説明

ハイブリッド車両の変速制御装置

【課題】モータが第1クラッチを介してエンジンに第2クラッチを介して油圧式の無段変速機に連結され、且つ、該無段変速機に油圧を供給するポンプがモータの回転軸に連結され、モータの出力により駆動されるハイブリッド車両における、急減速時の無段変速機のLOW戻り性能を向上させることができるハイブリッド車両の変速制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の変速制御装置は、車両の減速中に前記無段変速機に油量収支の不足が発生するか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記無段変速機に油量収支の不足が発生すると判定された場合に、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチを切断状態とする制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直列的に配設されたエンジンとモータとベルトCVT等の油圧式の無段変速機と、エンジンとモータとの連結を切断及び接続する第1クラッチと、モータと油圧式無段変速機との連結を切断及び接続する第2クラッチとを備えるハイブリッド車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、油圧式の無段変速機の油圧を発生させる機械式のポンプを、エンジンのクランク軸に連結してエンジンの出力によって駆動させる車両が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−74226号公報
【特許文献2】特開平4−353235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記ハイブリッド車両において、機械式のポンプをモータの回転軸に連結してモータの出力によって駆動させるシステムを採用した場合、第2クラッチが完全締結した状態では、モータの回転数とプライマリプーリの回転数とが一致する。このため、当該システムを採用したハイブリッド車両が、第2クラッチを完全締結させた状態で減速した場合、モータの回転数が低下し、ポンプの出力が低下する。従って、この場合、減速が終了するまでの短時間では、無段変速機をLOW側の目標変速比(特に最ロー)まで変化させるための油量収支を確保することができず、無段変速機のLOW戻り性能を確保できない場合がある。
【0005】
また、当該システムを採用したハイブリッド車両が、第2クラッチのみならず第1クラッチを締結させた状態で減速した場合、エンジンのイナーシャ、フリクションがモータに作用するため、モータの回転のレスポンスが低下する場合がある。この場合、ポンプのレスポンスも低下するため、無段変速機のLOW側への変速のレスポンスも低下する。
本発明は、上記事情に鑑み、モータが第1クラッチを介してエンジンに、第2クラッチを介して油圧式の無段変速機にそれぞれ連結され、且つ、該無段変速機に油圧を供給するポンプがモータの回転軸に連結されモータの出力により駆動されるハイブリッド車両において、急減速時の無段変速機のLOW戻り性能を向上させることができるハイブリッド車両の変速制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明に係るハイブリッド車両の変速制御装置は、エンジンと、モータと、前記エンジンの出力軸と前記モータの回転軸との連結を切断及び接続する第1クラッチと、油圧により変速比を変化させる無段変速機と、前記モータの前記回転軸と前記無段変速機の入力軸との連結を切断及び接続する第2クラッチと、前記モータの前記回転軸に連結され、前記モータの出力により駆動されて前記無段変速機に油圧を供給するポンプと、を備えるハイブリッド車両の変速制御装置であって、車両の減速中に前記無段変速機に油量収支の不足が発生するか否かを判定する判定部と、前記判定部によって前記無段変速機に油量収支の不足が発生すると判定された場合に、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチを切断状態とする制御部と、を備えることを特徴としている。
【0007】
上記ハイブリッド車両の変速制御装置において、前記制御部は、前記判定部によって前記無段変速機に油量収支の不足が発生すると判定された場合に、前記モータの回転数を前記無段変速機の油量収支が充足されるように制御してもよい。
【発明の効果】
【0008】
上記ハイブリッド車両の変速制御装置によれば、モータが第1クラッチを介してエンジンに第2クラッチを介して油圧式の無段変速機にそれぞれ連結され、且つ、該無段変速機に油圧を供給するポンプがモータの回転軸に連結されモータの出力により駆動されるハイブリッド車両において、急減速時の無段変速機のLOW戻り性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態に係るハイブリッド車両の駆動系を示す概略構成図である。
【図2】ハイブリッド車両の制御系を示す概略構成図である。
【図3】CVT油圧ユニットを示す概略構成図である。
【図4】統合コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図5】ハイブリッド車両の急減速時における変速制御について説明するためのフローチャートである。
【図6】他の実施形態に係る統合コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図7】他の実施形態に係るハイブリッド車両の急減速時における変速制御について説明するためのフローチャートである。
【図8】他の実施形態に係る統合コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図9】他の実施形態に係るハイブリッド車両の急減速時における変速制御について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両100の駆動系を示す概略構成図である。この図に示すように、ハイブリッド車両100の駆動系は、エンジン110と、第1クラッチ120と、モータジェネレータ(モータ)130と、第2クラッチ140と、ベルト式CVT(Continuously Variable Transmissionの略、以下、CVTという)(無段変速機)150と、機械式のオイルポンプ(ポンプ)160とを備えている。
【0011】
図2は、ハイブリッド車両100の制御系を示す概略構成図である。この図に示すように、ハイブリッド車両100の制御系は、統合コントローラ10と、エンジンコントローラ12と、第1クラッチコントローラ20と、モータコントローラ30と、第2クラッチコントローラ40と、CVTコントローラ50と、ブレーキコントローラ14と、第1クラッチ油圧ユニット22と、第2クラッチ油圧ユニット42と、CVT油圧ユニット52と、インバータ16と、バッテリ18とを備えている。エンジンコントローラ12と、第1クラッチコントローラ20と、モータコントローラ30と、第2クラッチコントローラ40と、CVTコントローラ50と、ブレーキコントローラ14と、統合コントローラ10とは、CAN通信回線19を介して接続されており、互いに通信可能である。また、CVT油圧ユニット52は、上述のオイルポンプ160を備えている。
【0012】
まず、図1,図2を参照してハイブリッド車両100の駆動系について説明する。エンジン110は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であり、エンジン出力軸111からエンジントルクを出力する。また、エンジン110は、エンジンコントローラ12により、スロットルバルブのバルブ開度等を制御される。
第1クラッチ120は、エンジン110とモータジェネレータ130との間に配設された乾式多板クラッチである。この第1クラッチ120は、第1クラッチコントローラ20により制御される第1クラッチ油圧ユニット22を介して供給される油圧によって締結(ロックアップ)及び開放が制御され、エンジン110の出力軸111とモータジェネレータ130の回転軸131との連結を切断及び接続する。
【0013】
モータジェネレータ130は、第1クラッチ120と第2クラッチ140との間に配設され、永久磁石が埋設されたロータと、ステータコイルが巻き付けられたステータとを備える同期型モータジェネレータである。このモータジェネレータ130は、モータコントローラ30により制御されるインバータ16で生成される三相交流が印加されることによって駆動される。また、モータジェネレータ130は、バッテリ18から電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作する一方、ロータが外力により回転されている場合にステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として動作する。モータジェネレータ130は、電動機として動作している状態(所謂、力行状態)において、モータトルクを出力する。一方、モータジェネレータ130は、発電機として動作している状態(所謂、回生状態)において、バッテリ18を充電することができる。
【0014】
第2クラッチ140は、モータジェネレータ130とCVT150との間に配設された湿式多板クラッチである。この第2クラッチ140は、第2クラッチコントローラ40により制御される第2クラッチ油圧ユニット42を介して供給される油圧によって締結(ロックアップ)及び開放が制御され、モータジェネレータ130の回転軸131とCVT150の入力軸151との連結を切断及び接続する。ここで、第2クラッチ140は、重ね合わされた複数の摩擦板を滑らせながら締結状態(完全締結状態)から開放状態(完全開放状態)に遷移する動作(スリップ締結)と、当該複数の摩擦板を滑らせながら締結状態から開放状態に遷移する動作(スリップ開放)とを行う。
【0015】
CVT150は、プライマリプーリ152と、セカンダリプーリ154と、Vベルト156とを備えている。プライマリプーリ152は、CVT150の入力軸151に連結されたプーリである。このプライマリプーリ152は、エンジントルクTeとモータトルクTmとにより回転される入力軸151に固定された固定円錐板152Aと、固定円錐板152Aと入力軸151の軸方向に対向して配設された可動円錐板152Bとを備えている。固定円錐板152Aと可動円錐板152Bとは、互いに円錐面を対向させて配設されており、固定円錐板152Aと可動円錐板152Bとが互いに対向する円錐面により断面V字状の溝が形成されている。また、油圧室152Cが、可動円錐板152Bを介して固定円錐板152Aと対向するように配設されており、可動円錐板152Bは、油圧室152Cに作用する油圧(以下、プライマリ圧という)によって入力軸151の軸方向へ変位される。この可動円錐板152Bの変位により、プライマリプーリ152の溝幅が変化する。
【0016】
セカンダリプーリ154は、ディファレンシャルに連結されたプーリである。このセカンダリプーリ154は、CVT150により伝達されたエンジントルクTe、モータトルクTmにより回転される出力軸153に固定された固定円錐板154Aと、固定円錐板154Aと出力軸153の軸方向に対向して配設された可動円錐板154Bとを備えている。固定円錐板154Aと可動円錐板154Bとは、互いに円錐面を対向させて配設されており、固定円錐板154Aと可動円錐板154Bとの互いに対向した円錐面により断面V字状の溝が形成されている。また、油圧室154Cが、可動円錐板154Bを介して固定円錐板154Aと対向するように配設されており、可動円錐板154Bは、油圧室154Cに作用する油圧(以下、セカンダリ圧という)によって出力軸153の軸方向へ変位される。この可動円錐板154Bの変位により、セカンダリプーリ154の溝幅が変化する。CVT150は、CVTコントローラ50により制御されるCVT油圧ユニット52から油圧室152C、154Cに対してそれぞれ供給されるプライマリ圧及びセカンダリ圧によって、プライマリプーリ152及びセカンダリプーリ154の溝幅が増減される。
【0017】
Vベルト156は、プライマリプーリ152とセカンダリプーリ154とに巻き掛けられており、プライマリプーリ152の回転をセカンダリプーリ154に伝達する。Vベルト156は、プライマリプーリ152の溝幅が拡大した場合に、プライマリプーリ152の内径方向へ変位されることにより入力側ベルト半径を縮小される一方、プライマリプーリ152の溝幅が減少した場合に、プライマリプーリ152の外径方向へ変位されることにより入力側ベルト半径を拡大される。同様に、Vベルト156は、セカンダリプーリ154の溝幅が拡大した場合に、セカンダリプーリ154の内径方向へ変位されることにより出力側ベルト半径を縮小される一方、セカンダリプーリ154の溝幅が減少した場合に、セカンダリプーリ154の外径方向へ変位されることにより出力側ベルト半径を拡大される。これにより、Vベルト156の変速比が連続的に(無段階で)変化し、また、Vベルト156とプライマリプーリ152及びセカンダリプーリ154との接触圧力が変化する。
【0018】
CVT150は、プライマリプーリ152の押付圧力を増大させ、セカンダリプーリ154の押付圧力を減少させることにより、ハイ変速比の状態に変化する。一方、CVT150は、プライマリプーリ152の押付力を減少させ、セカンダリプーリ154の押付力を増大させることにより、ロー変速比の状態に変化する。
CVT150の出力軸153は、プロペラシャフトとディファレンシャルとドライブシャフトとを介して、左右の駆動輪に連結されており、左右の駆動輪は、出力軸153から出力されたトルクにより回転駆動される。
【0019】
機械式のオイルポンプ160は、モータジェネレータ130の回転軸131とチェーン機構を介して連結されており、モータジェネレータ130の出力によって駆動され、油圧室152C、154Cへ作動油を供給する。CVT150がハイ側へ変速する場合には、オイルポンプ160により油圧室152Cへ作動油が供給される一方、油圧回路のバルブ開放等により油圧室154Cから作動油が排出される。一方、CVT150がロー側へ変速する場合には、オイルポンプ160により油圧室154Cへ作動油が供給される一方、油圧回路のバルブ開放等により油圧室152Cから作動油が排出される。
【0020】
ここで、ハイブリッド車両100には、第1クラッチ120及び第2クラッチ140の締結及び開放の状態に応じて切り替わる第1〜第3の走行モードが設定されている。第1の走行モード(以下、EV走行モードという)は、第1クラッチ120が開放された状態で、エンジントルクを用いずにモータトルクのみを用いて走行するモードである。
また、第2の走行モード(以下、HEV走行モードという)は、第1クラッチ120が締結された状態で、モータトルクのみならずエンジントルクをも用いて走行するモードである。HEV走行モードには、エンジン走行モードとモータアシスト走行モードと走行発電モードとの3種の走行モードが設定されている。
【0021】
エンジン走行モードは、エンジントルクのみを用いて走行するモードであり、この走行モードにおいて、モータジェネレータ130は、フライホイールとして機能する。また、モータアシスト走行モードは、エンジントルクとモータトルクとの合成トルクを用いて走行するモードである。
さらに、走行発電モードは、エンジントルクを用いて走行すると共に、モータジェネレータ130を発電機として動作させるモードである。この走行発電モードに設定されている場合、定速運転時や加速運転時には、モータジェネレータ130が、エンジントルクにより発電機として動作される一方、減速運転時には、モータジェネレータ130が、制動エネルギーを回生した回生エネルギーにより発電機として動作される。
【0022】
また、第3の走行モード(以下、WSC(Wet Start Clutch)走行モードという)は、第1クラッチ120が締結され、第2クラッチ140がスリップ締結された状態で、合成トルクを用いて走行するモードである。このWSC走行モードは、特に急発進や再加速等の高負荷で発進や加速をする場合に設定されるモードである。
【0023】
次に、図2を参照してハイブリッド車両100の制御系について説明する。エンジンコントローラ12は、エンジン水温センサからエンジン110の水温の検出情報を、エンジン回転数センサからエンジン回転数の検出情報を、統合コントローラ10からエンジントルクの目標値の指令を、それぞれ入力し、これらの情報、指令に基づいてエンジン110の動作点(エンジン回転数、エンジントルク等)を制御する。また、エンジンコントローラ12は、エンジン110の燃料噴射量やスロットル開度等に基づいてエンジントルクを推定演算する。また、エンジンコントローラ12は、エンジン回転数、エンジントルク等の情報を、統合コントローラ10へ出力する。
【0024】
第1クラッチコントローラ20は、油圧センサから第1クラッチ油圧ユニット22の油圧の検出情報を、統合コントローラ10から第1クラッチ120の制御指令を、それぞれ入力し、これらの情報、指令に基づいて第1クラッチ油圧ユニット22を制御する。
モータコントローラ30は、レゾルバからモータジェネレータ130のロータ回転位置の検出情報を、統合コントローラ10からモータトルクの目標値の情報を、バッテリSOCセンサからバッテリSOCの検出情報を、それぞれ入力し、これらの情報に基づいてモータジェネレータ130の動作点を制御する。また、モータコントローラ30は、モータジェネレータ130の電流値に基づいて、モータトルクを推定演算する。また、モータコントローラ30は、バッテリSOCやモータトルク等の情報を統合コントローラ10へ出力する。
【0025】
第2クラッチコントローラ40は、アクセル開度センサからアクセル開度の検出情報を、車速センサから車速の検出情報を、油圧センサから第2クラッチ油圧ユニット42の油圧の検出情報を、統合コントローラ10から第2クラッチ140の制御指令を、それぞれ入力し、これらの情報、指令に基づいて第2クラッチ油圧ユニット42を制御する。また、第2クラッチコントローラ40は、アクセル開度や車速等の情報を統合コントローラ10へ出力する。
【0026】
ブレーキコントローラ14は、車輪速センサから各車輪の回転速度の検出情報を、ブレーキストロークセンサからブレーキペダルのストローク量の検出情報を、それぞれ入力し、これらの情報に基づいて各車輪のブレーキユニットを制御する。
統合コントローラ10は、エンジンコントローラ12、第1クラッチコントローラ20、モータコントローラ30、第2クラッチコントローラ40、及びCVTコントローラ50へ制御指令を出力することにより、エンジン110、第1クラッチ120、モータジェネレータ130、第2クラッチ140、及びCVT150の動作を制御する。
【0027】
図3は、CVT油圧ユニット52を示す概略構成図である。この図に示すように、CVT油圧ユニット52は、レギュレータバルブ242と、変速制御弁244と、減圧弁246と、上述のオイルポンプ160とを備えており、オイルポンプ160から供給される油圧を調整してプライマリプーリ152の油圧室152Cとセカンダリプーリ154の油圧室154Cとに供給する。
【0028】
レギュレータバルブ242は、デューティソレノイド弁であり、オイルポンプ160から変速制御弁244と減圧弁246とに供給される油圧を、CVTコントローラ50からの指令に応じて、所定のライン圧に調整する。
変速制御弁244は、プライマリ圧を指示圧となるよう制御する制御弁である。変速制御弁244は、サーボリンク250を介してステップモータ252に連結されており、ステップモータ252によって駆動される。また、変速制御弁244は、スプール244Aの位置に応じて、油路を閉止したり、油圧室152Cに給油したり、油圧室152Cから排油したりする。また、サーボリンク250は、プライマリプーリ152の可動円錐板152Bに連結されており、プライマリプーリ152の溝幅、即ち、実変速比を変速制御弁244にフィードバックする。また、サーボリンク250は、CVT150の変速が終了すると、スプール244Aを閉弁位置に保持する。
【0029】
減圧弁246は、ソレノイドを有する制御弁であり、セカンダリ圧を指示圧となるよう制御する。
また、CVT油圧ユニット52は、プライマリプーリ速度センサ254と、セカンダリプーリ速度センサ256と、プライマリ圧センサ157と、セカンダリ圧センサ158と、油温センサ260等を備えている。プライマリプーリ速度センサ254、セカンダリプーリ速度センサ256は、それぞれ、プライマリプーリ152、セカンダリプーリ154の回転速度に応じた信号をCVTコントローラ50へ出力する。また、プライマリ圧センサ157とセカンダリ圧センサ158は、それぞれ、プライマリプーリ152、セカンダリプーリ154に供給される油圧の実測値(プライマリ圧,セカンダリ圧)に応じた信号をCVTコントローラ50へ出力する。さらに、油温センサ260は、CVT150の油温に応じた信号をCVTコントローラ50へ出力する。
【0030】
CVTコントローラ50は、車速やスロットル開度等に応じてCVT150の目標の変速比を決定し、決定した変速比、CVT150への入力トルク、CVT150の油温、目標変速速度等に応じて、プライマリプーリ152とセカンダリプーリ154との油圧の指示値を決定する。そして、CVTコントローラ50は、プライマリ圧とセカンダリ圧とが決定した指示値となるように、CVT油圧ユニット52の各要素を制御する。
【0031】
図4は、統合コントローラ10の概略構成を示すブロック図である。このブロック図に示すように、統合コントローラ10は、車速センサから入力される車速とアクセル開度センサから入力されるアクセル開度とブレーキストロークセンサから入力されるブレーキストローク量とから、ハイブリッド車両100の減速度(先読み車速)を推定する減速度推定部62と、減速度推定部62により推定された減速度と、予め設定されたシフトスケジュールとに基づいてプライマリプーリ152の移動速度(溝幅を変化させる方向への移動速度)を推定するプーリ移動速度推定部64とを備えている。また、統合コントローラ10は、プーリ移動速度推定部64により推定された移動速度でプライマリプーリ152を移動させる場合の油量収支を判断する油量収支判断部66と、油量収支判断部66の判断結果に基づいて、第1クラッチコントローラ20、モータコントローラ30、及び第2クラッチコントローラ40へ制御指令を出力する変速制御部68とを備えている。
【0032】
図5は、ハイブリッド車両100の急減速時における変速制御について説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、ハイブリッド車両100が減速を始めた場合に本処理ルーチンが開始されてステップ100へ移行する。ステップ100では、減速度推定部62が、車速、アクセル開度、及びブレーキストローク量に基づいて、ハイブリッド車両100の減速度を推定する。次に、ステップ102において、プーリ移動速度推定部64が、減速度推定部62により推定されたハイブリッド車両100の減速度と、予め設定されたシフトスケジュールとに基づいてプライマリプーリ152の移動速度を推定する。
【0033】
次に、ステップ104において、油量収支判断部66が、プーリ移動速度推定部64により推定された速度でプライマリプーリ152を移動させる場合の油量収支が不足するか否かを判定する。つまりここでは、プライマリプーリ152の駆動に必要な油量が足りないのか、それとも十分であるのかが判定される。判定が肯定された場合にはステップ106へ移行する一方、判定が否定された場合には処理ルーチンを終了する。
ステップ106では、変速制御部68が、第1クラッチコントローラ20へ第1クラッチ120を完全開放状態とする制御指令を出力し、第2クラッチコントローラ40へ第2クラッチ140を開放状態とする制御指令を出力する。ここで、第2クラッチ140の開放状態では、第2クラッチ油圧ユニット42のトルク容量の指示値が0から数N・mであり、第2クラッチ油圧ユニット42の油圧がスタンバイ圧である。
【0034】
また、変速制御部68は、モータコントローラ30へ、回転数を必要回転数、即ち、推定された速度でプライマリプーリ152を移動させるための油量収支限界回転数まで上昇させる制御指令を出力する。以上で本処理ルーチンを終了する。
ここで、ハイブリッド車両100の急減速中に第2クラッチ140が完全締結している場合には、モータ回転数がプライマリプーリ152の回転数と一致する。このため、モータ回転数が、オイルポンプ160の油量収支に対応する限界回転数より低くなり、プライマリ圧が指示値より低くなる。
【0035】
これに対して、本実施形態に係るハイブリッド車両100では、ハイブリッド車両100の急減速中にCVT150に油量収支不足が発生することを予測して、第2クラッチ140を開放状態(0から数N・mのトルク容量を有する状態)とすることにより、モータ回転数の低下を防止している。これにより、ハイブリッド車両100の急減速中におけるCVT150の油量収支不足を低減でき、急減速中におけるCVT150のLOW戻り性能を向上できる。また、急減速後の再発進時におけるVベルト156の滑りの発生を抑制でき、Vベルト156の耐久性を向上できる。
【0036】
また、ハイブリッド車両100の急減速中にCVT150の油量収支不足が発生することが予測された場合に、第1クラッチ120、第2クラッチ140を開放させると共に、モータ回転数を必要回転数まで上昇させて、CVT150の油量収支を充足させている。これにより、急減速中におけるCVT150のLOW戻り性能を十分に確保でき、再発進時のレスポンスを向上できる。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両100では、ハイブリッド車両100の急減速中にCVT150に油量収支不足が発生する場合に、第2クラッチ140を開放状態とすると共に、第1クラッチ120を開放状態にしている。これにより、エンジン110からモータジェネレータ130へのイナーシャ、フリクションを遮断できるため、モータジェネレータ130の回転のレスポンスを向上させることができるので、オイルポンプ160のレスポンスを向上させることができ、以って、CVT150のLOW側への変速のレスポンスを向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両100では、急減速時に第2クラッチ140を、トルク容量が0〜数N・mであり、油圧がスタンバイ圧である開放状態にしている。これにより、急減速により車両が停車した後、モータジェネレータ130のトルクによりハイブリッド車両100が前進することを防止できると共に、再発進時のレスポンスを向上させることができる。
【0038】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両100では、急減速開始時に、CVT150に油量収支不足が発生することを予測して、即ち、CVT150に油量収支不足が発生するのに先行して、上述の第1クラッチ120、モータジェネレータ130及び第2クラッチ140の制御を実行している。これにより、CVT150の油量収支不足の発生を予防でき、急減速時のCVT150のLOW戻り性能を確保することができる。
【0039】
図6は、他の実施形態に係る統合コントローラ11の概略構成を示すブロック図である。このブロック図に示すように、統合コントローラ11は、減速中、プライマリ圧の実測値と指示値との差に基づき、実際の変速比の目標変速比からのHigh側への乖離度が所定範囲外であるか否かを判定する変速比判定部70と、変速比判定部70の判定結果に基づき、第1クラッチコントローラ20、モータコントローラ30、及び第2クラッチコントローラ40へ制御指令を出力する変速制御部72とを備えている。
【0040】
図7は、本実施形態に係るハイブリッド車両100の急減速時における変速制御について説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、ハイブリッド車両100が減速を開始した場合に本処理ルーチンが開始されてステップ200へ移行する。ステップ200では、変速比判定部70が、プライマリ圧の実測値が指示値以下の所定範囲外であるか否か、即ち、実際の変速比の目標変速比からのHigh側への乖離度が所定範囲外であるか否かを判定する。つまりここでは、実際の変速比が目標変速比よりもHigh側に大きくずれているか否かが判定される。判定が否定された場合にはステップ202へ移行する一方、判定が肯定された場合にはステップ204へ移行する。
【0041】
ステップ202では、変速比判定部70が、ハイブリッド車両100の減速が終了したか否かを判定する。判定が否定された場合には、ステップ200へ移行する一方、判定が肯定された場合には、処理ルーチンを終了する。
ステップ204では、変速制御部72が、第1クラッチコントローラ20へ第1クラッチ120を完全開放状態とする制御指令を出力し、第2クラッチコントローラ40へ第2クラッチ140を開放状態(トルク容量が0から数N・mであり油圧がスタンバイ圧である状態)とする制御指令を出力する。また、変速制御部72は、モータコントローラ30へ、回転数を必要回転数、即ち、プライマリ圧を指示値まで上昇させるために必要な回転数まで上昇させる制御指令を出力する。以上で本処理ルーチンを終了する。
【0042】
図8は、他の実施形態に係る統合コントローラ200の概略構成を示すブロック図である。このブロック図に示すように、統合コントローラ200は、減速中、プライマリ圧の変化率と実際の値と指示値との差に基づき、プライマリプーリ152の移動速度の目標移動速度に対する遅れが所定範囲を超えているか否かを判定するプーリ移動速度判定部74と、プーリ移動速度判定部74の判定結果に基づき、第1クラッチコントローラ20、モータコントローラ30、及び第2クラッチコントローラ40へ制御指令を出力する変速制御部76とを備えている。
【0043】
図9は、本実施形態に係るハイブリッド車両100の急減速時における変速制御について説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、ハイブリッド車両100が減速を開始した場合に本処理ルーチンが開始されてステップ300へ移行する。ステップ300では、プーリ移動速度判定部74が、プライマリ圧の変化率が指示値以下の所定範囲外であるか否か、即ち、プライマリプーリ152の移動速度の目標移動速度に対する遅れが所定範囲を超えているか否かを判定する。つまりここでは、実際のプライマリ圧の変化率がその目標値としての指示値と比べて過剰に小さい(プライマリプーリ152の動きが遅すぎる)か否かが判定される。判定が否定された場合にはステップ302へ移行する一方、判定が肯定された場合にはステップ304へ移行する。
【0044】
ステップ302では、プーリ移動速度判定部74が、ハイブリッド車両100の減速が終了したか否かを判定する。判定が否定された場合には、ステップ300へ移行する一方、判定が肯定された場合には、処理ルーチンを終了する。
ステップ304では、変速制御部76が、第1クラッチコントローラ20へ第1クラッチ120を完全開放状態とする制御指令を出力し、第2クラッチコントローラ40へ第2クラッチ140を開放状態(トルク容量が0から数N・mであり、油圧がスタンバイ圧である状態)とする制御指令を出力する。また、変速制御部72は、モータコントローラ30へ、回転数を必要回転数、即ち、プライマリプーリ152の移動速度を指示値まで上昇させるために必要な回転数まで上昇させる制御指令を出力する。以上で本処理ルーチンを終了する。
【0045】
上述の他の実施形態としての二の実施形態に係るハイブリッド車両100では、減速中に実際に発生した油量収支不足を検出し、上述の第1クラッチ120、モータジェネレータ130及び第2クラッチ140の制御を実施している。これにより、急減速時の予期しない挙動の変動等により発生する油量収支不足に対応して、LOW戻り性能の悪化を抑制するための処理を実施することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、本実施形態では、第1クラッチ120を乾式クラッチ、第2クラッチ140を湿式クラッチとした例をとって本発明を説明したが、本発明を適用する実施形態において、第1クラッチ120、第2クラッチ140の双方を湿式クラッチとする等、第1クラッチ120、第2クラッチ140の形式については適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0047】
10、11、200 統合コントローラ(ハイブリッド車両の変速制御装置)
12 エンジンコントローラ
14 ブレーキコントローラ
16 インバータ
18 バッテリ
19 CAN通信回線
20 第1クラッチコントローラ
22 第1クラッチ油圧ユニット
30 モータコントローラ
40 第2クラッチコントローラ
42 第2クラッチ油圧ユニット
50 CVTコントローラ
52 CVT油圧ユニット
62 減速度推定部(判定部)
64 プーリ移動速度推定部(判定部)
66 油量収支判断部(判定部)
68、72、76 変速制御部(制御部)
70 変速比判定部(判定部)
74 プーリ移動速度判定部(判定部)
100 ハイブリッド車両
110 エンジン
111 出力軸
120 第1クラッチ
130 モータジェネレータ(モータ)
131 回転軸
140 第2クラッチ(湿式クラッチ)
150 CVT(変速機)
151 入力軸
152 プライマリプーリ
154 セカンダリプーリ
152A、154A 固定円錐板
152B、154B 可動円錐板
152C、154C 油圧室
156 Vベルト
157 プライマリ圧センサ
158 セカンダリ圧センサ
160 オイルポンプ(ポンプ)
242 レギュレータバルブ
244 変速制御弁
246 減圧弁
250 サーボリンク
252 ステップモータ
254 プライマリプーリ速度センサ
256 セカンダリプーリ速度センサ
260 油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、前記エンジンの出力軸と前記モータの回転軸との連結を切断及び接続する第1クラッチと、油圧により変速比を変化させる無段変速機と、前記モータの前記回転軸と前記無段変速機の入力軸との連結を切断及び接続する第2クラッチと、前記モータの前記回転軸に連結され、前記モータの出力により駆動されて前記無段変速機に油圧を供給するポンプと、を備えるハイブリッド車両の変速制御装置であって、
車両の減速中に前記無段変速機に油量収支の不足が発生するか否かを判定する判定部と、
前記判定部によって前記無段変速機に油量収支の不足が発生すると判定された場合に、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチを切断状態とする制御部と、
を備えることを特徴とする、ハイブリッド車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記判定部によって前記無段変速機に油量収支の不足が発生すると判定された場合に、前記モータの回転数を前記無段変速機の油量収支が充足されるように制御することを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド車両の変速制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−206663(P2012−206663A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75174(P2011−75174)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】