説明

ベルト式無段変速機の制御装置

【課題】減速時におけるプライマリ油室への空気流入を防止し、再発進時のベルト滑りを抑制できるベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】プーリ比を検出可能な所定車速以上において最大プーリ比状態に到達したことを判定した場合、プライマリ油室13への作動油を流量制御弁76,77から圧力制御弁78に切り替えて閉じ込み制御を開始する。閉じ込み制御を開始した後、最大プーリ比状態から外れたと判定した場合に、プライマリ油室への作動油を前記流量制御弁に切り替えて変速制御する。走行中に閉じ込み制御を開始するので、プライマリ油室への空気流入を防止し、再発進時のベルト滑りを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機において、そのプライマリ油室への作動油の供給を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを巻き掛け、両プーリに設けられた油室の供給油量/油圧を制御することにより、変速制御とベルト挟圧制御とを行うベルト式無段変速機が知られている。この無段変速機を制御する場合、プライマリ油室への作動油量をレシオコントロール弁(流量制御弁)で制御することによって、プーリ比を制御すると共に、セカンダリ油室への供給油圧を挟圧コントロール弁(圧力制御弁)で制御することによって、ベルト挟圧を制御している。レシオコントロール弁には、アップシフト用ソレノイド弁とダウンシフト用ソレノイド弁から信号圧が対向して作用されており、それら信号圧の大小関係によりプライマリ油室への油量を制御している。一方、挟圧コントロール弁には、リニアソレノイド弁から信号圧が入力され、この信号圧に比例してセカンダリ油室の油圧を制御している。
【0003】
一般に、減速状態から車両停止に至る場合、車両停止までの間に最大プーリ比(最Low)状態まで戻す必要があるため、プライマリ油室から作動油を排出する。しかし、停止直前の車速ではプーリ比の検出精度が悪化し、プーリ比が最Low状態に戻ったかどうかを検出できないので、最Low状態を確実にするため、最Low状態の到達予想後もプライマリ油室から作動油を排出し続けている。プーリ比が最Lowに到達するまでは、プライマリ油室の作動油はダウンシフト用ソレノイド弁で制御されたレシオコントロール弁を介して排出されるが、最Lowに到達するとプライマリプーリの可動シーブはストッパに当接するため、プライマリ油室の容積変化がなくなる。しかし、プライマリ油室はオイルパンの油面より高い位置にあるため、その水頭差によって作動油がレシオコントロール弁を介して継続して排出され、代わって排出された作動油の体積相当分の空気がシール部を介してプライマリ油室内に流入してしまう。
【0004】
このように空気(空気は圧縮性流体である)がプライマリ油室に流入すると、再発進時にプライマリプーリへ作動油を供給する際に油圧の立ち上がりが遅れ、ベルト滑りや発進のもたつき感が発生する可能性があった。
【0005】
そこで、従来では、最Low状態での停車時にプライマリ油室の油圧が抜けるのを防止するため、プライマリ油室への作動油の供給を、流量制御から圧力制御(いわゆる閉じ込み制御)へ切り替えるものが知られている。しかし、閉じ込み制御は車両停止後に行う制御であるのに対し、プライマリ油室への空気の流入は減速中にも発生するので、閉じ込み制御時間が短い場合や閉じ込み制御を実施しない場合には、ベルト滑りや発進のもたつき感を防止できない。
【0006】
上述の問題は、エンジンにより駆動されるオイルポンプのみを有する無段変速機を搭載したアイドルストップ車において、さらに顕著になる。すなわち、車両停止時にプライマリ油室に空気が入った状態でアイドルストップを実施すると、アイドルストップ中はオイルポンプも停止するので、閉じ込み制御を実施してもプライマリ油室に油圧は供給されない。そのため、閉じ込み制御は車両停止からアイドルストップ開始までの短時間だけ実施され、しかも閉じ込み制御におけるプライマリ油室への供給油路には小径なオリフィスが設定されているので、プライマリ油室へ流入した空気が短時間で抜けない。そのため、アイドルストップ復帰(エンジン再始動)時にプライマリ油室に空気が残ったままとなり、プライマリ油圧の昇圧に遅れが生じ、過渡的にベルト滑りが発生したり、発進性能が低下したりする。
【0007】
図8は、アイドルストップ車において、車両が減速状態から停車し、アイドルストップ判定の後、エンジンが自動停止した時の従来制御の一例である。車速、レシオ(プーリ比)、エンジン回転数、ソレノイド弁DS1,DS2の作動、プライマリ油圧の各時間変化を示している。DS1はアップシフト用ソレノイド弁であり、DS2はダウンシフト用ソレノイド弁である。プライマリ油圧において、実線は空気が流入しないとき、破線は空気が流入したときの油圧変化である。
【0008】
t1は、車両が所定車速以下に減速され、プーリ比が最Lowに到達したと推定される時点である。やがて車両が停止し、時刻t2でソレノイド弁DS1、DS2が共にOFFされ、閉じ込み制御が開始される。続いて、時刻t3でアイドルストップ実施判定、つまり所定のエンジン停止条件を満足したことを判定する。その後、時刻t4でエンジンが停止され、時刻t5で所定のエンジン復帰条件を満足すれば、エンジンが再始動される。最Lowに到達すると、プライマリプーリの可動シーブがストッパに当接するので、プライマリ油室に空気が流入し始める可能性がある。特に、低速運転を継続した場合のように、最Low到達から閉じ込み制御開始までの期間(t1〜t2)が長い場合、プライマリ油室に空気が流入する時間が長くなるので、流入空気量も増大する。空気が流入していない場合には、実線で示すように、閉じ込み制御の開始と共にプライマリ油圧は速やかに昇圧するが、空気が流入していると、破線のように昇圧が遅れる。しかも、供給油路にはオリフィスが設定されているため、作動油の充填には至らず、流入した空気が残留したままとなることがある。やがて、時刻t4でエンジンが停止すると、オイルポンプも停止するため、作動油の充填が中止される。時刻t5でエンジンが再始動された時、プライマリ油室に空気が残ったままとなり、プライマリ油圧の昇圧に遅れが生じるため、ベルト滑りの可能性がある。さらに、アイドルストップ復帰時に駆動力の伝達が遅れるので、再始動時の発進性能が低下してしまう。
【0009】
特許文献1には、急減速変速時において、車速が基準車速まで低下した時に閉じ込み制御を実施するベルト式無段変速機の制御装置であって、作動油の温度を検出し、その温度に基づいて閉じ込み制御を開始する基準車速を変更するものが開示されている。
【0010】
特許文献2には、所定車速以下の低車速状態のときに閉じ込み制御を実施する無段変速機において、時間経過により油圧回路のバルブの隙間からオイルが滲み出ることにより変速比が変化するのを抑制するため、ダウンシフト側となるように作動油を排出し、最大変速比に保持するもの(請求項5)が開示されている。
【0011】
特許文献1では、作動油の温度が一定であれば、どのような走行状態から車両停止に至ったかは閉じ込み制御を開始する基準車速と関係がないが、実際には図8に示すように、緩減速時の方がプライマリ油室への空気流入量が多い。つまり、特許文献1は、シール部からの油漏れ量にのみ注目しており、シール部からの空気流入量については全く考慮していない。
【0012】
特許文献2では、最大変速比の状態と判断された以後もプライマリ油室の作動油を排出するが、この排出が継続すると、プライマリ油室への空気流入が問題になる。しかし、特許文献2には、プライマリ油室に空気が流入する点、及びその解決手段について全く開示がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−203664号公報
【特許文献2】特開2008−309271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、減速時におけるプライマリ油室への空気流入を防止し、再発進時のベルト滑りを抑制できるベルト式無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明は、ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを有し、前記両プーリにはそれぞれ可動シーブを作動させる油室が設けられ、前記プライマリプーリの油室への作動油を流量制御弁で制御することによってプーリ比を制御し、前記セカンダリプーリの油室への供給油圧を挟圧コントロール弁で制御することによってベルト挟圧を制御するものであり、最大プーリ比状態において前記プライマリプーリの可動シーブがストッパに当たって停止するように構成されたベルト式無段変速機を備えた車両において、車速を検出する車速検出手段と、プーリ比を検出可能な所定車速以上において、最大プーリ比状態に到達したことを判定するLow戻り判定手段と、前記プライマリプーリの油室への作動油を圧力制御する圧力制御弁と、前記Low戻り判定手段が最大プーリ比状態に到達したと判定した場合に、前記プライマリプーリの油室への作動油を前記流量制御弁から前記圧力制御弁に切り替えて閉じ込み制御を開始し、前記閉じ込み制御を開始した後、前記Low戻り判定手段が最大プーリ比状態から外れたと判定した場合に、前記プライマリプーリの油室への作動油を再び前記流量制御弁に切り替えて変速制御する切替制御手段と、を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置を提供する。
【0016】
上述のように車両停止直前ではプーリ比の検出精度が悪化し、プーリ比が最Low状態に戻ったかどうかを検出できない。従来では、最Low状態の到達予想後もプライマリ油室から作動油を排出し続けているため、排出した作動油の体積相当分の空気がシール部を介してプライマリ油室内に流入してしまう。そこで、本発明では、プーリ比を検出可能な所定車速以上において、Low戻り判定手段が最大プーリ比状態に到達したと判定した場合に、即座に閉じ込み制御を開始する。つまり、プライマリ油室への空気流入が発生しうる状況になったと推定された場合には、走行中であっても閉じ込み制御を開始する。
【0017】
Low戻り判定手段としては、例えばプーリ比が最大プーリ比近傍の所定プーリ比より大きく、かつ流量制御弁を制御するためのソレノイド弁による排油指示値が所定値以上で、かつその状態が所定時間以上継続した場合に最大プーリ比状態であると判定してもよいし、プライマリ油室の油圧を検出するセンサを設け、このセンサが0近傍の所定値未満である場合に最大プーリ比状態であると判定してもよい。最大プーリ比近傍の所定プーリ比とは、プーリ回転数センサの検出精度の限界であるプーリ比を設定すればよい。
【0018】
走行中における閉じ込み制御を実施した場合、直ちに車両が停止すれば問題がないが、緩走行状態が継続すると、プーリ比がHigh側へ変速される可能性がある。そこで、閉じ込み制御を開始した後、Low戻り判定手段が最大プーリ比状態から外れたと判定した場合には、プライマリプーリの油室への作動油を再び流量制御弁に切り替えて制御する。つまり、通常の変速制御へ戻し、車両停止時において確実に最Low状態となるように制御している。
【0019】
アイドルストップ車においては、プライマリプーリの油室に空気が流入しうる状況になったと判定された場合に、他のアイドルストップ条件を満足しても、アイドルストップを禁止することも可能である。つまり、アイドルストップ禁止条件として、Low戻り判定手段によるプーリ比検出不能な低車速状態であって、その車速に所定時間以上保持された場合を加えてもよい。これによって、アイドルストップ復帰時のプライマリプーリの油圧応答遅れをなくし、ベルト滑りに対する信頼性を向上できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、プーリ比を検出可能な所定車速以上において、Low戻り判定手段が最大プーリ比状態に到達したと判定した場合に、即座に閉じ込み制御を開始するので、プライマリ油室への空気流入を未然に防止でき、再発進時のベルト滑りを抑制することができる。また、閉じ込め制御中にプーリ比が最大プーリ比よりHigh側へ変速された場合には、閉じ込み制御を中止して通常の変速制御へ戻すので、車両停止時において確実に最Low状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両の構成を示すスケルトン図である。
【図2】プライマリプーリ及びセカンダリプーリの詳細断面図である。
【図3】図1に示す無段変速機の油圧制御装置の油圧回路図である。
【図4】図3の要部の油圧回路図である。
【図5】ソレノイド圧Psls に対する、ライン圧、クラッチモジュレータ圧、クラッチ制御圧及びセカンダリ圧の各特性を示す図である。
【図6】本発明に係るアイドルストップ車における車速、プーリ比、エンジン回転数、ソレノイド弁、プライマリ油圧の各時間変化を示す図である。
【図7】本発明に係る無段変速機の制御方法の一例のフローチャート図である。
【図8】従来のアイドルストップ車における車速、プーリ比、エンジン回転数、ソレノイド弁、プライマリ油圧の各時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明に係るベルト式無段変速機を搭載した車両の構成の一例を示す。エンジン1の出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速装置4、油圧制御装置7及びエンジン1により駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0023】
無段変速機2は、トルクコンバータ3のタービン軸5の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達する前後進切替装置8、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21及び両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15を有する変速装置4、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。タービン軸5とプライマリ軸10とは同一軸線上に配置され、セカンダリ軸20とドライブシャフト32とがタービン軸5に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機2は全体として3軸構成とされている。Vベルト15は、連続した張力帯とこの張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトに限るものではなく、チェーンベルトなどの他のベルトを用いてもよい。
【0024】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキB1と直結クラッチC1とで構成されている。逆転ブレーキB1と直結クラッチC1は、それぞれ湿式多板式のブレーキ及びクラッチである。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸5に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。遊星歯車機構80はシングルピニオン方式であり、逆転ブレーキB1はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチC1はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチC1を解放して逆転ブレーキB1を締結すると、タービン軸5の回転が逆転され、かつ減速されてプライマリ軸10へ伝えられ、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と同方向に回転するため、前進走行状態となる。逆に、逆転ブレーキB1を解放して直結クラッチC1を締結すると、キャリア84とサンギヤ81とが一体に回転するので、タービン軸5とプライマリ軸10とが直結され、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と逆方向に回転するため、後進走行状態となる。
【0025】
図2は変速装置4の具体的構造を示す。プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間に油室13が形成されている。油室13には、変速機ケース40に設けられた油路41からプライマリ軸10の軸心穴10aを介して作動油が供給される。この作動油を後述するレシオコントロール弁76,77で流量制御することにより、変速制御が実施される。油路41と軸心穴10aとの接続部にはシール42が設けられている。また、シリンダ12の内周面と摺接する可動シーブ11bの外周面には、シール43が設けられている。最Low状態において、プライマリプーリ11の可動シーブ11bはストッパ12aに当接するため、プライマリ油室13の容積変化がなくなり、それ以後も変速制御を継続すると、レシオコントロール弁76,77を介して排出された作動油の体積相当分の空気がプライマリ油室13内に流入する。つまり、プライマリ油室13内の作動油が軸心穴10aとオイルパンとの油面差(ヘッドH)によって排出されるため、シール42が配置された変速機ケース40の油路41とプライマリ軸10の軸心穴10aとの接続部、あるいはシール43が配置されたシリンダ12の内周面と可動シーブ11bの外周面との隙間から空気が流入する(図2参照)。本発明では、この問題を解決するため、後述するような閉じ込め制御の早期化を行う。
【0026】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間に油室23が形成されている。この油室23への供給油圧(セカンダリ圧)を制御することにより、トルク伝達に必要なベルト挟圧力が与えられる。なお、油室23には初期挟圧力を与えるバイアススプリング24が配置されている。セカンダリプーリ21の油室23の近傍の供給油路中には、セカンダリ圧を検出する油圧センサ108(図2,図3参照)が設けられている。
【0027】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延び、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0028】
エンジン1及び無段変速機2は電子制御装置100によって制御される。電子制御装置100には、エンジン回転数センサ101、セカンダリプーリ回転数センサ102、スロットル開度(又はアクセル開度)センサ103、シフトポジションセンサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、ブレーキ信号センサ106、CVTの作動油温センサ107、及びセカンダリ圧を検出する油圧センサ108からそれぞれ検出信号が入力されている。センサとしては、他のセンサ(例えばプライマリ圧を検出する油圧センサ)を追加してもよい。セカンダリプーリ21とドライブシャフト32とは一体に回転するので、セカンダリプーリ回転数センサ102によって車速センサを兼ねることができる。プライマリプーリ回転数センサ105及びセカンダリプーリ回転数センサ102の検出信号により、プーリ比を検出できる。なお、プライマリプーリ回転数センサ105及びセカンダリプーリ回転数センサ102の検出精度には下限値があり、所定車速未満ではプーリ比を正確に検出できない。図1では説明を簡単にするため、単一の電子制御装置100によってエンジン1と無段変速機2の両方を制御する例を示したが、実際には個別の電子制御装置によって制御され、両電子制御装置は通信用バスによって相互に連携している。
【0029】
電子制御装置100は、エンジン停止条件が成立したときにエンジン1を停止(アイドルストップ)させ、エンジン再始動条件が成立したときにエンジン1を再始動させるアイドルストップ制御を実施する。エンジン停止条件としては、例えば車両停止かつブレーキON(ブレーキペダルの踏み込み)などがある。但し、エンジン水温が低いときや、バッテリ電圧の消耗時、電気負荷が大きいとき、アクセルペダルが踏まれているとき等には、アイドルストップを許可しない。一方、エンジン再始動条件(アイドルストップ復帰条件)としては、例えばブレーキOFF、アクセルペダル踏み込み、車速信号の入力などがある。エンジン停止条件及び再始動条件は公知であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0030】
電子制御装置100は、油圧制御装置7に内蔵されたソレノイド弁を制御している。油圧制御装置7は、オイルポンプ6、プライマリ油室13、セカンダリ油室23、逆転ブレーキB1、直結クラッチC1と配管を介して接続されている。電子制御装置100は、車速とスロットル開度とに応じて予め設定された変速マップに従って目標プライマリ回転数を決定し、油圧制御装置7内のデューティソレノイド弁DS1,DS2を制御することによって、プライマリ油室13への供給油量を調整し、プライマリ回転数を目標値へと変速制御すると共に、リニアソレノイド弁SLSを制御することによって、セカンダリ油室23の油圧(ベルト挟圧力)をベルト滑りを発生させない値へと制御している。さらに、油圧制御装置7は、リニアソレノイド弁SLSを用いて逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1への供給油圧を制御する機能も有しており、この制御にはアイドルストップ復帰時の逆転ブレーキ(発進クラッチ)B1の係合制御も含まれる。
【0031】
図3は油圧制御装置7の一例の油圧回路図であり、図4はその要部の油圧回路図である。図3において、71はレギュレータ弁、72はクラッチモジュレータ弁、73はソレノイドモジュレータ弁、74はガレージシフト弁、75はマニュアル弁、76はアップシフト用レシオコントロール弁、77はダウンシフト用レシオコントロール弁、78はレシオチェック弁、79は挟圧コントロール弁である。また、SLSはライン圧の調圧制御、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1の過渡制御、及びセカンダリプーリ21の油室23の圧力制御を行うための、ソレノイド圧Psls を出力するリニアソレノイド弁である。DS1はアップシフト用信号圧Pds1 を発生するアップシフト用ソレノイド弁であり、DS2はダウンシフト用信号圧Pds2 を発生するダウンシフト用ソレノイド弁である。ソレノイド弁DS1,DS2は、変速制御だけでなく、閉じ込み制御を実施する機能も有する。本実施形態では、リニアソレノイド弁SLSは常開型のリニアソレノイド弁、ソレノイド弁DS1,DS2は共に常閉型のソレノイド弁を使用している。
【0032】
ソレノイド弁DS1,DS2は、走行状態に応じて次のように制御される。
【表1】

【0033】
表1において、○は作動状態、×は非作動状態を示す。なお、○及び×はON状態又はOFF状態だけでなく、デューティ制御状態を含む。両方のソレノイド弁を同時にOFFする閉じ込み制御は、車両停止状態で最大プーリ比を保持し、再発進時のベルト滑り防止のために実施される。一方、両方のソレノイド弁をONする閉じ込み制御は、ガレージシフト時に実施される。
【0034】
図3では、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ21、逆転ブレーキB1及び直結クラッチC1に関する油圧回路だけを示してあるが、トルクコンバータ3に内蔵されたロックアップクラッチ3a等の油圧回路については、本発明と直接関係がないので省略する。
【0035】
レギュレータ弁71は、オイルポンプ6の吐出圧を所定のライン圧PL に調圧する弁であり、信号ポート71aに入力されるソレノイド圧Psls に応じてライン圧PL を調圧している。
【0036】
クラッチモジュレータ弁72は、直結クラッチC1および逆転ブレーキB1への供給圧(PC1,PB1)の元圧となるクラッチモジュレータ圧Pcmを出力する弁である。入力ポート72aにはライン圧PL が入力され、出力ポート72bからクラッチモジュレータ圧Pcmが出力される。また、第1信号ポート72cには出力圧がスプリング荷重と対向するようにフィードバックされている。そのため、クラッチモジュレータ圧Pcmは、スプリング荷重に相当する一定圧に調圧される。
【0037】
ソレノイドモジュレータ弁73は、クラッチモジュレータ圧Pcmを調圧して、スプリング荷重に相当する一定のソレノイドモジュレータ圧Psmを発生する弁である。このソレノイドモジュレータ圧Psmは、アップシフト用ソレノイド弁DS1及びダウンシフト用ソレノイド弁DS2の元圧となると共に、挟圧コントロール弁79にも供給されている。
【0038】
ガレージシフト弁74は、シフトレバーをN→D又はN→Rへ切り替えた時(ガレージシフト時)に、直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1への供給圧を過渡制御できるように油路を切り替えるための切替弁である。図3の中心線より右側が過渡状態、左側が保持状態である。スプリング74aによって一方向に付勢されたスプール74bを備えており、スプリング荷重と同方向にアップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 とが入力される信号ポート74c,74dが形成されている。カウンタポート74hには、スプリング荷重と対向方向にソレノイドモジュレータ圧Psmが入力されている。ガレージシフト時にはソレノイド弁DS1,DS2は共にONとなるので、信号ポート74c,74dに入力される信号圧Pds1 ,Pds2 も共にONになり、スプール74bはスプリング74aに抗して下方へ移動し、右側の過渡状態になる。ポート74eに入力されたソレノイド圧(過渡圧)Psls は出力ポート74fから出力され、マニュアル弁75を介して直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1へ供給される。そのため、ソレノイド圧Psls によって直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1の係合ショックを回避しつつ緩やかに係合を開始することができる。信号圧Pds1 ,Pds2 の少なくとも一方がOFFになると、左側の保持状態になり、ポート74gに入力されたクラッチモジュレータ圧(保持圧)Pcmが出力ポート74fから出力され、マニュアル弁75を介して直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1へ供給される。そのため、リニアソレノイド弁SLSの作動如何にかかわらず直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1の締結状態を保持できる。
【0039】
マニュアル弁75はシフトレバーと機械的に連結された手動操作弁であり、P、R、N、D、S、Bの各レンジに切り換えられ、ガレージシフト弁74から供給される油圧を直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1に選択的に導くものである。入力ポート75aにはガレージシフト弁74から油圧が供給され、出力ポート75bは直結クラッチC1と接続され、出力ポート75c,75dは共に逆転ブレーキB1に接続されている。マニュアル弁75は、Rレンジでは直結クラッチC1に油圧を供給するとともに逆転ブレーキB1の油圧をドレーンし、D、S、Bレンジでは逆転ブレーキB1に油圧を供給するとともに直結クラッチC1の油圧をドレーンする。非走行レンジであるP、Nレンジでは直結クラッチC1及び逆転ブレーキB1の油圧を共にドレーンする。
【0040】
アップシフト用レシオコントロール弁76及びダウンシフト用レシオコントロール弁77は、アップシフト用信号圧Pds1 とダウンシフト用信号圧Pds2 との相対関係によってバルブ開口面積を変化させ、プライマリプーリ11の油室13への作動油量を調整する流量制御弁である。すなわち、図4に示すように、アップシフト用レシオコントロール弁76はスプリング76aによって一方向に付勢されたスプール76bを備えており、スプリング76aが収容された一端側の信号ポート76cに信号圧Pds2 が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート76dに信号圧Pds1 が入力されている。中間部の入力ポート76eにはライン圧PL が供給されており、出力ポート76fはプライマリプーリ11の油室13と接続されている。入力ポート76eとドレーンポート76gとの間には、後述するレシオチェック弁78のポート78hと接続されたポート76hが形成され、出力ポート76fと信号ポート76dとの間には、ダウンシフト用レシオコントロール弁77のポート77f及びレシオチェック弁78のポート78dと接続されたポート76iが形成されている。
【0041】
ダウンシフト用レシオコントロール弁77は、スプリング77aによって一方向に付勢されたスプール77bを備えており、スプリング77aが収容された一端側の信号ポート77cに信号圧Pds1 が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート77dに信号圧Pds2 が入力されている。中間部には、ドレーンポート77eと、アップシフト用レシオコントロール弁76のポート76iと接続されたポート77fと、レシオチェック弁78のポート78fと接続されたポート77gとが順に形成されている。
【0042】
レシオチェック弁78は、閉じ込み制御の際に、プライマリプーリ11の油室13の油圧を流量制御から圧力制御に切り替えて、プライマリ圧をセカンダリ圧との比率に応じた所定圧に保持するための圧力制御弁である。レシオチェック弁78は、スプリング78aによって一方向に付勢されたスプール78bを備えており、スプリング78aが収容された一端側の信号ポート78cにセカンダリプーリ油室23の油圧が入力されている。スプリング荷重と対向する他端側の信号ポート78dには、プライマリ油室13の油圧がアップシフト用レシオコントロール弁76のポート76f,76iを介して入力されている。なお、セカンダリ圧が入力される信号ポート78cの受圧面積に比べて、プライマリ圧が入力される信号ポート78dの受圧面積の方がα倍だけ大きい。入力ポート78eにはライン圧PL が供給されており、出力ポート78fはダウンシフト用レシオコントロール弁77のポート77gと接続されている。さらに、出力ポート78fとドレーンポート78gとの間には、アップシフト用レシオコントロール弁76のポート76hと接続されたポート78hが形成されている。
【0043】
閉じ込み制御時には、両方のソレノイド弁DS1,DS2がOFF又はONされるため、アップシフト用レシオコントロール弁76は図4の右側位置、ダウンシフト用レシオコントロール弁77は図4の左側位置となる。セカンダリ圧による荷重とスプリング荷重との和が、プライマリ圧による荷重のα倍に比べて相対的に大きい時には、レシオチェック弁78は図4の左側位置にあり、レシオチェック弁78の入力ポート78eに供給されたライン圧PL は、出力ポート78fからダウンシフト用レシオコントロール弁77のポート77g,77f、アップシフト用レシオコントロール弁76のポート76i,76fを介してプライマリ油室13へ供給される。逆に、プライマリ圧による荷重のα倍が、セカンダリ圧による荷重とスプリング荷重との和に比べて相対的に大きい時には、レシオチェック弁78は図4の右側位置に切り替わる。そのため、プライマリ圧は、出力ポート78f、ポート78hから、アップシフト用レシオコントロール弁76のポート76h,76gを介してドレーンされる。実際には、レシオチェック弁78のスプール78bは、出力ポート78fと入力ポート78eとを接続する位置と、出力ポート78fとポート78hとを接続する位置との中間位置でバランスされる。このようにレシオチェック弁78は、プライマリ圧とセカンダリ圧との比率が所定の関係となるようにプライマリ圧を制御し、所定の変速比に保持することができる。なお、レシオチェック弁78とプライマリ油室13とを結ぶ供給油路は、アップシフト用レシオコントロール弁76及びダウンシフト用レシオコントロール弁77を経由しており、ポート78fと77g間の油路に小径なオリフィス90(図4参照)が設定されている。これらオリフィス90の作用により、閉じ込み制御への切替時に急変速するのを防止している。
【0044】
挟圧コントロール弁79は、セカンダリプーリ21の作動油室23の油圧(セカンダリ圧)を制御するための弁である。スプリング79fによって一方向に付勢されたスプール79gを備え、スプリング荷重と対向する一端側の信号ポート79aにソレノイドモジュレータ弁73から一定圧Psmが供給されている。入力ポート79bにはライン圧PL が供給されており、出力ポート79cはセカンダリプーリ21の作動油室23と接続され、セカンダリ圧はポート79dにフィードバックされている。スプリング79fが収容された他端側の信号ポート79eにはソレノイド圧Psls が供給される。ポート79hはドレーンポートである。そのため、信号ポート79eに入力されたソレノイド圧Psls を所定の増幅度で増幅した油圧を、セカンダリ圧としてセカンダリプーリ21の作動油室23に供給することができる。作動油室23の油圧(セカンダリ圧)は油圧センサ108によって検出され、検出された油圧に基づいてベルト挟圧力又はベルト伝達トルクを求めることができる。
【0045】
図5はソレノイド圧Psls に対する、ライン圧PL 、クラッチモジュレータ圧Pcm、クラッチ制御圧、及びセカンダリ圧の各特性を示す。ライン圧PL はソレノイド圧Psls にほぼ比例した油圧に調圧される。クラッチモジュレータ圧Pcmは、ソレノイド圧Psls が所定値に達するまではライン圧PL と同圧であり、所定値を超えると一定圧に制限される。また、逆転ブレーキB1又は直結クラッチC1には過渡状態においてソレノイド圧Psls が直接供給されるので、クラッチ制御圧はソレノイド圧Psls そのものとなる。セカンダリ圧はソレノイド圧Psls に比例し、ライン圧PL より僅かに低い油圧に調圧される。図5に示したように、クラッチ制御圧とセカンダリ圧は共にソレノイド圧Psls によって制御されるが、常にセカンダリ圧がクラッチ制御圧を上回るように設定されている。
【0046】
次に、本発明にかかる無段変速機の制御方法について、図6のタイムチャートを参照しながら説明する。図6は、車両が減速状態から停車し、アイドルストップの後、エンジンが再始動した時の制御の一例であり、車速、プーリ比、エンジン回転数、ソレノイド弁DS1,DS2の作動、プライマリ油圧の各時間変化を示している。プライマリ油圧において、実線は本発明の油圧変化、破線は従来の油圧変化である。
【0047】
図6のように減速状態から車両停止に至る場合、車両停止までにプーリ比を最Low状態に戻す必要があるため、アップシフト用ソレノイド弁DS1をOFF、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2をONさせる。時刻t0で車速V1(例えば10km/h)未満になり、プーリ比がR1(最Lowに近い値)を越える。この車速V1は、プライマリプーリ回転数センサ及びセカンダリプーリ回転数センサによってプーリ比を検出可能な最低車速より大きい。この状態(車速<V1,プーリ比>R1,DS2=ON)が所定時間ΔT継続すると、電子制御装置100はプーリ比が最Lowに到達したと判定し(時刻t1)、即座に閉じ込み制御を開始する。閉じ込み制御では、ソレノイド弁DS1,DS2を共にOFFする。そのため、それまでレシオコントロール弁76,77を介して排油されていたプライマリ油室13には、代わってレシオチェック弁78を介して油圧が供給される。レシオチェック弁78は圧力制御弁であり、セカンダリ油圧とプライマリ油圧との油圧バランスによってプライマリ油圧を調圧する。閉じ込み制御は、プーリ比が最Lowに到達したと予想される時点(t1)から即座に開始されるので、プライマリ油室13には殆ど空気は流入しないと考えられる。レシオコントロール弁76,77からレシオチェック弁78への油路の切り替わりに伴ってプライマリ油圧は瞬間的に低下するが、その直後に油圧が上昇し、所定の油圧に保持される。なお、図6から明らかなように、閉じ込み開始時におけるプライマリ油圧の上昇勾配は、従来例(図8)における上昇勾配より大きい。その理由は、プライマリ油室13に空気が殆ど入っていない状態から閉じ込み制御を開始するので、作動油の充填が早く、速やかに昇圧するからである。
【0048】
閉じ込み制御中の時刻t3において、アイドルストップ実施判定が行われ、続いて時刻t4でエンジンが停止する。エンジンが停止すると、オイルポンプも停止するので、閉じ込み制御を実施してもプライマリ油室13に油圧は供給されない。そのため、プライマリ油圧13は0まで低下する。所定時間後の時刻t5でエンジンが再始動されると、オイルポンプも駆動されるが、プライマリ油室13には殆ど空気が流入していないので、プライマリ油室13の油圧が速やかに立ち上がる。そのため、ベルト挟圧の昇圧遅れをなくし、ベルト滑りを防止することができる。また、アイドルストップ復帰時に速やかにエンジン駆動力を伝達可能となるので、再始動時の発進性能が向上する。
【0049】
図7は、本発明に係る無段変速機の制御方法の一例を示すフローチャート図である。まず、通常の変速制御を実施する(ステップS1)。この変速制御は、公知のように目標プーリ比又は目標入力回転数となるように、ソレノイド弁DS1,DS2のデューティ比をフィードバック制御する。次に、ベルトLow戻り判定を実施する(ステップS2)。このLow戻り判定は、車速がV1より低く、プーリ比がR1(最Lowに近い値)より大きく、かつソレノイド弁DS2のデューティ比がD1より大きい状態が所定時間ΔT継続したかどうかで判定する。Low戻り判定が否定された場合には、次に車速がV2(V2<V1)より低いかどうかを判定し(ステップS3)、車速<V2でかつ最Lowに戻っていない場合は、Low戻しをあきらめ、閉じ込み制御を実施し(ステップS4)、続いてアイドルストップ(IDS)を作動させる(ステップS5)。
【0050】
Low戻り判定が肯定された場合には、即座に閉じ込み制御を実施する(ステップS6)。ついで、車速をV3(V2<V3<V1)と比較し、プーリ比をR2(1<R2<R1)と比較する(ステップS7)。車速≧V3でかつプーリ比<R2の場合には、通常変速制御へ戻す(ステップS1)。これは、閉じ込み制御中にプーリ比が最LowよりHigh側へ変化する可能性があり、その場合には通常変速制御に戻してLow側へ再度変速するためである。車速≧V3でないか又はプーリ比<R2でない場合には、閉じ込み制御を継続し(ステップS8)、続いて車速<V3で閉じ込み制御継続時間>T1であるかどうかを判定する(ステップS9)。車速<V3又は閉じ込み制御継続時間>T1のいずれかが否定された場合には、車両完全停止判定を行い(ステップS10)、車両が完全停止しておれば、アイドルストップを作動させ(ステップS11)、完全停止していなければ、閉じ込み制御を継続する(ステップS8)。
【0051】
ステップS9の判定において、車速<V3かつ閉じ込み制御継続時間>T1の場合には、ダウンシフト用ソレノイド弁DS2に所定のデューティ比を出力して、変速制御(フィードフォワード制御)を実施する(ステップS12)。プーリ比が検出不能な低車速では、フィードバック制御ができないからである。続いて、車両完全停止判定を行い(ステップS13)、車両が完全停止しておれば、閉じ込み制御を実施し(ステップS14)、アイドルストップを禁止する(ステップS15)。つまり、最Low判定後、プーリ比の検出不能な低車速V3未満になり、その車速に所定時間T1以上保持された場合には、ドラビリ性能を低下させないためにアイドルストップを禁止するものである。
【0052】
前記実施例では、Low戻り判定(ステップS2)を、プーリ比がR1より大きく、かつソレノイド弁DS2のデューティ比がD1より大きい状態が所定時間ΔT継続したかどうかで判定したが、これに限るものではない。例えば、プライマリ油室13の油圧を検出する油圧センサを設けた場合には、プライマリ油室13の油圧がほぼドレーン状態になったかどうかでLow戻り判定を実施できる。具体的には、所定の油圧値P0(≒0)を設定し、プライマリ油圧<P0になった時点で最Low状態に戻ったと判定できる。
【0053】
さらに、図7のIDS作動の禁止(ステップS15)に代えて、IDSを作動させると共に、エンジン再始動時のベルト入力トルクを制限してもよい。具体的には、油圧応答遅れ分、ベルト滑り防止のため、再始動時のエンジントルクを制限したり、クラッチ係合トルクを制限することによって、ベルト入力トルクを制限してもよい。
【0054】
本発明では、プーリ比を検出可能な車速状態で最Low状態を予測し、閉じ込み制御の開始早期化を行うので、ベルト滑り及び発進性能の低下を抑制することができる。本発明では、制御ソフトウエアを変更するだけで、既存の装置(油圧回路を含む)を用いて最Low状態を予測するので、コスト上昇を招かず、安価に実現できる。
【0055】
前記説明では、アイドルストップ車を対象として説明したが、非アイドルストップ車においても、最大プーリ比状態で減速走行する場合にプライマリ油室への空気入りが発生するので、本発明を同様に適用できる。
【0056】
前記実施例では、流量制御弁として2個のレシオコントロール弁76、77を設け、両方のコントロール弁に対してアップシフト用ソレノイド弁DS1とダウンシフト用ソレノイド弁DS2とからそれぞれ信号圧を対向して入力することで、プライマリ油室13の作動油を流量制御したが、単一の流量制御弁を用い、その両端にアップシフト用ソレノイド弁DS1とダウンシフト用ソレノイド弁DS2の信号圧を対向して入力することで、プライマリ油室13の作動油を流量制御してもよい。また、圧力制御弁(レシオチェック弁)78の出力圧をレシオコントロール弁76、77を介してプライマリ油室13へ供給するようにしたが、これに限るものではなく、別の油路を介して供給してもよい。この場合には、この別の油路中に急変速を防止するためのオリフィスを設定するのがよい。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン
2 無段変速機
4 変速装置
6 オイルポンプ
7 油圧制御装置
11 プライマリプーリ
13 プライマリ油室
21 セカンダリプーリ
23 セカンダリ油室
76 アップシフト用レシオコントロール弁(流量制御弁)
77 ダウンシフト用レシオコントロール弁(流量制御弁)
78 レシオチェック弁(圧力制御弁)
79 挟圧コントロール弁
90 オリフィス
100 電子制御装置
101 エンジン回転数センサ
102 セカンダリプーリ回転数センサ
103 スロットル開度センサ
104 シフト位置センサ
105 プライマリプーリ回転数センサ
108 油圧センサ
SLS リニアソレノイド弁
DS1 アップシフト用ソレノイド弁
DS2 ダウンシフト用ソレノイド弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻きかけられたプライマリプーリとセカンダリプーリとを有し、
前記両プーリにはそれぞれ可動シーブを作動させる油室が設けられ、
前記プライマリプーリの油室への作動油を流量制御弁で制御することによってプーリ比を制御し、
前記セカンダリプーリの油室への供給油圧を挟圧コントロール弁で制御することによってベルト挟圧を制御するものであり、
最大プーリ比状態において前記プライマリプーリの可動シーブがストッパに当たって停止するように構成されたベルト式無段変速機を備えた車両において、
車速を検出する車速検出手段と、
プーリ比を検出可能な所定車速以上において、最大プーリ比状態に到達したことを判定するLow戻り判定手段と、
前記プライマリプーリの油室への作動油を圧力制御する圧力制御弁と、
前記Low戻り判定手段が最大プーリ比状態に到達したと判定した場合に、前記プライマリプーリの油室への作動油を前記流量制御弁から前記圧力制御弁に切り替えて閉じ込み制御を開始し、前記閉じ込み制御を開始した後、前記Low戻り判定手段が最大プーリ比状態から外れたと判定した場合に、前記プライマリプーリの油室への作動油を再び前記流量制御弁に切り替えて変速制御する切替制御手段と、を備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト式無段変速機と、
所定のアイドルストップ条件を満足したときにエンジンを自動停止させるアイドルストップ手段とを備えた車両であって、
前記Low戻り判定手段によるプーリ比検出不能な所定車速未満であって、その車速に所定時間以上保持された場合に、前記アイドルストップを禁止することを特徴とするアイドルストップ車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196495(P2011−196495A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65624(P2010−65624)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】