プラズマ処理装置
【課題】解離させるガス分子の種類やその解離エネルギーに応じてプラズマの電子エネルギー分布を容易に制御することができるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るプラズマ処理装置10は、プラズマ処理室11と、プラズマ処理室11と連通するプラズマ生成室12と、プラズマを生成するための高周波アンテナ16と、プラズマ中の電子エネルギーを制御するためのプラズマ制御板17と、プラズマ制御板17の位置を調整するための操作棒171及び移動機構172と、を備える。このプラズマ処理装置10では、移動機構172により操作棒171を長手方向に動かし、高周波アンテナ16とプラズマ制御板17の間の距離を調整するだけで、プラズマ生成室12内で生成されたプラズマの電子エネルギー分布を制御することができるため、解離させるガス分子の種類やその解離エネルギーに応じたプラズマ処理を容易に行うことができる。
【解決手段】本発明に係るプラズマ処理装置10は、プラズマ処理室11と、プラズマ処理室11と連通するプラズマ生成室12と、プラズマを生成するための高周波アンテナ16と、プラズマ中の電子エネルギーを制御するためのプラズマ制御板17と、プラズマ制御板17の位置を調整するための操作棒171及び移動機構172と、を備える。このプラズマ処理装置10では、移動機構172により操作棒171を長手方向に動かし、高周波アンテナ16とプラズマ制御板17の間の距離を調整するだけで、プラズマ生成室12内で生成されたプラズマの電子エネルギー分布を制御することができるため、解離させるガス分子の種類やその解離エネルギーに応じたプラズマ処理を容易に行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板に対して堆積(製膜)やエッチングなどの所定の処理を行うためのプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上に薄膜を形成する製膜工程や、基板に対するエッチング工程などでは、プラズマ処理装置が用いられている。プラズマ処理装置には容量結合型など様々な型のものがあるが、それらの中でも誘導結合型プラズマ処理装置は、高密度のプラズマを生成することができるため処理速度が速いという特長を有する(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
プラズマ処理装置によるシリコン薄膜の形成は、通常、以下のように行われる。まず水素(H2)ガスとシラン(SiH4)ガスを真空容器内に導入し、放電電力を投入することにより真空容器内にプラズマを生成する。この際、水素ガス及びシランガスが分解され、これにより生成された原子状水素ラジカル及びシラン系ラジカル(SiH3, SiH2, SiH, Si)が真空容器内で拡散して基板表面に到達し、シリコン薄膜が基板表面に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-286536号公報([0003])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の手法にて微結晶シリコン薄膜を形成するには、シラン系ラジカルと原子状水素ラジカルを高密度に生成することが重要である。この際に電子衝突によって水素分子を解離するためには、SiH4分子の解離に要する電子エネルギーよりも高い電子エネルギーが必要となる。
【0006】
特に微結晶シリコン薄膜の形成では、アモルファスシリコン薄膜の形成に比べて原子状水素ラジカルを高密度に生成することが不可欠である。このため、水素分子を解離して原子状水素ラジカルを生成することが可能なエネルギーを有する電子を増加させたりあるいはプラズマ密度を高めたりすると、高密度の原子状水素ラジカルの生成は可能となるが、同時にシラン系分子の著しい解離を生じるため、SiH2、SiH、Siといった付着係数の高いラジカルを生じることになる。
【0007】
しかしながら、膜密度が高く、膜中欠陥(ダングリングボンド)が少ない良質な微結晶シリコン薄膜を形成するには、付着係数が0.1程度のSiH3ラジカルの密度を高めることが重要であり、過度の分解によるSiH2、SiH、Siラジカルの生成は、膜中の欠陥形成や膜密度の低下を招くと共に、気相において高次シランラジカル(SixHy(X>2))を生成し、更なる膜中の欠陥形成を招いてしまうことが問題となる。
【0008】
従来のプラズマ処理装置ではシラン系分子の過度な分解を抑制しつつ、高密度の原子状水素ラジカルを生成することは困難であった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ガス分子の種類やその解離エネルギーに応じてプラズマの電子エネルギー分布を容易に制御することができるプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るプラズマ処理装置は、
プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室内に設けられた高周波アンテナと、プラズマを生成するためのガスを前記プラズマ生成室内に導入するプラズマ生成ガス導入手段と、前記プラズマ生成室と連通するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内に処理ガスを導入する処理ガス導入手段と、を備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成室内に設けられ、前記高周波アンテナとの距離を変更可能なプラズマ制御板と、
前記プラズマ制御板を移動させるための移動手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
なお、前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室に差圧を生成する差圧生成手段を用いることが望ましい。差圧生成手段を用いてプラズマ生成室の圧力をプラズマ処理室よりも高くすることにより、プラズマ処理室内の処理ガスがプラズマ生成室内に侵入して処理ガスの解離が過度に進行することを防ぐことができる。差圧生成手段には、貫通孔を多数有する板材を前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に設けたものや、前記処理ガス導入手段であって前記プラズマ処理室側に孔を有する処理ガス導入管を、隙間を設けて多数、前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に並べたものを用いることができる。
【0012】
また、本発明に係るプラズマ処理装置では、被処理基板の大面積化に対応し、複数のプラズマ生成室を備えることができる。この際、例えばプラズマ生成室がプラズマ処理室の1つの壁面に一定の間隔をおいて配置され、これらのプラズマ生成室の間に、プラズマ処理室内の排気を行う排気手段と排気量を調整する排気量調整手段が設けられているという構成を用いることが望ましい。これらの排気手段及び排気量調整手段はプラズマ処理室内に導入された処理ガスがプラズマ処理室内に存在する時間をほぼ一定に保つためのものであり、これによりプラズマ生成室で生成されたプラズマによりプラズマ処理室内の処理ガスの解離が進みすぎてしまうことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るプラズマ処理装置は、プラズマ生成室内に設けられたプラズマ制御板を該プラズマ生成室内の高周波アンテナの間の距離を調整することで、プラズマの電子エネルギー分布を制御するというものである。高周波アンテナにプラズマ制御板を近づけると、プラズマ生成室内で生成されたプラズマ中の電子が該プラズマ制御板との衝突によって消滅し、電子密度が低下する。この電子密度の低下によりプラズマ内の電子同士の衝突が減少するため、プラズマ内には高いエネルギーの電子が多く残ることになる。これにより電子エネルギー分布において高エネルギー領域の電子の割合が増加する。このようにプラズマ制御板と高周波アンテナの間の距離を調整するだけで電子エネルギー分布を制御することができるため、ガス分子の種類に応じてその解離度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対するプラズマ特性の変化を調べるための実験装置を示す概略縦断面図(a)及び概略横断面図(b)。
【図2】高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対する電子温度の変化を示すグラフ(a)、及び電子密度の変化を示すグラフ(b)。
【図3】高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対する電子エネルギー分布の変化を示すグラフ(a)、及びその相対比の変化を示すグラフ(b)。
【図4】本発明に係るプラズマ処理装置の第1実施例を示す概略縦断面図。
【図5】プラズマ生成室とプラズマ処理室の境界に設けられた仕切り板を示す下面図。
【図6】本発明に係るプラズマ処理装置の第2実施例を示す概略縦断面図。
【図7】本発明に係るプラズマ処理装置の第3実施例を示す概略縦断面図。
【図8】第3実施例のプラズマ処理装置の第1の変形例を示す概略縦断面図。
【図9】第3実施例のプラズマ処理装置の第2の変形例を示す概略縦断面図(a)、及び該変形例で用いた仕切り板を示す下面図(b)。
【図10】SiH4ガスの電子衝突による反応断面積を示すグラフ。
【図11】プラズマ中の電子エネルギー分布の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対するプラズマ特性の変化について、図1の概略図に示す実験装置を用いて実験を行った。
この実験装置は、鉛直(以下、「縦」又は「上下」と称す)方向及び水平(以下、「横」と称す)方向に延びる直径150mmの2つの円筒管が互いにクロスした構造を有するステンレス製のクロス管チャンバ51と、クロス管チャンバ51の横方向に延びる円筒管の一方の端部からクロス管チャンバ51内に介挿された、U字形導体から成る高周波アンテナ52と、もう一方の端部からクロス管チャンバ51内に介挿された、プラズマの各種状態を測定するためのラングミュアプローブ53と、高周波アンテナ52の両側の等間隔の位置に配置した縦280mm、横97mm、厚さ6mmの2枚のアルミニウム製平板から成るプラズマ制御板54と、を有する。
【0016】
高周波アンテナ52は、U字の両端を上下に並べてチャンバ51内に介挿されている。ここで、高周波アンテナ52の一方の端部にはインピーダンス整合器521を介して周波数13.56MHz、最大出力1250Wの高周波電源522が接続されおり、もう一方の端部は接地されている。また、アンテナ導体がプラズマにスパッタされることを防ぐため、チャンバ51の内部では高周波アンテナ52は誘電体製のパイプで覆われている。なお、チャンバ51の内部における高周波アンテナ52の寸法は縦55mm、横110mmである。
【0017】
プラズマ制御板54は、その面に垂直な方向に延びる操作棒及び移動機構(図示せず)が取り付けられている。この操作棒は移動機構によって長手方向に移動させることができるため、プラズマ制御板54と高周波アンテナ52の距離を自由に調節することができる。
【0018】
また、図示していないものの、上下方向に延びる円筒管の上部にはプラズマ生成用のガスをチャンバ51内に導入する導入口が設けられており、下部にはチャンバ51内の真空排気を行う排気口が設けられている。
【0019】
以上の構造の実験装置を用いて、高周波アンテナ52とプラズマ制御板54の間の距離Dに対するプラズマ特性の変化を調べた。その実験結果を図2及び3に示す。実験条件は、プラズマ生成ガスとして水素を流量5sccmで導入し、高周波電源の出力を800W、チャンバ51内の圧力を10Paとした。また、ラングミュアプローブ53の先端と高周波アンテナ52との距離を120mmとしてプラズマの計測を行った。なお、図中に示すD=75mmのデータは、プラズマ制御板54を実験装置から取り除いた場合の実験結果である。
【0020】
図2の(a)及び(b)に示すように、距離Dが短くなるほど電子温度は増加し、電子密度は低下する。さらに、図3の実験データから距離Dが短くなるほど高エネルギー領域の電子の割合が増加していることが分かる。図2の各データから、プラズマ中の電子がプラズマ制御板54との衝突により消滅し、電子密度が低下することでプラズマ中の電子同士の衝突が減り、その結果、高エネルギーの電子が多く残るためであると推測される。
【0021】
以上の実験結果から、本願発明者はプラズマ中の電子エネルギー分布の制御に、プラズマ制御板を用いて高周波アンテナとの距離を調整することが有効であるとの知見を得ることができた。以下、本発明に係るプラズマ処理装置の実施例を示す。
【実施例1】
【0022】
本発明に係るプラズマ処理装置の第1実施例を図4の概略縦断面図に示す。本実施例のプラズマ処理装置10は、直方体状の真空容器から成るプラズマ処理室11と、同じく直方体状の真空容器から成る、プラズマ処理室11の天板(上壁)111に取り付けられたプラズマ生成室12とを有する。また、プラズマ処理室11とプラズマ生成室12の境界には、プラズマ処理室11とプラズマ生成室12に差圧を生成するための、多数の貫通孔131が設けられた仕切り板13が配置されている。
【0023】
プラズマ処理室11内には、仕切り板13と対向するように、基板Sを載置するための基板台14が設けられている。基板台14にはヒータが内蔵されており、必要に応じて薄膜生成中に基板Sを加熱することができる。また、プラズマ処理室11内の仕切り板13と基板台14の間の位置に、プラズマ処理室11内に処理ガスを導入するための処理ガス導入口15が設けられている。プラズマ処理室11の下部には、プラズマ処理室内の排気を行う排気口19が設けられている。
【0024】
プラズマ生成室12内には、棒状の導体をU字形に曲げて成る高周波アンテナ16が設けられている。高周波アンテナ16の両端はプラズマ生成室12の上壁に取り付けられており、図1の実験装置と同様、一端はインピーダンス整合器161を介して高周波電源162に接続され、他端は接地されている。
【0025】
また、高周波アンテナ16を挟むように、プラズマ制御板17が2枚、高周波アンテナ16から等距離の位置に配置されている。プラズマ制御板17には操作棒171が取り付けられており、移動機構172により操作棒171を長手方向にプラズマ制御板17を移動させることができる。制御板17の移動手段であるこれらの操作棒171及び移動機構172の働きにより、プラズマ制御板17と高周波アンテナ16の距離を調節することができる。また、プラズマ生成室12の壁には、室内にプラズマ生成ガスを導入するためのプラズマ生成ガス導入口18が設けられている。
【0026】
第1実施例のプラズマ処理装置10の動作を、シリコン薄膜を生成する場合を例に説明する。
まず、プラズマ生成室12内に、プラズマ生成ガス導入口18からプラズマ生成ガスとして水素(H2)ガスを導入すると共に、プラズマ処理室11内に、処理ガス導入口15から処理ガスとしてSiH4ガスを含有する気体を導入する。ここで、プラズマ処理室11内の圧力は1Pa以下とし、プラズマ生成室12内の圧力はプラズマ処理室11内よりも高い2Paとする。このようにプラズマ処理室11とプラズマ生成室12に差圧を設けることで、プラズマ処理室11内に導入された処理ガス(SiH4ガス)が、仕切り板13の貫通孔を通してプラズマ生成室12内に入り込むことを防ぐことができる。
【0027】
次に、高周波アンテナ16に周波数13.56MHz、電力1000Wの高周波電力を投入する。これにより、プラズマ生成室12内において原子状水素ラジカルと電子を含むプラズマが生成される。プラズマ生成室12で生成されたプラズマは、仕切り板13の貫通孔を通過してプラズマ処理室11内に拡散し、同様にプラズマ生成室より拡散してきた電子により処理ガス導入口15から導入されたSiH4ガスが分解して、SiH3を含むシラン系ラジカルが生成される。そして、プラズマ生成室で生成され、仕切り板13の貫通孔を通過してきた水素ラジカルと、プラズマ処理室で生成されたシラン系ラジカルとにより、基板S上にシリコン薄膜が形成される。なお、シリコン薄膜の製膜中には、ヒータにより基板Sの温度が200℃に維持される。
【0028】
以上は従来のプラズマ処理装置の動作とほぼ同じであるが、本実施例のプラズマ処理装置10に特有の機能として、プラズマ制御板17と高周波アンテナ16の間の距離を調整することで、プラズマ生成室12内のプラズマの電子エネルギー分布を制御することができる。上記の実験で示したように、高周波アンテナ16にプラズマ制御板17を近づけることで高エネルギー領域の電子の割合が増加する。このため、原子状水素ラジカルの生成を促進させることができる。また、ラジカルの解離反応が進みすぎないようにプラズマの電子温度を微調整することもできる。このようにプラズマの電子エネルギー分布や電子温度を制御・調整することにより、膜質の高い薄膜を製造することが可能となる。
【0029】
さらに従来のプラズマ処理装置では実現することが困難な本実施例のプラズマ処理装置10に特有の機能は、プラズマ生成室12とプラズマ処理室11との間に仕切り板13を介しプラズマ生成室12の圧力をプラズマ処理室11の圧力より高めることで、プラズマ処理室11に導入したSiH4ガスが、高エネルギー電子の割合の高いプラズマ生成室12に逆流して該プラズマ生成室12内のアンテナ16近傍の領域を通過することを抑制し、SiH4分子の過度な解離を抑制できることである。さらに、本実施例のように、プラズマ生成室12で生成したプラズマを仕切り板13を介してプラズマ処理室11に導入した拡散プラズマの電子エネルギー分布は、プラズマ生成室12で生成されたプラズマの電子エネルギー分布と比較して、高エネルギー電子の割合が低くなる。このため、プラズマ処理室11内における該拡散プラズマによるSiH4ガスの過度な解離は効果的に抑制される。従来のプラズマ処理装置では、高密度の原子状水素ラジカルを生成しようとすると、同じプラズマ生成領域をSiH4分子が通過するためSiH4ガスの過度な解離を抑制することが困難であったが、本実施例のプラズマ処理装置10では、プラズマ生成室12でのH2ガスの解離により原子状水素ラジカルを生成する反応領域とプラズマ処理室11でSiH4ガスを解離する反応領域とを空間的に分離することが可能である。このため従来は、高密度の原子状水素ラジカルの生成とSiH4ガスの過度な解離の抑制を両立させることが困難であったが、本実施例のプラズマ処理装置では、高密度の原子状水素ラジカルの生成とSiH4ガスの過度な解離抑制を両立させ、基板上で良質のシリコン薄膜を形成することが可能である。
【0030】
なお、仕切り板13としては、貫通孔131のみが設けられたもの(図5(a))の他に、処理ガス導入孔132が設けられたもの(図5 (b))を用いることもできる。この処理ガス導入孔132は、仕切り板13のプラズマ処理室11側の面にのみ設けられており、板材の中に埋め込まれた処理ガス導入管1321に導入された処理ガスをプラズマ処理室11内に送ることができる。このような構造を採ることにより、貫通孔131の近傍から処理ガスを導入することができるため、貫通孔131を通ってプラズマ処理室11に導入された拡散プラズマにより、効率良く処理ガスを分解させると共に、処理ガスの過度な解離を抑制することができる。
【0031】
また本実施例ではシリコン薄膜を形成する例を挙げているが、酸化膜や窒化膜を形成する場合においても本実施例のプラズマ処理装置10を有効に用いることができる。酸化膜を形成する場合、プラズマ生成室12に酸素ガスを導入して高密度の原子状酸素ラジカルを生成すると同時に、プラズマ処理室11に有機金属ガス(例えばTMAl (tri-methyl-aluminum):アルミニウムの原料)を導入することにより、基板上で良質な酸化膜を形成することができる。また、窒素膜の場合においてもプラズマ生成室12にアンモニア(NH3)ガスを導入し高密度の原子状窒素ラジカルを生成し、プラズマ処理室11に導入する有機金属ガスと反応させて窒化膜を形成する。
【0032】
なお、プラズマ制御板17と高周波アンテナ16の間の距離は、製膜条件に応じて適宜設定される。例えば、上記距離を変えながら予備実験を行った結果に基づいて該距離を設定しておき、薄膜の作製中には該距離を固定するようにしてもよい。あるいは、ラングミュアプローブを用いてプラズマ生成室12内又は/及びプラズマ処理室11内の電子エネルギーを測定しながら随時該距離を変化するようにしてもよい。
【実施例2】
【0033】
図6に、本発明に係るプラズマ処理装置の第2実施例の概略縦断面図を示す。本実施例のプラズマ処理装置20は、複数のプラズマ生成室22を設けたものである。プラズマ生成室22を複数設けた以外は、第1実施例のプラズマ処理装置と同様の構成を有する。
【0034】
本実施例のプラズマ処理装置20では、各々のプラズマ生成室22において独立にプラズマ制御板17の位置を調節することにより、各プラズマ生成室22のプラズマの電子エネルギーを個別に且つ容易に制御できる。これにより、基板Sの各部の堆積速度が均一になるよう制御することができるため、大面積の基板に対しても均一性が高い薄膜を製造することが可能となる。また、各プラズマ生成室で異なるガスを導入するなど、プラズマの状態を個別に変化させることができ、自由度の高い製膜を行うこともできる。
【実施例3】
【0035】
図7に、本発明に係るプラズマ処理装置の第3実施例の概略縦断面図を示す。本実施例のプラズマ処理装置30は、第2実施例で示したプラズマ処理装置20において、複数あるプラズマ生成室22の間の天板111に、プラズマ処理室11内の排気を行う上部排気口31を新たに設けたものである。この上部排気口31には、図示しない真空ポンプ(排気手段)及び真空ポンプの排気量の調整を行う排気量調整部が備わっている。
【0036】
通常、プラズマ処理室11内の真空排気は、基板Sよりも下部に配置された排気口(下部排気口)19を通して行われる。これは、製膜に用いられる処理ガスが必要以上に排気されないようにするためである。一方、本実施例のプラズマ処理装置30では、それとは異なる排気口(具体的には上部排気口31)を均等にプラズマ処理室11内に配置し、それぞれの排気量を排気量調整部で調整することでプラズマ処理室11内に導入された処理ガスがプラズマ処理室内に存在する時間をほぼ一定に保つように調整している。これにより、プラズマ生成室で生成されたプラズマによりプラズマ処理室内の処理ガスの解離が進みすぎてしまうことを防ぐことができるため、より膜質が高い大面積のシリコン薄膜、酸化膜、窒化膜などの半導体膜を基板上に形成することができる。
【0037】
なお、この上部排気口31を設けることは、図8に示すプラズマ制御板17を備えていない構造のプラズマ処理装置に対しても好適に用いることができる。
【0038】
また、第3実施例の別の変形例として、図9に示す構造のプラズマ処理装置を用いることもできる。このプラズマ処理装置は、複数のプラズマ生成室22を、仕切り板13を介してプラズマ処理室11に接続したものである。図9(a)の縦断面図及び図9(b)の下面図に示すように、仕切り板13には、各プラズマ生成室22の直下では貫通孔131及び処理ガス導入孔132が設けられ、各プラズマ生成室22の間の領域では排気孔133が設けられている。この排気孔133が第3実施例の上部排気口31に相当することになる。排気孔133は、仕切り板13の板材に埋め込まれた排気管1331と繋がっており、排気管1331に設けられた図示しない真空ポンプ及び排気量調整部により、プラズマ処理室11内に導入された処理ガスがプラズマ処理室内に存在する時間をほぼ一定に保つように調整する。
【0039】
以上、本発明に係るプラズマ処理装置の第1〜第3実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例には限定されない。例えば、上記各実施例ではU字形の高周波アンテナを用いる例を示したが、板状の高周波アンテナや巻回コイルなど、従来の誘導結合型プラズマ処理装置で用いられている高周波アンテナを使用してすることもできる。また、高周波アンテナは、上記実施例ではプラズマ生成室内に一個ずつ設けたが、各プラズマ生成室内に複数個設けることもできる。また、プラズマ生成室の外に設けることもできる。
また、上記各実施例では、製膜プロセスについて説明したが、本発明は製膜プロセスには限定されない。例えばエッチングプロセスやアッシングプロセス或いはクリーニングプロセスを始めとするラジカル密度制御が必要なプラズマプロセスにも用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
10、20、30…プラズマ処理装置
11…プラズマ処理室
111…天板
12、22…プラズマ生成室
13…仕切り板
131…貫通孔
132…処理ガス導入孔
1321…処理ガス導入管
133…排気孔
1331…排気管
14…基板台
15…処理ガス導入口
16…高周波アンテナ
161、521…インピーダンス整合器
162、522…高周波電源
17、54…プラズマ制御板
171…操作棒
172…移動機構
18…プラズマ生成ガス導入口
19…排気口(下部排気口)
31…上部排気口
51…クロス管チャンバ
52…高周波アンテナ
53…ラングミュアプローブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板に対して堆積(製膜)やエッチングなどの所定の処理を行うためのプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上に薄膜を形成する製膜工程や、基板に対するエッチング工程などでは、プラズマ処理装置が用いられている。プラズマ処理装置には容量結合型など様々な型のものがあるが、それらの中でも誘導結合型プラズマ処理装置は、高密度のプラズマを生成することができるため処理速度が速いという特長を有する(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
プラズマ処理装置によるシリコン薄膜の形成は、通常、以下のように行われる。まず水素(H2)ガスとシラン(SiH4)ガスを真空容器内に導入し、放電電力を投入することにより真空容器内にプラズマを生成する。この際、水素ガス及びシランガスが分解され、これにより生成された原子状水素ラジカル及びシラン系ラジカル(SiH3, SiH2, SiH, Si)が真空容器内で拡散して基板表面に到達し、シリコン薄膜が基板表面に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-286536号公報([0003])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の手法にて微結晶シリコン薄膜を形成するには、シラン系ラジカルと原子状水素ラジカルを高密度に生成することが重要である。この際に電子衝突によって水素分子を解離するためには、SiH4分子の解離に要する電子エネルギーよりも高い電子エネルギーが必要となる。
【0006】
特に微結晶シリコン薄膜の形成では、アモルファスシリコン薄膜の形成に比べて原子状水素ラジカルを高密度に生成することが不可欠である。このため、水素分子を解離して原子状水素ラジカルを生成することが可能なエネルギーを有する電子を増加させたりあるいはプラズマ密度を高めたりすると、高密度の原子状水素ラジカルの生成は可能となるが、同時にシラン系分子の著しい解離を生じるため、SiH2、SiH、Siといった付着係数の高いラジカルを生じることになる。
【0007】
しかしながら、膜密度が高く、膜中欠陥(ダングリングボンド)が少ない良質な微結晶シリコン薄膜を形成するには、付着係数が0.1程度のSiH3ラジカルの密度を高めることが重要であり、過度の分解によるSiH2、SiH、Siラジカルの生成は、膜中の欠陥形成や膜密度の低下を招くと共に、気相において高次シランラジカル(SixHy(X>2))を生成し、更なる膜中の欠陥形成を招いてしまうことが問題となる。
【0008】
従来のプラズマ処理装置ではシラン系分子の過度な分解を抑制しつつ、高密度の原子状水素ラジカルを生成することは困難であった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ガス分子の種類やその解離エネルギーに応じてプラズマの電子エネルギー分布を容易に制御することができるプラズマ処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るプラズマ処理装置は、
プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室内に設けられた高周波アンテナと、プラズマを生成するためのガスを前記プラズマ生成室内に導入するプラズマ生成ガス導入手段と、前記プラズマ生成室と連通するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内に処理ガスを導入する処理ガス導入手段と、を備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成室内に設けられ、前記高周波アンテナとの距離を変更可能なプラズマ制御板と、
前記プラズマ制御板を移動させるための移動手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
なお、前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室に差圧を生成する差圧生成手段を用いることが望ましい。差圧生成手段を用いてプラズマ生成室の圧力をプラズマ処理室よりも高くすることにより、プラズマ処理室内の処理ガスがプラズマ生成室内に侵入して処理ガスの解離が過度に進行することを防ぐことができる。差圧生成手段には、貫通孔を多数有する板材を前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に設けたものや、前記処理ガス導入手段であって前記プラズマ処理室側に孔を有する処理ガス導入管を、隙間を設けて多数、前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に並べたものを用いることができる。
【0012】
また、本発明に係るプラズマ処理装置では、被処理基板の大面積化に対応し、複数のプラズマ生成室を備えることができる。この際、例えばプラズマ生成室がプラズマ処理室の1つの壁面に一定の間隔をおいて配置され、これらのプラズマ生成室の間に、プラズマ処理室内の排気を行う排気手段と排気量を調整する排気量調整手段が設けられているという構成を用いることが望ましい。これらの排気手段及び排気量調整手段はプラズマ処理室内に導入された処理ガスがプラズマ処理室内に存在する時間をほぼ一定に保つためのものであり、これによりプラズマ生成室で生成されたプラズマによりプラズマ処理室内の処理ガスの解離が進みすぎてしまうことを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るプラズマ処理装置は、プラズマ生成室内に設けられたプラズマ制御板を該プラズマ生成室内の高周波アンテナの間の距離を調整することで、プラズマの電子エネルギー分布を制御するというものである。高周波アンテナにプラズマ制御板を近づけると、プラズマ生成室内で生成されたプラズマ中の電子が該プラズマ制御板との衝突によって消滅し、電子密度が低下する。この電子密度の低下によりプラズマ内の電子同士の衝突が減少するため、プラズマ内には高いエネルギーの電子が多く残ることになる。これにより電子エネルギー分布において高エネルギー領域の電子の割合が増加する。このようにプラズマ制御板と高周波アンテナの間の距離を調整するだけで電子エネルギー分布を制御することができるため、ガス分子の種類に応じてその解離度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対するプラズマ特性の変化を調べるための実験装置を示す概略縦断面図(a)及び概略横断面図(b)。
【図2】高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対する電子温度の変化を示すグラフ(a)、及び電子密度の変化を示すグラフ(b)。
【図3】高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対する電子エネルギー分布の変化を示すグラフ(a)、及びその相対比の変化を示すグラフ(b)。
【図4】本発明に係るプラズマ処理装置の第1実施例を示す概略縦断面図。
【図5】プラズマ生成室とプラズマ処理室の境界に設けられた仕切り板を示す下面図。
【図6】本発明に係るプラズマ処理装置の第2実施例を示す概略縦断面図。
【図7】本発明に係るプラズマ処理装置の第3実施例を示す概略縦断面図。
【図8】第3実施例のプラズマ処理装置の第1の変形例を示す概略縦断面図。
【図9】第3実施例のプラズマ処理装置の第2の変形例を示す概略縦断面図(a)、及び該変形例で用いた仕切り板を示す下面図(b)。
【図10】SiH4ガスの電子衝突による反応断面積を示すグラフ。
【図11】プラズマ中の電子エネルギー分布の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、高周波アンテナとプラズマ制御板の間の距離に対するプラズマ特性の変化について、図1の概略図に示す実験装置を用いて実験を行った。
この実験装置は、鉛直(以下、「縦」又は「上下」と称す)方向及び水平(以下、「横」と称す)方向に延びる直径150mmの2つの円筒管が互いにクロスした構造を有するステンレス製のクロス管チャンバ51と、クロス管チャンバ51の横方向に延びる円筒管の一方の端部からクロス管チャンバ51内に介挿された、U字形導体から成る高周波アンテナ52と、もう一方の端部からクロス管チャンバ51内に介挿された、プラズマの各種状態を測定するためのラングミュアプローブ53と、高周波アンテナ52の両側の等間隔の位置に配置した縦280mm、横97mm、厚さ6mmの2枚のアルミニウム製平板から成るプラズマ制御板54と、を有する。
【0016】
高周波アンテナ52は、U字の両端を上下に並べてチャンバ51内に介挿されている。ここで、高周波アンテナ52の一方の端部にはインピーダンス整合器521を介して周波数13.56MHz、最大出力1250Wの高周波電源522が接続されおり、もう一方の端部は接地されている。また、アンテナ導体がプラズマにスパッタされることを防ぐため、チャンバ51の内部では高周波アンテナ52は誘電体製のパイプで覆われている。なお、チャンバ51の内部における高周波アンテナ52の寸法は縦55mm、横110mmである。
【0017】
プラズマ制御板54は、その面に垂直な方向に延びる操作棒及び移動機構(図示せず)が取り付けられている。この操作棒は移動機構によって長手方向に移動させることができるため、プラズマ制御板54と高周波アンテナ52の距離を自由に調節することができる。
【0018】
また、図示していないものの、上下方向に延びる円筒管の上部にはプラズマ生成用のガスをチャンバ51内に導入する導入口が設けられており、下部にはチャンバ51内の真空排気を行う排気口が設けられている。
【0019】
以上の構造の実験装置を用いて、高周波アンテナ52とプラズマ制御板54の間の距離Dに対するプラズマ特性の変化を調べた。その実験結果を図2及び3に示す。実験条件は、プラズマ生成ガスとして水素を流量5sccmで導入し、高周波電源の出力を800W、チャンバ51内の圧力を10Paとした。また、ラングミュアプローブ53の先端と高周波アンテナ52との距離を120mmとしてプラズマの計測を行った。なお、図中に示すD=75mmのデータは、プラズマ制御板54を実験装置から取り除いた場合の実験結果である。
【0020】
図2の(a)及び(b)に示すように、距離Dが短くなるほど電子温度は増加し、電子密度は低下する。さらに、図3の実験データから距離Dが短くなるほど高エネルギー領域の電子の割合が増加していることが分かる。図2の各データから、プラズマ中の電子がプラズマ制御板54との衝突により消滅し、電子密度が低下することでプラズマ中の電子同士の衝突が減り、その結果、高エネルギーの電子が多く残るためであると推測される。
【0021】
以上の実験結果から、本願発明者はプラズマ中の電子エネルギー分布の制御に、プラズマ制御板を用いて高周波アンテナとの距離を調整することが有効であるとの知見を得ることができた。以下、本発明に係るプラズマ処理装置の実施例を示す。
【実施例1】
【0022】
本発明に係るプラズマ処理装置の第1実施例を図4の概略縦断面図に示す。本実施例のプラズマ処理装置10は、直方体状の真空容器から成るプラズマ処理室11と、同じく直方体状の真空容器から成る、プラズマ処理室11の天板(上壁)111に取り付けられたプラズマ生成室12とを有する。また、プラズマ処理室11とプラズマ生成室12の境界には、プラズマ処理室11とプラズマ生成室12に差圧を生成するための、多数の貫通孔131が設けられた仕切り板13が配置されている。
【0023】
プラズマ処理室11内には、仕切り板13と対向するように、基板Sを載置するための基板台14が設けられている。基板台14にはヒータが内蔵されており、必要に応じて薄膜生成中に基板Sを加熱することができる。また、プラズマ処理室11内の仕切り板13と基板台14の間の位置に、プラズマ処理室11内に処理ガスを導入するための処理ガス導入口15が設けられている。プラズマ処理室11の下部には、プラズマ処理室内の排気を行う排気口19が設けられている。
【0024】
プラズマ生成室12内には、棒状の導体をU字形に曲げて成る高周波アンテナ16が設けられている。高周波アンテナ16の両端はプラズマ生成室12の上壁に取り付けられており、図1の実験装置と同様、一端はインピーダンス整合器161を介して高周波電源162に接続され、他端は接地されている。
【0025】
また、高周波アンテナ16を挟むように、プラズマ制御板17が2枚、高周波アンテナ16から等距離の位置に配置されている。プラズマ制御板17には操作棒171が取り付けられており、移動機構172により操作棒171を長手方向にプラズマ制御板17を移動させることができる。制御板17の移動手段であるこれらの操作棒171及び移動機構172の働きにより、プラズマ制御板17と高周波アンテナ16の距離を調節することができる。また、プラズマ生成室12の壁には、室内にプラズマ生成ガスを導入するためのプラズマ生成ガス導入口18が設けられている。
【0026】
第1実施例のプラズマ処理装置10の動作を、シリコン薄膜を生成する場合を例に説明する。
まず、プラズマ生成室12内に、プラズマ生成ガス導入口18からプラズマ生成ガスとして水素(H2)ガスを導入すると共に、プラズマ処理室11内に、処理ガス導入口15から処理ガスとしてSiH4ガスを含有する気体を導入する。ここで、プラズマ処理室11内の圧力は1Pa以下とし、プラズマ生成室12内の圧力はプラズマ処理室11内よりも高い2Paとする。このようにプラズマ処理室11とプラズマ生成室12に差圧を設けることで、プラズマ処理室11内に導入された処理ガス(SiH4ガス)が、仕切り板13の貫通孔を通してプラズマ生成室12内に入り込むことを防ぐことができる。
【0027】
次に、高周波アンテナ16に周波数13.56MHz、電力1000Wの高周波電力を投入する。これにより、プラズマ生成室12内において原子状水素ラジカルと電子を含むプラズマが生成される。プラズマ生成室12で生成されたプラズマは、仕切り板13の貫通孔を通過してプラズマ処理室11内に拡散し、同様にプラズマ生成室より拡散してきた電子により処理ガス導入口15から導入されたSiH4ガスが分解して、SiH3を含むシラン系ラジカルが生成される。そして、プラズマ生成室で生成され、仕切り板13の貫通孔を通過してきた水素ラジカルと、プラズマ処理室で生成されたシラン系ラジカルとにより、基板S上にシリコン薄膜が形成される。なお、シリコン薄膜の製膜中には、ヒータにより基板Sの温度が200℃に維持される。
【0028】
以上は従来のプラズマ処理装置の動作とほぼ同じであるが、本実施例のプラズマ処理装置10に特有の機能として、プラズマ制御板17と高周波アンテナ16の間の距離を調整することで、プラズマ生成室12内のプラズマの電子エネルギー分布を制御することができる。上記の実験で示したように、高周波アンテナ16にプラズマ制御板17を近づけることで高エネルギー領域の電子の割合が増加する。このため、原子状水素ラジカルの生成を促進させることができる。また、ラジカルの解離反応が進みすぎないようにプラズマの電子温度を微調整することもできる。このようにプラズマの電子エネルギー分布や電子温度を制御・調整することにより、膜質の高い薄膜を製造することが可能となる。
【0029】
さらに従来のプラズマ処理装置では実現することが困難な本実施例のプラズマ処理装置10に特有の機能は、プラズマ生成室12とプラズマ処理室11との間に仕切り板13を介しプラズマ生成室12の圧力をプラズマ処理室11の圧力より高めることで、プラズマ処理室11に導入したSiH4ガスが、高エネルギー電子の割合の高いプラズマ生成室12に逆流して該プラズマ生成室12内のアンテナ16近傍の領域を通過することを抑制し、SiH4分子の過度な解離を抑制できることである。さらに、本実施例のように、プラズマ生成室12で生成したプラズマを仕切り板13を介してプラズマ処理室11に導入した拡散プラズマの電子エネルギー分布は、プラズマ生成室12で生成されたプラズマの電子エネルギー分布と比較して、高エネルギー電子の割合が低くなる。このため、プラズマ処理室11内における該拡散プラズマによるSiH4ガスの過度な解離は効果的に抑制される。従来のプラズマ処理装置では、高密度の原子状水素ラジカルを生成しようとすると、同じプラズマ生成領域をSiH4分子が通過するためSiH4ガスの過度な解離を抑制することが困難であったが、本実施例のプラズマ処理装置10では、プラズマ生成室12でのH2ガスの解離により原子状水素ラジカルを生成する反応領域とプラズマ処理室11でSiH4ガスを解離する反応領域とを空間的に分離することが可能である。このため従来は、高密度の原子状水素ラジカルの生成とSiH4ガスの過度な解離の抑制を両立させることが困難であったが、本実施例のプラズマ処理装置では、高密度の原子状水素ラジカルの生成とSiH4ガスの過度な解離抑制を両立させ、基板上で良質のシリコン薄膜を形成することが可能である。
【0030】
なお、仕切り板13としては、貫通孔131のみが設けられたもの(図5(a))の他に、処理ガス導入孔132が設けられたもの(図5 (b))を用いることもできる。この処理ガス導入孔132は、仕切り板13のプラズマ処理室11側の面にのみ設けられており、板材の中に埋め込まれた処理ガス導入管1321に導入された処理ガスをプラズマ処理室11内に送ることができる。このような構造を採ることにより、貫通孔131の近傍から処理ガスを導入することができるため、貫通孔131を通ってプラズマ処理室11に導入された拡散プラズマにより、効率良く処理ガスを分解させると共に、処理ガスの過度な解離を抑制することができる。
【0031】
また本実施例ではシリコン薄膜を形成する例を挙げているが、酸化膜や窒化膜を形成する場合においても本実施例のプラズマ処理装置10を有効に用いることができる。酸化膜を形成する場合、プラズマ生成室12に酸素ガスを導入して高密度の原子状酸素ラジカルを生成すると同時に、プラズマ処理室11に有機金属ガス(例えばTMAl (tri-methyl-aluminum):アルミニウムの原料)を導入することにより、基板上で良質な酸化膜を形成することができる。また、窒素膜の場合においてもプラズマ生成室12にアンモニア(NH3)ガスを導入し高密度の原子状窒素ラジカルを生成し、プラズマ処理室11に導入する有機金属ガスと反応させて窒化膜を形成する。
【0032】
なお、プラズマ制御板17と高周波アンテナ16の間の距離は、製膜条件に応じて適宜設定される。例えば、上記距離を変えながら予備実験を行った結果に基づいて該距離を設定しておき、薄膜の作製中には該距離を固定するようにしてもよい。あるいは、ラングミュアプローブを用いてプラズマ生成室12内又は/及びプラズマ処理室11内の電子エネルギーを測定しながら随時該距離を変化するようにしてもよい。
【実施例2】
【0033】
図6に、本発明に係るプラズマ処理装置の第2実施例の概略縦断面図を示す。本実施例のプラズマ処理装置20は、複数のプラズマ生成室22を設けたものである。プラズマ生成室22を複数設けた以外は、第1実施例のプラズマ処理装置と同様の構成を有する。
【0034】
本実施例のプラズマ処理装置20では、各々のプラズマ生成室22において独立にプラズマ制御板17の位置を調節することにより、各プラズマ生成室22のプラズマの電子エネルギーを個別に且つ容易に制御できる。これにより、基板Sの各部の堆積速度が均一になるよう制御することができるため、大面積の基板に対しても均一性が高い薄膜を製造することが可能となる。また、各プラズマ生成室で異なるガスを導入するなど、プラズマの状態を個別に変化させることができ、自由度の高い製膜を行うこともできる。
【実施例3】
【0035】
図7に、本発明に係るプラズマ処理装置の第3実施例の概略縦断面図を示す。本実施例のプラズマ処理装置30は、第2実施例で示したプラズマ処理装置20において、複数あるプラズマ生成室22の間の天板111に、プラズマ処理室11内の排気を行う上部排気口31を新たに設けたものである。この上部排気口31には、図示しない真空ポンプ(排気手段)及び真空ポンプの排気量の調整を行う排気量調整部が備わっている。
【0036】
通常、プラズマ処理室11内の真空排気は、基板Sよりも下部に配置された排気口(下部排気口)19を通して行われる。これは、製膜に用いられる処理ガスが必要以上に排気されないようにするためである。一方、本実施例のプラズマ処理装置30では、それとは異なる排気口(具体的には上部排気口31)を均等にプラズマ処理室11内に配置し、それぞれの排気量を排気量調整部で調整することでプラズマ処理室11内に導入された処理ガスがプラズマ処理室内に存在する時間をほぼ一定に保つように調整している。これにより、プラズマ生成室で生成されたプラズマによりプラズマ処理室内の処理ガスの解離が進みすぎてしまうことを防ぐことができるため、より膜質が高い大面積のシリコン薄膜、酸化膜、窒化膜などの半導体膜を基板上に形成することができる。
【0037】
なお、この上部排気口31を設けることは、図8に示すプラズマ制御板17を備えていない構造のプラズマ処理装置に対しても好適に用いることができる。
【0038】
また、第3実施例の別の変形例として、図9に示す構造のプラズマ処理装置を用いることもできる。このプラズマ処理装置は、複数のプラズマ生成室22を、仕切り板13を介してプラズマ処理室11に接続したものである。図9(a)の縦断面図及び図9(b)の下面図に示すように、仕切り板13には、各プラズマ生成室22の直下では貫通孔131及び処理ガス導入孔132が設けられ、各プラズマ生成室22の間の領域では排気孔133が設けられている。この排気孔133が第3実施例の上部排気口31に相当することになる。排気孔133は、仕切り板13の板材に埋め込まれた排気管1331と繋がっており、排気管1331に設けられた図示しない真空ポンプ及び排気量調整部により、プラズマ処理室11内に導入された処理ガスがプラズマ処理室内に存在する時間をほぼ一定に保つように調整する。
【0039】
以上、本発明に係るプラズマ処理装置の第1〜第3実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例には限定されない。例えば、上記各実施例ではU字形の高周波アンテナを用いる例を示したが、板状の高周波アンテナや巻回コイルなど、従来の誘導結合型プラズマ処理装置で用いられている高周波アンテナを使用してすることもできる。また、高周波アンテナは、上記実施例ではプラズマ生成室内に一個ずつ設けたが、各プラズマ生成室内に複数個設けることもできる。また、プラズマ生成室の外に設けることもできる。
また、上記各実施例では、製膜プロセスについて説明したが、本発明は製膜プロセスには限定されない。例えばエッチングプロセスやアッシングプロセス或いはクリーニングプロセスを始めとするラジカル密度制御が必要なプラズマプロセスにも用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
10、20、30…プラズマ処理装置
11…プラズマ処理室
111…天板
12、22…プラズマ生成室
13…仕切り板
131…貫通孔
132…処理ガス導入孔
1321…処理ガス導入管
133…排気孔
1331…排気管
14…基板台
15…処理ガス導入口
16…高周波アンテナ
161、521…インピーダンス整合器
162、522…高周波電源
17、54…プラズマ制御板
171…操作棒
172…移動機構
18…プラズマ生成ガス導入口
19…排気口(下部排気口)
31…上部排気口
51…クロス管チャンバ
52…高周波アンテナ
53…ラングミュアプローブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室内に設けられた高周波アンテナと、プラズマを生成するためのガスを前記プラズマ生成室内に導入するプラズマ生成ガス導入手段と、前記プラズマ生成室と連通するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内に処理ガスを導入する処理ガス導入手段と、を備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成室内に設けられ、前記高周波アンテナとの距離を変更可能なプラズマ制御板と、
前記プラズマ制御板を移動させるための移動手段と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記プラズマ生成室が、複数備わっていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の間に差圧を生成する差圧生成手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記差圧生成手段が、貫通孔を多数有する板材を前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に設けたものであることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記板材の前記プラズマ処理室側の面に、前記処理ガスを導入するための処理ガス導入孔が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記板材が、前記プラズマ処理室の同一の壁面に一定の間隔をおいて設けられた複数のプラズマ処理室を覆うものであり、該板材の、各プラズマ生成室の間の領域において、プラズマ処理室内の排気を行うための排気手段及び該排気手段の排気量の調整を行うための排気量調整手段が設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記複数のプラズマ生成室が、前記プラズマ処理室の壁面に一定の間隔をおいて設けられ、これらのプラズマ生成室の間に、プラズマ処理室内の排気を行うための排気手段及び該排気手段の排気量の調整を行うための排気量調整手段が設けられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室内に設けられた高周波アンテナと、プラズマを生成するためのガスを前記プラズマ生成室内に導入するプラズマ生成ガス導入手段と、前記プラズマ生成室と連通するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内に処理ガスを導入する処理ガス導入手段と、を備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成室が、前記プラズマ処理室の壁面に一定の間隔をおいて複数設けられ、
前記複数のプラズマ生成室の間に、プラズマ処理室内の排気を行うための排気手段及び該排気手段の排気量の調整を行うための排気量調整手段が設けられている
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の間に差圧を生成する差圧生成手段を備えることを特徴とする請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記差圧生成手段が、貫通孔を多数有する板材を前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に設けたものであることを特徴とする請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記板材の前記プラズマ処理室側の面に、前記処理ガスを導入するための処理ガス導入孔が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記板材が、前記プラズマ処理室の同一の壁面に設けられた複数のプラズマ処理室を覆うものであることを特徴とする請求項10又は11に記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室内に設けられた高周波アンテナと、プラズマを生成するためのガスを前記プラズマ生成室内に導入するプラズマ生成ガス導入手段と、前記プラズマ生成室と連通するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内に処理ガスを導入する処理ガス導入手段と、を備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成室内に設けられ、前記高周波アンテナとの距離を変更可能なプラズマ制御板と、
前記プラズマ制御板を移動させるための移動手段と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記プラズマ生成室が、複数備わっていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の間に差圧を生成する差圧生成手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記差圧生成手段が、貫通孔を多数有する板材を前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に設けたものであることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記板材の前記プラズマ処理室側の面に、前記処理ガスを導入するための処理ガス導入孔が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記板材が、前記プラズマ処理室の同一の壁面に一定の間隔をおいて設けられた複数のプラズマ処理室を覆うものであり、該板材の、各プラズマ生成室の間の領域において、プラズマ処理室内の排気を行うための排気手段及び該排気手段の排気量の調整を行うための排気量調整手段が設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記複数のプラズマ生成室が、前記プラズマ処理室の壁面に一定の間隔をおいて設けられ、これらのプラズマ生成室の間に、プラズマ処理室内の排気を行うための排気手段及び該排気手段の排気量の調整を行うための排気量調整手段が設けられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
プラズマ生成室と、前記プラズマ生成室内に設けられた高周波アンテナと、プラズマを生成するためのガスを前記プラズマ生成室内に導入するプラズマ生成ガス導入手段と、前記プラズマ生成室と連通するプラズマ処理室と、前記プラズマ処理室内に処理ガスを導入する処理ガス導入手段と、を備えるプラズマ処理装置において、
前記プラズマ生成室が、前記プラズマ処理室の壁面に一定の間隔をおいて複数設けられ、
前記複数のプラズマ生成室の間に、プラズマ処理室内の排気を行うための排気手段及び該排気手段の排気量の調整を行うための排気量調整手段が設けられている
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の間に差圧を生成する差圧生成手段を備えることを特徴とする請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記差圧生成手段が、貫通孔を多数有する板材を前記プラズマ生成室と前記プラズマ処理室の境界に設けたものであることを特徴とする請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記板材の前記プラズマ処理室側の面に、前記処理ガスを導入するための処理ガス導入孔が設けられていることを特徴とする請求項10に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記板材が、前記プラズマ処理室の同一の壁面に設けられた複数のプラズマ処理室を覆うものであることを特徴とする請求項10又は11に記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−33803(P2012−33803A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173507(P2010−173507)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(505402581)株式会社イー・エム・ディー (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(505402581)株式会社イー・エム・ディー (16)
【Fターム(参考)】
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