説明

ブレーキ装置

【課題】ペダルフィーリングの良好なブレーキ装置を提供する。
【解決手段】本ブレーキ装置のコントローラは、HSA制御の作動中、ブレーキペダルの操作を検出したときに、電動モータに対して、ブレーキペダルの操作量に対応した液圧を保持するように制御する。これにより、HSA制御中にブレーキペダルが踏み込まれた際、運転者の意図に沿ったペダルフィーリングを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動に用いられる液圧式のブレーキ装置において、例えば特許文献1にブレーキ指示を出すためのブレーキペダルに連結された入力ピストンと電動モータによって駆動されるアシストピストンとの相対位置に基づき、電動モータの作動を制御してマスタシリンダでブレーキ液圧を発生させて制動力を制御するようにしたものが知られている。このブレーキ装置によれば、倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等の種々のブレーキ制御を実行することができる。
【0003】
このようなブレーキ装置では、車両が登坂路に停車し、ブレーキペダルがリリースされたと判定された場合には、入力ピストンとアシストピストンとの相対位置制御からアシストピストンによる液圧制御に切り替わり所定時間マスタシリンダ内の液圧が保持され、所定時間後に減圧が開始されるヒルスタートアシスト制御(以下、HSA制御という)が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−239142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、HSA制御の減圧中にブレーキペダルが踏み込まれると、アシストピストンによる液圧制御から入力ピストンとアシストピストンとの相対位置制御に切り替わるためにアシストピストンの後退量が大きく(減圧方向)、マスタシリンダ内の液圧による入力ピストンへの反動が減少して入力ピストンの踏み込む方向への変動が大きくなってしまう。その結果、ブレーキペダルが踏み込まれた際、運転者の要制動という意図に沿ったペダルフィーリングを得ることができないという懸念があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ペダルフィーリングの良好なブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、前記ブレーキペダルの操作量に基づいて動作する電動アクチュエータと、該電動アクチュエータにより液圧を発生させる倍力機構と、車両が停車しているときに前記ブレーキペダルがリリースされた場合にマスタシリンダ内の液圧を制御するように前記電動アクチュエータを制御するコントローラと、を備えたブレーキ装置であって、前記コントローラは、前記操作量検出手段により前記ブレーキペダルの操作を検出したときに、前記電動アクチュエータに対して、前記マスタシリンダ内の液圧が、前記ブレーキペダルの操作量に対応した液圧にするように制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のブレーキ装置よれば、特に、HSA制御中にブレーキペダルが踏み込まれた際のペダルフィーリングを良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ装置を示す図である。
【図2】(a)は本ブレーキ装置の非制動状態を示す模式図で、(b)はHSA制御が行われた状態を示す模式図である。
【図3】本ブレーキ装置のコントローラの制御に係るフローチャートである。
【図4】ステップS1からステップS3を介してステップS101に到達した際のタイムチャートである。
【図5】ステップS1からステップS4を介してステップS102に到達した際のタイムチャートである。
【図6】ステップS1からステップS5を介してステップS103に到達した際のタイムチャートである。
【図7】ステップS1からステップS11に到達した際のタイムチャートである。
【図8】ステップS1からステップS10を介してステップS104に到達した際のタイムチャートである。
【図9】HSA制御のタイムアウト減圧途中にステップS4において停止状態と判定されステップS102に到達した際のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図9に基いて詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るブレーキ装置1は、タンデム型のマスタシリンダ2と、ケース4内に組み込まれた倍力機構3とを備えている。
マスタシリンダ2には、リザーバ5が接続されている。マスタシリンダ2は、略有底円筒状のシリンダ本体2Aを含み、その開口部側がケース4の前部にスタッドボルト6A及びナット6Bによって結合されている。ケース4の上部には、制御手段であるコントローラCが取付けられている。ケース4の後部には、平坦な取付座面7が形成され、取付座面7からマスタシリンダ2と同心の円筒状の案内部8が突出している。そして、ブレーキ装置1は、車両のエンジンルーム内に配置され、案内部8をエンジンルームと車室との隔壁Wに貫通させて車室内に延ばし、取付座面7を隔壁Wに当接させて取付座面7に設けられたスタッドボルト9を用いて固定される。
【0011】
マスタシリンダ2のシリンダ本体2A内には、開口側に、先端部がカップ状に形成された円筒状のアシストピストン10が嵌装され、底部側にカップ状のセカンダリピストン11が嵌装されている。アシストピストン10の後端部は、マスタシリンダ2の開口部からケース4内に突出して、案内部8付近まで延びている。アシストピストン10及びセカンダリピストン11は、シリンダ本体2Aのシリンダボア12内に嵌合されたスリーブ13の両端側に配置された環状のガイド部材14、15によって摺動可能に案内されている。シリンダ本体2A内は、アシストピストン10及びセカンダリピストン11によってアシスト室16及びセカンダリ室17の2つの圧力室が形成されている。これらアシスト室16及びセカンダリ室17には、液圧ポート18、19がそれぞれ設けられている。液圧ポート18、19は、2系統の液圧回路からなる液圧制御装置70を介して各車輪のブレーキキャリパ71に接続されている。ブレーキキャリパ71は、ブレーキ液の供給により制動力を発生して車輪を制動するブレーキ機構である。
【0012】
シリンダ本体2Aの側壁の上部側には、アシスト室16及びセカンダリ室17をリザーバ5に接続するためのリザーバポート20、21が設けられている。シリンダ本体2Aのシリンダボア12と、アシストピストン10及びセカンダリピストン11との間は、それぞれ2つのシール部材22A、22B及び23A、23Bによってシールされている。シール部材22A、22Bは、軸方向に沿ってリザーバポート20を挟むように配置されている。これらのうちシール部材22Aにより、アシストピストン10が図1に示す非制動位置にあるときに、アシスト室16がアシストピストン10の側壁に設けられたポート24を介してリザーバポート20に連通する。アシストピストン10が非制動位置から前進したとき、シール部材22Aによってアシスト室16がリザーバポート20から遮断される。同様に、シール部材23A、23Bは、軸方向に沿ってリザーバポート21を挟むように配置されている。これらのうちシール部材23Aにより、セカンダリピストン11が図1に示す非制動位置にあるとき、セカンダリ室17がセカンダリピストン11の側壁に設けられたポート25を介してリザーバポート21に連通する。セカンダリピストン11が非制動位置から前進したとき、シール部材23Aによってセカンダリ室17がリザーバポート21から遮断される。
【0013】
アシスト室16内のアシストピストン10とセカンダリピストン11との間には、バネアセンブリ26が介装されている。また、セカンダリ室17内のマスタシリンダ2の底部とセカンダリピストン11との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ27が介装されている。バネアセンブリ26は、圧縮コイルバネである戻しバネ28を伸縮可能な円筒状のリテーナ29によって所定の圧縮状態で保持し、そのバネ力に抗して圧縮可能としたものである。
【0014】
アシストピストン10は、カップ状の先端部と円筒状の後部と、内部を軸方向に仕切る中間壁30とを備え、中間壁30には、案内ボア31が軸方向に沿って貫通されている。案内ボア31には、入力部材である段部32Aを有する段付形状の入力ピストン32の小径の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されており、入力ピストン32の先端部は、アシスト室16内のバネアセンブリ26の円筒状のリテーナ29に挿入されている。
【0015】
入力ピストン32の後端部には、ケース4の案内部8及びアシストピストン10の後部に挿入された入力ロッド34の先端部が連結されている。入力ロッド34の後端側は、案内部8から外部に延出され、その端部には、ブレーキ指示を出すために操作されるブレーキペダルBが連結される。アシストピストン10の後端部には、フランジ状のバネ受35が取付けられている。アシストピストン10は、ケース4の前壁側とバネ受35との間に介装された圧縮コイルバネである戻しバネ36によって後退方向に付勢されている。入力ピストン32は、アシストピストン10の中間壁30との間及びバネ受35との間にそれぞれ介装されたバネ部材であるバネ37、38によって、図1に示す中立位置に弾性的に保持されている。入力ロッド34の後退位置は、ケース4の案内部8の後端部に設けられたストッパ39によって規定されている。
【0016】
ケース4内には、ブレーキペダルBの操作量に基づいて動作する電動アクチュエータである電動モータ40と、該電動モータ40の駆動により液圧を発生させる倍力機構3とが備えられている。倍力機構3は、電動モータ40の回転を直線運動に変換するボールネジ機構41と、該ボールネジ機構41のネジ軸47の進退移動に伴って進退移動するアシストピストン10とを含む。電動モータ40は、ケース4に固定されたステータ42と、ステータ42に対向させてベアリング43、44によってケース4に回転可能に支持された中空のロータ45とを備えている。
【0017】
ボールネジ機構41は、ロータ45の内周部に固定された回転部材であるナット部材46と、ナット部材46及びケース4の案内部8内に挿入されて軸方向に沿って移動可能で、かつ、軸回りに回転しないように支持された直動部材である中空のネジ軸47と、これらの対向面に形成されたネジ溝間に装填された複数のボール48とを備えている。ボールネジ機構41は、ナット部材46の回転により、ネジ溝に沿ってボール48が転動することにより、ネジ軸47が軸方向に移動するようになっている。なお、ボールネジ機構41は、ナット部材46とネジ軸47との間で、回転及び直線運動を相互に変換可能となっている。
【0018】
なお、電動モータ40とボールネジ機構41との間に、遊星歯車機構、差動減速機構等の公知の減速機構を介装して、電動モータ40の回転を減速してボールネジ機構41に伝達するようにしてもよい。
【0019】
ボールネジ機構41のネジ軸47は、ケース4の前壁側との間に介装された圧縮テーパコイルバネである戻しバネ49によって後退方向に付勢され、ケース4の案内部8に設けられたストッパ39によって後退位置が規制されている。ネジ軸47内には、アシストピストン10の後端部が挿入され、ネジ軸47の内周部に形成された段部50にバネ受35が当接してアシストピストン10の後退位置が規制されている。これにより、アシストピストン10は、ネジ軸47と共に前進し、また、段部50から離間して単独で前進することができる。そして、図1に示すように、ストッパ39に当接したネジ軸47の段部50によってアシストピストン10の後退位置が規定され、後退位置にあるアシストピストン10及びバネアセンブリ26の最大長によって、セカンダリピストン11の後退位置が規定されている。ネジ軸47の段部50は、ナット部材46の軸方向の長さの範囲に配置されている。
【0020】
ブレーキ装置1には、ブレーキペダルBの踏込量を検出する、操作量検出手段としてのストロークセンサ80、電動モータ40のロータ45の回転位置を検出する回転位置センサ60、プライマリ、セカンダリ室16、17の液圧を検出する液圧センサ72、電動モータ40の通電電流を検出する電流センサ及びこれらを含む各種センサが設けられている。
【0021】
コントローラCは、CPU及びRAM等を含むマイクロプロセッサベースの電子制御装置であり、これらの各種センサから検出信号に基づき、電動モータ40の回転を制御するものである。
【0022】
なお、コントロールCでは、次に示すような各種の倍力制御が行なわれる。例えば、入力ピストン32の移動距離とアシストピストン10との移動距離が略同一に設定される等倍力制御、入力ピストン32の移動距離に対してアシストピストン10の移動距離が大きく設定されるブレーキアシスト倍力制御、入力ピストン32の移動距離に対してアシストピストン10の移動距離が小さく設定される回生協調制御、また、図2(b)に示すように、車両が登坂路に停車しブレーキペダルBがリリースされた際、入力ピストン32とアシストピストン10との相対位置制御からアシストピストン10による液圧制御に切り替えて、マスタシリンダ2内の液圧を所定時間まで最低液圧を下回らないように保持して(図2(b)の状態)、前記所定時間後に減圧するように電動モータ40の作動を制御するHSA制御が行われる。なお、図2(a)は非制動状態を示す。
【0023】
次に、本実施形態に係るブレーキ装置1の通常の作動について説明する。
ブレーキペダルBを操作して入力ロッド34を介して入力ピストン32を前進させると、入力ピストン32の変位をストロークセンサ80によって検出し、コントローラCによって入力ピストン32の変位に基づいて電動モータ40の作動を制御し、ボールネジ機構41を介してアシストピストン10を前進させて入力ピストン32の変位に追従させる。これにより、アシスト室16に液圧が発生し、また、この液圧がセカンダリピストン11を介してセカンダリ室17に伝達される。このようにして、マスタシリンダ2で発生したブレーキ液圧は、液圧ポート18、19から液圧供給装置70を介して各車輪のブレーキキャリパ71に供給されて制動力を発生させる。
【0024】
また、ブレーキペダルBの操作を解除すると、入力ピストン32、アシストピストン10及びセカンダリピストン11が後退して、プライマリ室及びセカンダリ室16、17が減圧し、制動が解除される。
【0025】
制動時に、アシスト室16の液圧の一部を入力ピストン32(アシストピストン10よりも受圧面積が小さい)によって受圧し、その反力を、入力ロッド34を介してブレーキペダルBにフィードバックする。これにより、アシストピストン10と入力ピストン32との受圧面積比に応じた所定の倍力比をもって所望の制動力を発生させることができる。また、入力ピストン32に対するアシストピストン10の追従位置を適宜調整して、バネ37、38のバネ力を入力ピストン32に作用させて、入力ロッド34に対する反力を加減することにより、上述した等倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等のブレーキ制御時に適したブレーキペダルB反力を得ることができる。
【0026】
なお、液圧制御装置70は、マスタシリンダ2からの液圧を各車輪のブレーキキャリパ71に供給する通常制動モード、各車輪のブレーキキャリパ71の液圧を減圧する減圧モード、各車輪のブレーキキャリパ71の液圧を保持する保持モード、減圧されたブレーキキャリパ71の液圧を復帰させる増圧モード、及び、マスタシリンダ2の液圧にかかわらず、液圧ポンプの作動によって各車輪のブレーキキャリパ71に液圧を供給する加圧モードの各制御を実行することができる。
【0027】
そして、液圧制御装置70の各作動モードの制御によって車両状態に応じたブレーキ指示を適宜実行することにより、各種ブレーキ制御を行うことができる。例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して、ブレーキペダルBの操作量にかかわらず各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0028】
次に、本発明の実施形態に係るブレーキ装置のコントローラCにおいて、特に、車両が登坂路で停車した時点でのブレーキ制御を図3に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS1においては、HSA制御(液圧制御)が開始されているかを判定する。HSA制御(液圧制御)は、ブレーキペダルをリリースしても、運転者がブレーキペダルを踏んで停止している際のマスタシリンダ圧(HSA制御液圧指令値)を保持する制御である。
なお、HSA制御により保持するマスタシリンダ圧(HSA制御液圧指令値)を、運転者がブレーキペダルを踏んで停止している際の圧力としたが、予め決められた所定圧力であってもよい。
以下、HSA制御(液圧制御)の一例について説明する。車両の前後加速度を検出する前後Gセンサで検出された前後Gの出力信号と、各車輪に設置された車輪速センサからの出力信号とにより車両が登坂路で停車しているか否かを判定する(例えば、車輪速センサが0にも係わらず前後Gセンサの値が0でない場合は、前後Gセンサが傾斜している。すなわち、登坂路と判定する)。このとき、ブレーキペダルが踏み込まれ、かつ、ギアがDレンジとなっているときに、発進待機状態と判断し、HSA制御(液圧制御)が開始される。ステップS1で、HSA制御(液圧制御)が開始されていると判定した場合は、ステップS3に進み、判定不成立の場合にはステップS100に進み上述した通常のブレーキ制御が行なわれる。
なお、発進待機状態とは、ブレーキペダルを踏み込むことで停車しており、アクセルに踏みかえることで発進可能な状態をいい、例えば、車輪速とブレーキランプスイッチ、ギアの状態で判断してもよい。また、HSA制御は、登坂路において有効であるが平坦路において実行してもよい。さらに、HSA制御の開始は、必ずしも、上記の条件に限らず、例えば、ブレーキペダルBをリリースした時点でスタートさせてもよい。
【0029】
次に、ステップS3からステップS5でブレーキペダルBのリリース以外のHSA制御を解除する各タイミングを判断する。これらのステップで解除するタイミングでないと判断した場合、ステップS6でブレーキペダルBが踏み込まれていると判断し、ステップS104にて、液圧保持(液圧制御)を行う。この液圧制御について説明する。
まず、車輌では、常にストロークセンサ80からのストローク量に基づいた入力ピストン32の位置と、入力ピストン32とアシストピストン10との相対位置制御によって算出されるアシストピストン10の位置とから踏込み液圧指令値を算出する。(通常の走行中は、相対位置制御をおこなっているので、演算のみ行っている)。そして、HSA制御中においては、この液圧を踏込み液圧指令値と図3のステップS104において求められるHSA制御液圧指令値とを比較し、高い方の液圧指令値として、液圧制御を行う。
【0030】
ステップS3では、強制液圧保持解除判定が行われる。この判定は、車両システムからの異常信号の有無により、HSA制御(液圧制御)の開始後、車両のシステムに異常が存在するかを判定する。その結果、異常が存在しないと判定された場合にはステップS4に進み、一方、異常が存在すると判定された場合には、ステップS101に進み即減圧処理が行なわれる。すなわち、図4に示すタイムチャートも参照しながら説明する。時間t1にて車両が登坂路で停車していると判定された後、HSA制御(液圧制御)がスタートする。時間t1〜t2の間はブレーキペダルBの踏み込みから踏込み液圧指令値による液圧が液圧指令値として出力される。その後、ブレーキペダルBが戻されると、それに対応して踏込み液圧指令値が小さくなり(時間t2〜t3)、時間t3にてブレーキペダルBのリリース判定が成立するころには、HSA制御液圧指令値(この場合、前述の停車圧力となる)より踏込み液圧指令値が小さくなりHSA制御液圧指令値、すなわち、停車圧力の液圧がアシストピストン10により保持される(図2(b)の状態)。その後、時間t4にて車両システムに異常が発生したと検知されると減圧制御が開始される。
なお、ブレーキペダルBのリリース判定は、ブレーキペダルBを完全に離した状態を判断しても良いが、本実施の形態では、完全に離した状態ではなく、若干踏み込んだ状態でブレーキペダルBのリリース判定を行っている。
【0031】
次に、ステップS4では、車両が停車状態であるか、停止状態であるかを判定する。なお、停車状態とは、ブレーキペダルBを踏むことで車両が止まっている場合か、液圧保持により車両が止まっている場合を指し、一方、停止状態とは、車両が発進する可能性のない状態を指す。例えば、車両が走行中から運転者がブレーキペダルBを踏むことで車両が停車し、その後、シフトポジションがNレンジまたはPレンジにシフトチェンジされた場合や、パーキングブレーキが作動した場合に車両が停車状態から停止状態に移行したと判定する。
この判定結果により、停止状態では、HSA制御が不要となるので、圧力を減圧する処理を行う。
【0032】
そして、ステップS4では、車両システムからの検出信号により車両が停車状態にあると判定された場合には、ステップS5へ進み、一方、車両が停止状態にあると判定された場合には、ステップS102へ進み中断減圧処理が行なわれる。すなわち、図5に示すタイムチャートも参照しながら説明する。なお、時点(t3)までは、前述の図4の説明と同様である。
時点(t3)から(t4)では、ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点(t3)の液圧が保持される。その後、時間t4にて車両が停止状態であると判定されるとHSA制御液圧指令値を徐々に小さくする減圧制御が開始される。
【0033】
次に、ステップS5では、車両状態が停車状態であるか、発進状態であるかを判定する。なお、発進状態とは、ブレーキペダルBの踏み込みや液圧制御にて停車している状態において、運転者がアクセルペダルを踏み、車両を発進させる動作を行った場合を指す。
【0034】
そして、ステップS5では、運転者のアクセルペダルの踏み込み量とそれに伴って変動する駆動トルク値が閾値以上であるか否かを判定して、該駆動トルク値が閾値以上と判定された場合には発進状態と判定されて、ステップS103に進みアクセルON減圧処理が行われる。すなわち、図6に示すタイムチャートも参照しながら説明する。なお、時点(t3)までは、前述の図4の説明と同様である。ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点(t3)から液圧が保持される。その後、運転者のアクセルペダルの踏み込み量に伴って変動する駆動トルク値が閾値A以上となった時点(t4)で減圧制御が開始される。なお、時間t5まで至ると車両が発進するため車両の登坂路停車判定が不成立となる。
【0035】
なお、発進状態への移行による減圧の減圧勾配は、アクセルペダルを踏むことによる駆動トルクの変化量を一定時間毎に算出して、現在の駆動トルクと登坂路に停車するのに必要な静動トルクとの差分と、駆動トルクの時間に対する変化量とから車両が発進するまでの時間を予測して、該予測した時間を基に減圧勾配を設定するので、車両のずりさがり、ひきずりを防止することができる。
【0036】
次に、ステップS6では、入力ピストン32の絶対位置、及び入力ピストン32とアシストピストン10との相対位置とからブレーキペダルBが踏み込まれたか否かが判定され、ブレーキペダルBが踏み込まれたまたは、ブレーキペダルBの踏み込みが継続していると判定された場合には、ステップS104に進み、一方、ブレーキペダルBが踏み込まれていないと判定された場合には、ステップS7に進む。
【0037】
次に、ステップS104において液圧保持されるが、その時の液圧指令値は次のように決定される。ます、ブレーキペダルBの踏み込みによる、ストロークセンサ80からのストローク量に基づいた入力ピストン32の位置と、入力ピストン32とアシストピストン10との相対位置制御によって算出されるアシストピストン10の位置とから人踏み液圧指令値を算出し、前述のHSA制御液圧指令値(ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点の液圧)と、前記踏込み液圧指令値とが比較されて高いほうの液圧指令値が選択される。そして、選択された液圧指令値を保持するのに必要なアシストピストン10の位置を算出して、現在のアシストピストン10の位置から必要なアシストピストン10の位置までアシストピストン10を移動させて液圧を保持する。
【0038】
次に、ステップS7では、ステップS6にてブレーキペダルBがリリースされたと判定されてから一定時間が経過したか否かが判定される。一定時間が経過したと判定された場合には、ステップS8に進む。
【0039】
次に、ステップS8及びS9では、アシストピストン10による液圧保持が解除されて、所定の液圧勾配で減圧処理が開始される。すなわち、図7に示すタイムチャートも参照しながら説明する。なお、時点(t3)までは、前述の図4の説明と同様である。ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点(t3)で、液圧保持が開始され、ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点の液圧がアシストピストン10により保持される。その後、ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時間t3から一定時間経過した時間t4にて所定の勾配による減圧処理が開始される。
これは、HSA制御は、自動パーキングブレーキではなく、あくまでも、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏換えの際の車両の動きを抑えるものであるので、このような機能を追加している。必ずしも必要な機能ではない。
【0040】
次に、ステップS10では、減圧処理の途中に、入力ピストン32の絶対位置、及び入力ピストン32とアシストピストン10との相対位置とからブレーキペダルBが踏み込まれたか否かが判定され、ブレーキペダルBが踏み込まれたと判定された場合には、ステップS104に進み、一方、ブレーキペダルBが踏み込まれていないと判定された場合には、ステップS11に進み減圧処理が継続される。
【0041】
次に、ステップS104において液圧保持されるが、その時の液圧指令値は次のように決定される。ます、ブレーキペダルBの踏み込みによる、ストロークセンサ80からのストローク量に基づいた入力ピストン32の位置と、入力ピストン32とアシストピストン10との相対位置制御によって算出されるアシストピストン10の位置とから踏込み液圧指令値を算出する。続いて、減圧処理の途中でブレーキペダルBが踏み込まれたと判定された時点で検出された液圧値である液圧指令値と、前記踏込み液圧指令値とが比較されて高い液圧指令値が選択される。そして、選択された液圧指令値を保持するのに必要なアシストピストン10の位置を算出して、現在のアシストピストン10の位置から必要なアシストピストン10の位置までアシストピストン10を移動させて液圧を保持する。
【0042】
また、図8に示すタイムチャートも参照しながら説明する。なお、このタイムチャートでは、時点(t3)までの運転者の操作が図4乃至図7と異なる。この場合、時間t1にて車両が登坂路で停車していると判定された後、HSA制御(液圧制御)がスタートする。時間t1〜t4の間はHSA制御液圧指令値による停車圧力が液圧指令値として出力される。続いて、ステップS6〜S9の制御によりブレーキペダルBのリリース判定が成立した時間t3から一定時間経過した時間t4から所定の勾配で減圧処理が行われる。続いて、減圧中の時間t4にて、ブレーキペダルBが踏み込まれると、時間t5にてブレーキペダルBの踏み込まれたと判断され、前述のように決定された液圧指令値によって液圧が保持される。
【0043】
そして、図8から解るように、本実施の形態では、HSA制御の減圧処理中にブレーキペダルBが踏み込まれた時点(t5)においては、液圧が低下することがなく保持されるので、運転者の要制動という意図に沿った液圧の反動がブレーキペダルBへ伝達される。その結果、ブレーキペダルBが踏み込まれた時点(t5)での入力ピストン32の踏み込む方向への変動が小さくなり、運転者の意図に沿ったペダルフィーリングを得ることができる。
【0044】
なお、図9に示すタイムチャートによれば、ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点(t3)で、ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時点の液圧がアシストピストン10により保持される。続いて、ブレーキペダルBのリリース判定が成立した時間t3から一定時間経過した時間t4から所定の勾配で減圧処理が行われる。続いて、減圧処理中の時間t5にて、ステップS4による停車・停止判定が行われ、停止状態と判定された場合には、ステップS102に進み、中断減圧処理が行われる。
【0045】
また、液圧制御時における前記各パターンの減圧処理において、減圧開始時及び減圧終了時の減圧勾配を減圧中間時の減圧勾配よりも緩やかに設定することで、減圧処理開始時においてはモータの慣性力により入力ピストン32が残り、アシストピストン10と入力ピストン32との位置にギャップが生じることを防ぎ、また、減圧処理終了時においては急激にブレーキペダルBが戻ることによるブレーキペダルBのブレーキスイッチとの干渉音を防ぐことができる。
【0046】
以上、説明したように、本発明の実施の形態に係るブレーキ装置1によれば、コントローラCにおいて、HSA制御の作動中、ブレーキペダルBが踏み込まれたことが検知されると、その時点で検出された液圧値である液圧指令値と、ブレーキペダルBの操作による踏み込液圧指令値との間で高いほうの液圧指令値によって液圧がアシストピストン10により保持されるので、ブレーキペダルBが踏み込まれた際、マスタシリンダ2内の液圧による入力ピストン32への反動が大きく、入力ピストン32の踏み込み方向への変動が小さくなる。その結果、ブレーキペダルBが踏み込まれた際、運転者の意図に沿ったペダルフィーリングを得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ブレーキ装置,2 マスタシリンダ,3 倍力機構,10 アシストピストン,32 入力ピストン,40 電動モータ(電動アクチュエータ),41 ボールネジ機構,80 ストロークセンサ(操作量検出手段),B ブレーキペダル,C コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、
前記ブレーキペダルの操作量に基づいて動作する電動アクチュエータと、
該電動アクチュエータにより液圧を発生させる倍力機構と、
車両が停車しているときに前記ブレーキペダルがリリースされた場合にマスタシリンダ内の液圧を制御するように前記電動アクチュエータを制御するコントローラと、を備えたブレーキ装置であって、
前記コントローラは、前記操作量検出手段により前記ブレーキペダルの操作を検出したときに、前記電動アクチュエータに対して、前記マスタシリンダ内の液圧が、前記ブレーキペダルの操作量に対応した液圧にするように制御することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記コントローラは、車両が停車しているときに、前記ブレーキペダルがリリースされた場合に、マスタシリンダ内の液圧を所定時間、所定の圧力を保つように制御し、所定時間後減圧する制御を有する請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記コントローラは、車両が停車しているときに、前記ブレーキペダルがリリースされた場合に、マスタシリンダ内の液圧を所定の圧力を保つように制御し、所定の条件により前記マスタシリンダ圧を減圧する制御を有する請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記ブレーキペダルの操作を検出した際、その時点で検出された液圧からの液圧指令値と、前記ブレーキペダルの操作量に応じた踏み込液圧指令値とを比較して高い値を選択することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記ブレーキペダルの操作により直接移動する入力ピストンと、前記倍力機構として前記電動アクチュエータの駆動により移動するアシストピストンとを備え、
前記ブレーキペダルのリリース判定は、前記入力ピストンの前記アシストピストンとの相対位置と、前記入力ピストンの絶対位置とから判定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記コントローラは、車両が停車しているときに前記ブレーキペダルがリリースされた場合にマスタシリンダ内の液圧が停車に必要な液圧を下回らない停車液圧に制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−111373(P2012−111373A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262479(P2010−262479)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】