説明

ハイブリッド自動車

【課題】 ハイブリッド自動車の制御回路は原則的に現在の状況にしたがって、ハイブリッド用電池の充放電制御を実行しているから、あとわずかで坂の頂上に達する位置を走行するような場合にも、電池の充電量が規定値に達すると、動力補助を中止して電池を充電するように制御されることがある。
【解決手段】 定期路線その他一定の地点間を繰り返し運行する車両については、走行開始点からの距離に対応して、上り坂および下り坂のパターンを自動的に学習し、その学習結果にしたがって、各時点以降の運行条件を予測して電池の充放電や装置の温度を制御する手段を設けることにより、ハイブリッド自動車でのエネルギ利用効率を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるハイブリッド自動車の走行制御に関する。さらに詳しくは、車両に搭載された制御装置が、その車両の走行パターンを学習することにより、ハイブリッド自動車用電池の充放電の予測制御および電池やインバータ、電動発電機などのハイブリッド走行装置の温度を制御する装置に関する。本発明は、定期バス用車両、通勤用車両、送迎用車両、配送用車両、あるいは資材もしくは製品の運搬用車両、その他限定的な区間で同一の走行パターンにより、繰り返し運行される車両について利用する。
【背景技術】
【0002】
実用されているハイブリッド自動車では、上り坂など原動機の負荷が大きい状態で走行しているときには、電池から電気エネルギが供給され、車載の電動発電機は電動機モードとなって電気的な補助加速が行われる。補助加速の状態にあるときに、これが長くつづき電池の充電量が設定値を下回ることになると、電動発電機は自動的に発電機モードに転換されるか、電気的な補助加速力が停止するか絞られる。これにより、車載の電池が原動機のエネルギにより、あるいは走行エネルギにより充電されるように切り替わるか放電が停止するかその量が絞られる。この切替が行われるときの電池の残存容量は、車両の性質や設計により異なるが、例えば充電可能容量の20〜25%程度に設定されている。この制御は現在広く販売されている車両では、車載のプログラム制御回路により電池の残存容量を監視し、設定された制御目標にしたがって自動的に実行されるように設計されている。
【0003】
ハイブリッド車両が下り坂を走行しているときには、車載の電動発電機は発電機モードとなって、車両は電気制動の状態になる。走行路面が平坦であるときも、運転者がアクセル・ペダルの踏込みを浅くする、または解放すると、電動発電機は発電機モードになって電気的な補助制動の状態になる。この電気制動の状態では、電動発電機から電池に電気エネルギが供給され電池が回生充電される。これは運転者にとって、エンジン・ブレーキが作用しているときと同等の感覚を与える。この状態がつづき電池の充電量が設定値を上回ると、制御回路は自動的に電気制動を禁止する、あるいは電気制動により発生した電気エネルギを抵抗器に供給し熱放散させるように接続を転換する。この接続転換が行われるときの電池の残存容量は、例えば75〜80%程度に設定されている。
【0004】
この回生充電の作用により、車両の制動により発生したエネルギを蓄積しこれを車両の加速に利用することができるから、ハイブリッド自動車は燃料消費量が内燃機関のみを備えた車両より改善される。この作用が車両が走行する路面の状態に応じて繰り返し発生するときには、燃料消費量は明らかに経済的になる。しかし、上記のように電池の充電量にはその下限および上限が設定されていて、走行路面で上り坂または下り坂の状態が長くつづくと、電池の充電量はその下限または上限に固定されてしまい、ハイブリッド自動車としての経済性は損なわれる。
【0005】
実際の車両運行下では、ハイブリッド用電池が上限容量状態になっているのに、走行路面はさらに下り坂がつづく、あるいは、ハイブリッド用電池の充電量が下限容量状態になっているのに、車両は上り坂を継続している、というような状態が発生しうる。このような状態が発生すると、制動により生じるエネルギを回生して加速に利用するという、ハイブリッド自動車の利点が生かされないことになる。
【0006】
商業用でも自家用でも、車両はいずれその基地に帰ってくるのであるから、基地を出発してからその基地に帰着するまで、すべての行程で車両の加速時または上り坂時にはハイブリッド用電動発電機を電動機として利用し、車両の減速時または下り坂時にはハイブリッド用電池に充電を行うように設計することが望ましい。しかしそれには車載電池の容量を大きくしなければならず、現実的ではない。また、車載電池の容量を大きくすることは、そのために貨物や乗客のための有効搭載重量を犠牲にすることになる。
【0007】
このような観点から、事前にナビゲーション装置から走行する路面の状況の情報を取得して、その情報にしたがってハイブリッド自動車での充放電の予測制御を行う発明が下記の特許文献1〜3で提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−111209号公報
【特許文献2】特開2004−056867号公報
【特許文献3】特開2004−236472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者は、ハイブリッド車両の走行試験をしている間に、ハイブリッド車両の制御に走行パターンを学習して、その学習に基づいて予測制御をすることができるのではないかと考えた。たとえば、上り坂を走行中に運転者はその道路に慣れていて、その上り坂がまもなく終了し平坦路面あるいは下り坂になることを知っている。
【0010】
このような場面では、その上り坂路にかかる前に、予定されている上り坂を完了できるように電池を充電するように制御して、上り坂の途中で電池の充電量が尽きることがないように制御することが経済的であろう。あるいは、上り坂の最終段階で電池に設定された最低充電量の余裕を多少割り込んでも、あと少しだけ例外的に電動走行を継続し、その上り坂を過ぎてから電池を充電するモードに転換するように制御することが経済的であろう。
【0011】
たしかに、カーナビゲーション装置からの情報を用いて、予測制御することは可能である。しかし、路線バス用車両、通勤用車両、特定区間の配送用車両(例、二つの町の郵便局相互間)、駅と事業所との間の送迎用車両、工場と倉庫との間で資材もしくは製品を運搬する車両など、定められた区間で同一の走行パターンが繰り返される車両がかなりある。このような車両については、必ずしもカーナビゲーション装置を必要とせず、車載のプログラム制御装置に学習機能を設けて走行パターンを学習させ、その学習機能によって学習した走行パターンにしたがって、ハイブリッド用電池の充放電について、予測制御を行うことができるのではないかと考えた。
【0012】
このように考えると、一般にきわめて多くの車両でも、多くの時間について、定型的な区間を走行しているのではないかと考えることができる。月曜日から金曜日までは通勤用に利用し、土曜日または日曜日には買い物に利用するような使い方をしている自家用車両については、月曜日から金曜日までは定型的な区間を走行していることになる。業務用車両については、一定区間の資材または製品の運搬、あるいは決められた区間の送迎などに利用され、大部分は定型的な区間を運行している車両が多いことになる。
【0013】
また、ハイブリッド走行を行うための装置である、電池、インバータ、電動発電機(モータ)も温度が所定以上上昇しないように制御が行われているが、上述の電池の充放電制御と同様に走行パターンを学習すれば、その学習した走行パターンにしたがって予測制御が可能となる。
【0014】
すなわち本発明は、定常的に同一の走行パターンで走行する車両に走行パターンの学習機能を設け、その学習した走行パターンから走行条件を予測して、燃料消費量がさらに経済的になるように制御することができるハイブリッド自動車を提供することを目的とする。本発明は、同一の走行パターンが繰り返し利用されるハイブリッド自動車について、その走行パターンを自動的に学習する機能を設け、そして、その車両が走行途上にある一つの時点では、その過去に学習した走行条件を自動的に探索し、類似の走行条件を探すことができると、それ以降の相応の時間はその車両がすでに学習した内容に倣って走行するものとして、車載電池の充放電や各装置の温度をより合理的に予測制御することができる装置を提供することを目的とする。また、学習によって走行パターンの更新を常時行うことにより、より走行パターンに適合する充放電が可能なように走行制御を行うことを目的とする。
【0015】
さらに具体的には、車載の制御装置に蓄積された一定の区間(二点の間の区間に限らず、三点を結ぶ区間、あるいは四点の間を相互に結ぶ六つの区間でもよい)を走行中である車両について、その走行途上ではその区間の走行がすでに一回以上にわたり経験された走行条件が繰り返されるものとして、以降の走行状態を予測して、その予測にもとづきハイブリッド用電池の充放電制御や温度の制御をより経済的に行うことができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、走行開始点からの走行距離にしたがって加速および減速の走行パターンを学習する手段と、その走行パターンが繰り返されるときに未走行の区間の走行が前記学習する手段の学習内容にしたがって実行されるものと予測してハイブリッド走行用電池の充放電制御を行う手段と、ハイブリッド走行装置の温度の制御を行う手段を実行する手段とを備えたことを特徴とする。
【0017】
上記「走行開始点」は、例示すると
1.車両のエンジン・キーが「オン」に操作されたとき、
2.エンジン・キーが「オン」に操作され、前進ギヤが操作設定されたとき、
3.エンジン・キーが「オン」に操作され、パーキング・ブレーキが解除されたとき、
4.エンジン・キーが「オン」に操作され、前進車速が零から設定値(例、5km/h)を越えたとき、
5.エンジン・キーが「オン」に操作され、操舵輪が所定角度以上操作されたとき、
6.上記1〜5の二以上が同時に成立するとき、
7.上記1〜5の三以上が同時に成立するとき、
8.車両に装備されたリセット・スイッチが操作されたとき、
9.その他
により判定することができる。
【0018】
上記「その他」には、1.車庫、折り返し点、その他に設置された電波送信源からの特定の電波信号を受信したとき、またはその電波信号が消滅したとき、2.カーナビに連動する走行開始点、などが考えられる。
【0019】
上記「加速および減速の走行パターン」は、車両の加減速の状態のパターンであり、路面が上り坂、下り坂であるかに大きく左右されるパターンである。この加減速のパターンは動力装置の負荷が所定以上であるか所定以下であるか、ブレーキ(エンジン・ブレーキを含む)が利用されたか、その他により検出することができる。平坦路を走行する場合であっても、配送車のように決まったパターンで発進、停車を行う場合も含むことができる。
【0020】
「走行パターンを学習する手段」は、一例として車速情報や駆動トルクの情報などを走行開始点からの走行距離にしたがって記録して、これを後から読出して利用(または参照)することができるように保持する手段である。
【0021】
上記「学習内容にしたがって実行されるものと予測してハイブリッド走行用電池の充放電制御を実行する」とは、実際の制御が実行される前のいわゆる「先読み」であり、さらに具体的にはハイブリッド用電池の充電または放電が以前に経験され記録保持されている過去の走行パターンが、その通りに、あるいはほとんどその通りに繰り替えされるものとして制御(電池の充放電制御)を実行することをいう。また、ハイブリッド走行装置の温度を制御するとは、インバータ、電動発電機、電池などのハイブリッド走行装置の温度の制御についても過去の走行パターンにもとづいて制御することをいい、例えば一時的に規格外に陥ることも許容するような制御を行うことをいう。
【0022】
本発明は、前記ハイブリッド走行用電池の充放電制御には、前記学習内容から、例えば、上り坂の終わりが接近しているとき、または下り坂の始まりが接近しているとき、その他のときに、その電池に設定された充電量の上下限を一時的に変更して、充電量を有効に利用することができる制御手段を含む構成とすることができる。
【0023】
前記学習する手段の学習内容は、一つの走行開始点からの走行パターンが繰り返されることにより記録として蓄積された勾配および距離に係る情報であり、その手段が有効であるように設定されているときに、すでに学習済みのパターンを常に補正する手段を含むことが望ましい。
【0024】
前記学習する手段は、すでに学習済みのパターンを常に修正することにより、ひんぱんに走行を繰り返す走行を繰り返す区間については、その路面勾配などの情報が修正されてその保持内容が正しく維持され、またその走行パターンによる制御の精度も向上する。
【0025】
前記学習する手段は、複数の走行路に対応して操作により切替設定を行う手段を含み、一つの車両についてすでに学習された複数のパターンを区別して記憶する手段と、この記憶する手段に記憶されたパターンの一つを選択設定する手段とを備えた構成とすることができる)。これは例えば運転席に設置される操作スイッチ、ナビゲーション装置の画面(通称「カーナビ」以下同じ)その他地図情報画面を利用して表示するように構成することができる。
【0026】
運転席に設けた表示画面と、その表示画面に走行路線を選択表示する手段と、その選択表示された走行路線の情報にしたがってすでに学習されたパターンの一つを選択する手段とを備える構成とすることができる。この構成も運転席に設置されるナビゲーション装置の画面その他地図情報の画面を利用して表示することができる。
【0027】
車両に複数の衛星から送信される信号を受信して自らの地図上の位置を自動的に同定するナビゲーション装置(通称「カーナビ」)を備え、そのナビゲーション装置に記録された走行記録に対応して前記学習する手段の学習内容を利用しもしくは変更して利用する手段を備えた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のハイブリッド自動車は、過去に走行した走行パターンを保持して、その走行パターンを参照しながら、いわゆる「先読み」をしながらハイブリッド用電池の充放電ならびにハイブリッド走行装置の温度を制御することができる。したがって、充放電制御についていえば、設定された限界値になると充放電の制御を自動的に転換するなど、その時点の装置の状況(とくに電池の状態)のみにしたがって制御を行う場合にくらべて、充電量不足や充電不可能に陥ることは少なくなり、総じて燃料消費量を経済化することができる。また、装置の温度についても充放電制御と同様に走行パターンにもとづいて予測制御をすることで、装置を限界まで有効に利用してハイブリッド走行装置によるエネルギの有効利用を可能にできる。
【0029】
また、学習する走行パターンについては、学習済みのパターンを常に修正することにより、路線バス、配達用貨物車などでひんぱんに走行を繰り返す区間での路面などの情報の精度を向上させ、よりいっそうエネルギ効率がよいハイブリッド自動車の走行制御が可能となる。
【0030】
充電容量や装置温度の「限界値の一時的な拡大」は、ただちに回復する見込みがある場合にこれらを許容するように、電池の性能や装置に対して合理的に制御することにより、設計規格により設定された余裕が長時間にわたり、あるいは定常的に食い潰されることにはならないように装置を設計することができる。したがって本発明を実施することにより電池の有効寿命や装置の性能の劣化を早めることにはならない設計が可能であると考えられる。この限界値の一時的な拡大は、いわゆる予測制御(上記「先読み」)により設計することができる。この限界値の一時的な拡大により、装置の余裕分を有効に利用して装置全体をコンパクトにすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施例)
図1は本発明実施例装置について、その内燃機関を含むハイブリッド動力装置を説明するためのブロック構成図である。内燃機関1は車両の主動力機関であり、この例ではディーゼル機関である。このディーゼル機関1の出力軸には三相交流回転機2の回転軸の一端が固定的に連結されている。この三相交流回転機2の回転軸の他端には、クラッチ3を介して変速機5の入力軸が連結される。変速機5の出力軸は図外で差動歯車を介して駆動車軸に連結される。三相交流回転機2の固定子電気巻線にはインバータ4から三相交流が供給される。この三相交流により回転軸まわりに回転磁界が発生される。インバータ4には電池9から直流電流が供給される。
【0032】
インバータ4から三相交流回転機2に供給される三相交流の位相回転速度は、プログラム制御手段10により制御される。この三相交流の位相回転速度が三相交流回転機2の機械的な回転速度より大きくなると、三相交流回転機2は電動機として作用し、内燃機関1の出力回転軸に補助的な回転加速度を与える。この三相交流の位相回転速度が三相交流回転機2の機械的な回転速度より小さくなると、三相交流回転機2は発電機として作用し、クラッチ3および変速機5を介してこの車両の駆動車軸(図外)に対して制動力を発生する。これは車両を運転する運転者に対しては、いわゆるエンジン・ブレーキが作用している感覚を与える。このとき三相交流回転機2から発生する交流電流は、インバータ4により直流電流に変換されて電池9を充電する。この電池9から供給される電流はインバータ4を介して三相交流回転機2を駆動することにより、前記制動力により発生したエネルギは、車両の駆動動力として回生されることになる。
【0033】
インバータ4は電池9の直流端子と三相交流回転機2の三相交流端子とを双方向に結合する装置である。この装置は交流による電動発電機を搭載するハイブリッド自動車に広く採用されている装置であり、ここではその詳しい構成および動作の説明を省略する。この三相交流端子の回転位相は前記プログラム制御手段10により制御される。プログラム制御手段10にはそれぞれインタフェース回路11を介して、電池の充電量、電池の充放電電流の検出出力、車速、変速機ギヤ位置、内燃機関の回転情報、アクセル・ペダルの踏込み量、その他位相制御に必要な情報が入力する。
【0034】
電池9は車両フレームその他に配置された大容量の二次電池である。例示すると、車種に応じてその端子電圧は200〜350Vである。電池9は多数のセルが電気的に直列接続されることにより構成され、その両端子はインバータ4の直流端子に接続される。インバータ4の直流端子にはコンデンサ19が並列的に接続され、インバータ4その他から電池の端子に入力するスパイク状の電圧変動を吸収する。電池9の両端子にはDC−DCコンバータ18の入力回路が接続される。このDC−DCコンバータ18の低圧側出力からは、車両各部の電装品(例、定格電圧24V)に動作電流が供給される。このDC−DCコンバータ18の出力端子側に、車両の内燃機関が停止状態にあるときの各種電装品の動作電圧を保持するために、蓄電池(例、定格電圧24V)を並列に接続する設計が広く利用されているが、この図面ではこれを省略する。
【0035】
ここで本発明の特徴とするところは、この車両が定められた区間に運行される車両として利用されるときのハイブリッド走行制御にある。このための制御装置を特に路面情報制御手段20として表示する。この路面情報制御手段20は、そのソフトウエアについては、その大部分もしくは全部をプログラム制御手段10に内蔵させる設計とすることができる。
【0036】
図2はこの路面情報制御手段20の構成を説明するためのブロック構成図である。この図2において、一点鎖線で区分された図の左上の部分は既存のハイブリッド制御用のプログラム制御手段である。本発明実施例装置は既存のプログラム制御手段に、本発明の制御に係るソフトウエアおよび小さいハードウエアを付加することにより構成された。制御回路21は本発明を実施するための基本となる回路であり、路面情報ファイル22を参照するとともに、リセット制御回路23によりリセット制御される。路面情報ファイル22は車両走行に対応して各種センサその他からの情報を保持する。リセット制御回路23にはハードウエアとしての操作入力端24が接続され、さらにこの車両の走行情報源25が接続される。走行情報源25は車速情報、内燃機関の回転情報、変速機位置情報など、関連装置からの電気信号を一つのブロックで図示する。
【0037】
車両方位情報は内蔵の磁気センサによる車両の方位を電気信号として出力する装置であり、この電気信号もリセット制御回路23を介して制御回路21に接続されている。この車両にカーナビ装置(自動車ナビゲーション装置)27が搭載されている場合には、カーナビ装置の位置情報を電気信号として取込むことができるように、必要な電気配線およびコネクタ等が施設される。基点信号器28は地上側の固定設備であり、微弱な電波信号(または超音波信号)を送信する装置であり、車両側でこの信号を受信するためのアンテナ(またはマイクロホン)を介して、その受信出力電気信号はリセット制御回路23に取込まれる。この基点信号器28は例えば、定期バスの終点、通勤送迎用バスの従業員出入り口、工場の製品出荷口、同じく部品材料受け入れ口、などに配置される。
【0038】
この装置はハイブリッド自動車に設けられた装置であり、そのハイブリッド車両が定期バス、通勤用車両、定期貨物車両、工場の出荷口と倉庫との間、あるいは倉庫と工場の材料受け入れ口との間の運搬用車両、その他定常的にその走行する路面が限定されているときに合理的に利用される。すなわち定常的に走行する路面について、とくにその路面勾配、すなわち車両の加速度(および減速度)の情報をその車両に蓄積し、走行パターンを学習する。そして、同一の走行路線について学習済みのパターンは、走行の都度、その情報を補正して、情報の精度を向上させるとともに、経時的に変化する走行パターンにも適合するものにする。そして、車両の走行中は、この学習した走行パターンにしたがって、つぎつぎに路面勾配が変化するものと予測して、ハイブリッド制御用の電池の充放電や装置の温度の制御を行うところにその特徴がある。
【0039】
ここで、充放電制御について説明する。図3にその制御流れ図の大略を示す。すなわち車両のキー・スイッチがオンに操作されることにより、その車両の走行開始点の情報を入力する。この入力は操作による場合もあり、無線信号により情報を入力する場合もある。無線信号による場合は例えば上述の基点信号器28の出力電波信号である。これらの基点情報がまったく入力されなくとも、基点設定(ODO=0km)から路面勾配、すなわち車両の加速度および減速度の計測および記録を開始して、その情報を基点からの走行距離(ODO)に対応させてメモリに蓄積する。
【0040】
そしてこの走行距離に対応する路面勾配の変化が、すでに装置に蓄積されている過去の路面情報と類似のパターンがあるかを照合する。過去の蓄積記録と類似のパターンが発見されると、その車両はその類似のパターンの過去の蓄積記録と同じ道路を走行しているものとして、燃料供給量について予測制御を実行することができる。すなわちこれから走行する路面に上り坂が予測されるときには、ハイブリッド用電池の充電量を多めになるように制御する。そしてその上り坂にさしかかったときに、その路面のパターンに対応して電池に蓄積されたエネルギを供給することができる。これから走行する路面に下り坂が予測されるときには、ハイブリッド用電池の充電量を少なめになるように制御する。これによりその車両がその下り坂にさしかかったときには、ハイブリッド機関を制動充電に制御して、制動により発生するエネルギを電気エネルギとして電池に充電させることができる。
【0041】
また、上り坂を走行して電動補助加速走行をしているときに、記憶されている路面パターンでもう少しで上り坂が終わることが予測されるときには、電池の残存容量の下限であっても、一時的に、例えば5%だけその下限設定値を下げて放電することを許容し、続いてくる下り坂、あるいは平坦路で充電を行うように制御する。同様に、下り坂を回生を行いながら走行しているときに、記憶されている路面パターンで下り坂が終りになり、その先に上り坂があるときは、その上り坂で電動補助加速走行を行って電気を使用することが予測できるので、通常の回生による充電の上限容量を一時的に、例えば5%だけ上限値を上げて充電を行うように制御する。
【0042】
このように、一時的に充放電の上限値、下限値を変更しても、路面パターンで続けてその放電あるいは充電を解消するように、充電あるいは放電が行われるので、電池に対して過剰放電あるいは過剰充電が行われることはなく、電池の有効寿命を早めることにはならない。それにより、路面パターンに対応して、有効に電気エネルギを回生あるいは使用できるため、燃料消費を低減できる効果は大きい。
【0043】
また、図4は、温度制御にかかるシステムの構成例を簡単に説明するもので、ハイブリッド走行装置を構成する電池9、インバータ4、三相交流回転機2にはそれぞれ、温度センサ30−1〜30−3・・・が設けられており、プログラム制御手段10は、これらの温度センサから入力された機器の温度を監視しながら、機器の温度が規定値以上にならないように制御している。例えば、充電によって電池の温度が所定の閾値になると、充電を停止し、あるいは三相交流回転機2の温度も所定の上限温度になれば、電動を停止して動力を出力しないように制御している。この場合に、上述の電池の充放電制御と同様の制御論理により、走行パターンの情報により、あと少しで上り坂が終了する、下り坂が終了するなどが予測される場合には、当該温度の上限値を一時的に解除して、補助加速、あるいは回生制動を行う制御をすることができる。これにより、装置の規格上、一時的にその規格を超える制御をすることになるが、それにより、装置の性能が劣化するものではなく、エネルギの利用効率を向上させ、燃料消費量を低減する効果は大きい。
【0044】
このように過去に経験した路面パターンを繰り返し走行するときには、図3のフローチャートに示すように、これから現れるであろう路面勾配を予測して、多めに充電する、あるいは多めに放電する、などの予測制御を実行することができる。これにより、坂道を上っている車両が電池の充電量不足により、放電制御から充電制御に切換えざるをえなくなり、燃料消費量を不用意に増大させる可能性が小さくなる。また、坂道を下っている車両がその坂道のつづく区間で相応に電池を充電させて、燃料消費量を抑制するように制御することができる。
【0045】
また、路面パターンだけでなく、発進、停車を繰り返す走行パターンにおいても、同様の論理で、補助加速、回生制動を行うことで、よりエネルギの利用効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
上記説明は単純な上り坂あるいは下り坂について車両が同じ路面を往復する例により説明したが、本発明は車両が二点間を繰り返し往復するような、例えば定期バスのような運行をする車両のみに限らない。三地点間の三角双方向の運行、あるいは四地点間の相互運行に利用される車両についても、各区間について勾配情報を自動的に蓄積することができる。そして、その蓄積された情報を参照することにより、走行中の路面を自動的に特定するように制御して燃料消費量を経済化するように運行することができる。
【0047】
車両の制御回路メモリに記憶された過去の走行区間についての情報は、車両が長期間にわたり利用されるにしたがって、その参照することができる路面パターンは多くなる。すなわち路面情報の量は多くなる。この路面情報の情報を適宜利用することにより、単純に電池の充電量や装置温度のみに基づいてハイブリッド制御を行う場合にくらべて、平均的な燃料消費量は、その路面情報が蓄積されるにしたがって経済化される可能性が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明実施例装置のブロック構成図。
【図2】本発明実施例の路面情報制御手段(20)を説明するブロック構成図。
【図3】本発明実施例装置の制御フローチャート。
【図4】温度制御に構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0049】
1 内燃機関
2 三相交流回転機
3 クラッチ
4 インバータ
5 変速機
6 ギヤ位置センサ
7 回転センサ
8 車速センサ
9 電池
10 プログラム制御手段
11 インタフェース回路
12 アクセル・ペダル
13 アクセル・センサ
14 燃料噴射ポンプ
15 電子ガバナ
16 充電量検出手段
17 電流検出手段
18 DC−DCコンバータ
19 コンデンサ
20 路面情報制御手段
21 制御回路
22 路面情報ファイル
23 リセット制御回路
24 操作入力端
25 走行情報源
26 車両方位
27 カーナビ装置
28 基点信号器
30 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行開始点からの走行距離にしたがって加速および減速の走行パターンを学習する手段と、
その走行パターンが繰り返されるときに未走行の区間の走行が前記学習する手段の学習内容にしたがって実行されるものと予測してハイブリッド走行用電池の充放電制御を行う手段と、ハイブリッド走行装置の温度制御を実行する手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
前記ハイブリッド走行用電池の充放電制御を行う手段には、その電池に設定された充電量の上下限を変更する制御手段を含む請求項1記載のハイブリッド自動車。
【請求項3】
前記学習する手段の学習内容は、一つの走行開始点からの走行パターンが繰り返されることにより記録として蓄積された勾配および距離に係る情報であり、その手段が有効に設定されているときにすでに学習済みのパターンを常に補正する手段を含む請求項1記載のハイブリッド自動車。
【請求項4】
前記学習する手段は、複数の走行路に対応して操作により切替設定を行う手段を含み、一つの車両についてすでに学習された複数のパターンを区別して記憶する手段と、この記憶する手段に記憶されたパターンの一つを選択設定する手段とを備えた請求項1記載のハイブリッド自動車。
【請求項5】
運転席に設けた表示画面と、その表示画面に走行路線を選択表示する手段と、その選択表示された走行路線の情報にしたがってすでに学習されたパターンの一つを選択する手段を備えた請求項1記載のハイブリッド自動車。
【請求項6】
車両に複数の衛星から送信される信号を受信して自らの地図上の位置を自動的に同定するナビゲーション装置を備え、
そのナビゲーション装置に記録された走行記録に対応して前記学習する手段の学習内容を利用しもしくは変更して利用する手段を備えた
請求項5記載のハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−162318(P2008−162318A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351599(P2006−351599)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】