説明

プレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法

【課題】半導体不揮発メモリーの一種である相変化メモリー(Phase Change RAM)に用いられる相変化記録膜を形成するためのプレスパッタ時間の短いターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】原料粉末を加圧焼結することにより相変化記録膜形成用ターゲットを製造する方法において、原料粉末としてガスアトマイズ粉末を使用するプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体不揮発メモリーの一種である相変化メモリー(Phase Change RAM)に用いられる相変化記録膜を形成するためのプレスパッタ時間の短いターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体不揮発メモリーの一種である相変化メモリー(Phase Change RAM)に用いられる相変化記録膜には結晶状態の相変化材料を用い、書き換えは、その一部をヒーターで急加熱して溶融し、即急冷して部分的に非晶質化させるか、或いは非晶質部を融点以下の温度で加熱保持して結晶状態に戻すことで行っている。そして読み出しは結晶状態と一部非晶質化した状態の電気抵抗差によって行なっている。この相変化記録膜は、相変化記録となる成分組成の合金からなるターゲットを用いてスパッタリングすることにより形成することも知られている。このターゲットの組成として、一般に、光ビーム照射による非晶質相と結晶相との可逆的な相変化を利用して情報の記録、再生および消去を行う記録媒体において用いられる記録膜は、Ga−Sb二元共晶系相変化型記録膜が用いられており、その中でもGa12Sb88共晶組成を有するGa−Sb二元系相変化型記録膜は、結晶化速度が大きく高速記録に好適であるところから広く知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
さらに、Ga:1〜10%、Te:5〜39%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有するGa−Te−Sb系ターゲットが知られており、その他、Ge−Te−Sb系ターゲットが知られている(特許文献1参照)
【0004】
そして、これらターゲットを作製するには、温度:600〜800℃、不活性ガス雰囲気中で溶解して相変化記録膜とほぼ同じ成分組成を有する溶湯を作製し、得られた溶湯を鉄製鋳型もしくは石英鋳型中に鋳造して所定の成分組成を有する合金インゴットを作製し、この合金インゴットを粉砕して原料粉末を作製し、この原料粉末を温度:400〜600℃で加圧焼結することにより作製する。
このようにして得られたターゲットはスパッタリング装置にセットされ、スパッタリングを行うことにより相変化記録膜を形成する。
【非特許文献1】「PCOS2002」High‐Density&High−Speed Phase ChangeRecording Technologies for Future Generation Proceedings of The 14th Symposiumon Phase Change Optical Information Storage PCOS2002(2002年11月28、29日に静岡県伊東市の伊東大和館において開催)第11〜15頁参照。
【特許文献1】特開2003−96560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の粉砕して得られた原料粉末を用いて作製した相変化記録膜形成用ターゲットは、原料粉末が複合化合物組織となっているために、その原料粉末で作製したそのターゲットも複合化合物組織になっている。例えば、Ge−Sb系相変化記録膜形成用ターゲットは、Geリッチ相とSbリッチ相が共存する複合化合物組織となっており、さらにGa−Sb系相変化記録膜形成用ターゲットは、Gaリッチ相とSbリッチ相が共存する複合化合物組織となっている。かかる複合組織を有するターゲットを用いて相変化記録膜を形成すると、各化合物のスパッタ率の相違により、スパッタ中の膜組成が経時変化し、所望するターゲットと同じ膜組成が得られるようにするには長時間のプレスパッタを行う必要がある。
また、Ge−In−Sb系合金からなるターゲットをスパッタリングして相変化記録膜を形成すると純Geに近いGeリッチ相とInSb相との複合化合物相となり、スパッタ率の高いInSb相が優先的にスパッタされる結果、スパッタリング初期に形成された膜組成は、目標とする組成と比べてGe含有量の低い膜となる。そのため、膜組成が安定するためには長時間のプレスパッタを行う必要があり、長時間のプレスパッタを行い、一定の比率の成分組成を有する相変化記録膜が形成されることを確認したのちスパッタリングを行って相変化記録膜を生産している。
しかし、長時間のプレスパッタを行うことは、相変化記録膜の生産コストに大きく影響し、プレスパッタ時間の一層短いターゲットが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、プレスパッタ時間の一層短いターゲットを得るべく研究を行なった結果、成分組成は同じでも、ガスアトマイズ粉末を原料粉末としこれを加圧燒結して得られたターゲットは、従来の粉砕粉末を原料粉末としてこれを加圧燒結して得られたターゲットに比べて、格段にプレスパッタ時間が短くなり、またターゲットの密度も高密度となるいう研究結果が得られたのである。
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)原料粉末を加圧焼結することにより相変化記録膜形成用ターゲットを製造する方法において、原料粉末としてガスアトマイズ粉末を使用するプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0007】
前記(1)記載の原料粉末としてのガスアトマイズ粉末は、原子%でGe:5〜20%を含有し、さらに必要に応じてIn、Te、BiおよびSnの内の1種または2種以上を合計で0.2〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有するガスアトマイズ粉末、並びにGa:5〜20%未満を含有し、さらに必要に応じてIn、Te、BiおよびSnの内の1種または2種以上を合計で0.2〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有するガスアトマイズ粉末などである。したがって、この発明は、
(2)前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGe:5〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(1)記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法、
(3)前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGe:5〜20%を含有し、さらにIn、Te、BiおよびSnの内の1種または2種以上を合計で0.2〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(1)記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法、
(4)前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGa:5〜20%未満を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(1)記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法、
(5)前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGa:5〜20%未満を含有し、さらにIn、Te、BiおよびSnの内の1種または2種以上を合計で0.2〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有する前記(1)記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットは、所定の成分組成を有する合金を溶解した後、得られた溶湯をガスアトマイズすることによりガスアトマイズ合金粉末を作製し、このガスアトマイズ合金粉末を真空ホットプレスなどの加圧燒結することにより作製する。前記加圧焼結は、温度:400〜600℃、1〜3時間保持の条件で行なわれる。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、プレスパッタ時間を短くして効率良く相変化記録膜を形成することができるので、相変化型不揮発メモリー膜の形成コストを削減することができ、半導体メモリー産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施例
Ga、Ge、Sb、In、Te、BiおよびSnをArガス雰囲気中で溶解することにより合金溶湯を作製し、この合金溶湯をArガスを用いてガスアトマイズすることにより、いずれも平均粒径:4μmを有し、表1〜2される成分組成を有するガスアトマイズ合金粉末を作製した。これらガスアトマイズ合金粉末を内径:130mmのモールドに充填し、温度:530℃、圧力:24.5MPa、保持時間:2時間の条件で真空ホットプレスし円板状ホットプレス体を作製することにより本発明相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法(以下、本発明法という)1〜20を実施した。本発明法1〜20で得られたこれら円板状ホットプレス体の相対密度を測定し、その結果をターゲットの密度として表1〜2に示した。
さらにこれら円板状ホットプレス体を超硬バイトを使用し、旋盤回転数:200rpmの条件で研削加工することにより直径:125mm、厚さ:5mmの寸法を有する円盤からなるターゲットを作製し、これらターゲットをそれぞれ無酸素銅製の冷却用バッキングプレートにろう付けし、これを直流マグネトロンスパッタリング装置に装入し、基板温度:室温、ターゲットと基板(表面に厚さ:100nmのSiO2を形成したSiウエーハ)の間の距離を70mmになるようにセットした後、スパッタガス圧:0.67kPaになるまでArガスを供給し、いずれも電力:1.5kWを投入し、成膜組成がターゲットの成分組成と同じ目標組成に対して±5%以内入るまでプレスパッタリングし、このこの範囲に入るまでのスパッタ時間をプレスパッタ時間として測定し、その結果を表1〜2に示した。
【0011】
従来例
Ga、Ge、Sb、TeをArガス雰囲気中で溶解し鋳造して合金インゴットを作製し、この合金インゴットを液体窒素中に浸漬して急冷したのちAr雰囲気中で粉砕することにより、いずれも平均粒径:20μmの実施例と同一成分組成を有する粉砕合金粉末を作製した。
これら粉砕合金粉末を内径:130mmのモールドに充填し、温度:530℃、圧力:24.5MPa、保持時間:2時間の条件で真空ホットプレスして円板状ホットプレス体を作製することにより従来相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法(以下、従来法という)1〜20を実施した。従来法1〜20で得られたこれら円板状ホットプレス体の相対密度を測定し、その結果をターゲットの密度として表1〜2に示した。
さらにこれら円板状ホットプレス体を超硬バイトを使用し、旋盤回転数:200rpmの条件で研削加工することにより直径:125mm、厚さ:5mmの寸法を有する円盤からなるターゲットを作製し、これらターゲットをそれぞれ無酸素銅製の冷却用バッキングプレートにろう付けし、これを直流マグネトロンスパッタリング装置に装入し、基板温度:室温、ターゲットと基板(表面に厚さ:100nmのSiO2を形成したSiウエーハ)の間の距離を70mmになるようにセットした後、スパッタガス圧:0.67kPaになるまでArガスを供給し、いずれも電力:1.5kWを投入し、成膜組成がターゲットの成分組成と同じ目標組成に対して±5%以内入るまでプレスパッタリングし、この範囲に入るまでのスパッタ時間をプレスパッタ時間として測定し、その結果を表1〜2に示した。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
表1〜2示される結果から、本発明法1により作製したターゲットと従来法1により作製したターゲットを比べると、同一成分組成を有するにもかかわらず、本発明法1により作製したターゲットは従来法1により作製したターゲッに比べて密度が高く、さらにプレスパッタ時間が格段に短いことが分かる。
同様にして、本発明法2〜20により作製したターゲットは、従来法2〜20により作製したターゲッに比べて密度が高く、さらにプレスパッタ時間が格段に短いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を加圧焼結することにより相変化記録膜形成用ターゲットを製造する方法において、原料粉末としてガスアトマイズ粉末を使用することを特徴とするプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGe:5〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGe:5〜20%を含有し、さらにIn、Te、BiおよびSnの内の1種または2種以上を合計で0.2〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGa:5〜20%未満を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記ガスアトマイズ粉末は、原子%でGa:5〜20%未満を含有し、さらにIn、Te、BiおよびSnの内の1種または2種以上を合計で0.2〜20%を含有し、残部がSbおよび不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載のプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜6記載のいずれかの方法で作製したプレスパッタ時間の短い相変化記録膜形成用ターゲット。

【公開番号】特開2006−137962(P2006−137962A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325844(P2004−325844)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】