説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】自動変速機のダウンシフト時における違和感の発生を抑制するハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】専ら電動機MGを走行用の駆動源とする走行モードから自動変速機18のダウンシフトが行われる場合であってエンジン12の始動が併行して実行される場合には、そのエンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて電動機MGの回転速度上昇が抑制させられることから、その電動機MGのトルクのうち変速進行のために分配されるトルクが減らされてエンジン始動にその分のトルクが用いられることで、クラッチK0のスリップが低減されてエンジン始動に要するトルク及び時間が低減されると共に、変速中も駆動輪側へ駆動力が伝達されることからダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電動機との間の動力伝達経路にクラッチを備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、自動変速機のダウンシフト時における違和感の発生を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン及び電動機を選択的に走行用の駆動源として用いるハイブリッド車両の一例として、エンジンと電動機との間の動力伝達経路に、係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチを備えると共に、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路に自動変速機を備えたハイブリッド車両が知られている。斯かるハイブリッド車両において、駆動力の応答性向上とエンジン始動のレスポンス向上を実現するための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両のエンジン始動制御装置がそれである。この技術によれば、専ら電動機を動力源として走行するEVモードでの走行中にアクセル開度が所定値以上となった場合、変速機のダウンシフト中にエンジンを始動することで、駆動力の応答性向上とエンジン始動のレスポンス向上を両立させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−207643号公報
【特許文献2】特開平11−082260号公報
【特許文献3】特開2006−306210号公報
【特許文献4】特開2010−030486号公報
【特許文献5】特開2010−111144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術により自動変速機のダウンシフト中にエンジンを始動する場合、ショックの発生を抑制するために車両の駆動力が低下させられ好適には0とされるが、通常であれば前記自動変速機のダウンシフトにより駆動力が大きくなるにも関わらず、前記エンジンの始動と併行して行われるダウンシフトでは駆動力が抜けるように感じるため、運転者に違和感を与えるおそれがあった。このような課題は、ハイブリッド車両のドライバビリティ向上を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、自動変速機のダウンシフト時における違和感の発生を抑制するハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、エンジンと電動機との間の動力伝達経路に、係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチを備えると共に、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路に自動変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、専ら前記電動機を走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジンの始動が併行して実行される場合には、そのエンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が抑制させられることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、専ら前記電動機を走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジンの始動が併行して実行される場合には、そのエンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が抑制させられることから、その電動機のトルクのうち変速進行のために分配されるトルクが減らされてエンジン始動にその分のトルクが用いられることで、前記クラッチのスリップが低減されてエンジン始動に要するトルク及び時間が低減されると共に、変速中も駆動輪側へ駆動力が伝達されることからダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。すなわち、自動変速機のダウンシフト時における違和感の発生を抑制するハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両に係る駆動系統の構成を概念的に示す図である。
【図2】図1のハイブリッド車両に備えられた自動変速機の構成の一例を示す骨子図である。
【図3】図2の自動変速機の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
【図4】図1のハイブリッド車両における電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1のハイブリッド車両において専ら電動機を駆動源とする走行状態とエンジンを駆動する走行状態とを切り替えるための判定に用いられる関係の一例を示す図である。
【図6】エンジンの始動を伴わない自動変速機のダウンシフトに際しての各関係値の経時変化を例示するタイムチャートである。
【図7】自動変速機のダウンシフトとエンジンの始動制御が同期して実行される場合であって、本実施例の制御が行われない従来の制御における各関係値の経時変化を例示するタイムチャートである。
【図8】自動変速機のダウンシフトとエンジンの始動制御が同期して実行される場合であって、本実施例の制御が行われる場合における各関係値の経時変化を例示するタイムチャートである。
【図9】図1のハイブリッド車両に備えられた電子制御装置によるエンジン始動制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、好適には、専ら前記電動機を走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジンの始動が併行して実行される場合であり、且つ、前記クラッチの係合が完了していない場合(クラッチの係合前)には、前記エンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が抑制させられるものである。このようにすれば、前記クラッチにスリップが発生し易い係合前の段階において、そのクラッチのスリップが低減されてエンジン始動に要するトルク及び時間が低減されると共に、変速中も駆動輪側へ駆動力が伝達されることからダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。
【0010】
また、本発明において、好適には、専ら前記電動機を走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジンの始動が併行して実行される場合であり、且つ、前記クラッチの係合が完了している場合(クラッチの係合後)には、前記エンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が早められるものである。このようにすれば、エンジン始動直後は定常時よりもエンジントルクが大きくなるので、そのエンジンの回転速度すなわち前記電動機の回転速度の上昇を早めることができ、変速の完了を早くすることができる。
【0011】
また、本発明において、好適には、専ら前記電動機を走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジンの始動が併行して実行される場合において、そのダウンシフトの目標変速段が一方向クラッチの係合により成立させられる変速段である場合には、前記クラッチの係合前に前記エンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が抑制させられる制御、及び、前記クラッチの係合後に前記エンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が早められる制御の少なくとも一方が実行されるものである。このようにすれば、前記電動機の回転速度が目標変速段の同期回転速度を上回ることでショックが発生し易い傾向にある、一方向クラッチの係合により成立させられる変速段を目標変速段とするダウンシフトに関して、そのダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。
【0012】
また、本発明は、好適には、前記エンジンのクランク軸が前記クラッチを介して前記電動機のロータに接続されると共に、そのロータと駆動輪との間の動力伝達経路にトルクコンバータ及び自動変速機を備えたハイブリッド車両に好適に適用される。また、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路にトルクコンバータを介することなく自動変速機を備えたハイブリッド車両に本発明が適用されても構わない。
【0013】
また、本発明は、好適には、専ら電動機を走行用の駆動源とするEV走行モードから前記エンジン及び電動機を共に駆動源とするEHVモード(ハイブリッド走行モード)への移行時におけるエンジン始動制御と、自動変速機のダウンシフトが併行して実行される場合に好適に適用される。
【0014】
また、本発明において、前記自動変速機のダウンシフトと併行して前記エンジンの始動が行われるとは、好適には、前記自動変速機の変速指令とエンジンの始動指令とが略同時に出力される場合をいうが、前記エンジンの始動制御と前記自動変速機のダウンシフト制御とが少なくとも一部において時間的に重複するものであればよく、必ずしもそれらの制御の開始時点及び終了時点が一致しなくともよい。
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10に係る駆動系統及び制御系統の構成を概念的に示す図である。この図1に示すハイブリッド車両10は、駆動源として機能するエンジン12及び電動機MGを備えており、それらエンジン12及び電動機MGにより発生させられた駆動力は、トルクコンバータ16、自動変速機18、差動歯車装置20、及び左右1対の車軸22をそれぞれ介して左右1対の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。また、上記電動機MG、トルクコンバータ16、及び自動変速機18は、何れもトランスミッションケース36(以下、ケース36という)内に収容されている。このケース36は、例えばアルミダイキャスト製の分割式ケースであり、車体等の非回転部材に固定されている。斯かる構成から、上記ハイブリッド車両10は、上記エンジン12及び電動機MGの少なくとも一方を走行用の駆動源として駆動される。すなわち、上記ハイブリッド車両10においては、専ら上記エンジン12を走行用の駆動源とするエンジン走行モード、専ら上記電動機MGを走行用の駆動源とするEV走行(モータ走行)モード、及び上記エンジン12及び電動機MGを走行用の駆動源とするEHV走行(ハイブリッド走行)モード等、複数の走行モード等が選択的に成立させられる。
【0017】
上記エンジン12は、例えば、燃料が燃焼室内に直接噴射される筒内噴射型のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、上記エンジン12の駆動(出力トルク)を制御するために、電子スロットル弁を開閉制御するスロットルアクチュエータ、燃料噴射制御を行う燃料噴射装置、及び点火時期制御を行う点火装置等を備えた出力制御装置14が設けられている。この出力制御装置14は、後述する電子制御装置50から供給される指令に従ってスロットル制御のために上記スロットルアクチュエータにより上記電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射制御のために上記燃料噴射装置による燃料噴射を制御し、点火時期制御のために上記点火装置による点火時期を制御する等して上記エンジン12の出力制御を実行する。
【0018】
前記トルクコンバータ16のポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間には、それらポンプ翼車16p及びタービン翼車16tが一体的に回転させられるように直結するロックアップクラッチLUが設けられている。このロックアップクラッチLUは、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至開放(完全開放)の間で制御されるようになっている。また、前記トルクコンバータ16のポンプ翼車16pには機械式の油圧ポンプ28が連結されており、そのポンプ翼車16の回転に伴いその油圧ポンプ28により発生させられた油圧が油圧制御回路34に元圧として供給されるようになっている。
【0019】
図2は、前記自動変速機18の構成の一例を示す骨子図である。なお、斯かる自動変速機18は、その軸心に対して対称的に構成されているため、図2の骨子図においてはその下側が省略されている。この図2に示すように、前記自動変速機18は、前記トルクコンバータ16のタービン翼車16tに連結された入力軸38と、前記差動歯車装置20に連結された出力軸40との間の動力伝達経路に、例えばシングルピニオン型の遊星歯車装置42、44を主体として構成され、予め定められた複数の変速段(変速比)の何れかが選択的に成立させられる有段式の自動変速機構である。上記遊星歯車装置42、44は、それぞれサンギヤS1、S2、遊星歯車P1、P2、それら遊星歯車P1、P2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、CA2、遊星歯車P1、P2を介してサンギヤS1、S2と噛み合うリングギヤR1、R2を備えている。
【0020】
前記自動変速機18は、複数の油圧式摩擦係合装置を備え、それら係合装置の係合乃至解放の組み合わせに応じて予め定められた複数の変速段を選択的に成立させる変速機構である。すなわち、前記自動変速機18においては、上記サンギヤS1がブレーキB1を介して前記ケース36に選択的に連結されるようになっている。また、上記キャリアCA1とリングギヤR2とが一体的に連結され、第2ブレーキB2を介して前記ケース36に選択的に連結されるようになっていると共に、一方向クラッチF1を介してそのケース36に対する一方向の回転が許容されつつ逆方向の回転が阻止されるようになっている。また、上記サンギヤS2が第1クラッチC1を介して上記入力軸38に選択的に連結されるようになっている。また、一体的に連結された上記キャリアCA1及びリングギヤR2が第2クラッチC2を介して上記入力軸38に選択的に連結されるようになっている。また、上記リングギヤR1とキャリアCA2とが一体的に連結されると共に上記出力軸40に連結されている。
【0021】
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、何れも従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、例えば互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するための装置である。
【0022】
図3は、前記自動変速機18の変速作動に用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。この図3に示すように、前記自動変速機18においては、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.20」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。なお、第2速ギヤ段(或いは第3速ギヤ段)から第1速ギヤ段へのダウン変速時には、前記一方向クラッチF1により前記キャリアCA1及びリングギヤR2の前記ケース36に対する相対回転が阻止されるため、前記第2ブレーキB2は係合させられなくともよい。また、前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.72」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.00」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。また、前記第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.67」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γRが例えば「3.20」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
【0023】
図1に示すように、前記電動機MGは、前記ケース36により軸心まわりの回転可能に支持されたロータ30と、そのロータ30の外周側において前記ケース36に一体的に固定されたステータ32とを、備えており、駆動力を発生させるモータ(発動機)及び反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能を有するモータジェネレータである。この電動機MGは、インバータ56を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置58に接続されており、後述する電子制御装置50によりそのインバータ56を介してコイルに供給される駆動電流が調節されることにより、前記電動機MGの駆動が制御されるようになっている。換言すれば、上記インバータ56を介しての制御により前記電動機MGの出力トルクが増減させられるようになっている。
【0024】
また、前記エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路には、係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチK0が設けられている。すなわち、前記エンジン12の出力部材であるクランク軸26は、斯かるクラッチK0を介して前記電動機MGのロータ30に選択的に連結されるようになっている。また、その電動機MGのロータ30は、前記トルクコンバータ16の入力部材であるフロントカバーに連結されている。このクラッチK0は、例えば、油圧アクチュエータによって係合制御される多板式の油圧式摩擦係合装置であり、前記油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至開放(完全開放)の間で制御されるようになっている。すなわち、前記油圧制御回路34から供給される油圧に応じてそのトルク容量が制御されるようになっている。上記クラッチK0が係合されることにより、上記クランク軸26とトルクコンバータ16のフロントカバーとの間の動力伝達経路における動力伝達が行われる(接続される)一方、上記クラッチK0が開放されることにより、上記クランク軸26とトルクコンバータ16のフロントカバーとの間の動力伝達経路における動力伝達が遮断される。また、上記クラッチK0がスリップ係合されることにより、上記クランク軸26とトルクコンバータ16のフロントカバーとの間の動力伝達経路においてそのクラッチK0のトルク容量(伝達トルク)に応じた動力伝達が行われる。
【0025】
また、前記ハイブリッド車両10は、図1に例示するような制御系統を備えている。この図1に示す電子制御装置50は、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン12の駆動制御、前記電動機MGの駆動制御、前記自動変速機18の変速制御、前記クラッチK0の係合力制御、及び前記ロックアップクラッチLUの係合制御等の各種制御を実行する。なお、この電子制御装置50は、必要に応じて前記エンジン12の制御用、前記電動機MGの制御用、前記自動変速機18の制御用といったように、複数の制御装置に分けて構成され、相互に情報の通信が行われることで各種制御を実行するものであってもよい。
【0026】
図1に示すように、上記電子制御装置50には、前記ハイブリッド車両10に設けられた各センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、図示しないアクセルペダルの踏込量に対応してアクセル開度センサ62により検出されるアクセル開度ACCを表す信号、エンジン回転速度センサ64により検出される前記エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ66により検出される前記トルクコンバータ16のタービン翼車16tの回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、電動機回転速度センサ68により検出される前記電動機MGの回転速度(電動機回転速度)NMGを表す信号、電動機温度センサ70により検出される前記電動機MGの温度TMGを表す信号、車速センサ72により検出される車速Vを表す信号、水温センサ74により検出される前記エンジン12の冷却水温TWを表す信号、吸入空気量センサ76により検出される前記エンジン12の吸入空気量QAを表す信号、及びSOCセンサ78により検出される蓄電装置58の蓄電量(残容量、充電量)SOCを表す信号等が上記電子制御装置50に入力される。
【0027】
また、前記電子制御装置50から、前記ハイブリッド車両10に設けられた各装置に各種出力信号が供給されるようになっている。例えば、前記エンジン12の駆動制御のためにそのエンジン12の出力制御装置14に供給される信号、前記電動機MGの駆動制御のために前記インバータ56に供給される信号、前記自動変速機18の変速制御のために前記油圧制御回路34における複数の電磁制御弁に供給される信号、前記クラッチK0の係合制御のために前記油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁に供給される信号、前記ロックアップクラッチLUの係合制御のために前記油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁に供給される信号、及びライン圧制御のために前記油圧制御回路34におけるリニアソレノイド弁に供給される信号等が、前記電子制御装置50から各部へ供給される。
【0028】
図4は、前記電子制御装置50に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。なお、この図4に示す各制御部は、好適には、前記電子制御装置50に機能的に備えられたものであるが、それぞれ個別の制御部として構成されると共に相互に情報の通信を行うことで以下に詳述する各種機能を実行するものであってもよい。この図4に示す電動機作動制御部80は、基本的には、前記インバータ56を介して前記電動機MGの作動を制御する。具体的には、前記インバータ56を介して前記蓄電装置58から前記電動機MGへ電気エネルギを供給することによりその電動機MGにより必要な出力すなわち目標電動機出力が得られるように制御したり、その電動機により発電された電気エネルギを前記インバータ56を介して前記蓄電装置58に蓄積する等の制御を行う。
【0029】
変速制御部82は、前記自動変速機18による変速を制御する。例えば、予め定められた関係(変速マップ)から車両の走行状態例えば前記アクセル開度センサ62により検出されるアクセル操作量ACC及び前記車速センサ72により検出される車速V等に基づいて前記自動変速機18において成立させられるべき変速段を判定し、判定された変速段が成立させられるように前記油圧制御回路34を介して前記自動変速機18におけるクラッチC及びブレーキBの係合乃至解放を制御する。すなわち、各クラッチC乃至ブレーキBに対応して前記油圧制御回路34に備えられた電磁制御弁の出力圧を制御することにより、各クラッチC及びブレーキBにそれぞれ供給される油圧を制御することで斯かる変速制御を行う。
【0030】
エンジン始動制御部84は、前記エンジン12を始動させるエンジン始動制御を行う。例えば、専ら前記電動機MGを駆動源として用いる前記EV走行モードから、前記エンジン12を駆動源として用いる前記エンジン走行モード或いはハイブリッド走行モードへの移行に際して、前記クラッチK0を係合させることにより前記エンジン12を始動させる。すなわち、後述するクラッチ係合制御部86を介して前記クラッチK0をスリップ係合乃至完全係合させることにより、そのクラッチK0を介して伝達されるトルクにより前記エンジン12を回転駆動させる。斯かる回転駆動によりエンジン回転速度NEが引き上げられると共に、前記出力制御装置14を介してエンジン点火や燃料供給が開始されることで前記エンジン12の自律運転が開始される。
【0031】
図5は、前記ハイブリッド車両10において専ら前記電動機MGを駆動源とする走行状態と前記エンジン12を駆動する走行状態とを切り替えるための判定に用いられる関係の一例を示す図である。この図5に示すように、前記ハイブリッド車両10においては、専ら前記電動機MGを駆動源とする走行状態である前記EV走行モード(モータ走行領域)と、前記エンジン12を駆動する走行状態である前記エンジン走行モード或いはハイブリッド走行モード等(エンジン走行領域)との切り替えを判定する判定線Aが、電動機回転速度NMGと電動機トルク上限TMGLとに基づいて定められて記憶されている。上記エンジン始動制御部84は、この図5に示すような関係から、前記電動機回転速度センサ68により検出される電動機回転速度NMG及び要求駆動力(要求出力トルク)等の車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断して前記エンジン12の始動制御を行う。すなわち、モータ走行領域からエンジン走行領域への移行に際して前記エンジン12の始動制御を行う。なお、図5から明らかなように、前記ハイブリッド車両10におけるモータ走行制御は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルク域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域で実行される。
【0032】
クラッチ係合制御部86は、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して前記クラッチK0の係合制御を行う。すなわち、そのリニアソレノイド弁に対する指令値(ソレノイドに供給される電流)を制御することにより、そのリニアソレノイド弁から前記クラッチK0に備えられた油圧アクチュエータへ供給される油圧を制御する。斯かる油圧制御により、そのクラッチK0の係合状態を前述のように係合(完全係合)、スリップ係合、乃至開放(完全開放)の間で制御する。例えば、前記エンジン始動制御部84による前記エンジン12の始動制御に際して、前記クラッチK0を係合させる制御を行う。このクラッチ係合制御部86の制御により前記リニアソレノイド弁から前記クラッチK0へ供給される油圧に応じてそのクラッチK0のトルク容量(伝達トルク)が制御される。すなわち、上記クラッチ係合制御部86は、換言すれば、前記油圧制御回路34に備えられたリニアソレノイド弁を介して前記クラッチK0のトルク容量を制御するクラッチトルク容量制御部である。
【0033】
クラッチ係合判定部88は、前記クラッチK0が係合したか否かを判定する。好適には、前記クラッチK0が完全係合したか否かを判定するものであるが、そのクラッチK0のトルク容量が予め定められた閾値以上となったか否かを判定するものであってもよい。上記クラッチ係合判定部88は、例えば、前記エンジン12の回転速度NEと前記電動機MGの回転速度NMGの差ΔN(=NMG−NE)が予め定められた閾値未満となった場合に前記クラッチK0が係合したと判定する。好適には、その差ΔNが略0となった場合に前記クラッチK0が係合したと判定する。また、前記油圧制御回路34において、前記クラッチK0に対応する油圧アクチュエータへ供給される油圧を検出する油圧センサを備えた構成においては、その油圧センサにより検出される油圧が予め定められた閾値以上となった場合に前記クラッチK0が係合したと判定するものであってもよい。
【0034】
前記電動機作動制御部80は、前記変速制御部82による前記自動変速機18のダウンシフト(すなわち変速後の変速段に対応する変速比がその時点における変速比よりも大きい変速)と、前記エンジン始動制御部84による前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合において、通常のダウンシフト時すなわち前記エンジン12の始動が同期して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇を抑制する。すなわち、専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とする走行モードである前記EV走行モードから前記自動変速機18のダウンシフトが行われる場合であって、前記エンジン12の始動が併行して実行される場合には、そのエンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇を抑制する。例えば、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が併行して実行される場合には、通常のダウンシフト時よりも前記電動機MGの回転速度上昇レート(単位時間あたりの回転速度上昇率)を小さくすることにより、その電動機MGの回転速度の上昇を遅らせる。具体的には、前記アクセル開度センサ62により検出されるアクセル開度ACCに対応する前記電動機MGの出力トルクTMGを、通常のダウンシフト時に比べて小さくする(低減する)制御を実行する。
【0035】
前記電動機作動制御部80は、好適には、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合において、前記クラッチK0の係合が完了する前は、前記エンジン12の始動が同期して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇を抑制する。すなわち、前記自動変速機18のダウンシフトと、前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合において、前記クラッチ係合判定部88の判定が否定される間は、上述のように通常のダウンシフト時に比べて前記電動機MGの回転速度上昇を抑制する制御(上昇レートを小さくする制御)を実行する。
【0036】
また、前記電動機作動制御部80は、好適には、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合において、前記クラッチK0の係合が完了した後は、前記エンジン12の始動が同期して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇を早める制御を行う。すなわち、前記自動変速機18のダウンシフトと、前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合において、前記クラッチ係合判定部88の判定が肯定される場合には、通常のダウンシフト時に比べて前記電動機MGの回転速度上昇を早める制御を実行する。例えば、通常のダウンシフト時よりも前記電動機MGの回転速度上昇レートを大きくすることにより、その電動機MGの回転速度の上昇を早める。具体的には、前記アクセル開度センサ62により検出されるアクセル開度ACCに対応する前記電動機MGの出力トルクTMGを、通常のダウンシフト時に比べて大きくする(増大させる)制御を実行する。
【0037】
また、前記電動機作動制御部80は、好適には、前記自動変速機18のダウンシフト後の変速段すなわちそのダウンシフトの目標変速段が、その自動変速機18において前記一方向クラッチF1の係合により成立させられる変速段である場合に、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合における本実施例の制御を実行する。すなわち、前記自動変速機18がダウンシフトした先の目標変速段が前記一方向クラッチF1の係合により成立させられる変速段である場合に限って、前記クラッチK0の係合前に前記電動機MGの回転速度上昇を抑制する制御を行う。また、斯かる場合に限って、前記クラッチK0の係合後に前記電動機MGの回転速度上昇を早める制御を行う。換言すれば、前記自動変速機18がダウンシフトした先の目標変速段が前記一方向クラッチF1の係合により成立させられる変速段ではない場合には、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合における本実施例の制御を非実行とする。なお、前記自動変速機18においては、図3に示すように例えば前記第2クラッチC2の解放及び一方向クラッチF1の係合により成立する第3速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウンシフト、或いは前記第1ブレーキB1の解放及び一方向クラッチF1の係合により成立する第2速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウンシフトが、ダウンシフト後の変速段が前記一方向クラッチF1の係合により成立させられるダウンシフトに相当する。
【0038】
図6は、前記エンジン12の始動を伴わない(エンジン12の駆動が既に行われている場合の)前記自動変速機18のダウンシフトに際しての各要素の回転速度、油圧、及びトルク等の関係値を例示するタイムチャートである。この図6においては、ダウンシフト後の変速段が前記一方向クラッチF1の係合により成立させられる場合を例示しており、例えば前記第2クラッチC2の解放及び一方向クラッチF1の係合により成立する第3速ギヤ段から第1速ギヤ段へのダウンシフト時における各関係値の経時変化を示している(後述する図7及び図8において同じ)。また、油圧PCDは上記ダウンシフトにおける解放側係合要素である前記第2クラッチC2に対応する指示油圧を、油圧PK0は前記クラッチK0に対応する指示油圧を、トルクTMGは前記電動機MGの出力トルクを、トルクTSYSは前記自動変速機18への出力トルク(入力軸38の入力トルク)を、トルクTEはエンジントルクをそれぞれ示している(後述する図7及び図8において同じ)。また、上記トルクTSYSは、EV走行モード時には前記電動機MGのトルクに、前記クラッチK0の係合制御中(係合途中)では前記電動機MGのトルクと前記クラッチK0のトルク容量との差(TMG−K0トルク容量)に、エンジン始動後のEHV走行モード時等には前記電動機MGのトルクとエンジントルクとの和(TMG+TE)にそれぞれ相当する。
【0039】
図6に示す例では、時点t11において、前記自動変速機18のダウンシフト指令が出力される。すなわち、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速指令が出力される。この時点t11において、解放側係合要素である前記第2クラッチC2の解放が開始され、その第2クラッチC2の指示油圧に相当する油圧PCDが低下させられる。また、斯かる解放側係合要素の油圧PCDの低下及びエンジントルクTEの増加に伴い、時点t12において前記一方向クラッチF1が係合させられて第1速ギヤ段が成立するまで前記電動機MGの回転速度NMG(=エンジン回転速度NE)が漸増させられて変速が進行し、第1速ギヤ段の同期回転速度に達する。ここで、図6に示す例においては、変速に要する時間は時点t11から時点t12までの時間(=t12−t11)である。
【0040】
図7は、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合であって、本実施例の制御が行われない従来の制御における各要素の回転速度、油圧、及びトルク等の関係値を例示するタイムチャートである。この図7に示す例では、時点t21において、前記自動変速機18のダウンシフト指令が出力されると共に、前記エンジン12の始動指令が出力される。すなわち、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速指令とエンジン12の始動指令が同時に出力される。この時点t21において、解放側係合要素である前記第2クラッチC2の解放が開始され、その第2クラッチC2の指示油圧に相当する油圧PCDが低下させられる。また、斯かる第2クラッチC2の解放制御が開始された後、前記クラッチK0の指示油圧に相当する油圧PK0の上昇が開始される。ここで、前記第2クラッチC2が解放された後、前記一方向クラッチF1が係合されるまでの間、前記駆動輪24側へ伝達される駆動力は一時的に0となる。これは、エンジン始動中はクランキングにより負トルクが発生するため、前記電動機MGの回転速度NMGが引き下げられて変速前の変速段の同期回転速度を下回る場合にショックが発生しないようにするためであり、また、解放側係合要素の油圧が残った状態では、クランキングに要するトルクと解放側係合要素のクラッチトルクとに打ち勝って変速を進行させるためには、前記電動機MGのトルクTMGが不十分となり変速が進行しなくなることを抑制するためである。また、従来の制御においては、時点t22において前記クラッチK0の係合が完了するまでの間、前記EV走行モードと同等に、アクセル開度ACC相当の駆動力を前記電動機MGにより出力させる制御が行われる。
【0041】
図7に示すような従来の制御において、前記自動変速機18のダウンシフト中の電動機回転速度NMGに関して本実施例の制御を適用しない場合、上述のようにアクセル開度ACC相当の駆動力を前記電動機MGにより出力させる制御が行われ、変速の進行に伴い前記電動機MGの回転速度NMGが上昇する。このため、前記クラッチK0が係合する回転速度が上昇してしまい、そのクラッチK0の係合が完了するまでの時間、すなわち前記エンジン12の始動制御が完了するまでの時間である時点t21から時点t22までの時間(=t22−t21)が長くなってしまう。また、一般的には、変速の進行に伴い前記電動機MGの回転速度NMGが上昇すると、図5に示すようにその電動機MGのトルクTMGの上限は低下するため、変速初期に比べて変速後期では変速進行が遅くなる(t21〜t22の間)という弊害が生じる。更に、前記自動変速機18のダウンシフトと併行して前記エンジン12の始動制御を行うことで、前記クラッチK0の引き摺りトルク(エンジン12の押し掛け分)のため変速進行に係る前記電動機MGのトルクTMGが目減りし、更に変速進行が遅れることが考えられる。一方、時点t22までエンジントルクTEは変速進行に寄与しないため、専ら前記電動機MGのトルクTMGにより変速を進行させる必要があり、結果として変速に要する時間である時点t21から時点t23までの時間(=t23−t21)が長くかかってしまう。
【0042】
図8は、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御が同期して実行される場合であって、本実施例の制御が行われる場合における各要素の回転速度、油圧、及びトルク等の関係値を例示するタイムチャートである。なお、図8の回転速度においては、前述した図7の制御における従来技術の電動機MGの回転速度変化を細線で示している。この図8に示す例では、時点t31において、前記自動変速機18のダウンシフト指令が出力されると共に、前記エンジン12の始動指令が出力される。すなわち、第3速ギヤ段から第1速ギヤ段への変速指令とエンジン12の始動指令が同時に出力される。この時点t31において、解放側係合要素である前記第2クラッチC2の解放が開始され、その第2クラッチC2の指示油圧に相当する油圧PCDが低下させられる。また、斯かる第2クラッチC2の解放制御が開始された後、前記クラッチK0の指示油圧に相当する油圧PK0の上昇が開始される。ここで、前記第2クラッチC2が解放された後、前記一方向クラッチF1が係合されるまでの間、前記駆動輪24側へ伝達される駆動力は一時的に0となる。また、本実施例の制御においては、時点t32において前記クラッチK0の係合が完了するまでの間、細線で示す従来の制御による前記電動機MGの回転上昇に比べて、その電動機MGの回転上昇が抑制される。換言すれば、前記EV走行モード等に比べ、アクセル開度ACCに対する前記電動機MGの出力トルクが低くなるように制御される。そして、時点t32において前記クラッチK0の係合が完了した後、時点t33において変速が完了するまでの間、細線で示す従来の制御による前記電動機MGの回転上昇に比べて、その電動機MGの回転上昇が早められる。換言すれば、前記EV走行モード等に比べ、アクセル開度ACCに対する前記電動機MGの出力トルクが高くなるように制御される。
【0043】
図8に示すような本実施例の制御によれば、時点t32において前記クラッチK0の係合が完了するまでの間、前記電動機MGの回転上昇が従来の制御よりも抑制されることにより、図7に示す従来の制御に比べて前記クラッチK0の係合が早まる(t22−t21>t32−t31)という効果が得られる。また、斯かる制御により前記電動機MGのトルクTMGのうち変速進行のために分配するトルクを減らすことにより、変速中の駆動力低下及びEHV走行モードにおけるダウンシフトとの応答性の差を抑制して運転者の違和感を緩和し、前記クラッチK0のスリップ量を低減させることで前記エンジン12をクランキングするのに必要なパワー及び時間を低減することができる。ここで、時点t31から時点t32までの駆動力に関しては、前記油圧PCDが支配的であるため、前記電動機MGのトルクTMGを低く抑えることにより車両全体としての駆動力が弱まることはない。
【0044】
また、時点t32において前記クラッチK0の係合が完了した後、時点t33において前記自動変速機18のダウンシフトが完了するまでの間、前記電動機MGの回転上昇が従来の制御よりも早められることにより、その自動変速機18のダウンシフトの完了が早められる。ここで、前記エンジン12の始動直後は、定常運転時に比べてシリンダ内の新気が多いため、エンジントルクTEを大きくすることが可能であり、本実施例の制御においてはこれを利用してエンジントルクTEを大きくすることにより変速の進行を図7に示す従来の制御に比べて早めることができる。以上のような制御の結果、図8に示す制御において前記自動変速機18の変速に要する時間である時点t31から時点t33までの時間(=t33−t31)は、前述した図6に示すようなエンジン12の始動を伴わない(既にエンジン12の駆動が行われている)ダウンシフトと同等のものとでき、図7に示す従来の制御に比べてその変速に要する時間を短縮(t23−t21>t33−t31)できる。従って、前記自動変速機18のダウンシフトと前記エンジン12の始動制御とが併行して行われる場合における運転者の違和感やヘジテーション感(アクセル操作に対する応答性)の低下を好適に抑制することができる。
【0045】
図9は、前記電子制御装置50によるエンジン始動制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0046】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記エンジン12の始動要求があったか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記クラッチK0を係合させる係合制御が行われ、それにより前記エンジン12の始動制御が実行される。次に、S3において、前記クラッチK0の係合が完了したか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合には、S8以下の処理が実行されるが、S3の判断が肯定される場合には、S4において、前記自動変速機18のダウンシフトが行われているか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、S5において、前記エンジン12のトルクアップ制御が終了させられた後、本ルーチンが終了させられるが、S4の判断が肯定される場合には、S6において、前記電動機MGのトルクを、前記エンジン12の始動を伴わない通常のダウンシフト時よりも抑制し、その電動機MGの回転上昇を緩やかにするMGトルク抑制制御が終了させられる。次に、S7において、前記エンジン12のトルクアップが可能であればそのエンジン12のトルクアップ制御が実行され、前記電動機MG及びエンジン12の回転上昇が早められて変速の進行が早められた後、本ルーチンが終了させられる。
【0047】
S8においては、前記自動変速機18のダウンシフトが行われているか否かが判断される。このS8の判断が肯定される場合には、S9において、前記電動機MGのトルクを、前記エンジン12の始動を伴わない通常のダウンシフト時よりも抑制し、その電動機MGの回転上昇を緩やかにするMGトルク抑制制御が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S8の判断が否定される場合には、S10において、前記自動変速機18のダウンシフトを伴わない通常のエンジン始動制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S6及びS9が前記電動機作動制御部80の動作に、S4及びS8が前記変速制御部82の動作に、S1、S2、及びS10が前記エンジン始動制御部84の動作に、S2が前記クラッチ係合制御部86の動作に、S3が前記クラッチ係合判定部88の動作にそれぞれ対応する。
【0048】
このように、本実施例によれば、専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機18のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジン12の始動が併行して実行される場合には、そのエンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇が抑制させられることから、その電動機MGのトルクのうち変速進行のために分配されるトルクが減らされてエンジン始動にその分のトルクが用いられることで、前記クラッチK0のスリップが低減されてエンジン始動に要するトルク及び時間が低減されると共に、変速中も駆動輪側へ駆動力が伝達されることからダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。すなわち、自動変速機18のダウンシフト時における違和感の発生を抑制するハイブリッド車両10の電子制御装置50を提供することができる。
【0049】
また、本実施例によれば、専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機18のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジン12の始動が併行して実行される場合であり、且つ、前記クラッチK0の係合が完了する前には、前記エンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇が抑制させられるものであるため、前記クラッチK0にスリップが発生し易い係合前の段階において、そのクラッチK0のスリップが低減されてエンジン始動に要するトルク及び時間が低減されると共に、変速中も駆動輪24側へ駆動力が伝達されることからダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。
【0050】
また、本実施例によれば、専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機18のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジン12の始動が併行して実行される場合であり、且つ、前記クラッチK0の係合が完了した後は、前記エンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇が早められるものであるため、エンジン始動直後は定常時よりもエンジントルクが大きくなるので、そのエンジン12の回転速度NEすなわち前記電動機MGの回転速度NMGの上昇を早めることができ、変速の完了を早くすることができる。
【0051】
また、本実施例によれば、専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機18のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジン12の始動が併行して実行される場合において、そのダウンシフトの目標変速段が一方向クラッチF1の係合により成立させられる変速段である場合には、前記クラッチK0の係合前に前記エンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇が抑制させられる制御、及び、前記クラッチK0の係合後に前記エンジン12の始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機MGの回転速度上昇が早められる制御の少なくとも一方が実行されるものであるため、前記電動機MGの回転速度NMGが目標変速段の同期回転速度を上回ることでショックが発生し易い傾向にある、一方向クラッチF1の係合により成立させられる変速段を目標変速段とするダウンシフトに関して、そのダウンシフトに係る運転者の違和感を好適に抑制することができる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0053】
10:ハイブリッド車両、12:エンジン、18:自動変速機、24:駆動輪、50:電子制御装置、K0:クラッチ、MG:電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電動機との間の動力伝達経路に、係合状態に応じて該動力伝達経路における動力伝達を制御するクラッチを備えると共に、前記電動機と駆動輪との間の動力伝達経路に自動変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
専ら前記電動機を走行用の駆動源とする走行モードから前記自動変速機のダウンシフトが行われる場合であって前記エンジンの始動が併行して実行される場合には、該エンジンの始動が併行して実行されない場合に比べて前記電動機の回転速度上昇が抑制させられることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35457(P2013−35457A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174171(P2011−174171)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】