説明

マイクロ波プラズマ処理装置、マイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板及びその製造方法

【課題】スロット板及び誘電体窓が熱膨張しても、スロット板が摩耗したり、スロット板としての導電膜が誘電体板から剥離したりするのを防止できるマイクロ波プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】誘電体板22にスロット板23のスロット23a内に突出する凸部22cを設ける。そして、誘電体板22の凸部22cの表面を誘電体窓12の表面から誘電体窓12に向かって外方に突出させる。スロット板23を誘電体窓12に直接接触させると、スロット板23及び誘電体窓12の熱膨張係数の差による伸び量のずれが発生する。誘電体板22の凸部22cを誘電体窓12に接触させ、スロット板23を誘電体窓12に接触させないことにより、スロット板23及び誘電体窓12が熱膨張してもスロット板23が摩耗したり、スロット板23としての導電膜が誘電体板22から剥離するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いて生成されたプラズマにより半導体ウェハ、液晶用基板、有機EL素子等の被処理体をプラズマ処理するマイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理は、半導体製造工程のエッチング、薄膜成膜などのプロセスに広く使用されている。近年、LSIの高集積化、高速化、小電力化の観点からLSIを構成する半導体のプロセスルール(ICの線幅)が益々微細化されている。配線間の距離が縮まると、従来の層間絶縁膜では絶縁できず、隣接する配線の信号と干渉するおそれがある。この干渉するおそれを解決するために、低誘電率(Low-k)の絶縁膜が求められている。しかし、従来から多用されている平行平板型や誘導結合型のプラズマ処理装置では、電子温度が高いので、低誘電率の絶縁膜にダメージを与えてしまうという課題がある。例えば、低誘電率の絶縁膜として知られている炭素とフッ素を含むCF膜を使用した場合、プラズマ処理のダメージによって誘電率が上がってしまう。
【0003】
さらに、半導体のウェハサイズも大口径化しており、これに伴って大口径の半導体ウェハに偏りなく均一に処理を行うことが要請されている。しかし、平行平板型や誘導結合型のプラズマ処理装置においては、プラズマ密度の高い領域が限定されるので、大口径のウェハを均一にプラズマ処理することが困難である。
【0004】
そこで近年、高密度で低電子温度のプラズマを均一に形成することができるRLSA(Radial Line Slot Antenna)を用いたマイクロ波プラズマ処理装置が注目されている。このマイクロ波プラズマ処置装置は、均一なマイクロ波を発生するように配列された多数のスロットを有する平面状のマイクロ波アンテナから処理容器内にマイクロ波を放射し、マイクロ波の電界により処理容器内のガスを電離してプラズマを励起させるものである。マイクロ波プラズマ処理装置によれば、アンテナ直下の広い領域に高いプラズマ密度を実現できるので、短時間で均一なプラズマ処理を行うことが可能である。しかも、低電子温度のプラズマを生成することができるので、被処理基板へのダメージを少なくすることができるという利点もある。
【0005】
図1に示すように、マイクロ波プラズマ処理装置において、処理容器1の天井部の開口は誘電体窓2により塞がれる。誘電体窓2の上にはマイクロ波アンテナ3が載せられる。内側導波管及び外側導波管からなる同軸導波管の断面円環状の同軸導波路4を伝搬したマイクロ波は、ディスク状の誘電体板6を放射方向に伝搬する。誘電体板6内で波長が圧縮され、かつ共振するマイクロ波は、導電材料からなるスロット板7のスロットを透過し、誘電体窓2を介して処理容器1内に放射される。
【0006】
処理容器1内のプラズマガスを励起させると、マイクロ波アンテナ3には誘電体窓2を介して熱が伝達される。導電材料からなるスロット板7の熱膨張係数は、誘電体からなる誘電体板6の熱膨張係数よりも大きいので、スロット板7が誘電体板6よりも大きく伸び、これが原因で図2に示すように、スロット板7が曲がったり、変形したりしてしまう。誘電体板6とスロット板7との間に隙間が生じると、反射波が増えたりするので、マイクロ波の伝搬特性が変化してしまう。誘電体板6とスロット板7との間に隙間が発生するのを防止し、マイクロ波の伝搬を一定に保つため、特許文献1には、スロット板7を構成する導電膜を誘電体板6にめっきする技術が開示されている。誘電体板6に導電膜をめっきすることにより、誘電体板6と導電膜とを一緒に熱膨張させることができ、これらの間に隙間が発生するのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−355550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘電体板6と導電膜との間の隙間だけでなく、導電膜と誘電体窓との間の隙間も機差(同一処理を行う装置ごとの差)の原因になる。導電膜と誘電体窓との間に隙間が生ずるのを防止するために、導電膜がめっきされた誘電体板は上方から強い力で誘電体窓に押さえ付けられる。導電材料からなる導電膜の熱膨張係数と誘電体からなる誘電体窓の熱膨張係数とは異なる。このため、導電膜及び誘電体窓が熱膨張すると、これらの間には水平方向の伸び量の相対的なずれが発生する。
【0009】
導電膜と誘電体窓とを強い力で密着させた状態でこれらを熱膨張させると、熱膨張による摩耗は甚だしいものになる。接触面が単に擦れるだけでなく、めっきした導電膜が誘電体板から剥離するおそれさえもある。
【0010】
そこで本発明は、スロット板及び誘電体窓が熱膨張しても、スロット板が摩耗したり、スロット板としての導電膜が誘電体板から剥離したりするのを防止できるマイクロ波プラズマ処理装置、マイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、天井部が誘電体窓により画定される処理容器と、前記処理容器を減圧するガス排気系と、前記処理容器にプラズマガスを供給するガス供給部と、前記処理容器の前記誘電体窓に載せられ、前記処理容器内のプラズマガスを励起するマイクロ波アンテナと、を備えるマイクロ波プラズマ処理装置において、記マイクロ波アンテナは、水平方向にマイクロ波を伝播すると共にマイクロ波の波長を圧縮する誘電体板と、マイクロ波を透過させるスロットを有するスロット板と、を含み、前記誘電体板に前記スロット板の前記スロット内に突出する凸部が設けられ、前記誘電体板の前記凸部の表面が前記スロット板の表面から前記誘電体窓に向かって外方に出っ張るマイクロ波プラズマ処理装置である。
【0012】
本発明の他の態様は、マイクロ波を用いて生成されたプラズマにより被処理体をプラズマ処理するマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板であって、マイクロ波を透過させるスロットを有するスロット板と、前記スロット板の前記スロット内に突出する凸部を有し、前記凸部の表面が前記スロット板の表面から外方に出っ張る誘電体板と、を備えるマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板である。
【0013】
さらに本発明の他の態様は、マイクロ波を用いて生成されたプラズマにより被処理体をプラズマ処理するマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板の製造方法であって、スロット板のマイクロ波を透過させるスロットに対応する部分が凸部になるように前記スロットに対応する部分を残して誘電体板の残りの部分を除去する工程と、前記誘電体板の前記凸部以外の部分に、前記凸部の表面が前記スロット板の表面から外方に出っ張るように導電膜からなるスロット板を成膜する工程と、を備えるマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
スロット板を誘電体窓に直接接触させると、スロット板及び誘電体窓の熱膨張係数の差による伸び量のずれが発生する。本発明によれば、スロット板のスロットから誘電体の凸部を突出させるので、当該凸部を誘電体窓に接触させ、スロット板を誘電体窓に直接接触させないことができる。したがって、スロット板及び誘電体窓が熱膨張してもスロット板が摩耗したり、スロット板としての導電膜が誘電体板から剥離したりするのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のマイクロ波プラズマ処理装置の断面図
【図2】従来のマイクロ波プラズマ処理装置のスロット板の変形を示す断面図
【図3】本発明の一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の断面図
【図4】導電膜が形成される誘電体板の詳細図
【図5】導電膜から突出する誘電体の凸部を示す断面図
【図6】誘電体窓と導電膜との接触状態を示す断面図(図中(a)が本実施形態の誘電体板を示し、図中(b)が従来の誘電体板を示す)
【図7】導電膜が形成される誘電体板の製造方法の工程図(図中(a)が本実施形態の誘電体板の製造方法であり、図中(b)が従来の誘電体板の製造方法である)
【図8】めっきの一例を示す断面図
【図9】同軸導波管と誘電体板の上下の導電膜との電気的接触を示す図
【図10】同軸導波管の内導体と誘電体板の下面の導電膜との電気的接触を示す図
【図11】冷却板と誘電体板の下面の導電膜との電気的接触を示す図
【図12】給電手段の他の例を示す断面図
【図13】誘電体板の凸部と誘電体窓との間に緩衝シートを介在させた例を示す断面図
【図14】導電膜と誘電体窓との間に緩衝シートを介在させた例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置の一実施形態を説明する。図3は、マイクロ波プラズマ処理装置の全体の構成図を示す。
【0017】
マイクロ波プラズマ処理装置は、外壁によって区画される処理容器11と、処理容器11内に設けられ、被処理基板を静電チャックにより保持するAlN又はAl2O3からなる保持台16と、を含む。処理容器11には、保持台16を囲む円環状の空間に周方向に均等に排気ポートが形成される。処理容器11は、排気ポートを介して真空ポンプにより排気・減圧される。
【0018】
処理容器11は、Al好ましくはAlを含有するステンレス鋼からなり、内壁面には酸化処理により酸化アルミニウムよりなる保護膜が形成されている。処理容器11の天井部には、Al23、石英等の誘電体からなる誘電体窓12が外壁の一部として設けられる。誘電体窓12は処理容器11の側壁にシールリング13を介して装着される。誘電体窓12は処理容器11の側壁の上部に取り付けられる誘電体窓押えリング14によって処理容器11に固定される。誘電体窓押えリング14は、処理容器11と同様にAl若しくはAlを含有するステンレス鋼からなる。
【0019】
処理容器11の側壁には、プラズマガスを処理容器11内に供給するための環状のガス供給部15が設けられる。ガス供給部15にはガス供給系が接続されている。Arガス、Krガス等のプラズマ励起用ガスや、プラズマ処理の種類に応じた処理ガスがガス供給部から処理容器11に供給される。かかるプラズマ処理には、プラズマ酸化処理、プラズマ窒化処理、プラズマ酸窒化処理、プラズマCVD処理等が含まれる。ガス供給部からC48,C58又はC46などの解離しやすいフルオロカーボンガスや、F系あるいはCl系などのエッチングガスを供給し、保持台16上に高周波電源から高周波電圧を印加することにより、被処理基板に対して反応性イオンエッチングを行うことも可能である。
【0020】
処理容器11の側壁には、被処理基板を搬入及び搬出するための図示しない搬出入口が設けられる。搬出入口はゲートバルブによって開閉される。
【0021】
誘電体窓12上には、処理容器11内のプラズマガスを励起する平面状のマイクロ波アンテナ18が載せられる。マイクロ波アンテナ18は、同軸モードでマイクロ波を上下方向に伝搬する同軸導波管19と、同軸導波管19の同軸導波路20を通過したマイクロ波を放射方向に伝搬するディスク状の誘電体板22と、マイクロ波を透過させるスロットを有するスロット板としての導電膜23と、誘電体板22の上面に設けられ、誘電体板22を冷却する冷却板24と、を含む。
【0022】
マイクロ波を給電する給電手段としての同軸導波管19は、垂直方向に伸びる内導体19aと、内導体19aを囲む筒状の外導体19bと、からなる。内導体19aと外導体19bとの間に断面環状の同軸導波路20が形成される。同軸導波管19の上端部は水平方向に伸びる矩形導波管21(図1参照)に接続される。矩形導波管21と同軸導波管19の接続部には円錐形のモード変換器25(図1参照)が設けられる。矩形導波管21は整合器を介してマグネトロン等のマイクロ波発生装置に接続されている。マイクロ波発生装置は、例えば周波数2.45GHz,8.35GHz,1.98GHz等のマイクロ波を発生する。矩形導波管21を伝搬するマイクロ波はモード変換器25によって同軸モードに変換され、同軸導波路20(図3参照)を上下方向に伝搬する。整合器は、マイクロ波発生装置から発生するマイクロ波を矩形導波管21及び同軸導波路20を介して誘電体板22へ伝搬させる。
【0023】
誘電体板22は、Al23、石英等の誘電体からなる。誘電体板22の下面には、スロット板としての導電膜23が形成される。この実施形態では、誘電体板22の下面だけでなく、上面及び外周面にも導電膜23が形成される。マイクロ波は、電界と磁界が非常に速く変化しながら伝搬する電磁波である。金属面に当たったマイクロ波は、金属内にはほとんど進入せず、ごく表面(表皮深さ)に電流を流し、大部分が反射する。このため、同軸導波路20から誘電体板22に照射されたマイクロ波は、誘電体板22の上面及び下面に形成される導電膜23によって反射されながら誘電体板22を放射方向に伝搬する。また、同軸導波路20から誘電体板22に入るとき、マイクロ波の伝搬する媒質が空気から誘電体に変化するので、マイクロ波の波長が圧縮される。誘電体板22の厚みは、TEモードでマイクロ波が伝搬するように、すなわち電界が厚み方向にだけできるように決められる。誘電体板22の厚みが誘電体板22内におけるマイクロ波の波長の1/4以下であれば問題ない。ただし、あまり薄いと強度の問題があり、また厚すぎると撓みにくくなる。このため本実施形態において、誘電体板22の材質にアルミナを使用した場合、3〜6mm程度が最適な厚みになる。
【0024】
図4は導電膜23が形成される誘電体板22の詳細図を示す。誘電体板22の上面、下面及び外周面には、金属の層からなる導電膜がめっきされる。誘電体板22の中心部には、同軸導波管19の内導体19aに接続されるスロット中心コンタクトフランジ27(図9参照)が貫通する孔22aが空けられる。孔22aの周囲(誘電体板22の上面及び下面の一部及び内周面)には、導電膜23が成膜されていない非成膜エリア22bが形成される。詳しくは後述するが、誘電体板22の下面の導電膜23は、スロット中心コンタクトフランジ27を介して内導体19aに電気的に接続され、誘電体板22の上面の導電膜23は、電気コンタクト弾性体28(図9参照)及び冷却板24を介して同軸導波管19の外導体19bに電気的に接続される。
【0025】
誘電体板22の下面側の導電膜23(スロット板)には、マイクロ波を透過させる多数のスロット23aが形成される。隣接する一組のスロット23aは、直交するようにT字状に配列される。多数のスロット23aはディスク状の導電膜23に同心円状に配置される。スロット23aの長さや配列は、スロット23aから処理容器11に均一に電界が放射されるように、誘電体板22によって圧縮されたマイクロ波の波長に応じて適宜決定される。スロット23aの形状は直線形状の他に円弧形状でもよく、スロット23aの配列は同心円状の他に螺旋状や放射状でもよい。
【0026】
図5に示すように、誘電体板22の下面側の導電膜23のスロット23a内には、誘電体板22の凸部22cが突出する。凸部22cの表面(下面)は、平面に形成され、導電膜23の表面よりも外方に出っ張る。このため、図6(a)に示すように、凸部22cが誘電体窓12に接触し、導電膜23が誘電体窓12に接触しないようになる。図6(b)に、導電膜23から凸部22cを出っ張らせていない従来の誘電体板22を示す。従来の誘電体板22においては、誘電体板22ではなく、導電膜23が誘電体窓12に接触する。こうなると、誘電体窓12及び導電膜23の熱膨張・収縮により、導電膜23が誘電体窓12と擦れ、導電膜23が誘電体板22から剥離するおそれがある。本実施形態のように、誘電体板22の凸部22cを誘電体窓12に接触させ、導電膜23が誘電体窓12に接触しないようにすることで、この問題を解決することができる。図6(a)に示す導電膜23と誘電体窓12との間の隙間には、テフロン(登録商標)シート、カーボンシート等の緩衝シート53が介在されてもよい(図14参照)。
【0027】
図7(a)に、導電膜23を形成した誘電体板22の製造方法を示す。図7(b)には、従来の誘電体板22の製造方法が比較して示されている。従来の誘電体板22の製造方法においては、誘電体板22を製作した後(S1)、スロット23aに対応する非成膜エリアをマスキング(S2)し、その後、誘電体板22に金属層をめっきし(S3)、その後、マスキングを除去していた(S4)。又は、誘電体板22を製作した後(ST1)、誘電体板22に金属層をめっきし(ST2)、その後、スロット23aに対応する部分をエッチングしていた(ST3)。いずれにしても、スロット23aに対応する部分は空間となっていた。
【0028】
これに対し、本実施形態の製造方法においては、図7(a)に示すように、誘電体板22を製作した後(SP1)、スロット23aに対応する部分に凸部22cを形成できるように、スロット23aに対応する部分を残して誘電体板22の残りの部分(スロット形成面の非スロット開口部)をエッチングする(SP2)。凸部22cの突出量は、例えば10〜30μm程度に調整される。エッチング手法は特に限定されるものではなく、例えばサンドブラスト処理、エンドミルを用いた切削、化学薬品を用いた化学エッチング等を採用することができる。なお、ブラスト処理するとき、スロット23aに対応する部分はマスキングされる。
【0029】
その後、誘電体板22の凸部22c以外の部分(誘電体板22のスロット形成面の非スロット開口部)に金属層をめっきする(SP3)。例えば、誘電体板22の凸部22cをマスキングした状態で全体をめっき浴槽に浸けることによって、金属層を誘電体板22にめっきする。導電膜23の厚さは、凸部22cの表面が導電膜23の表面から外方に出っ張るように、例えば5μm〜10μm程度に調整される。なお、誘電体板22の凸部22cにマスキングをせずに全体をメッキ浴槽に着け、その後、誘電体板22の凸部22cに付着する金属層を削り取ってもよい。
【0030】
本実施形態によれば、スロット23a内が誘電体で充填される。この条件でシミュレーションがなされ、最適なスロット23aの形状・配列が設計される。マイクロ波の伝搬する媒質が誘電体から空気へと変化することがないので、界面でのマイクロ波の反射を防ぐことができる。
【0031】
なお、誘電体板22をエッチングする際、表面粗さをなるべく小さくするのが望ましい。マイクロ波は導電膜23を反射しながら伝搬するので、導電膜23の表面には電流が流れる。誘電体板22の表面粗さが粗くなると、導電膜23の表面に凹凸が形成され、電気抵抗が増大する。こうなるとマイクロ波のパワーを損失する。
【0032】
図8は、金属層のめっきの一例を示す。誘電体板22に導電膜23を成膜する際、まず誘電体板22の表面を活性化するため、誘電体板22の表面にPdの薄い層31を無電解めっきする。次に、Pdの層31の上に5μm程度の厚さのCuの層32をめっきする。Cuの層32が温度上昇すると、酸化して劣化する。これを防止するために1〜2μmのAuの層34が電解めっきされる。Auの層34をCuの層32にめっきするためには、Cuの層32の表面をNiで処理する必要がある。このため、Cuの層32の表面に0.2〜0.3μmのNiの層33が無電解めっきされる。誘電体板22を伝搬するマイクロ波の電流は主にCuの層を流れる。
【0033】
誘電体板22の上面、下面及び外周面に導電膜23をめっきするのが望ましい。片面だけだと熱膨張により誘電体板22が反るおそれがあるし、誘電体板22と冷却板24との間に隙間が発生するおそれもあるからである。誘電体板22の上面に導電膜23を成膜することで、マイクロ波が誘電体板22の上面の導電膜23で反射する。導電膜23の外側をマイクロ波が伝搬することがないので、誘電体板22の上面の導電膜23と冷却板24との間に熱伝導性のよいテフロン(登録商標)シート、カーボンシート等の緩衝シート36(図3参照)を介在させることもできる。ただしもちろん、誘電体板22の下面のみに導電膜23を成膜させてもよい。この場合、誘電体板22の下面の導電膜23と同軸導波管19との電気的な接続を確保する必要がある。
【0034】
図3に示すように、マイクロ波アンテナ18の誘電体板22上には、冷却板24が載せられる。冷却板24には冷却水流路24aが形成される。冷却水流路24aに冷却水を流すことにより、誘電体板22を冷却することができる。熱伝導性を向上させるため、冷却板24と誘電体板22との間には、例えば厚みが0.05mm程度の、一枚又は複数枚の緩衝シート36が介在される。この緩衝シート36は、熱膨張によって誘電体板22の上面の導電膜23と冷却板24とが擦れるのを防止する。誘電体板22の上面の導電膜23の内周側は熱膨張の量が小さいので、冷却板24との擦れも少ない。このため、導電膜23の内周側と冷却板24とで電気的な接続がなされる。
【0035】
マイクロ波アンテナ18は、誘電体窓押えリング14に取り付けられるアンテナ押え37によって誘電体窓12に固定される。アンテナ押え37は処理容器11と同様にAl若しくはAlを含有するステンレス鋼からなる。冷却板24とアンテナ押え37との間には、電磁遮蔽弾力体38が設けられる。電磁遮蔽弾力体38は電磁シールドの機能、及びマイクロ波アンテナ18を誘電体窓12に押しつける機能を持つ。導電膜23のスロット23aを透過するマイクロ波は全てがプラズマに吸収されるわけではなく、一部が導電膜23と誘電体窓12との間の小さな隙間から外側に漏れ出す。それだけでなく、誘電体窓12を外周方向に伝搬したマイクロ波は誘電体窓押えリング14と冷却板24との間の隙間から外側に漏れ出す。電磁遮蔽弾力体38は漏れ出したマイクロ波をシールドする。マイクロ波アンテナ18が誘電体窓12上に単に載っているだけだと、熱膨張によってマイクロ波アンテナ18と誘電体窓12との間に隙間が生ずる。熱膨張して隙間が生ずるのを防止するために、電磁遮蔽弾力体38はマイクロ波アンテナ18を強い力で誘電体窓12に押し付ける。なお、電磁遮蔽弾力体の二つの機能を分けてもよい。すなわち、電磁シールドの機能をスパイラル状の電磁シールドに持たせ、マイクロ波アンテナ18を誘電体窓12に押しつける機能をテンションが付与できるばね状のOリングに持たせてもよい。
【0036】
図9は、誘電体板22の導電膜23の電気的な接続方法の一例を示す。誘電体板22の下面の導電膜23と同軸導波管19の内導体19aとを電気的に接続する必要があることから、円柱状のスロット中心コンタクトフランジ27と板状のスロット中心コンタクト板41を設ける。図10に示すように、スロット中心コンタクトフランジ27とスロット中心コンタクト板41とは、接着、ねじ等により結合される。スロット中心コンタクトフランジ27は、内導体19aにねじ等により結合される。Oリング等からなるコンタクト補強弾性体42は、スロット中心コンタクト板41と導電膜23との電気的接触を補強し、また誘電体板22の上面側の導電膜23と冷却板24との電気的接触を導電性ばねからなる電気コンタクト弾性体28と共に補強する。
【0037】
図11に示すように、スロット外周コンタクトリング44とスロット外周コンタクト板45とは結合される。スロット外周コンタクトリング44は冷却板24にボルト等で結合される。Oリング等からなるコンタクト補強弾性体46は、スロット外周コンタクト板45と誘電体板22の下面側の導電膜23との電気的接触を補強する。また、伝熱性の緩衝シート36を通して誘電体板22の上面の導電膜23と冷却板24との伝熱的接触を補強する。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々に変更できる。例えば図12に示すように、本発明のアンテナは、同軸導波路のように中心から外に向かってマイクロ波を広げる構造でなくても、給電手段としての矩形導波管51によって水平方向にマイクロ波を導入する構造であってもよい。
【0039】
また、スロット板は誘電体板にめっきされた導電膜でなくても、誘電体板とは別体の銅板であってもよい。この場合、スロット板のスロットに誘電体板の凸部を嵌めればよい。さらに、誘電体板の凸部を誘電体本体とは別体にし、凸部を誘電体本体に貼り付けてもよい。さらに、図13に示すように、誘電体板22の凸部22cと誘電体窓12との間に緩衝シート52を介在させてもよい。
【0040】
アンテナ押えに冷却板及び誘電体板を誘電体窓に押さえ付ける電磁遮蔽弾力体を設けなくても、冷却板及び誘電体板の周囲を真空にすることによって、これらを誘電体窓に密着させてもよい。
【0041】
誘電体窓に処理容器内にプラズマガスを供給するプラズマガス供給経路を形成し、誘電体窓と被処理基板との間に処理ガスを供給する中段シャワーヘッドを設けてもよい。
【符号の説明】
【0042】
11…処理容器
12…誘電体窓
15…ガス供給部
16…保持台
18…マイクロ波アンテナ
19…同軸導波管
20…同軸導波路
22…誘電体板
22c…凸部
23…導電膜(スロット板)
23a…スロット
36…緩衝シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部が誘電体窓により画定される処理容器と、前記処理容器を減圧するガス排気系と、前記処理容器にプラズマガスを供給するガス供給部と、前記処理容器の前記誘電体窓に載せられ、前記処理容器内のプラズマガスを励起するマイクロ波アンテナと、を備えるマイクロ波プラズマ処理装置において、
前記マイクロ波アンテナは、水平方向にマイクロ波を伝播すると共にマイクロ波の波長を圧縮する誘電体板と、マイクロ波を透過させるスロットを有するスロット板と、を含み、
前記誘電体板に前記スロット板の前記スロット内に突出する凸部が設けられ、
前記誘電体板の前記凸部の表面が前記スロット板の表面から前記誘電体窓に向かって外方に出っ張るマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記スロット板は、前記誘電体板に形成される導電膜からなることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘電体板の前記凸部は、前記スロットに対応する部分を残して前記誘電体板の残りの部分を除去することにより形成され、
前記導電膜は、前記誘電体板の前記凸部以外の部分を成膜することにより形成されることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記導電膜は、前記誘電体板にめっきにより形成されることを特徴とする請求項2又は3に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記スロット板と前記誘電体窓との間には、隙間が空けられることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記スロット板と前記誘電体窓との間には、緩衝シートが介在されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記マイクロ波プラズマ処理装置はさらに、前記マイクロ波アンテナを冷却すると共に、前記誘電体窓との間で前記誘電体板を上下方向に挟む冷却板を備え、
前記誘電体板の上面にはマイクロ波を反射する導電膜が形成され、
前記誘電体板の上面の前記導電膜と前記冷却板との間には、緩衝シートが介在されることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項8】
マイクロ波を用いて生成されたプラズマにより被処理体をプラズマ処理するマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板であって、
マイクロ波を透過させるスロットを有するスロット板と、
前記スロット板の前記スロット内に突出する凸部を有し、前記凸部の表面が前記スロット板の表面から外方に出っ張る誘電体板と、を備えるマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板。
【請求項9】
前記スロット板は、前記誘電体板に形成される導電膜からなることを特徴とする請求項8に記載のマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板。
【請求項10】
マイクロ波を用いて生成されたプラズマにより被処理体をプラズマ処理するマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板の製造方法であって、
スロット板のマイクロ波を透過させるスロットに対応する部分が凸部になるように前記スロットに対応する部分を残して誘電体板の残りの部分を除去する工程と、
前記誘電体板の前記凸部以外の部分に、前記凸部の表面が前記スロット板の表面から外方に出っ張るように導電膜からなるスロット板を成膜する工程と、を備えるマイクロ波プラズマ処理装置用のスロット板付き誘電体板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−177065(P2010−177065A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18970(P2009−18970)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(392034023)北陸成型工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】