説明

ハイブリッド車両用動力伝達装置

【課題】小型軽量化を図ると共に、内燃機関と電動機との何れの動力を用いても補機を作動させることができ、コストを抑えて且つ内燃機関や電動機の動力を有効に利用することができるハイブリッド車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】第1変速手段5の第1入力軸4に第1油圧クラッチ12を介して第1入力側伝達軸10を接続する。第1入力側伝達軸10に接続された第2入力側伝達軸14を第2入力クラッチ13を介して第2変速手段7の第2入力軸6に接続する。内燃機関2からの回転を第1回転要素Rfに入力し、第2回転要素Cfに第1入力側伝達軸10を連結し、電動機3からの回転を第3回転要素Sfに入力する動力合成機構11を設ける。変速機ケースと第1回転要素Rfとを締結状態とするワンウェイクラッチ37を設ける。副軸8の中間伝達ギヤ16を介して第1入力側伝達軸10に接続された補機18,19を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両に用いられる動力伝達装置として、夫々が複数の変速段を成立させるように構成された第1変速手段と第2変速手段とを備え、更に、内燃機関と電動機との何れか一方又は両方の動力を第1変速手段に入力すると共に、この動力をプラネタリギヤにより分配して第2変速手段に入力するようにした動力伝達装置が知られている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−44521
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の動力伝達装置は、プラネタリギヤにより第1変速手段と第2変速手段とに動力を配分して、第1変速手段と第2変速手段とで単一の変速手段として機能させ、或いは、第1変速手段と第2変速手段とを夫々独立の変速手段として機能させるものである。
【0005】
ところで、この種の車両においては、補機たる室内の空調機(エアコンディショナー)が設けられているが、この種の空調機が備えるコンプレッサは、内燃機関の駆動力を用いて作動させているのが一般的である。このため、内燃機関の停止時には空調機を作動させることができず、ハイブリッド車両において所謂アイドリングストップを行う場合には、アイドリングストップ中の室内空調が行えない。そこで、アイドリングストップを行なっていても、室内空調が行えるように、空調機のコンプレッサを作動させるための電動モータ等を別途設ける必要があり、コストが増加するだけでなく、動力伝達装置の小型化及び軽量化を阻害する不都合があった。
【0006】
また、上記従来の動力伝達装置においては、内燃機関の出力軸とプラネタリギヤのキャリア及び第1変速手段の入力軸との連結・切り離しを行うクラッチや、プラネタリギヤのキャリアとサンギヤとの連結・切り離しを行うクラッチ等の複数のクラッチ(油圧装置)が設けられている。そして、これらのクラッチとして、油圧力により作動する油圧クラッチを採用した場合には、これらのクラッチに油圧を供給するための補機たるオイルポンプが設けられる。この種のオイルポンプを設けるとき、例えば、第1変速手段の入力軸等からの回転をオイルポンプに伝達させて油圧クラッチを作動させることが考えられる。
【0007】
しかし、上記従来の動力伝達装置において、第1変速手段の入力軸等の回転をオイルポンプの駆動に利用しようとしても、内燃機関や電動機が停止状態ではオイルポンプを作動させることはできず、車両始動時に油圧クラッチを作動させることができない。このため、車両始動時であっても油圧クラッチを作動させるために、例えば、電動式のオイルポンプを設けることが必要となり、コストが増加するだけでなく、動力伝達装置の小型化及び軽量化を阻害する不都合があった。
【0008】
以上の点に鑑み、本発明は、動力伝達装置の小型化及び軽量化を図って車両への搭載性を向上させることができるだけでなく、内燃機関と電動機との何れの動力を用いても補機を作動させることができ、コストを抑えて且つ内燃機関や電動機の動力を有効に利用することができるハイブリッド車両用動力伝達装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために、本発明は、内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置であって、第1入力軸を有して複数の変速段を成立させる第1変速手段と、第1入力軸に第1油圧クラッチにより切り離し自在に連結されて該第1入力軸に内燃機関と電動機との何れか一方又は両方からの回転を伝達する第1入力側伝達軸と、第1入力軸と平行の第2入力軸を有して第1変速手段と異なる複数の変速段を成立させる第2変速手段と、第1入力側伝達軸に平行に配置された副軸が備える中間伝達ギヤを介して第1入力側伝達軸に接続され、第2入力軸に第2油圧クラッチにより切り離し自在に連結されて該第2入力軸に内燃機関と電動機との何れか一方又は両方からの回転を伝達する第2入力側伝達軸と、第1入力軸及び第2入力軸に平行に配置され、第1入力軸と第2入力軸とが夫々のギヤ列を介して選択的に接続される出力軸と、互いに差動回転する第1〜第3回転要素により構成され、内燃機関からの回転が第1回転要素に入力可能とされ、第2回転要素に第1入力側伝達軸が連結され、電動機からの回転が第3回転要素に入力可能とされた動力合成機構と、電動機からの回転が第3回転要素に入力されたとき、前記動力合成機構を収容する変速機ケースと前記第1回転要素とを締結状態とするワンウェイクラッチとを備えてなり、前記副軸の前記中間伝達ギヤを介して前記第1入力側伝達軸に接続された補機を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明において、前記補機として、車両室内用の空調機、或いは、前記第1油圧クラッチ及び第2油圧クラッチを含む油圧装置を作動させるためのオイルポンプを挙げることができる。
【0011】
更に、補機がオイルポンプであるとき、該オイルポンプがアキュムレータを備えていれば、車両の始動時に前記アキュムレータに蓄圧された油圧を用いて前記油圧装置を駆動することができる。
【0012】
また、補機がオイルポンプであるとき、前記出力軸に備える従動ギヤに噛合して最低速段を成立させる駆動ギヤを、前記第1入力側伝達軸と前記第2入力側伝達軸との何れか一方の入力側伝達軸に回転自在に設け、該入力側伝達軸と最低速段を成立させる駆動ギヤとは、該入力側伝達軸の回転方向で締結状態となるワンウェイクラッチを介して連結されていてもよい。
【0013】
また、本発明において、前記動力合成機構の第1回転要素と前記内燃機関の回転が出力される動力軸とは、該内燃機関の出力時における動力軸の回転方向で締結状態となるワンウェイクラッチを介して連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、第1油圧クラッチと第2油圧クラッチとの切換え作動によって第1変速手段及び第2変速手段による複数の変速段を迅速に成立させることができるものであり、更に、第1〜第3回転要素により構成された前記動力合成機構を設けて、内燃機関からの回転を第1回転要素に入力し、電動機からの回転を第3回転要素に入力て第2回転要素から第1入力側伝達軸へ出力することにより、第1変速手段及び第2変速手段の上流側で動力合成機構による変速を行うことが可能となるものである。そして、この動力伝達装置において、補機を、副軸の中間伝達ギヤを介して第1入力側伝達軸に接続したことにより、何れの変速段においても常に第1入力側伝達軸が回転し、副軸の中間伝達ギヤを介して常に補機を作動させておくことができる。従って、停止時・アイドリングストップ時においても空調機やオイルポンプ等の補機を駆動するために、補機用の駆動装置(例えば、補機駆動用の電動モータ等)を別途設ける必要がなく、コストを抑えて且つコンパクトに構成することができるだけでなく、内燃機関や電動機の動力を有効に利用することができる。
【0015】
また、前記補機がオイルポンプである場合、オイルポンプがアキュムレータを備えていれば、オイルポンプが作動しなくても車両の始動時にはアキュムレータに蓄圧された油圧を用いて第1油圧クラッチや第2油圧クラッチ等の油圧装置を駆動することができる。
【0016】
また、前記第1入力側伝達軸と前記第2入力側伝達軸との何れか一方の入力側伝達軸に設けられて前記出力軸に備える従動ギヤに噛合する最低速段を成立させる駆動ギヤを、ワンウェイクラッチを介して当該入力側伝達軸に連結することにより、車両始動時の両入力側伝達軸の回転により自動的に最低速段の駆動ギヤが連結される。これにより、副軸の回転が得られた直後に速やかにオイルポンプを作動させることが可能となり、迅速な変速が実現できる。
【0017】
また、動力合成機構の第1回転要素と内燃機関の動力軸とをワンウェイクラッチを介して連結することにより、内燃機関から回転が入力されると係止状態となって内燃機関の動力が伝達され、また、電動機の動力により動力合成機構の第1回転要素が内燃機関の動力軸よりも速く回転したとき(主に内燃機関が停止しているときに電動機による駆動を行っているとき)、内燃機関の動力軸が動力合成機構の第1回転要素から切り離されるので、内燃機関に先立って電動機を先行駆動させ、オイルポンプ等の補機を迅速に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の動力伝達装置の概略構成を示す図。
【図2】図1の動力伝達装置における他の例を示す図。
【図3】図1の動力伝達装置における他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、エンジン2(内燃機関)と電動機3(モータ・ジェネレータ)とを駆動源として備えている。また、動力伝達装置1は、第1入力軸4を有して複数の変速段を成立させる第1変速手段5と、第1入力軸4と平行の第2入力軸6を有して第1変速手段5と異なる複数の変速段を成立させる第2変速手段7とを備えている。更に、動力伝達装置1は、副軸8及び出力軸9を備えると共に、エンジン2と電動機3との何れか一方又は両方からの回転を入力し第1入力側伝達軸10に出力するプラネタリギヤ11(動力合成機構)を備えている。
【0020】
第1入力軸4は、第1油圧クラッチ12により第1入力側伝達軸10との連結と切り離しとが行われ、第2入力軸6は、第2油圧クラッチ13により第2入力側伝達軸14との連結と切り離しとが行われる。
【0021】
第1入力側伝達軸10には第1連結ギヤ15が設けられ、この第1連結ギヤ15は副軸8に設けられた中間伝達ギヤ16に常時噛合している。そして、第2入力側伝達軸14には第2連結ギヤ17が設けられ、副軸8の中間伝達ギヤ16には、この第2連結ギヤ17が常時噛合している。これにより、第1入力側伝達軸10と第2入力側伝達軸14とは中間伝達ギヤ16を介して常時接続された状態で共に回転する。
【0022】
また、副軸8には、補機として設けられている車両室内用の空調機(エアコンデショナー)のコンプレッサ18とオイルポンプ19とが接続されている。即ち、副軸8の中間伝達ギヤ16には、空調機のコンプレッサ18及びオイルポンプ19を作動させる補機作動軸20に設けられた補機駆動ギヤ21が噛合している。
【0023】
第1変速手段5の第1入力軸4には、第2変速駆動ギヤ23と第4変速駆動ギヤ25とが回転自在に設けられている。第2変速駆動ギヤ23と第4変速駆動ギヤ25とは、油圧力又は電動力により作動される第1連結手段26(シンクロメッシュ機構)により第1入力軸4に切換え連結される。第1連結手段26は、図示において右動したとき第2変速駆動ギヤ23を第1入力軸4に連結し、左動したとき第4変速駆動ギヤ25を第1入力軸4に連結し、更に、中立位置においては第2変速駆動ギヤ23と第4変速駆動ギヤ25との両方を第1入力軸4から切り離した状態とする。
【0024】
第2入力側伝達軸14には、第1変速駆動ギヤ22が回転自在に支持されており、第2入力軸6には、第3変速駆動ギヤ24が回転自在に設けられている。第1変速駆動ギヤ22は、第1ワンウェイクラッチ27と第2連結手段28(シンクロメッシュ機構)とを介して第2入力側伝達軸14に連結される。第2連結手段28は、図中左方に位置して第1ワンウェイクラッチ27を介して第1変速駆動ギヤ22に連結し、右動して第1変速駆動ギヤ22との連結を解除する。第1ワンウェイクラッチ27は、油圧力によらずとも、(即ち、第2油圧クラッチ13を連結させることなく)第2入力側伝達軸14から第1変速駆動ギヤ22に回転が入力されると係止状態となって第1変速駆動ギヤ22と第2入力側伝達軸14とを連結する。また、第1変速駆動ギヤ22の回転が第2入力側伝達軸14よりも速く回転したとき第1変速駆動ギヤ22から第2入力側伝達軸14を切り離す。
【0025】
第3変速駆動ギヤ24は、第3連結手段29(シンクロメッシュ機構)により第2入力軸6との連結・切り離しが行われる。第3連結手段29は、図示において左動したとき第3変速駆動ギヤ24を第2入力軸6に連結し、左動したとき第3変速駆動ギヤ24を第2入力軸6から切り離す。
【0026】
副軸8は、前記中間伝達ギヤ16を一体に備えると共に、後進用駆動ギヤ30を回転自在に備えている。後進用駆動ギヤ30は、第4連結手段31(シンクロメッシュ機構)により副軸8に対して連結・切り離しが行われる。後進用駆動ギヤ30を副軸8に設けたことにより、後進用の軸が不要となり、軸数を削減して省スペース化を図ることができる。
【0027】
出力軸9は、第1入力軸4及び第2入力軸6に対して平行に回転自在に設けられている。出力軸9には、図1における右側から順に、終減速駆動ギヤ32、第1共用従動ギヤ33、及び第2共用従動ギヤ34が配設されている。
【0028】
終減速駆動ギヤ32は、図示しないが、デファレンシャルギヤ機構の終減速従動ギヤに噛合し、このデファレンシャルギヤ機構を介して車両の駆動輪を駆動するようになっている。第1共用従動ギヤ33は、第1入力軸4の第2変速駆動ギヤ23に常時噛合すると共に、第2入力側伝達軸14の第1変速駆動ギヤ22に常時噛合し、更に、副軸8の後進用駆動ギヤ30に常時噛合する。第2共用従動ギヤ34は、第1入力軸4の第4変速駆動ギヤ25に常時噛合すると共に、第2入力軸6の第3変速駆動ギヤ24に常時噛合する。このように、第2変速駆動ギヤ23、第1変速駆動ギヤ22、及び後進用駆動ギヤ30の夫々の従動ギヤとして第1共用従動ギヤ33を共用し、第4変速駆動ギヤ25及び第3変速駆動ギヤ24の夫々の従動ギヤとして第2共用従動ギヤ34を共用しているので、部品点数(主にギヤの数)が飛躍的に削減でき、コンパクトに構成することができる。
【0029】
プラネタリギヤ11は、リングギヤRf(第1回転要素)と、リングギヤRfに噛合するピニオンPfと、ピニオンPfを自転及び公転自在に支持するキャリアCf(第2回転要素)と、ピニオンPfに噛合するサンギヤSf(第3回転要素)とで構成されている。また、プラネタリギヤ11のリングギヤRfには、油圧力により作動する第1リングクラッチ35と第2リングクラッチ36とが設けられている。第1リングクラッチ35は、リングギヤRfとキャリアCfとの連結・切り離しを行う。第2リングクラッチ36は、リングギヤRfとエンジン2の回転が出力される動力軸2a(はずみ車の出力側の軸等)とを切り離し自在に連結する。
【0030】
プラネタリギヤ11の外周には、電動機3が配置されている。即ち、電動機3のステータ3aを最外周に配し、その内側のロータ3bの内部空間にプラネタリギヤ11を収容してコンパクトに構成している。そして、本実施形態では、エンジン2からの回転が第2リングクラッチ36を介してリングギヤRfに入力可能とされると共に、電動機3からの回転がサンギヤSfに入力可能とされており、第1入力側伝達軸10がキャリアCfに連結されている。
【0031】
また、リングギヤRfには、動力伝達装置1を収容する図示しない変速機ケースにリングギヤRfを解除自在に固定する第2ワンウェイクラッチ37が設けられている。第2ワンウェイクラッチ37は、電動機3からの回転をサンギヤSfに入力したときに、サンギヤSfの回転方向に対して逆回転となるリングギヤRfを係止してリングギヤRfの回転を停止させるが、エンジン2からの回転がリングギヤRfに入力されたときには、リングギヤRfの係止を解除して回転自在とする。
【0032】
プラネタリギヤ11においては、第1リングクラッチ35と第2リングクラッチ36とを共に接続状態とすることでエンジン2からの回転が1:1の変速比で第1入力側伝達軸10に伝達され、第2リングクラッチ36を接続状態とし且つ第1リングクラッチ35を切り離し状態とすることでエンジン2からの回転が減速されて第1入力側伝達軸10に伝達されるので、2つの変速段を得ることができる。また、第1リングクラッチ35を接続状態とし且つ第2リングクラッチ36を切り離し状態とすることでエンジン2を切り離して電動機3からの回転を1:1の変速比で第1入力側伝達軸10に伝達することもできる。更に、第2ワンウェイクラッチ37を設けることにより、油圧力によらずとも(即ち、第1リングクラッチ35を連結状態とすることなく)電動機3の駆動を行うことで、プラネタリギヤ11により減速段を得ることができる。
【0033】
上記構成からなる動力伝達装置1において、1速段については、車両発進時、電動機3を始動させてその回転を第1入力側伝達軸10に伝達することにより設定される。第1入力側伝達軸10の回転前及び回転直後は補機作動軸20の回転が得られないためにオイルポンプ19の作動による油圧力は十分に得られないが、第1変速駆動ギヤ22は、第1ワンウェイクラッチ27と第2連結手段28とを介して第2入力側伝達軸14に連結されていることにより、電動機3の始動回転が第1入力側伝達軸10から第2入力側伝達軸14を経て第1変速駆動ギヤ22に伝達される。これにより、電動機3の回転が第1変速駆動ギヤ22とこれに噛合する第1共用従動ギヤ33とを介して出力軸9に伝達され、1速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0034】
その後、第1入力側伝達軸10が回転されてオイルポンプ19の作動による油圧力が十分に得られるようになれば、油圧力により第2リングクラッチ36を作動させ、エンジン2を接続してエンジン2による駆動が行える。
【0035】
2速段は、第1連結手段26を右動させて第2変速駆動ギヤ23を第1入力軸4に連結し、第1油圧クラッチ12を接続作動させる(第2油圧クラッチ13は切り離し状態とする)ことにより設定される。このとき、第1リングクラッチ35を切り離し状態とし、エンジン2駆動の場合には第2リングクラッチ36を接続状態とし、電動機3駆動の場合には第2リングクラッチ36を切り離し状態としてエンジン2又は電動機3の回転を減速して第1入力側伝達軸10に伝達する。そして、第1入力側伝達軸10に伝達された回転駆動力は、第1油圧クラッチ12を経て第1入力軸4に伝達され、第1入力軸4に連結された第2変速駆動ギヤ23と、これに噛合する第1共用従動ギヤ33とを介して出力軸9に伝達される。これにより2速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0036】
3速段は、第1リングクラッチ35を連結状態とし、エンジン2駆動の場合には第2リングクラッチ36を接続状態とし、電動機3駆動の場合には第2リングクラッチ36を切り離し状態としてエンジン2又は電動機3の回転を1:1の変速比で第1入力側伝達軸10に伝達し、他は2速段と同様に維持することにより設定される。これにより、プラネタリギヤ11における変速段の切換えのみで3速段が成立し、3速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0037】
4速段は、第3連結手段29を左動させて第3変速駆動ギヤ24を第2入力軸6に連結し、第2油圧クラッチ13を接続作動させる(第1油圧クラッチ12は切り離し状態とする)ことにより設定される。このとき、第1リングクラッチ35を切り離し状態とし、エンジン2駆動の場合には第2リングクラッチ36を接続状態とし、電動機3駆動の場合には第2リングクラッチ36を切り離し状態としてエンジン2又は電動機3の回転を減速して第1入力側伝達軸10に伝達する。そして、第1入力側伝達軸10から第2入力側伝達軸14に伝達された回転駆動力は、第2油圧クラッチ13を経て第2入力軸6に伝達され、第2入力軸6に連結された第3変速駆動ギヤ24と、これに噛合する第2共用従動ギヤ34とを介して出力軸9に伝達される。これにより4速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0038】
5速段は、第1リングクラッチ35を連結状態とし、エンジン2駆動の場合には第2リングクラッチ36を接続状態とし、電動機3駆動の場合には第2リングクラッチ36を切り離し状態としてエンジン2又は電動機3の回転を1:1の変速比で第1入力側伝達軸10に伝達し、他は4速段と同様に維持することにより設定される。これにより、プラネタリギヤ11における変速段の切換えのみで5速段が成立し、5速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0039】
6速段は、第1連結手段26を左動させて第4変速駆動ギヤ25を第1入力軸4に連結し、第1油圧クラッチ12を接続作動させる(第2油圧クラッチ13は切り離し状態とする)ことにより設定される。このとき、第1リングクラッチ35を切り離し状態とし、エンジン2駆動の場合には第2リングクラッチ36を接続状態とし、電動機3駆動の場合には第2リングクラッチ36を切り離し状態としてエンジン2又は電動機3の回転を減速して第1入力側伝達軸10に伝達する。そして、第1入力側伝達軸10に伝達された回転駆動力は、第1油圧クラッチ12を経て第1入力軸4に伝達され、第1入力軸4に連結された第4変速駆動ギヤ25と、これに噛合する第2共用従動ギヤ34とを介して出力軸9に伝達される。これにより6速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0040】
7速段は、第1リングクラッチ35を連結状態とし、エンジン2駆動の場合には第2リングクラッチ36を接続状態とし、電動機3駆動の場合には第2リングクラッチ36を切り離し状態としてエンジン2又は電動機3の回転を1:1の変速比で第1入力側伝達軸10に伝達し、他は6速段と同様に維持することにより設定される。これにより、プラネタリギヤ11における変速段の切換えのみで7速段が成立し、7速段による駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。
【0041】
そして以上のように、何れの変速段においても常に第1入力側伝達軸10が回転し、これによって副軸8の中間伝達ギヤ16、及び補機駆動ギヤ21を介して常に補機作動軸20を回転させておくことができるので、空調機のコンプレッサ18とオイルポンプ19との作動状態を維持することができる。従って、空調機のコンプレッサ18やオイルポンプ19を駆動するために、別の駆動装置(例えば、駆動モータ等)を設ける必要がなく、コストを抑えて且つコンパクトに構成することができるだけでなく、エンジン2や電動機3の動力を有効に利用することができる。
【0042】
後進段は、エンジン2駆動の場合、第2リングクラッチ36と第1リングクラッチ35とを接続状態とし、第4連結手段31により後進用駆動ギヤ30を副軸8に連結することにより設定される。電動機3駆動の場合は、第2リングクラッチ36と第1リングクラッチ35とを切り離し状態とし、第4連結手段31により後進用駆動ギヤ30を副軸8に連結することにより設定される。第1入力側伝達軸10に伝達された回転駆動力は、第1連結ギヤ15及び中間伝達ギヤ16を介して副軸8に伝達され、後進用駆動ギヤ30とこれに噛合する第1共用従動ギヤ33とを介して出力軸9に伝達される。これにより後進段における駆動力は終減速駆動ギヤ32を介して出力される。なお、後進段の場合には、第2連結手段28を右動させて第2入力側伝達軸14から第1変速駆動ギヤ22を切り離しておく。
【0043】
なお、以上の各変速段及び後進段においてエンジン2のみの単独で駆動する場合には、電動機3を逆回転による停止制御或いはサンギヤSfにトラクションを付与する回生制御を行うことにより、プラネタリギヤ11における回転の伝達効率を向上させる。
【0044】
また、アイドリングの状態においては、第1油圧クラッチ12と第2油圧クラッチ13とを切り離し状態とすると共に、第2連結手段28を右動させて第2入力側伝達軸14から第1変速駆動ギヤ22を切り離し、エンジン2又は電動機3からの回転をプラネタリギヤ11を介して第1入力側伝達軸10に伝達することにより、空調機のコンプレッサ18とオイルポンプ19との作動状態を維持することができる。
【0045】
また、上記の実施形態においては、オイルポンプ19が作動しなくても1速段を成立させるために、第1ワンウェイクラッチ27を介して第1変速駆動ギヤ22と第2入力側伝達軸14とを連結するものを示したが、それ以外に、図示しないが、アキュムレータを備えるオイルポンプを補機作動軸20に設けておくことにより、車両の始動時にはアキュムレータに蓄圧された油圧を用いることができる。この場合には、例えば、図2に示すように、第1変速駆動ギヤ22を第2入力軸6に設け、第3連結手段29をアキュムレータに蓄圧された油圧力により作動させて、1速段を迅速に成立させることができる。また、この場合にも、図1に示した構成と同様に、第1ワンウェイクラッチ27と第2連結手段28とを第2入力側伝達軸14に設けておくことで、アキュムレータに蓄圧された油圧力が小さい場合に第1ワンウェイクラッチ27による連結状態を得ることができるので有利である。
【0046】
また、図1においては、リングギヤRfに油圧力により作動する第2リングクラッチ36を設けて、リングギヤRfとエンジン2の回転が出力される動力軸2aとを切り離し自在とした構成を示したが、図3に示すように、第2リングクラッチ36に替えてエンジン2の動力軸2aとリングギヤRfとの間に第3ワンウェイクラッチ38を設けてもよい。第3ワンウェイクラッチ38は、油圧力によらずとも、エンジン2から回転が入力されると係止状態となってエンジン2の動力軸2aとリングギヤRfとを連結する。また、リングギヤRfの回転がエンジン2の動力軸2aよりも速く回転したとき(主にエンジン2が停止しているときに電動機3による駆動を行っているとき)、エンジン2の動力軸2aからングギヤRfを切り離す。このような第3ワンウェイクラッチ38を設けることにより、エンジン2に先立って電動機3が先行駆動させ、オイルポンプ19を迅速に作動させることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…動力伝達装置、2…エンジン(内燃機関)、2a…動力軸、3…電動機、4…第1入力軸、5…第1変速手段、6…第2入力軸、7…第2変速手段、8…副軸、9…出力軸、10…第1入力側伝達軸、11…プラネタリギヤ(動力合成機構)、12…第1油圧クラッチ、13…第2油圧クラッチ、14…第2入力側伝達軸、16…中間伝達ギヤ、18…空調機のコンプレッサ(補機)、19…オイルポンプ(補機)、Rf…リングギヤ(第1回転要素)、Cf…キャリア(第2回転要素)、Sf…サンギヤ(第3回転要素)、22…第1変速駆動ギヤ、27…第1ワンウェイクラッチ、37…第2ワンウェイクラッチ、38…第3ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両用動力伝達装置であって、
第1入力軸を有して複数の変速段を成立させる第1変速手段と、
第1入力軸に第1油圧クラッチにより切り離し自在に連結されて該第1入力軸に内燃機関と電動機との何れか一方又は両方からの回転を伝達する第1入力側伝達軸と、
第1入力軸と平行の第2入力軸を有して第1変速手段と異なる複数の変速段を成立させる第2変速手段と、
第1入力側伝達軸に平行に配置された副軸が備える中間伝達ギヤを介して第1入力側伝達軸に接続され、第2入力軸に第2油圧クラッチにより切り離し自在に連結されて該第2入力軸に内燃機関と電動機との何れか一方又は両方からの回転を伝達する第2入力側伝達軸と、
第1入力軸及び第2入力軸に平行に配置され、第1入力軸と第2入力軸とが夫々のギヤ列を介して選択的に接続される出力軸と、
互いに差動回転する第1〜第3回転要素により構成され、内燃機関からの回転が第1回転要素に入力可能とされ、第2回転要素に第1入力側伝達軸が連結され、電動機からの回転が第3回転要素に入力可能とされた動力合成機構と、
電動機からの回転が第3回転要素に入力されたとき、前記動力合成機構を収容する変速機ケースと前記第1回転要素とを締結状態とするワンウェイクラッチとを備えてなり、
前記副軸の前記中間伝達ギヤを介して前記第1入力側伝達軸に接続された補機を備えることを特徴とするハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記補機は、車両室内用の空調機であることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記補機は、前記第1油圧クラッチ及び第2油圧クラッチを含む油圧装置を作動させるためのオイルポンプであることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記オイルポンプは、アキュムレータを備え、
車両の始動時に前記アキュムレータに蓄圧された油圧を用いて前記油圧装置を駆動することを特徴とする請求項3記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記出力軸に備える従動ギヤに噛合して最低速段を成立させる駆動ギヤを、前記第1入力側伝達軸と前記第2入力側伝達軸との何れか一方の入力側伝達軸に回転自在に設け、
該入力側伝達軸と最低速段を成立させる駆動ギヤとは、該入力側伝達軸の回転方向で締結状態となるワンウェイクラッチを介して連結されていることを特徴とする請求項3記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。
【請求項6】
前記動力合成機構の第1回転要素と前記内燃機関の回転が出力される動力軸とは、該内燃機関の出力時における動力軸の回転方向で締結状態となるワンウェイクラッチを介して連結されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載のハイブリッド車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−179859(P2010−179859A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26986(P2009−26986)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】