説明

プリフォーム基材及びプリフォームの製造方法

【課題】繊維強化プラスチック(FRP)成形品の機械特性を低下させず、形状安定性に優れた、プリフォーム基材又はプリフォームを提供すること。
【解決手段】サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなるプリフォーム基材と、かかる基材を60〜150℃の賦形温度に加熱し、熱可塑性繊維を溶融させて織物層間を接着させ、次いで冷却することからなるプリフォームの製造方法。これらのプリフォーム基材、又は、プリフォームを用いて、樹脂トランスファー成形法又はレジンフィルムインフュージョン成形法により繊維強化プラスチック成形品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の剛軟度を有する炭素繊維束を含有する繊維強化プラスチック(FRP)用織物を用いたプリフォーム基材、及びプリフォームの製造方法、並びにこのプリフォームを使用して製造した繊維強化プラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック成形品の製造には、通常、繊維強化材を予備成形により賦形したプリフォームが使用される。繊維強化材として、例えば、50mm長程度にカットしたガラス繊維又は炭素繊維を使用した場合には、これらの繊維を接着剤と一緒に予備成形用の型に吹き付け、加熱硬化させてプリフォームを得ている。繊維強化プラスチック成形品に高い物性が要求される場合には、連続繊維をシート状に加工した織物、多軸織物等の繊維強化材が用いられる。
【0003】
シート状に加工した繊維強化材を使用した繊維強化プラスチック成形品は、従来、樹脂トランスファー成形法(RTM法)又はレジンフィルムインフュージョン成形法(RFI法)を用いて成形されているものがある。RTM法及びRFI法は、熱硬化性樹脂を用いた成形法の一種である。RTM法においては、繊維強化材を型に敷設した後、型のキャビティーに樹脂を注入して繊維強化材に樹脂を含浸させ、硬化させることにより繊維強化プラスチック成形品を得る。一方、RFI法においては、繊維強化材と共に樹脂フィルムを型に敷設して、加熱することにより繊維強化材に樹脂を含浸させ、硬化させることにより成形品を得る。
【0004】
織物、多軸織物等のシート状の繊維強化材は、そのまま繊維強化プラスチック成形品の繊維強化材として用いるには厚さが不十分の場合は、複数枚を重ねて型に敷設し使用する。通常は、作業性の観点から、シート状の繊維強化材をある程度の厚さとなるまで積層して一体化した積層体(プリフォーム基材)を用いている。積層体の製造は、シート状の繊維強化材同士を接着剤を用いて貼り合わせるか、あるいは、シート状の繊維強化材間に、熱可塑性樹脂からなる熱溶着糸を用いて製造した不織布等を挟み込んで加熱することにより行う。長さが2m以上の比較的大きな繊維強化プラスチック成形品を得る場合は、成形型に直接、シート状の繊維強化材をある程度の厚さとなるまで積層して、シート状の繊維強化材同士を接着剤等を用いて貼り合わせ、一体化した後、RTM法またはRFI法で成形する。
【0005】
繊維強化プラスチック成形品を高サイクルで成形する場合、あらかじめ賦形型で賦形した積層品(プリフォーム)を成形型に移動し、RTM法またはRFI法で成形する。従って、積層品は移動に耐えられるだけの形状の安定性が必要である。形状の安定性を向上させるため、繊維強化材同士を接着剤で強固に接着固定する方法が取られている。接着剤としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を使用する方法がある。熱硬化性樹脂を使用する場合、繊維強化材の層間に接着剤を塗布し、その一部を繊維強化材に含浸させ、加熱により樹脂を硬化させる方法が知られている。また、熱可塑性樹脂を使用する場合、熱溶着糸からなる不織布等を使用し、加熱により熱溶着糸を溶融させ繊維強化材層間を接着させる方法、熱可塑性ポリマー糸を使用し、織物製織時に繊維強化材と熱可塑性ポリマー糸を引き揃えて製織し、この織物を積層したプリフォームを使用する方法等が提案されている(例えば、以下の特許文献参照)。
【特許文献1】特開2002−227067号公報
【特許文献2】特開2003−80607号公報
【特許文献3】特許第1736023号公報
【特許文献4】特開2001−64406号公報
【0006】
しかしながら、接着剤を塗布し硬化させる方法は、シート状の繊維強化材の層間に存在する樹脂が硬化しているため、RTM法又はRFI法に使用する樹脂の種類によっては、繊維強化材への樹脂含浸が不十分になったり、樹脂の硬化阻害作用があったりして、得られた繊維強化プラスチック成形品の層間物性が低下するという問題がある。また、熱溶着糸からなる不織布等を挟んで加熱する方法では、接着面積が大きいため、室温のコンポジット物性は問題ないが、熱間特性が低下するという問題点があった。また、熱可塑性ポリマー糸を使用した織物では、接着面積の低減が可能であり、得られた繊維強化プラスチック成形品のコンポジット物性は問題ないが、形状の安定性が悪く、賦形した積層品(プリフォーム)を移動できないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、シート状の繊維強化材を積層して、RTM法又はRFI法により繊維強化プラスチック成形品の製造を行う場合に、繊維強化プラスチック成形品の層間物性が低下せず、予備成形時の形状を保持できる、形状安定性に優れたプリフォーム基材又はプリフォームを提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記プリフォーム基材又はプリフォームを用いた繊維強化プラスチック成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的は、以下の発明によって達成される。即ち、本発明は、サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなることを特徴とするプリフォーム基材である。
【0009】
また、本発明の他の態様は、プリフォームの製造方法であって、サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなるプリフォーム基材を、60〜150℃の賦形温度に加熱し、熱可塑性繊維を溶融させて織物層間を接着させ、次いで冷却することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【0010】
更に本発明のもう一つの態様は、前記のごとくして得られたプリフォーム基材、又は、プリフォームを用いて、樹脂トランスファー成形法又はレジンフィルムインフュージョン成形法により成形した繊維強化プラスチック成形品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明において使用する織物Aは、室温で所定の剛軟度を有している炭素繊維束を含有し、これに積層された織物Bには熱可塑性繊維が交織されているので、少なくとも表面層には織物Aを配置するようにして、織物AとBを交互に、所望の厚さとなるまで積み重ねて積層体(プリフォーム基材)とし、これを加熱後に賦形し一体化するか、あるいは加熱と共に賦形し一体化し、その後冷却することにより、室温で形状安定性の良いプリフォームを容易に製造できる。
【0012】
また、本発明の繊維強化プラスチック成形品は、サイズ剤を利用して所定の剛軟度とした炭素繊維束を含有する織物を使用したプリフォーム基材又はプリフォームを用いるため、織物同士を強固に接着する必要が無く、従来のような接着剤等を用いて、織物同士を強固に接着した積層品を使用したときのような、樹脂の含浸不良、層間物性の低下がほとんど起こらず、機械的特性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において用いられる織物Aは、サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有するものである。本発明において使用する炭素繊維は、特に制限が無く、ピッチ系、液晶系、レーヨン系、アクリロニトリル系等の何れの炭素繊維も使用できるが、アクリロニトリル系炭素繊維が、生産性やコストや性能の点で好ましい。炭素繊維の繊度、強度等の特性も特に制限が無く、従来のものが何れも使用できる。本発明の炭素繊維束は、サイズ剤を用いて炭素繊維を束ねたものである。炭素繊維束を構成する炭素繊維の数は、1000(1k)〜50000(50k)本が適当であり、12000(12k)〜48000(48k)本が好ましい。
【0014】
本発明において織物Aを構成する炭素繊維束は、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃で前記剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束である。剛軟度とは、具体的には、次のようにして測定される値をいう。長さ200mmの炭素繊維束を切り取り、これを水平な試験台上に、先端から150mmの部分が空中に突き出るようにしてセットして、5分間保持した後に、サンプル先端部分の垂れ下がり変位量を測定し、次の式で計算した値をもって剛軟度とする。剛軟度の値が大きいことは、炭素繊維束が剛直であることを意味し、剛軟度の値が小さいことは、炭素繊維束が柔らかいことを意味する。
剛軟度(gf・cm)=(W×L)/(8×H)
W:炭素繊維束の単位面積当りの重力(gf/cm
L:試験片の長さ(cm)
H:炭素繊維束のたわみ高さ(cm)
【0015】
本発明において、炭素繊維束に付与するサイズ剤は、炭素繊維束に、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmで、60℃以上での剛軟度が30gf・cm以下となる様な剛軟度を付与するものであれば、特に制限はない。例えば、サイズ剤の種類を問わず、サイズ剤の樹脂の液体成分と固形成分のバランスを取ることによって適当なサイズ剤とすることもできる。サイズ剤の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やエポキシアクリレート等のビニルエステル樹脂が挙げられる。
【0016】
本発明においては、エポキシ樹脂を主成分とするサイズ剤を用いるのが便利であるが、その場合には、サイズ剤成分中のエポキシ樹脂の割合が、50重量%以上のものが好ましい。そして、所定の剛軟度を示す炭素繊維束を得るため、室温(25℃)で液状又は固形状のビスフェノールA型エポキシ樹脂を単独で又は2種以上を組み合わせて使用するのが良い。液状のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
分子量300〜500のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、具体的には、EP815、EP828、EP834(商品名、ジャパンエポキシレジン社製)、アラルダイト250、アラルダイトGY260、アラルダイトGY280(商品名、チバガイギー社製)等が例示できる。また、ウレタン変性エポキシ樹脂としては、N320(商品名、DIC社製)、EPU6(商品名、旭電化社製)等が例示できる。固形状のエポキシ樹脂としては、分子量700〜4000以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられ、具体的にはEP1001、EP1002、EP1004、EP1007(商品名、ジャパンエポキシレジン社製)、アラルダイト6071、アラルダイト6084、アラルダイト6097(商品名、チバガイギー社製)等が例示できる。
【0017】
上記剛軟度を有する炭素繊維束におけるエポキシ樹脂の付着量は、サイズ剤の組成等により異なるが、炭素繊維束の重量に対し、概ね0.5〜5.0質量%程度であり、1.0〜3.0質量%とすることが好ましい。そして、上記剛軟度を有する炭素繊維束の含有割合は、プリフォーム基材全体の重量の50質量%以上であるのが好ましい。
【0018】
サイズ剤として炭素繊維束に付着させる上記エポキシ樹脂等以外の好ましい成分としては、高級脂肪酸エステルを挙げることができる。高級脂肪酸エステルの好ましい含有量は、全サイズ剤成分の3〜15質量%が好ましい。付着量が3質量%未満の場合、高級脂肪酸エステルを付与したときに得られる効果である、摩擦低減効果が不十分となる。付着量が15質量%を超える場合、炭素繊維束の集束性が悪くなり、織物を製造する際の作業性が悪くなる傾向がある。高級脂肪酸エステルの具体例としては、メチルステアレート、エチルステアレート、プロピルステアレート、ブチルステアレート、オクチルステアレート、ステアリルステアレート等のステアリン酸エステル、イソプロピルパルミテート等のオレイン酸エステル等が挙げることができる。
【0019】
サイズ剤には上記エポキシ樹脂等の樹脂成分、高級脂肪酸エステルの他、炭素繊維束が所定の剛軟度を示す範囲内で、他の成分、例えば、乳化剤が含まれていてもよい。これらの任意成分の許容される含有量は、サイズ剤組成分の15質量%以下である。サイズ剤を炭素繊維束に付与するに際しては、上記エポキシ樹脂等を含有する樹脂組成物の水性エマルジョン、又はアセトン等による有機溶剤溶液を使用する。ローラー浸漬法等の公知の方法により、炭素繊維束にサイズ剤を付与した後、乾燥を行う。人体への安全性を考慮すると、水性エマルジョンを使用することが好ましい。
【0020】
前記樹脂組成物を水性エマルジョンにするには、界面活性剤を使用することができる。このような界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系界面活性剤が挙げられるが、水性エマルジョン溶液とした際の溶液安定性の面から、ノニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。この界面活性剤の配合比は、質量比(樹脂組成物/界面活性剤)で、90/10〜70/30が好ましい。
【0021】
なお、炭素繊維束を収束することを目的として、炭素繊維束にサイズ剤を付与する際には、通常は、一度、付与の操作を行えば充分であるが、本発明においては上記剛軟度を有する炭素繊維束を得るため、通常より多くサイズ剤を付与する、あるいは固形状の樹脂付与する必要があることから、複数回付与の操作を行うことが可能である。更に、炭素繊維束を使用して後述する織物の形態とした後であっても、再度、織物にサイズ剤を付与することにより、炭素繊維束の剛軟度を調整することも可能である。かかる場合には、織物から引き抜いた炭素繊維束の剛軟度が、本発明の範囲に入っていれば良い。また、サイズ剤を付与した炭素繊維束を加熱処理して、サイズ剤に含まれる上記エポキシ樹脂等を硬化させて樹脂の分子量をあげた場合であっても、上記の剛軟度を示す炭素繊維束であれば、本発明の織物に使用することが可能である。
【0022】
上記炭素繊維束を用いた本発明において用いられる織物Aとしては、炭素繊維束を経糸及び/又は緯糸として使用した平織物、綾織物、朱子織物や、平行に引き揃えた炭素繊維束の集合からなる一軸織物、多軸織物等がある。
【0023】
本発明の熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bは、炭素繊維、好ましくは7,500デニール以下、更に好ましくは3,000デニール以下の炭素繊維の織物、好ましくは、平織、綾織又は朱子織に熱可塑性繊維が交織されているものである。熱可塑性繊維としては、特に制限はないが、例えば、芳香族又は脂肪族のポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維が挙げられ。かかる繊維は、収束糸、交撚糸、あるいはモノフィラメントの形態で、上記織物に製織時に経及び/又は緯に織り込んでも良く、織物にした後から経及び/又は緯に縫込んでも良い。あるいは、糸又はモノフィラメントを、線状あるいはネット状にして、織物表面及び/又は裏面に、その形状を保ったまま弱く接着させても良い。かかるものは、全て、本発明の熱可塑性繊維を交織した織物Bの範疇に含まれる。熱可塑性繊維の融点は60〜150℃のものが好ましい。また、交織される熱可塑性繊維の量は、プリフォーム基材全体の重量の0.2〜5質量%とすることが好ましく、1〜3質量%とすることがより好ましい。
【0024】
本発明のプリフォーム基材は、上記のような織物Aと織物Bを積層したものである。積層体は、少なくとも表面層には織物Aを配置するようにして、織物AとBを交互に、所望の厚さとなるまで積み重ねて得られる。例えば、2枚の織物Aの間に織物Bを挟んだサンドイッチ型の積層体や、織物Aと織物Bを交互に複数積層した積層体がある。
【0025】
本発明のごとく、織物Aと組合せて、熱可塑性繊維が交織されている織物Bを用いると、織物層間の接着が部分接着になり接着面積が少なくなるので、熱可塑性樹脂の耐熱性が低い欠点の影響が現れず、得られた強化繊維プラスチック成形品のコンポジット物性のうち、特に熱間特性が低下しないという特性を有する。そのためには、溶融した熱可塑性繊維による接着面積が、織物層間の接触面積の20%を超えないものが好ましく、特に10%を超えないものが好ましい。
【0026】
本発明のプリフォーム基材は、繊維強化プラスチック成形品の繊維強化材として使用する場合には、そのまま用いることもできるが、取扱い性や作業性の観点から、プリフォーム基材を、賦形型を使用して、予備成形したプリフォームを用いるのが好ましい。
【0027】
本発明のプリフォームは、プリフォーム基材を60〜150℃の賦形温度で、加熱賦形し、次いで冷却することによって得られる。加熱賦形工程は、2段階で行っても、1段階で行っても良い。2段階賦形は、サイズ剤の軟化温度以上で且つ織物Bに交織されている熱可塑性繊維の溶融温度以下の温度で、先ず基材のみ軟化させ一定の形状とし、次に、熱可塑性繊維の溶融温度以上の温度で層間接着を起こさせ一体化賦形する方法であり、1段階賦形は、サイズ剤の軟化温度以上で且つ熱可塑性繊維の溶融温度以上の温度で、一気に層間接着を起こさせ一体化賦形する方法である。前者は、基材が軟化した時点で形状の修正や調整ができるので、複雑な形状のものの成形に適している。
【0028】
また、本発明のプリフォームの製造は、プリフォーム基材を、加熱した賦形型に敷設する方法、あるいは、加熱したプリフォーム基材をその温度に保持したまま、賦形型に敷設する方法等で行うことができる。賦形型の加熱温度、又はプリフォーム基材の賦形時の加熱温度は、いずれも60〜150℃とするのが好ましい。賦形型に敷設したプリフォーム基材は、プレス等による加圧後又は加圧下に冷却しても良い。
【0029】
本発明のプリフォーム基材又はプリフォームは、本発明の織物Aと他のFRP用織物とを併用したものでも良い。これらの織物を併用する場合は、プリフォームの形状安定性を高めるため、本発明の織物Aを50質量%以上使用することが好ましい。
【0030】
本発明のプリフォーム基材及びプリフォームは、それに使用する織物Aが室温で所定の剛軟度を有しているため、従来のように、織物層間に配置した接着剤で強固に接着させ、更に接着剤の一部を繊維強化材に含浸させ、積層品を硬くして形状を安定化する必要がない。また、本発明のプリフォーム基材及びプリフォームは、織物Aが室温で所定の剛軟度を有しているため、織物A層間に配置する織物Bの織物は、織物層間の接着に寄与するだけで良いので、その特性は特に制限されない。また、織物Bは、基材の厚さを調節するために複数枚積層して用いても良い。熱可塑性繊維の量は、前述のごとくプリフォーム基材全体の重量の0.2〜5質量%とすることが好ましく、1〜3質量%とすることがより好ましい。
【0031】
このように、本発明においては、全体として、織物層間に配置する熱可塑性繊維の量が少ないので、溶融した熱可塑性繊維による接着面積も少なくなり、熱可塑性接着剤の耐熱性が低い欠点を抑えることができる。接着面積は、織物層間の接触面積の20%を超えないものが好ましく、特に10%を超えないものが好ましい。これらの結果、本発明のプリフォーム基材及びプリフォームを、公知のRTM法又はRFI法により繊維強化プラスチック成形品とする場合、繊維強化材への樹脂含浸が不十分になったり、得られた強化繊維プラスチック成形品のコンポジット物性、特に熱間特性が低下するという問題は発生しない。
【0032】
本発明の繊維強化プラスチック成形品は、前記のごとくして得られた織物Aと織物Bを積層した積層体からなるプリフォーム基材、又は、これを加熱賦形して得られたプリフォームを用いて、樹脂トランスファー成形法又はレジンフィルムインフュージョン成形法により成形することによって得られる。樹脂トランスファー成形又はレジンフィルムインフュージョン成形においては、従来公知の方法・手段等を採用することができる。
【0033】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0034】
[実施例1〜3]及び[比較例1〜2]
(織物用炭素繊維束の製造)
未サイジングの炭素繊維束(東邦テナックス社製ベスファイト(登録商標)、12,000フィラメント、7,200デニール、引張強度3,920MPa、引張弾性率235GPa)を、連続的にサイジング浴(サイズ剤成分3重量%の水性エマルジョン)に浸漬した後、ローラーで余分な水を除去し、表面温度130℃のヒートローラー(直径300mm、梨地仕上げ)に20秒間接触乾燥させ、サイズ処理した炭素繊維束を製造した。実施例1〜3及び比較例1〜2で使用したサイジング浴の成分と、得られた炭素繊維束におけるサイズ剤付着量、剛軟度を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1におけるサイズ剤は以下の通りである。
[エポキシ樹脂]
EP828:ビスフェノールA系エポキシ樹脂(液状)(ジャパンエポキシレジン社製)
EP1001:ビスフェノールA系エポキシ樹脂(固形状)(ジャパンエポキシレジン社製)
EP1002:ビスフェノールA系エポキシ樹脂(固形状)(ジャパンエポキシレジン社製)
N320:ウレタン変性エポキシ樹脂(液状)(DIC社製)
EPU6:ウレタン変性エポキシ樹脂(液状)(旭電化社製)
[乳化剤]
POEひまし油エーテル(松本油脂製薬社製)
PO/PEポリエーテル(松本油脂製薬社製)
[高級脂肪酸エステル]
エヌジュルブOS:オクチルステアレート(新日本理化社製)
【0037】
(炭素繊維織物の製造)
サイズ処理した炭素繊維束を経糸と緯糸に用いて、織物A(綾織物、目付380g/m)を製造した。これは実施例1〜3と比較例1、2に用いた。
【0038】
(再サイズ処理をした炭素繊維織物の製造)
固形状のビスフェノールA系エポキシ樹脂(EP1002、ジャパンエポキシレジン社製)をアセトンで希釈した溶液中に、上記織物を含浸させ、アセトンを乾燥させ、再サイズ処理をした織物A’を製造した。これは実施例3に用いた。再サイズ処理をした織物から引き抜いた繊維束の剛軟度の結果は表1に示した。
【0039】
(熱可塑性繊維を交織した炭素繊維織物の製造)
サイズ剤が付着した炭素繊維束 HTA−3K E30(東邦テナックス社製ベスファイト(登録商標)、3,000フィラメント、1,800デニール、引張強度3,920MPa、引張弾性率235GPa)を経糸と緯糸に用い、全ての経糸上のほぼ中央に融点が100℃の低融点共重合ナイロン(100デニール)を一緒に供給し、熱可塑性繊維を交織した織物B(綾織物、炭素繊維目付200g/m)を製造した。これは実施例1、2、3と比較例1に用いた。また、熱可塑性繊維を交織していない通常の織物B’(綾織物、炭素繊維目付200g/m)を比較例2のために製造した。
【0040】
(プリフォームの製造)
500mm×500mmにカットした上記織物Aまたは織物A’を2枚準備し、層間に熱可塑性繊維を交織した織物Bを2枚配置し、プリフォーム基材とした。これを80℃に加熱し、基材が冷える前に、長手方向に垂直断面の形状がハット形状をした金型の表面に基材を敷設して賦形し、更に120℃に加熱したアイロンで層間の熱可塑性繊維を溶融し、プリフォームを製造した。使用した金型の斜視図を図1に、正面断面図を図2に示した(図2は金型にプリフォーム基材を敷設した状態を示している)。なお、図2における金型の凸部の高さは100mmで、凸部上平面の幅は100mmで、凸部底辺の幅は150mmである。また、金型は、長手方向が700mmである。織物を25℃まで冷却した後、金型から取り出したプリフォームを、上に凸の状態にして平らなテーブルの上に置き、5分後にプリフォームの山部の高さを測定して、形状安定性の指標とした。実施例1〜3と比較例1の結果は表1に示した。比較例1のものは山部の高さが低くなっており、形状安定性が悪いことがわかる。
【0041】
なお、比較例2においては、織物Aを2枚準備し、その内層に織物B’を配置した。そして各層間(3層)に、融点が100℃の熱可塑性樹脂不織布であるスパンファブPA1541(日東紡社製、目付12g/m)を配置しプリフォーム基材とした。これを80℃に加熱し、基材が冷える前に、長手方向に垂直断面の形状がハット形状をした金型の表面に基材を敷設して賦形し、更に120℃に加熱したアイロンで層間の熱可塑性樹脂シートを溶融し、プリフォームを製造した。形状安定性のデータは表1に示した。比較例2のものは、プリフォームの形状安定性は問題ないが、後述の成形物のコンポジット物性で、80℃の熱間物性が低い欠点がある。これは層間の接着面積が60%であり、層間の接着面積が広いことが原因で、層間に挿入した熱可塑性樹脂不織布の耐熱性の影響を受けていた。
【0042】
(繊維強化プラスチック成形品の製造)
上記の方法で織物を6枚積層して得たプリフォームを、図1及び図2に示すハット形状の金型の表面にセットし、その上にピールクロスのRelease Ply C(AIRTECH社製)と樹脂拡散基材のResin Flow 60(AIRTECH社製)を積層した。その後、樹脂注入口と樹脂排出口形成のためのホースを配置した。全体をナイロンバッグフィルムで覆い、シーラントテープを用いて、プリフォーム、ピールクロス、樹脂拡散基材をナイロンバッグフィルムと金型との間に密閉し、内部を真空にした。
【0043】
続いて金型を100℃に加温し、キャビティー内を5torr以下に減圧した後、樹脂注入口を通して、真空系内へ混合樹脂(EP827(ジャパンエポキシレジン社製)100質量部とイソホロンジアミン(IPDA:PTIジャパン社製)25質量部を、60℃に加温し、樹脂注入前に混合を行ったもの)の注入を行った。
【0044】
注入した混合樹脂が金型のキャビティ内に充満し、プリフォームに含浸した状態で100℃で1時間保持し、成形物を得た。成形物を脱型後、130℃のオーブンで2時間、アフターキュアーし成形品を得た。
【0045】
(コンポジット物性評価)
上記のようにして得た成形物(成形品)から試験片を切出し、JIS
K 7074に準拠して、室温および80℃雰囲気下で曲げ強度を測定した。結果は表1に示した。比較例2のものは、実施例のものに比べ、80℃雰囲気下での曲げ強度が低いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例及び比較例において使用した金型の斜視図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例において使用した金型の正面断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなることを特徴とするプリフォーム基材。
【請求項2】
積層体が、2枚の織物Aの間に織物Bを挟んだサンドイッチ型の積層体である請求項1記載のプリフォーム基材。
【請求項3】
積層体が、織物Aと織物Bを交互に複数積層した積層体である請求項1記載のプリフォーム基材。
【請求項4】
織物Bが、7,500デニール以下の炭素繊維束からなる織物である請求項1〜3のいずれか1項記載のプリフォーム基材。
【請求項5】
織物Bが、平織、綾織又は朱子織からなるものである請求項1〜4のいずれか1項記載のプリフォーム基材。
【請求項6】
請求項1に規定する剛軟度を有する炭素繊維束の含有割合が、プリフォーム基材全体の重量の50質量%以上である請求項1〜5のいずれか1項記載のプリフォーム基材。
【請求項7】
サイズ剤として、サイズ剤成分中のエポキシ樹脂の割合が50重量%以上のものを使用する請求項1〜6のいずれか1項記載のプリフォーム基材。
【請求項8】
熱可塑性繊維の重量が、プリフォーム基材全体の重量の0.2〜5重量%である請求項1〜7のいずれか1項記載のプリフォーム基材。
【請求項9】
熱可塑性繊維の融点が、60〜150℃であることを特徴とする請求項1〜8記載のプリフォーム基材。
【請求項10】
サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなるプリフォーム基材を、60〜150℃の賦形温度に加熱し、熱可塑性繊維を溶融させて織物層間を接着させ、次いで冷却することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項11】
溶融した熱可塑性繊維による接着面積が、織物層間の接触面積の20%を超えないことを特徴とする請求項10記載のプリフォームの製造方法。
【請求項12】
サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなるプリフォーム基材を用いて、樹脂トランスファー成形法又はレジンフィルムインフュージョン成形法により成形した繊維強化プラスチック成形品。
【請求項13】
サイズ剤で収束された炭素繊維束であって、JIS L 1096(B法)に規定する剛軟度が25℃で60〜400gf・cmの範囲であり、60℃以上で剛軟度が30gf・cm以下に低下する炭素繊維束を含有する織物Aと、熱可塑性繊維を交織した炭素繊維の織物Bを積層した積層体からなるプリフォーム基材を、60〜150℃の賦形温度に加熱し、熱可塑性繊維を溶融させて織物層間を接着させ、次いで冷却して得られたプリフォームを用いて、樹脂トランスファー成形法又はレジンフィルムインフュージョン成形法により成形した繊維強化プラスチック成形品。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−260930(P2007−260930A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85292(P2006−85292)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】