説明

ポリイミドフィルム基材

【課題】シリコン膜を形成するのに好適な全芳香族ポリイミドフィルム基材を提供する。
【解決手段】下記式(I)


(Arは炭素数6〜20の4価の芳香族基を表し、Arは炭素数6〜20の非反応性の置換基を含んでもよい2価の芳香族基を表す)
で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから主としてなり、100〜400℃での平均線膨張係数が−20〜10ppm/℃である直交する2方向がフィルム面内に存在するシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材に関するものであり、特に多結晶シリコン膜を形成するのに好適な耐熱性、および多結晶ポリシリコンと同程度の熱線膨張係数を有する全芳香族ポリイミドフィルム基材、ならびに、その少なくとも一方の面に低温多結晶シリコン膜が形成された薄膜トランジスタ製造材料に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)が作りこまれた基板装置は、TFTアクティブマトリックス駆動方式の液晶ディスプレーを初めとする各種電気光学装置などに使用されている。半導体膜として使用するシリコンとしては、アモルファスシリコンやアモルファスシリコンより動作速度の速い低温多結晶シリコンの開発が進んでいる。低温多結晶シリコンを得る方法としては、例えば、特許文献1,2に記載のあるような方法があり、低温多結晶シリコンをガラス基板上に形成することが開示されている。形成方法としては、まず、シランもしくはジシランなどの高次シランを水素で希釈したガスを用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により、ガラス基板上に非晶質(アモルファス)シリコン膜を形成する。次に、400℃〜500℃でアニールを行ってアモルファスシリコン膜中に含まれる水素を離脱させる。次にアモルファスシリコン膜にArF、KrF、XeClなどのエキシマーレーザを照射する事でアニールを行う。この際にエキシマーレーザが照射された領域のアモルファスシリコンが一旦融解、再固化して結晶化し、多結晶シリコン膜が形成される。この後、ゲート酸化膜、導電膜が適宜形成され、トランジスタ等が形成される、という方法が例示できる。さらに、特許文献3、4には、シリコン前駆体含有インク組成物を用いたインクジェット法でパターン形成することにより、LSI、薄膜トランジスタ、感光体用途でのシリコン膜形成する方法についても開示されている。この方法では、シリコン前駆体を金属シリコン膜に変換するために、300℃未満の温度では、珪素化合物の熱分解が十分に進行せず、十分な厚さのシリコン膜を形成できない場合がある、という記載がある。
【0003】
これまで、多結晶シリコン膜を形成する基材としては、耐熱性の高いガラス基板が使用されてきた。プラスチック基板はフレキシブルであり、割れにくいという特徴があるが、上述のような加工温度で使用することは、耐熱性や、熱膨張差によって生じるシリコン膜とのひずみのために、良好な低温多結晶シリコン膜を形成するのは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−260707号公報 2頁
【特許文献2】特開2000−260713号公報 2頁
【特許文献3】再公表00/059014号公報
【特許文献4】再公表00/059015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低温多結晶シリコン膜を用いた薄膜トランジスタ(TFT)を形成するのに有効な屈曲性のあるプラスチック基板材料、詳細には高い耐熱性と、多結晶ポリシリコンと同程度の熱膨張係数を有するポリイミドフィルム基材、ならびにその少なくとも一方の面に低温多結晶シリコン膜が形成された薄膜トランジスタ製造材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
1.下記式(I)
【化1】

(Arは炭素数6〜20の4価の芳香族基を表し、Arは炭素数6〜20の非反応性の置換基を含んでもよい2価の芳香族基を表す)
で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから主としてなり、100〜400℃での平均線膨張係数が−20〜10ppm/℃である直交する2方向がフィルム面内に存在するシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
2.1Hzで測定した粘弾性において100℃超〜400℃における動的損失正接(以下tanδという)の最大値が、100℃におけるtanδの3倍を超えない上記1に記載のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
3.全芳香族ポリイミドを構成する芳香族テトラカルボン酸成分において、全テトラカルボン酸成分に基づき、ピロメリット酸が30〜100モル%である上記1または2いずれかに記載のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
4.全芳香族ポリイミドを構成する芳香族ジアミン成分において、全ジアミン成分に基づき、1,4−フェニレンジアミンが30〜100モル%である上記1〜3のいずれかに記載のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
5.上記1から4のいずれかに記載のポリイミドフィルム基材上に低温多結晶シリコン膜が形成されたことを特徴とする薄膜トランジスタ製造材料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材は、400℃を超える耐熱性をもち、かつ低温多結晶シリコン膜と同程度の熱膨張係数を有するため、低温多結晶シリコン膜形成用の基材として好適に使用することが可能である。本発明のフィルムは、そのまま低温多結晶シリコン薄膜トランジスタの一部として使用することが可能であり、また、他のプラスチックやガラスなどの基材にシリコン膜部分を転写するための、低温多結晶シリコン膜形成プロセス材料として使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材は、下記式(I)
【化2】

(Arは炭素数6〜20の4価の芳香族基を表し、Arは炭素数6〜20の非反応性の置換基を含んでもよい2価の芳香族基を表す)
で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから主としてなり、100〜400℃での平均線膨張係数が−20〜10ppm/℃である直交する2方向がフィルム面内に存在するシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材である。
【0009】
好ましいArの具体例としては、以下の芳香族テトラカルボン酸成分を構成するものが挙げられる。また好ましいArの具体例としては、以下の芳香族ジアミン成分を構成するものが挙げられる。
【0010】
全芳香族ポリイミドを構成する芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えばピロメリット酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−p−テルフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,6,7−フェナンスレンテトラカルボン酸、1,2,7,8−フェナンスレンテトラカルボン酸、1,2,9,10−フェナンスレンテトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン等が挙げられる。
【0011】
また、これらの芳香族テトラカルボン酸成分は二種以上を同時に併用することもできる。この中でも、好ましい芳香族テトラカルボン酸成分としては、ピロメリット酸単独からなるか、あるいはピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、および、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸単独あるいは、それらの組合せからなるものが例示される。より具体的には、全テトラカルボン酸成分に基づき、ピロメリット酸が30〜100モル%であることが好ましい。ピロメリット酸二無水物30モル%以上とすることで、線膨張係数が10ppm/℃以下である全芳香族ポリイミドフィルムを得ることが容易になる。好ましくはピロメリット酸二無水物が50〜100モル%であり、より好ましくはピロメリット酸二無水物が70〜100モル%であり、更に好ましくはピロメリット酸二無水物が80〜100モル%であり、さらにはピロメリット酸二無水物単独で用いることが特に好ましい。
【0012】
全芳香族ポリイミドを構成する芳香族ジアミン成分としては、例えば1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等およびそれらのハロゲン原子あるいはアルキル基による芳香核置換体が挙げられる。
【0013】
上記の芳香族ジアミン成分は二種以上を同時に併用することもできる。また、好ましい芳香族ジアミン成分としては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが例示される。更に好ましい芳香族ジアミン成分としては、全ジアミン成分に基づき、1,4−フェニレンジアミンが30モル%以上とすることで、線膨張係数が10ppm/℃以下である全芳香族ポリイミドフィルムを得ることが容易になる。
【0014】
好ましくは1,4−フェニレンジアミンが30〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%であり、より好ましくは1,4−フェニレンジアミンが70〜100モル%であり、更に好ましくは80〜100モル%であり、さらには1,4−フェニレンジアミン単独で用いることが特に好ましい。1,4−フェニレンジアミン以外の他の芳香族ジアミン成分としては、1,3−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンが好ましい。これらの中でも、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。
【0015】
本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材は、100〜400℃での平均線膨張係数が−20〜10ppm/℃である直交する2方向がフィルム面内に存在する。100〜400℃の範囲における平均の線膨張係数を−20〜10ppm/℃とすることで、半導体材料である多結晶シリコン膜との線膨張係数差が小さくなるため、フィルム上にシリコン層が形成された後の温度変化に対しても、残留ひずみを小さくすることが可能なため、良好な多結晶シリコン膜を得ることが可能である。任意の直交する2方向における100〜400℃の範囲における平均の線膨張係数は、多結晶シリコン膜に近いほうが好ましく、−10〜8ppm/℃であることがさらに好ましく、−7〜6ppm/℃であることがさらに好ましく、−6〜5ppm/℃であることがさらに好ましい。
【0016】
さらに低温多結晶シリコン膜の形成時の温度が400℃を超える場合には、低温多結晶シリコン膜の形成時の温度まで、上述の平均の線膨張係数を満足するフィルムであることが好ましい。こうした温度の上限としては、概略500℃程度である。
【0017】
本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材は、1Hzで測定した粘弾性において100℃超〜〜400℃におけるtanδの最大値が、100℃におけるtanδの3倍を超えないことが好ましい。これは、100℃超〜〜400℃の範囲にガラス転移温度を有さないことを示しており、この範囲の上限としては高い方が、高温での寸法安定性や線膨張係数の温度依存性を小さくする上で好ましい。100℃超〜〜400℃においてtanδが、100℃の値の3倍を超える場合、この温度範囲で貯蔵弾性率が小さくなり、フィルムが変形しやすくなることを示しており、半導体形成時に十分な寸法安定性を示せなくなる。tanδの変化は小さいほど好ましく、100℃超〜400℃におけるtanδが、100℃におけるtanδの2.5倍を超えないことが好ましく、2.2倍を超えないことがさらに好ましい。
100℃における1Hzで測定した粘弾性におけるtanδは通常0.03程度以下である。
【0018】
本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材は、厚みが2〜50μmであることが好ましい。2μm以上の厚みを有することが、得られたフィルムの剛性を維持する上で好ましい。また、厚みを50μm以下とすることが、製造上、線膨張係数を−20〜10ppm/℃とする上で好ましい。以上の実用面および製造面から、フィルムの厚みの下限2μmは、より好ましくは4μmであり、さらに好ましくは、6μmである。フィルムの厚みの上限50μmは、より好ましくは35μmであり、さらに好ましくは、25μmである。
【0019】
さらに本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材の弾性率は直交する2方向それぞれ6GPa以上であることが好ましい。弾性率は高いほど薄厚化での取り扱いが向上するため好ましい。また後述する製造方法では弾性率が高いほど、線膨張係数が小さくなる傾向があるため、弾性率が高いフィルム基板としたほうが、線膨張率を低くする上で好ましい。弾性率の好適な範囲は、使用するポリイミドの構造や実現しようとする線膨張係数に依存する。例えば、ポリイミドがピロメリット酸と1,4−パラフェニレンジアミンからなるポリイミドの場合には、概略、10〜20GPaであることが好ましい。また、他の構造の場合にも概略、6〜18GPa程度であることが好ましい範囲と想定される。
【0020】
以上のような、本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルムの製造方法としては、ポリイミドの構成成分において記載した芳香族テトラカルボン酸のアミド酸形成性誘導体と芳香族ジアミンを溶媒中で反応せしめてポリアミック酸とした後、イミド化あるいはイソイミド化を行い、延伸配向させた後、溶剤乾燥と熱処理を行うことにより、好ましく製造可能である。
【0021】
芳香族テトラカルボン酸成分の原料としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物や芳香族テトラカルボン酸成分の一部又は全部がジカルボン酸ハロゲン化物ジカルボン酸アルキルエステル誘導体であっても構わない。芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。芳香族ジアミン成分の原料としては、芳香族ジアミンの他、芳香族ジアミンのアミド酸形成性誘導体でもよい。例えば芳香族ジアミン成分のアミノ基の一部又は全てがトリアルキルシリル化されていてもよく、酢酸の如く脂肪族酸によりアミド化されていても良い。この中でも、実質的に芳香族ジアミンを用いることが好ましい。
【0022】
これらの原料を例えば、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンの如く有機極性溶媒中にて、例えば−30℃〜120℃程度の温度で重合反応せしめて、前駆体であるポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体の有機極性溶媒溶液を得、該溶液を支持体などにキャストし、次いで例えば80〜400℃程度で乾燥し、更に、最高温度が250〜600℃の熱処理を施しイミド化反応せしめ、全芳香族ポリイミドフィルムを得たり、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドや、無水酢酸のような脂肪族酸無水物とピリジンの如く有機窒素化合物との組合せを用いて化学的に脱水環化反応せしめて、膨潤ゲルフィルムを得て、該ゲルフィルムを任意に延伸した後、定長乾燥・熱処理を施し、全芳香族ポリイミドフィルムを得る方法などが例示される(特開2002−179810号公報)。特に化学脱水反応により得られるゲルフィルムを延伸する方法により、任意に線熱膨張係数やヤング率を制御することが可能であるため、本発明のポリイミドフィルムの製造に特に好ましい方法といえる。
【0023】
本発明のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材の表面は、薄膜半導体との安定した接着力を得る、表面平滑性を付与する、あるいは、適度の剥離強度を持たせる、などの目的で、コロナ処理、プラズマ処理、サンドブラスト処理等の各種表面処理並びに硝酸などの酸処理、水酸化カリウムのようなアルカリ処理、シランカップリング剤処理など各種表面改質剤による処理を行っても良い。
【0024】
また、同様の目的で、ポリイミドフィルム上に本発明の目的に対して十分な耐熱性を有する樹脂層、あるいは、フィルムや樹脂に含まれるアルカリ金属が半導体膜中に拡散しないために、無機の下地絶縁膜を形成しても構わない。こうした樹脂層を形成する場合、先述のように、積層フィルムとして、熱膨張係数が−4〜10ppm/℃であることが好ましく、−2〜8ppm/℃であることが好ましく、0〜6ppm/℃であることがさらに好ましく、1〜5ppm/℃であることがさらに好ましい。このような樹脂層としては、耐熱性の熱硬化性樹脂あるいはポリイミド系、ポリシロキサン変性ポリイミド系、全芳香族ポリアミド系、あるいはフェノール系樹脂などが挙げられる。
【0025】
このような樹脂層の厚さは0.1μm〜50μmの範囲であることが好ましい。0.1μm未満の場合、接着性の改善が不十分となる可能性がある。また、50μmより大きい場合、フィルムの厚みに対して樹脂層が厚くなりすぎる。そのため、線膨張係数を好適な範囲とすることが困難となるため好ましくない。樹脂層の厚さは0.2μm〜40μmの範囲であることがさらに好ましく、1μm〜30μmの範囲であることがさらに好ましい。
このような樹脂層は、フィルムの両面に対して同じ厚みで形成されることが、積層フィルムの反りを引き起こさない上で好ましい。
【0026】
樹脂層の厚みは、下記式(1)
【数1】

(αfはポリイミドフィルムの線熱膨張係数,hfはポリイミドフィルムの厚み,Eはポリイミドフィルムのヤング率(弾性率)、αは樹脂層の線熱膨張係数, hrは樹脂層のトータルの厚み,Eは樹脂層のヤング率(弾性率))
より求められるαが、上述のように−4〜10ppm/℃となるように選択されることが好ましい。
【0027】
さらにフィルムの表面粗さとしては、平均線粗さ(Ra)として6nm以下であることが好ましい。表面粗さが6nm以下とすることで、良好な多結晶シリコン膜を作成することができる。表面粗さは小さいほど好ましく、4nm以下がさらに好ましく、3nm以下がさらに好ましく、1.5nm以下がより好ましい。
【0028】
シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナなどの無機粒子を使用する場合には、上記のように平滑な表面とするために、平均粒径30nm以下の微粒子のものを使用する、あるいは、これ以上のサイズの無機粒子を使用する場合には、フィルム上に先述のような平滑な樹脂層を形成することが好ましい。
【0029】
さらに、無機の下地絶縁膜は、フィルムあるいは、樹脂層上に酸化シリコン膜、窒化シリコン膜又は酸化窒化シリコン膜などの絶縁膜の積層からなるものを挙げることができる。下地絶縁膜としては、絶縁膜の単層膜又は2層以上積層させた構造を用いてもよい。下地絶縁膜としては、従来公知の方法が使用可能であるが、プラズマCVD 法を用い、SiH4 、NH3、N2O及びH2 などを反応ガスとして成膜される酸化窒化シリコン膜などが好ましい。下地絶縁膜の厚みとしては、全体で50〜400nm、 好ましくは100〜300nm程度である。熱膨張係数は、酸化シリコン膜が、1ppm/℃程度、窒化シリコン膜が、3ppm/℃程度であるため、本発明のフィルム上に形成しても、カールの少ない材料を形成することができる。
【0030】
本発明のポリイミドフィルム基材は、以下のようにして、従来公知のレーザーアニール法などで作成される低温多結晶シリコン膜の形成用基材として利用可能である。
すなわち本発明は上記のポリイミドフィルム基材上に低温多結晶シリコン膜が形成されたことを特徴とする薄膜トランジスタ製造材料を包含する。低温多結晶シリコン膜としては従来公知の低温多結晶シリコン膜が用いられる。
【0031】
ポリイミドフィルム基材上へのに低温多結晶シリコン膜の形成法の好ましい具体的方法を以下に説明する。まず、シランまたはジシラン等の高次シランを水素で希釈したガスを用いたプラズマCVDにより、ポリイミド基材上にアモルファスシリコン膜を厚さ50nm程度形成する。次に、400℃〜500℃でアニールを行ってアモルファスシリコン膜中に含まれる水素を離脱させる。さらにアモルファスシリコン膜をArF、KrF、XeClなどのエキシマーレーザーを照射してアニールを行う。エキシマレーザーの照射によりアモルファスシリコンは融解、再固化して結晶化し、多結晶シリコン膜を形成する。このようにして形成された低温多結晶シリコン膜は、シランと酸化窒素混合ガスを用いたプラズマCVDなどによってポリシリコン膜の表面にゲート酸化膜、さらに、金属やドープドシリコン膜よりなる導電膜が形成される。フォトリソグラフィによって形成したマスクを用いてエッチングしてゲート電極を形成する。さらに、ゲート電極をマスクとしてポリシリコン膜にリン、砒素、ボロンなどの不純物を注入した後、ソース、ドレインを形成してトランジスタが形成される。
低温多結晶シリコンの熱膨張係数は、概ね3〜4ppm/℃程度であるため、本発明のポリイミドフィルム基材上に形成しても、カールの少ない材料を形成することができる。
【0032】
以上のようにして形成された薄層トランジスタは、ポリイミド基材についたままで光が透過しない側としてそのまま使用すること、あるいは、薄層のトランジスタ層のみを透明プラスチックシートやガラス基板などの他の基板上に従来公知の方法で転写して使用することが可能である。このようにして得られる低温多結晶シリコンTFTは、液晶表示装置のアクティブマトリックス、有機ELパネルの駆動パネルとして、好適に使用することができる。
【0033】
このように、本発明の低温多結晶シリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材は、高い耐熱性と、多結晶ポリシリコンと同程度の熱膨張係数を有することにより、低温から高温にわたって多結晶シリコン膜の寸法変化に追随するため、低温多結晶シリコンTFTの製造に好適に使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例は本発明の範囲が限定されるものではない。
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0035】
(1)動的粘弾性
約22mm×10mmのサンプルを用い、50℃〜500℃の範囲で昇温させ、Rheometrics RSA IIにて周波数1Hzで測定を行った。ガラス転移点は測定より得られた動的貯蔵弾性率E’、動的損失弾性率E”によって算出される動的損失正接tanδの値から算出した。
【0036】
(2)フィルム機械物性
ヤング率及び強伸度は50mm×10mmのサンプルを用いて、25℃にて引っ張り速度5mm/分にて、オリエンテックUCT−1Tにより測定を行った。
【0037】
(3)膨潤度
膨潤下状態の重量(W)と乾燥した状態の重量(W)とから下記式(1)
膨潤度(wt/wt%)=(W/W−1)×100・・・(1)
により算出した。
【0038】
(4)熱膨張係数
約13mm(L)×4mmのサンプルを用いて、TAインスツルメントTMA2940Thermomechanical Analyzerにより、昇温速度10℃/分にて、50℃〜450℃の範囲で昇温、降温させ、100℃から400℃の間での試料長の変化量△Lを測定し、下記式(2)
熱膨張係数(ppm/℃)=△L/L/(400−100)×1000000 ‥(2)
より算出した。
【0039】
[実施例1]
温度計、撹拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、脱水N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)21kgを入れ、更に1,4−フェニレンジアミン1.282kgを加え完全に溶解させた。その後、ジアミン溶液の温度を20℃とした。このジアミン溶液に無水ピロメリット酸2.565kgを複数回に分けて、段階的に添加し1時間反応させた。この時反応溶液の温度は20〜40℃であった。更に該反応液を60℃とし、2時間反応させ、粘調溶液としてポリアミック酸NMP溶液を得た。
【0040】
得られたポリアミック酸溶液をPETフィルム上に、ドクターブレードを用いて、厚み300μmにキャストし、無水酢酸1050ml、ピリジン450g及びNMP1500mlからなる30℃の脱水縮合浴に8分浸漬しイミド/イソイミド化させ、支持体であるガラス板から分離し、ゲルフィルムを得た。
【0041】
得られたゲルフィルムをNMPに室温下20分浸漬させ洗浄を行った後、該ゲルフィルムの両端をチャック固定し、室温下、直交する2軸方向にそれぞれ1.48倍に10mm/secの速度で同時二軸延伸した。延伸開始時のゲルフィルムの膨潤度は870%であった。
【0042】
延伸後のゲルフィルムを枠固定し、乾燥空気を用いた熱風乾燥機にて160℃、20分、乾燥処理を実施した。次いで、熱風循環式オーブンを用いて300℃〜450℃まで多段的に昇温していき、下記式(I−a)で表される構成単位からなる全芳香族ポリイミドフィルムを得た。
【化3】

【0043】
得られたフィルムの厚みは13.5μmであり、縦方向横方向のヤング率はそれぞれ、13.8GPa、13.6GPaであった。また、50℃〜400℃の範囲で動的粘弾性測定を行ったところ、100℃でのtanδは、0.010であり、100℃超〜400℃でのtanδの最大値は0.015であった。また、100〜400℃での平均線熱膨張係数は縦方向横方向とも−8ppm/℃であった。
【0044】
得られたポリイミドフィルムは、耐熱性に優れ、負の熱膨張係数を有する。そのまま基材として使用しても良いが、負の熱膨張係数を有するため、さらに樹脂層を設けることにより、先述の式(1)に従い、αが−4〜10ppm/℃となるような積層フィルムを得ることが可能となり、薄膜トランジスタ形成用の基材として好適に使用可能である。
【0045】
[実施例2]
温度計、撹拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、脱水NMP21kgを入れ、更に1,4−フェニレンジアミン340.0g、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル629.3gを加え完全に溶解させた。その後、ジアミン溶液の温度を20℃とした。このジアミン溶液に無水ピロメリット酸1371gを複数回に分けて、段階的に添加し1時間反応させた。この時反応溶液の温度は20〜40℃であった。更に該反応液を60℃とし、2時間反応させ、粘調溶液としてポリアミック酸NMP溶液を得た。
【0046】
得られたポリアミック酸溶液をPETフィルム上に、ドクターブレードを用いて、厚み400μmにキャストし、無水酢酸1050ml、ピリジン450g及びNMP1500mlからなる30℃の脱水縮合浴に8分浸漬しイミド/イソイミド化させ、支持体であるガラス板から分離し、ゲルフィルムを得た。
【0047】
得られたゲルフィルムをNMPに室温下20分浸漬させ洗浄を行った後、該ゲルフィルムの両端をチャック固定し、室温下、直交する2軸方向にそれぞれ2.0倍に10mm/secの速度で同時二軸延伸した。
【0048】
延伸後のゲルフィルムを枠固定し、乾燥空気を用いた熱風乾燥機にて160℃、20分、乾燥処理を実施した。次いで、熱風循環式オーブンを用いて300℃〜450℃まで多段的に昇温していき全芳香族ポリイミドフィルムを得た。得られた全芳香族ポリイミドフィルムは、下記式(II−a)
【化4】

で表される繰り返し単位50モル%および下記式(II−b)
【化5】

で表される繰り返し単位50モル%とからなる全芳香族ポリイミドフィルムである。厚みは14μmであり、縦方向横方向のヤング率は9GPaであった。粘弾性測定の結果、100℃におけるtanδの値は、0.029であり、100〜400℃におけるtanδの最大値は、400℃において0.036であった。また、熱膨張係数は2ppm/℃であった。
【0049】
得られたポリイミドフィルムは、耐熱性に優れるため、そのまま基材として使用しても良いし、樹脂層、あるいは、無機の下地絶縁膜を形成して、薄膜トランジスタ形成用の基材として好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(Arは炭素数6〜20の4価の芳香族基を表し、Arは炭素数6〜20の非反応性の置換基を含んでもよい2価の芳香族基を表す)
で表わされる繰り返し単位を有する全芳香族ポリイミドから主としてなり、100〜400℃での平均線膨張係数が−20〜10ppm/℃である直交する2方向がフィルム面内に存在するシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
【請求項2】
1Hzで測定した粘弾性において100℃超〜400℃における動的損失正接(以下tanδという)の最大値が、100℃におけるtanδの3倍を超えない、請求項1に記載のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
【請求項3】
全芳香族ポリイミドを構成する芳香族テトラカルボン酸成分において、全テトラカルボン酸成分に基づき、ピロメリット酸が30〜100モル%である請求項1または2いずれかに記載のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
【請求項4】
全芳香族ポリイミドを構成する芳香族ジアミン成分において、全ジアミン成分に基づき、1,4−フェニレンジアミンが30〜100モル%である請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン膜形成用ポリイミドフィルム基材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のポリイミドフィルム基材上に低温多結晶シリコン膜が形成されたことを特徴とする薄膜トランジスタ製造材料。

【公開番号】特開2007−46045(P2007−46045A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192697(P2006−192697)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】