説明

フィラメント巻き曲面製品の製造方法およびそれによって得られる製品

本発明は、曲面製品、特に防護製品に関する。防護製品は、繊維および/またはテープの形態である複数の補強要素にポリマーマトリックスを含浸させて、マンドレル上に巻き付けるフィラメント巻き付け方法によって製造される。ポリマーマトリックスは、キャリヤー液中にポリマーを含んでいる溶液および/または分散液を含み、そのキャリヤー液は巻き付け時および/または巻き付け後に少なくとも一部蒸発させられる。防護製品は、製品の全質量に対して多量の補強要素を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、高強度の繊維または補強要素とポリマーマトリックスとの複合材を含む曲面製品、好ましくは曲面防護製品(curved armour product)に関する。本発明はまた、そのような曲面製品の製造方法に関する。特に本発明は、ヘルメット、特に戦闘用ヘルメット、ならびにレードームなどの他の曲面製品に関する。
【0002】
高性能の独立型防護製品は、主として高強度の繊維とポリマーマトリックスとの複合材から作られる。そうした複合材を用いる理由は、製造された防護具において、高速発射体の衝撃防護が優れていると共に質量が小さいからである。極度の危険に抵抗すべき防護具のみ、他の材料を含むことがある。そのような場合、複合材料層には、金属衝撃面および/またはセラミック衝撃面が設けられる。必要とされる高品質の複合防護具では、多量の繊維−ポリマーの防護プリプレグが工業的に生産されることになる。こうしたプリプレグは、積み重ねて圧縮し、こうして加工して防護プレートを製造することができる。防護プリプレグは、典型的には高引張強さの繊維から作られ、普通は2方向の繊維のみを含む。これらの方向は、一般には互いにほぼ直角をなす。ポリマーマトリックス含量は、好ましくは少ないか(例えば、<25質量%)、あるいは乾燥布帛を使用する場合には、ポリマーマトリックスは存在さえしない。それゆえに、防護プリプレグは衝撃防護のために高度に最適化されている。特に好適な防護プリプレグの例として、DSMのDyneema(登録商標) UDがある。その最適化された特性を考慮すると、そのような防護プリプレグを使用することは、戦闘用防護用具を製造する場合の典型的な第1選択肢となる。
【0003】
しかし、曲面製品、特に立体高曲面製品(highly 3−D curved products)の製造は問題となる。一般に、そのような製品にはしわが生じる。しわは、局部的な貫入抵抗を確かに減少させるので、衝撃性能にとって好ましくない。さらに、しわにより、衝撃時に発生する外傷も増大する。これは衝撃時にしわが部分的に「のびる」ことがあるからである。こうした不利な点をなくすためのさまざまな解決策が公表されてきたが、それにはプリプレグシートに切れ目を入れるか、またはヘルメットを製造するもとになる長方形のプリプレグシートのエッジに関して繊維の向きを選択するなどがある。こうした周知の解決策は、場合によってはしわの悪影響を減少させるのに成功してきたが、しわを完全になくすことは達成されていないか、または達成されたとしても、それはまれな場合に過ぎない。その主な理由は、しわの発生を減少させるには、一般にそれぞれに不利な点のある複数の技術的手段を組み合わせる必要があるからである。そのような不利な点の一例は切れ目を入れることである。切断された繊維は、一般に衝撃防護が低下する。
【0004】
米国特許第2448114号明細書は、40〜50重量%の樹脂を含浸させた天然繊維を基にした戦闘用ヘルメットなどの防護製品に用いるための、曲面薄肉ライナーの製造方法を記載している。そのライナー自体は耐衝撃特性がない。
【0005】
英国特許出願公開第2158471号明細書は、従来の熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を、巻き付け技法を用いて周知のパターンに従ってマンドレル上に配置する、防護物品の製造方法を記載している。
【0006】
したがって、本発明の目的は、改良された曲面製品、特に防護製品、ならびにそのような製品を製造する方法を提供することである。
【0007】
この目的は、強さが少なくとも1.6GPaである複数の補強要素にポリマーマトリックスを含浸させ、それをマンドレル上に巻き付けるフィラメント巻き付け方法であって、ポリマーマトリックスがキャリヤー液中にポリマーを含んでいる溶液および/または分散液(dispersion)を含み、そのキャリヤー液を巻き付け時および/または巻き付け後に少なくとも一部蒸発させ、補強要素の量が製品の全質量の少なくとも60%である方法で製造される曲面製品、好ましくは防護製品により、本発明にしたがって実現される。
【0008】
本発明によれば、繊維の直接配置(特にフィラメント巻き付け)による、戦闘用ヘルメットのような立体高曲面製品の新規の製造方法が提供される。曲面製品とは、本出願との関連においては、平面に配置されたときに、前記面に対する最大の高さと平面上の製品の突き出た表面内の最大の長さ寸法との比が、少なくとも0.20である製品を意味する。高曲面製品とは、本出願との関連においては、平面に配置されたときに、前記面に対する最大の高さと平面上の製品の突き出た表面内の最大の長さ寸法との比が、少なくとも1.00である製品を意味する。
【0009】
本発明による方法では、優れた防護力を有すると共に質量が小さく、かつ良好な横変形(外傷)抵抗を有する曲面防護製品を作ることができる。曲面防護製品はさらに、実質的にしわのないものを製造することができる。フィラメント巻き付け自体は、よく知られている複合材製造方法である。しかし、それは、本発明の方法に従って、ヘルメットおよびレードームなどの曲面製品、および特に戦闘用ヘルメットを作るために試みられたことはまだない。意外にも、本発明によるフィラメント巻き曲面防護製品の質は、当該技術分野において知られている最適化された防護プリプレグから作る代わりに、繊維から直接に製品が作られるという事実にもかかわらず優れている。さらに、フィラメント巻き製品は、一般に3つ以上の繊維方向を有するさまざまな場所を含む。これは、通常、その衝撃性能にとって不利である。特許請求の範囲に記載されている、請求項2に記載の補強要素とポリマーマトリックスの組み合わせのおかげで、これは本発明の曲面防護製品に当てはまらない。
【0010】
本発明の方法では、防護製品の場合、フィラメント巻き製品の壁が耐衝撃性能を有するほど十分厚い限り、いろいろな肉厚の曲面製品を簡単に得ることができる。本発明の更なる利点は、事実上、肉厚の制限がないことである。巻き付け方法は、好ましくは製造される製品において実質的にその表面全体にわたって厚さが一定であるように行われる。耐衝撃性能の観点からすると、本発明による製品の肉厚は、好ましくは3mmより大きく、より好ましくは5mmより大きく、さらにより好ましくは9mmより大きく、もっとも好ましくは12mmより大きい。
【0011】
曲面防護製品(特に戦闘用ヘルメット)の本発明の製造方法の実施態様は、幾らかの張力をかけつつ1つまたは複数の繊維ボビンから巻き出すステップを含む。この方法の第1の実施態様では、繊維または補強要素は、好ましくは、実際の巻き付けの前に液体マトリックスの中を通して供給し、その後、位置決め孔(positioning eye)の中を通してほぼ曲面製品(ヘルメットなど)の内部形状を有する回転マンドレル上に供給する。本発明によれば、液体マトリックスはポリマー溶液および/またはポリマー分散液である。ポリマーマトリックスの溶液および/または分散液を使用することの利点は、液体キャリヤーを後で蒸発させ、そのようにして最終製品において所望の低マトリックス含量にすることができることである。第2の好ましい方法は、乾燥巻き付け、およびその後で繊維構造体にポリマー溶液および/または分散液(後で、これからキャリヤー液を蒸発させる)を含浸させることを含む。
【0012】
曲面製品は、溶液および/または分散液を乾燥させて合体させた後にマンドレルから取り外すことができ、好ましくはエッジの切り取りによって仕上げを行うことができる。その後、それは一般にはプリフォームと呼ばれる。しかし、好ましくは、曲面製品は後で高温高圧での圧縮工程にかけてさらに圧縮する。この後続の圧縮ステップでは、使用者が定めた寸法に従って製品をさらに形作る。
【0013】
圧縮成形によってフィラメント巻きプリフォームから曲面製品を製造する方法では、一般に当業者は、十分に製品を合体させるために、高温と高圧ならびに時間の好適な組み合わせを選ぶことができるであろう。所望の成形は、超高分子ポリエチレンで作られた繊維を含むプリフォームの場合には、一般に約1〜60分間、好ましくは約5〜45分間で行われるであろう。曲面製品(防護製品またはレードームなど)の製造の際にプリフォームに加える高圧は、非常にさまざまでありうるが、好ましくは約7MPaより大きく、より好ましくは約10MPaより大きく、さらにより好ましくは約15MPaより大きい。圧力が大きいほど得られる結果はよくなる。高温は、好ましくは、80℃から補強要素の溶融温度または軟化温度より10℃下までの範囲から選択され、ほとんどの実際的な用途においてその範囲は80℃から145℃までの間である。高温高圧で成形した後、曲面製品は、好ましくは製品が約80℃未満の温度になるまで圧力下で冷却する。
【0014】
ポリマーマトリックス溶液よりもポリマーマトリックス分散液を用いる場合の利点は、キャリヤー液を実質的に蒸発させた後、そうしたポリマーマトリックスの水に対する抵抗性がより優れていることである。ポリマーマトリックスの溶液および/または分散液の総量に対するキャリヤー液の量は、広い範囲から選択できるが、キャリヤー液の量は、好ましくは、ポリマーマトリックスの溶液および/または分散液の全重量の少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも30質量%、もっとも好ましくは少なくとも40質量%であることが分かった。
【0015】
本発明による方法の好ましい実施態様では、フィラメント巻き付け方法で製品を製造する際に使用されるマンドレルは、類似の製品であるが、別の技術で作られる。さらにとりわけ、従来の肉薄シェルのヘルメットまたは曲面部品が、フィラメント巻き付けの金型として使用される。このようにして、ヘルメットまたは曲面部品の外側部分のみが、フィラメント巻き材料で構成される。その利点は、薄いヘルメットまたは曲面部品が、厚いヘルメットまたは曲面部品よりも従来の技術でいっそう容易に製造されることであり、しかもなお、かなり大きなフィラメント巻き付けの利点がある。さらに、より大きな危険に対してヘルメットまたは曲面部品を適合させるのが簡単であり、追加の巻き付けを行うだけで行える。
【0016】
フィラメント巻き付けパターンは、好ましくは「ほぼ最短線のパターン」に限定されるが、このことは本発明によれば必要というわけではない。繊維の経路は、曲面上の2点間の最短距離に相当する場合、最短線である。巻き付けパターンのデザインでは、「ほぼ最短線のパターン」を実現しかつ特定位置での繊維の局部的な集積を防ぐようなパターンの選択に関して、特別の注意が求められる。最適な曲面製品(例えば、ヘルメット)は、好ましくは、そのような集積が十分に「少なく」されるか、またはヘルメットの表面全体に散らされるような仕方で巻き付けが行われる。最近のソフトウェア(それ自体は知られている)を用いると、フィラメントの巻き付け専門家は、局部的な繊維の集積を十分に「少なくした」巻き付けパターンを設計することができる。また、試行錯誤法を用いて適切な巻き付けパターンを得ることもできる。
【0017】
補強要素は、延伸高分子フィルムおよび/または繊維を含むことができる。そのような延伸高分子フィルムは、好ましくは細長く切ってテープにする。フィルムまたはテープは、エンドレスベルトを組み合わせたものの間に高分子粉末を供給し、高分子粉末をその融点未満の温度で圧縮成形し、得られた圧縮成形ポリマーを圧延することでフィルムを形成させることによって、調製することができる。フィルム形成の別の好ましい方法は、ポリマーを押出機に供給すること、フィルムの融点より上の温度でフィルムを押し出すこと、そして押出高分子フィルムを延伸することを含む。所望される場合には、ポリマーを押出機へ供給する前に、ポリマーを好適な液体有機化合物と混合して、例えばゲルを形成させることができる。好ましくは超高分子量ポリエチレンを使用する場合などがある。フィルムの延伸(好ましくは一軸延伸)を行ってテープを作ることは、当該技術分野において知られている手段によって実施できる。そのような手段は、好適な延伸装置での押出延伸および引張延伸を含む。機械的強度およびスチフネスを増大させるために、延伸を複数のステップで実施できる。得られた延伸テープは、それ自体を曲面製品(防護製品を含む)のフィラメント巻き付けに使用できるか、あるいは所望の幅に切断する、つまり延伸の方向に沿って裂くことができる。好適な一方向テープの幅は、普通はテープを作るもとになるフィルムの幅によって異なる。本発明による製品および方法では、テープの幅は、好ましくは少なくとも3mm、より好ましくは少なくとも5mmである。テープの幅は、巻き付け工程におけるしわをさらに防ぐために、好ましくは30mm未満、より好ましくは15mm未満、もっとも好ましくは10mm未満である。テープの面密度は、広い範囲にわたって、例えば5から200g/mまでの間でさまざまであってよい。好ましい面密度は、10から120g/mの間、より好ましくは15から80g/mの間、もっとも好ましくは20から60g/mの間である。
【0018】
特に好ましい製品は、強さが少なくとも1.6GPa、より好ましくは少なくとも1.8GPaであるポリエチレン繊維および/またはアラミド繊維を含む。ポリエチレン繊維は、好ましくはゲル紡糸によって製造されるが、いわゆる絡み合いが解かれたポリマー粉末からの固体状態で生成された繊維(またはフィルム)も同様に好適である。さらにはガラス繊維または炭素繊維も好適であるが、但し、強さが少なくとも1.6GPa、より好ましくは少なくとも1.8GPa以上であることを条件とする。本発明による製品に好適に使用される他の繊維は、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維(PBO、Zylon(登録商標))、ポリ(2,6−ジイミダゾ−(4,5b−4’,5’e)ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン)繊維(M5繊維という名称の方がよく知られている)、および超高分子量ポリエチレンまたはポリプロピレン繊維、および/または上記の繊維の組み合わせを含む、延伸熱可塑性ポリマー繊維である。
【0019】
本発明による好ましい製品は、製品の全質量の少なくとも60%の量の補強要素を含む。さらにより好ましいのは、補強要素の量が製品の全質量の少なくとも75%、もっとも好ましくは製品の全質量の少なくとも85%である製品である。防護製品中の補強要素の質量(または体積)の割合がそのように高いことは、その耐衝撃特性にとって非常に有利である。補強材のこうした高い割合(またはポリマーマトリックスの低い割合)は、通常、任意の方法で作られた、また特にフィラメント巻き付けで作られた複合製品では達成されない。そのような「ポリマーマトリックスの乏しい」製品では、通常、製品に樹脂欠乏部が生じる。こうした部分は望ましいものではない。複合製品のフィラメント巻き付けの場合、ポリマーマトリックスの割合がおよそ60質量%以上であることはまれではない。マトリックス材によっては、浸出剤および/または剥離層材(peelply material)を施すことによって取り除くことができるものがあるが、これは煩雑である。さらに40質量%未満のポリマーマトリックスの割合はそのような方法では達成されない。この問題は、本発明にしたがってポリマーマトリックスの溶液および/または分散液を用いることにより解決された。この方法では、繊維および/またはフィルムに実質的に完全に含浸されるが、乾燥後には普通はほんの20質量%のマトリックスだけが存在する。
【0020】
特に好ましい一実施態様では、高圧高温下で繊維を一緒に焼結させるだけで、マトリックスなしでポリエチレン繊維のフィラメント巻きヘルメットを実際に作ることができる。フィラメント巻き付けで製造されないヘルメットの圧縮手順は、本質的に国際公開第2005/065910号パンフレットに記載されている。
【0021】
本発明はまた、レードームのような本発明の製品の使用に関する。本発明はさらに、レーダーアンテナ(特に、航空機が搭載するタイプのもの)を取り囲んで保護するためのレードームであって、前記レードームが本発明の製品を含むものに関する。レードームは、本明細書では、電磁放射装置(例えば、航空機搭載用、地上配備用または艦船搭載用の、例えばレーダー装置)を保護するのに用いられる任意の構造物と理解される。レードームが航空機搭載用である場合、レードームは、航空機の機首(翼または胴体の一部)または航空機の尾部として形作り、配置することができる。本発明のレードームの利点は、剛性分布が改善されると共に、電界分布も改善されることである。
【0022】
本発明のレードームの更なる重要な利点は、前記レードームは、特に超高分子量ポリエチレンのゲル紡糸繊維がそれに使用されている場合、類似の構造を有する周知のレードームよりも重量が軽く、それと同時に構造機能および電磁機能(electromagnetic function)が改善されていることである。意外にも、本発明のレードームは、周知のレードームと比べて周波数帯域が狭くならないことが見出された。さらに本発明のレードームの更なる重要な利点は、例えば、軍用機の場合に、発射体に対する抵抗性が増大し、さらに鳥の衝突、雹などに対する抵抗性も増大することである。
【0023】
本発明による製品および方法に使用する好適なポリマーマトリックスは、標準的な複合材に使用されるポリマーを含む。ポリマーマトリックスという用語は、補強要素を結合する、またはつなぎ合わせる材料を指す。マトリックスは、補強要素の全体または一部を取り囲むことができる。本発明によるマトリックス材は、キャリヤー液中にポリマーを含んでいる溶液および/または分散液を含む。ポリマーは、熱可塑性材料、または熱硬化性材料と熱可塑性材料との混合物であってよい。好適な熱硬化性および熱可塑性ポリマーは、例えば、国際公開第91/12136A1号パンフレット(15〜21頁)に列挙されている。ポリマーマトリックスが熱可塑性ポリマーを含む場合、好ましくは、ポリビニル、ポリアクリル、ポリオレフィンまたは熱可塑性エラストマーブロックコポリマー(ポリイソプロペン−ポリエチレン−ブチレン−ポリスチレンまたはポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーなど)が選択される。より好ましくは、ポリマーマトリックスは熱可塑性ポリマーを含む。もっとも好ましくは、ポリマーマトリックスは熱可塑性ポリマーである。
【0024】
本発明による製品の好ましい実施態様では、ポリマーマトリックスの少なくとも一部の弾性率は100MPa未満である。したがって、製品のこの好ましい実施態様では、補強要素の少なくとも一部に弾性率が100MPa未満であるポリマーマトリックスを含浸させる。さらにより好ましいのは、ポリマーマトリックスの少なくとも一部の弾性率が500MPaより大きい製品である。この好ましい実施態様では、補強要素の少なくとも一部に、弾性率が500MPaより大きいポリマーマトリックスを含浸させる。弾性率の小さいマトリックス材は、貫通に対する防護にはより有利である。100MPa未満の弾性率を有するゴム状マトリックスを使用できる。一方、マトリックスが堅くなると、ヘルメットの横強度およびスチフネスが向上する。ヘルメットの一部を堅い樹脂で、一部を弾性率の低いポリマーで製造することも可能であり、好ましい。種々の可能性は、当業者による単純な実験によって求めることができる。
【0025】
好ましい実施態様では、曲面製品は、2つの極曲面(polar surfaces)を有するマンドレル上に補強要素のフィラメント巻き付けを行うことによって製造するが、そのマンドレルは中心シャフトの回りを回転し、極曲面は中心シャフトが出し入れされるマンドレルの一部である。補強要素は、そのようなマンドレル上に、実質的にその表面およびその極曲面の全体にわたって配置される。このようにして、実質的に密閉された製品が得られ、これは後で二等分に分割されるので、2つの同様の曲面製品が一度に製造される。巻き付けの間はシャフトが存在するので、曲面製品の頂端には、一般に、巻き付け工程の後でシャフトが取り除かれたときに開口部があるであろう。そのような開口部は、巻き付けおよび/または圧縮の後に存在する場合、例えば、取り付け栓をそれに挿入することによって閉じることができる。この方法は、2つの極曲面上で非最短線パターン(non−geodetic pattern)を採用することによってさらに向上させることができる。シャフトが存在するので、補強要素は、張力がかかった状態で(最終製品における)非最短線パターンでこのシャフトの回りに巻き付けることができる。シャフトを取り除く際に、張力下にある非最短線の補強要素は、その非最短線パターンから最短線パターンにより近いパターンに位置が変わり、それによって開口部および/または締め付けが減少し、かつ栓がよりきちんと取り付けられる。
【0026】
別の好ましい実施態様では、曲面製品は、フィラメント巻き付け工程の間に供給手段を用いて、繊維束などの複数の補強要素をマンドレル上に同時に配置することによって製造する。好適な供給手段は、ボビンを備えたクリール、およびマンドレルの表面を覆うように補強要素を誘導するための最終誘導手段(例えば、分配管の形態)を含む。この方法は、仕掛けを簡単に保ちつつも、短縮された製造時間でフィラメント巻き付けを行うことが可能である。これは、大量の一連の製品を製造する場合には特に有利である。複数の補強要素は、好ましくは10から60の間の補強要素、より好ましくは24から48の間で構成される。このようにして、扱いやすさと製造時間との間で折り合いがつく。
【0027】
フィラメント巻き付け工程の間に、供給手段は、好ましくはマンドレルに対して移動する。さらに別の好ましい実施態様では、供給手段は、マンドレル表面と供給手段との間の間隔にまたがる補強要素の長さを調整する。この方法により、より一定の張力が繊維にかけられ、それゆえにより品質のよい製品が生み出される。供給手段とマンドレル表面との間の補強要素の自由長さを調整することは、例えば、(繊維ボビンに作用する電気モーターを備えた)繊維分配管の形で供給手段を用意することによって実施できる。
【0028】
ここで本発明を以下の実施例および比較実験によってさらに説明するが、それらに限定されることはない。
【0029】
[実施例Iおよび比較実験A]
タイプSK76 1760dTexの耐衝撃性のDyneema(登録商標)UHMWPE繊維を、戦闘用ヘルメットの形状のマンドレルに巻き付けた。繊維の平均張力は、巻き付け時に約14Nであった。繊維に、Kraton(登録商標)熱可塑性ポリマーの水性分散液(混合重量比1:1)を含浸させた。巻き付け後に、製造されたヘルメットをオーブン中で約80℃において24時間乾燥させて、ポリマーマトリックスから水分を蒸発させた。乾燥後のマトリックス材の密度は1040kg/mである。次いで、乾燥させたヘルメットのプリフォームを、真空下でオートクレーブ中において約100℃の温度で2,5時間さらに合体させた。圧縮圧力は約20バールであった。オートクレーブ成形後に、こうして製造された円筒形の製品を切断して二等分し、それによってマンドレルの取り外しも行った。次いで、二等分された2つの製品を、プレスの2つの金属金型の間で、125℃の温度、約165バールの最大圧力で45分間圧縮して後処理した。
【0030】
本発明によって製造されたヘルメットの特性を表1に要約する。
【0031】
【表1】



【0032】
試験は、STANAG 2920標準に従って実施した。125℃の温度、約165バールの最大圧力において45分間で38層のDyneema(登録商標)HB25から作られた従来製造法のヘルメットの典型的なV50値は、厚さが7.8mmのヘルメットの場合は622m/秒であり、厚さが9.2mmのヘルメット(46層のDyneema(登録商標)HB25)の場合は730m/秒であった。
【0033】
得られた結果の要約を表2に示す。
【0034】
【表2】



【0035】
50が厚さに線形従属すると仮定すると、従来法で製造された厚さが5.5mmのヘルメットではV50が438m/sとなるであろうが、本発明によるフィラメント巻ヘルメット(実施例I)では、564m/sのV50(126m/s大きい)が得られた。
【0036】
38層のHB25で作られた周知のヘルメット(比較実験A)は、V50が622m/sであり、面密度が7,8kg/m2である。このヘルメットの吸収エネルギーEabsは、それゆえに(0,5FSP50)/AD=24.4J/kg/mである。フィラメント巻ヘルメットの吸収エネルギーが大きくなっているので、フィラメント巻ヘルメットの性能が向上している。
【0037】
ヘルメットが吸収できるエネルギーに基づいて言えば、本発明によるフィラメント巻ヘルメットは、従来の圧縮ヘルメットよりも性能が向上している。従来のヘルメットの吸収エネルギーの典型的な値は、24.4J/kg/mである。本発明によるヘルメットの吸収エネルギーは、32.4J/kg/mを超えており、少なくとも30%性能が向上している。性能の向上に加えて、フィラメント巻き付け方法には、最終製品にしわがないこと、出発物質が安価になること(糸+樹脂 対 直交積層(cross−ply)プリプレグ)、種々の材料を組み合わせる自由があること、廃棄物の量が少ないこと、および大規模な自動化の可能性など、他の利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面製品、好ましくは防護製品を製造するためのフィラメント巻き付け方法であって、強さが少なくとも1.6GPaである複数の補強要素にポリマーマトリックスを含浸させて、マンドレル上に巻き付け、前記ポリマーマトリックスがキャリヤー液中にポリマーを含んでいる溶液および/または分散液を含み、そのキャリヤー液を巻き付け時および/または巻き付け後に少なくとも一部蒸発させ、補強要素の量が前記製品の全質量の少なくとも60%である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で得られる曲面製品。
【請求項3】
前記補強要素の量が前記製品の全質量の少なくとも75%である、請求項2に記載の製品。
【請求項4】
前記補強要素が繊維および/または延伸高分子フィルムおよび/またはテープを含む、請求項2〜3のいずれか一項に記載の製品。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックスの少なくとも一部の弾性率が100MPa未満である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の製品。
【請求項6】
前記ポリマーマトリックスの少なくとも一部の弾性率が500MPaより大きい、請求項2〜5のいずれか一項に記載の製品。
【請求項7】
前記肉厚が9mmより大きい、請求項2〜6のいずれか一項に記載の製品。
【請求項8】
前記補強要素がポリエチレン繊維またはテープである、請求項2〜7のいずれか一項に記載の製品。
【請求項9】
前記補強要素が、アラミド繊維、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリ(2,6−ジイミダゾ−(4,5b−4’,5’e)ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン)繊維、炭素繊維、またはガラス繊維である、請求項2〜8のいずれか一項に記載の製品。
【請求項10】
前記製品が、フィラメント巻き付け後に高圧高温で圧縮成形によって後処理される、請求項2〜9のいずれか一項に記載の製品。
【請求項11】
前記製品が、ヘルメット、戦闘用ヘルメット、およびレードームから選択される、請求項10に記載の製品。
【請求項12】
少なくとも部分的に非最短線である補強要素のパターンを有する、請求項2〜11のいずれか一項に記載の製品。

【公表番号】特表2010−524719(P2010−524719A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503412(P2010−503412)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003099
【国際公開番号】WO2008/128708
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】