受装置の位置や、センサ付き転がり軸受装置に加わっているモーメント荷重の大きさを、精密に測定することができる。
【0014】
また、本発明によれば、上記密封装置で上記外輪と上記内輪との間を密封した後に、上記ターゲット部材の外周面を加工するようになっているから、上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入した後に、上記ターゲット部材の外周面を加工を行ったとしても、加工(研磨を含む)によって生成されるターゲット部材の摩耗粉が、転動体や軌道面まで到達することがない。したがって、摩耗粉から転動体や軌道面を確実に保護することができる。
【0015】
また、一実施形態では、上記内軸は、上記内軸の上記軸方向の一方の側の端面の中央に開口すると共に、上記軸方向に延在するセンター穴を有し、上記内軸を、上記センター穴の位置に基づいて、略上記内軸の中心軸の回りに回転させる。
【0016】
上記実施形態によれば、上記軸方向に延在して軸方向の長さを有するセンター穴に基づいて、上記内軸の回転を行うから、内軸の回転の基準となる軸を、内軸の中心軸に一致させ易くなる。したがって、センサ付き転がり軸受装置の回転振れ(芯ずれ)を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法によれば、内輪の外周面の軸方向の一端部に、ターゲット部材の内周面の軸方向の一端部を圧入した後に、ターゲット部材の外周面を加工するようになっているから、ターゲット部材を内輪に圧入することの影響が、製造後のセンサ付き転がり軸受装置のターゲット部材の寸法に及ぶことがなくて、ターゲット部材を、所定の位置に精密に位置決めできる。また、上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入した後に、上記内軸を、略上記内軸の中心軸の回りに回転させた状態で、上記ターゲット部材の外周面を加工するようになっているから、センサ付き転がり軸受装置の回転振れを取り除くことができて、センサ付き転がり軸受装置の位置や、センサ付き転がり軸受装置に加わっているモーメント荷重の大きさを、精密に測定することができる。
【0018】
また、本発明によれば、上記密封装置で上記外輪と上記内輪との間を密封した後に、上記ターゲット部材の外周面を加工するようになっているから、上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入した後に、上記ターゲット部材の外周面の加工を行ったとしても、加工(研磨を含む)によって生成されるターゲット部材の摩耗粉が、転動体や軌道面まで到達することがなくて、摩耗粉から転動体や軌道面を確実に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法で製造されるセンサ付き転がり軸受装置の軸方向の断面図である。
【0021】
このセンサ付き転がり軸受装置は、ハブユニットである。このセンサ付き転がり軸受装置は、内軸1、内輪2、外輪3、第1の転動体としての複数の第1の玉4、第2の転動体としての複数の第2の玉5、ケース部材6、密封装置としてのシールド板7、および、変位センサ装置10を備える。
【0022】
上記内軸1は、小径軸部19と、第1軸部としての中径軸部20と、第2軸部としての大径軸部21とを有している。上記小径軸部19の外周面には、ネジが形成されている。上記中径軸部20は、小径軸部19に段部18を介して連なると共に、小径軸部19の外径よりも大きい外径を有している。上記大径軸部21は、中径軸部20の小径軸部19側とは反対側に位置している。上記大径軸部21は、中径軸部20に段部22を介して連なると共に、中径軸部20の外径よりも大きい外径を有している。上記大径軸部21の外周面は、外周軌道面としてのアンギュラ型の軌道溝23を有し、この軌道溝23の外径は、中径軸部20から離れるにしたがって、大きくなっている。
【0023】
上記内軸1は、第1センター穴30と、第2センター穴31とを有する。上記第1センター穴30は、内軸1の軸方向の小径軸部19側の端面の径方向の中央部に、形成されている一方、第2センター穴31は、内軸1の軸方向の大径軸部21側の端面の径方向の中央部に、形成されている。第1センター穴30は、略半球形状である一方、第2センター穴31は、円筒状の部分を有し、軸方向に所定距離延在している。また、上記内軸1は、軸方向の大径軸部21側の端部に、車輪(図示せず)を取り付けるための、車輪取付用のフランジ50を有している。
【0024】
上記内輪2は、内軸1の中径軸部20の外周面に外嵌されて固定されている。上記内輪2の軸方向の大径軸部21側の端面は、上記段部22に当接している。上記内輪2は、その外周面の大径軸部21側に、外周軌道面としてのアンギュラ型の軌道溝28を有している。この軌道溝28の外径は、大径軸部22から離れるにしたがって、大きくなっている。上記内輪2の外周面は、軸方向の大径軸部21側とは反対側に、円筒外周面26を有し、この円筒外周面26は、軌道溝28の大径軸部21側とは反対側に位置する軌道肩部29に段部30を介して連なっている。軌道肩部29は、円筒外周面を有している。上記円筒外周面26の外径は、軌道肩部29の円筒外周面の外径よりも小さくなっている。
【0025】
内輪2の軸方向の大径軸部21側の端面は、段部22に当接している。図1に示すように、ナット63は、小径軸部19のネジに螺合している。内輪2の軸方向の大径軸部21側とは反対側の端面は、ナット63の軸方向の大径軸部21側の端面に当接している。ナット63を、軸方向の大径軸部21側に所定距離ネジ込むことにより、内輪2を、内軸1に確実に固定するようになっている。
【0026】
上記外輪3は、大径軸部21の径方向の外方に位置している。上記外輪3の内周面は、第1の内周軌道面としてのアンギュラ型の第1軌道溝44と、第2の内周軌道面としてのアンギュラ型の第2軌道溝45とを有している。上記複数の第1の玉4は、内輪2の軌道溝28と、外輪3の第1軌道溝44との間に、第1保持器40によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されており、上記複数の第2の玉5は、内軸1の軌道溝23と、外輪3の第2軌道溝45との間に、第2保持器41によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0027】
上記ケース部材6は、筒部材52と、円板状の蓋部材53とで構成されている。筒部材52の内周面の外輪3側の端部は、外輪3の外周面の小径軸部19側の端部に止めネジ55により固定されている。一方、蓋部材53は、筒部材52の外輪3側とは反対側の開口を閉塞している。このようにして、センサ付き転がり軸受装置の内部へ異物が侵入するのを防止している。
【0028】
上記シールド板7は、外輪3の内周面の軸方向の第1軌道溝44側の端部と、内輪2の軌道肩部29の円筒外周面との間を、ラビリンスシールにより密閉している。具体的には、上記シールド板7は、断面略L字状の形状を有し、軸方向延在部と、径方向延在部とを有している。軸方向延在部は、筒形状を有し、軸方向に延在している。一方、上記径方向延在部は、軸方向延在部の一端部から径方向の内方に延在している。上記軸方向延在部の円筒外周面は、外輪3の内周面の小径軸部19側の端部に内嵌されて固定されている。一方、径方向延在部は、僅かな隙間を介して、軌道肩部29の円筒外周面に径方向に対向している。
【0029】
上記変位センサ装置10は、センサ本体60と、ターゲット部材61とを有する。上記センサ本体60は、筒部材52の内周面に固定されている。一方、ターゲット部材61は、筒形状を有している。ターゲット部材61の軸方向の一端部は、内輪2の円筒外周面26に圧入によって押しこまれている。換言すると、ターゲット部材61の上記一端部は、内輪2の外周面の一端部としての円筒外周面26に外嵌されて固定されている。
【0030】
図2は、図1における変位センサ装置10の周辺の拡大断面図である。
【0031】
図2に示すように、上記センサ本体60は、第1センサ部材70と、第2センサ部材71とを有する。第1および第2センサ部材70,71の夫々は、筒部材52の内周面に固定されている。上記第1センサ部材70は、第2センサ71よりも軸方向において蓋部材53側に位置している。上記第1センサ70は、第2センサ71に対して軸方向に間隔において配置されている。
【0032】
上記第1センサ部材70は、センサリング83と、4つの変位センサ84とを有する一方、第2センサ部材71は、センサリング93と、4つの変位センサ94とを有する。図1に示すように、センサリング83およびセンサリング93は、環状のスペーサ58を介在させた状態で、筒部材52の鍔部57に対して止めネジ59で固定されている。
【0033】
図示しないが、上記4つの変位センサ84は、センサリング83の径方向の内方側の部分に、周方向に所定間隔おきに複数配置されている(本実施形態では、周方向に一定間隔おきに配置されている)一方、4つの変位センサ94は、センサリング93の径方向の内方側の部分に、周方向に所定間隔おきに複数配置されている(本実施形態では、周方向に一定間隔おきに配置されている)。
【0034】
図3は、4つの変位センサ94の周方向の配置構成を説明する図である。尚、説明しないが、4つの変位センサ84についても、4つの変位センサ94と同一の周方向の配置構造を有している。また、図3において、参照番号70は、図1に70で示す外輪3のフランジを示している。
【0035】
図3に示すように、各変位センサ94は、周方向に互いに近接配置されて対をなすコイル素子100aおよびコイル素子100bからなっている。4つの変位センサ94は、センサ付き転がり軸受装置(この実施形態では、ハブユニット)が所定の位置に設置されている状態で、ターゲット部材61の最も鉛直上方に位置する部分に径方向に対向する位置、ターゲット部材61の最も鉛直下方に位置する部分に径方向に対向する位置、ターゲット部材61における、このセンサ付き転がり軸受装置が取り付けられている車両の最も前方側の位置に径方向に対向する位置、および、ターゲット部材61における、このセンサ付き転がり軸受装置が取り付けられている車両の最も後方側の位置に径方向に対向する位置に設置されている。尚、4つの変位センサ84は、4つの変位センサ94に略軸方向に重なっている。
【0036】
各組において、対をなすコイル素子100aおよびコイル素子100bの夫々は、独立した検出面を有し、対をなすコイル素子100aおよびコイル素子100bは、直列に連結されている。センサリング93は、径方向の内方側の端部に、径方向の内方に突出した一対の磁極93aおよび93bを有している。コイル素子100aは、磁極93aの周囲にコイルを巻き付けてなっている一方、コイル素子100bは、磁極93bの周囲にコイルを巻き付けてなっている。磁極93aおよび磁極93bの夫々において、径方向の内方の端面28は、検出面になっており、この検出面は、ターゲット部材61の外周面に対して間隔をおいて径方向に対向している。
【0037】
図4は、上記センサ本体60に接続されたギャップ検出回路の一例を示す図である。
【0038】
図4に示すように、鉛直方向に位置する2組のコイル素子100aおよびコイル素子100bの夫々は、発振器130に接続されている。発振器130から一定周期の交流電流が、2組のコイル素子100aおよびコイル素子100bに供給されるようになっている。2組のコイル素子100aおよびコイル素子100bには、同期用のコンデンサ131が並列に接続されている。
【0039】
そして、一方のコイル素子100aおよびコイル素子100bと、他方のコイル素子100aおよびコイル素子100bの出力電圧(検出値)を、差動アンプ132に入力して、上記同一直線の方向に対応する出力電圧(検出値)とすることにより、温度ドリフトを取り除くようにしている。なお、図示していないが、前後方向に位置する他方の2組のコイル素子100aおよびコイル素子100bについても、上記と同様に差動アンプで差を取ることによって温度ドリフトを取り除いている。
【0040】
上記変位センサ84,94の夫々において、コイル素子100a(または、コイル素子100b)のインダクタンスをL、検出面の面積をA、透磁率をμ、コイルの巻き数をN、検出面からターゲット部材61までの間隔(ギャップ)をdとすると、次の式(a)が成立する。
【0041】
L=A×μ×N/d ・・・(a)
ターゲット部材61までのギャップdが変化すると、変位センサ24のインダクタンスLが変化して出力電圧が変化する。したがって、この出力電圧の変動を検出することにより、変位センサ24の検出面からターゲット部4までの径方向のギャップを検出することができるのである。
【0042】
また、上記変位センサ84,94の夫々は、ターゲット部材61に対する独立した検出面を有しかつ対をなすコイル素子100a,100bを直列に連結した構造を有しているから、図5に示すように、一つのコイル素子200で一つの変位センサを構成する場合と比較して、発生する磁束密度を大きくすることができる。したがって、ターゲット部材61とのギャップの検出感度を高くすることができる。
【0043】
再び、図2を参照して、上記ターゲット部材61の外周面は、第1環状溝134と、第2環状溝135とを有する。第1環状溝134の一部は、変位センサ84の検出面に径方向に対向する位置に存在しいている一方、第2環状溝135の一部は、変位センサ94の検出面に径方向に対向する位置に存在している。
【0044】
図6は、変位センサ84の検出面A1、変位センサ94の検出面A2、第1環状溝134および第2環状溝135の位置関係を示す図である。
【0045】
図6に示すように、軸方向において、検出面A1の中央部は、第1環状溝134の第2環状溝135側の縁に略一致している一方、検出面A2の中央部は、第2環状溝135の第1環状溝134側の縁に略一致している。
【0046】
この状態から仮にターゲット部材61が軸方向の蓋部材53側に距離δだけ変位したとすると、検出面A1と第1環状溝134との軸方向のラップ長(軸方向の重なっている長さ)が減少する一方、検出面A2と第2環状溝135との軸方向のラップ長(軸方向の重なっている長さ)が増大する。このことから、変位センサ84のギャップの検出値が減少する一方、変位センサ94のギャップの検出値が増大する。このように、ターゲット部材61が軸方向に変位すると、変位センサ84が検出する検出値と、変位センサ94とが検出する検出値とに差が生じる。
【0047】
第1環状溝134および第2環状部135は、ターゲット部材61が軸方向に移動した場合に、変位センサ84と変位センサ94が検出する検出値を正負逆向きに変化させるように、センサ側に対する軸方向位置が設定されている。したがって、変位センサ84の検出値と、変位センサ94の検出値の差を取ることにより、内輪2(内軸1)の軸方向の並進量(軸方向の変位であり、軸方向の並進荷重と相関関係がある)を検出できるのである。
【0048】
上記変位センサ装置10は、変位センサ84と変位センサ94とが軸方向に隣接配置されているから、軸方向の断面において、略軸方向に重なる4組の2つの変位センサ84,94において、検出面A1,A2に対するターゲット部材61の傾きの検出が可能になる。計算については、詳述しないが、上記変位センサ装置10は、車輪の上下方向の並進荷重、車輪の軸方向の並進荷重、および、車輪の前後方向の並進荷重の算出は、勿論のこと、上記傾きに基づいて、センサ付き転がり軸受装置に作用しているモーメント荷重(詳しくは、車輪の上下方向のまわりのモーメント荷重と、車輪の前後方向を回りのモーメント荷重)検出するようになっている。
【0049】
尚、この実施形態では、蓋部材53側の検出面A1の中央部が、第1環状溝134の第2環状溝135側の縁に略一致している一方、検出面A2の中央部が、第2環状溝135の第1環状溝134側の縁に略一致している。しかしながら、軸方向において、蓋部材側の変位センサの検出面A1の一部が、蓋部材側の第1環状溝の一部と重なり、転動体側の変位センサの検出面A2の一部が、転動体側の第2環状溝の一部と重なっていさえすれば、上記実施形態と同様の作用効果を獲得することができる。
【0050】
図7は、図1に示すセンサ付き転がり軸受装置を、組み立てている途中の状態を示す図である。
【0051】
以下、主に、図7を参照しながら、この発明の一実施形態のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法を説明することにする。
【0052】
先ず、内軸1の中径軸部20に内輪2を圧入により外嵌して固定する。次に、内輪2が内軸1に外嵌されてなる内軸アッセンブリに、第1の玉4、第2の玉5および外輪5を組み付ける。
【0053】
次に、内軸1の小径軸部19のネジにナット63を螺合して、ナット63で内輪2を軸方向の大径軸部21側に締め付けて、内輪2の軌道溝28と外輪3の第1軌道溝44との間の予圧を所定の予圧に設定すると共に、内軸1の軌道溝23と外輪の第2軌道溝45との間の予圧を所定の予圧に設定する。
【0054】
続いて、図7に示すように、ターゲット部材61の上記一端部を、圧入により、内輪2の円筒外周面26に外嵌して固定する。その後、図1に7で示すシールド板を、外輪3の内周面の軸方向の小径軸部19側の端部に圧入により内嵌して固定して、外輪3の内周面の軸方向の小径軸部19側の端部と、内輪2の軌道肩部29の円筒外周面との間にラビリンスシールを形成する。
【0055】
その後、内軸1の車輪取付用のフランジ50を、図示しないチャック装置でつかんで、このチャック装置を用いて、内軸1にトルクを付与して、内軸1を、第2センター穴31の中心軸を基準にして、第2センター穴31の中心軸の回りに回転させる。そして、内軸1が、上記中心軸の回りに回転している状態で、ターゲット部材61の外周面を切削して、ターゲット部材61の外周面に、第1環状溝134および第2環状部135を大まかに形成した後、ターゲット部材61の外周面を所定の形状に精密に研磨する。
【0056】
最後に、ケース部材6にセンサ本体60を固定した後、センサ本体60が一体となったケース部材6の筒部材52を、外輪3の外周面に止めネジ55(図1参照)により固定して、センサ付き転がり軸受装置を形成する。
【0057】
上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法によれば、内輪2の外周面の一端部である外周円筒面26に、筒状のターゲット部材61の内周面の軸方向の一端部を圧入した後に、ターゲット部材61の外周面を加工するようになっているから、ターゲット部材61を内輪2に圧入することの影響が、製造後のセンサ付き転がり軸受装置のターゲット部材61の寸法に及ぶことがなくて、ターゲット部材61の外周面を、所定の位置に精密に位置決めできる。
【0058】
すなわち、内輪2の外周面の軸方向の一端部である内周円筒面26に、ターゲット部材61の軸方向の一端部を圧入することによって、ターゲット部材61の内部に大きくて軸方向の位置において均一でない歪みが生じたとしても、ターゲット部材61が歪んだ状態において加工を行うから、従来、加工を行った後に圧入をおこなった場合に生じていた、圧入が原因となる歪みに起因する外周面の位置決めの精度の悪化が起こることがない。また、加工を行った後に圧入をおこなった場合、内輪の外周面位置の精度に起因して、ターゲット部材の外周面の位置決めの精度が悪くなるが、本発明では、ターゲット部材の圧入の後にターゲット部材の加工を行うから、内輪の外周面位置の精度に起因するターゲット部材の外周面の位置決めの精度の悪化が起こることもない。
【0059】
また、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法によれば、内軸1を、略内軸1の中心軸の回りに回転させた状態で、内輪2の外周面の一端部である外周円筒面26に圧入されたターゲット部材61の外周面を加工するようになっているから、内軸を回転させずにターゲット部材の外周面を加工した場合と比較して、ターゲット部材61の外周面の加工時に、センサ付き転がり軸受装置の回転振れを効率よく取り除くことができて、製造後のセンサ付き転がり軸受装置の回転ぶれを抑制できる。
【0060】
したがって、上記二つの理由より、センサ付き転がり軸受装置の軸方向および径方向の変位や、センサ付き転がり軸受装置に加わっているモーメント荷重の大きさを、精密に測定することができる。
【0061】
また、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法によれば、シールド板7で外輪3と内輪2との間を密封した後に、ターゲット部材61の外周面を加工するようになっているから、加工(研磨を含む)によって生成されるターゲット部材61の摩耗粉が、第1および第2の玉3,4や軌道溝23,28,44,45まで到達することがなくて、摩耗粉から第1および第2の玉3,4や軌道溝23,28,44,45を確実に保護することができる。
【0062】
また、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法によれば、ターゲット部材61の加工時において、上記軸方向に延在して軸方向の長さを有する第2センター穴31に基づいて、内軸1の回転を行うから、内軸1の回転の基準となる回転中心線を、内軸1の中心軸により正確に一致させ易くなる。したがって、センサ付き転がり軸受装置の回転振れ(芯ずれ)を更に抑制することができる。
【0063】
また、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法によれば、上記センサ本体60、すなわち、第1センサ部材70および第2センサ部材71が、予めケース部材6に固定されているから、センサ付き転がり軸受装置の組み立ての際に、ケース部材6を、上述のように外輪1の外周面に固定するだけで、センサ本体60を、センサ付き転がり軸受装置に固定することができる。したがって、センサ本体60を、個別に外輪3に取り付ける必要がなく、しかも、外輪3にセンサ装着用の貫通穴等の取付構造を設ける必要もない。また、ケース部材6に対するセンサ本体60の相対位置が予め確定することになるから、ターゲット部材61に対するセンサ本体60の位置決めを正確かつ容易に行うことができる。
【0064】
尚、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法では、ターゲット部材61を内輪2に圧入した後に、内輪2と外輪3の間の軸方向のターゲット部材61側の開口を、シールド板6で密封したが、この発明では、内輪2と外輪3の間の軸方向のターゲット部材61側の開口を密封装置で密封した後に、内輪2の外周面にターゲット部材61を圧入しても良い。
【0065】
また、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法では、内軸2の第2センター穴31を用いて、内軸1を回転させるときの、内軸1のセンタリングを行ったが、この発明では、内軸の軸方向の端面等、内軸の第2センター穴以外の内軸の部位に基づいて、内軸を回転させるときの、内軸のセンタリングを行っても良い。
【0066】
また、上記実施形態のセンサ付き転がり軸受の製造方法では、製造されるセンサ付き転がり軸受の転動体が玉であったが、この発明では、製造されるセンサ付き転がり軸受の転動体は、ころであっても良く、ころおよび玉を含んでいても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法で製造されるセンサ付き転がり軸受装置の軸方向の断面図である。
【図2】図1における変位センサの周辺の拡大断面図である。
【図3】変位センサの周方向の配置構成を説明する図である。
【図4】センサ本体に接続されたギャップ検出回路の一例を示す図である。
【図5】変位センサで発生する磁束密度が、大きくなることを模式的に説明する図である。
【図6】第1センサ部材の変位センサの検出面、第2センサ部材の変位センサの検出面、第1環状溝および第2環状溝の位置関係を示す図である。
【図7】図1に示すセンサ付き転がり軸受装置を、組み立てている途中の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 内軸
2 内輪
3 外輪
4 第1の玉
5 第2の玉
7 シールド板
10 変位センサ装置
20 中径軸部
21 大径軸部
22 段部
23 軌道溝
28 軌道溝
44 第1軌道溝
45 第2軌道溝
60 センサ本体
61 ターゲット部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸部と、この第1軸部に段部を介して連なると共に、上記第1軸部の外径よりも大きい外径を有し、かつ、外周軌道面を有する第2軸部とを有する内軸と、
上記内軸の上記第1軸部に嵌合すると共に、外周面に外周軌道面を有する内輪と、
第1の内周軌道面と第2の内周軌道面とを有する外輪と、
上記第1の内周軌道面と上記内輪の上記外周軌道面との間に配置された第1の転動体と、
上記第2の内周軌道面と上記内軸の上記外周軌道面との間に配置された第2の転動体と、
上記外輪と上記内輪との間を密封する密封装置と、
上記内輪の軸方向において、上記密封装置に対して上記第1の転動体側とは反対側に位置する上記内輪の上記外周面の一端部に、内周面の上記軸方向の一端部のみが外嵌された環状のターゲット部材と、このターゲット部材に上記ターゲット部材の径方向に対向するセンサ本体とを有して、上記ターゲット部材の上記軸方向および上記径方向の変位を検出する変位センサ装置と
を備えるセンサ付き転がり軸受装置を製造するセンサ付き転がり軸受装置の製造方法であって、
上記第1の内周軌道面と、上記内輪の上記外周軌道面との間に第1の転動体を配置すると共に、上記第2の内周軌道面と、上記内軸の上記外周軌道面との間に第2の転動体を配置し、
その後、上記密封装置で上記外輪と上記内輪との間を密封し、
上記内輪の上記外周面の上記一端部に、上記ターゲット部材の上記一端部を圧入し、
上記ターゲット部材の上記一端部が、上記内輪の上記外周面の上記一端部に圧入されると共に、上記外輪と上記内輪との間が、上記密封装置で密封されている状態で、上記内軸を、略上記内軸の中心軸の回りに回転させた上で、上記ターゲット部材の外周面を加工することを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受装置の製造方法において、
上記内軸は、上記内軸の上記軸方向の一方の側の端面の中央に開口すると共に、上記軸方向に延在するセンター穴を有し、
上記内軸を、上記センター穴の位置に基づいて、略上記内軸の中心軸の回りに回転させることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−275107(P2008−275107A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120984(P2007−120984)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】