説明

ダイヤモンド単結晶基板

【課題】半導体材料、電子部品、光学部品などに用いられる、大面積・高品質なダイヤモンド単結晶基板を提供する。
【解決手段】複数個から構成されるダイヤモンド単結晶基板のうち1つを除く基板1の主たる面の面方位は、{100}面からのずれが1度未満であり、残る1つの基板2の主たる面の面方位は、{100}面からのずれが1度以上8度以下であり、ダイヤモンド単結晶基板を並べて配置する際にこの1つの基板2を最も外周部に配置し、かつ、この1つの基板2の主たる面における<100>方向が、配置基板の外周方向を向く方向に配置し、しかる後に気相合成法によりダイヤモンド単結晶7,8を成長させ、この1つの基板2から成長したダイヤモンド単結晶8が、他の基板1上に成長したダイヤモンド単結晶7上に覆い被さって全面一体化したダイヤモンド単結晶基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド単結晶基板に関し、特に半導体材料、電子部品、光学部品などに用いられる大面積で高品質なダイヤモンド単結晶基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは高熱伝導率、高い電子・正孔移動度、高い絶縁破壊電界強度、低誘電損失、そして広いバンドギャップといった、半導体材料として他に類を見ない、優れた特性を数多く備えている。特に近年では、広いバンドギャップを活かした紫外発光素子や、優れた高周波特性を持つ電界効果トランジスタなどが開発されつつある。
【0003】
ダイヤモンドを半導体として利用するためには、他の半導体材料と同様に高品質の単結晶基板が必要である。現在、主として高温高圧合成法により工業的に得られるダイヤモンド単結晶は、天然産単結晶と比較しても結晶性に優れ、物性上は半導体基板として利用可能であるが、得られる単結晶のサイズは1cm級までが限界となっている。この様な小型の基板で問題となるのが、Si等、一般的な半導体の微細加工で使用されるステッパーや電子ビーム露光等を利用した半導体ウェハプロセスである。小型の基板では、数インチ径のウェハを想定して設計されたこれらの加工装置を適用するのは困難であり、仮に小型基板専用の加工装置を導入したとしても、フォトレジストの塗布工程など、周辺工程の困難さは解決されない。
【0004】
そこで、大面積なダイヤモンド単結晶基板を得るための方法として、例えば特許文献1では、実質的に相互に同じ結晶方位を持つ、複数の高圧相物質を配置して気相成長の核となる基板を形成し、その上に単結晶を気相合成法で成長させ、一体となった大型単結晶を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−75298号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 35 (1996) pp. 4724-4727
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1による大型単結晶を得る方法を用いる際、気相成長の核となる複数枚からなる単結晶基板は、通常では完全に同一の成長面の面方位を持たず、それぞれ若干異なった面方位を持つことになる。ここから単結晶気相成長を行って単結晶を一体化させると、その接続部分は小傾角粒界と呼ばれる、角度の異なった成長界面、すなわち広義の欠陥を有することになり、これは単結晶成長を継続しても基本的に消失しない。この結果、小傾角粒界を跨いだ区間の半導体物性は、完全な単結晶よりも劣ることになり、一体化した単結晶上にデバイス等を作製すると、小傾角粒界を跨いだ部分で性能が失われる。
本発明は、前記課題を克服すべくなされたもので、半導体材料、電子部品、光学部品などに用いられる、大面積・高品質なダイヤモンド単結晶基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は次の構成を有する。
(1)面方位の揃った複数個から構成されるダイヤモンド単結晶基板を並べて配置し、気
相合成法により前記単結晶基板上にダイヤモンド単結晶を成長させて全面一体化したダイヤモンド単結晶基板であって、前記複数個から構成されるダイヤモンド単結晶基板のうち1つを除く基板の主たる面の面方位は、{100}面からのずれが1度未満であり、残る1つの基板の主たる面の面方位は、{100}面からのずれが1度以上8度以下であり、ダイヤモンド単結晶基板を並べて配置する際にこの1つの基板を最も外周部に配置し、かつ、この1つの基板の主たる面における<100>方向が、配置基板の外周方向を向く方向に配置し、しかる後に気相合成法によりダイヤモンド単結晶を成長させ、この1つの基板から成長したダイヤモンド単結晶が、他の基板上に成長したダイヤモンド単結晶上に覆い被さって全面一体化したことを特徴とするダイヤモンド単結晶基板。
【0009】
以下、上記の本発明について説明する。
気相合成法によるダイヤモンド単結晶基板からの単結晶成長では、ある単結晶基板の基板面方位と、そこからわずかにずれた面方位(以下、基準面方位からのずれ角をオフ角と称す)とでは、成長速度に差が生じることが知られている(例えば、非特許文献1)。この現象は非特許文献1にも示されるように、基板面方位が{100}で顕著である。本発明者らは、複数の単結晶基板から気相合成法により単結晶基板を一体化成長させた単結晶基板、及びその製造法において本現象を利用すれば、小傾角粒界のない実質的に大型の単結晶基板が得られると考え、鋭意研究を行った。
【0010】
その結果、前記本発明を得るに至った。すなわち、複数個から構成されるダイヤモンド単結晶基板のうち1つを除く基板(以下、主基板と称す)の主たる面(以下、主面と称す)の面方位は、{100}面からのオフ角が1度未満であり、残る1つの基板(以下、オフ基板と称す)の主面の面方位は、{100}面からオフ角が1度以上8度以下とする。また、ダイヤモンド単結晶基板を並べて配置する際にオフ基板を最も外周部に配置し、かつ、このオフ基板の主面における<100>方向が、配置基板の外周方向を向く方向に配置する。この状態で気相合成法によりダイヤモンド単結晶を成長させると、本発明の新たな効果として、オフ基板から主基板上への横方向成長速度が主方向の成長速度差よりも大きく、結果としてオフ基板から成長した単結晶が比較的短い時間で主基板上に覆い被さって全面一体化する現象を確認した。この横成長が高速化する現象は、単独のオフ基板からの横成長よりも、主基板と並べて成長した場合に顕著で、単結晶基板の大型化に特に効果があった。
【0011】
この主基板のオフ角は1度未満であればよいが、望ましくは0.5度以下、理想的には0度に近いほど望ましい。また、オフ基板のオフ角は1度以上8度以下であればよいが、理想的には4度以上5度以下が望ましい。
また、主基板、オフ基板の形状は、立方体又は直方体の単結晶基板が望ましく、側面の面方位は{100}が望ましい。
また、主基板、オフ基板の配置は正方状又は直方状、すなわち基板同士の界面が十字状になるように配置し、かつ、オフ基板を最外周の角の位置に配置するのが望ましい。
また、このオフ基板の主面における<100>方向は、オフ基板の外周辺方向よりも外周角方向を向いた方が一体化成長には効率的である。
【0012】
本発明によるダイヤモンド単結晶基板は、最表面には小傾角粒界が存在しない一体化した単結晶である。この上に、デバイスを作製することでも半導体基板として利用できるが、最表面の一体化した層のみを切り出すことにより、大面積でかつダイヤモンド本来の半導体特性を有するダイヤモンド単結晶基板として利用可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に関するダイヤモンド単結晶基板を用いれば、大面積で高品質なダイヤモンド単結晶基板が得られ、半導体材料、電子部品、光学部品などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に使用したダイヤモンド単結晶基板の配置の概略図である。
【図2】本発明で得られたダイヤモンド単結晶基板の概略図である。
【図3】複数のオフ基板を配置した比較例1の基板配置の概略図である。
【図4】オフ基板を中心に配置した比較例3の基板配置の概略図である。
【図5】オフ基板の<100>方向が配置基板の中心を向いた比較例4の基板配置の概略図である。
【図6】比較例1の単結晶成長後の模式図である。
【図7】比較例2の単結晶成長後の模式図である。
【図8】比較例3の単結晶成長後の模式図である。
【図9】比較例4の単結晶成長後の模式図である。
【図10】比較例5の単結晶成長後の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
本実施例では高温高圧合成法で得られたダイヤモンド単結晶基板を4枚用意した。基板サイズは縦横5mm、厚さ0.5mmの立方体で主面・側面は研磨済みである。主面・側面の基準となる面方位はいずれも{100}で、主基板1である3つの基板の主面オフ角はそれぞれ0.1度、0.4度及び0.9度で、オフ基板2である1つの基板の主面オフ角5は4.5度であった。またオフ基板2の主面<100>方向4は、図1に示すように基板の外周角方向(<111>方向の上方)を向いている。
【0017】
これらの基板を、図1の配置のまま基板ホルダに配置した。そして、これら基板上に公知のマイクロ波プラズマCVD法で単結晶を気相成長させた。成長条件を以下に示す。
マイクロ波周波数:2.45GHz
マイクロ波電力:5kW
チャンバ内圧力:1.33×104Pa
2ガス流量:100sccm
CH4ガス流量:5sccm
基板温度:900℃
成長時間:300時間
成膜の結果、図2に示すような、気相合成単結晶層の厚さが3mmで、オフ基板から成長した単結晶8が全面に覆い被さり一体に接続された、10mm角のダイヤモンド単結晶基板が得られた。
この単結晶基板の一体化した単結晶層をレーザー切断により切り出し、ホール測定によって水素化表面伝導層の常温における正孔移動度を評価した結果、1000cm2/V・
secと高速な値を得た。
【0018】
次に比較例として、主基板のオフ角を変えたもの(オフ基板が複数存在するもの)、オフ基板のオフ角を変えたもの、オフ基板の配置を変えたもの、及びオフ基板の向きを変えたものについて実施例と同様の成長条件で単結晶成長させた結果について述べる。これら比較例のうち、オフ基板の配置を変えたものについては、実施例サイズと同サイズの9枚の単結晶基板から成長させた。それ以外の比較例については基板サイズ・枚数は実施例と同様である。表1はこれらの基板条件・配置条件をまとめたものである。
【表1】

【0019】
比較例1は主基板のうち、図3に示すように一つのオフ角が本発明における主基板1の条件を外れ、オフ基板2の条件を満たしたもの、すなわちオフ基板2が複数ある例である。実施例と同じ成長条件でダイヤモンド単結晶を成長させた結果、2枚のオフ基板2からそれぞれ主基板1上に横方向成長するが、それぞれ成長した単結晶同士が干渉するため全面一体化することはなく、最表面には2個の基板由来の小傾角粒界9が存在した。成長後の模式図を図6に示す。その後、気相合成単結晶層をレーザー切断により切り出し、ホール測定によって常温における小傾角粒界9を跨ぐ方向の正孔移動度を評価した結果、150cm2/V・secと実施例に比べて低速であった。
【0020】
次に、比較例2はオフ基板のオフ角が本発明の範囲を外れた例である。上記実施例と同じ成長条件でダイヤモンド単結晶を成長させた結果、オフ基板2から主基板1上にダイヤモンド単結晶が成長するものの、全面覆いつくす前に周辺領域から多結晶化が進展した(図7)。この結果、全面一体となる単結晶は得られなかった。
【0021】
次に比較例3は、図4に示すようにオフ基板2を主基板1に囲まれるように中心に配置した例である。上記実施例と同じ成長条件でダイヤモンド単結晶を成長させた結果、オフ基板の<100>方向と逆向きに存在する3枚の主基板上には単結晶が覆いつくすように成長したが、それ以外の5枚の主基板上へは拡大成長せず、それぞれの基板から成長した単結晶がそれぞれ存在した。その結果、最表面には小傾角粒界9がそのまま残った(図8)。
【0022】
次に比較例4は、図5に示すようにオフ基板2の<100>方向が配置基板の中心を向いた例である。上記実施例と同じ成長条件でダイヤモンド単結晶を成長させた結果、オフ基板から横方向成長した単結晶は基板の外周方向に向かい、他の主基板上に拡大成長することはなかった。その結果、最表面には4個の基板由来の小傾角粒界9が存在した(図9)。その後、気相合成単結晶層をレーザー切断により切り出し、ホール測定によって常温における小傾角粒界9を跨ぐ方向の正孔移動度を評価した結果、100cm2/V・secと実施例に比べて低速であった。
【0023】
さらに比較例5として、実施例に用いたオフ基板1枚から、他の主基板を用いることなくダイヤモンド単結晶を気相成長した例について示す。オフ角が4.5度の単結晶基板1枚に対して、上記実施例と同じ成長条件でダイヤモンド単結晶を成長させた結果、ダイヤモンドは横方向に成長するものの横成長領域では成長温度等が維持できず、横成長の外周部で多結晶8が成長した(図10)。また、単結晶サイズに関しても、厚さは比較例と同
じ3mmであったが、面積は6mm角までの拡大に留まった。
【実施例2】
【0024】
次にオフ基板のオフ角を変えた実施例について述べる。オフ基板のオフ角以外の諸条件は前記実施例と同様である。ここで使用したオフ基板のオフ角は1.1度、3.9度、5.1度、7.9度の4種類を用意した。まず、オフ角1.1度の試料については、前記実施例と同じ300時間成長では、オフ基板から成長した単結晶が主基板から成長した単結晶を覆いつくすことがなかった。しかし、その後200時間の追加成長で図2に示すように覆い被さった。この時の気相合成単結晶層の厚さは4mmであった。オフ角3.9度、5.1度の試料についても同様の成長を行ったところ、300時間成長では覆いつくすことはなかったが、それぞれ45時間、55時間の追加成長で図2に示すように覆い被さった。この時の気相合成単結晶層の厚さはそれぞれ3.3mm、3.4mmであった。これら3実施例について、一体化した単結晶層をレーザー切断により切り出し、ホール測定によって正孔移動度を評価した結果、いずれも1000cm2/V・secと高速な値を得た。
【0025】
最後にオフ角が7.9度の試料について、同様の成長を行ったところ、300時間では覆いつくすことはなかったが、その後の200時間の追加成長で図2に示すようにオフ基板から成長した単結晶が全面に覆い被さった。この際の単結晶層の厚さは4mmであった。その後、一体化した単結晶層をレーザー切断により切り出し、ホール測定によって正孔移動度を評価した結果、900cm2/V・secと前記実施例よりは若干低速なものの、高性能半導体として使用するには十分に高速な値を得た。
以上のように、実施例に代表されるような方法で製造したダイヤモンド単結晶は、半導体基板等に利用できる大面積で高品質な単結晶基板であることが示された。
【符号の説明】
【0026】
1 ダイヤモンド単結晶基板(主基板)
2 ダイヤモンド単結晶基板(オフ基板)
3 ダイヤモンド単結晶基板主面に垂直な軸
4 オフ基板における<100>方向
5 オフ角
7 主基板から成長した単結晶層
8 オフ基板から成長した単結晶層
9 小傾角粒界
10 オフ基板(オフ角大)から成長した単結晶層
11 オフ基板(オフ角小)から成長した単結晶層
12 多結晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方位の揃った複数個から構成されるダイヤモンド単結晶基板を並べて配置し、気相合成法により前記単結晶基板上にダイヤモンド単結晶を成長させて全面一体化したダイヤモンド単結晶基板であって、前記複数個から構成されるダイヤモンド単結晶基板のうち1つを除く基板の主たる面の面方位は、{100}面からのずれが1度未満であり、残る1つの基板の主たる面の面方位は、{100}面からのずれが1度以上8度以下であり、ダイヤモンド単結晶基板を並べて配置する際にこの1つの基板を最も外周部に配置し、かつ、この1つの基板の主たる面における<100>方向が、配置基板の外周方向を向く方向に配置し、しかる後に気相合成法によりダイヤモンド単結晶を成長させ、この1つの基板から成長したダイヤモンド単結晶が、他の基板上に成長したダイヤモンド単結晶上に覆い被さって全面一体化したことを特徴とするダイヤモンド単結晶基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−184914(P2009−184914A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78954(P2009−78954)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【分割の表示】特願2003−432607(P2003−432607)の分割
【原出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】