説明

ナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラム

【課題】マルチパス波の影響を低減するとともに、各送信局の配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行う。
【解決手段】ナビゲーション装置10は、速度ベクトル算出器33と、マスク処理部23と、位置及び速度算出器22と、マッチング部35とを備える。マスク処理部23は、受信無線信号に基づいて、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位と、各GPS衛星の仰角とを算出し、算出された相対方位及び仰角に基づいて当該各GPS衛星を測位算出に使用しないようにマスクする。位置及び速度算出器22は、マスクされない各GPS衛星から受信した無線信号に基づいて自車位置を算出する。マッチング部35は、所定の地図データと、速度ベクトル算出器33により算出された速度ベクトルと、位置及び速度算出器22により算出された自車位置とに基づいて現在位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラムに関する。特に、本発明は、GPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムからの受信無線信号に基づいて位置を測定するナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
利用者を目的地まで案内する車載用ナビゲーションシステムにおいては、GPS等の衛星測位システムからの受信無線信号に基づいて位置計算及び速度計算を含む測位計算を行っている。しかし、ビル街等では反射によるマルチパス波の影響を受けるため、衛星からの無線信号の伝搬距離を正しく測定できず、測位計算の計算結果に大きな誤差を生じることがあった。その対策として、特許文献1に、従来例のGPS受信装置が開示されている。従来例のGPS受信装置は、一般的に、GPS衛星の仰角が小さいほどマルチパス波の影響を受けやすくなることを利用して、受信した電波に基づいて各衛星の仰角θnを算出し、算出された仰角θnと、所定の基準仰角角度θrefとを比較し、仰角θnが所定の基準仰角角度θrefよりも大きい衛星からの電波のみを選択的に利用して位置を計測する。
【0003】
【特許文献1】特開2002−277527号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例のGPS受信装置では、例えば、GPS衛星の衛星配置に偏りがあり、GPS衛星が比較的小さい仰角範囲に集中している場合、位置計算に利用できるGPS衛星の数が大幅に減少するという問題があった。位置計算に利用できるGPS衛星の数が減少すると、位置計算の精度が悪くなり、最悪の場合、位置計算に必要なGPS衛星数が確保できず、位置計算が行えない。位置計算に利用できるGPS衛星の数を増やすために基準仰角角度θrefを小さく設定すると、マルチパス波の影響を受けやすくなるので、最適な基準仰角角度θrefに設定することが困難であった。
【0005】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、マルチパス波の影響を低減するとともに、各送信局の配置の偏りによる測位計算の精度の劣化を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができるナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るナビゲーション装置は、所定の測位システムの各送信局からの無線信号を受信して現在位置を測位するナビゲーション装置において、少なくとも1つの自立センサからの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出手段と、前記受信した無線信号に基づいて、前記ナビゲーション装置の進行方向に対する前記各送信局の相対方位と、前記ナビゲーション装置に対する前記各送信局の仰角とを算出し、前記算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理手段と、前記マスク処理手段によりマスクされない前記各送信局から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する測位手段と、所定の地図データと、前記算出された速度ベクトルと、前記算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力するマッチング手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、受信した無線信号に基づいて、ナビゲーション装置の進行方向に対する各送信局の相対方位と、ナビゲーション装置に対する各送信局の仰角とを算出し、算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理手段を備えるので、マルチパスの影響を低減するとともに、各送信局の配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0008】
上記ナビゲーション装置において、前記マスク処理手段は、前記ナビゲーション装置の進行方向に対して直角の方向の位置において所定の最大マスク仰角となるマスク仰角範囲を設定し、各送信局が当該設定されたマスク仰角範囲にあるか否かを判断し、当該マスク仰角範囲にあるとき当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクすることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、上記マスク処理手段は、ナビゲーション装置の進行方向に対して直角の方向の位置において所定の最大マスク仰角となるマスク仰角範囲を設定し、各送信局が当該設定されたマスク仰角範囲にあるか否かを判断し、当該マスク仰角範囲にあるとき当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするので、マルチパスの影響を低減するとともに、各送信局の配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0010】
また、上記ナビゲーション装置において、前記マスク処理手段は、ナビゲーション装置の移動速度が所定のしきい値速度を越えるか否かを判定し、移動速度が前記しきい値速度を越えると判定されたとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更し、移動速度が前記しきい値速度以下であると判定されたとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ナビゲーション装置の移動速度がしきい値速度以下であると判定されたとき、上記マスク処理手段は、最大マスク仰角を大きくするように変更するので、特にマルチパスの影響を受けやすい停車時や低速移動中において、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0012】
さらに、上記ナビゲーション装置において、前記マッチング手段は、前記現在位置が前記地図データ上で特定されたか否かを判定し、前記マスク処理手段は、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データ上で特定されたとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更し、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データ上で特定されなかったとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、マッチング手段により現在位置が地図データ上で特定されなかったときは、上記マスク処理手段は、最大マスク仰角を小さくするように変更し、マスクされない測位システムの各送信局の数を増加させるので、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0014】
またさらに、上記ナビゲーション装置において、前記地図データはマルチパス頻発領域に関する情報を含み、前記マッチング手段は、前記現在位置が前記地図データのマルチパス頻発領域であるか否かを判定し、前記マスク処理手段は、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データのマルチパス頻発領域であると判定されたとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更し、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データのマルチパス頻発領域でないと判定されたとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、現在位置がマルチパス頻発領域であると判定されたときは、上記マスク処理手段は、最大マスク仰角を大きくするように変更するので、特にマルチパスの影響を受けやすい環境において、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0016】
また、上記ナビゲーション装置において、前記マスク処理手段は、電源投入後所定時間が経過したか否かを判定し、電源投入後所定時間が経過したとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更し、電源投入後所定時間が経過していないとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、電源投入後所定時間が経過するまでの間、上記マスク処理手段は、最大マスク仰角を小さくするように変更するので、初期状態等において精度が低下することを防止し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0018】
第2の発明に係るナビゲーション方法は、所定の測位システムの各送信局からの無線信号を受信して現在位置を測位するナビゲーション装置のためのナビゲーション方法であって、少なくとも1つの自立センサからの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出ステップと、前記受信した無線信号に基づいて、前記ナビゲーション装置の進行方向に対する前記各送信局の相対方位と、前記ナビゲーション装置に対する前記各送信局の仰角とを算出し、前記算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理ステップと、前記マスク処理ステップによりマスクされない前記各送信局から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する測位ステップと、所定の地図データと、前記速度ベクトル算出ステップにより算出された速度ベクトルと、前記測位ステップにより算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力するマッチングステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
第3の発明に係るナビゲーションプログラムは、コンピュータによって実行され、衛星測位システムからの受信無線信号を用いて、現在位置を地図上に表示するナビゲーション装置のためのナビゲーションプログラムであって、少なくとも1つの自立センサからの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出ステップと、前記受信した無線信号に基づいて、前記ナビゲーション装置の進行方向に対する前記各送信局の相対方位と、前記ナビゲーション装置に対する前記各送信局の仰角とを算出し、前記算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理ステップと、前記マスク処理ステップによりマスクされない前記各送信局から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する測位ステップと、所定の地図データと、前記速度ベクトル算出ステップにより算出された速度ベクトルと、前記測位ステップにより算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力するマッチングステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラムによれば、受信した無線信号に基づいて、ナビゲーション装置の進行方向に対する各送信局の相対方位と、ナビゲーション装置に対する各送信局の仰角とを算出し、算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理手段を備えるので、マルチパスの影響を低減するとともに、各送信局の配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るナビゲーション装置10について、図面を用いて説明する。本実施形態に係るナビゲーション装置10は、GPS(Global Positioning System)衛星からの受信無線信号に基づいて車両の現在位置を測定してユーザに知らせることを目的とする車載用ナビゲーション装置である。図1は、本実施形態に係るナビゲーション装置10の構成を示すブロック図である。ナビゲーション装置10は、速度ベクトル算出器33と、マスク処理部23と、位置及び速度算出器22と、マッチング部35とを備えたことを特徴とする。速度ベクトル算出器33は、ジャイロセンサ31及び車速パルス発生器32からの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する。マスク処理部23は、受信した無線信号に基づいて、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位と、ナビゲーション装置10に対する各GPS衛星の仰角とを算出し(図3のステップS5及びS6)、算出された各GPS衛星の相対方位及び仰角に基づいて、当該各GPS衛星を測位算出に使用しないようにマスクする(図3のステップS7〜S9)。位置及び速度算出器22は、マスク処理部23によりマスクされない各GPS衛星から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する。マッチング部35は、地図データベースメモリ34内に格納された所定の地図データと、速度ベクトル算出器33により算出された速度ベクトルと、位置及び速度算出器22により算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力する。
【0023】
また、マスク処理部23は、ナビゲーション装置10の進行方向に対して直角の方向の位置において所定の最大マスク仰角Amaxとなるマスク仰角範囲Rmaskを設定し、各GPS衛星が当該設定されたマスク仰角範囲Rmaskにあるか否かを判断し、当該マスク仰角範囲Rmaskにあるとき当該各GPS衛星を測位算出に使用しないようにマスクする(図4のステップS29)。
【0024】
さらに、マスク処理部23は、ナビゲーション装置10の移動速度が所定のしきい値速度を越えるか否かを判定し、移動速度がしきい値速度を越えると判定されたとき、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更し、移動速度がしきい値速度以下であると判定されたとき、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更する(図4のステップS24〜S28)。
【0025】
またさらに、マッチング部35は、現在位置が地図データ上で特定されたか否かを判定し、マスク処理部23は、マッチング部35により現在位置が地図データ上で特定されたとき、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更し、マッチング手段35により現在位置が地図データ上で特定されなかったとき、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更する(図4のステップS22、S26〜S28)。
【0026】
また、地図データはマルチパス頻発領域に関する情報を含み、マッチング部35は、現在位置が地図データのマルチパス頻発領域であるか否かを判定し、マスク処理部23は、マッチング部35により現在位置が地図データのマルチパス頻発領域であると判定されたとき、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更し、マッチング部35により現在位置が地図データのマルチパス頻発領域でないと判定されたとき、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更する(図4のステップS23、S26〜S28)。
【0027】
さらに、マスク処理部23は、電源投入後所定時間が経過したか否かを判定し、電源投入後所定時間が経過したとき、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更し、電源投入後所定時間が経過していないとき、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更する(図4のステップS21、S26〜S28)。
【0028】
GPS衛星測位システムは、一般的に、高度約20000Kmの軌道面で地球を周回し、測位用の無線信号を放送する複数のGPS衛星と、それらGPS衛星を監視する地上局と、GPS衛星から受信無線信号に基づいて位置、速度及び時刻を測定する受信機とで構成されている。GPS衛星は、現在28個打ち上げられており、6つの軌道面をそれぞれ軌道周期約12時間で周回し、地球上どこでもほぼ24時間衛星からの無線信号を受信することができる。以下、このようなGPS衛星測位システムにおいて用いられ、GPS衛星からの無線信号を受信する受信機としてのナビゲーション装置10について説明する。
【0029】
図1において、ナビゲーション装置10は、アンテナ1と、GPS受信装置2と、ロケーション装置3と、ディスプレイ4とを備えて構成される。GPS受信装置2は、信号復調器21と、位置及び速度算出器22と、マスク処理部23とを備えて構成される。GPS受信装置2は、図示しない12チャンネルの受信回路を備え、12個のGPS衛星からの信号を同時に受信することができる。アンテナ1は、GPS衛星からの無線信号を受信する。GPS衛星測位システムにおいて、GPS衛星は、1.57542GHzのL1帯と1.2276GHzのL2帯とを利用して無線信号を放送し、現在L1帯が民生用に利用されている。全てのGPS衛星からの無線信号は、同一のL1帯の周波数を用いて放送されるが、各GPS衛星に固有の擬似ランダムノイズ符号(Pseudo Random Noise:PRN符号)でスペクトラム拡散されるため、同一周波数を用いた場合でも互いに干渉することなくそれぞれ受信できる。L1帯で用いられるPRN符号は1023ビットの符号系列であり、このPRN符号と、それを所定のビットだけシフトした符号とを比較したときの自己相関(信号強度)特性は、2つの符号の位相差が0ビットのとき、つまり2つの符号の位相が完全に一致するとき、自己相関値が最大のピーク値となる。2つの符号の位相差が±1ビット以内のとき、その位相差に比例して相関値が変動し、2つの符号の位相差が+1ビットより大きい、もしくは、2つの符号の位相差が−1ビットよりも小さいとき、相関値はほぼ0に近い値となる。
【0030】
信号復調器21は、このPRN符号の自己相関特性を利用して、無線信号を受信したい衛星のPRN符号と同一のPRN符号(以下、レプリカ信号と言う。)を発生し、そのレプリカ信号を用いて、アンテナ1により受信された無線信号に対して逆拡散処理を行うことで当該無線信号を復調する。また、信号復調器21は、GPS衛星から送信される航法メッセージと呼ばれるデータに基づいて、GPS衛星の詳細な時刻情報及び詳細な軌道情報を取得する。具体的には、GPS衛星からは、50bpsの速度で航法メッセージが送られる。航法メッセージは、300ビットずつのサブフレームと呼ばれる単位で構成され、5つのサブフレームが1つのメインフレームを構成する。メインフレームは全部で25ページ存在し、順次送信される。サブフレームは、先頭を示すプリアンブルパターンと、所定の位置に格納されたサブフレームIDを含むので、プリアンブルパターンを検出することでサブフレームを受信し、サブフレームIDからその種別を判別できる。従って、信号復調器21は、各サブフレームのプリアンブルパターンを検出することで、6秒(300ビット÷50bps)単位の時刻情報を取得できる。また、航法メッセージの伝送速度が既知であるので、サブフレーム先頭からの航法メッセージのビット数をカウントすることで、6秒以下の時刻が20msec単位で取得され得る。さらに、PRN符号の先頭と航法メッセージビットが同期しており、PRN符号は1msec毎に繰り返されているので、信号復調処理21で航法メッセージビットの先頭からレプリカ信号を繰り返した回数をカウントすることで、20msec以下の時刻が1msec単位で取得され得る。1msec以下の時刻は、PRN符号の値から取得され得る。信号復調器21は、このようにして、レプリカ信号から詳細な時刻情報を取得する。なお、航法メッセージの内容は、あらかじめ規定されており、各GPS衛星の詳細な軌道情報及び他の衛星の概略軌道情報等は、そのGPS衛星からの航法メッセージの所定のメインフレーム及びサブフレーム内に格納されたデータを読み出すことによって取得され得る。
【0031】
マスク処理部23は、信号復調器21によって復調された各GPS衛星からの受信無線信号と、ロケーション装置3の速度ベクトル算出部33によって算出された速度ベクトルと、マッチング部35からのマッチング結果とを入力する。マスク処理部23は、各GPS衛星に対して以下のモードを備え、図3及び図4に示すマスク処理を実行することによって、各GPS衛星を各モードに設定する。
(1)測位モード:位置及び速度算出器22にそのGPS衛星からの受信無線信号を用いた位置計算及び速度計算を実行させるモード。本明細書においては、そのGPS衛星がマスクされていないことを意味する。
(2)非測位モード:位置及び速度算出器22にそのGPS衛星からの受信無線信号を用いた位置計算及び速度計算を実行させないモード。本明細書においては、そのGPS衛星がマスクされていることを意味する。
【0032】
GPS衛星からの無線信号は、電離層や対流圏による電波遅延、衛星軌道誤差、周囲の建物等に電波が反射することにより発生する反射波によるマルチパス伝搬波等により影響を受け、その結果、ナビゲーション装置10で測定される現在位置に大きな誤差を含む場合がある。図2(a)は、GPS衛星Sから直接波信号を受信し、GPS衛星Sからマルチパス合成信号を受信する一般的なマルチパス環境を説明するための平面図であり、図2(b)は、上記マルチパス環境を説明するための正面図である。図2において、道路L上をナビゲーション装置10を搭載した車両Vが走行している場合について考える。車両Vの現在位置をOとする。道路L沿いにはビルBが配置されている。このとき、車両Vの進行方向である方向Yとほぼ同じ方向又はその反対方向に存在するGPS衛星Sからの無線信号は、ビル等の障害物が少ないため、直接波信号として車両Vで受信される。一方、車両Vの進行方向とほぼ直角の方向である方向Xに存在するGPS衛星Sからの無線信号は、ビルBで反射し、複数の反射波の合成信号であるマルチパス合成信号として車両Vで受信される。また、仰角が小さいGPS衛星である程、そのGPS衛星からの無線信号がマルチパス波の影響を受けやすい。さらに、このようなマルチパス合成信号は、住宅街等の障害物があまりないところでは発生しにくいが、建築物が道路の両脇に配置された高層ビル街や細街路等の環境において頻発する。
【0033】
上記のように、GPS衛星からの無線信号は、そのGPS衛星がナビゲーション装置10の進行方向に対して直角の方向に存在する場合に、マルチパス波の影響を受けやすい。マスク処理部23は、このことを考慮し、各GPS衛星からの無線信号を位置計算及び速度計算に用いるか否かを判断するためのマスク仰角範囲Rmaskを設定する。
【0034】
図6は、図1のマスク処理部23で設定されるマスク仰角範囲Rmaskの第1の例を示す、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位及び仰角を示す投影平面図である。図6において、ナビゲーション装置10の現在位置を原点とし、Y軸をナビゲーション装置10の進行方向とし、X軸をナビゲーション装置10の進行方向に対して直角の方向とする。図6の投影平面図は、各GPS衛星を、ナビゲーション装置10を含む地上平面に投影したときの各GPS衛星の位置を、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位で表しており、さらに、図6の最大直径円を仰角0度としかつ原点を仰角90度として各GPS衛星の仰角を表している。ここで、X軸上で仰角0度である2つの位置(仰角0度の最大直径円上のX軸上の位置)から原点に向かう2つの方向でそれぞれ所定の2つの最大マスク仰角Amaxを設定し、相対方位をX軸からY軸に近づくように変化したときに、図6の第1象限において、マスク仰角範囲Rmaskの境界線を最大マスク仰角Amaxの位置から仰角0度の位置(最大直径円上の位置)まで例えば曲線で延在するように形成して、当該境界線と上記最大直径円とにより囲む領域をマスク仰角範囲Rmaskとして設定する。また、図6の第2乃至4象限においても同様に、マスク仰角範囲Rmaskを設定する。ここで、マスク仰角範囲Rmaskは図6の投影平面図に示す形状に限らず、図7及び図8の各投影平面図に示すような、マスク仰角範囲Rmaskの第2の例及び第3の例に類似する他の形状であっても良い。図7及び図8の投影平面図では、上記境界線は、最大マスク仰角Amaxの位置から仰角0度の位置(最大直径円上の位置)まで直線(図7では、X軸に対して傾斜した直線であり、図8では、X軸に対して垂直な直線である。)で延在するように形成して、当該境界線と上記最大直径円とにより囲む領域をマスク仰角範囲Rmaskとして設定している。
【0035】
マスク処理部23は、各GPS衛星からの受信無線信号に基づいて、ナビゲーション装置10の進行方向Yに対する各GPS衛星の相対方位と、ナビゲーション装置10に対する各GPS衛星の仰角とを算出する。マスク処理部23は、算出された相対方位に基づいてマスク仰角範囲Rmaskから算出されるマスク仰角と、算出された各GPS衛星の仰角とを比較して、各GPS衛星の仰角がマスク仰角以下である場合、各GPS衛星がマスク仰角範囲Rmask内であると判断してそのGPS衛星を非測位モードに設定し(以下、マスクするという。)、各GPS衛星の仰角がマスク仰角を越える場合、各GPS衛星がマスク仰角範囲Rmask外であると判断してそのGPS衛星を測位モードに設定する(以下、マスクしないという。)。図6において、複数の衛星50及び51が、各算出された相対方位及び仰角に基づいて模式的に表示され、複数の衛星50はマスク仰角範囲Rmask外であり、複数の衛星51はマスク仰角範囲Rmask内である。従って、マスク処理部23は、複数の衛星50をマスクせず、複数の衛星51をマスクする。図6におけるマスクされない衛星50の数は、図9に示す従来技術におけるマスク仰角範囲を示す投影平面図におけるマスクされない衛星50の数よりも多い。
【0036】
また、マスク処理部23は、ナビゲーション装置10の電源投入後所定時間が経過するまでの間は、上記最大マスク仰角Amaxを小さく(例えば5度)するよう変更することにより、マスクされない、即ち測位モードであるGPS衛星の数を増やして、初期状態における精度の低下を防止する。さらに、マスク処理部23は、マッチング部35によりナビゲーション装置10の現在位置が特定されなかったときは、マッチングの精度が悪化しているとして、上記最大マスク仰角Amaxを小さく(例えば5度)するよう変更する。これにより、マスクされないGPS衛星の数を増やして、マッチング精度を向上する。またさらに、マスク処理部23は、マッチング部35を介して地図データベースメモリ34からナビゲーション装置10の現在位置に対応するマルチパス頻発領域情報を入力し、現在位置がビル街等のマルチパス頻発領域であるときは、マルチパスの影響を低減するために、上記最大マスク仰角Amaxを大きく(例えば15〜30度)するよう変更する(図3及び図4参照)。
【0037】
位置及び速度算出器22は、信号復調器21によって復調され、マスク処理部23を介して入力された受信無線信号に基づく各データを用いて、位置計算及び速度計算を実行して自車位置及び自車速度を算出する測位部である。信号復調器21により取得されたGPS衛星の詳細な時刻情報は、GPS衛星からアンテナまでの無線信号の伝搬時間だけ遅延することになるため、位置及び速度算出器22は、ナビゲーション装置10が無線信号を受信した瞬間の受信時刻と、信号復調器21により取得されたGPS衛星の信号送信時刻との差分を算出し、その差分に光速をかけることで無線信号の伝搬距離を算出する。また、信号復調器21により取得されたGPS衛星の詳細な軌道情報を用いて、上記GPS衛星の信号送信時刻におけるGPS衛星の詳細な座標位置を算出する。位置及び速度算出器22は、算出されたGPS衛星の詳細な座標位置を中心とし、算出された伝搬距離を半径とする以下の球の方程式を少なくとも3つである複数のGPS衛星について求め、その連立方程式を解くことにより、ナビゲーション装置10のアンテナ1の位置を計算できる。以下の式(1)において、GPS衛星i(i=1,2,…,N;Nは使用する衛星の数)の座標を(Xi,Yi,Zi)とし、ナビゲーション装置10のアンテナ1の座標を(Xr,Yr,Zr)とし、GPS衛星iからナビゲーション装置10のアンテナ1までの伝搬距離をLiとする。なお、当該明細書において、数式がイメージ入力された墨付き括弧の数番号と、数式が文字入力された大括弧の数式番号とを混在して用いており、また、当該明細書での一連の数式番号として「式(1)」の形式を用いて数式番号を式の最後部に付与して(付与していない数式も存在する)用いることとする。
【0038】
【数1】

【0039】
また、GPS衛星からは、L1帯の固定のキャリア周波数(1.57542GHz)で無線信号が放送されるが、GPS衛星の移動とナビゲーション装置10の移動による相対的な位置の変化(速度)により、実際に受信された無線信号のキャリア周波数には最大で±5000Hz程度のドップラーシフト周波数が発生する。従って、位置及び速度算出器22は、受信無線信号のキャリア周波数の測定値から、このドップラーシフト周波数を算出することで、GPS衛星とナビゲーション装置10間の相対速度を求めることができる。また、信号復調器21によって取得されたGPS衛星の軌道情報からGPS衛星の正確な移動速度が算出され得る。位置及び速度算出器22は、算出された相対速度から算出されたGPS衛星の移動速度を減算することで、ナビゲーション装置10の各GPS衛星方向の速度の大きさを算出する。従って、位置及び速度算出器22は、以下に示す式(2)を、少なくとも3つである複数のGPS衛星について求め、その連立方程式を解くことにより、ナビゲーション装置10のアンテナ1の速度を計算する。以下の式(2)において、ナビゲーション装置10のアンテナ1の各座標方向速度を(Vx,Vy,Vz)とし、ナビゲーション装置10のアンテナ1からGPS衛星iを見た場合の各座標方向角度を(αi,βi,γi)とし、ドップラーシフト周波数から算出された相対速度をVdopとし、GPS衛星の軌道情報から算出されたアンテナ方向速度をVsvとする。
【0040】
【数2】

【0041】
位置及び速度算出器22は、上記位置計算及び速度計算において、マスク処理部23から入力される各GPS衛星のマスク情報、即ち、各GPS衛星が測位モード及び非測位モードのいずれのモードに設定されているかに基づいて、各GPS衛星からの受信無線信号を位置計算及び速度計算に利用するか否かを決定する(図5参照)。具体的には、位置及び速度算出器22は、各GPS衛星が測位モードに設定されているとき、そのGPS衛星からの受信無線信号を用いて位置計算及び速度計算を実行し、各GPS衛星が非測位モードに設定されているとき、そのGPS衛星からの受信無線信号を位置計算及び速度計算に用いない。位置及び速度算出器22は、以上のようにして算出された自車位置及び自車速度を、それぞれロケーション装置3のマッチング部35及び速度ベクトル算出器33に送信する。
【0042】
ロケーション装置3は、地図データベースメモリ34と、マッチング部35と、速度ベクトル算出器33と、ジャイロセンサ31と、車速パルス発生器32とを備えて構成される。地図データベースメモリ34は、例えば日本国内における、少なくとも道路形状、及び、ビル街等のマルチパス頻発領域に関する情報を含む地図データを格納する。ジャイロセンサ31は、振動センサ等を用いてコリオリの力を検出し、角速度を検出する。車速パルス発生器32は、一般的にABS(Anti Lock Brake System)等にも利用され、タイヤの回転等から、車両の速度に応じたパルス信号を出力する。このような自立センサを用いることで、トンネル内等においてGPS衛星からの無線信号が受信できない場合でも、自立センサの出力値の変化から位置を求めることができる。なお、図1において、自立センサとしてジャイロセンサ31及び車速パルス発生器32のみ図示しているが、それ以外にも2軸又は3軸の加速度センサや地磁気センサ等を備えていてもよい。
【0043】
速度ベクトル算出器33は、基準となる初期方位と、ジャイロセンサ31から算出される角速度を積分することにより算出される車両の相対角度とに基づいて、車両の絶対方位を算出し、さらに、車速パルス発生器32によって求められた車両の速度と、算出された車両の絶対方位とに基づいて、車両の速度ベクトルを算出して出力する。初期方位については、位置及び速度計算器22で算出された自車速度の変化、及び、マッチング部35を介して読み出した地図データベースメモリ34内の地図情報等から推定する。これらの自立センサを用いることにより、トンネル等で一時的にGPS衛星からの信号が受信できない場合でも、速度ベクトルの変化から位置を決定することができるが、一般に、ジャイロセンサ31及び車速パルス発生器32は誤差を含んでいるため、長時間の間に誤差が蓄積されて大きな位置誤差になる可能性がある。このような理由から、速度ベクトル算出器33は、ジャイロセンサ31と、車速パルス発生器32とを定期的に補正する。具体的には、速度ベクトル算出器33は、位置及び速度算出器22で算出された自車速度の方位変化から求めた角度と、ジャイロセンサ31の出力値を積分した角度とを比較して、ジャイロセンサ31の感度特性を補正する。また、速度ベクトル算出器33は、単位時間当たりの車速パルス数を計測し、位置及び速度算出器22で算出された自車速度と比較して、車速パルス発生器32の1パルス当たりの距離変換係数を補正する。
【0044】
マッチング部35は、位置及び速度算出器22により算出された自車位置の誤差を補償するために、地図データベースメモリ34に格納されている地図データに含まれる道路形状、速度ベクトル算出器33により求められた速度ベクトルを積分することで求められる相対位置、及び、位置及び速度算出器22により算出された自車位置を用いて総合的にマッチング処理を行い、現在位置を地図データ上で特定し、その現在位置に関する情報をディスプレイ4に出力する。このとき、マッチング部35は、上記マッチング処理においてナビゲーション装置10の現在位置が特定されたか否かを判定し、この判定結果を含むマッチング結果をマスク処理部23に出力する。ディスプレイ5は、マッチング部4で決定されたナビゲーション装置の現在位置を地図上に表示する。
【0045】
なお、以上説明したマスク処理部23、位置及び速度算出器22、速度ベクトル算出器33及びマッチング部35における各処理は、1つのコンピュータが上述の各処理を含むプログラムを実行することにより実行される。
【0046】
図3は、図1のマスク処理部23で実行されるマスク処理を示すフローチャートである。
【0047】
図3のステップS1において、マスク処理部23は、信号復調器21によって復調された受信信号が入力されたか否かを判定し、YESのときはステップS2に進む一方、NOのときはステップS1に戻って処理を繰り返す。ステップS2において、入力した受信信号をGPS衛星毎に各チャンネルに割り当てる。前述のように、GPS受信装置2は、12チャンネルの受信回路を備え、最大12個のGPS衛星から受信した無線信号を同時に処理できる。GPS衛星からの無線信号は、PRN符号を用いた逆拡散処理を行い、一定レベル以上の信号が検出された場合、衛星からの航法メッセージのデータエッジを検出した場合、航法メッセージのプリアンブルパターンを検出した場合に受信したと判断される。但し、GPS衛星の詳細な軌道情報を保持していない場合については、測位処理に利用できないため、受信したと判断しない。ステップS3において、マスク範囲設定処理(図4参照)を実行する。ステップS4において、チャンネル数Nを1に初期化する。ステップS5において、速度ベクトル算出器33から入力された速度ベクトルから車両の進行方向を算出し、上記復調された受信信号に含まれるGPS衛星の軌道情報に基づいて、算出された車両の進行方向に対する、チャンネルNに割り当てられたGPS衛星の相対方位を算出する。ステップS6において、上記復調された受信信号に含まれるGPS衛星の軌道情報に基づいて、チャンネルNに割り当てられたGPS衛星の仰角を算出する。ステップS7において、算出された相対方位及び仰角に基づいて、チャンネルNに割り当てられたGPS衛星がステップS3のマスク範囲設定処理で設定されたマスク仰角範囲Rmask内か否かを判定し、YESのときはステップS8に進む一方、NOのときはステップS9に進む。ステップS8において、チャンネルNに割り当てられたGPS衛星を非測位モードに設定する。ステップS9において、チャンネルNに割り当てられたGPS衛星を測位モードに設定する。ステップS10において、チャンネル数Nを1だけ増やす。ステップS11において、チャンネル数Nが、GPS衛星が割り当てられたチャンネルの数より大きいか否かを判定し、YESのときは処理を終了する一方、NOのときはステップS5に戻って処理を繰り返す。
【0048】
図4は、図3のステップS3のマスク範囲設定処理を詳述するフローチャートである。図4に示すマスク範囲設定処理において、速度ベクトル算出器33によって算出された速度ベクトルの大きさ(速度)を所定の第1のしきい値速度S(km/h)(例えば30km/h)及び所定の第2のしきい値速度T(km/h)(例えば10km/h)と比較することによって、マスク仰角範囲Rmaskの最大マスク仰角Amaxを変更する。第1のしきい値速度S(km/h)及び第2のしきい値速度T(km/h)は、以下の式(3)を満たすように設定され、最大マスク仰角Amaxは、以下の式(4)を満たす所定の仰角値a,b,cのいずれか1つから図4を参照して後述するように選択される。
【0049】
[数1]
S>T (3)
[数2]
a<b<c (4)
【0050】
図4のステップS21において、電源投入後M分(例えば5分)以上経過したか否かを判定し、YESのときはステップS22に進む一方、NOのときはステップS26に進む。ステップS22において、マッチング部35によってナビゲーション装置10を搭載した車両の現在位置が特定されたか否かを判定し、YESのときはステップS23に進む一方、NOのときはステップS26に進む。ステップS23において、特定された車両の現在位置がビル街等のマルチパス頻発領域であるか否かを判定し、YESのときはステップS24に進む一方、NOのときはステップS26に進む。ステップS24において、速度ベクトル算出器33によって算出された速度ベクトルの大きさ(速度)が所定の第1のしきい値速度Skm/h(例えば30km/h)を越えるか否かを判定し、NOのときはステップS25に進む一方、YESのときはステップS26に進む。ステップS25において、速度ベクトル算出器33によって算出された速度ベクトルの大きさ(速度)が所定の第2のしきい値速度Tkm/h(例えば10km/h)以下であるか否かを判定し、NOのときはステップS27に進む一方、YESのときはステップS28に進む。ステップS26において、最大マスク仰角Amaxを所定の仰角値a(度)(例えば5度)に設定する。ステップS27において、最大マスク仰角Amaxを所定の仰角値b(度)(例えば15度)に設定する。ステップS28において、最大マスク仰角Amaxを所定の仰角値c(度)(例えば30度)に設定する。ステップS29において、最大マスク仰角をAmaxとするマスク仰角範囲Rmaskを設定した後、図3の元のルーチンに戻る。
【0051】
電源投入直後の初期状態においては、速度ベクトル35において算出される速度ベクトルが正確に特定されていないため、測位計算の精度が低下する。上記マスク処理によれば、ナビゲーション装置10の電源投入後所定時間M分(例えば5分)が経過するまでの間は、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更することによって、マスクされない(測位モードである)GPS衛星の数を増やして、初期状態における精度の低下を防止する。また、車両の現在位置がビル街等のマルチパス頻発領域である場合は、マルチパス波の影響を受ける可能性が高いので、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更することにより、マルチパス波の影響を低減する。さらに、マルチパス等の反射波は、車両の移動速度が遅い場合に継続して発生するため、その影響が大きく、車両が高速で移動している場合は、反射波を受信したとしても車両の移動により受信環境がすばやく変化するため、その影響が小さい。したがって、車両の移動速度が小さいときは、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更することにより、特にマルチパス波の影響を受けやすい停車時や低速移動中において、マルチパス波による影響を低減する。
【0052】
図5は、図1の位置及び速度算出器22で実行される位置及び速度算出処理を示すフローチャートである。
【0053】
図5のステップS31において、図3に示したマスク処理をマスク処理部23に実行させる。ステップS32において、チャンネル数Nを1に初期化し、測位モードであるGPS衛星の数Mを1に初期化する。ステップS33において、チャンネルNに割り当てられたGPS衛星が測位モードであるか否かを判定し、YESのときはステップS34に進む一方、NOのときはステップS36に進む。チャンネルNに割り当てられたGPS衛星からの受信信号に基づいて、GPS衛星の信号送信時刻及び軌道、並びに、そのGPS衛星からの信号の伝搬距離を算出する。ステップS35において、測位モードであるGPS衛星の数Mを1だけ増やす。ステップS36において、チャンネル数Nを1だけ増やす。ステップS37において、チャンネル数NがGPS衛星が割り当てられたチャンネルの数を超えるか否かを判定し、YESのときはステップS38に進む一方、NOのときはステップS33に戻って処理を繰り返す。ステップS38において、測位モードであるGPS衛星の数Mが3以上であるか否かを判定し、YESのときはステップS39に進む一方、NOのときは処理を終了する。ステップS39において、測位モードに設定された各GPS衛星の算出された信号送信時刻、軌道、信号の伝搬距離に基づいて、位置計算及び速度計算を実行して自車位置及び自車速度を算出した後、処理を終了する。
【0054】
なお、本実施形態において、米国が運用するGPS衛星からの無線信号を受信する場合について説明した。しかし、本発明はこの構成に限らず、ロシアが運用するGLONASS(Global Navigation Satellite System)や欧州が計画しているガリレオ(Galileo)システム等のGPS以外の衛星測位システムにおいて適用してもよい。
【0055】
以上詳述したように、本発明に係るナビゲーション装置10によれば、受信した無線信号に基づいて、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位と、ナビゲーション装置10に対する各GPS衛星の仰角とを算出し、算出された各GPS衛星の相対方位及び仰角に基づいて、当該各GPS衛星を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理部23を備えるので、マルチパスの影響を低減するとともに、GPS衛星の衛星配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0056】
また、上記マスク処理部23は、ナビゲーション装置10の進行方向に対して直角の方向の位置において所定の最大マスク仰角Amaxとなるマスク仰角範囲Rmaskを設定し、各GPS衛星が当該設定されたマスク仰角範囲Rmaskにあるか否かを判断し、当該マスク仰角範囲Rmaskにあるとき当該各GPS衛星を測位算出に使用しないようにマスクするので、マルチパスの影響を低減するとともに、GPS衛星の衛星配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0057】
さらに、ナビゲーション装置10の移動速度がしきい値速度以下であると判定されたとき、上記マスク処理部23は、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更するので、特にマルチパスの影響を受けやすい停車時や低速移動中において、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0058】
またさらに、マッチング部35により現在位置が地図データ上で特定されなかったときは、上記マスク処理部23は、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更し、マスクされない測位システムの各GPS衛星の数を増加させるので、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0059】
また、現在位置がマルチパス頻発領域であると判定されたときは、上記マスク処理部23は、最大マスク仰角Amaxを大きくするように変更するので、特にマルチパスの影響を受けやすい環境において、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【0060】
さらに、電源投入後所定時間が経過するまでの間、上記マスク処理部23は、最大マスク仰角Amaxを小さくするように変更するので、初期状態等において精度が低下することを防止し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明に係るナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラムは、受信した無線信号に基づいて、ナビゲーション装置の進行方向に対する各送信局の相対方位と、ナビゲーション装置に対する各送信局の仰角とを算出し、算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理手段を備えるので、マルチパスの影響を低減するとともに、各送信局の配置の偏りによる測位計算の精度の低下を低減し、従来技術に比較して高精度で測位計算を行うことができる。本発明に係るナビゲーション装置及び、その方法、並びにそのプログラムは、例えばGPS衛星測位システムを利用した車載用ナビゲーション装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係るナビゲーション装置10の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は、GPS衛星Sから直接波信号を受信し、GPS衛星Sからマルチパス合成信号を受信する一般的なマルチパス環境を説明するための平面図であり、(b)は、上記マルチパス環境を説明するための正面図である。
【図3】図1のマスク処理部23において実行されるマスク処理を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップS3におけるマスク範囲設定処理を詳述するフローチャートである。
【図5】図1の位置及び速度算出器22において実行される位置及び速度算出処理を示すフローチャートである。
【図6】図1のマスク処理部23で設定されるマスク仰角範囲Rmaskの第1の例を示す、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位及び仰角を示す投影平面図である。
【図7】図1のマスク処理部23で設定されるマスク仰角範囲Rmaskの第2の例を示す、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位及び仰角を示す投影平面図である。
【図8】図1のマスク処理部23で設定されるマスク仰角範囲Rmaskの第3の例を示す、ナビゲーション装置10の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位及び仰角を示す投影平面図である。
【図9】従来技術におけるマスク仰角範囲を示す、ナビゲーション装置の進行方向に対する各GPS衛星の相対方位及び仰角を示す投影平面図である。
【符号の説明】
【0063】
1…アンテナ、
2…GPS受信装置、
3…ロケーション装置、
4…ディスプレイ、
10…ナビゲーション装置、
21…信号復調器、
22…位置及び速度算出器、
23…マスク処理部、
31…ジャイロセンサ、
32…車速パルス発生器、
33…速度ベクトル算出器、
34…地図データベースメモリ、
35…マッチング部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の測位システムの各送信局からの無線信号を受信して現在位置を測位するナビゲーション装置において、
少なくとも1つの自立センサからの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出手段と、
前記受信した無線信号に基づいて、前記ナビゲーション装置の進行方向に対する前記各送信局の相対方位と、前記ナビゲーション装置に対する前記各送信局の仰角とを算出し、前記算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理手段と、
前記マスク処理手段によりマスクされない前記各送信局から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する測位手段と、
所定の地図データと、前記算出された速度ベクトルと、前記算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力するマッチング手段とを備えたことを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記マスク処理手段は、前記ナビゲーション装置の進行方向に対して直角の方向の位置において所定の最大マスク仰角となるマスク仰角範囲を設定し、上記各送信局が当該設定されたマスク仰角範囲にあるか否かを判断し、当該マスク仰角範囲にあるとき当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクすることを特徴とする請求項1記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
前記マスク処理手段は、ナビゲーション装置の移動速度が所定のしきい値速度を越えるか否かを判定し、移動速度が前記しきい値速度を越えると判定されたとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更し、移動速度が前記しきい値速度以下であると判定されたとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更することを特徴とする請求項1記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
前記マッチング手段は、前記現在位置が前記地図データ上で特定されたか否かを判定し、
前記マスク処理手段は、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データ上で特定されたとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更し、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データ上で特定されなかったとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のナビゲーション装置。
【請求項5】
前記地図データはマルチパス頻発領域に関する情報を含み、
前記マッチング手段は、前記現在位置が前記地図データのマルチパス頻発領域であるか否かを判定し、
前記マスク処理手段は、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データのマルチパス頻発領域であると判定されたとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更し、前記マッチング手段により前記現在位置が前記地図データのマルチパス頻発領域でないと判定されたとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のナビゲーション装置。
【請求項6】
前記マスク処理手段は、電源投入後所定時間が経過したか否かを判定し、電源投入後所定時間が経過したとき、前記最大マスク仰角を大きくするように変更し、電源投入後所定時間が経過していないとき、前記最大マスク仰角を小さくするように変更することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のナビゲーション装置。
【請求項7】
所定の測位システムの各送信局からの無線信号を受信して現在位置を測位するナビゲーション装置のためのナビゲーション方法であって、
少なくとも1つの自立センサからの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出ステップと、
前記受信した無線信号に基づいて、前記ナビゲーション装置の進行方向に対する前記各送信局の相対方位と、前記ナビゲーション装置に対する前記各送信局の仰角とを算出し、前記算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理ステップと、
前記マスク処理ステップによりマスクされない前記各送信局から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する測位ステップと、
所定の地図データと、前記速度ベクトル算出ステップにより算出された速度ベクトルと、前記測位ステップにより算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力するマッチングステップとを含むことを特徴とするナビゲーション方法。
【請求項8】
コンピュータによって実行され、衛星測位システムからの受信無線信号を用いて、現在位置を地図上に表示するナビゲーション装置のためのナビゲーションプログラムであって、
少なくとも1つの自立センサからの信号に基づいて、速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出ステップと、
前記受信した無線信号に基づいて、前記ナビゲーション装置の進行方向に対する前記各送信局の相対方位と、前記ナビゲーション装置に対する前記各送信局の仰角とを算出し、前記算出された各送信局の相対方位及び仰角に基づいて、当該各送信局を測位算出に使用しないようにマスクするマスク処理ステップと、
前記マスク処理ステップによりマスクされない前記各送信局から受信した無線信号に基づいて、自車位置を算出する測位ステップと、
所定の地図データと、前記速度ベクトル算出ステップにより算出された速度ベクトルと、前記測位ステップにより算出された自車位置とに基づいて、正確な現在位置を特定するようにマッチング処理を実行して現在位置を出力するマッチングステップとを含むことを特徴とするナビゲーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−51573(P2008−51573A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226094(P2006−226094)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】