説明

ポリ乳酸系樹脂製発泡シート、およびこのシート製容器の製造方法

【課題】発泡シート製造時の押出し特性、生分解性に優れ、かつ、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂製発泡シートおよび耐熱性、生産性に優れたポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を得る製造方法を提供すること。
【解決手段】 第1発明は、ポリ乳酸は190℃における溶融張力が25〜70gであり、このポリ乳酸100重量部に対してタルクを1.0〜4.0重量部配合した樹脂組成物に、発泡剤の存在下で、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度を150〜800秒−1としてシート状に押出し、得られたポリ乳酸系樹脂製発泡シートの発泡倍率が1.1〜12.0倍で、かつ、厚さが0.5〜2.5mmの、ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを要旨とし、第2発明は、特定の三工程を経て製造する耐熱性などに優れたポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器の製造方法を要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系製発泡シート、およびこの発泡シート製容器の製造方法に関する。さらに詳しくは、発泡シート製造時の押出特性、外観および生分解性に優れ、特に二次成形法によってトレー、カップ、ボウル、皿、箱など(以下、これらを総称して容器と記載する。)の製造に適したポリ乳酸樹脂製発泡シート、および、この発泡シートより耐熱性、生分解性、外観および生産性などに優れた発泡容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂製シートからなる容器は、加工が容易でしかも安価であるので、主としてポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂を原料として製造されている。使用後に熱可塑性樹脂製シートからなる容器を廃棄処分する場合、再生使用するための分別回収がされるものを除き、焼却処分または地中に埋設処分される。しかし、焼却処分すると、熱可塑性樹脂は他の可燃性廃棄物より燃焼熱量が高いので、焼却炉を傷める恐れがあり、また、地中に埋設処分しても、微生物によって分解されることはないので、半永久的に残留するという問題がある。
【0003】
このような事情から、近年、地中に埋設処分しても微生物によって分解される性質を有する生分解性樹脂、中でもポリ乳酸を原料とした容器が注目されている。しかし、ポリ乳酸系樹脂は、ガラス転位温度(以下、Tgと記載する。)が約60℃と低いので、ポリ乳酸系樹脂製の容器に食品を収納し、電子レンジで加熱した際には変形しやすく、耐熱性を向上させたポリ乳酸系樹脂製の容器の開発が望まれている。
【0004】
また、熱可塑性樹脂製シートからなる容器は、軽量化、原料コストの削減、断熱性の改良などを目的として、シート製造時に溶融混練されている熱可塑性樹脂に発泡剤などを混合・注入して発泡シートとし、この発泡シートを二次加工によって発泡容器とする場合がある。しかし、ポリ乳酸系樹脂を用いて発泡シートを製造する場合、ポリ乳酸は一定温度以上になると溶融粘度が極端に低下するので、気泡がシート表面に偏りやすい。そのため、得られた発泡シートの表面には凹凸模様が目立つことが多く、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂製発泡シートが望まれている。また、融点の低いポリ乳酸を用いて発泡シートを製造すると、耐熱性がさらに低下するので、ポリ乳酸樹脂製発泡シートから二次加工によって容器とする場合には、耐熱性を高める必要がある。耐熱性が優れたポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を製造する場合には、他の熱可塑性樹脂製発泡シート製容器に比べ時間を要するので、短時間で効率よく製造できる生産性に優れた製造方法が望まれている。
【0005】
耐熱性などを改良する方法の一つとして、特許文献1には、ポリ乳酸系シートを二軸延伸したシートとし、このシートを特定の成形条件で二次加工することにより、ポリ乳酸系樹脂製成形品(食品用容器)を得る技術が提案されている。しかし、本発明者らの実験によれば、特許文献1に記載の方法で製造した成形品に食品を収納し、電子レンジで加熱すると、成形品の耐熱性が不充分で変形することがあり、実用価値が著しく低下することがわかった。
【0006】
また、特許文献2には、優れた耐熱性を発揮させる手段として、ポリ乳酸系樹脂製発泡成形体の吸熱量と発熱量との差を所定範囲内にする技術が記載されている。しかし、本発明者らの実験によれば、吸熱量と発熱量との差を所定範囲内であるポリ乳酸系樹脂製発泡成形体であっても、熱処理の条件(温度・時間)によっては、所望する耐熱性が得られないことがわかった。
【特許文献1】特開2001−162676号公報
【特許文献2】特開2004−359910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記状況に鑑み、従来の欠点を排除した、発泡シート製造時の押出特性、生分解性、外観に優れた発泡シート、およびこの発泡シートから耐熱性、生分解性、外観、生産性などに優れた容器の製造方法を提供することを目的として、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の目的は、次のとおりである。
1.特定の物性を有するポリ乳酸を主成分とし、発泡シート製造時の押出特性、生分解性に優れ、かつ、外観が美麗なポリ乳酸系樹脂製発泡シートを提供すること。
2.上記ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを熱成形して、耐熱性、生分解性、外観および生産性などに優れたポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を得る製造方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第一発明では、ポリ乳酸系樹脂製発泡シートであって、ポリ乳酸は190℃における溶融張力が25〜70gであり、このポリ乳酸100重量部に対してタルクを1.0〜4.0重量部配合したポリ乳酸系樹脂組成物に、発泡剤の存在下で、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度を1.5×10〜8.0×10−1としてシート状に押出し、得られたポリ乳酸系樹脂製発泡シートの発泡倍率が1.1〜12.0倍で、かつ、厚さが0.5〜2.5mmとされてなることを特徴とする、ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを提供する。
【0009】
また、第二発明では、ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを原料としてポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を製造する方法において、ポリ乳酸は190℃における溶融張力が25〜70gであり、このポリ乳酸100重量部に対してタルクを1.0〜4.0重量部配合したポリ乳酸系樹脂組成物に、発泡剤の存在下で、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度を1.5×10〜8.0×10−1としてシート状に押出し、得られたポリ乳酸系樹脂製発泡シートの発泡倍率が1.1〜12.0倍で、かつ、厚さが0.5〜2.5mmとされてなるポリ乳酸系樹脂製発泡シートを、以下の(1)〜(3)の三工程によって製造することを特徴とする、ポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器の製造方法を提供する。
(1)あらかじめ加熱した一組以上の対向する予備加熱板の隙間に、ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを移送し、上記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面温度をポリ乳酸の結晶化温度(Tc)〜(Tc+10)℃の温度範囲に20〜60秒で加熱する第一工程。
(2)あらかじめ、(Tc−5)〜(Tc+10)℃の温度範囲に加熱した加熱金型を用いて、上記第一工程で加熱されたポリ乳酸系樹脂製発泡シートをポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器に成形し、その状態で5秒以上保持して熱処理する第二工程。
(3)上記第二工程を終えた直後に、上記加熱金型と同じ形状を有し、かつ、あらかじめ冷却した冷却金型に、上記第二工程で熱処理されたポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を嵌合し、上記ポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器の表面温度をポリ乳酸のガラス転位温度(Tg)℃以下の温度範囲に冷却する第三工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下に詳細に説明するとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明に係るポリ乳酸系樹脂製発泡シート(以下、単に「ポリ乳酸発泡シート」と略記することがある。)は、特定の溶融張力を有するポリ乳酸に所定のせん断速度で押出して製造されるので、外観が美麗である。
2.本発明に係るポリ乳酸発泡シートは、主成分がポリ乳酸であるので生分解性に優れている。
3.本発明に係るポリ乳酸発泡シートは、発泡倍率が1.1〜12.0倍の範囲にされており、ポリ乳酸の使用量が少なくできるので、単位重量あたりのポリ乳酸からより多くのポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器(以下、単に「ポリ乳酸発泡容器」と略記することがある。)を製造することができる。
4.本発明に係る製造方法で製造されたポリ乳酸発泡容器は、容器成形前に、ポリ乳酸発泡シートを所定の温度範囲に加熱するので、結晶化度を高めるための熱処理の時間が短時間となり、通常のポリ乳酸発泡容器より短時間で容器を製造ができ、生産性に優れている。
5.本発明に係る製造方法で製造されたポリ乳酸発泡容器は、容器成形後に冷却金型によって冷却されて製造されるので、曲げ、反りなどがない美麗な外観を呈する。
6.本発明に係る製造方法で製造されたポリ乳酸発泡容器は、外観が美麗で、かつ、耐熱性に優れているので、電子レンジにより加熱・調理する各種食品の収納用容器として好適である。
7.本発明に係る製造方法で製造されたポリ乳酸発泡容器は、樹脂成分がポリ乳酸からなるので、容器使用後に地中に埋設処分しても短期間で微生物によって分解され、生分解性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係るポリ乳酸系樹脂製発泡シートは、タルクが配合されたポリ乳酸系樹脂組成物を原料とし、発泡剤の存在下に押出成形されてポリ乳酸系樹脂製発泡シートとされたものである。
【0012】
本発明においてポリ乳酸とは、L−乳酸および/またはD−乳酸由来の単量体単位を主成分とする樹脂をいう。ここで「主成分」とは、これら単量体単位を90モル%以上含み、他の単量体単位を10モル%未満含むことを意味する。他の単量体単位としては、グリコール化合物類、ジカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、ラクトン類などが挙げられる。グリコール化合物類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンミメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ジカルボン酸類としては、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4、−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸類としては、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などが挙げられ、ラクトン類としては、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどが挙げられる。他の単量体単位の割合は、0〜5モル%が特に好ましい。
【0013】
ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の割合は、L体:D体(重量%)で、90:10〜100:0が好ましい。この範囲を外れると、ポリ乳酸が非晶性になりやすく、得られるポリ乳酸発泡シートおよびポリ乳酸発泡容器に、満足する耐熱性を付与できないおそれがあるので好ましくない。L体:D体(重量%)でより好ましいのは、95:5〜100:0である。
【0014】
ポリ乳酸は、従来から知られている製造方法によって製造することができる。代表的な方法としては、乳酸の無水環状体二量体であるラクチドを開環重合する方法(ラクチド法)が挙げられるが、乳酸の直接重合法でもよい。
【0015】
ポリ乳酸の溶融張力は、25〜70gであることを必須とする。溶融張力が25g未満であると、ポリ乳酸発泡シートが製造し難く、またこのポリ乳酸発泡シートから熱成形法によってポリ乳酸発泡容器に成形する際に、発泡シートが破損し易く、一方、70gを超えると、押出機の負荷が大きくなったり、シート押出時に発泡シートの表面にフローマークが発生による外観不良が生じやすいので、いずれも好ましくない。本発明において溶融張力とは、次の方法で測定される値を意味する。すなわち、あらかじめ乾燥させたペレット状のポリ乳酸を、190℃に設定したキャピログラフ(例えば、東洋精機製作所製)のシリンダー内に充填し、シリンダーの上にピストンを載せて6分間予熱し、その後シリンダーの下端に付設されたダイから押出した後に、押出されたポリ乳酸を、ダイの下方に設置した張力検出用プーリーの円形ガイドを通過させて、この円形ガイドに掛かる荷重を張力計で検出し、押し出されたストランド状のポリ乳酸が破断したときの張力である。中でも好ましい溶融張力は、27〜65gであり、とりわけ好ましいのは、30〜60gである。
【0016】
上記範囲の溶融張力を有するポリ乳酸を得る方法としては、(1)ポリ乳酸自体の分子量を高める方法、(2)重合中、または重合終了後の分子量の小さいポリ乳酸に、ポリイソシアネートなどの結合剤を添加または配合して分子量を高める方法、(3)押出機で溶融混練する際に、分子量の小さいポリ乳酸に、アクリル酸エステル、過酸化物などの架橋剤を配合して分子間架橋反応をさせる方法、(4)上記(2)〜(3)の方法で調製したポリ乳酸に、分子量の小さいポリ乳酸を配合する方法、などが挙げられる。
【0017】
ポリ乳酸は、上記の溶融張力を有し、かつ、シートまたはフィルムに成形でき、実用に供し得る程度の物性を有するものであればよい。融点は155℃以上が好ましく、中でも160℃以上がさらに好ましい。融点は、示差走査熱量計を用いて、JIS−K7122に準拠して測定することができる。ポリ乳酸の分子量は、これが小さい場合は上記(2)または(3)の方法で調製すればよいが、調整しないポリ乳酸の場合は、重量平均分子量が10万〜100万のものが好ましい。重量平均分子量が10万未満になると、溶融張力が上記範囲を下回りやすく、100万を超えると、押出機の負荷が大きくなったり、発泡シートの外観を損ねたりするので好ましくない。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定した分子量をいう。重量平均分子量の上記範囲で好ましいのは、15万〜80万のものが好ましい。
【0018】
本発明におけるタルクは、ポリ乳酸発泡シートの結晶化速度を高めたり、気泡開始部を作り出し、ポリ乳酸発泡シートの気泡の大きさを制御し易くしたりする機能を発揮する。タルクの配合量はポリ乳酸100重量部に対して、1.0〜4.0重量部の範囲で選ぶものとする。配合量が1.0重量部未満では、ポリ乳酸発泡シートの結晶化速度がほとんど上がらないので、後述する本発明の第二発明に係るポリ乳酸発泡容器の製造方法の第二工程(熱処理工程)で、要する時間が短くならず生産性が向上しない。一方、配合量が4.0重量部を超えると、押出機から押し出されたポリ乳酸発泡シートの表面にしわが発生したり、容器とした後のポリ乳酸発泡容器の表面にひび割れが発生したりするなどの外観不良の原因になりやすいので、いずれも好ましくない。上記範囲で好ましい配合量は、1.5〜3.0重量部である。また、本発明においては、あらかじめポリ乳酸に多量のタルクを配合したマスターバッチを調製し、これを基体となるポリ乳酸に配合する方法によって、タルクの配合量を基体のポリ乳酸100重量部に対して、1.0〜4.0重量部の範囲とすることができる。なお、タルクの平均粒径は、0.3〜10μmの範囲が好ましい。
【0019】
本発明において、ポリ乳酸発泡シートを製造する際には発泡剤を存在させる。発泡剤は、ポリ乳酸発泡シートに気泡を生じさせ、気泡の大きさ、気泡の密度などにより発泡倍率を制御するように機能する。発泡剤をポリ乳酸系樹脂組成物中に存在させるには、発泡剤の常温での形態によって異なる。(1)常温で固体の発泡剤は、ペレット状のポリ乳酸および粉末状のタルクとともに混合する方法、(2)常温で液体または気体の発泡剤は、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物に注入する方法、などによって存在させることができる。
【0020】
上記の(1)常温で固体の発泡剤の具体例としては、アゾジカルボンアミド、P,P′−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、5−フェニル−1,2,3,4−テトラゾールおよび有機酸金属塩などの有機系発泡剤、および炭酸水素ナトリウム、クエン酸と重炭酸ナトリウムとの混合物などの無機系発泡剤が挙げられる。上記の(2)常温で液体または気体の発泡剤の具体例としては、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、無機ガス、水などが挙げられる。脂肪族炭化水素類としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられ、脂環式炭化水素類としては、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどが挙げられ、ハロゲン化炭化水素類としては、クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどが挙げられ、無機ガスとしては、二酸化炭素、窒素、空気などが挙げられる。これらの発泡剤は、単独でも2種以上の混合物であってもよい。常温では固体の発泡剤と、常温では液体または気体の発泡剤とを併用することができる。上記発泡剤の中で好ましいのは、クエン酸と重炭酸ナトリウムとの混合物、ブタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、二酸化炭素、窒素、水である。
【0021】
発泡剤の使用量は、発泡剤の種類、発泡シートの発泡倍率などにより異なるが、ポリ乳酸系樹脂組成物に対して、1〜20重量部の範囲で選ぶのが好ましい。発泡剤の使用量が多いほど、気泡内のより高い圧力、および発泡剤の可塑化作用による変形に対して、より低い気泡壁の抵抗性が組合わされた効果が生じ、発泡気泡は大きくなり発泡倍率も大きくなる。
【0022】
ポリ乳酸およびタルクには、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、タルク以外の造核剤、可塑剤、充填剤、強化剤、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの各種樹脂添加剤を配合することができる。
【0023】
次に、本発明の第一発明に係るポリ乳酸発泡シートを製造する方法を説明する。(1)常温で固体の発泡剤を使用する場合には、ポリ乳酸、タルクとドライブレンドしたものを溶融混練し、常温で液体または気体の発泡剤を使用する場合には、溶融状態のポリ乳酸系樹脂組成物に注入・混練して、発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物を調製する工程、(2)調製された発泡性ポリ乳酸系組成物を押出機のダイ部分からシート状に押出した際に、ポリ乳酸発泡シート内部に多数の微細な独立気泡を形成し、ポリ乳酸発泡シートを製造する工程、を経て製造される。上記工程は、いずれも押出機を使用して行うことができる。押出機は、一軸押出機、二軸押出機のいずれでもよく、シート状に押出す際に押出機先端に装着できるダイは、Tダイ、フラットダイ、円形(サーキュラ)ダイのいずれでもよい。
【0024】
本発明において、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度を、1.5×10〜8.0×10−1の範囲として、シート状に押出す。せん断速度が1.5×10−1より低いと、ダイの内部で発泡しやすく、ポリ乳酸発泡シートの外観を損なう恐れがあり、8.0×10−1を超えると、ポリ乳酸発泡シート表面に凹凸模様または縞模様が発生しやすく、ポリ乳酸発泡シートの外観を損なう恐れがあるので、いずれも好ましくない。上記範囲で好ましいのは、2.5×10〜5.0×10−1であり、とりわけ好ましいのは、2.8×10〜4.0×10−1である。
【0025】
なお、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度は、ダイの種類または構造によって算出方法が異なる。ダイがTダイまたはフラットダイの場合には、次の(A)式、すなわち、せん断速度[秒−1]=6Q/(W×d)・・(A)、によって算出される値を意味する。この(A)式において、Qは1秒あたりの体積押出量[cm/秒]、dはダイ出口部分の平行溝の間隔[cm]、Wはダイ出口部分の平行溝の幅[cm]をそれぞれ示す。
【0026】
ダイがサーキュラダイの場合には、次の(B)式、すなわち、せん断速度[秒−1]=6Q/{π(L−L)(L−L)}・・(B)、によって算出される値を意味する。この(B)式において、Qは1秒あたりの体積押出量[cm/秒]、Lは(r−t/2)[cm]、Lは(r+t/2)[cm]、rは(サーキュラダイの外側口金の出口部分における内径+サーキュラダイの内側口金の出口部分における外径)/4[cm]、tはサーキュラダイの口金出口部分の間隔[cm]を、それぞれ示す。
【0027】
上記方法によって製造されるポリ乳酸発泡シートは、発泡倍率を1.1〜12.0倍で、厚さを0.5〜2.5mm
の範囲とする。発泡倍率が1.1倍未満であると、断熱性、耐衝撃性などに劣り、発泡倍率が12.0倍を超えると、機械的強度が低下するので、いずれも好ましくない。上記範囲で好ましい発泡倍率は、2.0〜10.0倍である。また、厚さが0.5mm未満であると、機械的強度、耐衝撃性、断熱性などに劣り、2.5mmを超えると、発泡セルの均一なポリ乳酸発泡シートの製造が困難となるばかりでなく、ポリ乳酸の使用量が多くなり製造コストが上昇するので、いずれも好ましくない。上記範囲で好ましいのは、1.0〜2.0mmである。
【0028】
本発明に係るポリ乳酸発泡シートの少なくとも片面に、熱可塑性樹脂製フィルムを積層することができる。熱可塑性樹脂製フィルムを積層すると、機械的強度、熱成形性、印刷性、外観などを改良できる。積層フィルム用の熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸系樹脂、ポリスチレン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂製フィルムは、未延伸のものでも、一軸延伸、二軸延伸されたものでも、印刷などの二次加工が施されたものでもよい。積層フィルムは単層でも複数層でもよい。ポリ乳酸発泡シートに熱可塑性樹脂製フィルムを積層する方法は、従来より知られている方法でよく、例えば、(a)ポリ乳酸発泡シートを製造した後に、別途調製した熱可塑性樹脂製フィルムを、加熱法または接着剤を介して積層する方法、(b)ポリ乳酸発泡シートの表面に直接Tダイから溶融状態の熱可塑性樹脂製フィルムを押出して積層する方法、などが挙げられる。特に好ましいのは、片面にポリ乳酸系樹脂製フィルムを上記(b)の方法で積層する方法である。熱可塑性樹脂製フィルムの厚さは10〜100μmが好ましい。10μm未満では、ポリ乳酸発泡容器製造時に、しわなどが発生しやすく外観を損ね、一方、100μmを超えると、ポリ乳酸発泡シートに熱が伝わり難くなるので、後述するポリ乳酸発泡容器の製造方法において、ポリ乳酸発泡シートの予備加熱、ポリ乳酸発泡容器の熱処理に時間を要し、いずれも好ましくない。より好ましい厚さは15〜50μmである。
【0029】
次に、本発明の第二発明に係るポリ乳酸発泡容器の製造方法について説明する。本発明の第二発明に係るポリ乳酸発泡容器の製造方法は、上記で詳細に説明した本発明の第一発明に係るポリ乳酸発泡シートを原料とし、以下の三工程を経てポリ乳酸発泡容器を製造する方法である。
(1)あらかじめ加熱した一組以上の対向する予備加熱板の隙間に、ポリ乳酸発泡シートを移送し、上記ポリ乳酸発泡シートの表面温度をポリ乳酸の結晶化温度(以下、Tcと記載する。)〜(Tc+10)℃の温度範囲に20〜60秒で加熱する第一工程(加熱工程)。
(2)あらかじめ、(Tc−5)〜(Tc+15)℃の温度範囲に加熱した加熱金型を用いて、上記第一工程で加熱されたポリ乳酸発泡シートをポリ乳酸発泡容器に成形し、その状態で5秒以上保持して熱処理する第二工程(容器成形と熱処理工程)。
(3)上記第二工程を終えた直後に、上記加熱金型と同じ形状を有し、かつ、あらかじめ冷却した冷却金型に、上記第二工程で熱処理されたポリ乳酸発泡容器を嵌合し、上記ポリ乳酸発泡容器の表面温度をポリ乳酸のTg℃以下の温度範囲に冷却する第三工程(冷却工程)。
【0030】
本発明者らの検討によれば、各工程の温度・時間を上記のように調整することにより、ポリ乳酸発泡シートから、熱成形法によって、耐熱性、外観および生産性のいずれにも優れたポリ乳酸発泡容器が得られることを導いた。以下、各工程について詳細に説明する。
【0031】
(1)第一工程(加熱工程)は、本発明の第一発明に係るポリ乳酸発泡シートを軟化させ、第二工程(容器成形と熱処理工程)に要する時間の短縮を目的とし、ロール状に巻回されたポリ乳酸発泡シートを、巻き戻しながらあらかじめ加熱した一組以上の対向する予備加熱板の隙間に移送し、ポリ乳酸発泡シートの表面温度が、Tc〜(Tc+10)℃の温度範囲に20〜60秒で加熱する。予備加熱板は、移送されるポリ乳酸発泡シートを挟んで一組以上を対向させて設置する必要がある。一組とは、移送されたポリ乳酸発泡シートを挟んで上側と下側に各一枚設けることを意味する。上下に対向させて設置する予備加熱板の間隔は10〜500mmの間で選ぶことができる。ポリ乳酸発泡シートの表面温度がTc℃未満であると、ポリ乳酸発泡シートが充分に軟化しないので、後述する第二工程で容器が成形される際にしわなどが発生しやすく、(Tc+10)℃を超えると、ポリ乳酸発泡シートが粘度低下によるドローダウンが生じやすいので、成形されたポリ乳酸発泡容器の外観を損ねてしまい、いずれも好ましくない。ポリ乳酸発泡シートの表面温度は、非接触型表面温度計などを使用して測定することができる。また、予備加熱板で加熱する時間を20秒未満にすると、ポリ乳酸発泡シートの内部が十分に加熱されないまま第二工程に移送され、容器成形後に熱処理しても結晶化度があまり高くならないので、得られたポリ乳酸発泡容器が耐熱性に劣り、一方、加熱する時間が60秒を超えると、ポリ乳酸発泡容器を製造するのに時間を要し生産性が劣るので、いずれも好ましくない。
【0032】
予備加熱板の温度は、対向する上下予備加熱板の間隔、ポリ乳酸発泡シートを上記温度範囲にまで加熱する時間、ポリ乳酸発泡シートの厚さ、発泡倍率などを勘案して決めることができるが、(Tc+20)〜{ポリ乳酸の融点(以下、Tmと記載する。)+100}℃の温度範囲が好ましい。予備加熱板の温度を(Tc+20)℃未満にすると、ポリ乳酸発泡シートの表面温度が上記温度範囲に達する時間が長くなるので、生産性が低下し、一方、(Tm+100)℃を超えると、ポリ乳酸発泡シートが粘度低下によるドローダウンを生じたり、ポリ乳酸発泡シートの表面が焼けすぎて、得られるポリ乳酸発泡容器の外観を損ねたりするので、いずれも好ましくない。ポリ乳酸発泡容器を製造するのに要する時間(成形サイクル)は、第一工程〜第三工程で最も時間を要する工程での時間が律速になるので、第一工程において一組の予備加熱板を用いる場合には、後述する第二工程、第三工程で要する時間が20秒未満であっても、成形サイクルは20秒以上になる。成形サイクルを短縮し生産性を向上させたい場合には、予備加熱板を二組以上設けることができる。予備加熱板を二組以上設けた場合には、全ての予備加熱板で加熱した時間の合計が20〜60秒であればよい。例えば、あるポリ乳酸発泡シートを一組の予備加熱板を使用して加熱させると、表面温度が所定温度に達するのに30秒要する場合、上記予備加熱板と同種、同温度に設定した二組の予備加熱板を使用すると、最初の予備加熱板でポリ乳酸発泡シートを15秒加熱した後、次の予備加熱板の隙間に移送して15秒加熱すればよい。特に、商業的規模での熱成形機は、熱可塑性樹脂製シートを間欠的に移送し、加熱工程と成形工程を同時に行うので、成形サイクルは30秒から15秒に短縮し、二組以上の予備加熱板を設けることは有益である。
【0033】
(2)第二工程(容器成形と熱処理工程)は、第一工程で所定の温度範囲に加熱されたポリ乳酸発泡シートを、あらかじめ(Tc−5)〜(Tc+15)℃の温度範囲に加熱した加熱金型を用いて、所望の形状のポリ乳酸発泡容器に成形し、加熱金型表面に付着させた状態で5秒以上保持する。加熱金型表面の温度が(Tc−5)℃未満の場合には、ポリ乳酸の結晶化度を高めるのに時間を要し生産性を損ない、(Tc+15)℃を超える場合には、得られたポリ乳酸発泡容器を加熱金型から取り外す際に変形したり、機械的強度が低下したりするので好ましくない。また、上記第一工程でポリ乳酸発泡シートを20〜60秒間で加熱し、ポリ乳酸発泡シートの内部温度も表面温度に近い温度にまで上昇しているので、加熱金型表面で保持する時間が5秒であっても、耐熱性に優れたポリ乳酸発泡容器が得られる。保持時間が5秒未満の場合は、ポリ乳酸の結晶化度が十分に高まらないので、ポリ乳酸発泡容器が加熱金型表面に付着しやすく、ポリ乳酸発泡容器の耐熱性も劣り好ましくない。生産性を勘案すると、保持する時間は5〜20秒にするのが好ましい。加熱金型表面の温度は、接触式の熱伝対温度計などを使用して測定することができる。なお、加熱金型に用いられる熱源は電熱器など従来から知られているものでよい。
【0034】
(3)第三工程(冷却工程)は、成形されたポリ乳酸発泡容器の外観維持を目的とする。その手段として、上記第二工程の加熱金型と同じ形状を有し、かつ、あらかじめ冷却した冷却金型に、上記第二工程で熱処理されたポリ乳酸発泡容器を嵌合し、上記ポリ乳酸発泡容器の表面温度をポリ乳酸のTg℃以下の温度範囲に冷却する。ポリ乳酸発泡容器の表面温度がポリ乳酸のTg℃を超えている場合には、冷却金型からポリ乳酸発泡容器を取り出した後に、ポリ乳酸発泡容器が収縮して、曲げや反りなどの現象が生じやすく、外観を損ねるので好ましくない。ポリ乳酸発泡容器の表面温度は、非接触型表面温度計などを使用して測定することができる。冷却金型の設定温度は、0〜Tg℃の温度範囲とし、好ましくは第三工程でポリ乳酸発泡容器の表面温度が所望の温度まで冷却されるまでに要する時間と、上記第一工程、第二工程に要する時間とが一致するような温度である。第三工程で使用する冷却金型は2つ以上設けてもよく、例えば、前半の金型ではTg℃に設定して急激な熱変化によるポリ乳酸発泡容器のひび割れなどを防止し、後半の金型で室温に設定してポリ乳酸発泡容器を硬くさせることによって、第三工程に要する時間を分割して、第一工程、第二工程に要する時間と一致させることができる。なお、冷却金型に用いられる冷媒は空気、水など従来から知られているものでよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の記載例に限定されるものではない。なお、使用した原料樹脂の性状、得られたポリ乳酸発泡シートおよびポリ乳酸発泡容器の評価項目は以下の通りであり、その評価結果を表1〜表3に記載した。
【0036】
<原料樹脂>
(1)ポリ乳酸A:L体98.5重量%、D体1.5重量%、Tg59℃、Tc110℃、Tm165℃、溶融張力59g、比重1.26、JIS K7210に準拠したメルトインデックス(荷重2.16kg)2.0のポリ乳酸である。
(2)ポリ乳酸B:L体98.5重量%、D体1.5重量%、Tg60℃、Tc110℃、Tm165℃、溶融張力1g、比重1.26、JIS K7210に準拠したメルトインデックス(荷重2.16kg)3.0のポリ乳酸である。
(3)タルク:平均粒子径9μmのタルクである。
【0037】
<測定項目>
(a)溶融張力:ポリ乳酸A、およびポリ乳酸Bを表1に示した割合で秤量し、二軸押出機(プラスチック工学研究所社製、型式:BT−40−S2−36L、シリンダー径40mmφ、L/D=36、以下同じ)のホッパーに投入し、スクリュー回転数60rpm、シリンダー温度195℃、押出量15kg/時間の条件で溶融混練し、ペレット状のポリ乳酸を得た。得られたペレット状のポリ乳酸を、60℃に設定した真空乾燥機で48時間乾燥させた後に粉砕し、190℃に設定したキャピログラフ(東洋精機製作所社製)のシリンダー内に約22g充填し、シリンダーの上にピストンを載せて6分間予熱した。その後、シリンダーの下端に付設された中空円状のダイ(直径:2.095mm、長さ:8.000mm)から、ピストン速度を10mm/minの条件で溶融したポリ乳酸を4分間押出した後に、押出されたストランド状のポリ乳酸を、ダイの下方部分に設置された張力検出用プーリーの円形ガイド(約4cmφ)を通過させて、初期速度を1m/min、加速度を2m/minの条件で引き取り、上記円形ガイドに掛かる荷重を張力計で検出し、押し出されたストランド状のポリ乳酸が破断したときの張力を張力計から読み取った。引き取りは、溶融状態のポリ乳酸が完全に押し出されるまで繰り返し行い、破断したときの張力の平均値を算出した(単位[g])。なお、実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3については、押し出されたポリ乳酸を引き取る際の初期速度を10m/min、加速度を5m/minの条件で引き取った。
【0038】
(b)せん断速度:実施例、比較例で得られるポリ乳酸発泡シートは、サーキュラダイによって押し出されて製造されるので、前記(B)式、すなわち、せん断速度[秒−1]=6Q/{π(L−L)(L−L)}、から算出した値である。体積押出量(Q)を調整して、表1に示したせん断速度にした。
【0039】
<評価項目>
(c)押出特性:実施例、比較例においてポリ乳酸発泡シートを製造する際の、二軸押出機のモーターに掛かった負荷が最大許容値の70%未満の場合は○、最大許容値の70〜90%の場合は△、最大許容値の90%を超えた場合は×、とそれぞれ表示した。
(d)発泡倍率:実施例、比較例で得られたポリ乳酸発泡シートを、JIS K6767に準拠して測定した。
【0040】
(e)独立気泡率:実施例、比較例で得られたポリ乳酸発泡シートから、30mm×40mmの大きさの試験片をポリ乳酸発泡シートの幅方向でほぼ均等になるよう切断刃で打ち抜き、各ポリ乳酸発泡シートにつき3個作成した。これらの試験片につき、電子天秤およびJIS1級のノギスを使用し、試験片の重量および体積を求めた。3個の試験片を重ね合わせて積層体とし、空気比較式比重計(東京サイエンス社製、型式:1000型)を使用し、ASTM D−2856に準拠した1−2−1気圧法によって積層体の体積を測定し、次式、すなわち、独立気泡率[%]=(Vx−Vw)÷(Va−Vw)×100、から算出した。なお、上記の式において、Vxは空気比較式比重計による積層体の体積[cm]、Vwは3枚の試験片の総重量[g]÷比重[g/cm]、Vaは3枚の試験片の総体積(見かけ体積)[cm]をそれぞれ示す。
【0041】
(f)シート外観:実施例、比較例で得られたポリ乳酸発泡シートを目視観察し、押出方向に平行のしわ、凹凸模様(縞模様)の跡や毛羽が目視で認められないものは○、押出方向に平行のしわ、凹凸模様(縞模様)の跡や毛羽が目視で認められるものは△、押出方向に平行のしわ、凹凸模様(縞模様)の跡や毛羽が目立つものは×、とそれぞれ表示した。
(g)総合評価1:上記(c)、(f)の評価項目で、双方とも○と表示したものは○と評価し、いずれか一つでも△と表示したものには△と評価し、いずれか一つでも×と表示したものは×と評価した。
【0042】
[実施例1〜実施例14、比較例1〜比較例5]
<タルクマスターバッチの製造>
ポリ乳酸B60重量%と、タルク40重量%を秤量し、リボンブレンダーで均一に混合してポリ乳酸系樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、シリンダー温度195℃に設定した2軸押出機のホッパーに投入し、スクリュー回転数60rpmで溶融混練し、ストランド状に抜き出し、水冷工程を経て、ペレタイザーで切断してペレット状のタルクマスターバッチを得た。
<ポリ乳酸系樹脂製発泡シートの製造>
表1に示した割合で秤量した上記ポリ乳酸A、ポリ乳酸Bに、タルクマスターバッチをポリ乳酸A、ポリ乳酸Bの合計量100重量部に対し5.0重量部(ポリ乳酸に対するタルクの含有量は2.0重量部となる)秤量し、リボンブレンダーで均一に混合してポリ乳酸系樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、シリンダー温度を195℃に設定した二軸押出機のホッパーに供給し、スクリュー回転数60rpmの条件で溶融混練させた。溶融状態の上記樹脂組成物100重量部に対して発泡剤として二酸化炭素を用い、押出機シリンダー途中から注入・混合し、二軸押出機の先端に装着されたサーキュラーダイ(75mmφ)より大気圧下に押出し、マンドレルに引き取りつつ、マンドレルの内部に0.15m/minで空気を吹き付けて延伸・冷却し、円筒型のポリ乳酸発泡シートとし、これをカッターで切り開いて幅700mm、厚さ1.2mmのポリ乳酸発泡シートを得た。なお、体積押出量は、表1に示したせん断速度になるように各実施例、比較例で都度調整した。
【0043】
【表1】

【0044】
上記表1より、次のことが明らかとなる。
(1)ポリ乳酸の溶融張力、タルクの配合割合、および押出時のせん断速度が請求項1で規定する要件を満たすものを原料としたものは、ポリ乳酸発泡シート製造時の押出特性に優れ、得られたポリ乳酸発泡シートの表面に凹凸模様(縞模様)、しわなどが認められない美麗な外観を呈している(実施例1〜実施例14参照)。
(2)これに対して、ポリ乳酸の溶融張力が請求項1で規定する範囲外のものは、ポリ乳酸発泡シート製造時の押出特性に劣り、ポリ乳酸発泡シートの表面に凹凸模様(縞模様)、しわが認められる(比較例1、比較例2参照)。
(3)また、せん断速度が請求項1で規定する範囲外のものは、押出特性、シートの外観に劣る(比較例3〜比較例5参照)。
【0045】
[実施例15〜実施例34、比較例6〜比較例15]
上記の実施例6、実施例14で得られたポリ乳酸発泡シートを使用し、以下の工程を経て、ポリ乳酸発泡容器を作製した。
(1)第一工程:実施例6、実施例14で得られたポリ乳酸発泡シートを、バッチ式差圧成形機(関西自動成形機社製、型式:PK450V)に設置された対向する一組の予備加熱板の隙間(300mm)の中心部に移送し、表2、表3に示した予備加熱板設定温度、および予備加熱板加熱時間によって、上記ポリ乳酸発泡シートを加熱した。
(2)第二工程:次いで、50cm×50cmの寸法のクランプによって上記第一工程で加熱されたポリ乳酸発泡シートを固定し、20cm×25cm×3cmの弁当箱型のポリ乳酸発泡容器を、あらかじめ110℃に加熱された1個取り試験金型を使用し差圧成形法(雄型側から減圧する方法)によって成形し、その状態で表2、表3に示した熱処理時間保持し、ポリ乳酸発泡容器を熱処理して結晶化度を高めた。
(3)第三工程:次いで、あらかじめ25℃に設定した上記加熱金型と同一の形状を有する冷却金型を、上記第二工程で熱処理されたポリ乳酸発泡容器に5秒嵌合させた。
【0046】
<評価項目>
(h)加熱金型離型性:ポリ乳酸発泡容器が加熱金型から容易に離型できた場合は○、ポリ乳酸発泡容器の一部が加熱金型に付着し、加熱金型から離型が難かった場合は△、ポリ乳酸発泡容器が加熱金型に付着したまま残った場合は×と表示した。
(i)外観(曲げ、反り):水平になっているテーブルの上に、開口部を下側にしてポリ乳酸発泡容器を置き、テーブルとポリ乳酸発泡容器の開口部(フランジ部)との間に生じる最大の隙間をJIS1級定規を使用して測定した。その最大の隙間が3mm未満なら○、3mm以上なら×と表示した。
(j)結晶化度:ポリ乳酸発泡容器から所定の大きさに採取した試料につき、X線回析装置(島津製作所社製、型式:XRD−7000)を使用し、ターゲットCu−Kα、管電圧40KV、管電流40mA、ダイバージェンス1.00度、スキャタリング1.00度、レシーピング0.3mm、走査範囲5〜35度、走査速度2度/minの条件で測定した。得られた測定データ強度を、ローレンツ偏光因子補正を行い、結晶質の積分強度(Icr)と非晶質の積分強度(Ia)とに分離し、その比率をもとに試料中に占める結晶部分の濃度を結晶化度として、次式、すなわち、1/X=1+(Ia/Icr)、から算出した。この式において、Xは結晶化度[%]である。ポリ乳酸発泡容器の結晶化度は、45%以上が好ましい。
【0047】
(k)耐熱性:ポリ乳酸発泡容器に98℃の熱湯200mlを充填し、20秒後にポリ乳酸発泡容器を片手で持ち、熱湯を入れる前の触感と変化がなければ○、柔らかくなれば×とした。
(l)電子レンジ加熱性:ポリ乳酸発泡容器の収納部に幕の内弁当の中身(ご飯と惣菜)を詰め、二軸延伸ポリスチレン製の蓋を施蓋し、電子レンジ(シャープ社製、型式:RE−6000)内に入れ、1400Wに設定して50秒間加熱した。加熱後電子レンジから取出し、ポリ乳酸発泡容器の変形有無を目視観察した。ポリ乳酸発泡容器のどの部分にも変形が認められないものを○、変形が認められたものを△として表示した。
(m)総合評価2:上記(h)〜(i)、(k)〜(l)の評価項目の全てが○と表示したものは○と評価し、いずれか一つでも×と表示したものは×と評価した。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
上記表2、表3より、次のことが明らかとなる。
(1)第二工程の熱処理時間を5秒以上とし、冷却金型を使用した場合には、ポリ乳酸発泡容器の耐熱性が優れ、外観も美麗である(実施例15〜実施例34参照)。
(2)第一工程でポリ乳酸発泡シートの表面温度を所定の温度範囲にするための加熱時間を、20秒未満にした場合には、第二工程で熱処理時間を5秒間行なっても、ポリ乳酸の結晶化度は低く、耐熱性に優れたポリ乳酸発泡容器がえられなかった(比較例7、比較例12参照)。
(3)これに対し、第一工程で加熱されたポリ乳酸発泡シートの表面温度が、Tc未満の場合には、熱処理時間を5秒以上延長しても、加熱金型離型性、耐熱性、電子レンジ加熱性が実施例のものと比べ劣る(比較例8〜比較例9、比較例13〜比較例14参照)。
(4)さらに、第二工程での熱処理時間を5秒未満とした場合には、ポリ乳酸発泡容器が加熱金型に付着したまま残り、ポリ乳酸発泡容器が得られなかった(比較例10、比較例15参照)。
(5)第一工程、第二工程を請求項2で規定する要件を満たす方法を採用しても、第三工程で冷却金型を使用しない場合には、加熱金型から取り出したポリ乳酸発泡容器は熱収縮して曲げ、反りなどの現象が発生し、外観が優れない(比較例6、比較例11参照)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の第一発明に係るポリ乳酸系樹脂製発泡シートは、軽量で、断熱性、耐熱性、生分解性などに優れ、緩衝材、農業用資材、合成紙、各種ポスターなどに使用できるほか、真空成形、圧空成形などの熱成形法により、多くの二次成形品(容器)を得ることができる。また、本発明の第二発明に係るポリ乳酸発泡容器の製造方法は、特定の成形条件で製造されているので、得られたポリ乳酸発泡容器は耐熱性、生産性、生分解性に優れ、あらかじめ調理した食品を収納し、食する際に容器ごと電子レンジによって加熱調理される、冷凍調理食品用の容器として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂製発泡シートであって、ポリ乳酸は190℃における溶融張力が25〜70gであり、このポリ乳酸100重量部に対してタルクを1.0〜4.0重量部配合したポリ乳酸系樹脂組成物に、発泡剤の存在下で、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度を1.5×10〜8.0×10−1としてシート状に押出し、得られたポリ乳酸系樹脂製発泡シートの発泡倍率が1.1〜12.0倍で、かつ、厚さが0.5〜2.5mmとされてなることを特徴とする、ポリ乳酸系樹脂製発泡シート。
【請求項2】
請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂製発泡シートの少なくとも片面に、熱可塑性樹脂製フィルムが積層されてなるポリ乳酸系樹脂製発泡シート。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリ乳酸系樹脂である、請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂製発泡シート。
【請求項4】
ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを原料としてポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を製造する方法でおいて、ポリ乳酸は190℃における溶融張力が25〜70gであり、このポリ乳酸100重量部に対してタルクを1.0〜4.0重量部配合したポリ乳酸系樹脂組成物に、発泡剤の存在下で、ダイの口金出口部分における発泡性ポリ乳酸系樹脂組成物のせん断速度を1.5×10〜8.0×10−1としてシート状に押出し、得られたポリ乳酸系樹脂製発泡シートの発泡倍率が1.1〜12.0倍で、かつ、厚さが0.5〜2.5mmとされてなるポリ乳酸系樹脂製発泡シートを、以下の(1)〜(3)の三工程によって製造することを特徴とする、ポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器の製造方法。
(1)あらかじめ加熱した一組以上の対向する予備加熱板の隙間に、ポリ乳酸系樹脂製発泡シートを移送し、上記ポリ乳酸系樹脂発泡シートの表面温度をポリ乳酸の結晶化温度(Tc)〜(Tc+10)℃の温度範囲に20〜60秒で加熱する第一工程。
(2)あらかじめ、(Tc−5)〜(Tc+15)℃の温度範囲に加熱した加熱金型を用いて、上記第一工程で加熱されたポリ乳酸系樹脂製発泡シートをポリ乳酸系樹脂製発泡容器に成形し、その状態で5秒以上保持して熱処理する第二工程。
(3)上記第二工程を終えた直後に、上記加熱金型と同じ形状を有し、かつ、あらかじめ冷却した冷却金型に、上記第二工程で熱処理されたポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器を嵌合し、上記ポリ乳酸系樹脂製発泡シート製容器の表面温度をポリ乳酸のガラス転位温度(Tg)℃以下の温度範囲に冷却する第三工程。

【公開番号】特開2007−254522(P2007−254522A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78462(P2006−78462)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(390041058)シーピー化成株式会社 (16)
【Fターム(参考)】