説明

ナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法及びナノ結晶シリコン薄膜、並びに該薄膜を成膜する成膜装置

【課題】 ナノ結晶シリコン薄膜において、成膜初期におけるインキュベーション層の生成を抑制し、成膜初期から結晶性の良い膜を得ることができる成膜方法と、該成膜方法により得られるナノ結晶シリコン薄膜、並びに該薄膜を成膜する成膜装置を提供すること。
【解決手段】 基板上にナノ結晶シリコン薄膜を形成する成膜方法であって、該薄膜は少なくとも水素ガス及びシラン系ガスを原料としてプラズマ化学気相成長法により成膜され、成膜室内が減圧されるとともに前記基板にパルスバイアスが印加されることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高結晶性ナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法と、該成膜方法により得られるナノ結晶シリコン薄膜、並びに該薄膜を成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、大面積液晶ディスプレイのスイッチング素子として、非晶質シリコンを利用した薄膜トランジスタ(以下、TFTと示す)が用いられている。また、中小型の液晶ディスプレイのスイッチング素子としては、多結晶シリコンを利用したTFTが用いられている。
非晶質シリコンを利用したTFTは大面積化が可能であるが、電子移動度が0.5cm/V・sec未満と小さい。
これに対して、多結晶シリコンを利用したTFTは電子移動度が100cm/V・secと高いが、大面積化が容易ではない。
【0003】
非晶質シリコン、多結晶シリコン夫々が上記した課題を有するため、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)やスーパーハイビジョン液晶等の次世代大画面ディスプレイの駆動素子に適用することは困難である。
【0004】
上記した大面積化と電子移動度との両立における課題を解決するために、ナノ結晶(微結晶)シリコンについて多く検討がなされている。
しかしながら、TFTに用いられる薄膜の膜厚は50nm以下と非常に薄いため、特に成膜初期において結晶性の良い膜を得ることが困難であった。
即ち、図7に示すように、成膜初期においてナノ結晶と非晶質の混在するインキュベーション層(A)が形成され、その後に結晶層(B)が形成される。
【0005】
非晶質シリコンを用いたTFTにおいては、半導体層の下方にゲート電極が形成されるボトムゲート構造が一般的である。
このボトムゲート構造を、ナノ結晶シリコンを用いたTFTに適用しようとすると、成膜初期に生成する層、即ち上記したインキュベーション層(A)がTFTのチャネルとして機能し、成膜初期層の結晶性が電子移動度の制限要因となる。
【0006】
ナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法として、高密度プラズマを用いた化学気相成長法(PCVD)が挙げられ、表面波励起プラズマを利用した成膜方法が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示される技術では、高結晶性のナノ結晶シリコンからなる大面積の薄膜を得ることができ、太陽電池の活性層に使用される薄膜とすることができる。
しかしながら、太陽電池の活性層の膜厚は、TFTの膜厚の40〜50倍であるため、この成膜方法をTFTに用いられる薄膜(膜厚が50nm以下)の形成に適用することは困難であった。
【0007】
ナノ結晶シリコン薄膜における成膜初期の結晶性改善を目的として、成膜前にゲート絶縁膜(基板)表面に水素プラズマ処理を施す技術が非特許文献1に開示されている。
非特許文献1の開示技術は、ゲート絶縁膜(基板)表面を水素終端処理するとともに、成膜室内壁のシリコンを水素によってエッチングしてゲート絶縁膜(基板)表面に化学輸送して結晶核形成させた後に、高い結晶性のシリコン結晶を成長させるものである。
しかしながら、成膜室内壁に形成されたシリコン薄膜の体積の影響を受けるため、確実に高結晶性のナノ結晶シリコン薄膜を得ることは困難であった。
【0008】
また、非特許文献2にはナノ結晶シリコン薄膜の成膜時に、基板にバイアスを印加してインキュベーション層を低減させる技術が開示されている。具体的には、成膜方法としてマイクロ波化学気相成長法を用い、成膜時に基板に負の直流バイアスを連続的に印加するものである。
しかし、基板に負の直流バイアスが印加される場合、プラズマ中の正イオンが連続的に成膜面に照射されるため、形成された膜が損傷を受け、加えて基板表面がチャージアップする虞があった。
【0009】
更に、ダイヤモンドライクカーボン薄膜の成膜において、成膜時に基板にパルスバイアスを印加することが非特許文献3に開示されている。
この技術を採用すると、ダイヤモンドライクカーボン薄膜の基板への密着性や薄膜の機械的強度を向上させることが可能である。
しかしながら、非特許文献3の開示技術はナノ結晶シリコン薄膜への適用やナノ結晶シリコンの結晶性についての言及は一切なされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−38317号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. Kirimura et. al. Japanese Journal of Applied Physics Vol. 43, No. 12, 2004, pp. 7929-7933
【非特許文献2】H. Jia et. al. Journal of Physics D: Applied Physics 39 (2006) 3844-3848
【非特許文献3】K. Wazumi et. al. Diamond and Related Materials 12 (2003) 1018-1023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ナノ結晶シリコン薄膜において、成膜初期におけるインキュベーション層の生成を抑制し、成膜初期から結晶性の良い膜を得ることができる成膜方法と、該成膜方法により得られるナノ結晶シリコン薄膜、並びに該薄膜を成膜する成膜装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、基板上にナノ結晶シリコン薄膜を形成する成膜方法であって、該薄膜は少なくとも水素ガス及びシラン系ガスを原料としてプラズマ化学気相成長法により成膜され、成膜室内が減圧されるとともに前記基板にパルスバイアスが印加されることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に関する。
【0014】
請求項2に係る発明は、前記プラズマ化学気相成長法に用いられるプラズマ源が、誘導結合型プラズマ源、高周波励起平行平板プラズマ源、マイクロ波励起プラズマ源のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に関する。
【0015】
請求項3に係る発明は、前記パルスバイアスが両極性パルスバイアスであることを特徴とする請求項1又は2記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に関する。
【0016】
請求項4に係る発明は、前記パルスバイアスの周波数が100kHz以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に関する。
【0017】
請求項5に係る発明は、前記パルスバイアスの正負夫々の極性の印加時間が10μ秒以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に関する。
【0018】
請求項6に係る発明は、前記成膜時の圧力が100mTorr以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に関する。
【0019】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6いずれかに記載の成膜方法により成膜されることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜に関する。
【0020】
請求項8に係る発明は、基板上にプラズマ化学気相成長法によりナノ結晶シリコン薄膜を形成する成膜装置であって、前記基板が内部に配設される成膜室と、該成膜室に少なくとも水素ガス及びシラン系ガスからなる原料ガスを導入する気体導入路と、成膜時に前記基板にパルスバイアスを印加するパルス電源と、成膜時に前記成膜室内を減圧する圧力調整手段とを備えていることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜の成膜装置に関する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によれば、少なくとも水素ガス及びシラン系ガスを原料としてプラズマ化学気相成長法により基板上にナノ結晶シリコン薄膜が成膜され、前記基板にパルスバイアスが印加されることで、効率的に基板上に結晶核が形成される。加えて、成膜時のチャージアップを緩和することができ、且つイオンによる成膜面の損傷を低減することができるため、膜厚が非常に薄い場合であっても、ナノ結晶シリコンと非晶質シリコンの混在するインキュベーション層の生成が抑制され、成膜初期においても結晶性の高い薄膜を得ることができる。従って、電子移動度に優れる薄膜とすることが可能となる。
【0022】
請求項2に係る発明によれば、プラズマ化学気相成長法に用いられるプラズマ源が、誘導結合型プラズマ源、高周波励起平行平板プラズマ源、マイクロ波励起プラズマ源のいずれかであるため、効率的にナノ結晶シリコン薄膜を成膜することができる。
【0023】
請求項3に係る発明によれば、成膜時に印加されるパルスバイアスが両極性パルスバイアスであるため、成膜時において成膜面のチャージアップを防ぐことができ、加えて成膜初期における結晶性の改善を図ることができる。
【0024】
請求項4に係る発明によれば、パルスバイアスの周波数が100kHz以下であるため、イオンによる成膜面の損傷を低減することができ、高結晶性のナノ結晶シリコン薄膜とすることが可能となる。
【0025】
請求項5に係る発明によれば、パルスバイアスの正負夫々の極性の印加時間が10μ秒以下であるため、成膜面における結晶核の生成を促進することができるとともに、イオン照射による成膜面の欠陥生成を最小限とすることができる。
【0026】
請求項6に係る発明によれば、成膜時の圧力が100mTorr以下であるため、成膜面へのイオン照射を効率的に制御することが可能となり、高結晶性のナノ結晶シリコン薄膜を得ることができる。
【0027】
請求項7に係る発明によれば、結晶性が高く、電子移動度に優れたナノ結晶シリコン薄膜とすることができる。
【0028】
請求項8に係る発明によれば、高結晶性、高電子移動度のナノ結晶シリコン薄膜を効率的に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る成膜方法に用いられる成膜装置の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係るナノ結晶シリコン薄膜と従来の成膜方法により得られたナノ結晶シリコン薄膜のラマンスペクトルであって(実施例1、比較例1)、(1)実施例1及び比較例1のスペクトル、(2)従来技術による薄膜のスペクトルである。
【図3】本発明に係るナノ結晶シリコン薄膜におけるラマンスペクトルであって、結晶性のプラズマ発生電力依存性を示すスペクトルである(実施例2)。
【図4】比較例におけるラマンスペクトルであって、結晶性のプラズマ発生電力依存性を示すスペクトルである(比較例2)。
【図5】本発明に係るナノ結晶シリコン薄膜におけるラマンスペクトルであって、誘電体と基板間距離の依存性を示すスペクトルである(実施例3)。
【図6】比較例におけるラマンスペクトルであって、誘電体と基板間距離の依存性を示すスペクトルである(比較例3)。
【図7】従来の成膜方法によりゲート絶縁膜上に形成されたナノ結晶シリコン薄膜の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法及びナノ結晶シリコン薄膜、並びに該薄膜を成膜する成膜装置について詳述する。
本発明に係る成膜方法においては、プラズマ化学気相成長法が用いられる。そのプラズマ源は高励起プラズマ源であることが望ましく、具体的には例えば誘導結合型プラズマ源、高周波励起平行平板プラズマ源、マイクロ波励起プラズマ源が挙げられ、いずれも好適に用いられる。
【0031】
図1は、本発明に係る成膜方法に用いられる成膜装置の概略構成図である。
成膜装置(1)は、成膜室(2)を備えており、成膜室(2)内には薄膜が形成される基板(3)と、この基板を保持する基板支持台(4)が配設されており、基板支持台(4)には基板加熱用ヒーターが内蔵されている(図示せず)。更に基板(3)に対向して誘電体(5)が設置される。誘電体(5)には高周波印加電極(6)が当接している。基板支持台(4)には、パルス電源(7)が連結されており、誘電体(5)に当接する高周波印加電極(6)にはマッチングボックス(図示せず)を介して高周波電源(8)が連結されている。
また、原料ガスを成膜室(2)内に導入するための気体導入路(9)が連結されており、この気体導入路(9)には原料ガスの流量を計測する流量計(10)が備えられている。
尚、成膜時に成膜室(2)内を減圧するための真空排気系が備えられており、圧力調整バルブ(11)を介して、ターボ分子ポンプ(12)とドライポンプ(13)とが設置されている。
ターボ分子ポンプ(12)及びドライポンプ(13)は、圧力調整バルブ(11)を介して成膜室(2)と連結されており、圧力調整バルブ(11)は成膜時に成膜室(2)内を減圧し、所定の圧力に調整して保持する圧力調整手段として機能することができる。
【0032】
成膜の際、気体導入路(9)を通して成膜室(2)内に原料ガスが導入されると同時に、圧力調整バルブ(11)により成膜室(2)内は所定の圧力に制御される。
成膜室(2)内の圧力調整後、高周波電源(8)により高周波印加電極(6)に電力が印加され、高励起プラズマが成膜室(2)内に発生する。
基板(3)は、基板支持台(4)に内蔵された基板加熱用ヒーターによって加熱される。これと同時に、基板(3)には基板支持台(4)を介してパルス電源(7)によりパルスバイアスが印加されて、ナノ結晶シリコン薄膜が形成される。
尚、成膜室(2)内に導入される原料ガスの流量は適宜調節される。
【0033】
上記した高励起プラズマによって、原料ガスであるシラン系ガスと水素が分解し、中性のラジカルと正負夫々のイオンがプラズマ中に生成される。
【0034】
基板(3)上への膜形成の際に印加されるパルスバイアスは、両極性パルスバイアスであることが好ましい。両極性パルスバイアスを基板(3)に印加することで、ナノ結晶シリコン薄膜の成膜初期において結晶性が向上することとなる。
【0035】
正極性のバイアスを印加すると基板(3)の電位は正に変化し、負極性のバイアスを印加すると基板(3)の電位は負に変化する。
基板(3)に正極性バイアスが印加されている状態では、基板(3)の電位がプラズマ電位以上になると、プラズマ中の電子が基板(3)に流入する。そのため、基板(3)の電位の上昇が抑制され、チャージアップを防ぐことができる。
一方、基板(3)に負極性バイアスが印加されている状態では、上記したように基板(3)の電位は負であるため、プラズマ中に存在する正のイオンが成膜面に入射することとなる。
【0036】
パルスバイアスを基板(3)に印加することで、成膜面に間欠的にイオンが入射される。そのため、結晶成長、特に成膜初期における結晶性が向上するとともに、成膜面へのイオン照射における欠陥生成を抑制することが可能となる。
従って、成膜初期におけるインキュベーション層(結晶、非晶質の混在する層)の生成を抑制することとなり、膜厚が非常に薄い場合(例えば50nm以下)であっても高結晶性の薄膜とすることができる。
【0037】
本発明において成膜時に印加される両極性パルスバイアスの周波数は100〜0.1kHzとすることが好ましく、パルス幅は1〜10μ秒とすることが好ましい。
低周波のパルスバイアスを10μ秒以下の印加時間とし、且つ繰り返し周波数を100〜0.1kHzとすることで、成膜面における結晶核の生成を促進しつつ、イオン照射による成膜面の欠陥生成を最小限とすることができる。
【0038】
ナノ結晶シリコンの原料ガスとしては、水素ガス(H)とシラン系ガスが用いられる。
シラン系ガスとしてはモノシランや、ジシラン、トリシラン等のポリシランが挙げられるが、いずれも好適に使用される。
【0039】
薄膜を形成するナノ結晶シリコンは、結晶子サイズが数十nm以下の結晶である。このナノ結晶シリコンの結晶性は、上述したパルスバイアスの条件に加えて、成膜室(2)内の圧力、原料ガスの導入量、高周波電源(8)により印加される高周波電力等により調整される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明に係る成膜方法に関する実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は下記実施例には限定されない。
【0041】
<ナノ結晶シリコン薄膜の成膜>
誘導結合型プラズマ化学気相成長法(以下、ICP−CVD)によりナノ結晶シリコン薄膜を成膜した。原料ガスとしてモノシラン(SiH)及び水素(H)を用い、流量比を1:1として夫々の流量を20sccmとした。
成膜室内の圧力を40mTorr、基板温度を250℃とした。
【0042】
(実施例1)
上記した成膜方法において、成膜時に基板に両極性パルスバイアス(周波数1kHz、正負夫々のパルス印加時間5μ秒)を印加して成膜し、膜厚50nmのナノ結晶シリコン薄膜を得た。
【0043】
(実施例2)
上記した成膜方法において、ICP電力が1.0kW、1.3kW、1.75kWの条件において夫々成膜し、膜厚50nmのナノ結晶シリコン薄膜を得た。尚、基板と誘電体間の距離は80mmとした。
【0044】
(実施例3)
上記した成膜方法において、成膜時の基板と誘電体間の距離が50mm、80mm、110mmの条件において夫々成膜し、膜厚50nmのナノ結晶シリコン薄膜を得た。尚、ICP電力は1kWとした。
【0045】
(比較例1)
比較例1として、上記した成膜方法において、両極性パルスバイアスを印加しない以外は実施例1と同様に成膜し、膜厚50nmのナノ結晶シリコン薄膜を得た。
【0046】
(比較例2)
比較例2として、上記した成膜方法において、両極性パルスバイアスを印加しない以外は実施例2と同様に成膜し、膜厚50nmのナノ結晶シリコン薄膜を得た。
【0047】
(比較例3)
比較例3として、上記した成膜方法において、両極性パルスバイアスを印加しない以外は実施例3と同様に成膜し、膜厚50nmのナノ結晶シリコン薄膜を得た。
【0048】
(参考例1)
参考例1として、上記した成膜方法において、比較例1と同様の成膜条件として膜厚85nmの薄膜を得た。
【0049】
<ラマン分光測定>
得られたナノ結晶シリコン薄膜の結晶性を分析するために、ラマン分光測定を行った。
測定には、レーザーラマン分光光度計を用い、波長532nmのレーザー光を用いた。露光時間は30秒、積算回数を20回とした。
【0050】
実施例1及び比較例1の結果を図2(1)に示す。また、比較例1と両極性パルスバイアスを印加せずに成膜した膜厚85nmの薄膜におけるスペクトル(参考例1)を図2(2)に示す。
尚、図中(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は参考例1のスペクトルである。
520cm−1付近に見られるピーク(TOフォノンピーク)は結晶性のシリコンに由来するものである。一方、480cm−1付近に見られるブロードなピークは非晶質シリコンに由来するものである。
比較例1及び参考例1の結果から、膜厚の減少とともに非晶質シリコンの比率が増加していることがわかる。つまり、成膜初期に非晶質、ナノ結晶混在層が形成されている。
一方、実施例1のナノ結晶シリコン薄膜においては、膜厚が50nmにおいても非晶質シリコンの比率が比較例1に比して低いことが明らかである。
このことから、50nmという非常に薄い膜においても高結晶性の薄膜が得られることが確認された。
【0051】
実施例2及び比較例2の結果を夫々図3、図4に示す。
尚、図3中(a)は1.0kW、(b)は1.3kW、(c)は1.75kWの実施例2におけるスペクトルであり、図4中(d)は1.0kW、(e)は1.3kW、(f)は1.75kWの比較例2におけるスペクトルである。
図3からわかるように、実施例2においては、1.0kW、1.3kW、1.75kWとICP電力が増加するに従って結晶性の良い薄膜が得られていることがわかる。
これに対して、比較例2では、1.3kW、1.75kWにおいては比較的結晶性の良い薄膜が得られているものの、実施例2で高結晶性の薄膜が得られた1.0kWでは結晶性は低いことがわかる。
【0052】
また、実施例3及び比較例3の結果を夫々図5、図6に示す。
尚、図5中(a)は50mm、(b)は80mm、(c)は110mmの実施例3におけるスペクトルであり、図6中(d)は50mm、(e)は80mm、(f)は110mmの比較例3におけるスペクトルである。
図5では、いずれの薄膜においても520cm−1付近の結晶性シリコンに由来するピークが観測され、480cm−1付近の非晶質シリコンに由来するピークは略見られないことがわかる。
これに対して、比較例3では結晶性シリコンの生成は確認されるものの、実施例3に比してピークがブロードであり結晶性が低いことが確認された。
【0053】
以上より、両極性パルスバイアスを印加した実施例1〜3では、成膜初期においてインキュベーション層の生成が抑制され、TFTに用いられる膜厚である50nm以下の薄膜においても結晶性の高いナノ結晶シリコン薄膜を得ることができることが明らかとなった。
本発明に係る成膜方法によれば、結晶性の高い薄膜が得られる成膜条件の範囲を大幅に拡大することが可能であることが確認され、産業応用上極めて効果が大きいことが明らかとなった。
これに対して、両極性パルスバイアスを印加していない比較例1〜3では、結晶生成は見られるものの、結晶性の高い薄膜を得ることができる成膜条件が限定されていることが明らかとなった。
【0054】
以上のことから、本発明に係るナノ結晶シリコン薄膜は、成膜初期におけるインキュベーション層の生成が抑制された結晶性に優れた薄膜であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る成膜方法は、インキュベーション層の極めて少ない高結晶性のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法に好適に利用することができる。また本発明に係るナノ結晶シリコン薄膜は電子移動度に優れるため、大型の液晶や、有機エレクトロルミネッセンス、スーパーハイビジョン等の次世代ディスプレイの薄膜トランジスタとして好適に利用可能である。更に、本発明に係る成膜装置は、上記したナノ結晶シリコン薄膜を効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 成膜装置
2 成膜室
3 基板
4 基板支持台
5 誘電体
6 高周波印加電極
7 パルス電源
8 高周波電源
9 気体導入路
10 流量計
11 圧力調整バルブ
12 ターボ分子ポンプ
13 ドライポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にナノ結晶シリコン薄膜を形成する成膜方法であって、該薄膜は少なくとも水素ガス及びシラン系ガスを原料としてプラズマ化学気相成長法により成膜され、成膜室内が減圧されるとともに前記基板にパルスバイアスが印加されることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法。
【請求項2】
前記プラズマ化学気相成長法に用いられるプラズマ源が、誘導結合型プラズマ源、高周波励起平行平板プラズマ源、マイクロ波励起プラズマ源のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法。
【請求項3】
前記パルスバイアスが両極性パルスバイアスであることを特徴とする請求項1又は2記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法。
【請求項4】
前記パルスバイアスの周波数が100kHz以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法。
【請求項5】
前記パルスバイアスの正負夫々の極性の印加時間が10μ秒以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法。
【請求項6】
前記成膜時の圧力が100mTorr以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のナノ結晶シリコン薄膜の成膜方法。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載の成膜方法により成膜されることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜。
【請求項8】
基板上にプラズマ化学気相成長法によりナノ結晶シリコン薄膜を形成する成膜装置であって、前記基板が内部に配設される成膜室と、該成膜室に少なくとも水素ガス及びシラン系ガスからなる原料ガスを導入する気体導入路と、成膜時に前記基板にパルスバイアスを印加するパルス電源と、成膜時に前記成膜室内を減圧する圧力調整手段とを備えていることを特徴とするナノ結晶シリコン薄膜の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−21256(P2011−21256A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168268(P2009−168268)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】