説明

フレキソ印刷版の製造方法

【課題】原画フィルムを必要としないでシャープな凸状のレリーフ像を形成することが可能で、印刷品位の優れた水現像可能なフレキソ印刷版の製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも、順次、支持体、親水性重合体を含有する感光層、マスク層を有する感光性印刷版原版において、画像マスクを通して、波長310nm〜400nmの紫外光で露光、波長200nm〜300nmの紫外光で露光、現像をこの順で行うことを特徴とする感光性印刷版の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデジタル情報転写に適するフレキソ印刷版の製造方法であり、さらに詳しくは、フレキソ印刷に用いられる水現像可能な感光層を、画像状に露光し、そして現像することにより、フレキソ印刷版を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面に凹凸を形成してレリーフ印刷版を形成する方法としては、感光性の組成物を用い、原画フィルムを介して感光性の組成物による層(以下、感光層)を活性光線で露光して画像部分を選択的に硬化させた後に、未硬化部を現像液により除去する方法、いわゆる「アナログ製版」が良く知られている。
【0003】
アナログ製版は、多くの場合、銀塩材料を用いた原画フィルムを必要とするため、フィルムの製造時間およびコストを要する。さらに、原画フィルムの現像に化学的な処理が必要で、かつ現像廃液の処理をも必要とすることから、環境衛生上の不利を伴う。また310nm〜400nmの波長を有する紫外線(UVA)による露光工程は、原画フィルムと感光性の組成物との間の接触を良くするために、真空を付与した状態で行われるが、原画フィルムと感光層の間に気泡、ゴミやほこりを巻き込むとレリーフ欠陥が発生してしまうという課題がある。
【0004】
感光層の上に直接、その場で画像マスクを形成可能なレーザー感応性のマスク層要素を設けたフレキソ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような印刷版原版はCTP(computer to plate)版と呼ばれ、デジタルデバイスで制御された画像データに基づいてレーザー照射を行い、そのアブレーション作用によりマスク層要素から画像マスクをその場で形成する工程、その後はアナログ製版と同様に、画像マスクを介してUVAで露光する工程、および感光層および画像マスクを現像除去する工程を経て、レリーフ印刷版、すなわちフレキソ版や樹脂凸版を得ることができる。この印刷版原版を用いることで、上記のアナログ製版方式の課題を解決できる。しかし、CTP版は酸素下で露光するため、版表面が重合阻害を起こし刷版のベタ部に荒れを生じやすく、結果として印刷時にインキ着肉不良等の問題を引き起こすという課題がある。
【0005】
また、感光層とマスク層の間にバリア層を設けたフレキソ印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献2参照)。酸素遮断機能のあるバリア層を設けることにより、重合阻害を抑制でき、シャープなレリーフを得られるというものである。しかしバリア層を設けることにより印刷版の製造工程が複雑になり、経済性、製品性能の面で負荷が大きいという問題がある。バリア層の材質によってマスク層や感光層との密着が悪く、マスク層が剥がれる、皺が入るという問題がある。
【0006】
また、感光層上にマット層を設け、現像前の200〜300nmの間の紫外線を照射することにより、印刷版表面に微細な凹形状が保持され、優れたインキ着肉性を示すとの報告がなされている(例えば、特許文献3参照)。しかし、マット層を設けることで印刷版の製造工程が複雑になり、経済性の面で負荷が大きいという問題がある。さらに溶剤現像版のみでの記載しかなく、有機溶剤の臭い等により作業者にかかる負荷が大きい。
【0007】
また、特許文献4では、フレキソ版の製版方法について200nm〜300nmの間の紫外線で露光、次いで310nm〜400nmの間の紫外線で露光、その後未重合部分を除去することにより、印刷に適した凸版表面を生成するという報告がされている。これは、UVAによる画像形成主露光前に、200〜300nmの間の波長を持つ紫外線(UVC)で露光することによりフレキソ印刷版の表面張力を高めインキ着肉性を上げるというものである。しかし、特に溶剤現像版での記載がされており作業負荷が大きいという課題がある。一部熱現像版での記載もあるが、現像性や画像再現性に課題があり、UVA露光の前にUVC露光を行うことにより、画像再現性が向上するものではなかった。
【特許文献1】特許第2916408号公報(第4―11頁)
【特許文献2】特許第2773847号公報(第3―9頁)
【特許文献3】特開2004−302447号公報(第23頁)
【特許文献4】特開2005―250487号公報(第4−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、感光層表面での光硬化感度不足を解消し、印刷品位の優れた水現像可能なフレキソ印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、
「a)少なくとも支持体、親水性重合体を含有する感光層、マスク層を有する感光性印刷版原版を準備する工程、
b)マスク層を赤外レーザーで像様照射し、画像マスクを形成する工程、
c)前記画像マスクを介して、310nm〜400nmの間の紫外光で感光層を露光する工程、
d)200nm〜300nmの間の紫外光で前記感光層を露光する工程、および
e)少なくとも310nm〜400nmの間の紫外光で露光されなかった前記感光層の未硬化部分を現像する工程
をa)〜e)の順で含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法」
により解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、現像前に感光層表面に短波長の紫外線を照射することにより、表面の平滑性が優れ、かつシャープなレリーフを形成することができる。結果として、インキ着肉性の向上等、印刷品位の優れた印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
本発明におけるフレキソ印刷版の製造方法は、支持体上に親水性重合体を含有する感光層、マスク層を有する感光性印刷版原版を、現像処理の前に200〜300nmの波長を有する紫外線(以下UVCと称す)を照射することを特徴とする。すなわち、画像マスクを通して310nm〜400nm(以下UVAと称す)の波長を有する紫外線を照射し、UVCを照射する。その後現像処理を行い、未重合部分を除去することにより、印刷に適した凸版表面を形成する。
【0013】
感光層上に、直接あるいは中間層を介してマスク層が設置されたCTP版は、酸素下でUVA露光を行うため、感光層表面で酸素重合阻害の影響を受け、次いでの現像工程後形成されたレリーフは、その表面が硬化不足で荒れて、インキ着肉不良が発生する、あるいは感光層表面が特異的に光硬化せず、レリーフ表面が現像により削れてしまうという課題がある。
【0014】
そこで本発明者らは、感光層中の光重合開始剤が、短波長側のUVC領域に極めて高い吸収を有することに注目した。感光層は、UVC領域の波長の光を受けると、その表面で特異的に反応が、酸素重合阻害の影響を相殺するほどに進み、現像削れの影響を受けることなく、レリーフのシャープ化を達成できることが分かった。通常UVC露光は、現像処理後の仕上げの表面処理工程として、刷版表面の感光層由来の粘着性を除去する目的で行われている。また感光層由来の粘着を除去する目的に加え、感光層中に微量残存する現像溶媒による粘着を軽減する目的もある。UVA露光、現像、UVC露光の順に行うことが多かった従来のフレキソ版製版工程を、UVA露光、UVC露光、現像の順に変更することで、上記CTP版の重大の課題であるレリーフのシャープ化を達成することが分かった。この効果は、追加の層であるバリア層やマット層を感光層上に設置しなくても得ることができ、製造コストでも優位である。
【0015】
本発明における感光性印刷版原版とは、支持体上に、少なくとも感光層およびマスク層を有する、フレキソ版を製版するのに好適な積層体である。支持体と感光層の間に接着層を、感光層とマスク層の間にバリア層を、マスク層の感光層との反対側の表面にカバーフィルムを有していても良い。
【0016】
本発明における感光層とは、300〜500nmの光、特に310〜400nmのUVA、さらに好ましくは340〜380nmの光を照射することにより光硬化する層で、一般に担体樹脂、エチレン性不飽和モノマーおよび光重合開始剤を少なくとも含有する感光性樹脂組成物からなる。
【0017】
感光層の担体樹脂としては、使用するインキによって、使い分けられるのが一般的であり、1種で、あるいは複数種ブレンドして用いられる。水性インキやUVインキを使用するフレキソ印刷版を得る場合には、主成分の担体樹脂として、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ブタジエン−アクリル酸共重合体などのジエン類の共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのオレフィン類の共重合体などのエラストマーを好ましく使用できる。油性インキやUVインキを使用するレタープレス版の場合は、主成分の担体樹脂として、水溶性ポリアミド樹脂、水膨潤性ポリアミド樹脂、部分ケン化ポリ酢酸ビニルなどの親水性重合体を好ましく使用できる。
【0018】
これらの担体樹脂の合計の含有量は、感光層組成物の全重量に対して、好ましくは10〜90重量%であり、より好ましくは30〜70重量%である。担体樹脂の含有量がかかる範囲内であれば、刷版の柔軟性あるいは耐刷性が低下しにくくなる。
【0019】
概して、主成分の担体樹脂として親水性重合体が用いられるレタープレス版は水現像可能であり、エラストマーが用いられるフレキソ版は、エラストマーを溶解する有機溶剤(例えば、トリクロロエチレン)で現像可能である。有機溶剤による現像は環境衛生的に負荷がかかるので、水現像が好ましいが、一方で水性インキ耐性を必要とする。水性インキ耐性を維持しつつ、フレキソ版に水現像性を付与するには、感光層に上記担体樹脂に挙げたエラストマーを主成分に、親水性重合体を添加する、またはエラストマーを親水化変性することで達成できる。
【0020】
ここでいう親水性重合体とは、水溶性、水膨潤性、または水膨潤性を有する重合体のことであり、官能基としてカルボン酸基、アミン若しくはアミノ基、水酸基、燐酸基、スルフォン酸基の親水性基、又はそれらの塩を有する親水性重合体であることが好ましい。具体的には、ピペラジン骨格あるいはエチレンオキサイド骨格などの親水性骨格を有するポリアミド、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール樹脂、水分散性ラテックス、スルフォン酸基含有ポリウレタンが挙げられる。これらの中でも、水分散性ラテックスがより好ましく用いられる。
【0021】
水分散性ラテックスとは水分散ラテックスからその大部分を占める水を除いて得られる重合体そのものをいい、水分散ラテックスとは重合体粒子を分散質として水中に分散したものをいう。水分散ラテックスは重合体粒子の電気的反発力により分散しており、この電荷は乳化剤、保護コロイド、ポリマーなどの電離や吸着により引き起こされているものである。水分散ラテックスは水を蒸発すると、水分散性ラテックスとなり、連続皮膜を形成する性質を有するものである。しかしながらここで使用する水分散性ラテックスは、重合体の架橋密度が高く連続皮膜を形成しにくいものが好ましく用いられる。
【0022】
このような水分散性ラテックスとして、具体的には、ポリブタジエンラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、ポリウレタンラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、ビニルピリジン重合体ラテックス、ブチル重合体ラテックス、チオコール重合体ラテックス、アクリレート重合体ラテックスなどのラテックス重合体やこれら重合体に(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルなどの他の成分を共重合して得られる重合体が挙げられる。この中でも分子鎖中にブタジエン骨格またはイソプレン骨格を含有する水分散性ラテックスが、硬度の点から好ましく用いられる。具体的には、ポリブタジエンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリイソプレンラテックスおよびこれらラテックスの(メタ)アクリル酸変性ラテックスが好ましい。
【0023】
これらの親水性重合体類は単独でも2種類以上を併用しても良い。
【0024】
これらの親水性重合体の含有量は、感光層組成物の全重量に対して、5〜45重量%が好ましく、20〜40重量%がより好ましい。担体樹脂の含有量がかかる範囲内であれば、水現像性と水性インキ耐性を両立することができる。
【0025】
さらに低分子の液状ゴムを添加することにより、水現像性を向上させることができる。液状ゴムとして液状ポリブタジエンや液状ポリイソプレンが好ましく用いられ、中でも水酸基や(メタ)アクロイル基の如き反応性の官能基を有するものがより好ましく用いられる。低分子の液状ゴムの含有量は、感光層組成物の全重量に対して、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。低分子の液状ゴムの含有量がかかる範囲内であれば、感光層の形態保持性を損なうことがない。
【0026】
エチレン性不飽和モノマーとは、ラジカル重合により架橋可能な物質である。ラジカル重合により架橋可能な物質であれば、特に限定されるものではないが、一般に次のようなものを挙げることができる。2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、β−ヒドロキシ−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングレコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドのような(メタ)アクリルアミド類、2、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、などのエチレン性不飽和結合を1個だけ有する化合物、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコールなどのエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの不飽和エポキシ化合物とカルボン酸やアミンのような活性水素を有する化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどの多価(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼンなどの多価ビニル化合物、などの2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物などが挙げられる。また、上述した低分子の液状ゴムで(メタ)アクロイル基の如き反応性の官能基を有するものを用いることができる。
【0027】
これらエチレン性不飽和モノマーは単独でも2種類以上を併用しても良い。
【0028】
これらのエチレン性不飽和モノマーの含有量は、感光層組成物の全重量に対して、10〜80重量%の範囲にあることが好ましく、10〜60重量%がより好ましい。エチレン性不飽和モノマーの含有量が10重量%以上であれば、光重合によって生成する架橋構造の密度が不足することがなく、インキの希釈溶剤や希釈モノマーに対して膨潤し難くなり、印刷中にベタ部の膨潤破壊、印刷不良を生ることもない。また、エチレン性不飽和モノマーの含有量が80重量%以下であれば、光重合によって生成する架橋構造の密度が過剰とならないために、製版されたレリーフが脆くならず、そのため印刷中にレリーフにクラックが入るなどの問題が発生しにくくなる。
【0029】
光重合開始剤とは、光によって重合性の炭素−炭素不飽和基を重合させることができるものであれば特に限定されない。なかでも、光吸収によって、自己開裂や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく用いられる。例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などある。これらの光重合開始剤の含有量は、感光層組成物の全重量に対して、0.01〜10重量%が好ましい。
【0030】
その他の成分として、相溶性、柔軟性を高めるための相溶化剤としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類を添加してもよく、熱安定性を上げる為に、従来公知の重合禁止剤を添加することができる。好ましい重合禁止剤としては、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類、ニトロソ系などが挙げられる。また、染料、顔料、界面活性剤、紫外線吸収剤、香料、酸化防止剤などを添加することもできる。
【0031】
感光層の厚さは、被印刷体や印刷機、レタープレスかフレキソ版かによって異なるが、0.2mm〜6mmの範囲が好ましい。0.2m以上とすることで、レリーフ印刷版の形成するに足る段差の凹凸を形成できる。6mm以下とすることで、版材コスト面で有利であるだけでなく、印刷版の重量を抑制することができ、取扱いが容易になる。レリーフ印刷版の版厚で6mmを超える版厚を必要とする場合は、その超過厚さ分を軽量のクッション材を貼り付けることで対応できる。
【0032】
本発明におけるマスク層は、(1)赤外レーザーを効率よく吸収して、その熱によって瞬間的に該層の一部または全部が蒸発または融除し、レーザーの照射部分と未照射部分の光学濃度に差が生じる、すなわち照射部分の光学濃度の低下が起こる働きと、(2)紫外光を実用上遮蔽する働きを有するものである。ここでいう紫外光とは特にUVAを指すが、UVBおよびUVCに対しても実用上遮断する働きを有することが好ましい。
【0033】
ここで、紫外光を遮断する機能を有するとは、マスク層の光学濃度(optical density)が1.5以上のことを指し、2.0以上であることがより好ましい。
【0034】
光学濃度は、オルソクロマチックフィルターを用いて、マクベス透過濃度計「TR−927」(コルモルゲンインスツルメンツ(Kollmorgen Instruments Corp.)社製)を用いることで測定することができる。
【0035】
マスク層は、赤外レーザーを吸収し熱に変換する機能を有する赤外線吸収物質、紫外光遮蔽物質、およびバインダーを含有することが好ましい。赤外線吸収物質と紫外光遮断物質は同一でも異なっていても良い。さらに、マスク層は熱分解性をアシストする熱分解性物質を含有しても良い。
【0036】
赤外線吸収物質としては、赤外光を吸収して熱に変換し得る物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、シアニンブラック等の黒色顔料、フタロシアニン、ナフタロシアニン系の緑色顔料、ローダミン色素、ナフトキノン系色素、ポリメチン系染料、ジイモニウム塩、アゾイモニウム系色素、カルコゲン系色素、カーボングラファイト、鉄粉、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、アリールアルミニウム金属塩類、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、硫化クロム、珪酸塩化合物や、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化タングステン等の金属酸化物、これらの金属の水酸化物、硫酸塩、さらにビスマス、スズ、テルル、鉄、アルミの金属粉などが挙げられる。
【0037】
これらのなかでも、光熱変換率および、経済性、取扱い性、および後述する紫外光遮断の面から、カーボンブラックが特に好ましい。
【0038】
赤外線吸収物質の含有量は、マスク層の全組成物に対して2〜75重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましい。2重量%以上であれば光熱変換が効率良く行われ、75重量%以下であれば他の成分が不足して、マスク層に傷がつきやすいという問題が生じない。
【0039】
マスク層に好ましく使用される紫外光遮蔽物質としては特に限定されないが、好ましくは、310nm〜400nmの領域に吸収を有する化合物である。例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、カーボンブラック、および赤外線吸収物質で列挙した金属あるいは金属酸化物などを挙げることができる。なかでもカーボンブラックは、紫外光領域だけでなく赤外線領域にも吸収特性があり、上述した光熱変換物質としても機能するので、特に好ましく用いられる。
【0040】
紫外光遮断物質の含有量は、マスク層の全組成物に対して0.1重量%〜75重量%が好ましく、1〜50重量%がより好ましい。含有量が0.1重量%以上であれば必要な光学濃度が得られ、75重量%以下であれば他の成分が不足してマスク層に傷がつきやすいという問題が生じない。
【0041】
マスク層に好ましく使用されるバインダーとしては特に限定されないが、感光層バインダーで例示したエラストマーが好ましい。エラストマーを主成分として含有する感光層と、感光層上に積層されるマスク層の伸縮率が異なると、感光性印刷版原版の屈曲取扱い時に、マスク層がひび割れするストレッチマークが発生するためである。またマスク層は水現像工程時に除去できるよう、親水性の高い、SP値(溶解度パラメータ)が9.0以上のエラストマーを用いることがより好ましい。SP値が9.0以上のエラストマーとして、ニトリル量25%以上のニトリルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴムが挙げられる。
【0042】
バインダーの含有量は、マスク層の全組成物に対して15重量%〜95重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましい。バインダーの含有量がかかる範囲内であれば、ストレッチマークやマスク層の耐キズ性低下を防止でき、他の成分が不足してマスク層のアブレーション感度が低下するという問題が生じない。
【0043】
マスク層に好ましく使用される熱分解性化合物としては、例えば、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、ニトロセルロース等のニトロ化合物や有機過酸化物、ポリビニルピロリドン、アゾ化合物、ジアゾ化合物あるいはヒドラジン誘導体、アクリル樹脂、および金属あるいは金属酸化物が挙げられるが、溶液の塗工性の面などから高分子化合物であるポリビニルピロリドンやニトロセルロース、アクリル樹脂が好ましい。なかでも、アクリル樹脂はその熱分解温度が190℃〜250℃と適度な熱安定性を有するので、熱分解性化合物として特に好ましく用いられる。アクリル樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる1つ以上のモノマーの重合体あるいは共重合体のことをいう。これら熱分解性化合物の含有量は、マスク層の全組成物に対して50重量%以下が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。
【0044】
また、赤外線吸収物質としてカーボンブラックのような顔料を用いる場合は、その分散を行いやすくするため、可塑剤、界面活性剤や分散助剤を添加しても良い。
【0045】
マスク層の厚さは0.1μm〜6μmが好ましく、0.5μm〜3μmがより好ましい。6μm以下であれば、マスク層のレーザーアブレーション性の著しい低下を防止でき、また材料コスト面でも有利である。また、0.1μm以上であれば、目的とする光学濃度が得られ、また膜強度低下によるマスク層破断を防止できる。
【0046】
本発明における支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定なものが好ましく使用され、例えばスチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えば、PET、PBT、PAN)やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。これらの中でも、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、感光層がシート状であるかスリーブ状であるかによって適したものを選択すれば良い。支持体の厚みは特に限定がないが、取扱いの面から0.05mm〜0.5mmが好ましい。
【0047】
感光層と支持体との間に、両層間の接着力を強化する目的で、接着層を設けても良い。
【0048】
レリーフが形成される感光層は、そのレリーフ表面がインキ着肉部として機能する。レリーフ表面への傷や凹み防止の目的で、感光層の支持体とは反対側の表面に、すなわちマスク層の上層に、カバーフィルムを設けても良い。カバーフィルムの厚さは、傷や凹み防止の観点から25μm以上が好ましく、取扱い性の観点から500μm以下が好ましい。50〜200μmがより好ましい。カバーフィルムは、プレーンフィルムでもよいが、ケミカルマット化フィルム、コーティングマット化フィルム、練り混みマット化フィルム、ブラストマット化フィルムなど表面に凹凸形状を有するマット化フィルムを用いてもよい。
【0049】
マスク層とカバーフィルムとの間に、カバーフィルムの剥離性を制御する目的で、スリップコート層を設けても良い。スリップコート層に使用される材料としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂などであり、水に溶解または分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。これらの中で、粘着性の面から、鹸化度60〜99モル%の部分鹸化ポリビニルアルコール、アルキル基の炭素数が1〜5のヒドロキシアルキルセルロースおよびアルキルセルロースが特に好ましく用いられる。これら樹脂類の使用量は、スリップコート層の30重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。使用量が30重量%以上であれば、均一な皮膜を形成することができ、マスク層/カバーフィルムを無理なく剥離することが可能となる。剥離性を制御するために、例えばリン酸エステルなどの界面活性剤を添加しても良い。
【0050】
スリップコート層の膜厚は6μm以下が好ましく、0.1μm以上3μm以下がより好ましい。6μm以下であれば、下層のマスク層のレーザーアブレーション性を著しく損なうことがない。また、0.1μm以上であれば、スリップコート層の形成が容易である。
【0051】
感光性印刷版原版からカバーフィルムを剥離速さ200mm/分で剥離する時、1cm当たりの剥離力が4.5〜200mN/cmであることが好ましく、9〜150mN/cmがさらに好ましい。4.5mN/cm以上であれば、意図せずカバーフィルムが剥離してしまうことがなく、200mN/cm以下であれば無理なくカバーフィルムを剥離することができる。
【0052】
本発明の感光性印刷版原版を準備するには、市販の感光性フレキソ印刷版原版のCTPグレードを入手するか、以下の方法で製造することで達成できる。
【0053】
本発明の感光性印刷版原版を準備するにあたり、好ましい製造方法を記載する。
【0054】
第1の例は、支持体上に、必要に応じて接着層、感光層、マスク層、スリップコート層およびカバーフィルムを順次積層した構造を有する原版である。カバーフィルム上に順次コーティング法で、スリップコート層、マスク層を積層したマスクシートと、支持体上に必要に応じて接着層、および感光層を積層した感光性樹脂シートとをラミネートすることによって得ることができる。
【0055】
感光性樹脂シートを形成する方法としては、担体樹脂をその樹脂を溶解できる溶剤に溶解した後に、あるいは加熱して担体樹脂を軟化させた後に、エチレン性不飽和モノマー、光重合開始剤を添加して充分攪拌し、感光性樹脂組成物溶液あるいは感光性樹脂混合物を得て、接着剤を塗布した支持体上に流延あるいは溶融押し出しすることにより得ることができる。溶媒が存在する場合は、流延前や後、あるいは溶融押し出し前や後に溶媒を除去する工程を設けても良い。
【0056】
水現像可能なフレキソ版用の感光性樹脂シートを形成する場合、予め水分散性ラテックスとエチレン性不飽和モノマー、必要により液状ゴムを混合したラテックス混合物を用意しておくのが好ましい。このラテックス混合物は水分散ラテックスとエチレン性不飽和モノマー、必要により液状ゴムを混合し、乾燥機で脱水させることによって得られる。このようにすることで、水分散性ラテックスにエチレン性不飽和モノマーが吸着された状態になり、水分散性ラテックスの融着を防止することができる。上記ラテックス混合物に、ゴム、光重合開始剤、必要により水分散性ラテックス以外の親水性重合体、さらにエチレン性不飽和モノマー、液状ゴムなどを混練することにより、感光性樹脂組成物を得ることができる。混練設備としては、2軸押出機、単軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられるが特に限定するものではない。上記感光性樹脂組成物を、支持体上に、あるいは接着層を予め塗布した支持体上に、押出機により溶融押し出しすることで、水現像可能なフレキソ版の感光性樹脂シートを形成することができる。
【0057】
マスクシートと感光性樹脂シートをラミネートする方法としては特に限定されず、例えば、感光層と同じ、あるいは類似組成の高粘度の液体を、感光性樹脂シートとマスクシートの間に流し込んで両者を貼り合わせる方法、常温下であるいは加熱しながらプレス機でプレスする方法、カレンダーロールでカレンダーする方法などがある。
【0058】
第2の例は、支持体上に、必要に応じて接着層、感光層、マスク層を順次積層した構造を有する原版である。まず、支持体上にあるいは予め接着層を塗布した支持体上に、感光層を積層した感光性樹脂シートに、マスク層の成分が溶解あるいは分散している液をコーティング、加熱して溶媒を乾燥させる事によって得ることができる。
【0059】
別の方法として、剥離紙に同様のコーティング法でマスク層を順次積層したマスクシートを用意し、次いで、支持体上に感光層を積層した感光性樹脂シートとマスクシートとを、感光層がマスク層と接するようにラミネートした後、剥離紙を剥離することによって得ることもできる。剥離した剥離紙は、同目的で再利用できるという利点がある。
【0060】
第3の例は、支持体上に必要に応じて接着層、感光層、マスク層およびスリップコート層を順次積層した構造を有する原版である。この原版は、第1の例で得られた原版からカバーフィルムを剥離することによって得ることができる。この例では、カバーフィルムを再利用できるという利点がある。
【0061】
第4の例は、支持体上に必要に応じて接着層、感光層、マスク層およびカバーフィルムを順次積層した構造を有する原版である。カバーフィルム上に順次コーティング法でマスク層を積層したマスクシートと、支持体上に感光層を積層した感光性樹脂シートとをラミネートすることによって得ることができる。
【0062】
本発明におけるフレキソ印刷版の製造方法は、(1)上述の感光性印刷版原版を準備し、(2)赤外レーザーでマスク層に像様照射することによって画像マスクを形成する工程、(3)形成された画像マスク側からUVAに極大ピークを有する光源で露光し、感光層に潜像を形成する工程、(4)次いで画像マスク側からUVCに極大ピークを有する光源で露光する工程、(5)現像液により現像処理し、画像マスクおよびUVA未露光部の感光層を除去する工程からなる。
【0063】
感光性印刷版原版がカバーフィルムを有する場合には、これを剥離した後、マスク層に赤外レーザーを像様照射して、画像マスクを形成することが好ましい。より好ましくは、スリップコート層とカバーフィルムを有する感光性印刷版原版からカバーフィルムのみを剥離した後、マスク層に赤外レーザーを像様照射して、画像マスクを形成することである。
【0064】
(2)赤外レーザーでマスク層に像様照射して画像マスクを形成する工程とは、赤外レーザーを画像データに基づきON/OFFさせて、マスク層に対して走査照射する工程のことである。マスク層は、赤外レーザーが照射されると赤外線吸収物質の作用で熱が発生し、その熱の作用でバインダーが分解してマスク層が除去、すなわちレーザー融除される。レーザー融除された部分は、光学濃度が大きく低下し、紫外光(特にUVA)に対して実質透明になる。画像データに基づき、マスク層を選択的にレーザー融除する事によって、感光層に潜像を形成しうる画像マスクが得られる。
【0065】
赤外レーザー照射には、発振波長が750nm〜3000nmの範囲にあるものが用いられる。このようなレーザーとしては、例えば、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ペロブスカイトレーザー、Nd−YAGレーザーやエメラルドガラスレーザーなどの固体レーザー、InGaAsP、InGaAsやGaAsAlなどの半導体レーザー、ローダミン色素のような色素レーザーなどが挙げられる。またこれらの光源をファイバーにより増幅させるファーバーレーザーも用いることができる。なかでも、半導体レーザーは近年の技術的進歩により、小型化し、経済的にも他のレーザー光源よりも有利であるので好ましい。また、Nd−YAGレーザーも高出力であり、歯科用や医療用に多く利用されており、経済的にも安価であるので好ましい。また、ファイバーレーザーは焦点深度が深く、版厚が大きいレリーフ印刷版に対して好ましく用いられる。
【0066】
(3)画像マスク側からUVAに極大ピークを有する光源で露光し、感光層に潜像を形成する工程とは、上記の方法でレーザー照射された感光性印刷版材に、UVA、好ましくは340〜380nmの波長の紫外光を、レーザーにより画像が形成された画像マスクを通して全面に露光し、画像マスクにおけるレーザー融除部の下部の感光層を選択的に光硬化する工程である。
【0067】
露光の際、感光性樹脂印刷版材のサイド面からも紫外光が入り込むので、紫外光が透過しないカバーでサイド面を覆うようにしておくのが良い。UVAに極大ピークを有する光源として、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯などが使用できる。UVAで露光された部分の感光層は、現像液により溶出分散できない物質に変化する。
【0068】
(4)次いで本発明の必須のステップである、200〜300nmの波長を有するUVC光による露光をUVA露光による画像形成主露光の直後に行う。UVC光の波長は、250〜260nmが好ましく、254nmが最も好ましい。露光時間は、光の強度とスペクトルのエネルギー分布とに応じて、数秒から数十分まで変えることができる。一般的には、UVCの100〜7200mJ/cmの積算光量を照射する。感光層は、画像形成主露光で使用されるマスク層を通してUVC光で露光される。UVCの光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、殺菌灯および重水素灯を挙げることができる。
【0069】
(5)現像液により現像処理し、画像マスクおよびUVA未露光部の感光層を除去する工程は、例えば、感光層を溶解分散可能な水を主成分とする現像液を持つブラシ式洗い出し機やスプレー式洗い出し機を用いて現像することで達成される。この工程を経て、UVAで露光された部分が残存し、凹凸状のレリーフが画像状にレリーフ印刷版が得られる。
【0070】
スリップコート層を有する場合、(5)の現像工程で除去されることが好ましい。
【0071】
現像液には、水道水、蒸留水、水のいずれかを主成分とし、炭素数1〜6のアルコールを含有してもよい。ここで、主成分とは、70重量%以上であることを言う。また、これらの液に感光層、マスク層やスリップコート層の成分が混入したものも使用できる。
【0072】
現像液の温度は20℃から70℃が好ましい。20℃以上であれば、現像水の温度管理が容易であるし、70℃以下であれば現像液による火傷を防ぐことができる。
【0073】
フレキソ版のように版厚の厚い感光性印刷版原版を用いる場合は、支持体側からUVAを露光し、フロア部分を光硬化させる裏露光工程を設けても良い。裏露光工程は、工程(2)の前、工程(2)と同時、工程(2)と工程(3)の間、工程(3)と同時に行うことができるが、工程(2)の前、あるいは工程(2)と工程(3)の間に行うことが好ましい。
【0074】
その後、必要に応じ、版面に付着している現像液を乾燥する処理、得られたレリーフ印刷版をさらにUVAで露光する後露光工程を行うことができる。また追加で、UVCで再度露光して版表面の粘着性除去処理等を行うこともできる。
【0075】
本発明の製造方法で製造されたレリーフ印刷版は、印刷機に装着できるレタープレス版あるいはフレキソ印刷版として好ましく使用される。
【実施例】
【0076】
以下、実施例をもって詳しく本発明を述べる。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0077】
[版表面の観察]
超深度レーザー顕微鏡“VK9510”((株)キーエンス製)を用い、刷版のベタ部表面の状態を観察した。対物レンズは50倍の標準レンズを使用した。なおベタ部の状態の評価基準は以下の通りである。
○:ベタ部表面は、凹凸なく平坦である。
△:ベタ部表面に凹凸がある(50%未満)。
×:ベタ部表面に凹凸がある(50%以上)。
【0078】
[エッジ部分の観察]
500μm巾の白抜き部を断面切断し、超深度レーザー顕微鏡“VK9510”((株)キーエンス製)を用い、レリーフのエッジ部を観察した。対物レンズは50倍の標準レンズを使用した。エッジ部のシャープ性を評価するため、エッジ部に描ける円の半径(r)を、超深度レーザー顕微鏡“VK9510”専用の形状解析アプリケーション“VK−H1A9”を用い、計測解析した。rが小さい程レリーフがシャープであることを意味し、rが大きいほどレリーフが丸みを生じていることを意味する。なお、rは1条件につき10サンプル測定し、その平均値を測定値とした。
【0079】
参考例1:水分散性ラテックス/親水性モノマー/液状ゴム混合物−1の製造
“ラックスター”DM811(大日本インキ化学(株)製、カルボキシ変性ポリブタジエンラテックス、固形分濃度:50.5%):99重量部(固形分で50重量部)、親水性モノマー成分である“ライトアクリレート”P400A(共栄社化学(株)製、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート):16重量部および液状ゴムであるBAC−45(大阪有機化学工業(株)製、末端水酸基変性したポリブタジエンオリゴマーのジアクリレート):22重量部を混合して、120℃に加熱した乾燥機中で攪拌しながら4時間乾燥し、水分を蒸発させて水分散性ラテックス/親水性モノマー/液状ゴム混合物−1を得た。この混合物―1の水分率をカール・フィッシャー水分率計で測定したところ0.5%であった。
【0080】
参考例2:水現像可能なフレキソ版の感光性樹脂組成物−1の調製
“Nipol”1043(ニトリル量29%のニトリルゴム、日本ゼオン(株)製):70重量部を120℃に加熱した200mlの容量を持つラボニーダーミル((株)トーシン社製)で5分間混練した。この後、上記水分散性ラテックス/親水性モノマー/液状ゴム混合物−1を88.4重量部および疎水性モノマーである“ライトエステル”1,9ND(共栄社化学(株)製、1,9−ノナンジオールジメタクリレート):8重量部をラボニーダーミルに投入し、さらに120℃で15分間混練した。その後、“イルガキュア”651(ベンジルジメチルケタール、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製):2.0重量部、“チヌビン”326(紫外線吸収剤、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製):0.022重量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル:0.4重量部を添加して5分間混練し、感光性樹脂組成物−1を得た。
【0081】
参考例3:接着層を塗布した支持体−1の作製
“バイロン”31SS(飽和共重合ポリエステル樹脂の30%溶液、東洋紡績(株)製)76重量部、“ブレンマー”PDE−150(トリエチレングリコールジメタクリレート、日本油脂(株)製)7重量部およびベンゾインエチルエーテル(和光純薬工業(株)製)2重量部を混合し、70℃で3時間加熱後、25℃に冷却した後に、“コロネート”3015E(多官能イソシアネートの50%溶液、日本ポリウレタン(株)製)4重量部を添加して、接着層組成物を得た。支持体として “ルミラー”125S10(厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフイルム、東レ(株)製)を用い、その上に上記接着層組成物をバーコーターで塗布し、180℃で2分乾燥して接着層を形成した。得られた接着層の厚みは20μmであった。
【0082】
参考例4:スリップコート層用の塗工液−1の調製
“ゴーセノール”KH−17(鹸化度78.5%〜81.5%の部分鹸化ポリビニル酢酸ビニル、日本合成化学(株)製)6重量部を、水/メタノール/n−プロパノール/n−ブタノールの混合溶媒(比率は7:4:4:1)94重量部中に、70℃で3時間加熱溶解させた後に、“プライサーフ”A212C(ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルのリン酸エステル、第一工業製薬(株)製)を0.9重量部、“Direct Sky Blue 6B”(C. I. Direct Blue 1、(株)岡本染料店製)を0.6重量部添加し、スリップコート層用の塗工液−1を得た。
【0083】
参考例5:マスク層用の塗工液−1の調製
メタクリル酸メチルと2−エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(共重合比:95/5、重量平均分子量29万)10重量部と“Nipol”1042(ニトリル量33.5%のニトリルゴム、日本ゼオン(株)製)8重量部をメチルイソブチルケトン85重量部に、70℃で5時間加熱溶解後、25℃に冷却して得られたポリマー溶液に“MA100”(カーボンブラック、三菱化学(株)製)15重量部を添加し、ホモジナイザーで15000rpmで30分間攪拌し、カーボンブラックの予備分散液を得た。次いで、上記予備分散液に可塑剤ATBC(アセチルクエン酸トリブチル、(株)ジェイ・プラス製)1.4重量部およびポリアミン系分散剤を0.2重量部添加し、3本ロールミルを用いて混練分散させた。さらにこの分散液にメチルイソブチルケトンを80重量部添加し、30分間攪拌した。その後、固形分濃度が18重量%になるようにさらにメチルイソブチルケトンを添加し、マスク層用の塗工液−1を得た。
【0084】
参考例6:積層フィルム−1の作製
カバーフィルムである厚さ100μmのケミカルマット化ポリエステルフイルム(表面粗さRa:0.4μm)上に、参考例4で調製したスリップコート層用の塗工液−1を乾燥膜厚0.35μmになるようにバーコーターで塗布し、100℃で60秒間乾燥した。その上に、参考例5で調製したマスク層用の塗工液−1を乾燥膜厚2.0μmになるように塗布し、120℃で600秒乾燥し、カバーフィルム/スリップコート層/マスク層からなる積層フィルム−1を得た。積層フィルム−1の光学濃度をマクベス透過濃度計TR−927(オルソクロマチックフィルター)で測定したころ、2.50であった。また、カバーフィルムのみの光学濃度は0.05であることから、スリップコート層とマクス層の光学濃度は2.45と計算できる。
【0085】
参考例7:感光性印刷版原版−1の作製
参考例2で調製した感光性樹脂組成物−1を、参考例3で作製した接着層を塗布した支持体−1と、上記積層フィルム−1との間に挟み、110℃に加熱したプレス機で全体の厚さが1.24mmになるようにプレスし、カバーフィルム/スリップコート層/マスク層/感光層/接着層/支持体の積層体である感光性印刷版原版−1を得た。
【0086】
[比較例1]
高輝度ケミカル灯“TLK−40W 10R”(Phillips社製)を備えたバッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)を用い、参考例7の感光性印刷版原版−1の支持体側から、UVAの積算光量333mJ/cm相当の裏露光を行った。次いで、感光性印刷版原版−1からカバーフィルムを剥離した後、赤外線に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム型プレートセッター“CDI SPARK”2530(エスコ・グラフィックス(株)製)に、支持体側がドラムに接するように装着し、解像度175LPI、2540DPIのテストパターン(ベタ部、1%〜99%網点、20μm幅および40μm幅の凸細線、100μm幅、300μm幅および500μm幅の白抜き部分を有する)を描画し、マスク層から画像マスクを形成した。レーザー出力11.5W、ビーム数8本、ドラム回転数530rpmの条件で、ベタ部のマスク層が実質上レーザー融除され、下層の感光層表面へのレーザー掘削や描画パターンの歪みなどのレーザー出力過多による弊害は発生しなかった。
【0087】
続いて、画像マスク側から、上記裏露光に用いた製版機にてUVA積算光量10000mJ/cm相当の露光を行い、画像マスクに対してネガの潜像を形成した。
【0088】
次いで、バッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)のブラシ式現像ユニットを用いて、画像マスクと未硬化の感光層の現像を行った。現像水として、高密度粉石鹸(ニッサン石鹸(株)製)を0.2%含有する50℃の水道水を用い、現像時間は7分に設定した。現像ブラシとして、ブラシ長16mmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)を集積した現像ブラシを用いた。現像した版は水リンスして版表面の現像水を洗い流した後、60℃で10分間乾燥し、次いで乾燥済みの版を、SANKYO電気製殺菌灯GL15(日本電子精機製)にてUVC積算光量2400mJ/cmの露光を行い、フレキソ機で印刷可能なフレキソ印刷版を得た。版表面の観察を行った結果を表1に示す。ベタ部は荒れが確認され、網点頂部が丸みを帯びており、シャープなレリーフが形成されていなかった。また、エッジ部分の観察を行った結果も表1に示すが、r=60μmの湾曲があった。これは、酸素存在下でUVA露光されることにより、感光層表面が重合阻害により架橋度不足となり、ブラシ現像で感光層表面が削り取られたためである。
【0089】
[実施例1]
比較例1において、感光性印刷版原版−1を、裏露光から、カバーフィルム剥離、“CDI SPARK”2530による画像マスク形成、および画像マスクを介したUVAによる露光工程までは、全て比較例1と同様の条件で製版した。
【0090】
次いで、画像マスクを介して、SANKYO電気製殺菌灯GL15(日本電子精機製)を用い、積算光量1200mJ/cmでUVC露光した。
【0091】
次いで、バッチ式製版機“GPP500”(東レ(株)製)のブラシ式現像ユニットを用いて、画像マスクと未硬化の感光層の現像を行った。現像水として、高密度粉石鹸(ニッサン石鹸(株)製)を0.2%含有する50℃の水道水を用い、現像時間は7分に設定した。現像ブラシとして、ブラシ長16mmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)を集積した現像ブラシを用いた。現像した版は水リンスして版表面の現像水を洗い流した後、60℃で10分間乾燥し、フレキソ機で印刷可能なフレキソ印刷版を得た。
【0092】
[実施例2]
UVC露光を1200mJ/cmで行うかわりに2400mJ/cmで行った以外は実施例1と同様にして、フレキソ機で印刷可能なフレキソ印刷版を得た。
【0093】
[実施例3]
UVC露光を1200mJ/cmで行うかわりに4800mJ/cmで行った以外は実施例1と同様にして、フレキソ機で印刷可能なフレキソ印刷版を得た。
【0094】
[実施例4]
UVC露光を1200mJ/cmで行うかわりに7200mJ/cmで行った以外は実施例1と同様にして、フレキソ機で印刷可能なフレキソ印刷版を得た。
【0095】
実施例1〜4で得られた版表面の観察を行った結果を表1に示す。積算光量2400mJ/cm以上のUVC露光を行うことによって得られたフレキソ印刷版は、ベタ部の荒れは抑制され、網点部もシャープなレリーフが形成されていた。また、エッジ部分の観察を行った結果も表1に示す。rはいずれも30μm以下であり、比較例1に比べて劇的に改善されていた。これは現像前のUVC露光によって、感光層表面で特異的に架橋が進み、ブラシ現像による感光層表面削れが抑制されたためである。結果として、印刷時でのベタ部のインキ着肉不良は発生せず、印刷品位の優れた印刷物が得られた。積算光量1200mJ/cmのUVC露光によって得られたフレキソ版は、エッジの湾曲がr=32μmのシャープなレリーフを再現していたが、ベタ部の荒れが若干発生していた。このことから、現像前のUVC露光が、感光層表面の硬化特性に大きく影響することが分かる。
【0096】
[比較例2]
実施例2において、画像マスクを介したUVAによる露光工程と、画像マスクを介したUVC露光工程の順序を逆にした以外は、全て実施例2と同様の条件で製版した。
【0097】
版表面の観察を行った結果を表1に示す。得られたフレキソ印刷版は、ベタ部の荒れは抑制されていたが、網点部はシャープなレリーフが形成されていなかった。エッジ部分の観察を行った結果も表1に示すが、r=55μmであり、比較例1とほぼ同等であった。
【0098】
これはUVAによる画像形成主露光前に、UVC露光を行うことにより光重合開始剤が特異的に消費され、UVA露光を行った際に光硬化が機能せず、画像形成されなかったためと推定される。
【0099】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも支持体、親水性重合体を含有する感光層、マスク層を有する感光性印刷版原版を準備する工程、
b)マスク層を赤外レーザーで像様照射し、画像マスクを形成する工程、
c)前記画像マスクを介して、310nm〜400nmの間の紫外光で感光層を露光する工程、
d)200nm〜300nmの間の紫外光で前記感光層を露光する工程、および
e)少なくとも310nm〜400nmの間の紫外光で露光されなかった前記感光層の未硬化部分を現像する工程
をa)〜e)の順で含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記感光層中の親水性重合体が水分散性ラテックスであることを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2009−288700(P2009−288700A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143536(P2008−143536)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】