説明

デジタル型ヘリウム−ネオン安定化レーザ

【目的】 安定化のために、デジタル量を用いる安定化ヘリウム−ネオンレーザの高度の安定度をうるため、デジタルのパルスの形状を正確に揃える手段の提供を行なうと共に、前記安定化のためのデジタル量のパルスの周波数を正確に一定にする手段の提供を行なうことを目的とする。
【構成】
レーザから安定化のために使用出来るデジタル量のパルス周波数を、基準周波数を完全に、しかも安定に一致させるため、ダイオードの順方向の電圧を利用して、正負のパルスの基線を零ボルトにし、さらに、このデジタル量をアナログ量に変換する際、F/V変換回路と正負のパルスの電荷をゆっくり積分する回路を並列にして誤差信号の値を完全に零にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【0002】
本発明は周波数引き寄せ現象を利用した高い周波数精度をもつ周波数安定化ヘリウム−ネオンレーザ装置やゼーマンレーザ装置の精度の向上に関するものである。
【背景技術】
【0003】
周波数安定化ヘリウム−ネオンレーザでは、レーザの共振器長の制御を温度や汚れの影響を受けやすいアナログ量の使用を避け、出来るだけ広い範囲でデジタル(カウンタブル)量での処理を行なっていた。しかし、総てをデジタル量で扱うことは不可能で、デジタル量は最終的には、アナログに変換されなければならない。
さらに、従来の装置ではパルスの形をR.C即ち、抵抗と容量で決めていた。容量の値は温度により変化するのでパルスの形が変り条件により、或いは正確に見ると、対数曲線で立ち上がり下がりする、三角波に似た形になる。パルスの形の変化はアナログ量に変換する際、誤差の要因になる。この形式のレーザは
S.Yokoyama,T.Araki,N.Suzuki;Rev.Sci.Instrum.66,2788(1995)で報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デジタル型安定化ヘリウム−ネオンレーザの安定度を更に向上させるには、デジタルと、アナログの結合部分で起こる誤差を除去しなければならない。従って誤差要因であるデジタル信号のパルス波形を、正確に一定の形にしなければならず、パルス波形が容量と抵抗、RCで決まるようであってはならない。
一般に前記の、レーザの出すパルスの周波数と、基準発信器のパルスの周波数の差の絶対値を、該差の周波数が正の時は第1の回路から、負の時は第2の回路から出力する手段を有する回路は、高周波の水晶発信器とTTLから構成され、出力である周波数の差は高周波の水晶発信器の発振パルスであり、パルスの幅は極めて狭く、その儘デジタル信号として用いることは困難である。
それで、パルスの幅が広くなるように整形して信号として用いるのが常でありそのために、容量と抵抗を用いていたのであるが、容量の影響を受けないようにするために、それら容量と抵抗を一切用いないで、デジタル信号のパルス波形の整形を行なう手段を構成するのが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の回路や第2の回路からの出力パルス幅を、高周波の水晶発信器の発振パルスを計数器で一定の数だけ数えることにより決定して、二組の正確な幅のパルスをつくり、次いで該二組のパルスのうち、第1の回路からの出力パルスを、充分低い負の電圧から正の電圧まで立ち上がるパルスに変換した後、負の電圧に対して順方向となるようにダイオードを接続して接地し、負のダイオードの順方向電圧−V(0.7V)から正の一定電圧まで立ち上がるパルスに整形する。第2の回路からの出力パルスに対しても、充分高い正の電圧から負の電圧まで立ち下がるパルスに変換後、正の電圧に対し順方向となるようなダイオードにより、正のダイオードの順方向電圧+Vから負の一定電圧まで立ち下がるパルスに整形する。このようにして整形された二組のパルスを加算すると電圧ベースのレベルは正確に零ボルトで正、負の極性を持ち幅の等しいパルス列が得られる。このパルス列を、小さい容量と放電抵抗を持つ普通の反転型周波数−電圧変換回路と、大きい容量と利得が1の反転増幅器からなる回路とを並列に接続した合成回路に入力する。この合成回路をレーザ管も含む全体の安定化制御系の中におくと、この全体の安定化制御系は、正、負の極性を持つパルス列の電荷の平均値を零にするように働く。従って、基準発信器のパルスの周波数と、レーザ発振管の出す交流信号から得られるパルスの周波数を完全かつ安定に一致させることが出来、高度に安定した周波数安定化ヘリウム−ネオンレーザを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0008】
発明を実施するための最良の形態を、実施例の図面を用いて説明する。図5は本発明の対象となる安定化ヘリウム−ネオンレーザの制御系全体の図である。実線は本発明の部分、点線は他の部分れある。交流信号の検知器、ヒータを含むヘリウム−ネオンレーザ22から出る交流信号を、交流信号の周波数をパルスの周波数に変換するコンパレータ24での出力と、周波数基準発振器23の周波数の差を求め、差の正負に応じ第1,第2の二つの回路から出力する周波数差検出器25で得られたパルスを以下本発明である装置部分18,19、20で処理を行なう。周波数差検出器25で得られた、2組のそれぞれのパルスの幅を、二つの図3の様な回路で一定の値にする。入力されるパルスの幅は狭い。入力パルスでRSフリップフロップ11をセットして出力QをLからHにする同時にゲート9が開かれ、プリセットカウンタ10は高周波水晶の出力を計数し始め計数が終わると、フリップフロップはリセットされ、この間の時間がパルスの幅をきめる。幅の決まったパルスは第1、第2の二つの回路から図1の様な回路のパルス整形器19に入力され、周波数差の正負に応じて正負の極性をもつパルス列に変換される。第1の回路のパルスは、常時出力が負の飽和電圧になるようバイアスされた非反転増幅器1により正の飽和電圧に至るパルスに増幅され、(図2のA)負の側はダイオード4の順方向電圧−V、の電圧、正の側はツエナーダイオード6で決まる電圧のパルスになる。第2の回路のパルスは、常時出力が正の飽和電圧になるようバイアスされた反転増幅器2で極性が逆の同じ操作で正の側はダイオード5の順方向電圧+V、の電圧、負の側はツエナーダイオード7で決まるパルスとなる。この正、負の二組のパルス列を加算演算増幅器3で加算すると、−Vと+Vは打ち消され、0Vからツエナー電圧までの電圧と幅が等しい、正負のパルス列が得られる。ツエナーダイオードでなく、抵抗で分圧して、正負の電圧を決めてもよい。
【0009】
上記のパルス列を、短い時定数と有限の利得を持つ反転型積分増幅回路と、大きい容量の積分器と反転増幅器からなる回路を並列にした合成回路20に入力する。合成回路20の具体的な回路を図4に示す。演算増幅器15と小さい容量16と放電抵抗17からなる増幅器は、周波数−電圧変換器である。全体の制御系に、この周波数−電圧変換器を組み込むだけでも安定化ヘリウム−ネオンレーザは完成する。しかし、レーザの環境温度が変化するとレーザの共振器長を一定に保つためには周波数−電圧変換器、F/Vの出力を変化させる必要が生じ利得が有限であるので入力、つまり誤差信号εが変化しなければならないので、周波数の安定点が変る。
【0010】
このような変化を生じさせないために、並列に接続された大きい容量13を用いた積分器12がある。誤差信号εの修正を行なう回路である。いま、レーザの出す交流信号の周波数が周波数基準発振器の周波数との差が大きく、例えば、より高くなり過ぎていたとする。そして、合成回路20には正のパルスのみが入力されると仮定すると、容量13には蓄積される電荷は積分器12の出力電圧を除々に負の方向に移動させる。この移動は全体の制御系により正のパルスの数が減る方向に動く。移動により正のパルスの数が減り、負のパルスが現れ、正と負のパルスの数が等しくなれば、上記の移動はとまる。
【0011】
ここで極めて重要なことは上記の周波数との差が大きい時点では積分器12の出力の移動速度は大きいが正のパルスの数の減少にしたがって移動速度は減少し負のパルスが現れ始める頃には移動速度はきわめて遅くなり正負のパルスの数が等しくなる時点ではパルスの数そのものが少なくなり移動はとまる。この動きを誤差信号εの変化として表したのが図6の曲線でexp(−kt)の形で、つまり、対数曲線的にε=0の線に収れんしているという点である。被積分パルス列は正確に電圧が零の線を基線とする正確な幅と高さをもつ、正負の方形波であることから誤差信号が零である点は正確で、且つ安定している。
【0012】
積分器12は大きい遅れ要素である。大きい遅れ要素があれば発振が起こるのは常識であるが、上記のように誤差信号εの対数曲線的に目標値に近付くということにより発振は起こらない。
反転増幅器14は負帰還にするためのものである。単位利得でよい。
【0013】
合成回路20の出力は電力増幅器21を経由してレーザの共振器長を制御するヒータに送られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は元来高度に安定化されたレーザに適用されるべきもので、一例を挙げれば、沃素の飽和吸収を用いたレーザに、時々オフセットロックさせて光の周波数基準とすることを目的にする場合である。光の周波数4.7×1014Hzにおいて、変動を100KHz以内にするには何日おきに何分間オフセットロックさせればよいかと言う問題でゼーマンレーザや周波数引き寄せ現象をもちいたレーザを対象として、(T.Yasui,T.Araki,N.Suzuki;OPTICAL REVTEW 3(1996)528およびT.Yasui,T.Araki,N.Suzuki;SPIE 2778 p.1076)細かい不安定の原因までも問題にしなければならない。在来のRCでパルスの形を決める方式にたいして、本発明によるレーザは、環境によっては一桁近く変動が減少している。
【0015】
このレーザは、光の周波数基準だけを目的としたものではない。ナノメータ、サブナノメータの位置決めや動きの測定の分野でも能力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】は安定化レーザの系全体の図の19、パルスの正負の高さを決める部分の配線図である。
【図2】は図1におけるA、CおよびB、D点のパルスの波形である。
【図3】は安定化レーザの系全体の図の18、のパルスの幅を決める部分の配線図である。
【図4】は安定化レーザの系全体の図の20、二つの並列回路の配線図である。
【図5】は安定化レーザの系全体の図面である。
【図6】は誤差信号εが零ボルトに接近する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
1 非反転増幅器
2 反転増幅器
3 演算増幅器
4、5 ダイオード
6、7 ツエナーダイオード
8 水晶発信器
9 ゲート
10 計数器
11 RSフリップフロッツプ
12 積分器
13 大容量の容量
14 単位利得の反転増幅器
15 周波数−電圧変換反転増幅器
16 小容量の容量
17 放電抵抗
18 パルス幅の決定回路
19 パルス高さの決定回路
20 F/V及び誤差の修正回路
21 電力増幅器
22 レーザ及び関連装置
23 基準周波数発信器
24 交流信号−パルス変換器
25 周波数差検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振管から周波数が周期的に変動する交流信号を取り出し、該交流信号をパルスに変換すると共に、該パルスの周波数と、基準周波数発信器のパルスの周波数の差の絶対値を、該差の周波数が正の時は第1の回路から、負の時は第2の回路から出力する手段を持ち、該二つの回路の出力する単位時間のパルス数が等しくなるようにレーザの共振器長を制御する安定化ヘリウム−ネオンレーザに於いて、第1の回路から出力されるパルスを充分低い負の電圧から正の一定電圧まで立ち上がるパルスに変換する手段と該パルスの負の電圧をダイオードの順方向電圧に等しくするか、負方向の第1のツエナーダイオードの電圧に等しくして第1の整形パルスをつくる手段と、第2の回路から出力されるパルスを充分高い正の電圧から、絶対値が前記の正の一定電圧と等しい、負の電圧まで立ち下がるパルスに変換する手段と該パルスの正の電圧をダイオードの順方向電圧に等しくするか、第1のツエナーダイオードと等しいツエナー電圧をもつ第2のツエナーダイオードにより正の電圧を制限して第2の整形パルスをつくる手段と、上記第1の整形パルスと第2の整形パルスを加算する手段を持つことを特徴とする周波数安定化ヘリウム−ネオンレーザ装置。
【請求項2】
第1の回路と第2の回路それぞれからの出力パルスの幅を、高周波の水晶発信器の発振パルスを計数器で一定の数だけ数えることにより決定して、二組の正確な幅のパルスをつくることを特徴とする周波数安定化ヘリウム−ネオンレーザ装置。
【請求項3】
請求項1および請求項2における手段で得られた正、負の極性をもつパルス列を、小さい容量と抵抗からなる利得が有限で短い時定数を持つ反転型積分増幅回路と、大きい容量の積分器と反転増幅器からなる回路を並列に接続した、合成回路に入力することを特徴とする周波数安定化ヘリウム−ネオンレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−305948(P2007−305948A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155343(P2006−155343)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(591231568)
【Fターム(参考)】