説明

ターボチャージャーのコンプレッサ構造

【課題】吸気にオイルが混入していても高温下で使用でき、しかもオイルの炭化が生じないターボチャージャーのコンプレッサ構造を提供する。
【解決手段】アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたコンプレッサインペラ26やコンプレッサハウジング27の表面にアルマイト皮膜11を形成し、そのアルマイト皮膜11で形成された多孔質層に触媒金属13を担持させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のターボチャージャーのコンプレッサ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の内燃機関、特にディーゼルエンジンにおいては、燃費改善、出力増加の手段として、ターボチャージャーが使用されている。
【0003】
ターボチャージャーは、タービンとコンプレッサをターボ軸で連結して構成され、ディーゼル機関からの排ガスでタービンのタービンインペラを駆動し、タービンインペラに連結されたコンプレッサのコンプレッサインペラを回転して吸入空気を圧縮し、吸気の空気密度を高くして、ディーゼルエンジンの燃焼室に供給することで、エンジンの出力を増加させる装置である。
【0004】
エンジンの出力、性能向上には、コンプレッサにて、吸入空気の過給圧を高めることが必須条件となる。このため、コンプレッサは高温で駆動されることとなる。
【0005】
従来、特許文献1に示されるようにコンプレッサインペラを鋳造する際のアルミ合金組成を改良して耐熱強度を向上させたり、特許文献2に示されるように、コンプレッサインペラの外周部を高温強度に優れた材料をコーティングするなどして高温使用に耐え得るコンプレッサインペラが種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−206927号公報
【特許文献2】特開2000−291441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、コンプレッサインペラの高温強度を高めても、ターボチャージャーが本来有する機能以下でしか使用できない問題がある。
【0008】
すなわち、吸気を圧縮するコンプレッサには、上流側に戻されたエンジンの油、未燃ガスを含んだブローバイガスや排気ガスの低NOx対策のためのEGRガスも通過するため、これらオイルが炭化しない温度でしか使用できない問題がある。ターボチャージャーのコンプレッサは、空気圧縮時には、150℃を超える高温で駆動され、コンプレッサインペラ自体の耐熱強度に問題は生じないものの、吸入空気に混在しているオイル分がコンプレッサインペラ表面及びコンプレッサハウジング壁面に付着し、この付着したオイルが高温下でそのまま炭化付着してしまう問題がある。
【0009】
通常コンプレッサインペラとコンプレッサハウジングとの隙間(クリアランス)は、空気を圧縮する機能上50μmとせまくしてあり、ハウジングに付着したオイル等が次第に炭化し、堆積するとコンプレッサハウジングとコンプレッサインペラが干渉し回転低下による機能低下、あるいは破損に至る場合もある。
【0010】
このために多くの内燃機関では、オイル等が炭化する温度以下、多くは160〜170℃以下で使われることになる。ターボチャージャーが本来有する機能以下のところで使用しており、コンプレッサインペラの耐熱強度を高めても、これを十分に活用できないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、吸気にオイルが混入していても高温下で使用でき、しかもオイルの炭化が生じないターボチャージャーのコンプレッサ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたコンプレッサインペラの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させたことを特徴とするターボチャージャーのコンプレッサ構造である。
【0013】
請求項2の発明は、アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたコンプレッサハウジングの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させたことを特徴とするターボチャージャーのコンプレッサ構造である。
【0014】
請求項3の発明は、コンプレッサインペラまたはコンプレッサハウジングの表面あるいはコンプレッサインペラとコンプレッサハウジングの表面を、陽極酸化処理を行って細孔径が50〜500nm、深さが500nm〜1000nmの多孔質層からなるアルマイト皮膜を形成し、その多孔層の細孔内に白金からなる触媒金属を担持させた請求項1又は2記載のターボチャージャーのコンプレッサ構造である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、コンプレッサインペラまたはコンプレッサハウジングの表面にアルマイト処理を行い、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させることで、吸気中のオイルが表面に付着してもこれを酸化分解することが可能となりオイルの炭化を防止することが可能となるため、高温環境下で使用してターボチャージャーの本来の機能を発揮することができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のターボチャージャーのコンプレッサ構造において、アルマイト皮膜の構造を示す拡大図である。
【図2】本発明のターボチャージャーのコンプレッサ構造の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
先ず、本発明が適用されるターボチャージャー20の全体構成を図2により説明する。
【0019】
図2に示すようにターボチャージャー20は、タービン21とコンプレッサ22をターボ軸23で連結して構成される。
【0020】
タービン21は、タービンインペラ24と、タービンインペラ24を囲み、排ガスが導入されるタービンハウジング25とからなり、コンプレッサ22は、コンプレッサインペラ26と、コンプレッサインペラ26を囲み、吸気が導入されるコンプレッサハウジング27とからなる。
【0021】
タービンインペラ24とコンプレッサインペラ26とはターボ軸23で連結され、ターボ軸23がベアリングハウジング28内に収容されると共にベアリングハウジング28内に設けた軸受部29で軸承される。ベアリングハウジング28の上部には、潤滑油を軸受部29に供給する潤滑油入口30が設けられ、下部には潤滑油排出路31が形成される。
【0022】
このターボチャージャー20の作動を説明する。
【0023】
ディーゼルエンジンからの排ガスは、タービンハウジング25に導入され、そのスクロール流路25sを通る間にタービンインペラ24の周方向内方に流れてタービンインペラ24を回転し、タービンハウジング25の出口25oから排気される。一方吸気は、コンプレッサハウジング27の入口27iからコンプレッサインペラ26の軸方向に流入し、コンプレッサインペラ26のハブ26hとコンプレッサハウジング27の圧縮流路27cを通る間にハブ26hに設けられたベーン26bで遠心力を受けて圧縮されて径方向に排出されてスクロール流路27sに流れ、その圧縮空気がエンジン側に供給される。
【0024】
このターボチャージャー20において、コンプレッサハウジング27の入口27iから吸気と共にエンジンオイルや未燃燃料などのハイドロカーボンが流入し、コンプレッサハウジング27の圧縮流路27cやコンプレッサインペラ26のベーン26bに付着し、これが高温下で炭化して堆積すると、圧縮流路27cとベーン26bとの隙間(クリアランス)が保てなくなる。
【0025】
そこで、本発明においては、コンプレッサインペラ26の表面とコンプレッサインペラ26に対面するコンプレッサハウジング27の圧縮流路27cの表面に、陽極酸化処理を行ってアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜からなる多孔質層にプラチナなどからなる触媒金属を担持させ、触媒金属で付着するオイル等を酸化分解させるようにしたものである。
【0026】
図1は、コンプレッサインペラ26やコンプレッサハウジング27の表面のアルミニウム又はアルミニウム合金層10上に多孔質層を形成するアルマイト皮膜11を形成し、そのアルマイト皮膜11で形成される多孔質層の微細孔12に触媒金属13を担持させた状態を拡大して示したものである。
【0027】
アルマイト皮膜11の形成は、陽極酸化処理によって形成されるが、この形成過程で、アルミニウム又はアルミニウム合金層10の表面のアルミニウムが酸化されながら酸化アルミニウムとなり、アルミニウム又はアルミニウム合金層10の表面にバリヤー層14を形成し、そのバリヤー層14から径が数μmの被膜セル15が集合した状態で形成されていくが、アルミニウム以外の金属元素の存在や電気の流れなどにより、被膜セル15の厚み方向に細長い微細孔12を多数有する多孔質構造となる。この微細孔12の径は、50nm〜500nmで、深さは500nm〜1000nm前後のものである。
【0028】
通常、この微細孔12は、硬度や耐食性を劣化させる原因となるが、本発明においては、この微細孔12内に白金などナノサイズの触媒金属13を担持させるようにしたものである。
【0029】
ここで、アルマイト皮膜11の厚さは、1μm〜5μm程度となるように陽極酸化を行う。
【0030】
また微細孔12に担持する触媒金属は、白金であれば、塩化白金酸を用いて微細孔12内に浸漬させて担持させる。
【0031】
次に本発明の作用を説明する。
【0032】
上述したように、コンプレッサ22には、吸気中にエンジンオイル等が含まれて流入し、過給圧が高くなると、コンプレッサインペラ26やコンプレッサハウジング27の表面の温度が150℃以上となり、その表面にオイルやハイドロカーボン等の未燃ガスが付着するが、触媒金属13にて、酸化され、二酸化炭素となって、コンプレッサインペラ26やコンプレッサハウジング27の表面から除去されることとなる。
【0033】
このことにより、コーキング条件で制限されていたターボの許容限界温度が、コンプレッサインペラ26やコンプレッサハウジング27の使用限界温度まで上げることが可能となり、ターボチャージャー20の本来の性能を発揮することが可能となる。
【0034】
また、許容温度が上がることで、さらに触媒金属13の活性化が進み、オイル、未燃ガスの酸化が促進される二次効果も期待できる。
【符号の説明】
【0035】
10 アルミニウム又はアルミニウム合金層
11 アルマイト皮膜
12 微細孔
13 触媒金属
26 コンプレッサインペラ
27 コンプレッサハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたコンプレッサインペラの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させたことを特徴とするターボチャージャーのコンプレッサ構造。
【請求項2】
アルミニウムやアルミニウム合金で形成されたコンプレッサハウジングの表面にアルマイト皮膜を形成し、そのアルマイト皮膜で形成された多孔質層に触媒金属を担持させたことを特徴とするターボチャージャーのコンプレッサ構造。
【請求項3】
コンプレッサインペラまたはコンプレッサハウジングの表面あるいはコンプレッサインペラとコンプレッサハウジングの表面を、陽極酸化処理を行って細孔径が50〜500nm、深さが500nm〜1000nmの多孔質層からなるアルマイト皮膜を形成し、その多孔層の細孔内に白金からなる触媒金属を担持させた請求項1又は2記載のターボチャージャーのコンプレッサ構造。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−122444(P2012−122444A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275844(P2010−275844)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】