説明

バッテリ充放電制御装置

【課題】ハイブリッド電気自動車のバッテリ充放電制御装置に関し、登坂路走行時に、バッテリの温度上昇に起因したバッテリの充放電電流の抑制を不要にできるようにする。
【解決手段】走行用トルクを出力しうるエンジン1及び電動発電機4と、電動発電機4による発電電力によって充電可能なバッテリ40と、をそなえたハイブリッド電気自動車に装備され、車両の前方の道路状況を取得する手段60と、取得された車両前方の道路状況に基づいて車両前方に登坂路があるか否かを判定する手段30aと、登坂路ありと判定しない限りバッテリ温度がバッテリ40の上限温度近傍の温度よりも高くなった場合にバッテリ40の充放電を制限し、登坂路ありと判定したら車両が登坂路に進入するまではバッテリ40の温度が第1の所定温度よりも低い第2の所定温度よりも高くなった場合にバッテリ40の充放電を制限する制御手段30dと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車に用いるバッテリ充放電制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の走行駆動源として、内燃機関(以下、エンジンとも言う)と電動発電機(以下、電動モータ、又は単に、モータとも言う)とを搭載したハイブリッド電気自動車が実用化されている。このハイブリッド電気自動車では、電動モータの力行時の電力供給のためや、モータの回生制動時の発電電力による充電(エネルギ回収)を行なうために、バッテリが装備される。特に、モータの回生電力によるバッテリの充電は、燃費向上に寄与する。
【0003】
このようなバッテリには、リチウムイオン電池等の二次電池が用いられるが、リチウムイオン電池等、二次電池の多くは、大電流で放電した場合には発熱を生じる。一方、充電した場合には吸熱反応を生じるが、自動車に搭載されるバッテリの場合は、通常、単電池を多数直列に接続した電池群(電池パック)として構成しているので、単電池以外の他の直列接続を行なうための金属部が発熱を生じる可能性がある。繰り返し大きな充放電電流を流した場合には、電池群を構成する各単電池の温度が連続的に上昇してしまう。
【0004】
かかる二次電池は、過剰に放電したり過剰に充電したりする場合だけでなく、高温で連続的に使用される場合に、劣化が加速する。
このため、このような二次電池に対しては、その充電量(SOC:State Of Charge)が所定の範囲に維持されるように制御するだけでなく、その温度状態が過剰に高温にならないように制御することが必要になる。
【0005】
これに関し、特許文献1には、電池群(電池パック)に流れる充放電電流から電池群を構成する各単電池の所定時間経過後の発熱量を推定し、この推定した発熱量が予め定められた設定値を越えるか否かを判断し、設定値を越えると判断したときには、電池群に流れる充放電電流を抑制して、使用中の単電池の温度上昇を抑制し、その結果として発熱による単電池の劣化を防止する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−81958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ハイブリッド電気自動車の場合、エンジンを運転すると共に電動モータを力行運転することにより大きな駆動トルクを得ることができる。登坂路を走行する際には、大きな車両駆動トルクが必要になるが、このようにエンジンと電動モータとを共に利用して車両を走行駆動することにより、大きな車両駆動トルクが得られ、車速の低下を招くことなく走行することができる。
【0008】
また、観点を変えれば、電動モータの駆動トルクの分だけ、エンジンの駆動トルク負担を軽減することができ、エンジンの運転状態を最良燃費点に近づけることができる。これにより、エンジンの燃料消費を節約することができる。
特に、積荷や乗員によって車重が大きく増大するトラックやバス等の大型商用車の場合、大きな車両駆動トルクが得られることや、エンジンの燃料消費を低減できることは、営業運転の観点からもメリットが大きい。
【0009】
ところが、登坂路を走行する際に、上述のように、バッテリの温度が高くバッテリの温度上昇を抑制するために、バッテリの充放電電流を抑制或いは規制しなくてはならない場合が考えられる。この場合には、電動モータの力行運転による出力トルクを抑制すべき状況や、モータトルクを発生させること自体ができない状況が考えられ、車速の低下を招いたり、エンジンの駆動トルク負担の増大による燃料消費の増大を招いたりしてしまう。特許文献1等の従来技術では、このような課題に関する対策はなされていない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、登坂路を走行する際に、バッテリの温度上昇に起因したバッテリの充放電電流の抑制を不要にすることができるようにした、バッテリ充放電制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のバッテリ充放電制御装置は、車両の走行用トルクを出力しうるエンジンと、前記車両の走行用トルクを出力しうると共に前記エンジンの駆動による発電及び制動時のエネルギ回生による発電が可能な電動発電機と、前記電動発電機による発電電力によって充電可能なバッテリと、をそなえたハイブリッド電気自動車に装備され、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、前記車両の前方の道路状況を取得する道路状況取得手段と、前記道路状況取得手段により取得された前記車両前方の道路状況に基づいて、前記車両の前方に登坂路があるか否かを判定する登坂路判定手段と、前記登坂路判定手段が登坂路ありと判定しない限り、前記バッテリの温度が前記バッテリの上限温度又は該上限温度近傍の温度である第1の所定温度よりも高くなった場合に前記バッテリの充放電を制限し、前記登坂路判定手段が登坂路ありと判定したら、前記車両が前記登坂路に進入するまでは、前記バッテリの温度が前記第1の所定温度よりも所定温度差だけ低い第2の所定温度よりも高くなった場合に前記バッテリの充放電を制限する制御手段と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
前記バッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段を更に備え、前記制御手段は、前記バッテリ充電量検出手段により検出された前記充電量が所定充電量(SOC下限側の値)未満の場合には、前記バッテリの放電を制限すると共に前記バッテリの充電を前記バッテリの温度が前記第1の所定温度よりも高くなった場合に制限し、前記充電量が前記所定充電量以上の場合には、前記車両が前記登坂路に進入するまでは、前記バッテリの温度が前記第2の所定温度よりも高くなった場合に前記バッテリの充放電を制限することが好ましい。
【0013】
前記車両の車速を検出する車速検出手段をさらに備え、前記制御手段は、前記車速検出手段により検出された前記車速と、前記道路状況取得手段により取得された前記前方の道路状況とに基づいて、前記電動発電機の出力トルクを用いて前記登坂路を走行する際に前記電動発電機に発生する発熱量を求めて、この発熱量に基づいて前記所定温度差を設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバッテリ充放電制御装置によれば、車両の前方に登坂路がある場合、バッテリの温度が、バッテリの上限温度又はこの上限温度近傍の温度である第1の所定温度よりも所定温度だけ低い第2の所定温度に到達したら、車両が登坂路に進入するまではバッテリの充放電を制限するので、車両が登坂路に進入した際に、バッテリの温度は上限温度よりも低い状態になり、バッテリ温度に起因したバッテリの充放電制限は行なわれないので、バッテリの電力を用いて電動発電機により発生する駆動トルクを用いて登坂路を走行することができる。
【0015】
したがって、エンジンと電動発電機とを共に利用して車両を走行駆動することにより、大きな車両駆動トルクが得られ、登坂路における車速の低下を防止することができる。
また、電動発電機による駆動トルクの分だけ、エンジンの駆動トルク負担を軽減することができ、エンジンの運転状態を最良燃費点に近づけることができる。これにより、エンジンの燃料消費を節約することができる。
【0016】
特に、積荷や乗員によって車重が大きく増大するトラックやバス等の大型商用車の場合、大きな車両駆動トルクが得られることや、エンジンの燃料消費を低減できることは、営業運転の観点からもメリットが大きい。
また、バッテリの充電量が、所定充電量未満の場合には、登坂路走行時にバッテリの放電を許容できるようにするよりもバッテリの充電量の回復が急務であり、この場合には、バッテリの放電を制限すると共にバッテリの充電をバッテリの温度が第1の所定温度よりも高くなった場合に制限するので、バッテリの充電がバッテリの温度が第1の所定温度に上昇するまでは制限されず、バッテリの温度を管理しながらその充電量を回復させることができる。
【0017】
車速と車両前方の道路状況とに基づいて、電動発電機の出力トルクを用いて登坂路を走行する際に電動発電機に発生する発熱量を求めて、この発熱量に基づいて第1の所定温度と第2の所定温度との温度差(所定温度差)を設定すれば、登坂路において電動発電機を利用して車両を走行駆動した場合にもバッテリの温度が過剰に上昇しないように管理することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかるバッテリ充放電制御装置が適用されるハイブリッド電気自動車の動力系の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるバッテリ充放電制御装置による制御を説明するタイムチャートである。
【図3】本発明の一実施形態にかかるバッテリ充放電制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1は本実施形態にかかるハイブリッド電気自動車の動力系の構成図、図2は本バッテリ充放電制御装置による制御を説明するタイムチャート、図3は本バッテリ充放電制御装置による制御を説明するフローチャートである。これらの図を参照して説明する。
【0020】
〔動力系の構成〕
まず、本実施形態にかかるバッテリ充放電制御装置が適用されるハイブリッド電気自動車の動力系の構成を説明する。
本実施形態にかかるハイブリッド電気自動車は、例えば、トラック又はバスといった商用車であり、ディーゼルエンジンを搭載している。
図1に示すように、車両の前部には、駆動系として、エンジン(内燃機関)1,クラッチ2,モータ(電動発電機)3及び変速機(トランスミッション)4を備えている。
クラッチ2は、エンジン1とモータ3との間に介装され、クラッチ2を遮断すれば、エンジン1は車両の駆動系から切り離されて動力伝達はなされず、クラッチ2を接続すれば、エンジン1は車両の駆動系に加わり動力伝達がなされる。
【0021】
モータ3は、その直下流側の変速機4と常時接続されており、インバータ41によって作動を制御される。インバータ41は、力行時には、バッテリ(例えば、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池の単電池(セル)が複数個直列接続された電池群)40からモータ3に電力を供給して出力トルクを発生させる電動機として機能させ、回生制動時には、車両の運動エネルギを用いて電力を発電(回生発電)する発電機としてモータ3を機能させ、回生発電による電力をバッテリ40の充電に用いるよう構成される。
【0022】
変速機4は、その入力軸がモータ3の回転軸に接続されており、この変速機4の出力軸は、プロペラシャフト5,ディファレンシャル6,ドライブシャフト7等を備えた動力伝達系を介して、駆動輪(ここでは、左右の後輪)8に接続されている。
したがって、車両の力行時には、変速機4の入力軸に入力された駆動トルクを、選択された変速段に応じた変速比で変速して動力伝達系に出力する。この場合、クラッチ2を接続すれば、このクラッチ2を介して伝達されたエンジン1およびモータ3の両出力トルクが変速機4に入力され、クラッチ2を遮断すれば、モータ3のみの出力トルクが変速機4に入力される。
【0023】
また、回生制動時には、車両の運動エネルギによる回転トルクが駆動輪8から動力伝達系7,6,5を経て変速機4に入力され、駆動輪8からの入力回転が変速機4の変速段に応じた変速比で変速されて、発電機として機能するモータ3を回転駆動し、車両の制動と共に回生発電を実施することができる。この場合、クラッチ2を遮断すれば、車両の運動エネルギが発電機としてのモータ3の駆動のみに利用され、効率よくエネルギ回収を行なうことができる。また、クラッチ2を接続すれば、インバータ41によるモータ3の制御による回生ブレーキとエンジンブレーキとの併用や、エンジンブレーキのみの作動を行なうことができる。
【0024】
〔制御系の構成〕
エンジン1,クラッチ2,モータ3,バッテリ40及びインバータ41の制御又は管理は、コンピュータを用いた電子制御によって行なわれるようになっている。
エンジン1を制御するためにエンジンECU31が、モータ3の作動を操作するインバータ41を制御するためにインバータECU32が、バッテリ40を管理するためにバッテリECU33が、それぞれ設けられ、これらのエンジンECU31,インバータECU32,バッテリECU33及びクラッチ2を制御するために、車両ECU30が設けられている。
【0025】
これらの各ECU30,31,32,33は、CPU,ROM,RAM,入出力回路等からなるコンピュータであって、適宜の機器類が付設又は接続されている。
車両ECU30は、車両の走行状態(例えば、車速),車両への駆動又は制動指令の状態(例えば、アクセル操作量やブレーキ操作量)や、バッテリ40の充電量(以下、充電量の値を「SOC」で示す),バッテリ40の温度状態等に基づいて、エンジンECU31,インバータECU32,バッテリECU33及びクラッチ2を制御する。
【0026】
また、バッテリECU33には、バッテリ40の充放電電流を検出するバッテリ電流センサ51と、バッテリ40の充放電電圧を検出するバッテリ電圧センサ52と、バッテリ40の充放電回数を検出するバッテリ充放電カウンタ54とが接続されており、バッテリ40の充電量SOCは、このバッテリECU33によって、バッテリ40の充放電時の電流,電圧に基づいて算出される。したがって、バッテリECU33は、バッテリ充電量検出手段に相当する。
【0027】
これらの各センサ51,52やカウンタ54は、バッテリ40の各セルに接続され、この各セルの電流,電圧,充放電回数を検出してもよいし、幾つかのセルに対して一つのセンサが接続され、この幾つかのセルの電流,電圧,温度,充放電回数を検出してもよいし、これらの各セルに対してまたは幾つかのセルに対して1つのセンサを接続することを適宜組み合わせて各センサを配設してもよい。
【0028】
また、インバータECU32は、インバータ41を制御することにより、インバータ41に接続されたモータ3及びバッテリ40の電力の授受を管理する。例えば、モータ3の回生発電による発電電力をバッテリ40の充電にあてる。
車両ECU30は、駆動時には、アクセル操作量に基づいて、車両に必要な駆動トルクを設定すると共に、エンジン1とモータ3との何れを使用するか或いは両方を使用するかを設定し、エンジン1とモータ3との両方を使う場合には駆動トルクの配分を行なう。エンジンECU31やインバータECU32は、車両ECU30により設定された駆動トルクを出力するようにエンジン1又はモータ3の作動を制御する。
【0029】
例えば車両の発進時には、基本的には、クラッチ2を切ってモータ3のみの駆動トルクを用い、その後の走行時には、エンジン1を始動させてクラッチ2を接続して、エンジン1の駆動トルクを主体に、モータ3の駆動トルクを補助的に用いて走行する。ただし、バッテリ40の充電量が不足している場合や、バッテリ40の温度が所定温度以上に昇温している場合には、発進時や走行時にモータ3を用いずエンジン1のみを用いて走行する。
【0030】
また、制動時には、基本的には、クラッチ2を切って駆動輪8の回転エネルギをモータ3のみに送って回生発電を行なう。この回生発電による電力は、通常は、バッテリ40の充電に用いられる。
ただし、バッテリ40の充電量SOCが上限(満充電)又は上限の近傍(略満充電)に達している場合や、バッテリ40の温度が所定温度以上に昇温している場合には、回生発電による電力をバッテリ40の充電に用いることはできない。
【0031】
つまり、バッテリ40は充電量が過剰に高くなると発熱を伴いながら劣化が促進される。また、充電量が過剰に低下しても劣化を招く。そこで、車両ECU30は、バッテリ40の充電量も管理する。
さらに、バッテリ40は温度が過剰に高くなると劣化が促進される。そこで、車両ECU30は、バッテリ40の温度も管理する。
【0032】
特に、この温度管理に関しては、重量の大きな商用車の場合特に重要である。
つまり、前述のように、本ハイブリッド電気自動車は、重量の大きな商用車であり、輸送可能な重量を確保することや積載スペースを確保することが重要であり、更には、車両コストの高騰を抑えることも重要である。また、ハイブリッド自動車を適用する第1の目的は燃費改善効果である。したがって、このような商用車に必要な条件とのバランスを考慮して、このバッテリ40は、車両の大きさに対するバッテリ容量(充電容量,熱容量)が、通常のハイブリッド電気自動車の乗用車の場合よりも相対的に小さいものが搭載されている。
【0033】
さらに、商用車の場合、積載重量を確保し効率良く輸送をする観点から、乗用車に比べて大型車両が多く、このため、モータ3の高トルクの力行運転や回生制動を行なう場合も多い。つまり、限られた容量のバッテリ40で、力行運転のためのモータの放電や回生制動によるモータの充電を大電流で行う場合が多く発生する。バッテリ40は小容量なので熱容量も小さいため、バッテリ40で大きな熱量の発熱を伴うモータ3の高トルクの力行運転や回生制動を行なうと、バッテリ40の各単電池自体の発熱や単電池間を接する金属部の発熱によるバッテリ40の温度上昇も著しくなる。
【0034】
バッテリ40は高温状態になると劣化が促進するので、車両ECU30が、バッテリ40の温度が過剰に上昇しないようにするバッテリ40の温度管理は極めて重要である。
このバッテリ40の温度管理のために、バッテリ40には、バッテリ40の温度を検出するバッテリ温度センサ53が装備され、このバッテリ温度センサ53が、検出したバッテリ温度T情報が車両ECU30に入力されるように接続される。
【0035】
また、バッテリ40の充電量の管理のために、車両ECU30に接続されたバッテリECU33から算出されたバッテリ40の充電量SOCが入力されるように接続される。
さらに、本装置の場合、単に、バッテリ40の充電量や温度を管理するだけでなく、車両の前方に登坂路がある場合に、この登坂路の走行に可能な限りバッテリ40の電力を利用して発生するモータ2の出力トルクを利用して走行することができるように、車両ECU30は、特有のバッテリ管理を行なうようになっている。
【0036】
このようなバッテリ40の管理のために、車両ECU30には、登坂路判定手段30aと、発熱量推定手段30bと、温度設定手段30cと、充放電制限手段30dとが、何れもコンピュータソフトウェアによる機能要素として設けられている。以下、これらを説明する。
【0037】
〔バッテリ管理の制御〕
登坂路判定手段30aは、道路状況取得手段60から車両ECU30に入力される車両前方の道路状況の情報に基づいて、自車両の前方に登坂路があるか否かを判定する。本実施形態では、道路状況取得手段60に、車両に搭載されたナビゲーションシステムが流用されている。
つまり、この車載ナビゲーションシステムは、各地点の位置情報に高度情報が付加された地図データが登録された地図データベース(記憶装置)と、自車両の現在位置を判定する現在位置判定機能とを備え、自車両の走行予定ルートを設定すれば、上記地図データと判定した自車両の現在位置とから、自車両が走行しようとしている前方の道路を特定することができるので、この自車両の前方の道路各点の、自車両の現在位置からの距離と高度とを情報として取得し出力することができ、道路状況取得手段60として機能する。
【0038】
登坂路判定手段30aは、自車両の現在位置から予め設定された距離(道のり)の範囲内の道路の各点の高度を検出して、予め定められた距離(道のり)以上にわたって高度が連続的に上昇する箇所を登坂路であると判定する。そして、自車両の前方における設定距離(道のり)の範囲内に登坂路があれば、「自車両の前方に登坂路がある」と判定し、自車両前方の設定距離範囲内に登坂路がなければ、「自車両の前方に登坂路がない」と判定する。
【0039】
発熱量推定手段30bは、登坂路判定手段30aにより「自車両の前方に登坂路がある」と判定されると、この登坂路において、バッテリ40を放電させて発生するモータ2の出力トルクを利用して走行する場合のバッテリ40の発熱量Qを推定する。なお、ここでは、バッテリ40の各セルの放電に応じた発熱量QBIN1及び各セル間の金属部分の通電による発熱量QBIN2から、下式(1)のようにバッテリ40の発熱量Qを推定する。
=QBIN1+QBIN2・・・(1)
【0040】
なお、セルの放電に応じた発熱QBIN1は各セルの内部抵抗R(既知の値)と瞬時瞬時の電流値Iの二乗Iとの乗算値RIを時間積分した値∫Rdtに比例するので、登坂路走行時の電流値Iを一定値IUSとし登坂路走行時間をt1として下式(2)により算出できる。また、各セル間の金属部分の通電による発熱QBIN2は金属部分の抵抗R(既知の値)と瞬時瞬時の電流値Iの二乗Iとの乗算値Rを時間積算した値Rtに比例するので、登坂路走行時の電流値Iを一定値IUSとし登坂路走行時間をt1として下式(3)により算出できる。なお、登坂路走行時間t1は登坂路の長さLと登坂路を走行する想定車速Vとから下式(4)により算出できる。
BIN1=C1・Rt1 C1:比例乗数・・・(2)
BIN2=C2・Rt1 C2:比例乗数・・・(3)
t1=L/V ・・・(4)
【0041】
温度設定手段30cは、第1設定温度TB1から所定の温度差ΔTを減算して第2設定温度TB2を設定する。なお、第1設定温度TB1は、バッテリ40の温度Tをこれ以上に上昇させるとバッテリ40の劣化が許容限度以上に促進されると推定されるバッテリ40の管理上の上限温度又は上限温度付近(上限温度よりもマージン分だけ低い)温度である。
【0042】
また、所定の温度差ΔTは、車両がモータ2の出力トルクを利用して登坂路を走行する際にバッテリ40の発熱によってバッテリ40の温度が上昇する温度上昇分であって、この温度上昇分(所定の温度差)ΔTは上記の発熱量推定手段30bによって推定される発熱量Qと比例するので、下式(5)により算出できる。したがって、第2設定温度TB2は下式(6)により算出できる。
ΔT=C・Q C:比例乗数 ・・・(5)
B2=TB1−ΔT・・・(6)
【0043】
充放電制限手段30dは、バッテリECU(充電量検出手段)33により算出(検出)された充電量SOCが所定充電量SOCmin未満の場合には、充電は制限しないが放電は制限する。なお、所定充電量SOCminは、充電量SOCが過剰に低下するとバッテリ40の劣化を招くので、充電量SOCを管理する許容下限値として設定される値である。なお、充電や放電の制限とは、ここでは充電や放電を完全に禁止するものとする。
【0044】
充放電制限手段30dは、バッテリECU(充電量検出手段)33により算出された充電量SOCが所定充電量SOCmin以上あっても、バッテリ40の温度Tが判定基準温度TBSよりも高くなった場合には、バッテリの充電も放電も制限する。ただし、通常は、判定基準温度TBSを、バッテリ40の上限温度又は該上限温度近傍の温度である第1の所定温度TB1とするが、登坂路判定手段30aが登坂路ありと判定したら、車両が登坂路に進入するまでは、判定基準温度TBSを、上記のように第1の所定温度TB1よりも所定温度差ΔTだけ低い第2の所定温度TB2として判定し、バッテリ40の充放電を制限する。
【0045】
〔作用、効果〕
本発明の一実施形態にかかるバッテリ充放電制御装置は、上述のように構成されるので、例えば、図2,図3に示すように、車両ECU30がバッテリ40の充放電を制御する。
つまり、図3に示すように、まず、道路状況取得手段60からの自車両の前方の道路状況の情報と、バッテリECU(バッテリ充電量検出手段)33からのバッテリ充電量SOCと、バッテリ温度センサ53からのバッテリ温度Tとを取得する(ステップS10)。
【0046】
そして、バッテリ充電量SOCが所定充電量SOCmin未満か否かを判断し(ステップS20)、バッテリ充電量SOCが所定充電量SOCmin未満の場合には、放電を制限する(ステップS80)。したがって、バッテリ40への充電がなくてもバッテリ充電量SOCは所定充電量SOCminの付近に保持される。
一方、充電はバッテリ温度Tに応じて制限する。つまり、判定基準温度TBSをバッテリ40の管理上の上限温度又は上限温度付近の温度である第1設定温度TB1に設定し(ステップS90)、バッテリ40の温度Tがこの判定基準温度TBS以上か否かを判断し(ステップS100)、バッテリ40の温度Tが判定基準温度TBS(=第1設定温度TB1)以上に上昇したら、充電も制限する。
【0047】
このように、バッテリ40の温度Tが第1設定温度TB1以上に上昇しない限り、充電は制限されないので、回生制動によるバッテリ40の充電を行って、バッテリ充電量SOCを回復させることができる。
これに対して、バッテリ充電量SOCが所定充電量SOCmin未満でなければ、自車両が登坂路走行中ではなく且つ自車両前方に登坂路がある状態か否かを判断し(ステップS30)、自車両が登坂路走行中ではなく且つ自車両前方に登坂路がある場合には、判定基準温度TBSを第2設定温度TB2に設定し(ステップS40)、バッテリ40の温度Tがこの判定基準温度TBS以上か否かを判断し(ステップS60)、バッテリ40の温度Tが判定基準温度TBS(=第2設定温度TB2)以上に上昇したら、充放電を制限する(ステップS70)。
【0048】
第2設定温度TB2は車両がモータ2の出力トルクを利用して登坂路を走行する際にバッテリ40の発熱によってバッテリ40の温度が上昇する温度上昇分だけバッテリ上限温度である第1設定温度TB1よりも低い温度なので、車両がその後、登坂路に進入して以降(この段階では、判定基準温度Tは第1設定温度TB1に設定される)は、バッテリ40の温度をバッテリ上限温度である第1設定温度TB1以内に保持しながらモータ2の出力トルクを利用して登坂路を走行することができる。
【0049】
また、ステップS30において、登坂路走行中であるか、又は、自車両前方に登坂路がない場合には、判定基準温度Tが第1設定温度TB1に設定されるので(ステップS40)、バッテリ40の温度Tが第1設定温度TB1以上に上昇しない限り、充放電は制限されず、支障なくバッテリ40の充電や放電を行なうことができる。
例えば図2は、バッテリ充電量SOCが所定充電量SOCmin以上確保されている状況下で、車両Cの前方に登坂路usがある状況で車両Cが登坂路usの手前の降坂路dsを下っていて、バッテリ40の温度が第2設定温度TB2まで上昇した場合を示している。
【0050】
従来技術であれば、バッテリ40の温度が第1設定温度TB1まで上昇しない限りバッテリの充放電は規制しないため、車両Cが降坂路dsを下っていてバッテリ40の温度が第2設定温度TB2まで上昇しても、回生発電による充電が続行される。しかし、この充電の続行によって、バッテリ40の温度は上昇を続けていくことになり、車両Cが登坂路usの入口us1に進入してモータ2の出力トルクを利用して登坂路usを走行すると、途中で、バッテリ40の温度が第1設定温度TB1まで上昇し、バッテリの充放電が規制される。このため、モータ2の出力トルクを利用できなくなり、その分だけ車両駆動トルクが減少し、登坂路usにおける車速の低下を招くおそれもある。また、電動発電機による駆動トルクの減少分だけ、エンジンの駆動トルク負担が増大し、燃料消費効量が増大する。
【0051】
これに対して、本発明の装置では、車両Cが降坂路dsを下っていてバッテリ40の温度が第2設定温度TB2まで上昇した段階で回生発電による充電が停止される。したがって、回生発電によるバッテリ40の充電ができない分だけエネルギを電力として回収することができない(ただし、回生発電による電力はバッテリ40の充電以外に利用することができる)が、その後、車両Cが登坂路入口us1に進入してから、バッテリ40の温度をバッテリ上限温度である第1設定温度TB1以内に保持しながらモータ2の出力トルクを利用して登坂路usを走行しきることができる。
【0052】
したがって、エンジン1とモータ2とを共に利用して車両を走行駆動することにより、大きな車両駆動トルクが得られ、登坂路における車速の低下を防止することができる。
また、モータ2による駆動トルクを確保できる分だけ、エンジン1の駆動トルク負担を軽減することができ、エンジンの燃料消費量を節約することができる。
特に、積荷や乗員によって車重が大きく増大するトラックやバス等の大型商用車の場合、大きな車両駆動トルクが得られることや、エンジンの燃料消費を低減できることは、営業運転の観点からもメリットが大きい。
【0053】
〔その他〕
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、かかる実施形態の一部を変更したり、かかる実施形態の一部のみを適用したりして、実施することができる。
例えば、上記の実施形態では、充電や放電の制限を充電や放電を完全に禁止するものとしているが、充電や放電の制限を、充電や放電の予め設定したレベル(電流値)よりも低いレベルに抑えることとすることも考えられる。
【0054】
また、上記の実施形態では、重量の大きな商用車への適用例を説明したが、本発明の対象はかかる自動車に限定されず、また、自動車以外の車両(鉄道車両)への適用も可能である。
また、車両に搭載されるエンジンもディーゼルエンジンに限定されない。
【符号の説明】
【0055】
1 エンジン
2 クラッチ
3 モータ(電動発電機)
4 変速機
5 プロペラシャフト
6 ディファレンシャル
7 ドライブシャフト
8 駆動輪
30 車両ECU
30a 登坂路判定手段
30b 発熱量推定手段
30c 温度設定手段
30d 充放電制限手段
31 エンジンECU
32 インバータECU
33 バッテリECU(バッテリ充電量検出手段)
40 バッテリ
41 インバータ
51 バッテリ電流センサ
52 バッテリ電圧センサ
53 バッテリ温度センサ
54 バッテリ充放電カウンタ
60 ナビゲーションシステム(道路状況取得手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行用トルクを出力しうるエンジンと、前記車両の走行用トルクを出力しうると共に前記エンジンの駆動による発電及び制動時のエネルギ回生による発電が可能な電動発電機と、前記電動発電機による発電電力によって充電可能なバッテリと、をそなえたハイブリッド電気自動車に装備され、
前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段と、
前記車両の前方の道路状況を取得する道路状況取得手段と、
前記道路状況取得手段により取得された前記車両前方の道路状況に基づいて、前記車両の前方に登坂路があるか否かを判定する登坂路判定手段と、
前記登坂路判定手段が登坂路ありと判定しない限り、前記バッテリの温度が前記バッテリの上限温度又は該上限温度近傍の温度である第1の所定温度よりも高くなった場合に前記バッテリの充放電を制限し、前記登坂路判定手段が登坂路ありと判定したら、前記車両が前記登坂路に進入するまでは、前記バッテリの温度が前記第1の所定温度よりも所定温度差だけ低い第2の所定温度よりも高くなった場合に前記バッテリの充放電を制限する制御手段と、を備えている
ことを特徴とする、バッテリ充放電制御装置。
【請求項2】
前記バッテリの充電量を検出するバッテリ充電量検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記バッテリ充電量検出手段により検出された前記充電量が所定充電量未満の場合には、前記バッテリの放電を制限すると共に前記バッテリの充電を前記バッテリの温度が前記第1の所定温度よりも高くなった場合に制限し、前記充電量が前記所定充電量以上の場合には、前記車両が前記登坂路に進入するまでは、前記バッテリの温度が前記第2の所定温度よりも高くなった場合に前記バッテリの充放電を制限する
ことを特徴とする、請求項1記載のバッテリ充放電制御装置。
【請求項3】
前記車両の車速を検出する車速検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記車速検出手段により検出された前記車速と、前記道路状況取得手段により取得された前記前方の道路状況とに基づいて、前記電動発電機の出力トルクを用いて前記登坂路を走行する際に前記電動発電機に発生する発熱量を求めて、この発熱量に基づいて前記所定温度差を設定する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のバッテリ充放電制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116411(P2012−116411A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269699(P2010−269699)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】