説明

ハイブリッド電気自動車用回生制御装置

【課題】 簡単な構成で精度良く余剰な回生電力のみを消費させ、回生電力を全てバッテリに充電できない場合であっても回生制動を継続できるようにした、ハイブリッド電気自動車の回生制御装置を提供する。
【解決手段】 車両に搭載されたエンジン101に駆動されるモータ発電機102と、モータ発電機102の発電した電力により充電されるバッテリ103と、バッテリ103またはモータ発電機102から電力供給を受けて駆動力を発生すると共に車両を回生制動し得るように構成された駆動用モータ105と、回生制動時にバッテリ103の端子電圧が第一の所定値を超えたとき、駆動用モータ105から出力される回生電力の一部をモータ発電機102に供給してエンジン101を駆動させるエンジン逆駆動手段(インバータコントローラ)120とを備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車に用いられ、回生制動を制御する回生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン(一般には内燃機関)によって駆動する発電機、比較的高電圧のバッテリ及び駆動用モータ等を備えたハイブリッド電気自動車(HEV)が実用化されており、ハイブリッド電気自動車には、エンジンの駆動力と駆動用モータの駆動力を併用して駆動輪を回転駆動させて走行するパラレル式ハイブリッド電気自動車や、エンジンによって駆動する発電機が発電した電力によって駆動用モータを駆動させて走行するシリーズ式ハイブリッド電気自動車があり、また、これらの特徴を融合させたものがある。
【0003】
このようなハイブリッド電気自動車では、車両の制動時において、駆動輪からの動力によって駆動用モータを作動させて発電を行い、車両の制動力を発生させるとともに、駆動用モータで発電した回生電力をバッテリに充電する、いわゆる回生制動(回生ブレーキ)が広く行われている。
このような回生制動を行う場合において、バッテリの充電状態が高い場合(満充電に近い状態)や極低温時等には、バッテリに充電可能な電力量が少なく、駆動用モータで発電した全ての回生電力をバッテリに充電することはできない。
【0004】
バッテリの充電可能量を超えた過大な回生電力がバッテリに供給されると、バッテリは回生電力を充電することができずに電圧だけが上昇するようになる。このため、このような場合には、バッテリの電圧が限界を超えて上昇することよって、バッテリに破損が生じるのを防止するために回生ブレーキをカットして、回生電力の発電によって得る制動力の代わりに摩擦ブレーキを使用して摩擦力によって車両の制動力を得るようにしている。
【0005】
車両の制動時において回生ブレーキと摩擦ブレーキとを併用するには協調制御が用いられるが、上述の理由により回生電力をバッテリに充電することができなくなり、回生ブレーキが急激にカットされると、回生ブレーキが負担していた制動力を摩擦ブレーキで賄わなくてはならず、この摩擦ブレーキの応答遅れから、運転者のブレーキフィーリングに影響を与える可能性がある。
【0006】
また、バッテリが劣化してくるとバッテリ容量は低下するので、回生電力をバッテリに充電できないことが多くなり摩擦ブレーキの使用頻度も多くなる。こうして摩擦ブレーキによる車両の制動を頻繁に行うと、摩擦ブレーキの摩擦材の磨耗が促進され、摩擦ブレーキの寿命が短くなることが考えられる。
そこで、摩擦ブレーキの負担の軽減やブレーキフィーリングの向上を目的として、回生制動中にバッテリに充電可能な電力及び回生電力を演算し、充電可能電力が回生電力を下回ると、バッテリに充電されない余剰の回生電力を発電機に供給して発電機をモータ作動させることでエンジンを回転させて、エンジンの回転負荷によって余剰の回生電力を消費するようにした技術が記載されている(特許文献1を参照)。
【0007】
この技術によれば回生制動時において、例えばバッテリが満充電に近く、バッテリに充電可能な電力が少ない場合でも、余剰な回生電力がエンジンの回転負荷によって消費され、過剰充電によるバッテリの電圧上昇が抑制されて破損を防止するので、回生ブレーキをカットすることなく回生制動を継続させることができるため、摩擦ブレーキの使用を低減することができる。
【特許文献1】特開2001−238303公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1の技術では、回生制動時において、バッテリの充電レベルを検出し、検出したバッテリの充電レベルに応じてバッテリに充電可能な電力を設定するようにしている。
しかしながら、バッテリの充電可能電力はバッテリの劣化状況や温度条件によって変化するので、これを正確に把握することは難しく、これを正確に把握しようとすればバッテリの蓄電量に加えて劣化状況や温度条件までも考慮する必要があり、装置が複雑になってしまう。
【0009】
また、装置が複雑になるとバッテリの充電可能電力を誤検出する可能性も高くなる。こうした誤検出や装置の誤作動等により、バッテリの充電可能電力を実際に充電可能な電力よりも小さく設定した場合には、検出誤差分の電力が、バッテリに充電されることなくエンジンの回転負荷によって消費されてしまい、この分の電力は無駄になってしまう。あるいは、バッテリの充電可能電力を実際に充電可能な電力よりも大きく設定した場合には、バッテリには過剰に回生電力が供給されることとなり、バッテリに破損等が発生する可能性がある。
【0010】
本発明はこのような課題に鑑み創案されたもので、簡単な構成で精度良く余剰な回生電力のみを消費させ、回生電力を全てバッテリに充電できない場合であっても回生制動を継続できるようにした、ハイブリッド電気自動車の回生制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る本発明の回生制御装置は、車両に搭載されたエンジンに駆動されるモータ発電機と、前記モータ発電機の発電した電力により充電されるバッテリと、前記バッテリまたは前記モータ発電機から電力供給を受けて駆動力を発生すると共に前記車両を回生制動し得るように構成された駆動用モータと、前記回生制動時に前記バッテリの端子電圧が第一の所定値を超えたとき、前記駆動用モータから出力される回生電力の一部を前記モータ発電機に供給して前記エンジンを駆動させるエンジン逆駆動手段と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
また、請求項2に係る本発明の回生制御装置は、請求項1のものにおいて、前記回生制動時に前記バッテリの端子電圧が前記第一の所定値よりも高い第二の所定値を超えたとき、前記エンジンの補助ブレーキを作動させる回生時補助ブレーキ制御手段を備えたことを特徴としている。
また、請求項3に係る本発明の回生制御装置は、請求項2のものにおいて、前記回生制動時に前記バッテリの端子電圧が前記第二の所定値を越えたとき、前記エンジンの回転数を徐々に上昇させ、前記第二の所定値よりも高い第三の所定値を超えたとき、エンジンの回転数を維持する回生時エンジン制御手段を備えたことを特徴としている。
【0013】
また、請求項4に係る本発明の回生制御装置は、請求項3のものにおいて、前記回生時エンジン制御手段は、前記バッテリの端子電圧が前記第三の所定値に達したときに前記エンジンの回転数が限界回転数となるような特性により前記バッテリの端子電圧の上昇に応じて前記エンジンの回転数を上昇させ、前記駆動用モータは、前記バッテリの端子電圧が前記第三の所定値に達したときには、前記回生電力の発電量を前記モータ発電機に供給している電力量と等しい量の回生電力量に制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
したがって、請求項1記載の本発明の回生制御装置によれば、回生制動時において、バッテリに充電可能な電力よりも大きな回生電力が発生した場合でも、バッテリの端子電圧が第一の所定値を超えたときには、エンジン逆駆動手段によって回生電力の一部がモータ発電機に供給されてエンジンを駆動させるようにしているので、簡単な構成で精度良く、余剰な回生電力をエンジンの回転負荷によって消費でき、バッテリの電圧上昇を抑制することができる。
これによって回生電力を全てバッテリに充電することができない場合にあっても、回生制動を継続させることができ、摩擦ブレーキの使用頻度を低減してブレーキフィーリングへの影響を低減するとともに摩擦ブレーキの負担を低減して摩擦ブレーキの磨耗を低減することができる。
【0015】
また、請求項2記載の本発明の回生制御装置によれば、回生制動時において、バッテリの端子電圧が第二の所定値を越えて上昇すると、エンジンの補助ブレーキが作動されてエンジン負荷を増大させるので回生電力の消費を促進でき、余剰の回生電力が比較的大きい場合であっても回生制動をカットすることなく継続させることができる。
【0016】
また、請求項3記載の本発明の回生制御装置によれば、回生制動時において、バッテリの端子電圧が第二の所定値を越えて上昇すると、エンジンの回転数を徐々に上昇させて、エンジン負荷を増大させ、バッテリの端子電圧が第二の所定値よりも高い第三の所定値を超えると、エンジンの回転数を維持するので、余剰な回生電力を消費しながらもエンジンが許容回転数を超えて回転するのを防止することができる。
【0017】
また、請求項4記載の本発明の回生制御装置によれば、回生制動時において、バッテリの端子電圧が第三の所定値に達したときに、エンジンの回転数が限界回転数となるので、エンジン負荷を最大限使用して余剰な回生電力を消費できるとともに、バッテリの端子電圧が第三の所定値よりも上昇することを防止して電圧上昇によるバッテリの破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1〜4は、本発明の第1実施形態に係る回生制御装置を説明するためのものであって、図1は本発明の回生制御装置を適用したシリーズ式ハイブリッド電気自動車の要部の構成を示す模式図、図2は車両の走行時において制動力Tbrkが一定時間継続して要求されたときの状態を示すグラフであり、図2(A)は経過時間に対応した制動エネルギーTbrkの分配構成を示し、図2(B)は経過時間に対応したバッテリ103の端子電圧Vbの電圧値を示し、図3は本実施形態における回生制動時の制御を示すフローチャート、図4は回生制動時におけるエンジン回転数(逆駆動)とバッテリの端子電圧及び排気バルブを示すグラフであり、(A)は排気バルブの開閉を示し、(B)はバッテリの端子電圧とエンジン回転数の関係を示す。
【0019】
図1に示すように本実施形態の回生制御装置は、エンジン101、モータ発電機102、バッテリ103、インバータ104、駆動用モータ105、駆動輪106、エンジンコントローラ107、モータコントローラ108及び発電機コントローラ112を備えている。
モータ発電機102の回転軸は、エンジン101の出力軸に接続されており、モータ発電機102はエンジン101の駆動により回転して発電を行うようになっている。また、モータ発電機102は電力供給されることでモータ作動するようになっており、モータ発電機102がモータ作動するとエンジン101はモータ発電機102の駆動によって燃料供給をされ燃焼を行うことなく回転するようになっている。この場合エンジン101はモータ発電機102の作動負荷となる。
【0020】
また、モータ発電機102には発電機コントローラ112が接続されており、発電機コントローラ112はモータ発電機102の上記発電及び駆動を制御する。
駆動用モータ105にはモータコントローラ108が接続されており、モータコントローラ108は走行時には加速要求に合わせて駆動用モータ105に供給する電力を制御するとともに、駆動用モータ105に供給される界磁電流を制御するようになっている。
【0021】
また、駆動用モータ105の駆動軸は車両の駆動輪106に動力伝達可能に接続されており、回生制動時には駆動輪106の動力によって駆動用モータ105の駆動軸を回転させることによって駆動用モータ105において回生電力が発電されるようになっている。
エンジン101には、エンジン回転数センサ111が備えられている。また、エンジン101の排気通路には排気の流通を制限することでエンジンブレーキ力を発生させる排気バルブ110が備えられ、回生制動時には排気バルブ110を閉じることによってエンジン101の回転負荷を高めてモータ発電機102による回生電力の消費を促進させるようになっている。即ち、ここでは排気バルブ110は補助ブレーキとして機能するようになっている。
【0022】
バッテリ103には、バッテリ103の端子電圧Vbを検知する電圧センサ109が備えられており、電圧センサ109の検出値はインバータ104に入力されるようになっている。
モータ発電機102、バッテリ103及び駆動用モータ105は、それぞれインバータ104を介して電気的に接続されており、モータ発電機102の発電電力はバッテリ103及び駆動用モータ105に供給されるようになっている。また、回生制動時には駆動用モータ105によって発電された回生電力がバッテリ103及びモータ発電機102に供給されるようになっている。さらに、インバータ104は、エンジンコントローラ107、モータコントローラ108及び発電機コントローラ112と通信可能に電気的に接続されている。
【0023】
インバータ104は、モータ発電機102又はバッテリ103から供給される電力の電圧,電流の調整及び直流電力を交流電力に変換して、安定した電力を駆動用モータ105に供給するため、あるいは、後述するように回生制動時に駆動用モータ105によって発電した回生電力の電圧、電流の調整を行って安定した電力をバッテリ103に供給するための装置である。
【0024】
また、インバータ104の機能手段であるインバータコントローラ120には、バッテリ103の電圧に関する第一から第三の所定値V1〜V3が予め記憶されており、また、エンジン101の限界回転数Nemaxが記憶されている。
そして、回生制動時において、電圧センサ109から入力されるバッテリ103の端子電圧Vbの値が第1の所定値以下である場合には、インバータコントローラ120の制御によってインバータ104に入力される回生電力は全てバッテリ103に供給される。
【0025】
また、バッテリ103の端子電圧Vbの値が第1の所定値よりも高い場合には、インバータコントローラ120は、インバータ104に入力された回生電力の一部をモータ発電機102に供給するとともにモータ発電機102をモータ作動させるように発電機コントローラ112に指示する。したがって、インバータ104に入力された回生電力は、一部がエンジン101の回転負荷によって消費され、残りの一部はバッテリ103に供給される。即ち、ここではインバータコントローラ120がエンジン逆駆動手段として機能するようになっている。
【0026】
さらに、回生制動時において、バッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値よりも高い場合には、インバータコントローラ120の制御によってモータ発電機102に供給する回生電力を徐々に増加させてエンジン101の回転数を増加させる。このとき、インバータコントローラ120はエンジン回転数センサ111からエンジンコントローラ107を介して入力されるエンジン回転数Neと限界回転数Nemax及びバッテリ103の端子電圧Vbに基づいて、バッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値V3に達したときにエンジン回転数Neが限界回転数Nemaxとなるような相関関係を予め設定し、この相関関係をマッピングしたマップに基づいて[図4(B)参照]、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じて、エンジン101の回転数を上昇させるように制御する。
【0027】
そして、バッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値V3に達したときには、インバータコントローラ120によってモータ発電機102に供給する電力量を制御してエンジン回転数Neを限界回転数Nemaxに保つようになっている。また、それと同時にインバータコントローラ120はモータコントローラ108にモータ発電機102に供給している電力量を指示して、モータコントローラ108による回生電力の発電量をインバータ104からモータ発電機102に供給している電力量と等しくなるように指示をする。
【0028】
即ち、ここではインバータコントローラ120はエンジン逆駆動手段及び回生時エンジン制御手段として機能するようになっている。
なお、回生制動によって発生する制動力が要求される制動力より不足する場合には、図示しない摩擦ブレーキが作動して車両の制動力を補完するようになっている。
したがって、本回生制御装置においては、車両の走行時に制動要求がなされた場合、要求される制動力(制動トルク)は、駆動用モータ105での回生電力の発電と摩擦ブレーキの摩擦力とによって発生し、回生電力はバッテリ103への蓄電に加え、エンジン101の回転負荷による消費によって吸収されるようになっている。つまり、車両の制動時に要求される制動トルクはバッテリ103、エンジン101及び摩擦ブレーキに分配される。
【0029】
例えば、一定の制動トルクTbrkが一様に一定時間継続して要求された場合には、経過時間及びバッテリ103の端子電圧Vbに応じて制動トルクは図2(A)(B)のように分配される。なお、図2は説明をより簡潔にする為に回生電力の発電効率については考慮せず、省略している。
図2(A)に示すように、T0の時点でTbrkの制動トルクが要求されると、駆動用モータ105においてTbrkの制動トルクを発生する量の回生電力が発電される。
【0030】
また、図2(B)に示すようにT0〜T1の期間ではバッテリ103の端子電圧Vbは第一の所定値V1以下なので、回生電力は、全てバッテリ103に供給される。即ちT0〜T1の期間では制動力Tbrkは全てバッテリ103に分配される。
また、図2(B)のT0〜T1に示すように、バッテリ103が満充電などによって充電不可能な状態に近くなると、電力供給に応じてバッテリ103の端子電圧Vbは急激に上昇する。
【0031】
T1〜T2の期間においては、バッテリ103の端子電圧Vbは第一の所定値V1を超えているので、インバータコントローラ120の制御により回生電力の一部がモータ発電機102に供給されてエンジン101が逆駆動される。そして、エンジン回転数Neはアイドリング時の回転数Neiになるように制御される。このため、回生電力の一部はエンジン101の回転負荷によって消費されるようになり、バッテリ103に供給される回生電力が減少する。即ち、T1〜T2の期間では、制動力Tbrkはエンジン101とバッテリ103とに一定の割合で分配される。また、バッテリ103の端子電圧Vbの電圧上昇はT1を境にして緩やかになる。
【0032】
T2の時点においてバッテリ103の端子電圧Vbは第二の所定値V2を超えると、エンジン101の排気通路にある排気バルブ110が閉じられ、エンジン101の回転負荷が増大する。このとき、エンジン回転数Neは一時的に低下するが、インバータコントローラ120はモータ発電機102に供給する回生電力を急増させるので、エンジン回転数Neの低下は抑制される。その結果、T2の時点でエンジン101で消費される回生電力の量が急増し、バッテリ103に供給される回生電力は減少するのでバッテリ103の端子電圧Vbの電圧上昇はT2を境にしてさらに緩やかになる。
【0033】
また、T2〜T3の期間において、インバータコントローラ120はバッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値V3に達したときにエンジン101の回転数Neが限界回転数Nemaxとなるように、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じてエンジン101の回転数Neを上昇させるので、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じてエンジン101の回転数Neも上昇し、エンジン101の吸収トルクが増大する。したがって、T2〜T3の期間では、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じて、モータ発電機102に供給される回生電力が増加してエンジン101の吸収トルクが増加する。また、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じてバッテリ103に供給される回生電力は減少するのでバッテリ103の電圧上昇は徐々に緩やかになる。
【0034】
そして、T3の時点でバッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値V3に達すると、回生電力の発電量が、モータ発電機102に供給される電力量と等しくなるように低減され、摩擦ブレーキが作動する。したがって、T3の時点以降では回生電力の低減によって不足する制動トルクは摩擦ブレーキの摩擦力によって補完され、低減された回生電力は全てモータ発電機102に供給され、バッテリ103には供給されないのでバッテリ103の端子電圧VbはV3から上昇する事はない。
【0035】
本発明の一実施形態に係る回生制御装置はこのように構成されているので、車両の走行時にはモータ発電機102の発電電力及びバッテリ103の電力がインバータ104を介して駆動用モータ105に供給されて駆動用モータ105を駆動する。そして、駆動用モータ105と動力伝達可能に接続された駆動輪106を駆動させて走行する。
そして、運転者がアクセルペダルをオフ又はブレーキペダルをオンあるいはリターダレバーをオンとして車両の制動要求がなされると回生制動がスタートする。
【0036】
回生制動時には、駆動輪106の動力によって、駆動用モータ105の駆動軸が回転する。このとき駆動用モータ105には誘電磁界を形成するための界磁電流が供給されており、駆動軸の回転によって、回生電力が発電される。なお、界磁電流の供給量は図示しないECUの指示によってモータコントローラ108で制御される。
そして、回生電力の発電と同時に駆動用モータ105の駆動軸には発電した回生電力に相当する制動トルクが発生し、発生した制動トルクが駆動輪106に伝達されて車両の制動が行われる。
【0037】
この回生制動時における制御をさらに説明すると、例えば図3に示すフローチャートのような制御が行われる。図3に示す制御は所定の周期毎に行われる。
図3に示すように、回生制動がスタートするとまず、ステップS10において、電圧センサ109が検知したバッテリ103の端子電圧Vbがインバータコントローラ120に入力される。
【0038】
そして、ステップS20では、インバータコントローラ120において、インバータ104に入力されたバッテリ103の端子電圧Vbと予め設定されている第一の所定値V1との大小関係が比較される。
バッテリ103の端子電圧Vbが第一の所定値V1以下である場合には、ステップS30に進み、ステップS30では、インバータ104によって電流,電圧が調整された回生電力がインバータコントローラ120の制御によってバッテリ103へと供給される。このとき、インバータコントローラ120はモータ発電機102に回生電力を供給しないように制御する。そして、その後は再びスタートに戻りバッテリ103の端子電圧Vbを検知する。この際、回生制動による制動力に不足がある場合は、ステップS120において、図示しない摩擦ブレーキによって制動力が補完される。
【0039】
ステップS20において、バッテリ103の端子電圧Vbが第一の所定値V1よりも大きい場合には、ステップS40へ進み、インバータ104は、電流,電圧を調整した回生電力をモータ発電機102に供給してモータ発電機102をモータ作動させてエンジン101を逆駆動させる。
そして、ステップS50で改めて、ステップS10で検知したバッテリ103の端子電圧Vbと第二の所定値V2とが比較される。なお、第二の所定値V2は予め設定された値であり、第一の所定値V1よりも大きい値である。
【0040】
ステップS50において、バッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値V2以下である場合にはステップS60へ進み、インバータコントローラ120はインバータ104からモータ発電機102に供給する回生電力の供給量を制御して、エンジンコントローラ107から入力されるエンジン回転数センサ111の検出値に基づいて、逆駆動したエンジン101の回転数がアイドリング時のエンジン回転数Neiとなるようにフィードバック制御する。そして、その後は再びスタートに戻りバッテリ103の端子電圧Vbを検知する。その際、回生制動による制動力に不足がある場合には摩擦ブレーキによって補完される。
【0041】
また、ステップS50において、バッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値V2よりも大きい場合には、ステップS70へ進む。ステップS70では、インバータコントローラ120はエンジンコントローラ107に排気バルブ閉指示を送出し、エンジンコントローラ107はエンジン101を制御して排気バルブを閉じる。そして、ステップS80においてインバータコントローラ120はエンジン回転数Neと予め記憶している限界回転数Nemaxとバッテリ103の端子電圧Vbとに基づいて、バッテリ103の端子電圧VbがV2のときはエンジン回転数NeがNeiとなるように、また、バッテリ103の端子電圧VbがV3のときはエンジン回転数NeがNemaxとなるようにバッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じてインバータ104がモータ発電機102に供給する回生電力の供給量を制御してエンジン101の回転数を徐々に上昇させる。
【0042】
次に、ステップS90において再度、ステップS10で検知したバッテリ103の端子電圧Vbと第三の所定値V3とが比較される。なお、第三の所定値V3は予め設定された値であり、第二の所定値V2よりも大きい値である。
ステップS90において、バッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値V3以下である場合には再びスタートに戻りバッテリ103の端子電圧Vbを検知する。その際、回生制動による制動力に不足がある場合にはステップS120において摩擦ブレーキによって補完される。
【0043】
また、ステップS90において、バッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値V3よりも大きい場合には、ステップS100へ進む。ステップS100では、インバータコントローラ120の制御に基づいてインバータ104はモータ発電機102に供給する回生電力の供給量を増減させ、随時インバータ104に入力されるエンジン回転数センサの検出値Neに基づいて、エンジン回転数Neが限界回転数Nemaxになるようにフィードバック制御を行う。
【0044】
このステップS100の処理とともに、ステップS110において、インバータコントローラ120はモータ発電機102へ供給している電力値をモータコントローラ108に入力し、モータコントローラ108では、入力された電力値と駆動用モータ105で発電する回生電力の発電量とが等しくなるように駆動用モータ105に供給される界磁電流を制御する。
【0045】
ステップS110において、駆動用モータ105の界磁電流が制御されると回生電力の発電量が減少し、回生制動による制動力も低下する(即ち、回生制動力がカットされる)ので、ステップS120において摩擦ブレーキが作動して駆動用モータ105で発生する制動トルクの不足を補完する。
したがって、回生制動時におけるバッテリ103の端子電圧又はエンジン101の回転数は図4のようになる。
【0046】
図4に示すように、電圧センサ109で検知されるバッテリ103の端子電圧Vbが第一の所定値V1よりも小さいVb<V1の領域ではエンジンの逆駆動は行われず、回生電力は全てバッテリ103に供給される。
そして、バッテリ103の端子電圧Vbが第一の所定値を超え、V1≦Vb<V2の領域にある場合はエンジン101は逆駆動され、エンジン回転数はアイドリング時の回転数Neiとなるように制御される。
【0047】
バッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値を超え、V2≦Vb<V3の領域に達すると、モータ発電機102に供給する電力量を徐々に増加させて、エンジン回転数を徐々に上昇させる。それと同時に排気バルブ110が閉じられ、エンジンの回転負荷が増大する。
そして、バッテリ103の端子電圧Vbが第三の所定値に達するとその時点でのエンジン回転数Nemaxが記憶・保持され、V3≦Vbの領域ではエンジン回転数はNemaxの状態で維持される。また、この領域ではバッテリ103の端子電圧が限界まで上昇したものと判断され、駆動用モータ105で発電される回生電力の発電量とモータ発電機102に供給される電力量と略等しくなるように駆動用モータ105の界磁電力が制御される。この結果、回生電力の発電量は低減されて、回生制動による制動力の不足は摩擦ブレーキによって補完される。
【0048】
また、本回生制御装置におけるバッテリ103の端子電圧Vbは、図2(B)に示すように、T0の時点で回生制動がスタートすると、回生電力がバッテリ103に充電される。そして、バッテリ103が充電不可能になると余剰の回生電力は充電されず、バッテリ103の端子電圧Vbが急上昇する。
そして、T1の時点で、エンジン101が逆駆動されると、エンジンの駆動負荷分の回生電力がエンジン101によって消費されるため、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇が抑制され、バッテリ103の端子電圧Vbの電圧上昇率はT1を境に緩やかになる。
【0049】
T2の時点ではバッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値V2に達し、排気バルブ110が閉じられてエンジンの回転にかかる負荷が増大するので、エンジン101の逆駆動のために消費される回生電力が大きくなり、バッテリ103の端子電圧Vbの電圧上昇はさらに穏やかになる。
また、T2〜T3の期間ではバッテリ103の端子電圧Vbの上昇と共にエンジン回転数Neが上昇するため、エンジン回転数Neの上昇に応じてエンジン101の逆駆動のために消費される回生電力が徐々に大きくなり、バッテリ103の端子電圧Vbの上昇率も徐々に緩やかになる。
【0050】
T3の時点以降は、エンジン101の逆駆動にかかる電力よりも大きな回生電力は発電されないようにしているので、バッテリ103の端子電圧Vbは第三の所定値V3とほぼ等しい状態で一定となりこれ以上上昇することはない。
また、図2及び図4のグラフはT3の時点におけるエンジン101での吸収トルクよりも大きな回生電力が発生した場合の一例であり、例えば余剰の回生電力がそれほど大きくなく、エンジン101の回転数がアイドリング回転数Neiで回転させた場合のエンジン101での回転負荷程度の大きさであれば、余剰の回生電力が消費された時点でバッテリ103の端子電圧Vbは上昇することなくこれ以降の制御は行われない。
【0051】
したがって、ステップS20においてバッテリ103の端子電圧Vbが第一の所定値V1以下である場合には、バッテリ103の許容電圧までにはまだ十分に余裕があるのでエンジンの逆駆動は行なわずに回生電力は全てバッテリ103に供給され、エンジンの逆駆動によって回生電力が無駄に消費されることはない。
また、ステップS20においてバッテリ103の端子電圧Vbが第一の所定値V1よりも高い場合には、バッテリ103に全ての回生電力を回収(充電)させることがバッテリ103の保守・管理の観点から好ましくない状態であり、エンジンを逆駆動させて、エンジン101によって余剰な回生電力を消費させることによってバッテリ103の端子電圧Vbの上昇を抑制することができる。
【0052】
また、ステップS50においてバッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値V2以下である場合には、バッテリ103の端子電圧Vbはそれほど高くはなっていないので、エンジン101はアイドリング時のエンジン回転数であるNeiで穏やかに駆動される。
また、ステップS50においてバッテリ103の端子電圧Vbが第二の所定値V2よりも高い場合には、バッテリ103の端子電圧Vbが高く、余剰の回生電力が大きいと考えられるので、排気バルブ110を閉じてエンジン101の回転にかかる負荷を増大させ、モータ発電機102に供給する回生電力を増大させるのでバッテリ103への回生電力の供給量は減少してバッテリ103の端子電圧Vbの上昇を抑制することができる。
【0053】
また、ステップS80ではバッテリ103の端子電圧VbがV3のときにエンジン101の回転数Neを限界回転数Nemaxになるようにバッテリ103の端子電圧Vbの上昇に応じて上昇させるので、エンジン101において消費可能な回生電力を最大限消費してバッテリ103の端子電圧Vbの上昇を抑制することができる。
また、ステップS90においてバッテリ103の端子電圧VbがV3に達した場合には、エンジン101で消費可能な回生電力は限界であり、バッテリ103の端子電圧Vbも限界まで上昇しているので、回生電力の発電量を減少させてエンジン101で消費可能な電力量と等しい量の回生電力のみを発電するようにしているので、回生電力は全てエンジン101で消費され、バッテリ103に供給されず、バッテリ103の端子電圧Vbの電圧上昇は完全に抑制され、電圧上昇によるバッテリ103の破損を確実に防止することができる。
【0054】
また、バッテリ103に充電されない余剰な回生電力の量をバッテリ103の端子電圧Vbに基づいて判定しているので、バッテリ103の充電状態や温度状態等バッテリ103の充電可能電力量が異なる場合でも、バッテリ103には充電可能な回生電力を無駄なく充電することができるとともに、余剰な回生電力によるバッテリ103の電圧上昇を抑制でき、バッテリ103が充電不可能な状態にあっても回生制動を継続して摩擦ブレーキの使用頻度を減少させることができる。
【0055】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態における、第一の所定値V1とはバッテリ103が回生電力を充電できない状態であることを検知するために予め設定された値であるが、このV1の値は適宜変更可能である。例えば、回生制動開始前のバッテリ103の端子電圧Vbを記憶しておき、Vbよりも所定の値だけ高い値をV1としてもよい。
【0056】
このようにすれば、バッテリ103は回生電力を充電できない状態になるとバッテリ103の端子電圧Vbは急激に上昇するのでこのようにしてV1を設定しても上述の実施形態と同様の効果を得ることができる上、バッテリ103の充電状態や劣化状態及び温度条件等に応じて異なる値が第一の所定値V1として設定されるので、簡単な構成で、且つ、より正確にエンジン101を逆駆動させることによって余剰の回生電力をエンジン101で消費することができる。
【0057】
なお、第二、第三の所定値についても、第二の所定値V2は第一の所定値V1よりも高く、第三の所定値V3は第二の所定値V2よりも高い値であれば適宜設定可能であるが、第三の所定値V3はバッテリ103の限界電圧よりも低い値を設定する必要がある。このようにすれば、本発明におけるバッテリ103の電圧上昇は、第三の所定値V3の近傍の値よりも高くはならないので、電圧上昇によるバッテリ103の破損を確実に防止することができる。
【0058】
また、本発明はシリーズ式ハイブリッド電気自動車に限らず、エンジン、モータ発電機、駆動用モータを備え、回生制動を行うものであれば広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る回生制御装置の要部を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る回生制御装置におけるエンジン回転数及びバッテリ電圧を示すタイムチャートの一例であって、(A)はバッテリ電圧とエンジン回転数の関係を示し、(B)は経過時間に応じたバッテリ電圧の上昇を示すものである。
【図3】本発明の一実施形態に係る回生制御装置における回生制動時の制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る回生制御装置の回生制動時におけるバッテリの端子電圧に対するエンジン回転数(逆駆動)及び排気バルブの状態を示すグラフであって、(A)は排気バルブの開閉状態を示し、(B)はエンジン回転数の状態を示す。
【符号の説明】
【0060】
101 エンジン
102 モータコントローラ
103 バッテリ
104 インバータ
105 駆動用モータ
106 駆動輪
107 エンジンコントローラ
108 モータコントローラ
109 電圧センサ
110 排気バルブ
111 エンジン回転数センサ
112 発電機コントローラ
120 インバータコントローラ(エンジン逆駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンに駆動されるモータ発電機と、
前記モータ発電機の発電した電力により充電されるバッテリと、
前記バッテリまたは前記モータ発電機から電力供給を受けて駆動力を発生すると共に前記車両を回生制動し得るように構成された駆動用モータと、
前記回生制動時に前記バッテリの端子電圧が第一の所定値を超えたとき、前記駆動用モータから出力される回生電力の一部を前記モータ発電機に供給して前記エンジンを駆動させるエンジン逆駆動手段と、
を備えたことを特徴とする、ハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項2】
前記回生制動時に前記バッテリの端子電圧が前記第一の所定値よりも高い第二の所定値を超えたとき、前記エンジンの補助ブレーキを作動させる回生時補助ブレーキ制御手段
を備えたことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項3】
前記回生制動時に前記バッテリの端子電圧が前記第二の所定値を越えたとき、前記エンジンの回転数を徐々に上昇させ、前記第二の所定値よりも高い第三の所定値に達したとき、エンジンの回転数を維持する回生時エンジン制御手段
を備えたことを特徴とする、請求項2記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。
【請求項4】
前記回生時エンジン制御手段は、前記バッテリの端子電圧が前記第三の所定値に達したときに前記エンジンの回転数が限界回転数となるような特性により前記バッテリの端子電圧の上昇に応じて前記エンジンの回転数を上昇させ、
前記駆動用モータは、前記バッテリの端子電圧が前記第三の所定値に達したときには、前記回生電力の発電量を前記モータ発電機に供給している電力量と等しい量の回生電力量に制御する
ことを特徴とする、請求項3記載のハイブリッド電気自動車の回生制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−280161(P2006−280161A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98887(P2005−98887)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】