説明

パワーモジュール用基板の製造方法、パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール

【課題】容易に、かつ、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合された熱サイクル信頼性の高いパワーモジュール用基板を得ることができるパワーモジュール用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス基板の接合面及び金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiとCuを固着させるSi及びCu固着工程S1と、固着したSi及びCuを介してセラミックス基板と金属板とを積層する積層工程S2と、積層方向に加圧するとともに加熱して溶融金属領域を形成する加熱工程S3と、この溶融金属領域を凝固させる凝固工程S4と、を有し、Si及びCu固着工程S1において、セラミックス基板と金属板との界面に、Si;0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下、Cu;0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下を介在させ、加熱工程S3において、Si及びCuを金属板側に拡散させることにより溶融金属領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば特許文献1に示すように、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板がろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が用いられる。
また、この金属板は回路層として形成され、その金属板の上には、はんだ材を介してパワー素子(半導体素子)が搭載される。
なお、セラミックス基板の下面にも放熱のためにAl等の金属板が接合されて金属層とされ、この金属層を介して放熱板上にパワーモジュール用基板全体が接合されたものが提案されている。
【0003】
また、回路層を形成する手段としては、セラミックス基板に金属板を接合した後に、この金属板に回路パターンを形成する方法の他に、例えば特許文献2に開示されているように、予め回路パターン状に形成された金属片をセラミックス基板に接合する方法が提案されている。
【0004】
さらに、前記回路層及び前記金属層としての金属板とセラミックス基板との良好な接合強度を得るため、例えば下記特許文献3に、セラミックス基板の表面粗さを0.5μm未満とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−086744号公報
【特許文献2】特開2008−311294号公報
【特許文献3】特開平3−234045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属板をセラミックス基板に接合する場合、単にセラミックス基板の表面粗さを低減しても十分に高い接合強度が得られず、信頼性の向上が図れないという不都合があった。例えば、セラミックス基板の表面に対して、乾式でAl粒子によるホーニング処理を行い、表面粗さをRa=0.2μmにしても、剥離試験で界面剥離が生じてしまう場合があることが分かった。また、研磨法により表面粗さをRa=0.1μm以下にしても、やはり同様に界面剥離が生じてしまう場合があった。
【0007】
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にあり、前述のように放熱板上にパワーモジュール用基板を配設する必要がある。この場合、パワーモジュール用基板が放熱板によって拘束されるために、熱サイクル負荷時に、金属板とセラミックス基板との接合界面に大きなせん断力が作用することになり、従来にも増して、セラミックス基板と金属板との間の接合強度の向上及び信頼性の向上が求められている。
【0008】
また、セラミックス基板と金属板とのろう付けする際には、融点を低く設定するためにSiを7.5質量%以上含有するAl−Si系合金のろう材箔が使用されることが多い。このようにSiを比較的多く含有するAl−Si系合金においては、延性が不十分であることから圧延等によって箔材を製造するのが困難であった。
【0009】
さらに、ろう材箔を用いた場合、金属板とセラミックス基板との界面部分には、金属板の表面、ろう材箔の両面の3つの面において酸化被膜が存在することになり、酸化被膜の合計厚さが厚くなる傾向にあった。
【0010】
さらに、セラミックス基板と金属板との間にろう材箔を配置し、これらを積層方向に加圧して加熱することになるが、この加圧に際してろう材箔の位置がずれないように、ろう材箔、セラミックス基板及び金属板を積層配置する必要があった。
特に、特許文献2に記載されているように、予め回路パターン状に形成された金属片をろう材箔を介して接合する場合には、接合面の形状が複雑なため、さらに、ろう材箔、セラミックス基板及び金属板の位置精度を向上させる必要があった。
なお、ろう材箔の位置がずれた場合には、セラミックス基板と金属板との間に溶融金属層を十分に形成することができず、セラミックス基板と金属板との間の接合強度が低下するおそれがある。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、容易に、かつ、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合された熱サイクル信頼性の高いパワーモジュール用基板を得ることができるパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の表面に、アルミニウムからなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiとCuを固着させるSi及びCu固着工程と、固着したSi及びCuを介して前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、前記Si及びCu固着工程において、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、Si;0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下、Cu;0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下を介在させ、前記加熱工程において、固着させたSi及びCuを前記金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴としている。
【0013】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法においては、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSi及びCuを固着させるSi及びCu固着工程を備えているので、前記金属板と前記セラミックス基板の接合界面には、SiとCuとが介在することになる。ここで、Cuは、Alに対して反応性の高い元素であるため、接合界面近傍にCuが存在することによってアルミニウムからなる金属板の表面が活性化することになる。よって、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0014】
また、加熱工程において、固着したSi及びCuを前記金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に前記溶融金属領域を形成し、この溶融金属領域を凝固させることで、前記金属板と前記セラミックス基板を接合する構成としているので、製造が困難なAl−Si系のろう材箔等を用いる必要がなく、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合されたパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0015】
また、ろう材箔を使用せずに、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に直接Si及びCuを固着しているので、ろう材箔の位置合わせ作業等を行う必要がない。よって、例えば、予め回路パターン状に形成された金属片をセラミックス基板に接合する場合であっても、位置ズレ等によるトラブルを未然に防止することができる。
【0016】
しかも、金属板及びセラミックス基板に直接Si及びCuを固着した場合、酸化被膜は、金属板の表面にのみ形成されることになり、金属板及びセラミックス基板の界面に存在する酸化被膜の合計厚さが薄くなるので、初期接合の歩留りが向上する。
【0017】
また、前記Si及びCu固着工程において、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に介在されるSi量及びCu量を、Si;0.002mg/cm以上、Cu;0.08mg/cm以上としているので、セラミックス基板と金属板との界面に、溶融金属領域を確実に形成することができ、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0018】
さらに、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に介在されるSi量及びCu量を、Si;1.2mg/cm以下、Cu;2.7mg/cm以下としているので、Si及びCuを固着して形成された部分にクラックが発生することを防止することができ、セラミックス基板と金属板との界面に溶融金属領域を確実に形成することができる。さらに、Si及びCuが過剰に金属板側に拡散して界面近傍の金属板の強度が過剰に高くなることを防止できる。よって、パワーモジュール用基板に冷熱サイクルが負荷された際に、熱応力を金属板で吸収することができ、セラミックス基板の割れ等を防止できる。
【0019】
また、前記Si及びCu固着工程において、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、Si;0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下、Cu;0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下を介在させているので、前記金属板のうち前記セラミックス基板との界面近傍におけるSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されたパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0020】
なお、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に直接Si及びCuを固着させる構成としているが、生産性の観点から、金属板の接合面にSi及びCuを固着させることが好ましい。
また、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、Si及びCuをそれぞれ単独で固着して、Cu層及びSi層を形成してもよい。あるいは、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に、Si及びCuを同時に固着させてSiとCuとの混在層を形成してもよい。
【0021】
ここで、前記Si及びCu固着工程では、Si及びCuとともに、Alを固着させる構成とすることが好ましい。
この場合、Si及びCuとともにAlを固着させているので、形成されるSi及びCu層がAlを含有することになり、このSi及びCu層が優先的に溶融することになり、溶融金属領域を確実に形成することが可能となり、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することができる。なお、Si及びCuとともにAlを固着させるには、Si及びCuとAlとを同時に蒸着してもよいし、Si及びCuとAlの合金をターゲットとしてスパッタリングしてもよい。また、Si及びCuとAlを積層させてもよい。
【0022】
また、前記Si及びCu固着工程は、蒸着、CVD又はスパッタリングによって前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSi及びCuを固着させるものとすることが好ましい。
この場合、蒸着、CVD又はスパッタリングによって、Si及びCuが前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に確実に固着されるので、セラミックス基板と金属板との接合界面にSi及びCuを確実に介在させることが可能となる。また、Si及びCuの固着量を精度良く調整することができ、溶融金属領域を確実に形成して、セラミックス基板と金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0023】
また、本発明のパワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、前記金属板には、Si及びCuが固溶されており、前記金属板のうち前記セラミックス基板との界面近傍におけるSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下以下の範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0024】
この構成のパワーモジュール用基板においては、前記金属板にSi及びCuが固溶しており、接合界面側部分のSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されているので、前述の加熱工程においてSi及びCuが十分に金属板側に拡散しており、金属板とセラミックス板とが強固に接合されていることになる。
さらに、金属板の接合界面側部分がSi及びCuによって固溶強化することになる。これにより、金属板部分での破断を防止することができ、パワーモジュール用基板の接合信頼性の向上を図ることができる。
【0025】
また、本発明のパワーモジュール用基板は、パワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、前記セラミックス基板が、AlN、Al及びSiのいずれかで構成されていることを特徴としている。
この構成のパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板が、絶縁性及び強度に優れたAlN、Al及びSiのいずれかで構成されているので、高品質なパワーモジュール用基板を提供することができる。
【0026】
また、前記セラミックス基板の幅が前記金属板の幅よりも広く設定され、前記金属板の幅方向端部に、Cuを含む化合物がアルミニウム中に析出したCu析出部が形成された構成を採用することが好ましい。
この場合、金属板の幅方向端部にCu析出部が形成されているので、金属板の幅方向端部を析出強化することが可能となる。これにより、金属板の幅方向端部からの破断の発生を防止することができ、接合信頼性を向上させることができる。
【0027】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクを備えているので、パワーモジュール用基板に発生した熱をヒートシンクによって効率的に冷却することができる。
【0028】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載された電子部品と、を備えることを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、セラミックス基板と金属板との接合強度が高く、使用環境が厳しい場合であっても、その信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、容易に、かつ、低コストで、金属板とセラミックス基板とが確実に接合された熱サイクル信頼性の高いパワーモジュール用基板を得ることができるパワーモジュール用基板の製造方法、このパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのパワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層のSi濃度分布及びCu濃度分布を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層(金属板)とセラミックス基板との接合界面の模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】図5における金属板とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層のSi濃度分布及びCu濃度分布を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層(金属板)とセラミックス基板との接合界面の模式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示すフロー図である。
【図10】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図11】実施例の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態であるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク4とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0032】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、図1に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0033】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
【0034】
金属層13は、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面に金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0035】
ヒートシンク4は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部5と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路6と、を備えている。ヒートシンク4(天板部5)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク4の天板部5と金属層13との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層15が設けられている。
【0036】
そして、図2に示すように、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30の幅方向中央部(図1のA部)においては、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)にSi及びCuが固溶しており、接合界面30から積層方向に離間するにしたがい漸次Si濃度及びCu濃度が低下する濃度傾斜層33が形成されている。ここで、この濃度傾斜層33の接合界面30側のSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、濃度傾斜層33の接合界面30側のSi濃度及びCu濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面30から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図2のグラフは、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0037】
また、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30の幅方向端部(図1のB部)においては、アルミニウムの母相中にCuを含む化合物が析出したCu析出部35が形成されている。ここで、このCu析出部35におけるCu濃度は、0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されており、アルミニウム中の固溶量を大幅に超えるCuが含有されている。
なお、Cu析出部35のCu濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で5点測定した平均値である。
【0038】
また、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図3に示すように、接合界面30にSiが濃縮したSi高濃度部32が形成されている。このSi高濃度部32においては、Si濃度が、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)中のSi濃度よりも5倍以上高くなっている。なお、このSi高濃度部32の厚さHは4nm以下とされている。
ここで、観察する接合界面30は、図3に示すように、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)の格子像の界面側端部とセラミックス基板11の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
【0039】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法について、図4から図6を参照して説明する。
【0040】
(Si及びCu固着工程S1)
まず、図5及び図6に示すように、金属板22、23のそれぞれの接合面に、スパッタリングによってSi及びCuを固着し、SiとCuとの混在層24、25を形成する。ここで、混在層24、25におけるSi量及びCu量は、Si;0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下、Cu;0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定されている。
【0041】
(積層工程S2)
次に、図5に示すように、金属板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層し、かつ、金属板23をセラミックス基板11の他方の面側に積層する。このとき、図5及び図6に示すように、金属板22、23のうち混在層24、25が形成された面がセラミックス基板11を向くように積層する。すなわち、金属板22、23とセラミックス基板11との間にそれぞれ混在層24、25(Si及びCu)を介在させているのである。このようにして積層体20を形成する。
【0042】
(加熱工程S3)
次に、積層工程S2において形成された積層体20を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、図6に示すように、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域26、27を形成する。この溶融金属領域26、27は、図6に示すように、混在層24、25のSi及びCuが金属板22、23側に拡散することによって、金属板22、23の混在層24、25近傍のSi濃度及びCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。なお、上述の圧力が1kgf/cm未満の場合には、セラミックス基板11と金属板22、23との接合を良好に行うことができなくなるおそれがある。また、上述の圧力が35kgf/cmを超えた場合には、金属板22,23が変形するおそれがある。よって、積層体20を加圧する際の圧力は、1〜35kgf/cmの範囲内とすることが好ましい。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力を10−6〜10−3Pa、加熱温度を610℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0043】
(凝固工程S4)
次に、溶融金属領域26、27が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域26、27中のSi及びCuがさらに金属板22、23側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域26、27であった部分のSi濃度及びCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板11と金属板22、23とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0044】
このようにして、回路層12及び金属層13となる金属板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1においては、金属板22、23の接合面にSi及びCuを固着させるSi及びCu固着工程S1を備えているので、金属板22、23とセラミックス基板11の接合界面30には、SiとCuとが介在することになる。ここで、Cuは、Alに対して反応性の高い元素であるため、接合界面30にCuが存在することによってアルミニウムからなる金属板22、23の表面が活性化することになる。よって、セラミックス基板11と金属板22、23とを強固に接合することが可能となる。
【0046】
さらに、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)とが、金属板22、23の接合面に形成されたSiとCuとの混在層24、25のSi及びCuを金属板22、23側に拡散させることによって溶融金属領域26、27を形成し、この溶融金属領域26、27中のSi及びCuを金属板22、23へ拡散させることによって凝固させて接合しているので、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板11と金属板22、23とを強固に接合することが可能となる。
【0047】
また、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30の幅方向中央部においては、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)にSi及びCuが固溶しており、接合界面30から積層方向に離間するにしたがい漸次Si濃度及びCu濃度が低下する濃度傾斜層33が形成されており、この濃度傾斜層33の接合界面30側のSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されているので、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)の接合界面30側の部分が固溶強化し、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)における亀裂の発生を防止することができる。
また、加熱工程S3においてSi及びCuが十分に金属板22、23側に拡散しており、金属板22、23とセラミックス板11とが強固に接合されていることになる。
【0048】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板11がAlNで構成されており、金属板22、23とセラミックス基板11との接合界面30に、Si濃度が、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)中のSi濃度の5倍以上とされたSi高濃度部32が形成されているので、接合界面30に存在するSiによってセラミックス基板11と金属板22、23との接合強度の向上を図ることができる。
【0049】
また、金属板の接合面にSi及びCuを固着させて混在層24、25を形成するSi及びCu固着工程S1を備えており、加熱工程S3において、混在層24、25のSi及びCuを金属板22、23側に拡散させることにより、セラミックス基板11と金属板22、23との界面に溶融金属領域26、27を形成する構成としているので、製造が困難なAl−Si系のろう材箔を用いる必要がなく、低コストで、金属板22、23とセラミックス基板11とが確実に接合されたパワーモジュール用基板10を製造することが可能となる。
【0050】
また、Si及びCu固着工程S1において、セラミックス基板11と金属板22、23との界面に介在されるSi量及びCu量を、Si;0.002mg/cm以上、Cu;0.08mg/cm以上としているので、セラミックス基板11と金属板22、23との界面に、溶融金属領域26、27を確実に形成することができ、セラミックス基板11と金属板22、23とを強固に接合することが可能となる。
【0051】
さらに、セラミックス基板11と金属板22、23との界面に介在されるSi量及びCu量を、Si;1.2mg/cm以下、Cu;2.7mg/cm以下としているので、SiとCuの混在層24、25にクラックが発生することを防止することができ、セラミックス基板11と金属板22,23との界面に溶融金属領域26,27を確実に形成することができる。さらに、Si及びCuが過剰に金属板22,23側に拡散して界面近傍の金属板22,23の強度が過剰に高くなることを防止できる。よって、パワーモジュール用基板10に冷熱サイクルが負荷された際に、熱応力を回路層12、金属層13(金属板22,23)で吸収することができ、セラミックス基板11の割れ等を防止できる。
【0052】
また、ろう材箔を使用せずに、金属板22、23の接合面に直接Si及びCuを固着して混在層24、25を形成しているので、ろう材箔の位置合わせ作業等を行う必要がなく、確実にセラミックス基板11と金属板22,23とを接合することができる。よって、このパワーモジュール用基板10を効率良く製出することが可能となる。
しかも、金属板22、23の接合面に混在層24、25を形成しているので、金属板22、23とセラミックス基板11との界面に介在する酸化被膜は、金属板22、23の表面にのみ存在することになるため、初期接合の歩留りを向上させることができる。
さらに、本実施形態では、金属板22、23の接合面に直接Si及びCuを固着して混在層24、25を形成する構成としているので、Si及びCu固着工程S1を効率良く行うことができる。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態について図7から図10を参照して説明する。
この第2の実施形態であるパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板111がSiで構成されている。
【0054】
ここで、図7に示すように、セラミックス基板111と回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)との接合界面130の幅方向中央部においては、回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)にSi及びCuが固溶しており、接合界面130から積層方向に離間するにしたがい漸次Si濃度及びCu濃度が低下する濃度傾斜層133が形成されている。ここで、この濃度傾斜層133の接合界面130側のSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲内に、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、濃度傾斜層133の接合界面130側のSi濃度及びCu濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面30から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図7のグラフは、回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0055】
また、セラミックス基板111と回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)との接合界面130を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図8に示すように、接合界面130に酸素が濃縮した酸素高濃度部132が形成されている。この酸素高濃度部132においては、酸素濃度が、回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)中の酸素濃度よりも高くなっている。なお、この酸素高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。
なお、ここで観察する接合界面130は、図8に示すように、回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)の格子像の界面側端部とセラミックス基板111の格子像の接合界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
【0056】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板の製造方法について、図9及び図10を参照して説明する。なお、本実施形態では、Si及びCu固着工程が、Cu固着工程S10とSi固着工程S11とに分離されている。
【0057】
(Cu固着工程S10)
まず、図10に示すように、金属板122、123のそれぞれの接合面に、スパッタリングによってCuを固着し、Cu層124A、125Aを形成する。ここで、Cu層124A、125AにおけるCu量は、Cu;0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下に設定されている。
【0058】
(Si固着工程S11)
次に、金属板122、123のそれぞれの接合面に形成されたCu層124A、125Aの上に、スパッタリングによってSiを固着し、Si層124B、125Bを形成する。ここで、Si層124B、125BにおけるSi量は、Si;0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下に設定されている。
【0059】
(積層工程S12)
次に、図10に示すように、金属板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層し、かつ、金属板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。このとき、図10に示すように、金属板122、123のうちCu層124A、125A及びSi層124B、125Bが形成された面がセラミックス基板111を向くように積層する。すなわち、金属板122、123とセラミックス基板111との間にそれぞれCu層124A、125A及びSi層124B、125Bを介在させているのである。このようにして積層体を形成する。
【0060】
(加熱工程S13)
次に、積層工程S12において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、図10に示すように、金属板122、123とセラミックス基板111との界面にそれぞれ溶融金属領域126、127を形成する。この溶融金属領域126、127は、図10に示すように、Cu層124A、125A及びSi層124B、125BのSi及びCuが金属板122、123側に拡散することによって、金属板122、123のCu層124A、125A及びSi層124B、125B近傍のSi濃度及びCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力を10−6〜10−3Pa、加熱温度を610℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0061】
(凝固工程S14)
次に、溶融金属領域126、127が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域126、127中のSi及びCuがさらに金属板122、123側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域126、127であった部分のSi濃度及びCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板111と金属板122、123とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0062】
このようにして、回路層112及び金属層113となる金属板122、123とセラミックス基板111とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板が製造されることになる。
【0063】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板においては、金属板122、123の接合面にCuを固着させるCu固着工程S10及びSiを固着させるSi固着工程S11を備えているので、金属板122、123とセラミックス基板111の接合界面130には、SiとCuとが介在することになる。ここで、Cuは、Alに対して反応性の高い元素であるため、接合界面130にCuが存在することによってアルミニウムからなる金属板122、123の表面が活性化することになる。よって、セラミックス基板111と金属板122、123とを強固に接合することが可能となる。
【0064】
さらに、セラミックス基板111と回路層112(金属板122)及び金属層113(金属板123)とが、金属板122、123の接合面に形成されたCu層124A、125AとSi層124B、125BのCu及びSiを金属板122、123側に拡散させることによって溶融金属領域126、127を形成し、この溶融金属領域126、127中のSi及びCuを金属板122、123へ拡散させることによって凝固させて接合しているので、比較的低温、短時間の接合条件で接合しても、セラミックス基板111と金属板122、123とを強固に接合することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、セラミックス基板111がSiで構成されており、回路層112及び金属層113となる金属板122、123とセラミックス基板111との接合界面130に、酸素濃度が回路層112及び金属層113を構成する金属板122、123中の酸素濃度よりも高くされた酸素高濃度部132が生成されているので、この酸素によってセラミックス基板111と金属板122、123との接合強度の向上を図ることができる。また、この酸素高濃度部132の厚さが4nm以下とされているので、熱サイクルを負荷した際の応力によって酸素高濃度部132にクラックが発生することが抑制される。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層及び金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよい。
【0067】
また、Si及びCu固着工程において、金属板の接合面にSi及びCuを固着させる構成としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板の接合面にSi及びCuを固着させてもよい。あるいは、セラミックス基板の接合面及び金属板の接合面に、それぞれSi及びCuを固着させてもよい。
さらに、Si及びCu固着工程において、スパッタによってSi及びCuを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、蒸着やCVD等でSi及びCuを固着させてもよい。また、Si及びCu固着工程において、Si及びCuとともにAlを固着させてもよい。
【0068】
また、第2の実施形態において、Si及びCu固着工程を、Cu固着工程S10の後にSi固着工程S11を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si固着工程の後にCu固着工程を行う構成としてもよい。
さらに、セラミックス基板と金属板との接合を、真空加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、N雰囲気、Ar雰囲気やHe雰囲気などでセラミックス基板と金属板との接合を行ってもよい。
【0069】
また、ヒートシンクの天板部と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けたものとして説明したが、この緩衝層がなくてもよい。
さらに、ヒートシンクをアルミニウムで構成したものとして説明したが、アルミニウム合金、又はアルミニウムを含む複合材等で構成されていてもよい。さらに、ヒートシンクとして冷却媒体の流路を有するもので説明したが、ヒートシンクの構造に特に限定はなく、種々の構成のヒートシンクを用いることができる。
【0070】
また、セラミックス基板をAlN、Siで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Al等の他のセラミックスで構成されていてもよい。
【実施例】
【0071】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板を2枚準備し、これら金属板の片面に真空蒸着によってSi及びCuを固着させ、これら2枚の金属板を40mm角で厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板の両面に、それぞれ蒸着面がセラミックス基板を向くようにして積層し、積層方向に圧力1〜5kgf/cmで加圧した状態で真空加熱炉(真空度10−3〜10−5Pa)で630〜650℃に加熱し、セラミックス基板と回路層及び金属層とを備えたパワーモジュール用基板を製出した。
【0072】
そして、固着したSi量及びCu量を変量した種々の試験片を製出した。
このようにして成形されたパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなる厚さ0.9mmの緩衝層を介して、ヒートシンクの天板に相当する50mm×60mm、厚さ5mmのアルミニウム板(A6063)を接合した。
これらの試験片を−45℃〜105℃の冷熱サイクルに負荷し、冷熱サイクルを2000回繰り返した後の接合率を比較した。評価結果を図11に示す。
なお、接合率は、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
ここで、冷熱サイクルを2000回繰り返した後の接合率が70%未満のものを×、接合率が70%以上85%未満のものを△、接合率が85%以上のものを○とした。
【0073】
Si量を0.001mg/cm、Cu量を0.05mg/cmとしたものでは、冷熱サイクル負荷後の接合率が70%未満であった。界面に介在するSi量、Cu量が少なく、金属板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を十分に形成することができないためと判断される。
また、Si量を1.4mg/cm、又は、Cu量を3.2mg/cmとしたものにおいても、冷熱サイクル負荷後の接合率が70%未満であった。これは、Si及びCuの量が多く金属板が硬くなり過ぎて、冷熱サイクルによる熱応力が接合界面に負荷されたためと推測される。
【0074】
一方、Si量を0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下、Cu量を0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下としたものでは、冷熱サイクル負荷後の接合率が70%以上であった。Si,Cuの拡散によって、金属板とセラミックス基板との界面に溶融金属領域を確実に形成することが可能となり、金属板とセラミックス基板とを強固に接合できたと判断される。
【0075】
特に、Si量を〔Si〕、Cu量を〔Cu〕とした場合において、
〔Cu〕+2×〔Si〕≦3
但し、0.002mg/cm≦〔Si〕≦1.2mg/cm
0.08mg/cm≦〔Cu〕≦2.7mg/cm
の関係を満足する条件では、冷熱サイクル負荷後の接合率が85%以上となり、さらに強固に金属板とセラミックス基板とを接合できることが確認された。これは、上記の関係を超えるSi,Cuが固着された場合、金属板が、Si,Cuによる固溶硬化によって硬くなりすぎて接合率にバラツキが生じるためと推測される。
【0076】
次に、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板を2枚準備し、これら金属板の片面に真空蒸着によってSi及びCuを固着させ、これら2枚の金属板を40mm角で厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板の両面に、それぞれ蒸着面がセラミックス基板を向くようにして積層し、積層方向に圧力5〜35kgf/cmで加圧した状態で真空加熱炉(真空度10−3〜10−5Pa)で630〜650℃に加熱し、セラミックス基板と回路層及び金属層とを備えたパワーモジュール用基板を製出した。
【0077】
そして、固着したSi量及びCu量を変量した種々の試験片を製出した。
このようにして成形されたパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなる厚さ0.9mmの緩衝層を介して、ヒートシンクの天板に相当する50mm×60mm、厚さ5mmのアルミニウム板(A6063)を接合した。
これらの試験片を−45℃〜105℃の冷熱サイクルに負荷し、冷熱サイクルを2000回繰り返した後の接合率を比較した。評価結果を表1から表3に示す。
なお、接合率は、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0078】
また、これらの試験片について、金属板のうちセラミックス基板の接合界面近傍(接合界面から50μm)のSi濃度を、EPMA分析(スポット径30μm)によって測定した。測定結果を表1から表3に併せて示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
Si固着量及びCu固着量が本発明の範囲外とされた比較例1−16においては、冷熱サイクルを2000回繰り返した後の接合率が70%未満であった。
これに対して、Si固着量及びCu固着量が本発明の範囲内とされた実施例1−48においては、冷熱サイクルを2000回繰り返した後の接合率が70%を超えていた。
【0083】
また、Si層の固着量を0.001mg/cmとした比較例1では、界面のSi濃度が0.039質量%となった。Si層の固着量を1.398mg/cmとした比較例11−16では、界面のSi濃度が0.5質量%を超えていた。これに対して、Si層の固着量を0.1165〜1.165mg/cmとした実施例1−48では、界面のSi濃度が、0.2〜0.5質量%の範囲内となることが確認された。
【0084】
同様に、Cu層の固着量を0.005mg/cmとした比較例1では、界面のCu濃度が0.027質量%となった。Cu層の固着量を3.136mg/cmとした比較例2−10では、界面のCu濃度が6質量%を超えていた。これに対して、Cu層の固着量を0.448〜2.688mg/cmとした実施例1−48では、界面のCu濃度が、0.45〜5質量%の範囲内となることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
1 パワーモジュール
3 半導体チップ(電子部品)
10 パワーモジュール用基板
11、111 セラミックス基板
12、112 回路層
13、113 金属層
22、23、122、123 金属板
24、25 混在層
26、27、126、127 溶融金属領域
30、130 接合界面
124A、125A Cu層
124B、125B Si層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の表面に、アルミニウムからなる金属板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSiとCuを固着させるSi及びCu固着工程と、
固着したSi及びCuを介して前記セラミックス基板と前記金属板とを積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記金属板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記金属板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記Si及びCu固着工程において、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、Si;0.002mg/cm以上1.2mg/cm以下、Cu;0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下を介在させ、
前記加熱工程において、固着させたSi及びCuを前記金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記金属板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記Si及びCu固着工程では、Si及びCuとともに、Alを固着させることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記Si及びCu固着工程は、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方にSi及びCuを固着させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、
前記金属板には、Si及びCuが固溶されており、前記金属板のうち前記セラミックス基板との界面近傍におけるSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、Cu濃度が0.05質量%以上5.0質量%以下の範囲内に設定されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板の製造方法により製造されたパワーモジュール用基板であって、前記セラミックス基板が、AlN、Al及びSiのいずれかで構成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板の幅が前記金属板の幅よりも広く設定されており、前記金属板の幅方向端部には、Cuを含む化合物がアルミニウム中に析出したCu析出部が形成されていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれかに記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項8】
請求項4から請求項6のいずれかに記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−66405(P2011−66405A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184072(P2010−184072)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】