説明

ヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法

【課題】電流コラプスを抑制し、且つゲートリーク電流を低減するヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法は、(a)チャネル層30、バリア層40、キャップ層50が順に積層された積層体を備える窒化物半導体層を準備する工程と、(b)前記窒化物半導体層上にSiを含まないキャップ膜110を形成する工程と、(c)工程(b)の後、前記窒化物半導体層に選択的に不純物を注入し、熱処理により前記不純物を活性化して不純物領域60を形成する工程と、(d)工程(c)の後、キャップ膜110を除去して不純物領域60上にソース電極80及びドレイン電極90を形成する工程と、(e)前記窒化物半導体層の少なくとも一部を除去した領域にゲート電極100を形成する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、窒化物を含む半導体からなるヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の窒化物半導体からなるヘテロ接合電界効果トランジスタ(ヘテロ接合FET:Field Effect Transistor)において、半導体表面に直接ゲート電極を形成した構造では、ゲート電極にパルス電圧を印加して動作させた場合にドレイン電流が大きく減少してしまう現象(電流コラプス)が発生し、実際に高周波で動作させた際にDC特性から予測できる出力や効率に比べてドレイン電流が大きく減少してしまう。
【0003】
電流コラプスは半導体表面に形成されるトラップ準位によって生じるため、電流コラプスを抑制するためには最も強く電界がかかるゲート電極/半導体界面を半導体表面から遠ざけることが効果的である。そのため、半導体表面のゲート電極を形成する領域のみエッチングした後にゲート電極を形成するリセスゲート構造とすることが望ましい。そして、リセス部分の深さは深ければ深いほど、ゲート電極/半導体界面を半導体表面から遠ざけるため効果が大きい。
【0004】
しかし、リセスゲート構造を形成するためには、ゲート電極直下の半導体層のリセス深さを制御性良くエッチングする必要があり、エッチングレートのみでこれを制御することは難しい。
【0005】
そこで、AlGaN/GaN系ヘテロ構造を用いたヘテロ接合FETの場合には、最表面にエッチング深さと等しいGaNキャップ層を形成してGaN/AlGaN/GaN構造とし、GaNとAlGaNのエッチングレートの差を用いて選択的にGaNキャップ層のみをエッチングする手法が多く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE EDL, VOL.29, NO.4, APRIL 2008, p303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AlGaNやGaNの層中の特に表面側には、エピタキシャル成長やトランジスタを作製するプロセス中に多くのn型不純物が混入している。AlGaNによる分極の効果が有効に働く領域は空乏層になるため、この領域に存在するn型不純物は活性化されず、電流のリークパスにはならない。
【0008】
しかし、AlGaNから遠く離れた領域では分極の効果が及ばないため、この領域に混入したn型不純物は活性化されてキャリアとなり、電流のリークパスとなりうる。
【0009】
従って、AlGaNの分極の効果が及ばないほど最表面のGaNキャップ層が厚い場合、ゲート電極とドレイン電極の間に高電圧を印加してトランジスタを動作させた際に、ゲート電極からドレイン電極に大きなリーク電流が発生し、出力や効率の低下に繋がる耐圧の低下や、ノイズ特性の劣化、信頼性の低下などが生じる。
【0010】
そこで、本発明は上述の問題点に鑑み、電流コラプスを抑制し、且つゲートリーク電流を低減するヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法は、(a)チャネル層、バリア層、キャップ層が順に積層された積層体を備える窒化物半導体層を準備する工程と、(b)前記窒化物半導体層上にSiを含まないキャップ膜を形成する工程と、(c)前記工程(b)の後、前記窒化物半導体層に選択的に不純物を注入し、熱処理により前記不純物を活性化して不純物領域を形成する工程と、(d)前記工程(c)の後、前記キャップ膜を除去して前記ドーピング領域上にソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、(e)前記窒化物半導体層の少なくとも一部を除去した領域にゲート電極を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法では、前記窒化物半導体層上にSiを含まないキャップ膜を形成するため、その後の熱処理工程でキャップ膜から窒化物半導体層にSiが混入することがなく、厚いキャップ膜を用いた場合でもゲートリーク電流を低減することができるため、電流コラプスの抑制とゲートリーク電流の低減の両立が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図3】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図4】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図9】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図10】キャップ層の厚さとゲート電流及びゲート端電界強度との関係を示した図である。
【図11】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の構成を示す断面図である。
【図12】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の構成を示す断面図である。
【図13】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の構成を示す断面図である。
【図14】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の構成を示す断面図である。
【図15】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の構成を示す断面図である。
【図16】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の構成を示す断面図である。
【図17】実施の形態1に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの変形例の製造工程を示す断面図である。
【図18】実施の形態2に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの構成を示す断面図である。
【図19】実施の形態2に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造工程を示す断面図である。
【図20】本発明に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
<前提技術>
非特許文献1のようなGaN/AlGaN/GaN構造では、最上層にGaN層を形成した分だけ半導体表面からチャネルとなる2次元電子ガスが発生するAlGaN/GaN界面までの距離が長くなる。そのため、GaNキャップ層を形成しない従来の構造で一般的に用いられている、半導体表面に電極金属を堆積し合金化したソース/ドレイン電極によっては十分に低い抵抗が得られない。
【0015】
そこで、非特許文献1では、ソース/ドレイン電極を形成する領域のGaN層及びAlGaN層を除去した後、その領域にソース/ドレイン電極を形成することによって、低抵抗な電極を実現している。しかしながら、ソース/ドレイン電極はゲート電極に比べて広い領域を占めるため、GaN層及びAlGaN層を除去したことによって生じる段差はソース/ドレイン電極形成後のプロセス安定性に悪影響を及ぼし、歩留まりの低下をもたらすことが懸念される。
【0016】
「Phys. Status Solidi, C3, p.2364 2006」に示すSiイオン注入ドーピング技術は、半導体表面に段差を形成することなく、ソース/ドレイン電極領域のみを低抵抗化できるため、GaN/AlGaN/GaN構造において低抵抗なソース/ドレイン電極を形成するための有効な手段の一つとなる。ただし、Siイオン注入ドーピング技術では注入したSiイオンを活性化させるための熱処理時のキャップ膜としてSiNを使うことが一般的であり、このプロセスではGaNやAlGaNの結晶が成長する際とほぼ同等の1000℃を超える温度で処理するため、ソース/ドレイン電極領域以外の半導体層中にn型のドーパントとして振舞うSiが混入し活性化する恐れがある。GaNキャップ層を形成しない従来のAlGaN/GaN構造では、表面側のAlGaNバリア層中にSiが混入し、それが活性化されても、AlGaNバリア層に発生する分極の効果によってAlGaNバリア層は空乏化されるため、ゲート電極とドレイン電極の間に高電圧を印加してトランジスタを動作させた場合でも、ゲート電極とドレイン電極の間にリーク電流は発生しない。一方、表面にGaNキャップ層を形成したヘテロ接合FETでは、AlGaNバリア層に発生する分極の効果が及ばないほどGaNキャップ層が厚い場合、GaNキャップ層の表面側の領域は空乏化されないため、その領域に混入し活性化したSiからキャリアが発生して電流のリークパスとなりうる。
【0017】
そこで、本発明は注入したSiイオンを活性化させるための熱処理時のキャップ膜の材料を工夫することによってリーク電流の低減を図る。
【0018】
<構成>
図1は、本実施の形態に係るヘテロ接合電界効果トランジスタ(ヘテロ接合FET)の構成を示す断面図である。
【0019】
実施の形態1に係るヘテロ接合FETは、SiCからなる半絶縁性基板10と、SiC基板10上に形成されたバッファ層20と、バッファ層20上に形成されたGaNからなるチャネル層30と、チャネル層30上に形成されたAlGaNからなるバリア層40と、バリア層40上に形成されたNi/Auからなるゲート電極100及びGaNからなる厚さが28nmより大きい(後述するように本発明によってこれが可能となる)キャップ層50と、キャップ層50上に形成されたTi/Alからなるソース電極80及びドレイン電極90と、素子分離領域70と、ソース/ドレイン電極80,90の下部においてチャネル層30、バリア層40、キャップ層50に形成された高濃度不純物領域60とを備えている。
【0020】
ゲート電極100はキャップ層50を除去した領域に形成され、ゲート電極100の下面はバリア層40の上面と接するように形成されている。高濃度不純物領域60はn型不純物としてSiイオンがドーピングされた領域であり、ソース/ドレイン電極80,90の抵抗を抑える効果を奏する。
【0021】
<工程>
図2〜図9は、実施の形態1に係るヘテロ接合FETの製造工程の一例を示した図である。これらの図において、図1の構成要素と同一又は対応する構成要素には同一の符号を付している。以下、実施の形態1に係るヘテロ接合FETの製造工程を図2〜図9に沿って説明する。
【0022】
まず、半絶縁性基板10上にMOCVD法、MBE法などのエピタキシャル成長法を適用し、窒化物半導体層としてバッファ層20、GaNからなるチャネル層30、AlGaNからなるバリア層40、GaNからなる厚さが28nmより大きいキャップ層50をそれぞれ下から順にエピタキシャル成長させる(図2)。
【0023】
次に、キャップ層50上にAlN等のSiを含まない材料からなるキャップ膜110を、スパッタ法等を用いて堆積する(図3)。なお、スパッタ法以外の形成方法として、図2のエピタキシャル層成長時に最上層としてキャップ膜110を成長させても良い。或いは、エピタキシャル層成長後にCVD法やEB蒸着法等で形成しても良い。
【0024】
その後、レジストマスク120を形成して、ソース/ドレイン電極80,90を形成する領域の下側の少なくとも一部の半導体層内に、例えばイオン注入法を用いてSiイオンを打ち込む。注入ドーズ量は1×1013〜1×1017(cm-2)、注入エネルギーは10〜1000(keV)とする。それから熱処理を行って注入したSiイオンを活性化させ、高濃度不純物領域60が形成される(図4)。
【0025】
次に、KOH等を用いたウェットエッチングによってキャップ膜110を除去する(図5)。そして、Ti/Alからなるソース電極80及びドレイン電極90を蒸着法やスパッタ法を用いて堆積し、リフトオフ法などにより形成する(図6)。
【0026】
次に、トランジスタを作製する領域外のチャネル層30、バリア層40、キャップ層50に、例えばイオン注入法やエッチングなどを用いて素子分離領域70を形成する(図7)。
【0027】
そして、レジストマスク130を形成して、Cl2等を用いたドライエッチング法等によってゲート電極100を形成する領域のキャップ層50を除去する(図8)。キャップ層50とバリア層40のAl組成比が異なる場合には、エッチングの際にCl2等の塩素系のガスに加えて例えば酸素やSF6等のフッ素系のガスを用いることによって、選択的にキャップ層50だけエッチングすることが可能となり、エッチング深さの制御性が向上する。
【0028】
レジストマスク130を除去した後、Ni/Auからなるゲート電極100を蒸着法やスパッタ法を用いて堆積し、リフトオフ法などにより形成する(図9)。
【0029】
以上の工程により、図1に示す構造のヘテロ接合FETを作製できる。以上ではトランジスタとして動作する必要最小限の要素しか記載していないが、最終的には保護膜や配線、バイアホール等の形成プロセスを経てデバイスとして用いられる。
【0030】
<キャップ層>
上述の方法で作製したヘテロ接合FETでは、GaNキャップ層50が28nmよりも厚い場合でも、注入したSiイオンを活性化させる熱処理時のキャップ膜110にSiを含まないAlN等の材料を用いているので、ゲートリーク電流を十分に低く保つことができる。以下にその理由を説明する。
【0031】
図1に示す構造でGaNキャップ層50の厚さが0、20、50、100nmと異なる4種類のヘテロ接合FETを図2〜図9に示す方法で作製し、ゲート電極100とドレイン電極90の間に−10Vの電圧を印加したときの電流値を測定して図10に示した。なお、キャップ膜110にはAlNではなくSiNを用いる。
【0032】
図10に示すように、GaNキャップ層50が20nmよりも薄い場合には、ゲートリーク電流は2.0×10-6(A/mm)以下の十分に低い値であった。それに対して、GaNキャップ層50が50nmよりも厚い場合のゲートリーク電流は、20nm以下の場合よりも2桁程度大きい1.0×10-4(A/mm)程度もあり、耐圧や信頼性の劣化が懸念される。
【0033】
このように大きなゲートリーク電流が発生する要因としては、注入したSiイオンを活性化するための熱処理時にキャップ膜110のSiNからGaNキャップ層50中の特に表面側にSiが混入し、このSiがキャリアとして振舞うことが挙げられる。GaNキャップ層50のAlGaN層40側の領域は、AlGaNバリア層40による分極の効果を受けて空乏化されるため、GaNに対してn型不純物となるSiが混入して活性化したとしてもキャリアは発生せず、リークパスにならない。すなわち、GaNキャップ層50がAlGaNバリア層40に生じる分極の効果が及ぶほど薄い場合には、GaNキャップ層50中にn型不純物が混入してもリーク電流が発生しないことになる。
【0034】
それに対して、GaNキャップ層50が厚く、表面側にAlGaN層40による分極の効果が及ばない領域が存在する場合、その領域は空乏化されないため、n型不純物が混入するとキャリアが発生する。従って、その領域がリークパスとなり大きなリーク電流が発生する。
【0035】
図10には、この効果によるゲートリーク電流値を計算した結果も示している。この計算では、まずGaNキャップ層50の表面側に発生するキャリア濃度を、GaNキャップ層50の厚さが異なる構造において、ポアソン方程式を用いて計算したバンド構造から導いた。続いて、それらを用いてゲート電極100からGaNキャップ層50中にショットキー障壁をトンネルして流れる電流を計算した。最後に、GaNキャップ層50を形成していない場合の実際のヘテロ接合FETにおける電流値を、GaNキャップ層50以外を流れる電流値と仮定して計算したトンネル電流に足し合わせ、図10にプロットした。計算値は実測値とよく一致し、またこの計算結果により、GaNキャップ層50の厚さが28nmより厚い場合に大きなリーク電流が発生することがわかった。つまり、AlGaNバリア層40に生じる分極の効果が及ぶ領域は、GaNキャップ層50のうちAlGaNバリア層40から28nm以内の範囲のみであり、それよりも表面側にSi等のn型不純物が混入した場合には、キャリアが発生してリーク電流の要因となる。
【0036】
なお、図10には、GaNキャップ層50の厚さが異なる場合のドレイン電極90側のゲート電極端に生じる電界強度を、ポアソン方程式を解いて計算した結果も示している。電流コラプスは、ゲート電極端に生じる電界強度が強いほど大きくなるため、本計算結果よりGaNキャップ層50が厚いほど、電流コラプスを抑制する観点からは好ましい構造であることが分かる。つまり、電流コラプスの抑制とゲートリーク電流の抑制は、GaNキャップ層50の厚さに関してトレードオフの関係にあるといえる。
【0037】
このトレードオフから脱却するためには、GaNキャップ層50のうちAlGaNバリア層50から28nmより離れた領域にSi等のn型不純物が混入することを抑制する必要がある。注入したSiイオンを活性化する際の熱処理は、窒化物半導体のエピタキシャル成長温度に近い1000℃を超える温度で行なう必要があるため、n型不純物であるSiを構成元素に持つSiN等をキャップ膜110として用いるとSiが半導体層へ拡散する可能性が高く、上述したリーク電流の原因となる。したがって、GaNキャップ層50の厚さを28nmより大きくしたうえで活性化熱処理時のキャップ膜110にSiを含まないAlN等からなる膜を用いることによって、電流コラプスを抑制すると共にゲートリーク電流も低減することが可能となる。
【0038】
<変形例1>
キャップ膜110にはSiを含まない材料を用いることにより、熱処理工程においてGaNキャップ中へSiが混入することを防ぐことが出来る。よって、キャップ膜110の材料は例示したAlNに限らず、BNやダイヤモンド、DLC(Diamond Like Carbon)、AlOx,AlOxy,MgOx等を用いても良い。また、これらのうち1種類以上の複数の膜を重ねて用いても良い。
【0039】
また、上述の説明ではSiイオンを注入する際のキャップ膜を注入後のSiイオンを活性化させる熱処理工程のキャップ膜としても用いたが、これらは異なる膜であっても良い。すなわち、Siイオン注入が終わった後にキャップ膜を一度除去し、再度同一の材料若しくは異なる材料からなる活性化熱処理時のキャップ膜を堆積しなおしても良い。このようにキャップ膜を堆積しなおす場合には、少なくとも活性化熱処理時のキャップ膜にSiを含まない材料の膜を用いればよく、Siイオン注入時のキャップ膜としては、従来と同様にSiN等のSiを含む材料を用いることも出来る。とはいえ、Siイオン注入時にも活性加熱処理時に比べると低温ではあるが基板の温度は上昇するため、Siを含む材料をキャップ膜として用いる場合には半導体層中へSiが僅かに混入する可能性があり、Siを含まない材料のキャップ膜を用いた方が好ましい。
【0040】
<変形例2>
半絶縁性基板10にはSiCの他、Si、サファイア、GaN,AlN等を用いることが可能である。GaNを用いた場合には、半絶縁性基板10上にバッファ層20を形成しなくとも、その上にチャネル層30等を形成することが出来るため、バッファ層20の形成は任意である。
【0041】
<変形例3>
高濃度不純物領域60は、n型不純物が高濃度で含まれている限りドーパントは必ずしもSiである必要はなく、例えば酸素等でも良い。また、図1、図4において、高濃度不純物領域60は半導体表面からチャネル層30にいたる領域まで形成されているが、必ずしもこの領域に限る必要はなく、その領域が大きくても小さくても、ソース電極80及びドレイン電極90の下側の少なくとも一部の半導体層内に形成されていれば良い。
【0042】
ドーパントの変更や、注入領域、注入深さの制御は、図4に示すSiイオン注入時の注入イオン種やマスクパターン、注入エネルギー、ドーズ量を変更することで可能である。
【0043】
<変形例4>
ソース/ドレイン電極80、90は必ずしもTi/Alである必要はなく、オーミック特性が得られる限り、Ti、Al、Nb、Hf、Zr、Sr、Ni、Ta、Au、Mo、Wなどの金属や、これらから構成される多層膜で形成されていてもよい。
【0044】
このような構造のソース/ドレイン電極80、90は、図6に示すソース/ドレイン電極80、90の形成時に、Ti/Alに替えて例えばTi、Al、Nb、Hf、Zr、Sr、Ni、Ta、Au、Mo、Wなどの金属、もしくはこれらから構成される多層膜を蒸着法やスパッタ法を用いて堆積し、リフトオフ法などにより形成する。
【0045】
<変形例5>
ゲート電極100は必ずしもNi/Auである必要はなく、Ti,Al,Pt,Au,Ni,Pdなどの金属や、IrSi,PtSi,NiSi2などのシリサイド、TiN,WNなどの窒化物金属、またはこれらから構成される多層膜であっても良い。
【0046】
このような構造のゲート電極100は、図9に示すゲート電極の形成工程で、Ni/Auに替えて例えばTi、Al、Pt、Au、Ni、Pd等の金属や、IrSi、PtSi、NiSi2等のシリサイド、TiN、WN等の窒化物金属、またはこれらから構成される多層膜からなるゲート電極100を蒸着法やスパッタ法を用いて堆積し、リフトオフ法などにより形成する。
【0047】
<変形例6>
ゲート電極100の底面はキャップ層50の表面と接していなければ、キャップ層50の表面と接触している場合に比べて電流コラプスを抑制することができる。そのため、ゲート電極100の底面は必ずしもバリア層40と接している必要はなく、例えば、キャップ層50の内部と接触した構造(図11)や、バリア層40の内部と接触した構造(図12)でもよい。
【0048】
ただし、ゲート電極100直下の半導体層を制御性よくエッチングするには、構造の異なる層をエッチングする際のエッチングレートの違いを用いて行なうことが好ましく、その場合には、図1、9に示すようにゲート電極100の底面がバリア層40の上面と接する構造がより好ましい。
【0049】
図11,12に示すようなゲート構造のへテロ接合FETは、図8に示すエッチング工程でエッチング時間やガス流量を調整し、所望のエッチング深さにすることによって作製することができる。
【0050】
<変形例7>
また、ゲート電極はその断面が四角形のものに限らず、例えば図13に示すゲート電極101のようにバリア層40と接触する領域を小さくした、T型もしくはY型構造でも良い。このような構造にすることにより、ゲート電極101が半導体層と接触する面積を維持したまま、ゲート抵抗を低減することが出来る。
【0051】
また、図14に示すように、ゲート電極101の庇部がキャップ層50の表面と接するように形成しても構わない。このような構造にすることによって、高電圧動作時にゲート電極101のドレイン電極90側のエッジ部分に集中する電界を緩和することができ、電流コラプスを抑制すると同時に耐圧を高くすることが出来る。
【0052】
又、図14に示したゲート電極101の構造において、少なくともゲート電極101の庇部との間を含むキャップ層50の表面に、Al,Ga,Si,Hf,Tiのうち少なくとも1種類以上の原子の酸化物、窒化物、酸窒化物等からなる絶縁膜150を形成した図15に示すような構造にしても良い。このような構造にすることによって、高電圧動作時にゲート電極101のドレイン電極90側のエッジ部分に集中する電界を緩和することができ、電流コラプスを抑制すると同時に耐圧を高くすることが出来る。
【0053】
さらに、図16に示すように絶縁膜150をゲート電極101の庇部とキャップ層50の間のみに形成することによって、ソース電極80とゲート電極101の間や、ゲート電極101とドレイン電極90の間に発生する容量を低減することができ、高周波動作時の利得や効率を向上することが出来る。
【0054】
図16に示すゲート電極101は、図9のゲート電極形成工程において、エッチング領域よりも広いレジストパターンを用いて蒸着法などにより電極を堆積することにより形成される。
【0055】
また、図8に示すキャップ層50をエッチングする前工程で、例えば蒸着法やプラズマCVD法等を用いて、Al,Ga,Si,Hf,Ti等のうち少なくとも1種類以上の原子の酸化物、窒化物、酸窒化物などからなる絶縁膜150を堆積し(図17)、その後ゲート電極101を形成することにより、図15に示す構造のヘテロ接合FETを作製できる。
【0056】
さらに、図15に示す構造のヘテロ接合FETを形成した後、フッ酸などを用いたウェットエッチングによって絶縁膜150を全て除去することにより、図13に示す構造のヘテロ接合FETを作製できる。また、ウェットエッチングの処理条件(時間や濃度)を調整することにより、ゲート電極101の庇部とキャップ層50の間にのみ絶縁膜150を残した図16に示す構造のヘテロ接合FETを作製できる。
【0057】
<効果>
本実施の形態に係るヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法は、(a)チャネル層30、バリア層40、キャップ層50が順に積層された積層体を備える窒化物半導体層を準備する工程と、(b)前記窒化物半導体層上にSiを含まないキャップ膜110を形成する工程と、(c)工程(b)の後、前記窒化物半導体層に選択的に不純物を注入し、熱処理により前記不純物を活性化して高濃度不純物領域60(不純物領域)を形成する工程と、(d)工程(c)の後、キャップ膜110を除去して高濃度不純物領域60上にソース電極80及びドレイン電極90を形成する工程と、(e)前記窒化物半導体層の少なくとも一部を除去した領域にゲート電極100を形成する工程とを備える。Siを含まないキャップ膜110を形成することにより、工程(c)の熱処理においてキャップ膜110から窒化物半導体層にSiが混入することがなく、厚いキャップ膜110を用いた場合でもゲートリーク電流を低減することができるため、電流コラプスの抑制とゲートリーク電流の低減の両立が可能である。
【0058】
また、工程(a)でキャップ層50の厚みを28nmよりも大きくすることにより、電流コラプスを抑制することが可能である。
【0059】
さらに、工程(e)で、キャップ層50を除去してゲート電極100の底部がバリア層40の上面と接するようにゲート電極100を形成する場合、キャップ層50とバリア層40のエッチングレートの違いを利用して制御性良くエッチングすることができるため、歩留りが向上する。
【0060】
また、工程(c)でSiを不純物として窒化物半導体層に注入することにより、ソース/ドレイン電極80,90の抵抗を低減することができる。
【0061】
さらに、工程(b)でAlNを材料とするキャップ膜110を形成することにより、工程(c)の熱処理においてキャップ膜110から窒化物半導体層にSiが混入することがなく、厚いキャップ膜110を用いた場合でもゲートリーク電流を低減することができるため、電流コラプスの抑制とゲートリーク電流の低減の両立が可能である。
【0062】
(実施の形態2)
図18は、実施の形態2に係るヘテロ接合FETの構成を示す断面図である。図18において、図1と同一又は対応する構成要素には同一の参照符号を付している。実施の形態2に係るヘテロ接合FETでは、チャネル層30とバリア層40の間に、これらの層を形成する材料よりもバンドギャップが大きい材料(例えばAlN)からなるスペーサ層140が形成されている。これ以外の構成は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
スペーサ層140を設けることにより、チャネル層30のバリア層40側に発生する2次元電子ガス(2DEG)の閉じ込め効果を大きくできるため、濃度が増大し、また合金散乱も減少するため移動度が向上し、トランジスタの大電流化さらには高出力化を図ることが出来る。
【0064】
実施の形態2に係るヘテロ接合FETでは、図2に示すチャネル層30をエピタキシャル成長させた後に、チャネル層30、バリア層40を形成する材料よりもバンドギャップが大きい材料を用いてスペーサ層110を形成する(図19)。その後は実施の形態1と同様にして、図18に示すヘテロ接合FETが形成される。
【0065】
<変形例>
チャネル層30、スペーサ層140、バリア層40、キャップ層50のバンドギャップをそれぞれB30,B140,B40,B50としたとき、これらがB30<B40<B100、B50<B40という関係にあれば、ヘテロ接合FETを動作させ、且つスペーサ層140による2次元電子ガスの濃度及び移動度を向上させ、且つ選択的にゲート電極100の領域のキャップ層50のみを除去することが出来る。よって、必ずしもキャップ層50をGaN、バリア層40をAlGaNとする必要はなく、構成する元素の組成が異なるAl,Ga,NのうちNを含む少なくとも2元素から成る化合物半導体で構成されていれば良い。
【0066】
例えば、チャネル層30、スペーサ層140、バリア層40、キャップ層50を構成する化合物半導体をそれぞれAlX30Ga1-X30N、AlX140Ga1-X140N、AlX40Ga1-X40N、AlX50Ga1-X50Nとすると、0≦X30<1、0<X140≦1、0<X40≦1、0≦X50<1、X30<X40<X140、50≦X40という関係を満たす化合物半導体で構成されていれば良い。さらに言えば、Al,Ga,NのうちNを含む少なくとも2元素から成る化合物で構成される必要もなく、例えばIn,Al,Ga,NのうちNを含む少なくとも2種類からなる化合物半導体で構成されていても良い。
【0067】
但し、チャネル層30、スペーサ層140、バリア層40、キャップ層50は、AlとGaとNのうちNを含む少なくとも2元素から成る化合物で構成される場合、バリア層40に大きな分極効果が発生するためチャネル層30のバリア層40側に高濃度の2次元電子ガスを発生させることができ、トランジスタの大電流化や高出力化に有利である。
【0068】
又、ヘテロ接合FETは、チャネル層30に用いる半導体材料の絶縁破壊電界が高いほど耐圧が高くなる。AlXGa1-XNはAl組成がより高いほどバンドギャップが大きく絶縁破壊電界が高いため、上述のようにチャネル層30をAlX30Ga1-X30Nで構成する場合、よりAl組成が高い(X30が1に近い)方が好ましい。又、バリア層40に用いる半導体材料のバンドギャップが大きいほど、バリア層40を介してゲート電極100からヘテロ界面へ流れるゲートリーク電流が抑制されるため、バリア層40として用いるAlX40Ga1-X40Nも同様に、よりAl組成が高いほうが好ましい。
【0069】
又、チャネル層30、スペーサ層140、バリア層40、キャップ層50は、必ずしも同一組成の1層からなる構造である必要はなく、上述のバンドギャップについての条件を満たす限りにおいてIn組成、Al組成、Ga組成が空間的に変化していても良いし、これらが異なる数層からなる多層膜でも良い。また、これらの層にはn型、p型の不純物が含まれていても良い。
【0070】
図19に示すチャネル層30、スペーサ層140、バリア層40、キャップ層50のエピタキシャル成長時に、窒化物半導体の原料ガスとなるトリメチルアンモニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム、アンモニア、あるいは不純物の原料ガスとなるシランや酸素などの流量や圧力、温度、時間を調整してチャネル層30、バリア層40、キャップ層50を所望の組成、膜厚、ドーピング濃度に形成することによって、上述した様々な構成のヘテロ接合FETが形成される。
【0071】
<効果>
本実施の形態のヘテロ接合FETでは、チャネル層30とバリア層40の間にこれらの層を形成する材料よりもバンドギャップが大きい材料からなるスペーサ層140が形成されるため、チャネル層30のバリア層40側に発生する2次元電子ガスの閉じ込め効果を大きくできるため、濃度が増大し、また合金散乱も減少するため移動度が向上し、トランジスタの大電流化さらには高出力化を図ることが出来る。
【0072】
(その他)
以上、本発明を種々の実施例について説明したが、変形例を含めたこれらの実施例を適宜に組み合わせて本発明を実施することが可能である。例えば図20に示すように、T型形状のゲート電極101の底面がバリア層40内に位置する構成とし、ゲート電極101の庇部との間を含むキャップ層50の表面に絶縁膜150が形成されたヘテロ接合FETとしても良い。
【0073】
また、種々の実施例で製造工程を説明したが、工程は適宜入れ替えても良い。例えば、ソース電極/ドレイン電極80,90を形成する前に、素子分離領域70を形成しても構わない。
【符号の説明】
【0074】
10 半絶縁性基板、20 バッファ層、30 チャネル層、40 バリア層、50 キャップ層、60 高濃度ドーピング領域、70 素子分離領域、80 ソース電極、90 ドレイン電極、100,101 ゲート電極、110 キャップ膜、120,130 レジストマスク、140 スペーサ層、150 絶縁膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)チャネル層、バリア層、キャップ層が順に積層された積層体を備える窒化物半導体層を準備する工程と、
(b)前記窒化物半導体層上にSiを含まないキャップ膜を形成する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記窒化物半導体層に選択的に不純物を注入し、熱処理により前記不純物を活性化して不純物領域を形成する工程と、
(d)前記工程(c)の後、前記キャップ膜を除去して前記不純物領域上にソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
(e)前記窒化物半導体層の少なくとも一部を除去した領域にゲート電極を形成する工程と、
を備えたヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、厚みが28nmよりも大きい前記キャップ層を備える前記窒化物半導体層を準備する工程である、請求項1に記載のヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記工程(e)は、前記キャップ層を除去して前記ゲート電極の底部が前記バリア層の上面と接するように前記ゲート電極を形成する工程である、請求項1又は2に記載のヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)は、Siを前記不純物として前記窒化物半導体層に注入する工程である、請求項1〜3のいずれかに記載のヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)はAlNを材料とする前記キャップ膜を形成する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロ接合電界効果トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−49216(P2012−49216A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187985(P2010−187985)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】