説明

フロア敷設材、ピースマット、およびこれらの配設構造

【課題】吸音性および遮音性が最適化されたフロア敷設材、ピースマット、およびこれらの配設構造を提供する。
【解決手段】フロア敷設材10は、熱可塑性樹脂からなる接合材11aが裏面に不連続に配設されたカーペット層11と、カーペット層11の裏面に接合材11aを介して積層された緩衝材層12とからなる。カーペット層11は、表面から裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されている。また、緩衝材層12は、空気を包含する性質の素材からなり、表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の室内の騒音を低減するために乗物の室内側のフロアパネル上に敷設されるフロア敷設材、そのフロア敷設材の上に配設されるピースマット、およびこれらの配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員室、荷物室、あるいはエンジン室などの自動車室内の騒音を低減するためには、自動車室内に敷設する敷設材(具体的には、内装材としてのカーペットやダッシュサイレンサー、その他のトリム材)の流れ抵抗値(通気度)の制御が重要な要素であることが、従来から知られていた。
【0003】
このような流れ抵抗値を制御することに関する従来技術は、特許文献1、特許文献2、あるいは特許文献3等に開示されている。これらの従来技術は、いずれも、サイレンサーの通気度をある定められた範囲内に設定することによって、サイレンサーの吸音性を高めようとするものである。
【0004】
この種の従来技術に関し、敷設材の流れ抵抗値について最も詳細な検討がなされているものとしては、特許文献4がある。
【0005】
この特許文献4には、「少なくとも1つの面状車体パーツと、複数層からなるノイズ低減アセンブリパッケージとを備えた多機能遮音キット」が開示されており、このノイズ低減アセンブリパッケージは「微少ポーラスを有した硬質層」を備え、この硬質層は、Rt=500Nsm-3〜Rt=2500Nsm-3という空気流に対しての総抵抗を有し、とりわけRt=900Nsm-3〜Rt=2000Nsm-3という空気流に対しての総抵抗を有するものとされている。この硬質層の流れ抵抗値は従来から開示されていた流れ抵抗値よりも相当低いものである。この国内公表に開示された従来技術は、硬質層の流れ抵抗値をこのように規定することによって、中間的な周波数領域から高周波領域における高い吸音性を達成しようとしている。
【0006】
ところで、アセンブリの流れ抵抗値を制御して自動車室内の静粛化を図ろうとする特許文献4の従来技術は、自動車を購入したユーザーがアセンブリの流れ抵抗値のバランスを乱すような勝手な変更を行うことを考慮したものではない。例えば、アセンブリが乗員室内の吸音に関して影響の大きいフロア敷設材である場合には、ユーザーが足下のフロア敷設材上に汚れ防止用のオプションピースマットを敷くと、流れ抵抗値のバランスが変化してしまい、当初の設計で意図した吸音性を発揮できなくなる。特に、流れ抵抗値を中心に吸音性を設計したフロア敷設材では、このバランスが崩れたときに、当初の設計よりも自動車室内の騒音レベルが高くなるおそれがある。
【0007】
したがって、この従来技術のアセンブリ(フロア敷設材)の上にはピースマット等を置くべきではない。一般に自動車メーカーはピースマットのオプション設定無しで自動車を販売するが、音響設計の専門的な知識を持たない多くのユーザーは、自分で市販のピースマットを購入してアセンブリ(フロア敷設材)上に置くこともある。そうすると、アセンブリ(フロア敷設材)の流れ抵抗値が変化してしまい、設計当初の自動車室内の静粛性が得られないことになる。
【特許文献1】特開昭51−112889号公報
【特許文献2】特開昭56−142054号公報
【特許文献3】特開昭59−186750号公報
【特許文献4】特表2000−516175号公報(PCT/CH97/00412)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、取扱説明書等で啓蒙することで、ユーザーにアセンブリ(フロア敷設材)上にピースマットを置くことを思いとどまらせることに成功したとしても、次なる問題がある。
【0009】
いくらかの水分等が、乗員の足下に付着して、自動車室内(特に乗員足下の床面)に持ち込まれることを避けることはできない。ピースマットを使用しないと、長い年月の間には、これら室内に持ち込まれた水分等がフロア敷設材の中に沈みこんで、フロア敷設材を汚すとともに、フロア敷設材の流れ抵抗値を初期値よりも増加させてしまう可能性がある。そうすると、やはり流れ抵抗値が変化し、設計当初の自動車室内の静粛性が得られないことになる。
【0010】
自動車室内の吸音性について、ピースマット単体を配設した場合の吸音効果については、先願である特開2001−47926号公報に開示されている。しかし、従来において、フロア敷設材とピースマットとを組み合わせた場合の効果についての研究がなされた例は無い。
【0011】
従来の多くのピースマットは、防汚や防水を目的にしているので、成形した樹脂マットやゴムマットで構成されている。そのため、従来の多くのピースマットは、通気性が無く、その流れ抵抗値は無限大である。このようなピースマットは、自動車の室内において、音波を吸収する性質よりも、むしろ音波を反射する性質を有している。そのため、ピースマットを自動車の室内に配設することにより、自動車室内の吸音性が低下して、騒音レベルが上がってしまう。本発明者らは、この事実を実車試験により確認した。
【0012】
本発明は上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸音性および遮音性が最適化されたフロア敷設材、ピースマット、およびこれらの配設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明のフロア敷設材は、カーペット層と、該カーペット層の裏面に積層された緩衝材層とからなり、乗物の室内側に設けられたフロアパネル上に敷設されるフロア敷設材であって、前記カーペット層は、表面から裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されており、前記緩衝材層は、空気を包含する性質の素材からなり、表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のフロア敷設材は、特にカーペット層の表面から裏面への流れ抵抗値を100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整することにより、吸音性を向上させている。
【0015】
下記の式(1)、
吸音率=4Rn/{(Rn+1)2+Xn2}・・・式(1)
(ここで、音響抵抗Rnの値は1〜2の間で、音響リアクタンスXnは0に近いほど高い吸音率を示す。)
によって算出される吸音率に関し、流れ抵抗値が100Nsm-3以上、500Nsm-3以下の範囲にある場合には、吸音率のパラメータである音響抵抗Rnおよび音響リアクタンスXnの値が吸音率を高くする範囲内の値になるが、流れ抵抗値が500Nsm-3を超えると、Rnの値が吸音率を高くする範囲から徐々に外れ始め、1000Nsm-3を超えるとRn,Xnの値ともに吸音率を高くする範囲から外れる。なお、流れ抵抗値を100Nsm-3未満にした場合にも吸音率は高くなるが、この場合にはカーペット層の意匠となるパイル等を担持する強度が低下し、パイル等が抜け落ち易くなること等が生じるため、実用上好ましくない。このことから、カーペット層の表面から裏面への流れ抵抗値を100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整することにより、実用上、吸音性を向上させることに関して一定の効果を得ることができることがわかる。
【0016】
さらに、上記の観点から、前記カーペット層の前記流れ抵抗値は100Nsm-3以上、500Nsm-3以下に調整されていることが好ましい。
【0017】
また、前記カーペット層の裏面には熱可塑性樹脂からなる接合材が不連続に配設されており、前記カーペット層と前記緩衝材層とは前記接合材を介して積層されている構成としてもよい。このように、カーペット層の裏面に不連続に配置された熱可塑性樹脂からなる接合材が配設されている場合には、この接合材を加熱して貼着材化させることにより、カーペット層の流れ抵抗値を大きく変えることなく、カーペット層の裏面に緩衝材層を接合することができる。
【0018】
また、前記カーペット層の中には、紛状または繊維状に形成された熱可塑性樹脂からなる成形材が分散された状態で配設されている構成としてもよい。
【0019】
本発明のように、カーペット層の中に、紛状または繊維状に形成された熱可塑性樹脂からなる成形材を分散した状態で配設することにより、カーペット層の流れ抵抗値を容易に調整することが可能になる。カーペット層の中にこのような成形材を分散して設ける手法としては、カーペット層の中に成形材を均一に混入させたり、あるいは、カーペット層を複層化した構成とし、その層間に成形材を均一に散布したりすることなどが適している。カーペット層中に分散して設けられた成形材は、カーペット層の成形時に加えられる熱によって可塑化して、カーペット層に成形性(形状維持性)を付与するとともに、カーペット層の成形時に加えられる押圧力によって、その粉状または繊維状の形態をいくらか失いながら、繊維質のカーペット層の編目内に実質的に入り込んで、カーペット層の一部の編目に対して「目止め」を行う。このように成形されたカーペット層のうち、成形材によって「目止め」がされた編目は通気性を有さず、「目止め」がされていない編目は通気性を有している。そのため、カーペット層の編目のうちの「目止め」を行う割合を変えることによって、カーペット層の流れ抵抗値を容易に調整することができる。
【0020】
例えば、カーペット層の成形時の温度や押圧力等の成形条件に合わせて、粉状または繊維状の成形材の大きさや配設密度を設定することにより、カーペット層の流れ抵抗値を容易に調整することができる。また、成形材の配設密度を部分的に変えることにより、カーペット層の流れ抵抗値を部分的に変えることも可能である。これに対し、カーペット層に成形性を付与する素材として従来の連続したシート状の裏打材を用いた場合には、カーペット層の流れ抵抗値を細かく調整したり、部分的に調整したりすることは困難である。
【0021】
また、前記緩衝材層は、前記フロアパネル上に敷設された状態における厚さが5mm以上になるように設けられていてもよい。さらには、前記緩衝材層の前記厚さは20mm以上である構成としてもよい。緩衝材層は、空気を包含する性質の素材からなり、カーペット層とフロアパネルとの間に空気層をもたらし、室内の騒音レベルを低減させることに寄与するものである。そして、緩衝材層が上記のように40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されている流れ抵抗値を有している場合には、その厚さを5mm以上、好ましくは20mm以上にすることが、室内の騒音レベルを低減させる上で有効である。
【0022】
また、本発明のピースマットは、パイル糸が立毛成形されてなる立毛パイル層と、該立毛パイル層を担持した基布層と、該基布層の裏面に、不連続に配置された熱可塑性樹脂からなる接合材を介して積層されたクッション材層とからなるピースマットであって、前記立毛パイル層の表面から前記クッション材層の裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1500Nsm-3以下に調整されていることを特徴とする。
【0023】
本発明者らによる検討の結果、100Nsm-3以上、1500Nsm-3以下の流れ抵抗値を有するピースマットを上記本発明のフロア敷設材上に配設することが、室内の騒音レベルを低減させる上で最適であることがわかった。
【0024】
ピースマットの流れ抵抗値がこの範囲にあると、後述する実施例で図7〜図9を参照して説明したように、上記本発明のフロア敷設材上に本発明のピースマットを配設してなる複合体(配設構造)において、ピースマットの流れ抵抗値が500Nsm-3以下の場合には、その吸音性をフロア敷設材だけを配設したときよりも更に向上させることができる。また、ピースマットの流れ抵抗値が500Nsm-3よりも大きい場合には、ある周波数では吸音性が低下するものの、その低下分を、ピースマットを配設したことによる透過損失(遮音性)の向上分で補うことができる。つまり、流れ抵抗値が上記範囲内にある本発明のピースマットを上記本発明のフロア敷設材上に配設することにより、フロア敷設材上にピースマットを配設しない場合や、フロア敷設材の吸音性を完全に阻害する、従来の非通
気性のピースマットをフロア敷設材上に配設した場合に比べて、室内の騒音レベルを低減することができる。
【0025】
なお、ピースマットの流れ抵抗値が1500Nsm-3を超えた場合には吸音性が大きく低下することから、その低下分を、ピースマットを配設したことによる透過損失(遮音性)の向上分で補うことができなくなる。その結果、室内の騒音レベルは、従来の非通気性のピースマットを配設した場合に比べれば低減させることができるものの、ピースマットを配設しない場合よりも上昇する。一方、ピースマットの流れ抵抗値を100Nsm-3未満にした場合にも吸音率は高くなるが、この場合には立毛パイル層を担持する効果が低くなり、パイルが抜け落ち易くなること等が生じるため、実用上好ましくない。
【0026】
さらに、前記立毛パイル層の表面から前記基布層の裏面への流れ抵抗値が80Nsm-3以上、700Nsm-3以下に調整されており、前記クッション材層の表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されている構成とすることが、本発明のピースマットを上記本発明のフロア敷設材上に配設した際に室内の騒音レベルを低減させる上で好ましい。
【0027】
また、本発明のフロア敷設材とピースマットとの配設構造は、上記本発明のフロア敷設材の上に、上記本発明のピースマットを配設してなる。
【0028】
上記本発明の配設構造によれば、室内において、フロア敷設材とピースマットがそれぞれ有している最適の吸音性および遮音性を発揮することが可能になる。上記本発明のフロア敷設材を単体で室内に設置した場合でも、従来のフロア敷設材を設置した場合よりも吸音性は向上し、室内の騒音レベルを低減することができる。しかしながら、上記本発明のフロア敷設材の上に上記本発明のピースマットをさらに配設することで、フロア敷設材とピースマットとがそれぞれ有している吸音性および遮音性の相乗効果により、室内の騒音レベルを一層低減することができる。
【0029】
さらに、前記フロア敷設材の前記カーペット層の表面のうち、前記ピースマットが配設される部分は、他の部分よりも低く設けられている構成としてもよい。この構成によれば、ユーザーが、フロア敷設材の上にピースマットの配設位置の形状に合わない市販のピースマットを配設しようとしても、完全に配設することができないので、純正でないピースマットが配設されることを防止できる。また、ユーザーがピースマットの配設位置を認識し易くなるので、ピースマットが、設置されても吸音性および遮音性が最適化されない、誤った位置に配設されるおそれがなくなる。さらには、配設後のピースマットの位置ずれが起こりにくくなる。
【0030】
また、前記フロア敷設材と前記ピースマットとが重ね合わされている領域の、前記フロア敷設材のうちの前記カーペット層と前記ピースマットとを合わせた部分は、単位面積当たり1500g/m2以上、4500g/m2以下に調整されているとともに、前記ピースマットの表面から前記カーペット層の裏面への流れ抵抗値が150Nsm-3以上、1800Nsm-3以下に調整されている構成とすることにより、本発明の配設構造が有する吸音性および遮音性を最適に発揮することが可能になる。
【0031】
さらに、前記フロア敷設材および前記ピースマットの少なくとも一方には、水を弾く撥水性の素材からなる撥水層と、水を吸収する素材からなる吸水層とのうちの少なくともいずれか1つが設けられている構成としてもよい。これにより、例えば乗員の足下に付着して室内に持ち込まれる水分等がピースマットやフロア敷設材の中にしみ込むのを抑えることができ、ピースマットやフロア敷設材の有する吸音性および遮音性が、そのような水分等によって低下してしまうことを防止することが可能になる。
【0032】
さらには、前記フロア敷設材の前記緩衝材層および前記ピースマットの前記クッション材層は、空気を含有する多数の孔が少なくとも一部に設けられている構成としてもよい。これにより、配設構造全体のクッション性が向上し、また、吸音性および遮音性を調節することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のフロア敷設材は、カーペット層が、表面から裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されており、緩衝材層が、空気を包含する性質の素材からなり、表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されているので、室内の騒音レベルを低減することができる。
【0034】
また、本発明のピースマットは、立毛パイル層の表面からクッション材層の裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1500Nsm-3以下に調整されているので、室内の騒音レベルを低減することができる。
【0035】
また、本発明のフロア敷設材とピースマットとの配設構造は、フロア敷設材とピースマットとがそれぞれ有している吸音性および遮音性の相乗効果により、室内の騒音レベルを一層低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0037】
(フロア敷設材)
図1は、本発明の一実施形態に係るフロア敷設材を示す断面図である。
【0038】
本実施形態に係るフロア敷設材10は、自動車の室内側のフロアパネル上に敷設されるものであり、裏面に熱可塑性樹脂からなる不連続な接合材11aを備えたカーペット層11と、そのカーペット層11の裏面に接合材11aを介して積層された緩衝材層12とからなる。
【0039】
カーペット層11には、融点温度が比較的低いメルトファイバーやパウダーなどからなる成形材(不図示)が含まれていることが好ましい。この場合、これらメルトファイバーやパウダーはカーペット層11の中にほぼ均一に分散して配設されていることが好ましい。メルトファイバーやパウダーをカーペット層11の中に分散して設ける手法としては、カーペット層11の中にメルトファイバーやパウダーを均一に混入させる手法を用いてもよいし、あるいは、カーペット層11を複層化した構成とし、その層間に成形材を均一に散布する手法を用いてもよい。
【0040】
平坦でない部位を多く含む自動車室内のフロアパネル上に敷設されるフロア敷設材10は、そのフロアパネルに沿う形状に成形する必要がある。カーペット層11に融点温度が比較的低いメルトファイバーやパウダーが含まれていると、カーペット層11を加熱することで可塑性が発現し、カーペット層11を自動車室内のフロアパネルに沿う形状に容易に型成形することが可能になる。
【0041】
さらに、カーペット層11に含まれたメルトファイバーやパウダーは、カーペット層11を構成する繊維相互の絡み合いに寄与し、また、カーペット層11の流れ抵抗値を目標とする範囲内に調整することにも用いることができる。
【0042】
一方、接合材11aは、例えば、融点温度が比較的低い低融点熱可塑性樹脂をカーペット層11の裏面に粉状または繊維状に散布することによって形成される。この場合の散布の面密度は、30〜200g/m2とすることが好ましい。これによれば、低融点熱可塑性樹脂からなる接合材11aをカーペット層11の裏面に散布した後に、その接合材11aを直接加熱するか、あるいはカーペット層11を加熱して間接的に加熱することにより、その接合材11aが可塑化する。そして、接合材11aが可塑化した状態のときにカーペット層11の裏面に緩衝材層12を張り合わせる。すると、可塑化した接合材11aは、カーペット層11および緩衝材層12とからまり、固化する際に両者を接着する。このとき、カーペット層11と緩衝材層12とは、散布された接合材11aによって不連続に点々と接着されるため、カーペット層11が有している通気性が損なわれること
はない。
【0043】
カーペット層11は、通気を遮断する性質のバッキング等が廃されており、表面から裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下、好ましくは100Nsm-3以上、500Nsm-3以下に調整されている。カーペット層11の流れ抵抗値を調整する手段としては、あらゆる手段が可能であり、たとえばカーペット層11に部分的に孔加工することも含まれる。
【0044】
緩衝材層12としては、空気を包含する性質の素材からなり、押圧に耐える反撥性を有する「腰」のあるものが適する。緩衝材層12の素材としては、たとえば実用新案登録第25557108号公報に記載されたポリエステル繊維(95〜50wt%)と低融点熱可塑性繊維(5〜50wt%)との混合繊維マットがある。この他にも、緩衝材層12の素材にはウレタンフォーム等の樹脂発泡体を用いることも可能である。
【0045】
緩衝材層12の厚さは、敷設状態で5mm以上、好ましくは20mm以上あることが好ましい。緩衝材層12は成形されていても良いが、実質的に全ての部位で5mm以上の厚さが確保されている。また、緩衝材層12は、流れ抵抗値が40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されている。緩衝材層12は、上記のように空気を包含する性質の素材からなり、カーペット層11とフロアパネル(不図示)との間に空気層をもたらし、室内の騒音レベルを低減させることに寄与するものである。そして、緩衝材層12が上記のように40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されている流れ抵抗値を有している場合には、その厚さを5mm以上、好ましくは20mm以上にすることが、室内の騒音レベルを低減させる上で有効である。
【0046】
なお、空気を包含する性質の乏しい素材であっても、多数の孔加工を行って空気包含性を与えることで、緩衝材層12の素材として用いることが可能である。たとえば、敷設材(カーペット層)に剛性が必要なトンネル部などの立壁部分では、空気を含みにくいハードシート等を緩衝材層12として設ける必要があるが、この場合でもそのハードシート等に孔加工を行うことにより、そのハードシート等に空気包含性を与えることができる。
【0047】
また、自動車の原動機(エンジン)に比較的近い位置に配置されるフロア敷設材10のカーペット層11の流れ抵抗値は、そのエンジンに比較的遠い位置に配置されるフロア敷設材10のカーペット層11の流れ抵抗値よりも低く設定されていることが好ましい。これにより、エンジンに起因する室内の騒音を低減することが可能になる。
【0048】
以下に、上記構成によって室内の騒音が低減することの理由を示す実験結果について説明する。
【0049】
本発明者らは、排気量が3000ccのエンジンをフロント側に備えたセダン型自動車である実験車両の室内に、流れ抵抗値が400Nsm-3のカーペット層Aを有するフロア敷設材を設置した場合と、流れ抵抗値が2000Nsm-3のカーペット層Bを有するフロア敷設材を設置した場合について、その実験車両を粗面路に相当するダイナモ上で時速60kmの速度で定速走行させて、自動車室内の様々な部位に設置したマイクロホンで騒音レベルを測定した。
【0050】
図2(a)は室内の運転者の耳位置(運転者が騒音を聞き取る位置)における騒音レベルを示すグラフであり、図2(b)は室内の後席乗車員の耳位置(後席乗車員が騒音を聞き取る位置)における騒音レベルを示すグラフである。図2(a),(b)から、騒音レベルは、運転者の耳位置と後席乗車員の耳位置の両方とも、周波数が160Hz及び250Hzのときに高くなることがわかる。さらに、図2(a)から、運転者の耳位置における160Hz及び250Hzでの騒音レベルは、流れ抵抗値の小さいカーペット層Aの方が低く、図2(b)から、後席乗員者の耳位置における160Hz及び250Hzでの騒音レベルは、流れ抵抗値の大きいカーペット層Bの方が低いことがわかる。
【0051】
図3(a),(b)は、最も騒音レベルの高い周波数である160Hzと250Hzについて、室内の運転者の足元のカーペット層近接位置(カーペット層の表面から5cmの位置)から、運転者の耳位置(カーペット層の表面から130cmの位置)まで、25cm間隔で騒音レベルを測定した結果を示すグラフである。図3(a)は160Hzの場合について示し、図3(b)は250Hzの場合について示している。
【0052】
また、図4(a),(b)は、最も騒音レベルの高い周波数である160Hzと250Hzについて、室内の後席乗車員の足元のカーペット層近接位置(カーペット層の表面から5cmの位置)から、後席乗車員の耳位置(カーペット層の表面から105cmの位置)まで、25cm間隔で騒音レベルを測定した結果を示すグラフである。図4(a)は160Hzの場合について示し、図4(b)は250Hzの場合について示している。
【0053】
図3(a),(b)および図4(a),(b)から、騒音レベルはカーペット層からの距離によって変化することがわかる。これは、カーペット層の流れ抵抗値により、自動車室内空間の音響モードが位置によって変化するためであると考えられる。
【0054】
ここで、運転者の耳位置(カーペット層の表面から130cmの位置)と、後席乗車員の耳位置(カーペット層の表面から105cmの位置)とに着目すると、運転者の耳位置での騒音レベルはカーペット層Aを用いた場合の方が低く(図3(a),(b))、後席乗車員の耳位置での騒音レベルはカーペット層Bを用いた場合の方が低い(図4(a),(b))ことがわかる。つまり、エンジンに比較的近い位置である運転者の耳位置ではカーペット層11の流れ抵抗値を比較的低く設定し、エンジンに比較的遠い位置である後席乗車員の耳位置ではカーペット層11の流れ抵抗値を比較的高く設定することで、室内の騒音レベルを全体的に低くすることができることがわかる。エンジンに比較的近い位置と遠い位置とでカーペット層11の流れ抵抗値にどの程度の差を設けるかは、室内全体においてバランスのとれた吸音性、遮音性を発揮することができるように、室内の形状等によって個々に設定されることが好ましい。
【0055】
なお、上記では接合材11aを用いてカーペット層11と緩衝材層12とを接着する例を示したが、カーペット層11と緩衝材層12とは必ずしも互いに接着されている必要はなく、例えば、緩衝材層12の上にカーペット層11が単に載せられた構成であってもよい。
【0056】
(ピースマット)
図5は、本発明の一実施形態に係るピースマットを示す断面図である。
【0057】
図5に示すように、本実施形態のピースマット20は、パイル糸が立毛成形されてなる立毛パイル層21と、立毛パイル層21を担持した基布層22と、基布層22の裏面との間に不連続な接合材23を介して積層されたクッション材層24とからなり、立毛パイル層21の表面からクッション材層24の裏面にかけて通気性を有している。このピースマット20は、好ましくは、立毛パイル層21を担持した基布層22とクッション材層24とを、それらの間に不連続に配置した低融点熱可塑性樹脂からなる接合材23を挟んで重ね合わせ、サクションヒーター(不図示)で通気加熱して接合材23を可塑化させた後、プレスローラー(不図示)で基布層22とクッション材層24とを押圧することによって作製される。
【0058】
ピースマット20は、その周縁部を、基布層22とクッション材層24とを共に溶断してトリミングすることが好ましい。溶断によってトリミングされた切断面は、美観が向上する。基布層22やクッション材層24が熱可塑性素材で構成されていれば、例えばレーザー光を照射してピースマット20の周縁部を溶断することができる。
【0059】
ピースマット20の各構成(立毛パイル層21、基布層22、クッション材層24)の素材は、上記のフロア敷設材10のカーペット層11および緩衝材層12の素材と同種のものを用いることが可能である。好適な例としては、立毛パイル層21には、パイル高さが5〜15mmであり、単位面積当たり500〜1300g/m2であるポリプロピレン繊維またはナイロン繊維を用い、基布層22には、基布の裏面に低目付のラテックス加工を施してなる、単位面積当たり80〜150g/m2のポリエステルのスパンボンドを用い、クッション材層24には、繊維太さが4〜30デニールのレギュラー繊維(70〜90wt%)に対して、繊維太さが2〜6デニールの低融点繊維(10〜30wt%)が混繊されている、厚さが2〜5mmで、単位面積当たり100〜700g/m2のポリエステル不織布や、厚さが2〜5mmで、単位面積当たり40〜500g/m2の軟質ウレタンフォームを用いることができる。
【0060】
ピースマット20の立毛パイル層21の表面からクッション材層24の裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1500Nsm-3以下に調整されていれば、フロア敷設材10(図1参照)上にピースマット20を配設した際に吸音性および遮音性が高められ、室内の騒音は低減される。この吸音性および遮音性を調整するために、クッション材層24等に孔加工を施してもよい。
【0061】
立毛パイル層21および基布層22の流れ抵抗値とクッション材層24の流れ抵抗値については、本実施形態では、立毛パイル層21の表面から基布層22の裏面への流れ抵抗値が80Nsm-3以上、700Nsm-3以下に調整され、クッション材層24の表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されている。
【0062】
(フロア敷設材とピースマットとの配設構造)
図6は、図1に示したフロア敷設材上に図5に示したピースマットを配設した状態を示す断面図である。
【0063】
フロア敷設材10の上にピースマット20を配設してなる配設構造に、最適な吸音性および遮音性を発揮させるためには、実車走行試験を行い、フロア敷設材10上の各位置にピースマット20を置いて室内の騒音レベルを測定して、その実車ごとにピースマット20の最適な配設位置を見出すのが最も良い手法である。
【0064】
しかし、これまで多くの異なる自動車について騒音レベルの測定を行い、さらにソフトウェアを利用して解析した結果から、室内の騒音レベルを低下させるためには、フロア敷設材10上のピースマット20の最適な配設について、一般的に以下の(1)〜(3)の基準を満たしている必要があることが判明している。
(1)フロア敷設材10とピースマット20とが重ね合わされている領域の、フロア敷設材10のうちのカーペット層11とピースマット20とを合わせた部分は、単位面積当たり1500g/m2以上、4500g/m2以下に調整されているとともに、ピースマット20の表面からカーペット層11の裏面への流れの抵抗値が150Nsm-3以上、1800Nsm-3以下に調整されていること。
(2)少なくとも乗員の足下(乗用車の場合は、少なくとも前席乗員の足下)の部分が平坦になるように配設すること。
(3)ピースマット20の分割されている部分や、ピースマット20とフロア敷設材10との間に隙間が生じていないこと。
【0065】
そのため、実車試験によらなくても、上記の基準に沿うように配設構造を構成することによって、配設構造の最適な吸音性および遮音性を得ることができる。図6に示したフロア敷設材とピースマットとの配設構造では、室内に存在する音波のうち、ピースマット20方向に進んだ成分N1は、ピースマット20を抜けてフロア敷設材10に達し、フロア敷設材10によって高い比率で吸音される。そのため、フロア敷設材10に達した成分N1のうちフロア敷設材10で反射される成分N2は非常に少なくなり、室内の騒音が低減される。
【0066】
ピースマット20は、フロア敷設材10の敷設位置の形状に追随して変形する柔軟性を有し、フロア敷設材10上に配設する際にフロア敷設材10との間に大きな隙間を生じないことが好ましい。
【0067】
フロア敷設材10のカーペット層11(図1参照)の表面のうち、ピースマット20が配設される部分は、他の部分よりも低く設けられている。そのため、ユーザーが、フロア敷設材10の上にピースマット20の配設位置の形状に合わない市販のピースマットを配設しようとしても、完全に配設することができないので、純正でないピースマットが配設されることを防止できる。また、ユーザーがピースマット20の配設位置を認識し易くなるので、ピースマットが、設置しても吸音性が最適化されない、誤った位置に配設されるおそれがなくなる。さらには、配設後のピースマット20の位置ずれが起こりにくくなる。
【0068】
なお、フロア敷設材10のカーペット層11の表面のうち、ピースマット20が配設される部分を他の部分よりも低く設ける手法としては、カーペット層11を成形する際にこの部分を他の部分よりも低くするように成形する手法を用いてもよいし、あるいは、図6に示すように、カーペット層11の表面の、ピースマット20が配設される部分のパイルの高さを、他の部分のパイルよりも低く設ける手法を用いてもよい。
【0069】
また、フロア敷設材10およびピースマット20の少なくとも一方には、水を弾く撥水性の素材からなる撥水層と、水を吸収する素材からなる吸水層とのうちの少なくともいずれか1つが設けられていることが好ましい。これにより、例えば乗員の足下に付着して室内に持ち込まれる水分等がピースマット20やフロア敷設材10の中にしみ込むのを抑えることができ、ピースマット20やフロア敷設材10の有する吸音性および遮音性が、そのような水分等によって低下してしまうことを防止することが可能になる。
【0070】
さらに、フロア敷設材10の緩衝材層12(図1参照)およびピースマット20のクッション材層24(図5参照)は、空気を含有する多数の孔が少なくとも一部に設けられていてもよい。これにより、配設構造全体のクッション性が向上し、また、吸音性、遮音性を調整することができる。
【実施例】
【0071】
以下、上記に説明したフロア敷設材、ピースマット、およびこれらの配設構造の実施例について説明する。
【0072】
(各実施例および各比較例の構成)
<実施例1>
通気性を持つ以下のフロア敷設材10の上に、以下のピースマット20を配設した。
【0073】
本実施例のフロア敷設材10には、流れ抵抗値が400Nsm-3のニードルパンチカーペットからなるカーペット層11に、厚さが30mmで、密度ρが0.1g/cm3のポリエステル繊維フェルトからなる緩衝材層12を積層させて作製したものを用いた。
【0074】
また、本実施例のピースマット20には、単位面積当たり600g/m2の立毛パイル層21を担持した、単位面積当たり120g/m2の基布の裏面にSBR(スチレン・ブタジエン・ゴム)樹脂のラテックス加工を施してなる基布層22に、接合材23としてポリエチレン樹脂の短繊維を単位面積当たり100g/m2に散布して形成した貼着層を介して、単位面積当たり100g/m2のポリエステル繊維不織布からなるクッション材層24を積層して作製した、流れ抵抗値が100Nsm-3のものを用いた。
【0075】
<実施例2>
実施例1と同じフロア敷設材10の上に、以下のピースマット20を配設した。
【0076】
本実施例のピースマット20には、単位面積当たり600g/m2の立毛パイル層21を担持した、単位面積当たり120g/m2の基布の裏面にSBR樹脂のラテックス加工を施してなる基布層22に、接合材23としてポリエチレン樹脂の短繊維を単位面積当たり150g/m2に散布して形成した貼着層を介して、単位面積当たり250g/m2のポリエステル繊維不織布からなるクッション材層24を積層して作製した、流れ抵抗値が500Nsm-3のものを用いた。
【0077】
<実施例3>
実施例1と同じフロア敷設材10の上に、以下のピースマット20を配設した。
【0078】
本実施例のピースマット20には、単位面積当たり600g/m2の立毛パイル層21を担持した、単位面積当たり120g/m2の基布の裏面にSBR樹脂のラテックス加工を施してなる基布層22に、接合材23としてポリエチレン樹脂の短繊維を単位面積当たり350g/m2に散布して形成した貼着層を介して、単位面積当たり550g/m2のポリエステル繊維不織布からなるクッション材層24を積層して作製した、流れ抵抗値が1000Nsm-3のものを用いた。
【0079】
<実施例4>
実施例1と同じフロア敷設材10の上に、以下のピースマット20を配設した。
【0080】
本実施例のピースマット20には、単位面積当たり600g/m2の立毛パイル層21を担持した、単位面積当たり120g/m2の基布の裏面にSBR樹脂のラテックス加工を施してなる基布層22に、接合材23としてポリエチレン樹脂の短繊維を単位面積当たり500g/m2に散布して形成した貼着層を介して、単位面積当たり700g/m2のポリエステル繊維不織布からなるクッション材層24を積層して作製した、流れ抵抗値が1500Nsm-3のものを用いた。
【0081】
[比較例1]
実施例1と同じフロア敷設材10のみを用い、フロア敷設材10上にピースマットは配設していない。つまり、本比較例では、ピースマットの流れ抵抗値はゼロである。
【0082】
[比較例2]
実施例1と同じフロア敷設材10の上に、以下のピースマットを配設した。
【0083】
本比較例のピースマットには、単位面積当たり600g/m2の立毛パイル層を担持した、単位面積当たり120g/m2の基布の裏面に、単位面積当たり1300g/m2のゴム質の裏打材を施した、通気の無い構成のものを用いた。つまり、本比較例では、ピースマットの流れ抵抗値は無限大である。
【0084】
[比較例3]
実施例1と同じフロア敷設材10の上に、以下のピースマット20を配設した。
【0085】
本比較例のピースマット20には、単位面積当たり600g/m2の立毛パイル層21を担持した、単位面積当たり120g/m2の基布の裏面にSBR樹脂のラテックス加工を施してなる基布層22に、接合材23としてポリエチレン樹脂の短繊維を単位面積当たり550g/m2に散布して形成した貼着層を介して、単位面積当たり800g/m2のポリエステル繊維不織布からなるクッション材層24を積層して作製した、流れ抵抗値が2000Nsm-3のものを用いた。
【0086】
(評価方法)
(1)実験室での垂直入射吸音率および透過損失(遮音)の評価
各実施例および各比較例のフロア敷設材とピースマットとの配設構造に相当するサンプルを作製し、これらのサンプルの各々についてピースマットのパイル方向からノイズを入射させたときの400〜4000Hzにおける吸音率を測定し、互いの測定結果を比較した。また、上記の各サンプルに、実車両と同様に厚さ0.8mmの鉄板からなるパネルをそれぞれ組み合わせたものの各々について、パネル側からノイズを入射させたときの400〜4000Hzにおける透過損失を測定し、互いの測定結果を比較した。
(2)実車による自動車室内の騒音レベルの評価
排気量が2500ccのエンジンをフロント側に備えた、リヤ駆動方式のセダン型自動車である実験車両に、各実施例および各比較例のフロア敷設材とピースマットとの配設構造に相当するサンプルを設置し、その実験車両を粗面路に相当するダイナモ上で時速60kmの速度で定速走行させて、自動車室内の運転者の耳位置においたマイクロホンで125〜4000Hzにおける騒音レベルを測定した。
【0087】
なお、ピースマットは運転席、助手席、および後席の足元部と後席のトンネル上部とに設置した。また、ピースマットの表面の面積は合計で約1.5m2とした。この場合、ピースマットの表面の面積は、フロア敷設材の表面の面積の約30%を占める。
【0088】
(評価結果)
図7は実験室での400〜4000Hzにおける垂直入射吸音率の測定結果を示すグラフ、図8は実験室での400〜4000Hzにおける透過損失の測定結果を示すグラフ、図9は実車による自動車室内の運転者の耳位置での騒音レベルの測定結果を示すグラフである。
【0089】
比較例1を除くと、ピースマットの流れ抵抗値は、実施例1が最も小さく、次に、実施例2,3,4の順に小さく、次に比較例3,2の順に小さい。このことから、垂直入射吸音率は、図7より、ほぼ全ての周波数帯域において、ピースマットの流れ抵抗値が小さい順に高くなっていることがわかる。一方、透過損失はこれとは逆に、図8より、ほぼ全ての周波数帯域において、ピースマットの流れ抵抗値が高い順に高くなっていることがわかる。また、図9より、自動車室内の運転者の耳位置での騒音レベルも、ほぼ全ての周波数帯域において、ピースマットの流れ抵抗値が高い順に高くなっていることがわかる。
【0090】
ここで、比較例1はピースマットの流れ抵抗値が実質的にゼロであり、実施例1の流れ抵抗値よりも小さいにもかかわらず、図7に示すように、比較例1の垂直入射吸音率が実施例1よりも低くなっている。これは、ピースマット自体も入射音をいくらか吸収するが、比較例1はピースマットを備えていないため、ピースマット自体が有する吸音性が得られていないことに依るものと考えられる。
【0091】
なお、上記では、フロア敷設材10やピースマット20を乗用自動車の室内に配設する例を用いて説明したが、これらのフロア敷設材10やピースマット20をバスやトラックの室内、あるいは、船、電車車両、飛行機等のあらゆる乗物の室内に配設した場合であっても、上記に説明した吸音効果および遮音効果を同様に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の一実施形態に係るフロア敷設材を示す断面図である。
【図2】室内の運転者および後席乗車員の耳位置における騒音レベルを示すグラフである。
【図3】最も騒音レベルの高い周波数である160Hzと250Hzについて、室内の運転者の足元のカーペット層近接位置から運転者の耳位置まで、25cm間隔で騒音レベルを測定した結果を示すグラフである。
【図4】最も騒音レベルの高い周波数である160Hzと250Hzについて、室内の後席乗車員の足元のカーペット層近接位置から後席乗車員の耳位置まで、25cm間隔で騒音レベルを測定した結果を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係るピースマットを示す断面図である。
【図6】図1に示したフロア敷設材上に図5に示したピースマットを配設した状態を示す断面図である。
【図7】実験室での400〜4000Hzにおける垂直入射吸音率の測定結果を示すグラフである。
【図8】実験室での400〜4000Hzにおける透過損失の測定結果を示すグラフである。
【図9】実車による自動車室内の運転者の耳位置での騒音レベルの測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0093】
10 フロア敷設材
11 カーペット層
11a,23 接合材
12 緩衝材層
20 ピースマット
21 立毛パイル層
22 基布層
24 クッション材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーペット層と、該カーペット層の裏面に積層された緩衝材層とからなり、乗物の室内側に設けられたフロアパネル上に敷設されるフロア敷設材であって、
前記カーペット層は、表面から裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されており、
前記緩衝材層は、空気を包含する性質の素材からなり、表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、800Nsm-3以下に調整されていることを特徴とするフロア敷設材。
【請求項2】
前記カーペット層の前記流れ抵抗値は100Nsm-3以上、500Nsm-3以下に調整されている、請求項1に記載のフロア敷設材。
【請求項3】
前記カーペット層の裏面には熱可塑性樹脂からなる接合材が不連続に配設されており、前記カーペット層と前記緩衝材層とは前記接合材を介して積層されている、請求項1または2に記載のフロア敷設材。
【請求項4】
前記カーペット層の中には、紛状または繊維状に形成された熱可塑性樹脂からなる成形材が分散された状態で配設されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のフロア敷設材。
【請求項5】
前記緩衝材層は、前記フロアパネル上に敷設された状態における厚さが5mm以上になるように設けられている、請求項1から4のいずれか1項に記載のフロア敷設材。
【請求項6】
前記緩衝材層の前記厚さは20mm以上である、請求項5に記載のフロア敷設材。
【請求項7】
パイル糸が立毛成形されてなる立毛パイル層と、該立毛パイル層を担持した基布層と、該基布層の裏面に、不連続に配置された熱可塑性樹脂からなる接合材を介して積層されたクッション材層とからなるピースマットであって、
前記立毛パイル層の表面から前記クッション材層の裏面への流れ抵抗値が100Nsm-3以上、1500Nsm-3以下に調整されていることを特徴とするピースマット。
【請求項8】
前記立毛パイル層の表面から前記基布層の裏面への流れ抵抗値が80Nsm-3以上、700Nsm-3以下に調整されており、前記クッション材層の表面から裏面への流れ抵抗値が40Nsm-3以上、1000Nsm-3以下に調整されている、請求項7に記載のピースマット。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフロア敷設材の上に、請求項7または8に記載のピースマットを配設してなる、フロア敷設材とピースマットとの配設構造。
【請求項10】
前記フロア敷設材の前記カーペット層の表面のうち、前記ピースマットが配設される部分は、他の部分よりも低く設けられている、請求項9に記載のフロア敷設材とピースマットとの配設構造。
【請求項11】
前記フロア敷設材と前記ピースマットとが重ね合わされている領域の、前記フロア敷設材のうちの前記カーペット層と前記ピースマットとを合わせた部分は、単位面積当たり1500g/m2以上、4500g/m2以下に調整されているとともに、前記ピースマットの表面から前記カーペット層の裏面への流れ抵抗値が150Nsm-3以上、1800Nsm-3以下に調整されている、請求項9または10に記載のフロア敷設材とピースマットとの配設構造。
【請求項12】
前記フロア敷設材および前記ピースマットの少なくとも一方には、水を弾く撥水性の素材からなる撥水層と、水を吸収する素材からなる吸水層とのうちの少なくともいずれか1つが設けられている、請求項9から11のいずれか1項に記載のフロア敷設材とピースマットとの配設構造。
【請求項13】
前記フロア敷設材の前記緩衝材層および前記ピースマットの前記クッション材層は、空気を含有する多数の孔が少なくとも一部に設けられている、請求項9から12のいずれか1項に記載のフロア敷設材とピースマットとの配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−30867(P2007−30867A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189258(P2006−189258)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【分割の表示】特願2002−3327(P2002−3327)の分割
【原出願日】平成14年1月10日(2002.1.10)
【出願人】(390031451)株式会社林技術研究所 (83)
【Fターム(参考)】