説明

トルクロッド

【課題】連結ロッド30内で、二個の弾性ブッシュ10、20の相互間に、アクティブ制御の振動相殺手段40を配設してなるトルクロッド1において、大きな引張荷重もしくは圧縮荷重の作用や、シャフト41の熱膨張に起因する、振動相殺手段40への負荷を軽減して、常に有効な制振特性を発揮してなお、耐久性を向上させたトルクロッド1を提供する。
【解決手段】振動相殺手段40のシャフト41の各端部41a、41bを、連結ロッド30の、相互に対向する、弾性ブッシュへの隣接側壁32a、32bのそれぞれに取り付けるとともに、シャフト41のいずれか一端部41aの、連結ロッドへ30の取付け姿勢を、連結ロッド30に対して、シャフト41の中心軸線方向へ相対変位可能としてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動発生側および振動伝達側のそれぞれに取り付けられる二個の弾性ブッシュの相互を、連結ロッドで連結してなるトルクロッドに関し、とくに、二個の弾性ブッシュの相互間で連結ロッド内に、アクティブ制御の振動相殺手段を設けた場合に、トルクロッドに作用する大きな入力などに起因する、その振動相殺手段への負荷を軽減して、振動相殺手段を具えたトルクロッドの耐久性能を向上させる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクロッドには、特許文献1などに記載されたもののように、たとえば、エンジン側と車体側との間に配設された場合、車両の乗り心地性の向上の観点から、アイドリング時、定常走行時等の、エンジン自体の加振作用に基く比較的小さな振動に対しては低い剛性を発揮して、その入力振動の、車体側への伝達を抑制する一方で、車両の急激な加減速時の、エンジンに作用する駆動反力等の、エンジンへの大きな入力に対しては高い剛性を発揮して、エンジンの変位量を低減させるという背反する二つの機能が要求される。
【0003】
このような要求の下、特許文献2には、「前記ロッド本体における長手方向の中間部分に位置して壁部の一部が可撓性膜で構成されることにより容積変化が許容される平衡室を形成して、該平衡室に前記非圧縮性流体を充填すると共に、該平衡室を前記流体室に連通せしめるオリフィス通路を形成して、且つ、該オリフィス通路の少なくとも一部が該ロッド本体内部のスペースを利用して形成されるようにした流体封入式の防振連結ロッド」が提案されており、この「防振連結ロッド」によれば、「振動入力時には、この平衡室と、ゴムブッシュの内部に形成された流体室との間で、オリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられて、かかる流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果が発揮されることとなる」としている。
【0004】
しかるに、特許文献2に記載された「防振連結ロッド」は、振動の入力時に、平衡室および流体室の内部に封入した非圧縮性液体を、それらの両液室の相互を連通するオリフィス通路内で流動させることにより、液柱共振、流動抵抗等に基いて、入力振動を減衰させるものであることから、入力振動の振幅の大小や、周波数の高低によっては、振動を十分に減衰させることができないことがあり、とくに高い周波数の振動が入力されると、オリフィス通路内で非圧縮性液体のいわゆる目詰まり状態が生じて所望の防振および振動減衰機能を発揮できなくなり、それ故に、この「防振連結ロッド」は、エンジンの回転数や車両の走行条件等による種々の入力振動の抑制が求められるエンジンマウントとして用いるには適さない場合があった。
【0005】
そこで、出願人は、たとえば図9に縦断面図で例示するトルクロッド100、すなわち、ばね定数の大きさが互いに異なる二種類の弾性ブッシュ110、120の相互を、連結ロッド130で連結したトルクロッド100によって、エンジンを車体側に連結してなるエンジンマウントシステムであって、前記トルクロッド100の連結ロッド130内に、二種類のそれぞれの弾性ブッシュ方向に延びるシャフト141の周りで、マス部材142を往復動させるアクティブ制御の振動相殺手段140を設け、二種類の弾性ブッシュ110、120のうち、ばね定数が小さい弾性ブッシュ120をエンジン側部材に取り付けるとともに、ばね定数が大きい弾性ブッシュ110を車体側部材に取り付けてなるものを提案した。
【0006】
このエンジンマウントシステムで用いたトルクロッド100によれば、振動相殺手段140のマス部材142の振動の、たとえば、トルクロッド100の外部に設けた、図示しない制御手段によって振幅および周波数をコントロールしつつ、前記マス部材142を、エンジン側からの、トルクロッド100の軸線C方向の入力振動と逆位相で往復変位させることにより、二つの弾性ブッシュ110、120では吸収しきれない振動部分を吸収することができるので、エンジン側からの、振幅の大小および周波数の高低の様々な入力振動に対して有効な制振特性を発揮して、エンジン側の振動の、車体側への伝達を効果的に防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−188575号公報
【特許文献2】特許第4241478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のトルクロッド100では、配置スペースの効率化、ならびに、振動相殺手段140による、トルクロッド100の軸線C方向の有効な制振特性の発揮などの観点から、振動相殺手段140を、連結ロッド130内で二個の弾性ブッシュ110、120の相互間に配設するとともに、振動相殺手段140のシャフト141の各端部141a、141bを、連結ロッド130の、相互に対向する、弾性ブッシュ110、120への隣接側壁131a、131bに取り付けることが望ましい。
【0009】
この場合において、シャフト141の両端部141a、141bをともに連結ロッド130内で固定すると、車両の急激な加減速時の、トルクロッド100の軸線方向への大きな引張荷重もしくは圧縮荷重、あるいは、連結ロッド130とシャフト141との熱膨張率の相違に起因する、振動相殺手段140への負荷に基き、それの加振応答性が低下するなどのおそれがあった。
【0010】
一方、図示は省略するが、振動相殺手段のシャフトの一端を、連結ロッドの前記対向側壁の一方に取り付けるのに対し、他端を、対向側壁の他方に取り付けない片持ち支持構造とした場合には、上述したような、振動相殺手段への負荷は生じないものの、振動相殺手段が、シャフトの一端のみで連結ロッドに支持されることから、マス部材の、トルクロッドの軸線方向への往復運動の際に、たとえば、振動相殺手段に、トルクロッドの軸線方向と直交する方向への、いわゆる首振り動作が生じることがあり、振動相殺手段による適正な制振機能を発揮させ得なくなるという問題があった。
【0011】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、連結ロッド内で、二個の弾性ブッシュの相互間に、アクティブ制御の振動相殺手段を配設してなるトルクロッドにおいて、大きな引張荷重もしくは圧縮荷重の作用や、シャフトの熱膨張に起因する、振動相殺手段への負荷を軽減して、常に有効な制振特性を発揮してなお、耐久性を向上させたトルクロッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のトルクロッドは、振動発生側および振動伝達側のそれぞれに取り付けられる二個の弾性ブッシュの相互を、連結ロッドで連結してなるものであって、二個の弾性ブッシュの相互間で連結ロッド内に、それぞれの弾性ブッシュの方向に延びるシャフトの周りで、マス部材を往復動させるアクティブ制御の振動相殺手段を設け、振動相殺手段の前記シャフトの各端部を、連結ロッドの、相互に対向する、弾性ブッシュへの隣接側壁のそれぞれに取り付けるとともに、シャフトのいずれか一端部の、連結ロッドへの取付け姿勢を、連結ロッドに対して、シャフトの中心軸線方向へ相対変位可能としてなるものである。
【0013】
ここで好ましくは、振動相殺手段のシャフトの一端部を、連結ロッドの前記隣接側壁に形成した孔の内側に挿入配置する。
この場合において、より好ましくは、振動相殺手段のシャフトの、前記相対変位可能とした一端部とは逆側の他端部を、前記振動伝達側の前記隣接側壁に圧入固定する。
【0014】
また好ましくは、振動相殺手段のシャフトの一端部と、連結ロッドの前記孔の内側との間に、薄ゴムを介装する。
【発明の効果】
【0015】
この発明のトルクロッドによれば、連結ロッド内に設けた振動相殺手段のシャフトの各端部を、連結ロッドの対向側壁のそれぞれに取付け、シャフトの一端部を、連結ロッドに対して、シャフトの中心軸線方向へ相対変位可能としたことにより、車両の急激な加減速時などに、トルクロッドに、引張り方向もしくは圧縮方向への大きな軸荷重が作用した際、および、熱膨脹率の相違に起因して、シャフトが、その周囲の連結ロッド部分と異なる量で伸縮した際に、シャフトの一端部を、それの中心軸線方向へ相対変位させることができ、これにより、シャフトへの入力を逃がすことができる。
この結果として、シャフトを具えた振動相殺手段への負荷が軽減されて、振動相殺手段の加振応答の低下などを有効に防止できるので、トルクロッドの耐久性能を向上させることができる。
【0016】
しかもこのトルクロッドでは、振動相殺手段のシャフトの両端部をともに、連結ロッドの側壁に、直接的ないしは間接的に取り付けたことから、振動相殺手段を作動させた際に、振動相殺手段が、たとえばシャフトの中心軸線と直交する方向に首振り作動することがないので、振動発生側からの、トルクロッドの軸線方向の入力振動に対して、常に有効な制振特性を発揮させることができる。
【0017】
ここにおいて、振動相殺手段のシャフトの一端部を、連結ロッドの前記隣接側壁に形成した孔の内側に挿入配置したときは、前記孔内で、シャフトの一端部の、トルクロッドの軸線方向と直交する方向への変位を十分に規制する一方で、シャフトの軸方向への荷重の作用に対しては、シャフトの一端部を、連結ロッドの前記孔内で、シャフトの中心軸線方向に摺動変位させることができるので、振動相殺手段への負荷を十分に軽減してなお、振動相殺手段の、上述したような首振り作動を一層効果的に防止することができる。
【0018】
そしてまた、振動相殺手段のシャフトの一端部と、連結ロッドの前記孔の内側との間に薄ゴムを介装したときは、シャフトに荷重が作用した際に、薄ゴムが、変形量が相対的に小さい、それ自身の圧縮変形下で、振動相殺手段の首振り作動を抑制するとともに、シャフトの中心軸線方向には相対的に大きく剪断変形して、シャフトへの荷重を効果的に逃がすことができる。
【0019】
このことに加えて、孔内に薄ゴムを介装する場合は、トルクロッドを製造するに当って、たとえば、連結ロッドの、弾性ブッシュへの隣接側壁に形成する孔を、その弾性ブッシュのゴム部材に到達するように貫通させることにより、弾性ブッシュのゴム部材を、連結ロッドの孔の内側まで一体的に配設できるので、リニアブッシュなどの他の別個の部材を、連結ロッドの孔の内側に取り付ける場合に比して、製造コストが低減されるとともに、製造が容易なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明のトルクロッドの一の実施の形態を示す平面図である。
【図2】振動相殺手段の、連結ロッドへの取付け姿勢を模式的に示す断面図である。
【図3】連結ロッドの一端側の取付け姿勢の変形例を示す拡大断面図である。
【図4】他の実施の形態のトルクロッドを示す、図2と同様の図である。
【図5】図1に示すトルクロッドの、中心軸線に含む縦断面図である。
【図6】さらに他の実施の形態のトルクロッドを示す部分断面斜視図である。
【図7】図6のトルクロッドの要部を拡大して示す部分断面斜視図である。
【図8】図6のトルクロッドにおいて、振動相殺手段の、連結ロッドへの組付け工程を示す斜視図である。
【図9】従来のトルクロッドについて示す、中心軸線に含む横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について説明する。
図1に例示するトルクロッド1は、図示のこの実施の形態では外径の大きさが相互に異なる大小二種類の弾性ブッシュ10、20と、これらの弾性ブッシュ10、20の相互を連結する連結ロッド30と、連結ロッド30内で、弾性ブッシュ10、20の相互間に配置したアクティブ制御の振動相殺手段40とを具える。
【0022】
ここで、振動相殺手段40は、それぞれの弾性ブッシュ10、20の方向に延びるシャフト41の周りで、シャフト41に連結したマス部材42を往復動させるものである。この振動相殺手段40を連結ロッド30に配設するには、図に示すように、シャフト41の各端部41a、41bを、たとえば連結ロッド30に設けた直方体状の窪み31の、相互に対向する、弾性ブッシュ10、20への隣接側壁32a、32bのそれぞれに取り付ける。
【0023】
シャフト41へのこの取付けは、図2に拡大断面図で例示するように、振動相殺手段40のシャフト41の一端部41aを、連結ロッド30の隣接側壁32aに形成した孔33の内側に挿入配置するとともに、シャフト41の一端部41aと、孔33の内面との間に、薄ゴム34を介装する。
これにより、トルクロッド1に、引張り方向および圧縮方向の軸線方向荷重が作用した場合などに、主には、薄ゴム34の、図の上下方向の剪断変形に基き、シャフト41が、連結ロッド30に対して、シャフト41の中心軸線方向に相対変位することになるので、振動相殺手段40への入力を十分に低減させることができる。
【0024】
ここで、シャフト41の、連結ロッド30への取付けに当っては、シャフト41の一端部41aが、連結ロッド30に対して、シャフト41の中心軸線方向へ相対変位可能であればよく、それ故に、たとえば、図3に、シャフト41の一端部41aと側壁32aとの取付け部分を拡大して例示するような、様々な取付けが可能である。
【0025】
図3(a)に示すものは、側壁32aの孔33の内面に薄ゴム34を介装せずに、シャフト41を、孔33の内側に直接的に摺接させて挿入したものであり、荷重の作用時に、シャフト41が孔33内で摺動変位することにより、力を逃がすことができる。
また、図3(b)に示すものは、側壁32aの孔33の内側に、詳細は図示しないが、内部に複数のボールを封入してなるリニアブッシュ35を取付け、このリニアブッシュ35を介して、シャフト41を挿入配置したものである。
【0026】
また、図3(c)に示す取付け構造は、側壁32aに取り付けた別個の部材36に孔33を形成し、この孔33内にシャフト41の一端部41aを挿入配置したものであり、さらに、図3(d)に示すものは、側壁32aに形成した突出部と、シャフト41の一端部41aとの双方を、筒状部材37で包み込んでそれらを連結し、シャフト41の一端部41aを相対変位可能としたものである。
【0027】
一方、シャフト41の他端部41bは、振動相殺手段40により、トルクロッド1の軸線C方向の入力振動を有効に相殺させるとの観点からは、連結ロッド30の側壁32aに対向する側壁32bに強固に固定することもできるが、図4に示すように、シャフト41の他端部41bを、剛性部材およびゴム部材を積層させてなる積層弾性体38を介して、側壁32bに取り付けることも可能である。
【0028】
なおここで、振動相殺手段40は、たとえば、図5に縦断面図で例示するようなリニア可動型アクチュエータとすることができる。
すなわち、図5に示すアクチュエータ40では、シャフト41の周りに、たとえば、角筒形状が直方体状をなす筒状マス部材42を配置し、このマス部材42の、弾性ブッシュ20側の端部を、それの全周にわたって、たとえば板バネ等の、薄肉板状の連結部材43で、シャフト41に連結固定する。
さらに、筒状のマス部材42の内周面に、シャフト41を隔てて位置する、互いに隣り合う各一対の永久磁石44を、相互に逆極性とした配置状態で取り付ける。
この一方で、シャフト41には、コイル45および巻芯46を、前記永久磁石44から所定の間隔をおいて配設し、コイル45に、トルクロッド1の外部の、図示しない制御手段からの通電のためのリード線47の一端を連結する。
なお、リニア可動型アクチュエータ40をトルクロッド1に配設して使用に供する場合には、図示しない蓋部材で、連結ロッド30の、たとえば直方体状の窪み31を覆うことが好ましい。
【0029】
またここで、弾性ブッシュ10、20はそれぞれ、金属材料等の剛性材料からなる外筒11、21の内側に、これもまた剛性材料からなる各内筒12、22を、たとえば、内外筒同心に配設するとともに、外筒11、21の内周面と、内筒12、22の外周面とをゴム部材13、23で連結してなるものである。
ここにおいて、弾性ブッシュ10と20は、図に示すところでは、外筒11、21および内筒12、22の径の大きさが互いに相違するものとしたが、これらを同じ大きさとしてもよい。
【0030】
なお、図示のこの実施の形態では、大径の弾性ブッシュ20のゴム部材23に、図5に示すように、トルクロッド1の中心軸線方向で内筒22を隔てて、平面視で略M字状の空所24および、略弓形状の空所25のそれぞれを、弾性ブッシュ20の軸線方向に貫通させて設けるとともに、略弓形状の空所25と外筒21との間に、円形輪郭形状の三つの空所26を、同様に貫通させて設けるものとした。
【0031】
図6は、さらに他の実施形態のトルクロッド1aを、両弾性ブッシュのそれぞれのゴム部材および内筒を配設する前の姿勢で示す部分断面斜視図である。なお、図は、振動相殺手段40の内部の構造を省略したものである。
図示のこのトルクロッド1aは、ばね定数の小さい弾性ブッシュが形成されることになる大径の外筒21の内周面から、窪み31まで貫通する孔33a、および、ばね定数の大きい弾性ブッシュが形成されることになる小径の外筒11の内周面から、窪み31まで貫通する孔33bのそれぞれを、連結ロッド30の中心軸線上に設け、これらの両貫通孔33a、33bに、振動相殺手段40に貫通するシャフト51を挿入配置して、振動相殺手段40を連結ロッド30に取り付けてなる。
【0032】
ここで、シャフト51は、図7に拡大図で示すように、大径の弾性ブッシュ側の端部に位置するフランジ状部分51aと、それ以外の部分を形成する細長い棒状のピン部分51bとを有してなるものであり、フランジ状部分51aの先端の、径を幾分小さくした領域に、たとえば、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンもしくはポリプロピレン等からなる円環状の樹脂部材52を配設するとともに、ピン部分51bの、フランジ状部分51a側の領域を、段差51cを介して拡径させてなる。
【0033】
そして、このトルクロッド1aでは、シャフト51のフランジ状部分51aに設けた樹脂部材52を、連結ロッド30の貫通孔33aに嵌め合わせて、シャフト51の、大径の弾性ブッシュ側の端部を、連結ロッド30に対して軸線方向に摺動可能とする一方で、シャフトのピン部分51bの小径先端領域は、連結ロッド30の貫通孔33bの周面に強固に摩擦係合または圧入固定させ、また、シャフト51のピン部分51bの、フランジ状端部51aと段差51cとの間に位置する拡径領域は、振動相殺手段40の筒体53に強固に摩擦係合させる。
なおここで、シャフト51を内側に受け入れる、振動相殺手段40の筒体53の内周面は、図7に示すように、シャフトの段差51cよりも、ピン部分51bの先端側の位置で、段差53aを介して小径とすることができ、このことにより、シャフト51の拡径領域と、筒体53の小径領域の二箇所で、シャフト51を、筒体53に摩擦係合させることができるので、振動相殺手段40の筒体53内での、シャフト51のいわゆる首振り動作が有効に防止されることになる。
【0034】
なお、シャフト51の、大径の弾性ブッシュ側の端部と、貫通孔33aの周面との密着性を高めて、首振り動作を防止するとともに、その端部の、貫通孔33aの周面に対する摺動を良好なものとするため、図7に示すように、樹脂部材52との接触域を除く、フランジ状部分51aの外周面を、ピン部分51b側に向けて次第に径が小さくなるテーパ状として、樹脂部材52のみを、貫通孔33aの周面に摺接させることが好ましい。
【0035】
このような、振動相殺手段40の、連結ロッド30への取付け構造によれば、シャフト51のフランジ状部分51aに設けた樹脂部材52を、貫通孔33a内で、小さな摩擦力の作用下で摺動変位させることができるので、車両の急激な加減速時に、トルクロッド1aに大きな軸荷重が作用した際や、シャフト51が熱膨張した際の、振動相殺手段40への負荷を有効に軽減することができる。
しかも、シャフト51のピン部分51bの拡径領域を、振動相殺手段40の筒体53に強固に摩擦係合させるとともに、フランジ状部分51aの底面を、振動相殺手段40の筒体53に当接させたことによって、振動相殺手段40の、シャフト51に対する相対変位が効果的に防止されることになり、また、ピン部分51bの小径先端領域で、振動相殺手段40が連結ロッド30に強固に固定されるので、振動相殺手段40が発生させる相殺駆動力を、常に安定して連結ロッド30に与えることができ、この結果として、振動相殺手段40による制振特性の低下を招くことなしに、エンジン側からの振動の、車体への伝達をより一層効果的に防止することができる。
そして、図示のトルクロッド1aでは、とくに、シャフト51の、連結ロッド30への固定位置を振動発生側ではなく振動伝達側としたので、連結ロッド30の変形の小さい側にシャフト51を固定することができ、連結ロッド30の変形による圧入力の低下を抑制しつつ確実に締結することができる。
【0036】
ところで、図6に示すトルクロッド1aを構成するに当って、振動相殺手段40を連結ロッド30に取り付ける場合は、たとえば、はじめに図8(a)に示すように、弾性ブッシュのゴム部材および内筒を配設する前に、直方体状の窪み31の、連結ロッド30の側面に設けた開口部分から、シャフトを取り付けていない状態の振動相殺手段40を挿入する。
このとき、連結ロッドに設けた、大径の弾性ブッシュ側の貫通孔33aおよび、小径の弾性ブッシュ側の貫通孔33b、ならびに、振動相殺手段40の筒体53の中心軸線のそれぞれが、連結ロッド30の中心軸線上に整列するように、振動相殺手段40を配置する。
【0037】
しかる後、図8(b)、(c)に示すように、連結ロッド30に形成した、大径の弾性ブッシュ側の貫通孔33aから、振動相殺手段40の筒体53の内側を経て、連結ロッド30の、小径の弾性ブッシュ側の貫通孔33bに到るまで、シャフト51を圧入し、シャフト51のピン部分51bを、連結ロッド30の貫通孔33bに摩擦係合または圧入固定させるとともに、ピン部分51bの拡径領域を、振動相殺手段40の筒体53の内周面に摩擦係合させて、シャフト51を、連結ロッド30および振動相殺手段40のそれぞれに強固に固定する。
ここで、このトルクロッド1aでは、外筒21の、シャフトの延長線上となる位置に開口部21aを設けたことから、シャフト51を貫通孔33bに摩擦係合または圧入固定するための圧入用治具を、その開口部21aから挿入することができるようになっている。
【0038】
なお好ましくは、図7に示すように、樹脂部材52の、大径ブッシュ側の端面に、振動相殺手段40側に向いて延びる環状窪み52aを形成する。
このことによれば、樹脂部材52の、内周側への変形が容易となって、シャフト51を、連結ロッド30に取り付けるに際して、樹脂部材52を、貫通孔33a内に、大きな圧入力を要することなしに挿入配置できる他、トルクロッド1aに大きな軸荷重が作用した際の、フランジ状部分51aと貫通孔33aとの間に挟まれる樹脂部材52の剪断変形を抑制することができる。
ところで、シャフト51に樹脂部材52を設けることは、たとえば、振動相殺手段40を窪み31に収納した後に蓋をすることにより、振動相殺手段40の周りを密閉して、振動相殺手段40等の耐久性を向上させようとした場合に、密閉した窪み31の内部に、水あるいは粉塵等がシャフト51と貫通孔33aの隙間から侵入してしまうことを防止する効果をもたらす。
【符号の説明】
【0039】
1、1a トルクロッド
10、20 弾性ブッシュ
11、21 外筒
21a 開口部
12、22 内筒
13、23 ゴム部材
24、25、26 空所
30 連結ロッド
31 窪み
32a、32b 隣接側壁
33 孔
34 薄ゴム
35 リニアブッシュ
36 別個の部材
37 筒状部材
38 積層体
40 アクティブ制御の振動相殺手段
41、51 シャフト
42 筒状のマス部材
43 連結部材
44 永久磁石
45 コイル
46 巻芯
47 リード線
52 樹脂部材
52a 環状窪み
53 筒体
53a 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生側および振動伝達側のそれぞれに取り付けられる二個の弾性ブッシュの相互を、連結ロッドで連結してなるトルクロッドにおいて、
二個の弾性ブッシュの相互間で連結ロッド内に、それぞれの弾性ブッシュの方向に延びるシャフトの周りで、マス部材を往復動させるアクティブ制御の振動相殺手段を設け、
振動相殺手段の前記シャフトの各端部を、連結ロッドの、相互に対向する、弾性ブッシュへの隣接側壁のそれぞれに取り付けるとともに、シャフトのいずれか一端部の、連結ロッドへの取付け姿勢を、連結ロッドに対して、シャフトの中心軸線方向へ相対変位可能としてなるトルクロッド。
【請求項2】
振動相殺手段のシャフトの一端部を、連結ロッドの前記隣接側壁に形成した孔の内側に挿入配置してなる請求項1に記載のトルクロッド。
【請求項3】
振動相殺手段のシャフトの、前記相対変位可能とした一端部と反対側の一端である他端部が、前記振動伝達側の前記隣接側壁に圧入固定される請求項2に記載のトルクロッド。
【請求項4】
振動相殺手段のシャフトの一端部と、連結ロッドの前記孔の内側との間に、薄ゴムを介装してなる請求項2もしくは3に記載のトルクロッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−42023(P2012−42023A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185729(P2010−185729)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】