説明

トラクタの走行伝動装置

【課題】本発明は、走行装置への動力伝動経路に設ける変速装置を二重噛み状態にして、走行を停止するようにする作業車の走行伝動装置において、走行開始時や走行停止時のショックを少なくすること課題とする。
【解決手段】エンジン2から走行装置Aへの動力伝動経路を順次メインクラッチB、多段ギヤ変速装置C、サブクラッチDで構成したトラクタの走行伝動装置において、変速操作具Eの変速位置が所定変速段F以下のときにおいてメインクラッチBを切ると、前記多段ギヤ変速装置Cを二重噛み状態にすべく構成したことを特徴とするトラクタの走行伝動装置とする。また、走行装置Aの走行速度を検出し、走行速度が所定速度G以上の場合には、変速操作具Eの全ての変速位置でサブクラッチDを切った際に多段ギヤ変速装置Cを二重噛み状態にしないように構成したことを特徴とするトラクタの走行伝動装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行装置へエンジンの動力を伝動するミッションケース内に、主クラッチとしての摩擦多板式の伝動クラッチと複数段に変速可能な変速装置を備えた作業車の走行伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記作業車では、伝動クラッチを伝動遮断側に操作することにより走行装置への動力伝動を断って、走行を停止させることができる筈であるが、摩擦多板式の伝動クラッチではこれを伝動遮断側に操作しても、エンジンの動力が完全に遮断されると言う状態は少なく、いわゆる摩擦板の連れ回り現象が生じて、エンジンの動力が伝動クラッチから少しずつ下手側に伝わり、機体がゆっくりと移動するような現象の生じることがある。
【0003】
このような伝動クラッチの伝動遮断時における摩擦板の連れ回り現象を防止する手段として、特許第3370231号公報に記載の如く、伝動クラッチが伝動遮断側に操作されると、伝動クラッチの下手側の変速装置において、伝動比の異なる複数の変速装置が共に自動的に伝動状態すなわち二重噛み状態に操作されるようにして動力伝動をロックすることが行われる。
【特許文献1】特許第3370231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伝動クラッチを伝動遮断側に操作すると共に変速装置を二重噛み状態にすると、走行装置への動力伝動が完全にロックされるために、摩擦板の連れ回りで機体がゆっくりと移動するような現象が生じることが無いが、急激な走行停止によってショックを受けることになる。
【0005】
そこで、本発明は、走行装置への動力伝動経路に設ける変速装置を二重噛み状態にして、走行を停止するようにする作業車の走行伝動装置において、走行開始時や走行停止時のショックを少なくすること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、エンジン(2)から走行装置(A)への動力伝動経路を順次メインクラッチ(B)、多段ギヤ変速装置(C)、サブクラッチ(D)で構成したトラクタの走行伝動装置において、変速操作具(E)の変速位置が所定変速段(F)以下のときにおいてメインクラッチ(B)を切ると、前記多段ギヤ変速装置(C)を二重噛み状態にすべく構成したことを特徴とするトラクタの走行伝動装置としたものである。
【0007】
この構成で、変速操作具Eの変速位置が所定変速段F以下でのみ多段ギヤ変速装置Cを二重噛み状態にしているので、所定変速段F以上でメインクラッチBを入れてスタートする際に二重噛み解除によるショックが無く、所定変速段F以下ではスタート速度が遅いために二重噛み解除によるショックを殆ど感じることが無い。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記走行装置(A)の走行速度を検出し、走行速度が所定速度(G)以上の場合には、変速操作具(E)の全ての変速位置でサブクラッチ(D)を切った際に多段ギヤ変速装置(C)を二重噛み状態にしないように構成したことを特徴とする請求項1に記載のトラクタの走行伝動装置としたものである。
【0009】
この構成で、走行速度が所定速度G以上の場合には、多段ギヤ変速装置Cを二重噛み状態にすることによる急停止ショックが無く停止出来、所定速度G以下であれば多段ギヤ変速装置を二重噛み状態にしても停止ショックを感じることが無く、サブクラッチDを切ることでメインクラッチBの付き回りによる走行装置Aの駆動を断って完全に停止できる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、変速操作具Eの変速位置が所定変速段F以下でのみ多段ギヤ変速装置Cを二重噛み状態にするので、変速操作具Eの変速位置が所定変速段F以上でのスタート時に二重噛み解除によるショックが無い効果が有る。
【0011】
また、請求項2記載の発明によれば、走行速度が所定速度G以上での走行中では二重噛み状態になることが無いので、走行を停止する際に停止ショックを感じることが無い効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明を実施した作業機としてトラクタ1を示している。
トラクタ1は、機体前部のボンネット内にエンジン2を搭載し、このエンジン2の回転動力をミッションケース3内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪4と後輪5とに伝えるようにしている。機体上の操縦席6周りはキャビン7で覆われている。このエンジン2は、コモンレール式のディゼルエンジンで、始動時にエンジンキーを一度回すと完全な爆発が生じて回転が安定するまでセルモータを回すように制御している。
【0013】
図2と図3に示すごとく、キャビン7の内部で操縦席6の前側にはステアリングハンドル8を立設し、その右側下部に前後進レバー9を設けている。操縦席6の左側には駐車ブレーキレバー10と作業機への動力を出力するPTO軸の変速を行う第一PTO変速レバー11と第二PTO変速レバー12とを配置している。
【0014】
ステアリングハンドル8の下側床面には、左右の前後輪4,5をそれぞれ制動する左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57と全輪を一斉に制動する全ブレーキペダル58を設け、その後右側にエンジンの回転を制御するアクセルペダル13を設けている。このアクセルペダル13は走行速度を調整するために使用する。
【0015】
なお、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57を同時に踏込むと、ブレーキ制動すると共に主変速の変速段を低速側へ変速してエンジンブレーキも作用させる。また、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57を所定限界踏込み量以上に踏込むと、エンジン回転数を低下させる。この際に、左ブレーキペダル56と右ブレーキペダル57の踏み込みをやめて元に戻すと、エンジン回転を復帰させ、前後輪4,5への動力伝動とPTO出力軸への動力伝動を復帰させた後にブレーキを解除するようにする。
【0016】
ステアリングハンドル8の前側には、走行速度を表示するメータパネル72(図5)や作業機の使用状況等を表示する操作パネル73(図5)を配置したフロントパネル14を設けている。
【0017】
操縦席6の右側には、スロットルレバー15を立設し、最手前のアイドリング位置から前側に倒すとエンジン2の回転が上昇する。このスロットルレバー15は作業時のエンジン回転数を設定するに使用する。16はシーソー式の第一エンジン回転記憶スイッチで、上側に倒すと第一の記憶回転数になり下側に倒すと第二の記憶回転数になり、指を離すと中立位置に戻る。17はシーソー式の第二エンジン回転記憶スイッチで、上側に倒すと回転数が上昇し下側に倒すと回転数が低下し、スイッチを放した時点の回転数が記憶される。エンジン2の回転数の設定は、第一エンジン回転記憶スイッチ16を上側或いは下側に倒して第二エンジン回転記憶スイッチ17を上側或いは下側へ倒して回転数を上昇或いは降下させて両スイッチ16,17を放すとそのときの回転数が第一エンジン回転記憶スイッチ16の設定回転数として記憶される。
【0018】
スロットルレバー15の隣に副変速レバー18を立設している。この副変速レバー18の変速は、低速、中速、高速の三段と路上走行の変速位置が有り、低速、中速、高速の三段でミッションケース3内のメカ変速部を低速・中速・高速に変速すると共に主変速が八段に変速可能で、路上走行位置では、高速の変速段で主変速が3速以上の変速段を使って変速可能で路上走行に適した速度になる。
【0019】
主変速は油圧制御による四段変速と同じく油圧制御による高・低二段変速の組み合わせで計八段の変速段数を有し、その変速段による平均車速は、前記副変速レバー18の低速・中速・高速と組み合わせて、合計二十四段の変速段となる。主変速の変速段の変更は、後述する走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34で行う。
【0020】
19と20は、外部油圧取出用のサブコントロールレバーで、作業機の油圧シリンダ等へ油圧オイルを供給する場合に使用する。21と22は、予備のサブコントロールレバー取付用溝である。23は、ドラフト比調整ダイアルで、左に回すとポジション側となって、負荷に対する作業機の昇降変化量が少なくなり耕耘深さを浅くし、逆に右に回すとドラフト側となって、負荷に対する作業機の昇降変化量が大きくなり耕耘深さを深くする。
【0021】
24は、上げ調整ダイアルで、左に回すと三点リンクの上昇高さが低くなる。作業機によっては最も高く上げるとトラクタ本体に当たる場合やあまり高く上げない方が作業続行のために作業効率が良い場合に、この上げ調整ダイアル24で調整する。25は、傾き調整ダイアルで、左に回すと作業機が右上がりになり、逆に右に回すと作業機が右下がりになる。
【0022】
26は、四WD切換スイッチで、走行ローダとスーパーフルターン及び二WDターンの位置があり、走行ローダでは通常は二WDでぬかるみや急な坂道或いは凹凸道になると自動的に四WDに切り換わり、又ブレーキをかけたり運転中に停止したりしても四WDの状態になる。二WDは後輪の二輪駆動で、四WDは前後四輪の駆動である。スーパーフルターンは四WDの時の旋回で前輪の速度が増速されてクイックな旋回が可能になり、二WDターンでは四WDの時の旋回で前輪の駆動が抜かれて後輪の片ブレーキ旋回となり、固い圃場においてクイックでスムースな旋回が出来る。
【0023】
27は水平シリンダの昇降スイッチで、三点リンクの水平シリンダを動かすことが出来て作業機の着脱に使用する。28はPTOスイッチで、押して右に回すとPTOクラッチが入り、入った状態で押すと自動で左に回りPTOクラッチが切れる。29はPTO自動スイッチで、左に回すと手動になりPTOクラッチを入れるとPTO軸が常時回転し、右に回すと自動になり走行クラッチを踏んだり三点リンクを上げたりすると回転が止まる。このPTO自動スイッチ29は、主に水田作業時に利用する。
【0024】
30はデフロックスイッチで、外側へ一度押すとデフロックになりもう一度外へ押すとデフロック解除になる。内側には押せなく、外側へ押す度に切り換わる。
31は作業機昇降レバーで、前側が下降で後側が上昇になる。32は作業機昇降スイッチで、後側を1回押すことで前記上げ調整ダイアル24で設定した最上位置に上昇し、前側を1回押すと作業機昇降レバー31で設定した位置まで下降する。
【0025】
33は走行変速上昇スイッチ、34は走行変速降下スイッチで、始動変速段を設定するスイッチで、走行変速上昇スイッチ33を1回押す毎に始動変速段をシフトアップし、走行変速降下スイッチ34を1回押す毎に始動変速段をシフトダウンする。この走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34は、前記副変速レバー18を路上走行にした場合にも同様に副変速が高速で主変速が3速を基準にして始動変速段を上下に変更する。
【0026】
36はスイッチボックスで、蓋を開けると、図3の各種調整スイッチを配置している。
図3のスイッチボックス36内で、37は作業機の上昇・降下モニターランプで、作業機の昇降時に点灯して表示するようにしている。38はATシフト感度ダイアルで、ATシフト作業スイッチ42を押して自動変速にした場合に、車速を増減速する感度を変更するダイアルである。
【0027】
39は作業機の降下速度を調整する降下速度ダイアルで、右に回すと作業機が速く降下するので軽い作業機の場合に使用し、逆に左に回すと作業機がゆっくりと降下するので重い作業機の場合に使用する。
【0028】
40は走行ブレーキ調整ダイアルで、オートブレーキ入切スイッチ48の入時に作用する旋回ブレーキのかかり具合を調整する。
ATシフト路上スイッチ41は、路上走行時すなわち副変速が高速での主変速を自動変速し、ATシフト作業スイッチ42は、作業走行時すなわち副変速が中・低速での主変速を自動変速し、入にすると、副変速レバー18の変速位置に応じて主変速を前回に最も長く使用した変速段へ自動的に変速し、切にすると、副変速レバー18の変速位置に応じて任意に設定する主変速の変速段に変速するようになる。
【0029】
43は主変速の接続感度変速スイッチで、主変速を変速した時の接続フィーリングを変更し、入でモニタが点灯し緩やかな変速をし、切でモニタが消灯し急接続する。この接続感度変速スイッチ43を切にしてプラウ等の牽引系の作業をすると、主変速の変速接続時間が短くなって軽快に作業を行える。
【0030】
44は接続感度PTOスイッチで、ロータリ、牧草1、牧草2があり、ロータリにするとPTOのつながりが速くなり、ロータリが直ぐには土の抵抗に負けない回転力で回るようになり、牧草1或いは牧草2にするとPTOのつながりが緩やかになって、牧草作業機やスノーブロワーなどで使用する。
【0031】
45は水平感度スイッチで、作業機の自動水平制御装置の動作感度が変わり、スイッチを押すと自動水平制御の動きが遅くなり、再びスイッチを押すと元に戻る。
46はバックアップ入切スイッチで、入にすると後進時に作業機が自動で上昇する。47はオートリフト入切スイッチで、入にしてハンドルを回すと自動で作業機が上昇する。48はオートブレーキ入切スイッチで、入にしてハンドルを回すと自動で旋回内側の後輪のみにブレーキがかかる。
【0032】
49は水平切換スイッチで、自動水平にすると水平センサで自動的に作業機の水平を保持し、手動にすると傾き調整ダイアル25で調整が可能になり、平行にするとトラクタ本体に対して三点リンクを常に平行に維持し、傾斜にすると地面に対して三点リンクを一定の傾斜角に保持する。
【0033】
50は3P切換スイッチで、三点リンクへのリフトシリンダ取付位置による制御切換選択を行う。
51はオートアクセルスイッチで、入りにした状態で作業機を上昇するとエンジンの回転数が1700rpmまで低下する。
【0034】
図4は、駆動力の伝動機構を示す線図で、エンジン2から前輪4と後輪5への動力伝動構成を説明する。
エンジン2の出力軸に直結した入力軸110には、第一ギヤ111を固着し、前後進切換クラッチ101を装着している。
【0035】
前後進切換クラッチ101の一方の第二ギヤ112は第一変速軸113に固着した第三ギヤ114に噛み合って減速し、前後進切換クラッチ101の他方の第四ギヤ115はカウンタギヤ117を介して第一変速軸113に固着した第五ギヤ118に噛み合って逆転で動力を伝動している。すなわち、前後進切換クラッチ101を第二ギヤ112側に入れる(繋ぐ)と入力軸110の回転が逆方向回転で第一変速軸113に伝動され、第四ギヤ115側に入れると入力軸110の回転が順方向回転で第一変速軸113に伝動され、第二ギヤ112と第四ギヤ115の両方から離れたニュートラル状態が動力伝動を断ったメインクラッチ切状態で、油圧バルブの制御によってこのメインクラッチ切状態を保持出来るようにしている。すなわち、自動制御或は前後進レバー9によって作動する前後進切換クラッチ101がメインクラッチとして機能している。
【0036】
前記第一変速軸113には前後進切換クラッチ101の伝動下手側に、一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103を装着している。すなわち、この一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103が本発明の多段ギヤ変速クラッチとして機能し、走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34によって変速操作する。
【0037】
第一変速クラッチ102の第一クラッチギヤ120と第二クラッチギヤ122は第二カウンタ軸119に固着した第三クラッチギヤ121と第四クラッチギヤ123に噛み合い、一速用に減速したり三速用に少し増速したりして第一変速軸113の回転を第二カウンタ軸119に伝動している。さらに、第二変速クラッチ103の第五クラッチギヤ124と第六クラッチギヤ126は第二カウンタ軸119に固着した第七クラッチギヤ125と第八クラッチギヤ127に噛み合い、二速用に少し増速したり四速用に大きく増速したりして第一変速軸113の回転を第二カウンタ軸119に伝動している。
【0038】
本発明で、二重噛み状態とは、例えば、一速/三速切換用第一変速クラッチ102を一速に入れ同時に二速/四速切換用第二変速クラッチ103を二速に入れた状態で、第二カウンタ軸119の回転が完全にロックされて回転が先に伝動されなくなる状態、走行系コントローラ87によって、後述する動作条件で制御される。
【0039】
第二カウンタ軸119の伝動下手側に第三カウンタ軸129をカップリング128で連結して回転をそのままで伝動している。この第三カウンタ軸129には小ギヤ130と大ギヤ131を固着している。この小ギヤ130と大ギヤ131は第二変速軸132に装着した高・低速切換クラッチ107のクラッチ大ギヤ133とクラッチ小ギヤ134にそれぞれ噛み合い、第三カウンタ軸129の回転を高速或いは低速で第二変速軸132に伝動している。自動制御或は高・低変速レバー109によって変速操作される高・低速切換クラッチ107が本発明のサブクラッチとして機能する。
【0040】
第二変速軸132の伝動下手側端部に第六ギヤ136を固着し、この第六ギヤ136と第三駆動軸143に回動可能に軸支した大小ギヤ152の大ギヤ部138を噛み合わせて減速伝動している。
【0041】
大小ギヤ152の小ギヤ部139は、ベベルギヤ軸142に軸支した二連副変速クラッチ135の第七ギヤ137に噛み合わせて減速伝動している。さらに、第七ギヤ137と一体に設けた第八ギヤ141を第五カウンタ軸216に固着した第二大ギヤ144に噛み合わせて減速伝動している。
【0042】
第五カウンタ軸216にはさらに第二小ギヤ145が固着され、この第二小ギヤ145がベベルギヤ軸142の第三大ギヤ140と噛み合ってさらに減速伝動されている。従って、第二変速軸132の回転は第六ギヤ136→大ギヤ部138→小ギヤ部139→第七ギヤ137→第八ギヤ141→第二大ギヤ144→第二小ギヤ145→第三大ギヤ140と順次減速されながら伝動されていく。
【0043】
副変速レバー18で操作される二連副変速クラッチ135の第一シフター217と第二シフター218はベベルギヤ軸142へ軸方向にスライド可能に係合していて、第一シフター217を第七ギヤ137側へスライドして係合すると第七ギヤ137の回転がベベルギヤ軸142に伝わり、第二シフター218が第八ギヤ141側へスライドして係合すると第八ギヤ141の回転がベベルギヤ軸142に伝わって、順次減速されてベベルギヤ軸142が低速で回転することになる。
【0044】
ベベルギヤ軸142の回転は第一ベベルギヤ148と第二ベベルギヤ149を経てデフギヤ219に伝動され、デフギヤ219から車軸150と遊星ギヤ151を経て後輪5へ伝動される。
【0045】
以上の説明を要約すると、入力軸110の回転は、まず前後進切換クラッチ101で正転或いは逆転に切り替えられ、一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103で一速から四速まで4段に変速され、高・低速切換クラッチ107で高速と低速の2段に変速され、さらに二連副変速クラッチ135で高・中・低速の3段に変速されて、ベベルギヤ軸142に伝動される。すなわち、入力軸110の回転が4×2×3=24段に変速されて車軸150へ伝動されるのである。
【0046】
前輪4への駆動力伝動は、ベベルギヤ軸142に第九ギヤ147を固着し、この第九ギヤ147を中継ギヤ190に噛み合わせさらに第三駆動軸143に固着した第十ギヤ146に噛み合わせて第三駆動軸143を駆動する。第三駆動軸143を第二カップリング170で前輪増速クラッチ163を装着した変速軸160に連結している。前輪増速クラッチ163の第十一ギヤ167と第十二ギヤ168は第七カウンタ軸164に固着した第十三ギヤ165と第十四ギヤ166に噛み合わせて、通常の前輪駆動から前輪増速に切り替えるようにしている。なお、前輪増速クラッチ163を中立にすると、前輪4の駆動が断たれて後輪のみの駆動になる。
【0047】
第七カウンタ軸164は第三カップリング191で前輪駆動軸169に連結し、さらに、第四カップリング192と延長軸194及び第五カップリング193で前輪駆動ベベル軸171に連結している。
【0048】
前輪駆動ベベル軸171の動力は、前第一ベベルギヤ172、前第二ベベルギヤ173、前デフギヤ174、前第三ベベルギヤ175、前第四ベベルギヤ176、垂直軸177、前第五ベベルギヤ178、前第六ベベルギヤ179、前遊星ギヤ180を経て前輪4を駆動している。
【0049】
次に、図5の制御ブロック図で、制御信号の流れを説明する。
まず、エンジンコントローラ60には、エンジン排気温度センサ61から排気の温度が入り、エンジン回転センサ62からエンジン回転数が入り、エンジンオイル圧力センサ63からエンジン潤滑オイルの圧力が入り、エンジン水温センサ64から冷却水の温度が入り、レール圧センサ55からコモンレールの圧力が入り、燃料高圧ポンプ66に駆動信号が出力され、高圧インジェクタ65に燃料供給調整制御信号が出力される。
【0050】
次に、作業機昇降コントローラ67には、作業機昇降レバー31に設ける作業機昇降センサ59の操作信号とリフトアームセンサ68の昇降信号と上げ調整ダイアル24の上げ位置規制信号と降下速度ダイアル39の降下速度設定信号がそれぞれ入力し、メイン上昇ソレノイド69とメイン下降ソレノイド70に作業機昇降信号が出力し作業機昇降シリンダ71を作動する。
【0051】
前記エンジンコントローラ60と作業機昇降コントローラ67及び後述する走行系コントローラ87は制御信号が交信されて、メータパネル72にエンジンの状態や作業機の昇降状態や走行装置の走行速度等が表示され、操作パネル73に各レバーやペダルの操作位置等が表示される。
【0052】
走行系コントローラ87は、変速1クラッチ圧力センサ74と変速2クラッチ圧力センサ75と変速3クラッチ圧力センサ76と変速4クラッチ圧力センサ77からクラッチ入信号即ち多段ギヤ変速装置Cの変速段が入力し、高速クラッチ圧力センサ78と低速クラッチ圧力センサ79からサブクラッチDの変速位置が入力し、前進クラッチ圧力センサ80と後進クラッチ圧力センサ81からメインクラッチBの前進・中立・後進が入力し、前後進レバー操作位置センサ82と副変速レバー操作位置センサ83から変速操作位置信号が入力し、ミッションオイル油温センサ85からミッションオイルの温度が入力し、ブレーキペダル操作位置センサ86からブレーキペダルの踏込み信号が入力し、アクセルモード指定切換スイッチ84からモード切換信号が入力し、前輪切れ角センサ100から前輪4の旋回角が入力し、前輪駆動切換スイッチ106から前輪駆動の入・切信号が入力し、後輪駆動軸回転センサ104と前輪駆動軸回転センサ105から回転速度が入力し、走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34から設定変速段信号が入力し、アクセル上限変更スイッチ52とアクセル下限変更スイッチ53からエンジンの上・下限回転数が入力し、スロットルレバー15のアクセルセンサ54からアクセル指示信号が入力し、チェックスイッチ99からチェック信号が入力する。
【0053】
さらに、走行系コントローラ87には、ATシフト路上スイッチ41とATシフト作業スイッチ42からオン・オフ信号が入力する。
走行系コントローラ87からの出力は、前後進切換ソレノイド88に前後進切換クラッチ101の切換信号が出力し、リニア昇圧ソレノイド89に前後進切換ソレノイド88を駆動する油圧のリリーフ圧調整信号が出力してクラッチ接続のショックを低減し、クラッチソレノイド90に入・切信号が出力し、一速/三速切換用第一変速クラッチ102を駆動する油圧シリンダの変速1−3切換ソレノイド91に一速或いは三速の入信号が出力し、変速1−3昇圧ソレノイド92に一速/三速クラッチを駆動する油圧のリリーフ圧調整信号が出力してクラッチ接続のショックを低減し、二速/四速切換用第二変速クラッチ103を駆動する油圧シリンダの変速2−4切換ソレノイド93に二速或いは四速の入信号が出力し、変速2−4昇圧ソレノイド94に二速/四速クラッチを駆動する油圧のリリーフ圧調整信号が出力してクラッチ接続のショックを低減し、高・低速切換クラッチ107を駆動する油圧シリンダを作動する高速クラッチ切換ソレノイド95と低速クラッチ切換ソレノイド96に高速クラッチの入信号及び低速クラッチの入信号が出力する。
【0054】
さらに、走行系コントローラ87から前輪増速クラッチ163を駆動する油圧シリンダの前輪増速4WDソレノイド97と前輪等速4WDソレノイド98へ前輪駆動切換クラッチの切換信号が出力される。
【0055】
図6に多段ギヤ変速装置Cを二重噛みさせて伝動軸の回転を自動的に制動する制御のフローチャートを示す。
前後進レバー9を中立にしてメインクラッチBを切る操作をする(S1)と、まず走行速度が所定速度G(0.5km/h)以下かを判定し(S2)、以上であれば、メインクラッチBを切り(S6)、6秒のタイムカウントを行い(S7)、ステップS10に移行する。
走行速度が所定速度G以下であれば、次に変速位置が所定変速段F(中速の四段(多二連副変速クラッチ135が中速でサブクラッチDが低速で多段ギヤ変速装置Cが四速の状態))より低速側であるかを判定し(S3)、低速側であれば、メインクラッチBを切り(S4)、主変速クラッチCを二重噛みさせて(S5)、ステップS10に移行する。
【0056】
変速位置が所定変速段Fより高速側であれば、メインクラッチBを切り(S8)、ミッションケース3内のオイル温度が10℃以下であるかを判定(S9)し、以下であればステップS5に移行して主変速クラッチCを二重噛みさせ、以上であれば、ステップS10に移行する。
【0057】
ステップ10ではサブクラッチDを切り、再び走行速度が0.5km/h以下かを判定し(S11)、以下であれば、サブクラッチDを切り(S12)、走行を停止し(S13)S、リターンする。走行速度が0.5km/h以上であれば、サブクラッチDの切りを持続する。
【0058】
図7は、変速1クラッチ圧力センサ74や変速2クラッチ圧力センサ75等の圧力センサが検出する圧力値を補正するフローチャートとである。
まず、オイルの温度が30℃から70℃の範囲で補正モードスイッチを押したかの判定(S20)を行い、条件を満たしていれば、分解能DAに適宜のセット値aをセットしその圧力を理論圧力P0とする(S21)。
そして、この理論圧力P0を実圧力Pnと比較(S22)し、理論圧力P0と実圧力Pnが一致すれば補正値を0として(S27)、リターンする。
【0059】
理論圧力P0が実圧力Pnより小さければ補正値を−1として(S23)、分解能DAから−1減算して出力(S24)し、再度理論圧力P0を実圧力Pnと比較(S25)し、理論圧力P0と実圧力Pnが一致するまで補正を繰り返し、一致すればその分解能DAを補正値として(S26)リターンする。
【0060】
理論圧力P0が実圧力Pnより大きければ補正値を+1として(S28)、分解能DAを+1加算して出力(S29)し、再度理論圧力P0を実圧力Pnと比較(S30)し、理論圧力P0と実圧力Pnが一致するまで補正を繰り返し、一致すればその分解能DAを補正値として(S31)リターンする。
【0061】
図8は、油圧回路に用いられるリリーフ弁を示している。
ボデー本体153に一端から捻じ込むプラグ154と他端に捻じ込む調整ネジ159との間に、プラグ154の先端とスプリング座156で調圧ボール155を挟み、このスプリング座156を押圧するスプリング157を受けるスプリング押え158が設けられ、このスプリング押え158を受けボール186を介して調整ネジ159で受けている。スプリング157の内部にはスプリング座156とスプリング押え158でダンパ部185を形成している。
【0062】
プラグ154のオイル穴182は調圧ボール155に至る途中を小径の絞り穴183にすることで、オイルの流れを層流としてチャタリングの発生を防いでいる。
調圧ボール155をスプリング座156の穴部で受けているが、その穴部の入口端面184を穴方向へ傾斜したテーパ面とすることでオイルの流れによって調圧ボール155が浮き上がりやすくしている。
【0063】
受けボール186をスプリング押え158の穴部に嵌め込み、調整ネジ159側はV穴181で受けて、スプリング157の倒れを防ぎ受けボール186を安定化している。
スプリング座156とスプリング157とスプリング押え158は、ボデー本体153の孔に接触しないでスムースに動くような外径寸法としている。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施例トラクタの全体側面図である。
【図2】トラクタの操縦席周りの拡大斜視図である。
【図3】スイッチボックスの正面図である。
【図4】ミッションケースの動力伝動線図である。
【図5】制御のブロック図である。
【図6】制御のフローチャート図である。
【図7】圧力検出値の補正フローチャート図である。
【図8】リリーフ弁の断面図である。
【符号の説明】
【0065】
A 走行装置(前輪4と後輪5)
B メインクラッチ(前後進切換クラッチ101)
C 多段ギヤ変速装置(一速/三速切換用第一変速クラッチ102と二速/四速切換用第二変速クラッチ103)
D サブクラッチ(高・低速切換クラッチ107)
E 変速操作具(走行変速上昇スイッチ33と走行変速降下スイッチ34と副変速レバー18)
F 所定変速段(中速の四段)
G 所定速度(0.5km/h)
2 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(2)から走行装置(A)への動力伝動経路を順次メインクラッチ(B)、多段ギヤ変速装置(C)、サブクラッチ(D)で構成したトラクタの走行伝動装置において、変速操作具(E)の変速位置が所定変速段(F)以下のときにおいてメインクラッチ(B)を切ると、前記多段ギヤ変速装置(C)を二重噛み状態にすべく構成したことを特徴とするトラクタの走行伝動装置。
【請求項2】
前記走行装置(A)の走行速度を検出し、走行速度が所定速度(G)以上の場合には、変速操作具(E)の全ての変速位置でサブクラッチ(D)を切った際に多段ギヤ変速装置(C)を二重噛み状態にしないように構成したことを特徴とする請求項1に記載のトラクタの走行伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−106960(P2010−106960A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279546(P2008−279546)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】