説明

ポリシラザンに基づく被覆剤及びフィルム、特にポリマーフィルムを被覆するためのこれの使用

次式
-(SiR’R''-NR''')n- (1)
[式中、R'、R''、R'''は、同一かまたは異なり、互いに独立して水素、または場合によっては置換されたアルキル基、アリール基または(トリアルコキシ)アルキル基を表し、この際、nは整数であり、そしてnは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる]
で表されるポリシラザンまたは複数種のポリシラザンの混合物を溶媒中に含んでなる溶液、及び少なくとも一種の触媒を含む、フィルム被覆用の被覆剤。本発明は更に、フィルム、特にポリマーフィルムを被覆する方法、並びに被覆されたフィルム及びフィルム合成膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザンに基づく被覆剤、及びフィルム、特にポリマーフィルムを連続的に被覆するためのそれの使用、並びにフィルムをポリシラザンで連続的に被覆するための方法に関する。
【0002】
プラスチックから作られるフィルムは、様々な技術分野において及び日用品のための重要な役割を果たしている。
【0003】
この際、用途に応じて、フィルムの特性には益々高い要求が課せられている。包装材料の分野では、これは、例えば、酸素、二酸化炭素または水に対するバリヤ作用である。工業用途のフィルムでは、例えば、より高い耐引っ掻き性、耐化学薬品性またはUV保護作用が要求される。
【0004】
バリヤ作用は、中でも、包装材料の分野において要求される。従来技術は、純粋なポリマーの不十分な遮断作用を向上させるための様々な方法である。所謂フィルム合成膜(Folienverbunde)の製造の際には、少なくとも一つのフィルムが高められたバリヤ作用を有する材料からなる複数のフィルムを、共押出、積層もしくは貼り付けによって組み合わせる。
【0005】
酸素に対して高められたバリヤ作用を有するフィルム材料は、例えばEVOHである。しかし、このポリマーは、ポリマーフィルムの遮断作用が湿気に依存して、空気中の湿度が高いと大きく低下するという欠点を有する。
【0006】
真空蒸着によって、バリア層をポリマーフィルム上に塗布することができる。これは、金属層、例えばアルミニウム、または酸化物層、例えばAl23もしくはSiOxであることができる。アルミニウムを蒸着したフィルムは、不透明であることが欠点である。化学蒸着(CVD)法によるSiOxなどの透明な被膜の形成は非常に煩雑であり、それゆえ、この方法には、装置及び資金の面で莫大な支出が伴う。更に、非化学量論的なSiOx層は、望ましくない黄色の変色を起こし得る。
【0007】
プラスチック上のポリシラザンがバリヤ作用を高め得ることが文献から知られているが、これまで知られている被覆及び硬化方法は、ポリシラザンで被覆されたプラスチックを高められた温度、湿度で、または所定の化学薬品で長時間処理しなければならず、そのため連続的で経済的なフィルム被覆法には適していない方法しかない。
【0008】
米国特許第5,747,623号明細書は、ポリシラザンからなるセラミック製の層の製造法を開示している。実施例20及び21には、PETフィルムをパーヒドロポリシラザンで被覆する方法も記載されている。その被膜の硬化は、1時間、150℃に加熱し、次いで、希塩酸中でまたは95℃及び80%相対空気湿度で、三時間処理することによって行われる。どちらの方法も、ポリマーフィルムを被覆するための工業的な方法には適していない。
【0009】
特開平08-174763号公報は、パーヒドロポリシラザンからなる保護層を供した包装材料を開示している。しかし、ポリシラザン溶液がどのようなものか、またはこれが触媒を含むかどうかについては具体的には記載されていない。被膜の硬化は、乾燥し、次いで酸化性雰囲気中でか焼することによって行われる。硬化に必要な正確な条件については、これらの例には詳細な記載がない。
【0010】
特開平10-016150号公報は、ポリマーフィルム上にバリヤ層を形成するためにポリシラザンを使用することを開示している。記載されている実施例では、ポリシラザンを、60〜70℃の温度で150時間、状態調節する。それゆえ、この方法は、フィルムの被覆のために工業的な規模で使用するのには適していない。
【0011】
特開平09-300522号公報は、生分解性ポリマー上にバリヤ層を形成するためにポリシラザンを使用することを開示している。実施例20では、ポリシラザンを塗布することが記載されている。その硬化は、二段階方法で、すなわち先ず120℃で1時間行い、次いで状態調節段階において80℃及び90%の相対空気湿度において2時間行われる。この方法もまた、工業的なフィルムの被覆のための経済的な被覆方法ではない。
【0012】
欧州特許出願公開第781 815 A1号明細書は、ポリシラザンから出発してセラミック製の被膜を形成する方法を開示している。実施例27〜59には、ポリマーフィルムの連続的な被覆方法も記載されている。これらの例には、全部で四つの可能な段階のうちの二つの組み合わせからなる被膜の状態調節のための様々な方法が記載されている。
【0013】
状態調節段階は、追加的に水蒸気を含む乾燥域中を高められた温度下に導通させる段階である。または、乾燥域は、水蒸気の代わりに、様々なガス状の化学成分(過酸化水素、塩化水素、酢酸またはアミン)も含むことができる。第三番目の可能な段階は、浸漬浴(水、無機もしくは有機酸、苛性ソーダ溶液、アミンまたは過酸化水素を満たしたもの)に通す段階である。最後に、被覆されたフィルムを所定の気候条件下に長期間維持することが、状態調節のための段階である。
【0014】
ポリシラザン被膜の状態調節のための開示された上記方法は、先ず、個々の段階が数分間乃至数時間の時間を必要とするために非常に時間がかかり、それゆえ工業的な連続式被覆方法としては費用効果が悪い。加えて、複雑な方法で適用しなければならない議論の余地がある化学薬品でのフィルムの処理も問題である。この方法は、装置が非常に複雑であることを要求し、更にはこの際、使用した化学薬品のリサイクルもしくは廃棄処理の問題が起こり、加えて、過剰の化学薬品をポリマーフィルムから洗い落とさなければならず、そのため追加の処理段階が必要となる。これらの方法の全ては、共通点として、ポリシラザンを用いてポリマー材料上にバリヤ層を設けることはできるものの、被膜の硬化が長い処理時間を必要とするかまたは技術的に煩雑であるために、経済的に有効であるためには高い処理量を必要とする工業的な方法には適していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
それゆえ、本発明は、フィルムの応用技術上の特定の性質を向上することができ、加えて連続的な被覆方法で安価にかつ短時間でフィルム上に被覆することができる、フィルム用の被覆剤、特にポリシラザンに基づくポリマーフィルム用の被覆剤を開発するという課題に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、ポリシラザンに基づく被覆剤が、短い乾燥段階しか含まない連続的な被覆方法において、短い処理時間のうちにフィルム上に塗布しそして状態調節することができ、またこれと同時に、フィルム、特にポリマーフィルムにおいて応用技術上の特定の性質、例えばバリヤ作用、耐化学薬品性、UV吸収または耐引っ掻き性が向上されることがここに見出された。
【0017】
それゆえ、本発明の対象は、次の一般式1:
-(SiR’R''-NR''')n- (1)
[式中、R'、R''、R'''は、同一かもしくは異なり、そして互いに独立して水素、または場合によっては置換されているアルキル基、アリール基もしくは(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、nは整数であり、そしてnは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる]
で表されるポリシラザンまたは複数種のポリシラザンの混合物を溶媒中に含む溶液と少なくとも一種の触媒を含む、フィルムの被覆のための被覆剤である。
【0018】
この際特に好適なものは、R'、R''、R'''は、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、フェニル、ビニルまたは3−(トリエトキシシリル)プロピル、3−(トリメトキシシリルプロピル)からなる群から選択される基を表すポリシラザンである。
【0019】
好ましい態様の一つでは、以下の式2のパーヒドロポリシラザンが、本発明の被覆剤に使用される。
【0020】
【化1】

更に別の好ましい態様の一つでは、本発明の被覆剤は、次式(3)のポリシラザンを含む。
【0021】
-(SiR’R''-NR''')n-(SiR*R**-NR***)p - (3)
式中、R'、R''、R'''、R*、R**及びR***は、互いに独立して、水素、または場合によっては置換されたアルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、n及びpは整数であり、そしてnはポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる。
【0022】
特に好ましいものは、
−R'、R'''及びR***が水素であり、そしてR''、R*及びR**がメチル基を表す化合物;
−R'、R'''及びR***が水素であり、R''、R*がメチルであり、そしてR**がビニルを表す化合物;
−R'、R'''、R*及びR***が水素であり、そしてR''及びR**がメチルを表す化合物;
である。
【0023】
また、次式(4)で表されるポリシラザンも同様に好ましく使用される。
【0024】
-(SiR’R''-NR''')n-(SiR*R**-NR***)p -(SiR1, R2-NR3)q- (4)
式中、R'、R''、R'''、R*、R**、R***、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素、または場合によっては置換されているアルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、n、p及びqは整数であり、そしてnはポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる。
【0025】
特に好ましいものは、
−R'、R'''及びR***が水素であり、そしてR''、R*、R**及びR2がメチルであり、R3が(トリエトキシシリル)プロピルであり、そしてR1がアルキルまたは水素を表す化合物、
である。
【0026】
本発明の更に別の対象は、フィルムをポリシラザン溶液で連続的に被覆する方法である。この際、該ポリシラザン溶液のポリマーフィルム上への塗布は、例えば、ローラ塗布、浸漬塗布または吹き付け塗布によって行うことができる。
【0027】
最後に、本発明に従い被覆されたポリマーフィルムも本発明の対象である。
【0028】
ポリシラザンの硬化は、連続的なフィルム被覆方法において、オーブンに通すか、またはIRもしくはNIR放熱器を備えた乾燥域中に通すことによって行われる。これらの放熱器は、それぞれ12〜1.2マイクロメータまたは1.2〜0.8マイクロメータの波長範囲で操作される。放熱強度は、好ましくは5〜1000kW/m2の範囲である。この際、オーブン中での温度もしくは滞留時間、またはIRもしくはNIR放熱器の放熱強度は、過剰の加熱が生じないように及びそれによって温度に敏感なポリマー材料が損傷されないように調節される。
【0029】
ポリシラザンは、様々な下地上で、たとえポリマー性有機材料上でも非常に良好な粘着性を示す。好適なポリマー性フィルムは、例えば、ポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド、PVC、ポリカーボネート、PMMAからか、または上記のポリマー材料のコポリマーからなることができる。
【0030】
ポリマーフィルムは、粘着性を損ねることなく、上記の方法により被覆された薄いSiOx層を既に有することができる。
【0031】
ポリシラザン溶液は連続的な方法で塗布される。すなわち、フィルムの塗布は、例えば、ローラー塗布、浸漬または吹き付け塗布によって行われる。この際、この塗布は、フィルムのいずれか一方の面に、または前面及び裏面に同時に行うことができる。
【0032】
ポリマーフィルムの片面だけの被覆のための特に簡単な方法の一つは、転向ローラーによって浸漬浴中に通すことである。この際、フィルムの片面はローラーで覆い、そして他の面のみをポリシラザン溶液で湿潤させる。
【0033】
フィルム被覆のための更に別の通常の方法は、一つもしくはそれ以上のローラーで被覆する方法である。この際、ポリシラザン溶液はローラーに塗りつけて、直接または間接的にこの溶液をポリマーフィルムに写し付ける。
【0034】
ポリシラザン被膜の状態調節は、オーブン中でまたはIRもしくはNIR熱放射によって、連続的な乾燥工程で行われる。加えて、乾燥の前、その最中またはその後にフィルムを高められた空気湿度を有する雰囲気に曝すことができる。この段階中の空気湿度は50〜100%相対空気湿度、好ましくは60〜80%相対空気湿度である。
【0035】
この際、乾燥工程は、非常に短い時間で、すなわち1分間未満、好ましくは30秒未満の時間で行われる。
【0036】
乾燥器温度もしくはIR乾燥器温度及びベルト速度の適当な選択によって、ポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド、PVC、ポリカーボネート、PMMA、または上記のポリマー材料のコポリマーに基づくポリマーフィルムを簡単に乾燥することができ、この際、得られたフィルムは良好なバリヤ値を達成する。
【0037】
特に、PETフィルムでは、好適なフィルム速度及び適当な放熱器出力によって、ポリシラザン層の硬化を50〜100℃、特に80〜90℃の温度において10〜120秒間、特に20〜30秒間行うことができる。
【0038】
この短時間の処理時間によって、乾燥域の寸法に応じて高い処理量を達成することができる。10m長の乾燥域長さ及び60秒間の滞留時間では、例えば、10m/分の速度で被膜の形成を行うことができる。乾燥域の長さを倍にして20mとしかつ滞留時間をより短く僅か15秒とした場合には、例えば80m/分の速度が達成される。滞留時間を更に半分した場合には、速度が160m/分に上昇する。
【0039】
該フィルム被覆法は、複数の機能層をポリマーフィルム上に重ねて被覆するために、繰り返すことができる。
【0040】
本発明のポリシラザン被覆剤を用いることにより、ポリマーフィルムの様々な応用技術上の性質を向上することができる。硬化後に生ずる層は、非常に薄い層厚において、酸素、二酸化炭素または水蒸気の透過に対する非常に良好な保護作用を示す。
【0041】
更に、層を厚めにすると、傷つきやすいポリマーフィルムの耐引っ掻き性、例えばポリカーボネートまたはPMMAに基づくフィルムの耐引っ掻き性を向上することができる。更には、有機溶剤に対して非常に敏感なフィルム、例えばポリカーボネートフィルムの耐化学薬品性も明らかに向上される。
【0042】
最後に、例えばナノ粒子などの添加剤を加えることによって、更に別の応用技術上重要な性質を生じさせることができる。例えば、微細な酸化亜鉛もしくは二酸化チタンを加えることによってUV吸収機能が得られる。
【0043】
硬化したポリシラザン被膜は、通常、0.02〜10マイクロメータ、好ましくは0.1〜5マイクロメータ、特に好ましくは0.2〜3マイクロメータの層厚を有する。
【0044】
ポリシラザンに基づく被覆剤のための溶剤としては、特に、水も反応性基(例えばヒドロキシル基またはアミン基)も含まない有機溶剤が好適である。これらは、例えば、脂肪族または芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル、例えば酢酸エチルもしくは酢酸ブチル、ケトン、例えばアセトンもしくはメチルエチルケトン、エーテル、例えばテトラヒドロフランもしくはジブチルエーテル、並びにモノ−もしくはポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグリム類)、またはこれらの溶剤の混合物である。
【0045】
ポリシラザン被覆剤の更に別の構成分は、例えば調合物の粘度、下地の濡れ、成膜性もしくは通気性に影響を与える添加剤、または無機ナノ粒子、例えばSiO2、TiO2、ZnO、ZrO2、インジウム−スズ酸化物(ITO)もしくはAl23であることができる。
【0046】
使用される触媒は、例えば有機アミン、酸または金属もしくは金属塩、またはこれらの化合物の混合物であることができる。触媒は、ポリシラザンの重量を基準にして好ましくは0.01〜10%、特に0.1〜6%の量で使用される。
【0047】
アミン系触媒の例は、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−イソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−イソブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、トリ−n−ペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アニリン、2,4−ジメチルピリジン、4,4−トリメチレンビス−(1−メチルピペリジン)、1,4−ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N,N−ジメチルピペラジン、シス−2,6−ジメチルピペラジン、トランス−2,5−ジメチルピペラジン、4,4−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ステアリルアミン、1,3−ジ−(4−ピペリジル)プロパン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N,N−ジメチルヘキサノールアミン、N,N−ジメチルオクタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、1−ピペリジンエタノール、4−ピペリジノールである。
【0048】
有機酸の例は、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸である。金属及び金属化合物の例は、パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトネート、プロピオン酸パラジウム、ニッケル、ニッケルアセチルアセトネート、銀粉、銀アセチルアセトネート、白金、白金アセチルアセトネート、ルテニウム、ルテニウムアセチルアセトネート、ルテニウムカルボニル、金、銅、銅アセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)である。
【0049】
使用する触媒系に応じて、湿分もしくは酸素の存在が、被膜の硬化において役割をはたす。例えば、適当な触媒系を選択することによって、素早い硬化を、高いもしくは低い空気湿度でまたは高いもしくは低い酸素含有率で達成することができる。
【0050】
該被覆剤を塗布する前に、先ず、ポリマーフィルムへのポリシラザン層の粘着層の向上に寄与し得る下塗り剤層を塗布することができる。典型的な下塗り剤は、シランに基づくもの、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシ−シリルプロピル)アミン、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランに基づくものである。
【0051】
更に、フィルムを、被覆の前に他の方法で、例えば火炎吹き付け、コロナ処理またはプラズマ前処理などによって前処理することができる。また同様に、ポリシラザン溶液の粘着性または濡れを向上させる被膜を製造の過程でまたはその後に供した既に予め下塗りして用意のできたフィルムを使用することができる。
【0052】
本発明に従いポリシラザンで被覆したポリマーフィルムは、また同様に、フィルム合成膜の製造に適している。この場合、二つもしくはそれ以上のフィルムを組み合わせて、応用技術上の特定の性質を有する合成材料とする。このような性質は、中でも、包装フィルムに関連する。
【実施例】
【0053】
使用したパーヒドロポリシラザンは、クラリアントジャパン株式会社の製品である。これらは、キシレン中の溶液(NPと表示される)またはジ−n−ブチルエーテル中の溶液(NLと表示される)である。これらの溶液は、触媒としてアミン、金属または金属塩を含む。
【0054】
以下の記載の例において、部及び百分率は重量に基づく値である。
【0055】
例1(PETフィルムの連続的被覆)
23マイクロメータ厚のPETフィルムを、20%濃度パーヒドロポリシラザン溶液NP110−20(クラリアントジャパン)を酢酸ブチルで5%濃度に希釈した混合物で満たした浸漬浴中を、転向ローラによって3m/分の速度で連続的に引き通す。この方法では、フィルムの前面だけをパーヒドロポリシラザン溶液と接触させ、裏面は転向ローラで隠す。次いで、フィルムを、長さ60cmの赤外線乾燥路中に通す。乾燥路中の滞留時間は約12秒間であり、この際フィルムは60℃の温度に加熱される。これにより、片面が被覆された透明な澄んだフィルムが得られる。この被膜の厚さは約500nmである。
【0056】
こうして被覆されたフィルムの酸素透過性を、0%相対空気湿度でMOCONオキストランズ装置を用いて測定する。測定値は14ml/(dm2bar)である。これに対する比較として、被覆していないフィルムは、85ml/(dm2bar)の酸素透過性を示す。
【0057】
例2
23マイクロメータ厚のPETフィルムを、5%濃度パーヒドロキシポリシラザン溶液[20%濃度パーヒドロポリシラザン溶液NL120A−20(クラリアントジャパン)及びジブチルエーテルから調製したもの]を含む浸漬浴中を転向ローラによって3m/分の速度で連続的に引き通す。この方法では、フィルムの前面のみをパーヒドロポリシラザン溶液と接触させ、裏面は転向ローラで覆う。次いで、このフィルムを、長さ60cmの赤外線乾燥路中に通す。この乾燥路中の滞留時間は約12秒間であり、この際フィルムは60℃の温度に加熱される。片面が被覆された透明な澄んだフィルムが得られる。被膜の厚さは約500nmである。
【0058】
こうして被覆されたフィルムの酸素透過性は、0%相対空気湿度下にMOCONオキシトランズ装置を用いて測定する。測定値は12ml/(dm2bar)である。
【0059】
例3(PETフィルムの連続的被覆法)
前もって高減圧下にSiOx層で被覆された23マイクロメータ厚のPETフィルムを、5%濃度パーヒドロポリシラザン溶液[20%濃度パーヒドロポリシラザン溶液NL 120 A−20(クラリアントジャパン)及びジブチルエーテルから調製したもの]を含む浸漬浴中に、転向ローラによって3m/分の速度で連続的に引き通す。この方法では、フィルムの前面だけをパーヒドロポリシラザン溶液と接触させ、裏面は転向ローラで覆う。次いで、このフィルムを、長さ60cmの赤外線乾燥路中に通す。この乾燥路中の滞留時間は約12秒間であり、この際、このフィルムは60℃の温度に加熱される。片面が被覆された透明な澄んだフィルムが得られる。この被膜の厚さは約500nmである。
【0060】
こうして被覆されたフィルムの酸素透過性を、0%相対空気湿度下にMOCONオキストランズ装置を用いて測定する。測定値は1.0ml/(dm2bar)である。
【0061】
これに対する比較として、高減圧下に塗布したSiOx層のみを有するフィルムは、2.5ml/(dm2bar)の酸素透過性を示す。
【0062】
例4
例2と同様であるが、ただしフィルム速度を下げることによってIR乾燥路中の滞留時間を20秒間として行う。この際、フィルムは80℃の温度に加熱される。片面が被覆された透明で澄んだフィルムが得られる。この被膜の厚さは約500nmである。こうして被覆されたフィルムの酸素透過性を、0%の相対空気湿度下にMOCONオキストランズ装置を用いて測定する。測定値は9ml/(dm2bar)である。
【0063】
例5
例2と同様であるが、ただしフィルム速度を下げることによってIR乾燥路中の滞留時間を28秒間として行う。この際、フィルムは86℃の温度に加熱される。片面が被覆された透明で澄んだフィルムが得られる。その被膜の厚さは約500nmである。こうして被覆されたフィルムの酸素透過性を、0%の相対空気湿度下にMOCONオキストランズ装置を用いて測定する。測定値は7ml/(dm2bar)である。
【0064】
例6
例2と同様であるが、ただしフィルム速度を高めることによってIR乾燥路中の滞留時間を10秒間として行う。この際、フィルムは55℃の温度に加熱される。片面が被覆された透明で澄んだフィルムが得られる。その被膜の厚さは約500nmである。こうして被覆されたフィルムの酸素透過性を、0%の相対空気湿度下にMOCONオキストランズ装置を用いて測定する。測定値は20ml/(dm2bar)である。
【0065】
例7
例3と同様であるが、ただしフィルム速度を下げることによってIR乾燥路中の滞留時間を22秒間として行う。この際、フィルムは82℃の温度に加熱される。片面が被覆されたフィルムの透明な澄んだフィルムが得られる。その被膜の厚さは約500nmである。こうして被覆されたフィルムの酸素透過性を、0%の相対空気湿度下にMOCONオキストランズ装置を用いて測定する。測定値は0.8ml/(dm2bar)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式1
-(SiR’R''-NR''')n- (1)
[式中、R'、R''、R'''は、同一かまたは異なり、互いに独立して水素、または場合によっては置換されたアルキル基、アリール基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、nは整数であり、そしてnはポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる]
で表されるポリシラザンまたは複数種のポリシラザンの混合物を溶媒中に含んでなる溶液、及び少なくとも一種の触媒を含む、フィルム被覆用の被覆剤。
【請求項2】
R'、R''、R'''が、互いに独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、フェニル、ビニルまたは3−(トリエトキシシリル)プロピル、3−(トリメトキシシリルプロピル)の群から選択される基を表すことを特徴とする、請求項1の被覆剤。
【請求項3】
式(1)のポリシラザンが、以下の式2
【化1】

で表されるパーヒドロポリシラザンであることを特徴とする、請求項1または2の被覆剤。
【請求項4】
式(3)のポリシラザンが、
-(SiR’R''-NR''')n-(SiR*R**-NR***)p - (3)
[式中、R'、R''、R'''、R*、R**及びR***が、互いに独立して、水素、または場合によっては置換されたアルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、n及びpは整数であり、そしてnはポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる]
であることを特徴とする、請求項1の被覆剤。
【請求項5】
− R'、R'''及びR***が水素を表し、そしてR''、R*及びR**がメチルを表すか、
− R'、R'''及びR***が水素を表し、R''、R*がメチルを表し、そしてR**がビニルを表すか、または
− R'、R'''、R*及びR***が水素を表し、そしてR''及びR**がメチルを表す、
ことを特徴とする、請求項4の被覆剤。
【請求項6】
式(4)のポリシラザンが、
-(SiR’R''-NR''')n-(SiR*R**-NR***)p -(SiR1, R2-NR3)q- (4)
[式中、R'、R''、R'''、R*、R**、R***、R1、R2及びR3は、互いに独立して、水素、または場合によっては置換されたアルキル基、アリール基、ビニル基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、n、p及びqは整数であり、そしてnはポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる]
であることを特徴とする、請求項1の被覆剤。
【請求項7】
R'、R'''及びR***が水素を表し、そしてR''、R*、R**及びR2がメチルを表し、R3が(トリエトキシシリル)プロピルを表し、そしてR1がアルキルまたは水素を表すことを特徴とする、請求項6の被覆剤。
【請求項8】
ポリシラザン溶液が、ポリシラザンを0.1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは2〜20重量%の量で含むことを特徴とする、請求項1〜7の少なくとも一つの被覆剤。
【請求項9】
パーヒドロポリシラザン溶液が触媒を0.01〜10重量%の量で含むことを特徴とする、請求項1〜8の少なくとも一つの被覆剤。
【請求項10】
触媒として、有機アミン、酸、金属、金属塩、またはこれらの化合物の混合物を使用することを特徴とする、請求項9の被覆剤。
【請求項11】
溶媒として、反応性基を含まない水不含の有機溶媒を使用することを特徴とする、請求項1〜10の少なくとも一つの被覆剤。
【請求項12】
ポリマーフィルムの被覆のための、請求項1〜11の少なくとも一つの被覆剤の使用。
【請求項13】
フィルムを連続的に被覆する方法であって、次式(1)
-(SiR’R''-NR''')n- (1)
[式中、R'、R''、R'''は、同一かまたは異なり、水素、または場合によっては置換されたアルキル基、アリール基または(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、この際、nは整数であり、そしてnはポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる]
で表される、溶媒中のポリシラザンまたは複数種のポリシラザンの混合物及び少なくとも一種の触媒を含む溶液をフィルム上に塗布し、次いで乾燥域に通すことを特徴とする、上記方法。
【請求項14】
温度処理、IR放熱もしくはNIR放熱によって乾燥を行うことを特徴とする、請求項13の方法。
【請求項15】
乾燥工程を、60秒間未満、好ましくは30秒間未満の時間内で行うことを特徴とする、請求項13及び/または14の方法。
【請求項16】
被覆すべきフィルムがポリマーフィルムであることを特徴とする、請求項13〜15の少なくとも一つの方法。
【請求項17】
請求項1〜11の少なくとも一つの被覆剤で被覆されたポリマーフィルム。
【請求項18】
ポリマーが、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、PMMAまたはPVCであることを特徴とする、請求項17のポリマーフィルム。
【請求項19】
被膜が0.02〜10マイクロメータの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項17及び/または18のポリマーフィルム。
【請求項20】
請求項17〜19の少なくとも一つによる一つもしくはそれ以上のポリマーフィルムを、一つまたはそれ以上の他のポリマーフィルムと組み合わせてフィルム合成膜とすることを特徴とする、フィルム合成膜。

【公表番号】特表2008−520773(P2008−520773A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541722(P2007−541722)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011425
【国際公開番号】WO2006/056285
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(398025878)クラリアント・インターナシヨナル・リミテッド (74)
【Fターム(参考)】