説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】異常放電の発生を未然に抑制し、且つ、処理対象物を安定的な保持状態に維持させる。
【解決手段】高周波電力によってプラズマを発生させるプラズマ発生機構(例えば、一対の対向電極11、12及び高周波電源2)を備える。処理対象物(例えば、半導体ウェハ4)を静電吸着力によって保持する静電チャック5と、静電チャック5に静電吸着用直流電圧を印加する直流電圧印可部(直流電源3)を備える。処理対象物の自己バイアス電位を検知する電位検知部(例えば、振幅検出部6及び演算部7)と、自己バイアス電位と静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように静電吸着用直流電圧を制御する直流電圧制御部(制御部8)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ放電によって半導体基板等の処理対象物の表面処理を行うプラズマ処理装置は、一般的に、チェンバと、チェンバ内に配された一対の対向電極と、を備えている。このうち一方の対向電極または双方の対向電極に高周波電圧を印加することにより、一対の対向電極間にプラズマ放電を発生させる。なお、一対の対向電極は、一般的に、上下に配置されている。
また、一方の対向電極(一般的には下側の対向電極)は、処理対象物を静電吸着力によって保持する静電チャック(ESC(Electrostatic Chuck))の一部分を構成する。すなわち、一方の対向電極の上に誘電体である絶縁被膜を設けることにより、当該対向電極と絶縁被膜とを有する静電チャックを構成する。或いは、絶縁被膜中に対向電極を封入することにより静電チャックを構成し、この静電チャックを載置台の上に載置する。
そして、その静電チャックの上に処理対象物を載せた状態で、一方の対向電極に高圧の直流電圧(ESC電圧)を印加して絶縁被膜を分極させる。これにより、その絶縁被膜と処理対象物との境界面に静電気を発生させ、その静電気により生じる静電吸着力(クーロン力)によって処理対象物を静電チャック上に保持することができる。
【0003】
このようなプラズマ処理装置では、ときに局所的な放電(異常放電)が発生する。異常放電が発生すると、チェンバ内の部品が破損することがあるだけでなく、その破損箇所が溶融した飛沫が処理対象物に付着して、その処理対象物を汚染したり、或いは処理対象物がパターン形成された基板である場合にそのパターンを損傷したりするといった可能性がある。或いは、異常放電が被処理基板を直接的に損傷する可能性もある。
【0004】
このような異常放電を検出する技術は、例えば、特許文献1〜3に記載されている。
すなわち、特許文献1の技術では、高周波の印加電圧と印加電流との少なくともいずれか一方を検出し、これらの振幅変調から上述のような異常放電を検出する。
また、特許文献2の技術では、高電圧エネルギー源の電圧変化等に基づいて異常放電を検出する。なお、特許文献2の技術では、異常放電を検出した場合に高電圧エネルギー源の電圧等を切り替える。
また、特許文献3のプラズマ処理装置は、高周波電圧が印加される電極の電位の変化を監視して異常放電の発生を検出する手段と、異常放電が発生したときの反応室内の圧力を検出する手段と、異常放電が発生したときの反応室内の圧力に基づいてそのときの最適な高周波電力値を算出し、その算出した値に印加電力を更新する。
【0005】
また、特許文献4には、異常放電の発生を未然に抑制する技術が記載されている。すなわち、特許文献4の技術では、プラズマ処理装置のチェンバの壁に絶縁性透明窓を設け、その絶縁性透明窓の表面電位の急峻な変化を異常放電の予兆として検出し、その予兆を検出した場合にESC電圧の絶対値を小さくすることにより、異常放電を未然に抑制する。
異常放電の予兆の検出は、具体的には、チェンバの壁に設けた絶縁性透明窓の表面電位の急峻な変化(つまり時間微分値)を検出することなどにより行う。
なお、異常放電の予兆としての電位の急峻な変化は、異常放電の発生直前(例えば特許文献4の段落0011に記載されているように、異常放電の発生タイミングを遡ること数百msのタイミング)に起こる。このため、予兆を検出した場合には、直ちにESC電圧の絶対値を小さくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−324783号公報
【特許文献2】特開2002−146543号公報
【特許文献3】特開2001−135579号公報
【特許文献4】特開2007−073309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3の技術では、異常放電が発生した場合に、その異常放電を検出するため、最初の異常放電の発生を抑制することができない。
【0008】
これらに対し、特許文献4の技術では、最初の異常放電の発生を抑制することができる。
しかし、特許文献4の技術では、ESC電圧の絶対値を小さくしたときに、ESC電圧を利用した静電チャックによる処理対象物の保持状態が不安定になる可能性がある。
このような保持状態の不安定化を抑制するためには、例えば特許文献4の段落0016に記載されているように、ESC電圧の絶対値を小さくする制御を行った後、一定時間後にはESC電圧を元の電圧に戻すように制御する必要がある。従って、ESC電圧が元の電圧となった後は、再び、異常放電が発生しやすい状態に戻ってしまうということになりかねない。
【0009】
このように、異常放電の発生を未然に抑制し、且つ、処理対象物を安定的な保持状態に維持させることは困難だった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
静電チャックを有するプラズマ処理装置では、処理対象物と静電チャックとによりコンデンサが形成され、そのコンデンサにおける電荷蓄積量は処理対象物の自己バイアス電位と静電チャックとの電位差が大きいほど増大する。処理対象物の自己バイアス電位は、プラズマ処理中における処理対象物の表面状態の経時変化、並びに、プラズマ処理を繰り返すことによって生じるプラズマ処理装置の状態の経時変化に伴って変化する。このため、この自己バイアス電位と静電チャックとの電位差も経時変化する。この電位差が過度に大きくならないようにすることにより、余分な電荷の蓄積と、この電荷の放出である異常放電とを抑制できる。
【0011】
そこで、本発明は、高周波電力によってプラズマを発生させるプラズマ発生機構と、
処理対象物を静電吸着力によって保持する静電チャックと、
前記静電チャックに静電吸着用直流電圧を印加する直流電圧印可部と、
前記処理対象物の自己バイアス電位を検知する電位検知部と、
前記検知された前記自己バイアス電位と前記静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように前記静電吸着用直流電圧を制御する直流電圧制御部と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置を提供する。
【0012】
本発明では、処理対象物の自己バイアス電位を検知し、この自己バイアス電位との差が所定範囲となるように制御した静電吸着用直流電圧を静電チャックに印加する。
これにより、自己バイアス電位と静電吸着用直流電圧との電位差が過度に大きくならないようにすることができるので、処理対象物と静電チャックとにより形成されるコンデンサにおける電荷の蓄積量を抑制できるとともに、この電荷の放出である異常放電の発生を未然に抑制できる。
それと同時に、自己バイアス電位と静電吸着用直流電圧との差を所定範囲に維持できるので、静電チャックによる処理対象物の保持状態を安定的な状態に維持させることができる。
しかも、自己バイアス電位と静電吸着用直流電圧との差を所定範囲に維持することによって、異常放電が起こりやすい状態の発生を根本的に抑制することができる。
なお、異常放電の発生直前に生じる予兆(電位の急峻な変化)を捉えるのではなく、自己バイアス電位自体を検知(監視)し、その検知した値に応じて静電吸着用直流電圧を制御する。このため、特許文献4と比べて低頻度の検知(監視)を行うことによっても、或いは、静電吸着用直流電圧の制御が特許文献4と比べて緩やかであっても、異常放電の発生を未然に抑制可能となることが期待できる。
【0013】
また、本発明は、高周波電圧によってプラズマを発生させる工程と、
静電チャックに静電吸着用直流電圧を印加することにより、処理対象物を静電吸着力によって前記静電チャックにより保持した状態で、前記処理対象物の自己バイアス電位を検知する工程と、
前記検知した前記自己バイアス電位と前記静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように前記静電吸着用直流電圧を制御する工程と、
を有することを特徴とするプラズマ処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異常放電の発生を未然に抑制し、処理対象物を安定的な保持状態に維持させ、且つ、異常放電が起こりやすい状態の発生を根本的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を示す模式図である。
【図2】第1の実施形態に係るプラズマ処理方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】第2の実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を示す模式図である。
【図4】第3の実施形態に係るプラズマ処理方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0017】
〔第1の実施形態〕
図1は第1の実施形態に係るプラズマ処理装置100の構成を示す模式図、図2は実施形態に係るプラズマ処理方法の流れを示すフローチャートである。
【0018】
本実施形態に係るプラズマ処理装置100は、高周波電力によってプラズマを発生させるプラズマ発生機構(例えば、一対の対向電極11、12及び高周波電源2を備えて構成されている)を備える。更に、処理対象物(例えば、半導体ウェハ4)を静電吸着力によって保持する静電チャック5(例えば、一方の対向電極11と絶縁被膜とを備えて構成されている)と、静電チャック5に静電吸着用直流電圧を印加する直流電圧印可部(直流電源3)を備える。更に、処理対象物の自己バイアス電位を検知する電位検知部(例えば、振幅検出部6と演算部7とを備えて構成されている)と、自己バイアス電位と静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように静電吸着用直流電圧を制御する直流電圧制御部(制御部8)を備える。
また、本実施形態に係るプラズマ処理方法は、高周波電圧によってプラズマを発生させる工程と、静電チャックに静電吸着用直流電圧を印加することにより処理対象物(例えば、半導体ウェハ4)を静電吸着力によって静電チャック5により保持した状態で、処理対象物の自己バイアス電位を検出する工程と、自己バイアス電位と静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように静電吸着用直流電圧を制御する工程と、を有する。
以下、詳細に説明する。
【0019】
先ず、プラズマ処理装置100の構成を説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るプラズマ処理装置100は、例えば、真空チェンバ1と、高周波電源2と、直流電源3と、一対の対向電極11、12と、振幅検出部6と、演算部7と、制御部8と、ガス供給部9と、絶縁性透明窓10と、を備えている。
【0021】
真空チェンバ1は、その内部でプラズマ処理が行われる処理室である。
【0022】
一対の対向電極11、12は、真空チェンバ1内において相互に対向して配置されている。これら対向電極11、12は、例えば、上下に配置されている。そして、下側の対向電極11には、処理対象物としての半導体ウェハ(以下、単にウェハ)4が載置されるようになっている。
【0023】
高周波電源2は、例えば下側の対向電極11に高周波電圧を印加する高周波電圧印可部として機能する。高周波電源2から対向電極11に高周波電圧を印加することによって、一対の対向電極11、12間にプラズマを発生させることができる。
【0024】
また、直流電源3は、例えば下側の対向電極11に静電吸着用直流電圧(以下、ESC(Electrostatic Chuck)電圧)を印加する直流電圧印可部として機能する。
【0025】
例えば、対向電極11上には、誘電体である絶縁被膜13が形成されている。この対向電極11と絶縁被膜13とにより、静電チャック5が構成されている。或いは、絶縁被膜中に対向電極11を封入することにより静電チャック5を構成しても良い。
【0026】
この静電チャック5の上にウェハ4を載置した状態で、直流電源3から対向電極11にESC電圧を印加することにより、静電チャック5が静電吸着力(クーロン力)によってウェハ4を保持する。すなわち、対向電極11にESC電圧を印加すると絶縁被膜13が分極して絶縁被膜13とウェハ4との境界面に静電気が発生し、その静電気により静電吸着力が生じるので、静電チャック5によりウェハ4を吸着保持できる。静電チャック5とウェハ4との間に十分な電位差を設定することにより、静電チャック5によってウェハ4を安定的に保持することができる。ただし、静電チャック5とウェハ4との電位差が大きくなりすぎると異常放電が発生しやすくなるため、この電位差が過度に大きくならないように、ESC電圧を制御する(詳細後述)。
【0027】
振幅検出部6は、高周波電源2から出力される高周波電圧の振幅Vppを検出する。演算部7は、振幅検出部6により検出される振幅Vppに基づいてウェハ4の自己バイアス電圧を演算する。
さらに、演算部7は、ウェハ4の自己バイアス電圧の演算結果に応じて、最適なESC電圧値を算出し、そのESC電圧値を制御部8に出力する。
これら振幅検出部6と演算部7とにより、ウェハ4の自己バイアス電位を検知する電位検知部が構成されている。
【0028】
制御部8は、高周波電源2、直流電源3及びガス供給部9等、プラズマ処理装置100の各部の動作制御を行う。
その動作制御の1つとして、演算部7から入力されたESC電圧値のESC電圧を対向電極11に対して出力(印加)するよう、直流電源3の制御を行う。
【0029】
ガス供給部9は、真空チェンバ1内に処理ガス(プロセスガス)を供給する。また、絶縁性透明窓10は、例えば、ガラスなどにより構成され、真空チェンバ1の側壁に設けられている。この絶縁性透明窓10を介して、真空チェンバ1の外部より、その内部を視認可能となっている。
【0030】
次に、動作を説明する。
【0031】
プラズマ処理を行うには、先ず、静電チャック5上にウェハ4を載置し、真空チェンバ1内にガス供給部9から所定の処理ガスを導入するとともに、真空チェンバ1内を所定の圧力に制御する。
【0032】
一方、高周波電源2から対向電極11に対する高周波電圧の印加を開始することにより、一対の対向電極11、12間にプラズマを発生させる。
【0033】
一方、直流電源3から静電チャック5の対向電極11に対するESC電圧の印加を開始することにより、この静電チャック5によるウェハ4の吸着保持を開始させる。
【0034】
この状態で、ウェハ4の表面に対し、所定の処理条件でプラズマによるプラズマ処理を行うことができる。
【0035】
本実施形態では、ウェハ4の自己バイアス電位を検知し(図2のステップS1)、その検知した自己バイアス電位とESC電圧との差が所定範囲となるようにESC電圧をフィードバック制御する(図2のステップS2、S3)。
【0036】
ここで、ウェハ4の自己バイアス電位の検知の仕方を説明する。
一般に、プラズマに面する絶縁物の表面電位(フローティング電位)は、プラズマ発生用に高周波電源2から印加する高周波電圧のピーク値(振幅)の約1/2の負電位になることが知られている。
そこで、本実施形態では、高周波電源2から対向電極11に印加される高周波電圧の振幅Vppを検出し、その検出値の1/2の負電位をウェハ4の自己バイアス電位として演算する。
すなわち、振幅検出部6は、高周波電源2から対向電極11に印加される高周波電圧の振幅Vppを検出し、演算部7はこの検出値に基づいてウェハ4の自己バイアス電位を演算する。具体的には、演算部7は、ウェハ4の自己バイアス電位(単位:V)を、−(Vpp/2)として演算することにより、当該自己バイアス電位を検知する(図2のステップS1)。
【0037】
更に、演算部7は、自己バイアス電位に応じた適切なESC電圧を演算する(図2のステップS2)。
【0038】
ここで、適切なESC電圧とは、静電チャック5の静電吸着力によるウェハ4の吸着保持を行うことができ、且つ、異常放電の発生を抑制できるようなESC電圧である。
【0039】
またここで、静電チャック5によるウェハ4の吸着保持を行うことができるような、ESC電圧と上記自己バイアス電位との電位差の範囲については、プラズマ処理前に予め調べておく。
【0040】
また、異常放電が発生しやすいESC電圧の範囲については、例えば、ESC電圧を変化させながら、異常放電の発生を監視することにより、プラズマ処理前に予め調べておくことができる。
【0041】
これらにより、演算部7には、予め、自己バイアス電位の検知値に対するESC電圧の演算式を設定しておく。
すなわち、例えば、自己バイアス電位をX、ESC電圧をYとすると、(X+200)≦Y≦(X+500)を満たすか、又は、(X−500)≦Y≦(X−200)を満たすように、ESC電圧Yを演算するように、演算式を設定しておく。
【0042】
ただし、ここで示した具体的なESC電圧の範囲や電位差の範囲は、説明を分かりやすくするために例示した値に過ぎず、実際の適切なESC電圧の範囲や電位差の範囲は、処理ガスの種類、処理圧力、対向電極11、12の材質、対向電極11の寸法形状等に応じて変化する。
【0043】
なお、最適なESC電圧は、例えば、自己バイアス電位に対して数百V(例えば500V等)の電位差である。このため、演算部7は、例えば、「自己バイアス電位+数百V」の電圧、又は、「自己バイアス電位−数百V」の電圧を適切なESC電圧として演算することが好ましい。
【0044】
更に、演算部7は、このような演算により求めたESC電圧を制御部8に通知する。
【0045】
次に、制御部8は、演算部7から通知されたESC電圧を静電チャック5に対して印加するように、直流電源3に指令を送信する。この指令を受けて、直流電源3は、当該指令されたESC電圧を静電チャック5に対して印加する(図2のステップS3)。
【0046】
このようなフィードバック制御により、ウェハ4の自己バイアス電位とESC電圧との電位差が過度に大きくならないようにすることができる。よって、ウェハ4と静電チャック5とにより形成されるコンデンサにおける電荷の蓄積量を抑制できるとともに、この電荷の放出である異常放電の発生を未然に抑制できる。
それと同時に、自己バイアス電位とESC電圧との差を所定範囲に(ある程度以上に)維持できるので、静電チャック5によるウェハ4の保持状態を安定的な状態に維持させることができる。
しかも、自己バイアス電位とESC電圧との差を所定範囲に維持することによって、異常放電が起こりやすい状態の発生を根本的に抑制することができる。
【0047】
プラズマ処理装置100においては、一般のプラズマ処理装置と同様に、プラズマ放電により消費される高周波電力(単位ワット(W))を制御パラメータとし、設定した高周波電力を維持するよう、高周波電源2から対向電極11に印加する高周波電圧を制御する。この高周波電力は、ガスの種類、ガス圧力、ガスに含まれる不純物の量、対向電極11、12の表面材質(或いは表面状態)等の要因により変わる。プラズマ処理中は、これらの要因が経時変化するため、その経時変化に伴って高周波電力が変化するので、高周波電源2から対向電極11に印加する高周波電圧も経時変化する。また、同様に、複数のウェハ4に対するプラズマ処理を繰り返すことによっても、上記の要因が経時変化するため、高周波電源2から対向電極11に印加する高周波電圧も変化する。
更に、このように高周波電源2から対向電極11に印加する高周波電圧が経時変化するのに伴い、プラズマに面する絶縁物の表面電位(ウェハ4の自己バイアス電位)も経時変化する。
【0048】
このため、このような経時変化による影響を抑制するためには、上述した一連のフィードバック制御(図2のステップS1〜S3)を随時に(例えば、一定時間間隔毎に)繰り返し行う。
【0049】
以上のような実施形態によれば、ウェハ4の自己バイアス電位を検知し、この自己バイアス電位との差が所定範囲となるように制御したESC電圧を静電チャック5に印加する。これにより、自己バイアス電位とESC電圧との電位差が過度に大きくならないようにすることができるので、ウェハ4と静電チャック5とにより形成されるコンデンサにおける電荷の蓄積量を抑制できるとともに、この電荷の放出である異常放電の発生を未然に抑制できる。
それと同時に、自己バイアス電位とESC電圧との差を所定範囲に維持できるので、静電チャック5によるウェハ4の保持状態を安定的な状態に維持させることができる。
しかも、自己バイアス電位とESC電圧との差を所定範囲に維持することによって、異常放電が起こりやすい状態の発生を根本的に抑制することができる。
なお、異常放電の発生直前に生じる予兆(電位の急峻な変化)を捉えるのではなく、自己バイアス電位自体(その絶対値)を検知(監視)し、その検知した値に応じてESC電圧を制御する。このため、特許文献4と比べて低頻度の検知(監視)を行うことによっても、或いは、ESC電圧の制御が特許文献4と比べて緩やかであっても、異常放電の発生を未然に抑制可能となることが期待できる。
なお、制御するパラメータが高周波電力であれば、プロセスに大きな影響を与えることが懸念されるが、本実施形態では、高周波電力ではなくESC電圧を制御するため、プロセスに影響をほとんど与えずに済むというメリットもある。
【0050】
〔第2の実施形態〕
上記の第1の実施形態では、高周波電源2から印加する高周波電圧の振幅Vppに基づいてウェハ4の自己バイアス電位を検知する例を説明したが、本実施形態では、プラズマに面する絶縁物の表面電位(フローティング電位)Vfを検出し、この表面電位Vfに基づいてウェハ4の自己バイアス電位を検知する例を説明する。
【0051】
図3は第2の実施形態に係るプラズマ処理装置200の構成を示す模式図である。
【0052】
図3に示すように、本実施形態に係るプラズマ処理装置200の構成は、振幅検出部6に代えて、電位検出部14を備えている点でのみ上記の第1の実施形態に係るプラズマ処理装置100と相違し、その他の点ではプラズマ処理装置100と同様に構成されている。
【0053】
電位検出部14は、プラズマに面する絶縁物の表面電位として、例えば、絶縁性透明窓10の表面電位を検出し、その検出値を演算部7に入力する。この電位検出部14は、例えば、絶縁性透明窓10の表面に形成された電位検出用電極を含むものとして構成することができる。或いは、電位検出部14としては、絶縁プローブを用いることもできる。
【0054】
演算部7は、電位検出部14から入力される検出値に基づいて、ウェハ4の自己バイアス電位を演算する。
ここで、本実施形態の場合、電位検出部14による検出値をそのままウェハ4の自己バイアス電位として用いても良いが、必要に応じてウェハ4と電位検出部14との温度差、電位検出部14の形状等に応じた補正をその検出値に施した値を、ウェハ4の自己バイアス電位として演算しても良い。特に、電位検出部14として絶縁プローブを用いる場合には、このような補正を行うことが好ましい。
【0055】
ウェハ4の自己バイアス電位を求めた後の処理については上記の第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
このような第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0057】
〔第3の実施形態〕
第3の実施形態では、上述した各実施形態の動作に加えて、以下に説明する動作を行うことによって、処理条件の時間変化を小さくし、異常放電の発生を一層確実に抑制する。
【0058】
図4は第3の実施形態に係るプラズマ処理方法の流れを示すフローチャートである。
以下、図4を参照して、本実施形態の動作を説明する。
【0059】
先ず、静電チャック5上にウェハ4を載置し、真空チェンバ1内にガス供給部9から所定の処理ガスの供給を開始する(図4のステップS11)。次に、処理ガスの流量を所定の流量に調節するとともに、真空チェンバ1内を所定の圧力に制御する(図4のステップS12)。ここまでは、上記の第1の実施形態と同様である。
【0060】
次に、高周波電源2から対向電極11に対する高周波電圧の印加を開始するが、本実施形態では、高周波電圧の投入開始時は、所定の処理条件よりも低い高周波電圧を対向電極11に印加する(図4のステップS13)。
【0061】
一方、直流電源3から静電チャック5の対向電極11に対するESC電圧の印加を開始することにより、この静電チャック5によるウェハ4の吸着保持を開始させる。
【0062】
次に、上記の第1の実施形態と同様にウェハ4の自己バイアス電位に応じてESC電圧を随時に制御しながら(図1のステップS1〜S3を随時に行いながら)、高周波電力を所定の処理条件の電力まで徐々に増大させる(図4のステップS14)。
【0063】
このようにすることにより、プラズマ処理開始の際における処理条件の時間変化を小さくできるので、プラズマ処理開始の際における異常放電の発生を一層確実に抑制することができる。
【0064】
以後は、ウェハ4の表面に対し、所定の処理条件でプラズマによるプラズマ処理を行う。また、このプラズマ処理を行う間は、上記の第1の実施形態と同様にウェハ4の自己バイアス電位に応じてESC電圧を随時に制御する(図1のステップS1〜S3を随時に行う)(図4のステップS15、S16)。
【0065】
その後、プラズマ処理を終了させるときは(図4のステップS17)、上記の第1の実施形態と同様にウェハ4の自己バイアス電位に応じてESC電圧を随時に制御しながら(図1のステップS1〜S3を随時に行いながら)、高周波電力を所定の処理条件よりも低い電力へと徐々に低下させる(図4のステップS18)。
【0066】
このようにすることにより、プラズマ処理終了の際における処理条件の時間変化を小さくできるので、プラズマ処理終了の際における異常放電の発生を一層確実に抑制することができる。
【0067】
なお、以上の動作において、制御部8は、高周波電源2から対向電極11に印加される高周波電圧を制御することによって高周波電力を制御する高周波電力制御部として機能する。
【0068】
以上のような第3の実施形態によれば、上記の第1又は第2の実施形態と同様の効果が得られる他に、以下の効果が得られる。
【0069】
すなわち、高周波電力制御部としての制御部8は、プラズマ処理の開始段階において高周波電力を徐々に増大させる第1制御(ステップS14)と、プラズマ処理の終了段階において高周波電力を徐々に減少させる第2制御(ステップS18)と、を行うので、プラズマ処理の開始段階及び終了段階における処理条件の時間変化を小さくして異常放電の発生を抑制することができる。
【0070】
なお、上記の各実施形態では、一方の対向電極11にのみ高周波電圧を印加する例を説明したが、双方の対向電極11、12に高周波電圧を印加しても良い。
【0071】
また、上記の第2の実施形態では、絶縁性透明窓10の電位を検出する例を説明したが、プラズマに面するその他の絶縁物の電位を検出しても良い。また、ウェハ4に直接接触させた電位検出手段によりウェハ4の自己バイアス電位を直接的に検出しても良い。
【0072】
なお、第3の実施形態では、第1制御(ステップS14)と第2制御(ステップS18)との双方を行う例を説明したが、第1制御と第2制御とのうちの少なくとも一方を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 真空チェンバ
2 高周波電源
3 直流電源
4 半導体ウェハ
5 静電チャック
6 振幅検出部
7 演算部
8 制御部
9 ガス供給部
10 絶縁性透明窓
11 対向電極
12 対向電極
13 絶縁被膜
14 電位検出部
100 プラズマ処理装置
200 プラズマ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力によってプラズマを発生させるプラズマ発生機構と、
処理対象物を静電吸着力によって保持する静電チャックと、
前記静電チャックに静電吸着用直流電圧を印加する直流電圧印可部と、
前記処理対象物の自己バイアス電位を検知する電位検知部と、
前記検知された前記自己バイアス電位と前記静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように前記静電吸着用直流電圧を制御する直流電圧制御部と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記電位検知部は、
前記プラズマを発生させるための高周波電圧の振幅を検出する振幅検出部と、
前記検出された前記振幅に基づいて前記自己バイアス電位を演算する自己バイアス電位演算部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電位検知部は、
前記プラズマに面する絶縁物の表面電位を検出する表面電位検出部と、
前記検出された前記表面電位に基づいて前記自己バイアス電位を演算する自己バイアス電位演算部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記高周波電力を制御する高周波電力制御部を更に有し、
前記高周波電力制御部は、プラズマ処理の開始段階において前記高周波電力を徐々に増大させる第1制御と、前記プラズマ処理の終了段階において前記高周波電力を徐々に減少させる第2制御と、のうちの少なくとも一方の制御を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
高周波電圧によってプラズマを発生させる工程と、
静電チャックに静電吸着用直流電圧を印加することにより、処理対象物を静電吸着力によって前記静電チャックにより保持した状態で、前記処理対象物の自己バイアス電位を検知する工程と、
前記検知した前記自己バイアス電位と前記静電吸着用直流電圧との差が所定範囲となるように前記静電吸着用直流電圧を制御する工程と、
を有することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記自己バイアス電位を検知する前記工程は、
前記プラズマを発生させるための高周波電圧の振幅を検出する工程と、
前記検出された前記振幅に基づいて前記自己バイアス電位を演算する工程と、
を含むことを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記自己バイアス電位を検知する前記工程は、
前記プラズマに面する絶縁物の表面電位を検出する工程と、
前記検出された前記表面電位に基づいて前記自己バイアス電位を演算する工程と、
を含むことを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
プラズマ処理の開始段階において前記高周波電力を徐々に増大させる工程と、前記プラズマ処理の終了段階において前記高周波電力を徐々に減少させる工程と、のうちの少なくとも一方の工程を更に有することを特徴とする請求項5乃至7の何れか一項に記載のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−60984(P2011−60984A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208836(P2009−208836)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】