説明

センサ装置を備えたボールジョイント及び摩耗測定のための方法

本発明は、例えば自動車の車軸システムのためのボールジョイント、並びにボールジョイントにおける摩耗測定のための方法に関する。このボールジョイントは、環状又は鉢状のジョイントハウジング(1)を有しており、該ジョイントハウジング(1)のほぼ円筒形の内室内にボールソケット(2)が配置されている。該ボールソケット(2)内に、ボールピボット(4)のボール(3)が滑動可能に受容されている。さらにまた、ボールジョイントは、力若しくは負荷を規定するためのセンサ装置(7)を有している。
本発明によるボールジョイントは、前記センサ装置(7)が、曲げ弾性的なプレート(6)上に配置されていることを特徴としている。該プレートは、ジョイントハウジング(1)内に固定されており、この場合、前記センサ装置(7)は、センサプレート(6)の機械的な応力若しくは撓みを測定するように調整されている。前記ボールジョイントはさらに伝達部材を有していて、この伝達部材によって、ボールソケット(2)の変形時に力又は曲げモーメントが前記センサプレート(6)内に導入されるようになっている。
本発明によるボールジョイントは、頑丈で安価に製造可能であって、ボールジョイントに作用する負荷若しくは力を測定することができる。本発明の方法によれば、ボールソケットのプリロードを測定することによってボールジョイントの摩耗状態を永久的に確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車軸システムのためのボールジョイント(玉継手)であって、ジョイントハウジングを有しており、該ジョイントハウジングの内室内にボールソケットが配置されており、該ボールソケット内に、ボールピボットのボールが滑動可能に受容されており、ボールジョイントがさらに、力若しくは負荷を規定するためのセンサ装置を有している形式のものに関する。また本発明は、ボールジョイントにおける摩耗測定のための方法に関する。
【0002】
冒頭に述べた形式のボールジョイントは、例えばサポートジョイント又はガイドジョイントとして、もっぱら自動車のホイールハウジング若しくはシャーシにしか使用することができない。この場合、冒頭に述べた形式のボールジョイントは、センサ装置を有しており、このセンサ装置によって、ボールジョイントに作用する力及び負荷を検出若しくは測定することができる。
【0003】
冒頭に述べた形式の、力若しくは負荷を測定するための装置を備えたボールジョイントは、自動車に使用され、実際の走行運転中に又は試験台上での試験運転中にボールジョイントに作用する力又は曲げモーメントを確実に検出することができるようにするためのものである。このような形式で、自動車のシャーシにおけるボールジョイントの力を測定することによって、自動車の走行力学的な状態(fahrdynamischen Zustand)を推論することができる。これによって特に、例えばESP又はABS等の走行安全性システムのためのデータベースを改善することができる。従って冒頭に述べた形式のボールジョイントは、特に自動車における走行安全性を改善するために用いられる。
【0004】
力センサ装置を備えたボールジョイントは、例えばドイツ連邦共和国特許公開第10107279号明細書により公知である。この文献により公知のボールジョイントは、特に、自動車の所定の構成部分に作用する力、例えばタイロッドにおいてシャーシからの反応力に基づいて存在する軸方向力を検出若しくは評価するために用いられる。このためにこの文献によれば、舵取りリンク機構の種々異なる構成部分間に配置されたボールジョイントは、ボールピボットの領域内で伸張測定ストリップ又はピエゾ・圧力センサを備えていて、このセンサの信号を用いて、ボールジョイントの負荷及びひいては舵取りリンク機構に作用する軸方向力を推論するようになっている。
【0005】
しかしながら、このような形式の伸張測定ストリップ又はピエゾセンサを備えたボールジョイントの構成は高価なコストを必要とする。まず、一般的にボールピボットに相応の取付け面を形成し、次いでこの取付け面に例えば前記伸張ストリップを接着する必要がある。しかも追加的に、別個の評価エレクトロニクスに電線接続によって電気的に接続する必要があり、この場合、評価エレクトロニクスは、適当な箇所に保護して取り付ける必要がある。このような構成は、費用がかかり、ひいてはこのような形式の負荷センサを備えたボールジョイントの製造コストは高価であり、しかもこのような形式のボールジョイントの露出したセンサ及び配線は繊細であり、従って故障し易いものである。
【0006】
しかも、力センサ(フォースセンサ)装置を備えたボールジョイントにおいては、この力センサ装置によって、(ボールジョイントの本来の負荷状態を越えた)特にボールジョイントの状態に関するその他の情報を導き出すことは殆どできない。しかしながら、自動車のステアリング又はシャーシの領域内に配置されたボールジョイントは、特に走行中に故障すると重大な結果を招くことになる安全性に関連した構成部分であるので、ボールジョイントの瞬間的な運転状態若しくは摩耗状態に関する情報を永久的に得ることが特に望まれている。
【0007】
このような背景から、本発明の課題は、従来技術の前記欠点を克服することができるセンサ装置を備えたボールジョイントを提供することである。特に、ボールジョイントは、安価で確実な形式で、並びに構造的に大きい自由度で、ボールジョイントに作用する負荷若しくは力を検出することができるものでなければならない。しかも、ボールジョイントの摩耗状態に関する情報も得ることができるものでなければならないので、ボールジョイントの前記のような故障を早期に認識し、それによってこれを阻止することができるようにしなければならない。
【0008】
この課題は、請求項1に記載した特徴を有するボールジョイントによって、若しくは、請求項15に記載したボールジョイントの摩耗測定のための方法によって解決される。有利な実施例は従属請求項に記載されている。
【0009】
本発明によるボールジョイントは、公知の形式でジョイントハウジングを有している。このジョイントハウジングは、大抵の場合は、ほぼ円筒形の内室を有していて、この内室内にボールジョイントのボールソケットが配置されている。このボールソケット内に、ボールジョイントのボールピボットのボールが滑動可能に受容されている。
【0010】
同様に公知の形式で、ボールジョイントはさらに、ボールジョイントの力若しくは負荷を測定するためのセンサ装置を有している。
【0011】
本発明によるボールジョイントは、力センサ装置が曲げ弾性的なプレート上に配置されていることを特徴としている。この力センサ装置は、ジョイントハウジング内に位置していて、その他の構成部分に妨害されることなしに、所望の撓みにさらされるように、可動に配置されている。この場合、プレート上の力センサ装置は、プレートの撓み若しくは機械的な応力が力センサ装置によって規定若しくは測定され得るように、構成されている。ボールジョイントはさらに伝達部材を有しており、この伝達部材は、ボールソケットが変形する際に、力若しくは曲げモーメントが曲げ弾性的なプレート内に導入され得るように調整されている。
【0012】
換言すれば、ボールソケットに作用する力は本発明に従って、力に限定されて常に発生する、弾性的なボールソケットの変形が、伝達部材によってジョイントハウジング内に配置されたプレートに伝達されることによって、検出される。プレート上にはセンサ装置が配置されており、このセンサ装置によって、プレート内に導入された機械的な応力若しくは、それによって生ぜしめられるプレートの撓みを測定することができる。
【0013】
それによって外部の負荷がボールジョイントに作用すると、一般的に粘弾性的なポリマーより成るボールソケットの形状も少なくとも少しだけ変化する。この形状変化は、ボールジョイントの伝達部材を介して、曲げ弾性的なプレートに伝達され、このプレートに配置されたセンサによって検出される。
【0014】
この場合、有利な形式で、本発明による配置によって、プレートはセンサ装置と共にジョイントハウジング内で良好に保護されている。またこれによって、非常に頑丈で信頼できる、しかも安価な構造が得られる。センサを別個に取り付ける高価な作業も、また後から評価エレクトロニクスに配線する作業も必要ないので、センサと評価エレクトロニクスとを一緒にプレート上に組み付けることができる。ボールジョイントの形状安定性に不都合な影響を与える、ボールソケット及びジョイントボールの機械的な変更はもはや必要ない。従来必要とされていた費用な省くことができる。
【0015】
また本発明による測定原理に基づいて、外部からボールジョイントに作用する力の他に、ボールジョイント内部の力に関する情報も得ることができる。この場合特に、ボールソケットのプリロード力(予備荷重)を検出することも考えられる。時間の経過に伴って低下する、ボールソケットのプリロード力の大きさは、ボールジョイントの次第に大きくなる摩耗の程度として考慮することができる。
【0016】
本発明を実現するために、センサプレートがどのように変形されるか、又はボールソケットの変形をセンサプレートに伝達する手段がどのように構成され、配置されるかは、重要なことではない。本発明の特に有利な実施例によれば、センサプレートは円形又は丸く構成されているか、若しくは伝達部材は、ボールジョイントのほぼ環状の突起によって形成されている。
【0017】
これは、これによってほぼ直接的な力の検出が行われるので有利である。何故ならばボールソケットの事実上全体的に発生する変形は、環状に延在する突起を介してセンサプレートに確実に伝達されるからである。特にこれによって任意にボールジョイントに作用する力は、x方向及びy方向で検出され、この場合、z方向は、ボールソケット若しくはジョイントハウジングの軸線に沿って規定されている。しかしながら、このような形式でボールソケット内にほぼ直接的に作用するプリロード力若しくは、場合によってはz方向でボールジョイントに作用する外部の圧力も記録されるか若しくは測定される。しかも、評価エレクトロニクスの適当な回路によって、(著しく変化する)外部のジョイント力を、比較的ゆっくりと変化するジョイント内部のプリロード力に対して確実に区別することができる。
【0018】
本発明の別の特に有利な実施例によれば、力センサ装置は、センサプレートの撓み若しくは変形の大きさも方向も測定するために構成することができる。換言すれば、このことはつまり、センサプレート上に配置されたセンサ装置は、センサプレートの撓みの強さ以外に、撓みによって生ぜしめられる、x−y平面における曲げモーメントの方向若しくは撓みの方向も確認することができるように、構成されているということである。
【0019】
このような形式で、ボールジョイントに作用する力の大きさの他に、付加的にこの力の作用方向、若しくはボールジョイントのx−y平面における力の作用方向の少なくとも投影(Projektion)も規定することができる。
【0020】
例えば、ABS又はESP等の運転者補助システムを備えた自動車においてボールジョイントを使用した場合、ボールジョイントに作用する力の測定は、力の大きさだけではなく、力の方向に関連した有効なデータを提供する。このように構成されたボールジョイントは、自動車のそれぞれの車軸システム若しくはボールジョイントの実際の負荷状態に関する正確なデータを検出するために、例えば試験台上での試験運転中に、又は実際の測定走行においても、有利な形式で使用することができる。
【0021】
本発明は、ジョイントハウジング内にセンサプレートがどのように配置されているか、若しくはジョイントハウジングとどのように接続されているに関係なく実現することができる。本発明の有利な実施例によれば、センサプレートは、ジョイントハウジングに環状に配置された支持エレメントに当接せしめられるようになっており、この場合、支持エレメントが有利な形式でスペーサリングによって形成されており、このスペーサリングの直径は、ボールソケットの環状の突起の直径とは異なっている。
【0022】
このような形式で、支持エレメントと伝達部材との協働作業によって、ハサミ状の緊締作用がセンサプレートに環状に加えられる。これによって、x−y平面において任意の方向でボールジョイントに作用する外部の力も、またボールジョイント内で発生するボールソケットのプリロード力も確実に検出することができる。ボールソケットの変形とセンサプレートの撓みとの間の機械による力の拡大率、若しくはそれに基づくセンサ装置の感度は、特にスペーサリングと環状の伝達部材との直径比を相応に調節することによって、及び/又は弾性モジュール若しくはセンサプレートの曲げ強さの変化によって、広い範囲で可変に調節することができる。
【0023】
本発明の別の有利な実施例によれば、スペーサリングはボールジョイントのハウジングカバーに当接せしめられるようになっているか、若しくはスペーサリングはボールジョイントのハウジングカバーと一体的に構成されている。これによって、ボールジョイントの構造的に簡単かつ頑丈な構造が得られ、測定のために必要な曲げモーメントをセンサプレート内において効果的に導入することができる。
【0024】
本発明の選択的な実施例によれば、センサプレートは支持エレメントに当接せしめられるようになっており、この支持エレメントは、ジョイントハウジングにではなく、むしろ同様にボールソケットに接続されている。この実施例によれば、その幾何学的な形状に応じて、力の測定に関するより高い感度が得られる。しかもこの実施例によれば、センサプレートをボールソケットに直接、特に簡単に組み付けることができる。
【0025】
本発明の特に有利な実施例によれば、ボールジョイントはさらに、ジョイントハウジングとボールピボットとの相対角度位置を検出するための角度センサ装置を備えている。この角度センサ装置は、ジョイントボールの表面領域に配置された磁界信号発信器、特に永久磁石、並びにジョイントハウジングに配置された電界若しくは磁界センサ装置、特に磁界センサを有している。
【0026】
このような形式で、力センサ装置によって測定可能なジョイント力の他にさらに、同一のボールジョイントのジョイントハウジングとボールピボットとの瞬間的な相対角度位置も検出することができる。これによって、例えば自動車の走行安全性又は運転者補助システムのためのデータベースをさらに拡大することができ、これによって、このような装置を備えた自動車の走行安全性における付加的な改善が得られる。
【0027】
この場合、別の有利な実施例によれば、磁界センサ装置は力センサ装置と共にセンサプレート上に配置されており、この場合、磁界センサ装置と力センサ装置とは、有利な形式でモノリシック集積回路として構成されている。これによって、力及び角度位置のための測定可能性を有するボールジョイントを、著しく安価に、しかも確実かつ頑丈に構成することができる。本発明のこの実施例に応じて、3次元空間内における磁界のための測定可能性も、またx方向及びy方向のための付加的な力センサ若しくは歪みセンサも、同一のモノリシック回路に集積されている磁界センサ装置を得ることができる。
【0028】
しかもこのような形式で、同じセンサプレート上に、センサも評価回路も、また場合によっては測定値を最初に処理するための回路及びデジタル化も組み込むことができる。これは同様に、このように構成されたボールジョイントのユニバーサル(万能)な使用可能性、安価な製造可能性及び信頼性のために役立つ。
【0029】
本発明の有利な実施例によれば、磁界センサ装置はCMOSホールセンサ装置として構成されているか、若しくはすべての3次元空間方向で磁界を測定するために構成されている。CMOSホールセンサは、製造が特に安価で、比較的簡単な形式で評価回路に組み込むことができる。
【0030】
すべての3次元空間方向で検出することができる(換言すれば、磁界の方向並びに密度を、3次元空間方向で磁界の整列とは無関係に検出することができる)磁界センサ装置を備えたボールジョイントは、特に有利である。何故ならばこのような形式で、1つのボールジョイントにおいて、x成分及びy成分から成る傾倒角度若しくは旋回角度の両角度成分も、またボールピボットの回転角度若しくは回動も、同じ軸線を中心として検出することができるからである。ボールジョイント回転角度を付加的に測定することによって、自動車の走行安全システム例えばABS及びESPのための、またヘッドライト又はこれと類似のもののための自動的な光軸調整等にも使用することができる付加的な情報が提供される。
【0031】
本発明はまた、請求項15に記載した、ボールジョイントにおける摩耗測定のための方法に関する。本発明による方法は、ボールジョイント製作時に最初に規定された、ジョイントハウジング内のボールソケットのプリロード力の一部が、ボールジョイントの所定の運転期間経過後にどの程度残存しているかを規定するために用いられる。
【0032】
ボールジョイントのボールソケットは、少なくとも粘弾性的なポリマーより製作されていて、ボールジョイントの耐用年数期間中に、ボール表面とボールソケットとの間の相対運動に基づく表面摩耗にも、またプラスチックのクリープ運動に基づく所定の応力緩和にも晒される。このような表面摩耗及び応力緩和によって、ボールジョイント内のプリロードが時間の経過に伴って緩和され、それによって負荷下においてジョイント遊びが増大するようになっている。
【0033】
従って、時間が経つにつれて次第に減少するプリロード力の大きさを、瞬間的な状態のための及びボールジョイントの残りの耐用年数のための指標とすることができる。さらにまた、ボールジョイントにおいて短時間で大きく低下するプリロード力から、ボールジョイントの損傷、例えばシールベローズの損傷を推論することができる。シールベローズが損傷すると、後からボールジョイント内に塩水が侵入してボールジョイントの浸食を招くことになる。
【0034】
本発明による方法を実施するために、第1の方法段階でまず、「力の不変性若しくはボールジョイントの停止状態負荷」、「ジョイントハウジング内のボールピボットの適当な相対位置」、又は「ボールジョイント若しくは自動車の運動停止状態」の条件のうちの1つ又は複数が存在するかどうかをテストする。
【0035】
これらの条件のうちのより多くの条件を満たすことによって、より確実かつ正確に次の測定を実施することができる。
【0036】
次の方法段階で、ボールジョイントの力センサ装置によって、ボールソケットとボールハウジングとの間、若しくはボールソケットとジョイントボールとの間のプリロード力の大きさを検出する。次いでさらに次の方法段階で、測定信号から若しくは検出されたプリロード力から、それに対応するボールジョイントの摩擦値を算出する。
【0037】
最後に、算出された摩擦値をメモリーされている最大値と比較し、場合によっては最大値を超えた時に警告を発信する。
【0038】
本発明の方法によって、ボールジョイントの状態に関する情報、並びにボールジョイントの予想される耐用年数に関する情報を得ることができる。ボールジョイントの故障が目前に迫っていることも、ボールソケットのプリロード力若しくは摩擦値を本発明に従って監視することによって早期に確認することができるか、若しくは予測することができる。このような形式で、ボールジョンとの運転確実性、若しくはこのようなボールジョイントを備えた自動車の運転確実性が著しく改善される。
【0039】
以下に本発明を図示の実施例を用いて詳しく説明する。
【0040】
図1は、本発明の1実施例によるボールジョイントの、側方から力が加えられている状態を示す概略的な縦断面図、
図2は、図1に示したボールジョイントの、軸方向で力が加えられている状態を示す、図1に相当する図、
図3は、本発明の別の実施例によるボールジョイントの、軸方向で力が加えられている状態を示す、図1及び図2に相当する図である。
【0041】
図1は、本発明の1実施例によるボールジョイントの概略的な縦断面図である。ほぼ鉢状のジョイントハウジング1が示されており、このジョイントハウジング1内に軸受シェル若しくはボールソケット2が配置されている。ボールソケット2の内室内に、ボールピボット4のジョイントボール3が配置されている。
【0042】
図1によればボールジョイントは、ジョイントボール3とハウジングカバー5との間に配置されたセンサプレート6を有している。このセンサプレート6上に、概略的に示されたセンサ装置7が配置されている。このセンサ装置7は、永久磁石として構成された磁気的な磁界信号発信器8の近傍に位置しており、この磁界信号発信器8は、プラスチック栓9によってジョイントボール3の孔10内に配置されている。
【0043】
センサ装置7は、永久磁石8の磁界がすべての空間方向で検出され得るように構成されている。換言すれば、磁界の強さ並びに力線は、3次元空間内での永久磁石の整列状態に関係なしにベクトル的に検出され得る。このような形式で、センサ装置7は、ジョイントハウジング1内のボールピボット4の旋回角度も、また付加的にこの旋回角度によって形成される平面の整列状態も確認することができる。
【0044】
言い換えれば、ボールピボット4がジョイントハウジング1に対して相対的にどの方向でどの程度旋回せしめられるかを、まず検出することができる。しかしながらセンサ装置7は、永久磁石8の力線の方向及び強さを3次元空間内で規定することができるので、付加的に回転角度の大きさも測定することができる。この回転角度を中心にして、ボールピボット4がジョイントハウジング1内で回転若しくは曲がるようになっている。
【0045】
1つのセンサ装置7だけによって、旋回角度の大きさ及び方向の測定も、また回転角度の大きさの測定も行うことによって、簡単かつ確実な形式で、例えば試験運転時において非常に広いデータベースが提供されるか、又は本発明によるボールジョイントを備えた自動車の走行安全性及び運転者補助システムのための非常に広いデータベースが提供される。
【0046】
この場合、本来のフィールドセンサも、また所属の評価エレクトロニクス並びに付加的な回路素子(例えばデジタル化又はデータバス接続部)も、センサ装置7の領域内で、同じセンサプレート6上に安価にかつ保護された状態で組み込むことができる。
【0047】
しかしながら図1に示したボールジョイントは、旋回及び回転角度のための測定可能性の他に付加的に、ボールジョイントに作用する運転力並びにジョイントハウジング1内のボールソケット2の残留プリロード力を測定若しくは監視する特性も有している。
【0048】
図1に示されているように、ボールピボット4に、図面で左から右に、x−y平面内に延在する力Fが作用する。この力Fは、例えば走行力学的な力に基づいて自動車の車軸システム内に発生する。力Fによる力の作用に基づいて、粘弾性的(zeahelastisch)なポリマーより成るボールソケット2は弾性的に変形する。図1では見やすくするために、縮尺を変えて誇張して示されている。
【0049】
ボールピボット4はボール3と共に、力Fの作用に基づいてジョイントハウジング1に対して相対的に図面で右方向にずらされる。これによって、図面で見てボールソケット2の右側が圧縮され(符号11で示されている)、これに対してボールソケット2の左側は負荷軽減される(符号12で示されている)。近似的な容積不変性若しくはボールソケット2のために用いられた材料の横方向収縮率に基づいて、ボールソケット2の右側の圧力が高くなるか、若しくはボールソケット2の左側が負荷軽減されるが、ボールソケット2のそれぞれの側の伸張は、図面で見て垂直方向若しくはz方向に相応に変化する。言い換えれば、ボールソケット2の図面で右側の垂直方向の伸張が大きくなり、これに対してボールソケット2の左側は、破線の矢印11,12(形状変形部)で示されているように、圧縮される傾向にある。
【0050】
しかしながら力Fで示された、ボールソケット2の形状変形部11,12は、曲げ弾性的なセンサプレート6の特別な緊張に基づいてセンサプレート6に伝播する(図1にも示されている)。センサプレート6は、伝達手段として構成されたボールソケット2の突起13と、ハウジングカバー5に当接する、支持部材を形成するスペーサリング14との間に、ハサミ状に緊締されていて、ボールソケット2の突起13を介してセンサプレート6内に導入される力若しくは変位が、相応の曲げモーメントに変換されるか、若しくはセンサプレート6の相応の撓みを生ぜしめるようになっている。センサプレート6の図示の撓みは、縮尺通りではなく、むしろ分かりやすくするために誇張して示されている。
【0051】
図1に示したボールジョイントにおいては、センサ装置7は、ベクトルによって作業する磁界センサ及び評価エレクトロニクスの他に、付加的にセンサプレート6の表面における機械的な応力若しくは撓みを検出するためのセンサも有している。プレート表面の機械的な応力若しくは撓みを測定することによって、相応のセンサ較正に従って、まず力Fの大きさを推論することができる。
【0052】
しかしながらセンサ装置7は、撓みの程度だけではなく、撓みの方向若しくは撓みを生ぜしめる、センサプレート6の平面におけるx−y方向の曲げモーメントの方向も規定できるように、構成することができる。ボールソケット2の形状変形部11,12はその最大値が、変形力Fの方向に基づいて、ボールピボット4の軸平面(変形力Fも延在する)に展開するので、センサプレート6も、変形力Fの方向に基づくそれぞれの特性に従って変形せしめられる。
【0053】
次いで、このような特性的な変形は、センサ装置7によって、その大きさも、またx−y平面におけるその方向も検出され、それによって、x−y平面における力Fの方向も推論することができる。
【0054】
図2には、図1に示したボールジョイントが示されており、この場合、図2に示したボールジョイントは、図1のボールジョイントとは異なり、軸方向の力Fによって負荷されている。この場合、変形力Fに基づくボールソケットの変形11,12は、左右対称であるか若しくは環状に均一に行われる。これによって、センサプレート6は、ボールソケット2の変形をセンサプレート6に伝達するための手段として用いられる環状の突起13を介して、すべての方向で均一に湾曲せしめられる。これは、図2には、センサプレート6の、縮尺通りではない著しく誇張された撓みによって示されている。
【0055】
こうしてセンサ装置7によって、2つの方向x及びyで同じ大きさの、センサプレート7の機械的な応力若しくは撓みが記録されると、それが、その瞬間に存在する周辺条件に応じて、ボールソケット2の静力学的なプリロード力又は軸方向の押圧力F′を表す。
【0056】
この場合、測定された力がプリロード力として解釈されるために役立つ、注目すべき周辺条件とは、例えば自動車の停止状態及び/又は舵取りリンク機構のニュートラル位置を示すボールソケットとジョイントハウジングとの瞬間的な相対位置、長時間維持されている力の不変性、又は同様にセンサ装置7によって測定されたボールジョイントの運動静止状態である。その他の場合、特に検出された軸方向力に迅速な変動が発生した場合、又はそれと同時に、ボールソケットの同相の運動が発生した場合は、ボールジョイントに外部の可変な力が作用したと推論される。
【0057】
図3は、本発明によるボールジョイントの別の実施例を示す。図3に示したボールジョイントは、図1若しくは図2に示したボールジョイントにほぼ相当する。図3に示したボールジョイントと、図1若しくは図2に示したボールジョイントとの相違点は、センサプレート6が、ハウジングカバー5に当接するスペーサリング14(図1若しくは図2参照)と環状の突起13との間に配置及び緊締されていない、という点にある。図3に示したボールジョイントにおいては、ボールソケット2の変形を曲げモーメントとして維持し、かつセンサプレート6に伝達することは、環状の突起13′及び同様に環状の、並びに同様にボールソケット2自体に配置された係止突起15によって行われる。
【0058】
この実施例は、特に突起13′及び15の具体的に選択された幾何学形状に基づいて、センサプレート6若しくはこのセンサプレート6上に配置されたセンサ7の特に高い応答感度が得られ、ひいては、作用する力に関連した、及び/又はボールジョイント内に残存するボールソケット2のプリロード力の検出に関連した特に高い測定分解能が得られる、ということを特徴としている。
【0059】
従って、本発明によれば、ボールジョイントの運転状態及び負荷状態を確実に検出することができる、ボールジョイントにおける摩耗測定の方法及びボールジョイントが得られる。本発明によるボールジョイントは、安価で確実に、かつ構造的に大きい自由度を有する形式で、力若しくはボールジョイントに作用する負荷を検出することができる。しかも、ボールジョイントの摩耗状態を確実に知らせることもできるので、ボールジョイントの間近に迫った故障を早めに検知し、かつ阻止することができる。
【0060】
本発明は、特に自動車の、要求の多いサスペンション及び車軸システムの領域にボールジョイントを使用した場合の、ボールジョイントにおける安全性、信頼性及び故障回避を改善するために、並びに運転者補助システムのデータベースの拡大に関連して効果的に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の1実施例によるボールジョイントの、側方から力が加えられている状態を示す概略的な縦断面図である。
【図2】図1に示したボールジョイントの、軸方向で力が加えられている状態を示す、図1に相当する図である。
【図3】本発明の別の実施例によるボールジョイントの、軸方向で力が加えられている状態を示す、図1及び図2に相当する図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ジョイントハウジング、 2 ボールソケット、 3 ジョイントボール、 4 ボールピボット、 5 ハウジングカバー、 6 センサプレート、 7 センサ装置、 8 磁界信号発信器、 9 プラスチック栓、 10 孔、 11,12 形状変形部、 13,13′ 環状の突起、伝達部材、 14 スペーサリング、 15 環状の係止突起、 F,F′ 外部の力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールジョイントであって、ジョイントハウジング(1)を有しており、該ジョイントハウジング(1)の内室内にボールソケット(2)が配置されており、該ボールソケット(2)内に、ボールピボット(4)のボール(3)が滑動可能に受容されており、ボールジョイントが、力若しくは負荷を規定するためのセンサ装置(7)を有している形式のものにおいて、
前記センサ装置(7)が、曲げ弾性的なプレート(6)上に配置されていて、該プレート(6)がジョイントハウジング(1)内にフレキシブルに保持されており、前記センサ装置(7)が、センサプレート(6)の機械的な応力若しくは撓みを測定するように調整されており、前記ボールジョイントが伝達部材(13)を有していて、この伝達部材(13)によって、ボールソケット(2)の変形時に力又は曲げモーメントが前記センサプレート(6)内に導入され得るようになっていることを特徴とする、センサ装置を備えたボールジョイント。
【請求項2】
前記センサプレート(6)が円形である、請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
前記伝達部材(13)が、前記ボールジョイント(2)のほぼ環状の突起によって形成されている、請求項1又は2記載のボールジョイント。
【請求項4】
前記センサ装置(7)が、前記センサプレート(6)の撓み若しくは変形の方向及び大きさを測定するように調整されている、請求項1から3までのいずれか1項記載のボールジョイント。
【請求項5】
前記センサプレート(6)が、ジョイントハウジング(1)に環状に配置された支持エレメント(14)に当接せしめられるようになっている、請求項1から4までのいずれか1項記載のボールジョイント。
【請求項6】
前記支持エレメントがスペーサリング(14)によって形成されており、該スペーサリング(14)の直径が、ボールソケット(2)の環状の突起(13)の直径とは異なっている、請求項5記載のボールジョイント。
【請求項7】
前記スペーサリング(7)がボールジョイントのハウジングカバー(5)に当接せしめられるようになっている、請求項6記載のボールジョイント。
【請求項8】
前記スペーサリング(14)が、ボールジョイントのハウジングカバー(5)と一体的に構成されている、請求項6又は7記載のボールジョイント。
【請求項9】
前記センサプレート(6)が、ボールソケット(2)に配置された係止突起(15)に当接せしめられるようになっている、請求項1から4までのいずれか1項記載のボールジョイント。
【請求項10】
ジョイントボール(2)の表面領域に配置された磁界信号発信器(8)と、ジョイントハウジングに配置された磁界センサ装置(7)とを備えた角度センサ装置が設けられている、請求項1から9までのいずれか1項記載のボールジョイント。
【請求項11】
前記磁界センサ装置(7)が力センサ装置(7)と共にセンサプレート(6)上に配置されている、請求項10記載のボールジョイント。
【請求項12】
磁界センサ装置と力センサ装置とが、モノリシック集積回路(7)として構成されている、請求項10又は11記載のボールジョイント。
【請求項13】
前記磁界センサ装置(7)がCMOSホールセンサ装置として構成されている、請求項10から12までのいずれか1項記載のボールジョイント。
【請求項14】
磁界センサ装置(7)が、すべての3次元空間方向における磁界を測定するように構成されている、請求項10から13までのいずれか1項記載のボールジョイント。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項記載の特徴を有するボールジョイントにおける摩耗測定のための方法において、
イ)「力の不変性」、「ボールピボット(4)とジョイントハウジング(1)との所定の相対位置」又は「運動停止状態」の条件のうちの1つ又は複数が存在するかどうかをテストし、
ロ)力センサ装置(7)によってボールソケット(2)のプリロード力を測定し、
ハ)その測定信号から摩耗値を算出し、
ニ)この摩耗値を最大値と比較して、最大値を超えた場合に警告を発信する、
方法段階を有していることを特徴とする、摩耗測定のための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−546955(P2008−546955A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516121(P2008−516121)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001019
【国際公開番号】WO2006/133682
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(506054589)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (151)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen AG
【住所又は居所原語表記】D−88038 Friedrichshafen,Germany
【Fターム(参考)】