マイクロ波超高吸収発熱素材による温度制御反応場生成法と機能性ナノ粒子及びナノカーボン素材の合成方法
【課題】 マイクロ波非常に強く吸収し急激に加熱される物質、とりわけ炭素素材に強磁性超ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を坦持、内包させ、ナノ炭素素材を合成方法を提供する。
【解決手段】
炭素素材ketjenblackに前駆体である金属塩を混合し、マイクロ波照射加熱を行い、Pt/C,Fe/C,PtFe/C,PtRu/C等の磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を合成する。
【解決手段】
炭素素材ketjenblackに前駆体である金属塩を混合し、マイクロ波照射加熱を行い、Pt/C,Fe/C,PtFe/C,PtRu/C等の磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を合成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素素材がマイクロ波を吸収し昇温することを活用して、低温度領域では金属ナノ粒子や触媒ナノ粒子合成の化学反応を促進し、反応槽を変更することなく高温度領域に昇温することにより、つまり後処理を実施することなく、合成されたナノ粒子を炭素素材に高効率で坦持させる方法である。
炭素材料に波長2.45GHzのマイクロ波を出力数百ワット(W)で照射すると、炭素材料全体が瞬時に爆発的に1000℃以上に昇温し、温度制御が困難である。金属ナノ粒子の合成では、一定温度を制御し、合成に必要な時間を維持すると、安定した生成ができる。素材の性質から一定の温度を制御するために微弱な出力のマイクロ波を照射し、そのマイクロ波加熱された素材の温度を測定して、モニターすることによりマイクロ波照射の出力を制御し、マイクロ波超高吸収発熱素材の近傍に化学反応に適した温度場を維持し生成する方法である。また、そのマイクロ波超高吸収発熱素材の近傍に生成に必要な温度場を炭素材料の自己発熱を活用して機能性ナノ粒子を生成させ、素材に坦持、内包させる。また金属微粒子を触媒とし、ナノ炭素材料を合成する方法である。
マイクロ波を金属酸化物に照射すると赤外線領域の波長に転換する。赤外線波長においても温度をモニターし温度制御すると金属微粒子を触媒とし、ナノ炭素材料を合成することができる。更に、反応槽を変更することなく、高温度領域まで昇温し、反応溶媒や副生成物を蒸散させ、生成物を精製することを可能し、合成されたナノ粒子を高収率で炭素素材に坦持・内包させる方法である。
【背景技術】
【0002】
炭素素材に高機能性を付加し、低価格で製造されることが望まれている。マイクロ波による合成はこれまでも報告されているが、一定の生成温度を制御し安定した合成ではなく、瞬時の偶発的生成であり連続的な生成が困難とされていた。その原因は、炭素素材に従来の数百ワット(W)の出力でマイクロ波を照射すると炭素材全体に連鎖発熱し、温度の制御が出来ずに暴発する、暴発の過程で偶然的に一部が高機能の構造やナノ粒子に合成されていた。
しかし、特許文献1に記載されているマイクロ波化学反応装置のマイクロ波発振機に連続出力制御マイクロ波発生器を用い、マイクロ波加熱された素材の温度をモニターし、自己発熱による連鎖発熱を制御するためのマイクロ波の出力を制御すると、素材近傍の温度を常温から1000℃程度までの広範囲に亘って制御出来ることを発見した。金属酸化物にマイクロ波を照射すると瞬時に高温で発熱する事は広く公知となっている。金属酸化物から輻射する赤外線領域の温度場を500℃〜1200℃間で温度をモニターし、自己発熱から連鎖発熱を制御しマイクロ波の出力を維持すると同じ効果が得られた。その結果安定した生成が可能になった。
従って、本発明が応用できる分野は多岐に亘ることになるが、その最も重要な分野は電気化学反応を応用した電池の材料になっている白金などの触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持した電極触媒材料に関する非特許文献1に示されている課題を解決することに繋がる。また、磁気記録の高密度化のための磁性ナノ粒子合成には飛躍的貢献をすることになる。更に金属を触媒として合成するナノ炭素素材、カーボンナノチューブ及び金属微粒子内包フラーレンを合成する方法に応用可能である。
【特許文献1】 特開2002−079078号公報
【非特許文献1】 P.J.Ferreira,G.J.la O’,Y.Shao−Horn,D.Morgan,R.Makharia,S.Kocha and H.A.Gasteiger,Journal of The Electrochemical Society,152(11)A2256−A2271(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来温度制御が困難であった炭素素材に波長2.45GHzのマイクロ波を照射しながら、一定の化学反応に適合した温度場を維持しながら炭素素材に機能性を高効率で付加しナノ粒子を合成する方法である。炭素素材及びマイクロ波超高吸収発熱素材は2.45GHzのマイクロ波を微弱な出力、約10W〜約800Wの間で連続的に出力を制御し、温度をモニターすることによって、暴発を回避でき素材の近傍に化学反応に最適な温度場を維持し機能性を付加し生成する方法を提供する。
炭素素材などに高機能性を付加することが求められているが、設備費及び製造価格が高く、連続的な製造機械の開発には産業化の課題になっていた。マイクロ波の発振器は設備費用が安く、広く普及している。 特に、炭素素材などのマイクロ波超高吸収発熱素材にマイクロ波を照射して、それらの素材に高機能性を付加することが望まれていたが、通常のマイクロ波照射方法では素材が連鎖発熱し制御し難く暴走的に加熱され、実用化が困難であった。しかし、特許文献1に記載されているマイクロ波化学反応装置に出力制御の連続マイクロ波発振器を用いると、マイクロ波加熱された素材の温度をモニターし、マイクロ波出力を柔軟に制御することが出来き、素材近傍の温度を常温から1400℃程度までの広範囲に亘って制御を可能にする方法を提供する。また、本発明が応用できる分野は多岐に亘ることになるが、その最も重要な分野は電気化学反応を応用した電池の材料になっている白金などの触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持に関する非特許文献1に示されている課題を解決することに繋がる方法を提供する。
更に従来カーボンナノチューブ、金属内包フラーレンなどのナノ炭素材料を合成するため、金属微粒子を触媒として、アーク放電法、CVD法、CCVD法などの合成法がある。合成による収率はアーク放電法では50%〜70%、CVD法は90%、CCVD法は90%である。触媒除去後の収率は約50%とされている。どの方法においても、5kW〜20kWの高出力によって生成させており、高出力の電力を必要とし施設費ともに高く、連続作業が困難で製造コストが高価である。
本発明は炭素材の自己発熱を抑制しながら生成させており、電力出力、施設費共に大幅に軽減できる。更に、本発明の方法では図12に示されている炭素に坦持されたPtFeナノ粒子(PtFe/C)のXRDパターン測定で、2θが20°〜30°の間にあるカーボン(ケッチェンブラック)のピークを基準にして仕込み坦持量5wt%のPtFe/CのXRDパターンと仕込み坦持量20wt%のPtFe/CのXRDパターンの比較において、2θが約40°のPtFeナノ結晶ピーク(111)などのXRDパターンピークが坦持量に比例して4倍になっていることが測定されたので、本発見の方法は収率が100%であることを確認した。また、坦持量5wt%のPtFe/Cと20wt%のPtFe/CのXRDパターンの全てのピーク巾が坦持量には依存せず、シェラーの方法で評価出来るナノ微粒子サイズとTEM像で観察されているナノ微粒子サイズが完全に対応しているので、広範囲にわたる坦持量に対して安定な炭素坦持金属ナノ粒子を高効率で合成出来ることが立証された。
既にカーボンナノチーブは自動車用燃料電池の燃料となる水素の吸蔵材料に使用されており、実体は5kgの水素が自動車走行用に必要とし 吸着量が10wt%とするとカーボンナノチューブが50kg必要である。カーボンナノチューブのコストが現状で1万円/kgとすると車一台当たり50万円となり、車一台あたり50万円の燃料タンクのコストがかかる。工業化するためには通常1000円〜2000円/kgのコストが必要である。
汎用樹脂とのナノコンポジットのためにカーボンナノチューブを使用するためには数千円/kgのコストが必要である。カーボンナノチューブのコストを下げるためには、炭素源あたりの収率を上げるだけでなく触媒当たりの収率を高くすること、カーボンナノチューブの純度を上げること、簡単な設備にすること、時間当たりの生産量をあげる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、[特許文献1]に記載されているマイクロ波化学反応装置のマイクロ波発生器に連続出力制御マイクロ波発振器を用いる方法であり、また反応槽をより高性能化する方法である。
同じく請求項2に記載された発明は、マイクロ波を吸収しにくい通常の化学反応をマイクロ波加熱で化学反応を促進可能にする方法である。
請求項3に記載された発明は、金属酸化物にマイクロ波を照射し波長転換から赤外線の波長を輻射し
マイクロ波の出力を制御し、請求項1の反応槽をより高性能化する方法である。
請求項4に記載された発明は、反応槽を取り換えることなく、マイクロ波加熱で得られた合成物と溶媒や副生成物を分離・精製する方法を提供する。
請求項5は請求項4に記載されている合成物と溶媒や副生成物を分離・精製する時、合成物がマイクロ波超高吸収発熱素材表面に坦持、内包する場合があり、それを利用すると素材に坦持、内包された良質のナノ粒子を得る方法を提供する。
請求項6は請求項5に記載されている方法を炭素素材に種々の金属または合金を坦持し内包し、炭素素材を高機能化する方法、更に、金属微粒子を触媒としてカーボンナノチューブを合成する方法を提供する。
請求項7と請求項8は請求項4に記載されている方法を磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持、内包する方法を提供する。
請求項9は反応槽にメタンなど有機系ガスを流入させることにより、請求項7と8で記載されている方法で合成された磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子に炭素を被服させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、マイクロ波超高吸収素材にマイクロ波を照射し素材の表面に生成される温度場を利用して種々の化学反応を促進し、通常の化学反応では合成し難い反応物を合成することを可能にする。また、反応温度を制御し、高純度かつ良質のナノ炭素素材を高収率で大量生産することが可能である。炭素素材に良質のナノ粒子を坦持、内包させることが可能になり、更に、金属微粒子を触媒として、ナノ炭素材料を合成することができる。従来のナノ炭素素材の合成方法である。アーク放電法、CVD法、CCVD法では5kW〜20kWの出力を必要とし、収率はそれぞれアーク放電法は50%〜70%、CVD法は90%、CCVD法は90%である。この方法は触媒当たりの収率は約50%と悪く、本発明は触媒当たりの収率も改善された。生成に必要とするエネルギー出力は200W以下で約1/25であり、収率は炭素源当たりと触媒あたり共に約100%である。本発明の産業界に及ぼす波及効果は多大であることが期待出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明はナノ粒子合成の前駆体を炭素素材に混合させ、マイクロ波を照射し、ナノ金属微粒子、磁性微粒子を炭素素材に坦持、内包させ、炭素素材及び、ナノ炭素素材を高機能化することである。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
【0008】
本発明を実施するために用いたマイクロ波照射システムと反応槽の概念図を断面図で図1に示す。ここに示す導波管の断面図は周波数2.45GHzのマイクロ波H01モード導波管である。H01モード導波管のH面(上面)中央部に直径約2cmの円形孔を開け、反応槽である石英製試験管をその円形孔に挿入してマイクロ波を照射する。試験管の周辺に、導波管にテーパーを付加し反応容器周辺のマイクロ波の密度を高密度にしている。また、導波管の終端は短絡器を設置し、マイクロ波を定在波として用いている。
反応槽である試験管の反応場に外径4mm程度のパイレックス製または石英製細径ガラス管に挿入したアルメルクロメル熱電対または白金ロジウム熱電対を直接差し込み、反応場の温度を測定した。その測定された温度をモニターした制御系で連続的にマイクロ波出力を制御した。このことでプログラムによる温度制御マイクロ波照射が可能である。熱電対はE面に対して垂直なので熱電対からのマイクロ波漏れが理想的には無くなる。更に反応場内に内径約1mmのパイレックス製または石英製ガラス管を直接挿入し、そこからN2やArなどの希ガスを反応場に直接注入することができるように設計している。この反応装置により反応場を不活性ガス雰囲気にすることができ、金属酸化物生成の酸化を防ぐことができる。また反応容器の上部と下部を連結しているテフロンジョイント(コネクター)には小さな孔を幾つか開けているので、上部で吸引しておくと反応槽からの余分な蒸散ガスを反応器から取り除くことができる。また、メタンガスなどの有機系ガスを注入すると炭素被服された金属ナノ粒子を合成することが出来る。
図2に、0.25gの炭素素材Ketjenblackを反応槽に入れ、制御されたマイクロ波照射を実施した場合のKetjenblackの測定された温度とマイクロ波照射出力の測定を示す。制御系の制御プログラムは常温から300℃まで2分で昇温し、300℃を5分間保持し、更に2分間で800℃まで昇温し、800℃を10間保持するとしている。測定されたKetjenblackの温度と制御温度とを比較すると非常に良く制御されたマイクロ波照射加熱になっていることが分かる。図2に示されている制御されたマイクロ波照射のマイクロ波発振出力の測定結果はマイクロ波出力は殆ど100W以下の出力で良いことが分かった。
(実施例2)
【0009】
炭素素材に坦持された白金ナノ粒子の合成(Pt/C)結果を示す。白金塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは白金塩にはビスアセチルアセトナート白金(II)Pt(II)(acac)2を、溶媒には0.5mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたPt/CのTEM像は図3に示されており、粒径3〜10nmの白金ナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された白金ナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図4(a)に示されている。測定されたXRDパターンのピークは図4(b)に示されているICDD(International Centre for Diffraction Data)に掲載されている白金の標準XRDパターンと正確に一致しており、合成された白金ナノ粒子は個体白金結晶構造と同様のfcc構造を有していることが分かる。 また、ピークの幅を用いたシェラーの方法から推測される白金ナノ粒子の平均粒径はTEM像観察から直接予想される白金ナノ粒子の粒径分布と対応していることが分かる。
(実施例3)
【0010】
炭素素材に坦持された鉄ナノ粒子の合成(Fe/C)結果を示す。鉄塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは鉄塩にはビスアセチルアセトナート鉄(II)Fe(II)(acac)2を、溶媒には1mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたFe/CのTEM像は図5に示されており、粒径は約10nmの鉄ナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された鉄ナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図6(a)に示されている。測定されたXRDパターンのピークは図6(b)に示されているfcc(γ−Fe)鉄の標準XRDパターンと図6(c)に示されているbcc(α−Fe)鉄の標準XRDパターンと正確に一致しており、合成された鉄ナノ粒子は個体鉄結晶構造と同様の結晶構造を有していることが分かる。また、ピークの幅はTEM像観察から予想される鉄ナノ粒子の粒径分布に起因していることが分かり、シェラーの方法から推測される鉄
結晶構造に由来するXRDパターンである。
(実施例4)
【0011】
炭素素材に坦持された白金鉄ナノ粒子の合成(PtFe/C)結果を示す。白金塩と鉄塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは白金塩にはビスアセチルアセトナート白金(II)Pt(II)(acac)2を、鉄塩にはアセチルアセトナート鉄(II)Fe(acac)2溶媒には0.5mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたFe/CのTEM像は図7に示されており、粒径3〜5nmの白金鉄ナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された白金鉄ナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図8に示されている。測定されたXRDパターンのピークは近年液相法(ポリオール法)で合成されているfct(L10)なる高い結晶性を有している白金
クはKetjenblack粉末の結晶構造に由来するXRDパターンである。
得られたPtFeナノ粒子の磁化測定結果を図9に示す。図9(a)はT=300Kで測定された磁気ヒステリシス曲線であり、磁気ナノ粒子特有の超常磁性を示している。
また、T=2Kでの磁気ヒステリシス曲線は図9(b)に示されており、低温領域では強磁性に転移していることが分かる。
(実施例5)
【0012】
炭素素材に坦持された白金ルテニウムナノ粒子の合成(PtRu/C)結果を示す。白金塩とルテニウム塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは白金塩にはビスアセチルアセトナート白金(II)Pt(II)(acac)2を、ルテニウム塩にはトリスアセチルアセトナートルテニウム(III)Ru(acac)3溶媒には0.5mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたFeRu/CのTEM像は図10に示されており、粒径5〜10nmの白金ルテニウムナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された白金ルテニュームナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図11(a)に示されている。測定されたXRDパターンのピークは図11(b)に示されているICDD(International Centre for Diffraction Data)に掲載されている炭素素材坦持されたPtRu/CのXRDパターンと正確に
の幅広いピークはKetjenblack粉末の結晶構造に由来するXRDパターンである。
(実施例6)
【0013】
実施例1のマイクロ波照射システムを使用し、N2,Ar,He,メタンガス雰囲気中の反応場にFe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh,PtRuなどの金属微粒子と炭素素材を挿入し、温度上昇が暴走しないように100W又は数100W以下の低出力で温度制御しながらマイクロ波を照射する。反応場の温度上昇は図2に示すように1000℃以上に上昇する。600℃〜1000℃までは希ガス雰囲気中でマイクロ波を照射し1000℃以上はメタンガス雰囲気中でマイクロ波を照射する。金属微粒子と炭素素材の反応場がガス雰囲気中で1000℃〜1200℃の温度に達したとき、金属微粒子に炭素の膜が蒸着し、合成の最適条件に温度が制御されていることから反応場によるプラズマ作用でスパッタリングすることなく高純度の金属微粒子内包フラーレン、及び単層カーボンナノチューブが合成できる。
(実施例7)
【0014】
炭化珪素又は酸化アルミニウムとマグネタイトの混合物をセラミックの内部塗布と1250℃で焼結した容器を作り、容器の外部からマイクロ波を照射し、実施例1,実施例2,実施例3,実施例4,実施例5、実施例6の実験を行った。その結果同様の効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
金属微粒子を担持または内包させたナノ炭素素材又は金属微粒子を使用したナノ炭素素材の合成は従来、CVD法、CCVD法、レーザーを使用してなされていた。いずれも大量生産が困難で温度が暴走し、高純度かつ高収率の合成は困難であった。また単にマイクロ波、超音波、X線の照射下によってナノ炭素素材、金属を内包、担持、または触媒とする方法、及び液相の中でマイクロ波を照射し金属を炭素素材に担持する方法は少数存在するが、最適の反応温度に制御されていない。本発明はマイクロ波を使用し、液相下での合成に必要とする処理及び精製を必要とせず、その反応場を10Wの低出力から数100Wの出力まで、モニターによる温度制御から最適の温度制御によって高純度良質の合成が可能である。燃料電池又は電池の材料である良質で安価なナノ炭素素材の大量生産が可能である。
更に、窒化膜を絶縁膜として利用したカーボンナノチューブの細線が、カーボンナノチューブの電子デバイス応用として、存在する。シリコンLSIの配線金属の代わりにカーボンナノチューブを利用する方法で、カーボンナノチューブは銅の1000倍の電流密度耐性、10倍の熱伝導率をもつという性質を利用する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に適用するマイクロ波照射システムと反応槽の概念図
【図2】 本発明に適用する制御されたマイクロ波照射による制御温度と測定温度の時間依存性
【図3】 本発明に適用する合成方法で合成されたPt/Cナノ粒子のTEM像
【図4】 本発明に適用する合成方法で合成されたPt/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図5】 本発明に適用する合成方法で合成されたFe/Cナノ粒子のTEM像
【図6】 本発明に適用する合成方法で合成されたFe/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図7】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtFe/Cナノ粒子のTEM像
【図8】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtFe/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図9】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtFe/Cナノ粒子の磁気ヒステリシス測定
【図10】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtRu/Cナノ粒子のTEM像
【図11】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtRu/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図12】 PtFe/Cナノ粒子のXRDパターンの仕込み量依存性
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素素材がマイクロ波を吸収し昇温することを活用して、低温度領域では金属ナノ粒子や触媒ナノ粒子合成の化学反応を促進し、反応槽を変更することなく高温度領域に昇温することにより、つまり後処理を実施することなく、合成されたナノ粒子を炭素素材に高効率で坦持させる方法である。
炭素材料に波長2.45GHzのマイクロ波を出力数百ワット(W)で照射すると、炭素材料全体が瞬時に爆発的に1000℃以上に昇温し、温度制御が困難である。金属ナノ粒子の合成では、一定温度を制御し、合成に必要な時間を維持すると、安定した生成ができる。素材の性質から一定の温度を制御するために微弱な出力のマイクロ波を照射し、そのマイクロ波加熱された素材の温度を測定して、モニターすることによりマイクロ波照射の出力を制御し、マイクロ波超高吸収発熱素材の近傍に化学反応に適した温度場を維持し生成する方法である。また、そのマイクロ波超高吸収発熱素材の近傍に生成に必要な温度場を炭素材料の自己発熱を活用して機能性ナノ粒子を生成させ、素材に坦持、内包させる。また金属微粒子を触媒とし、ナノ炭素材料を合成する方法である。
マイクロ波を金属酸化物に照射すると赤外線領域の波長に転換する。赤外線波長においても温度をモニターし温度制御すると金属微粒子を触媒とし、ナノ炭素材料を合成することができる。更に、反応槽を変更することなく、高温度領域まで昇温し、反応溶媒や副生成物を蒸散させ、生成物を精製することを可能し、合成されたナノ粒子を高収率で炭素素材に坦持・内包させる方法である。
【背景技術】
【0002】
炭素素材に高機能性を付加し、低価格で製造されることが望まれている。マイクロ波による合成はこれまでも報告されているが、一定の生成温度を制御し安定した合成ではなく、瞬時の偶発的生成であり連続的な生成が困難とされていた。その原因は、炭素素材に従来の数百ワット(W)の出力でマイクロ波を照射すると炭素材全体に連鎖発熱し、温度の制御が出来ずに暴発する、暴発の過程で偶然的に一部が高機能の構造やナノ粒子に合成されていた。
しかし、特許文献1に記載されているマイクロ波化学反応装置のマイクロ波発振機に連続出力制御マイクロ波発生器を用い、マイクロ波加熱された素材の温度をモニターし、自己発熱による連鎖発熱を制御するためのマイクロ波の出力を制御すると、素材近傍の温度を常温から1000℃程度までの広範囲に亘って制御出来ることを発見した。金属酸化物にマイクロ波を照射すると瞬時に高温で発熱する事は広く公知となっている。金属酸化物から輻射する赤外線領域の温度場を500℃〜1200℃間で温度をモニターし、自己発熱から連鎖発熱を制御しマイクロ波の出力を維持すると同じ効果が得られた。その結果安定した生成が可能になった。
従って、本発明が応用できる分野は多岐に亘ることになるが、その最も重要な分野は電気化学反応を応用した電池の材料になっている白金などの触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持した電極触媒材料に関する非特許文献1に示されている課題を解決することに繋がる。また、磁気記録の高密度化のための磁性ナノ粒子合成には飛躍的貢献をすることになる。更に金属を触媒として合成するナノ炭素素材、カーボンナノチューブ及び金属微粒子内包フラーレンを合成する方法に応用可能である。
【特許文献1】 特開2002−079078号公報
【非特許文献1】 P.J.Ferreira,G.J.la O’,Y.Shao−Horn,D.Morgan,R.Makharia,S.Kocha and H.A.Gasteiger,Journal of The Electrochemical Society,152(11)A2256−A2271(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来温度制御が困難であった炭素素材に波長2.45GHzのマイクロ波を照射しながら、一定の化学反応に適合した温度場を維持しながら炭素素材に機能性を高効率で付加しナノ粒子を合成する方法である。炭素素材及びマイクロ波超高吸収発熱素材は2.45GHzのマイクロ波を微弱な出力、約10W〜約800Wの間で連続的に出力を制御し、温度をモニターすることによって、暴発を回避でき素材の近傍に化学反応に最適な温度場を維持し機能性を付加し生成する方法を提供する。
炭素素材などに高機能性を付加することが求められているが、設備費及び製造価格が高く、連続的な製造機械の開発には産業化の課題になっていた。マイクロ波の発振器は設備費用が安く、広く普及している。 特に、炭素素材などのマイクロ波超高吸収発熱素材にマイクロ波を照射して、それらの素材に高機能性を付加することが望まれていたが、通常のマイクロ波照射方法では素材が連鎖発熱し制御し難く暴走的に加熱され、実用化が困難であった。しかし、特許文献1に記載されているマイクロ波化学反応装置に出力制御の連続マイクロ波発振器を用いると、マイクロ波加熱された素材の温度をモニターし、マイクロ波出力を柔軟に制御することが出来き、素材近傍の温度を常温から1400℃程度までの広範囲に亘って制御を可能にする方法を提供する。また、本発明が応用できる分野は多岐に亘ることになるが、その最も重要な分野は電気化学反応を応用した電池の材料になっている白金などの触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持に関する非特許文献1に示されている課題を解決することに繋がる方法を提供する。
更に従来カーボンナノチューブ、金属内包フラーレンなどのナノ炭素材料を合成するため、金属微粒子を触媒として、アーク放電法、CVD法、CCVD法などの合成法がある。合成による収率はアーク放電法では50%〜70%、CVD法は90%、CCVD法は90%である。触媒除去後の収率は約50%とされている。どの方法においても、5kW〜20kWの高出力によって生成させており、高出力の電力を必要とし施設費ともに高く、連続作業が困難で製造コストが高価である。
本発明は炭素材の自己発熱を抑制しながら生成させており、電力出力、施設費共に大幅に軽減できる。更に、本発明の方法では図12に示されている炭素に坦持されたPtFeナノ粒子(PtFe/C)のXRDパターン測定で、2θが20°〜30°の間にあるカーボン(ケッチェンブラック)のピークを基準にして仕込み坦持量5wt%のPtFe/CのXRDパターンと仕込み坦持量20wt%のPtFe/CのXRDパターンの比較において、2θが約40°のPtFeナノ結晶ピーク(111)などのXRDパターンピークが坦持量に比例して4倍になっていることが測定されたので、本発見の方法は収率が100%であることを確認した。また、坦持量5wt%のPtFe/Cと20wt%のPtFe/CのXRDパターンの全てのピーク巾が坦持量には依存せず、シェラーの方法で評価出来るナノ微粒子サイズとTEM像で観察されているナノ微粒子サイズが完全に対応しているので、広範囲にわたる坦持量に対して安定な炭素坦持金属ナノ粒子を高効率で合成出来ることが立証された。
既にカーボンナノチーブは自動車用燃料電池の燃料となる水素の吸蔵材料に使用されており、実体は5kgの水素が自動車走行用に必要とし 吸着量が10wt%とするとカーボンナノチューブが50kg必要である。カーボンナノチューブのコストが現状で1万円/kgとすると車一台当たり50万円となり、車一台あたり50万円の燃料タンクのコストがかかる。工業化するためには通常1000円〜2000円/kgのコストが必要である。
汎用樹脂とのナノコンポジットのためにカーボンナノチューブを使用するためには数千円/kgのコストが必要である。カーボンナノチューブのコストを下げるためには、炭素源あたりの収率を上げるだけでなく触媒当たりの収率を高くすること、カーボンナノチューブの純度を上げること、簡単な設備にすること、時間当たりの生産量をあげる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、[特許文献1]に記載されているマイクロ波化学反応装置のマイクロ波発生器に連続出力制御マイクロ波発振器を用いる方法であり、また反応槽をより高性能化する方法である。
同じく請求項2に記載された発明は、マイクロ波を吸収しにくい通常の化学反応をマイクロ波加熱で化学反応を促進可能にする方法である。
請求項3に記載された発明は、金属酸化物にマイクロ波を照射し波長転換から赤外線の波長を輻射し
マイクロ波の出力を制御し、請求項1の反応槽をより高性能化する方法である。
請求項4に記載された発明は、反応槽を取り換えることなく、マイクロ波加熱で得られた合成物と溶媒や副生成物を分離・精製する方法を提供する。
請求項5は請求項4に記載されている合成物と溶媒や副生成物を分離・精製する時、合成物がマイクロ波超高吸収発熱素材表面に坦持、内包する場合があり、それを利用すると素材に坦持、内包された良質のナノ粒子を得る方法を提供する。
請求項6は請求項5に記載されている方法を炭素素材に種々の金属または合金を坦持し内包し、炭素素材を高機能化する方法、更に、金属微粒子を触媒としてカーボンナノチューブを合成する方法を提供する。
請求項7と請求項8は請求項4に記載されている方法を磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持、内包する方法を提供する。
請求項9は反応槽にメタンなど有機系ガスを流入させることにより、請求項7と8で記載されている方法で合成された磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子に炭素を被服させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、マイクロ波超高吸収素材にマイクロ波を照射し素材の表面に生成される温度場を利用して種々の化学反応を促進し、通常の化学反応では合成し難い反応物を合成することを可能にする。また、反応温度を制御し、高純度かつ良質のナノ炭素素材を高収率で大量生産することが可能である。炭素素材に良質のナノ粒子を坦持、内包させることが可能になり、更に、金属微粒子を触媒として、ナノ炭素材料を合成することができる。従来のナノ炭素素材の合成方法である。アーク放電法、CVD法、CCVD法では5kW〜20kWの出力を必要とし、収率はそれぞれアーク放電法は50%〜70%、CVD法は90%、CCVD法は90%である。この方法は触媒当たりの収率は約50%と悪く、本発明は触媒当たりの収率も改善された。生成に必要とするエネルギー出力は200W以下で約1/25であり、収率は炭素源当たりと触媒あたり共に約100%である。本発明の産業界に及ぼす波及効果は多大であることが期待出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明はナノ粒子合成の前駆体を炭素素材に混合させ、マイクロ波を照射し、ナノ金属微粒子、磁性微粒子を炭素素材に坦持、内包させ、炭素素材及び、ナノ炭素素材を高機能化することである。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
【0008】
本発明を実施するために用いたマイクロ波照射システムと反応槽の概念図を断面図で図1に示す。ここに示す導波管の断面図は周波数2.45GHzのマイクロ波H01モード導波管である。H01モード導波管のH面(上面)中央部に直径約2cmの円形孔を開け、反応槽である石英製試験管をその円形孔に挿入してマイクロ波を照射する。試験管の周辺に、導波管にテーパーを付加し反応容器周辺のマイクロ波の密度を高密度にしている。また、導波管の終端は短絡器を設置し、マイクロ波を定在波として用いている。
反応槽である試験管の反応場に外径4mm程度のパイレックス製または石英製細径ガラス管に挿入したアルメルクロメル熱電対または白金ロジウム熱電対を直接差し込み、反応場の温度を測定した。その測定された温度をモニターした制御系で連続的にマイクロ波出力を制御した。このことでプログラムによる温度制御マイクロ波照射が可能である。熱電対はE面に対して垂直なので熱電対からのマイクロ波漏れが理想的には無くなる。更に反応場内に内径約1mmのパイレックス製または石英製ガラス管を直接挿入し、そこからN2やArなどの希ガスを反応場に直接注入することができるように設計している。この反応装置により反応場を不活性ガス雰囲気にすることができ、金属酸化物生成の酸化を防ぐことができる。また反応容器の上部と下部を連結しているテフロンジョイント(コネクター)には小さな孔を幾つか開けているので、上部で吸引しておくと反応槽からの余分な蒸散ガスを反応器から取り除くことができる。また、メタンガスなどの有機系ガスを注入すると炭素被服された金属ナノ粒子を合成することが出来る。
図2に、0.25gの炭素素材Ketjenblackを反応槽に入れ、制御されたマイクロ波照射を実施した場合のKetjenblackの測定された温度とマイクロ波照射出力の測定を示す。制御系の制御プログラムは常温から300℃まで2分で昇温し、300℃を5分間保持し、更に2分間で800℃まで昇温し、800℃を10間保持するとしている。測定されたKetjenblackの温度と制御温度とを比較すると非常に良く制御されたマイクロ波照射加熱になっていることが分かる。図2に示されている制御されたマイクロ波照射のマイクロ波発振出力の測定結果はマイクロ波出力は殆ど100W以下の出力で良いことが分かった。
(実施例2)
【0009】
炭素素材に坦持された白金ナノ粒子の合成(Pt/C)結果を示す。白金塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは白金塩にはビスアセチルアセトナート白金(II)Pt(II)(acac)2を、溶媒には0.5mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたPt/CのTEM像は図3に示されており、粒径3〜10nmの白金ナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された白金ナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図4(a)に示されている。測定されたXRDパターンのピークは図4(b)に示されているICDD(International Centre for Diffraction Data)に掲載されている白金の標準XRDパターンと正確に一致しており、合成された白金ナノ粒子は個体白金結晶構造と同様のfcc構造を有していることが分かる。 また、ピークの幅を用いたシェラーの方法から推測される白金ナノ粒子の平均粒径はTEM像観察から直接予想される白金ナノ粒子の粒径分布と対応していることが分かる。
(実施例3)
【0010】
炭素素材に坦持された鉄ナノ粒子の合成(Fe/C)結果を示す。鉄塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは鉄塩にはビスアセチルアセトナート鉄(II)Fe(II)(acac)2を、溶媒には1mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたFe/CのTEM像は図5に示されており、粒径は約10nmの鉄ナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された鉄ナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図6(a)に示されている。測定されたXRDパターンのピークは図6(b)に示されているfcc(γ−Fe)鉄の標準XRDパターンと図6(c)に示されているbcc(α−Fe)鉄の標準XRDパターンと正確に一致しており、合成された鉄ナノ粒子は個体鉄結晶構造と同様の結晶構造を有していることが分かる。また、ピークの幅はTEM像観察から予想される鉄ナノ粒子の粒径分布に起因していることが分かり、シェラーの方法から推測される鉄
結晶構造に由来するXRDパターンである。
(実施例4)
【0011】
炭素素材に坦持された白金鉄ナノ粒子の合成(PtFe/C)結果を示す。白金塩と鉄塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは白金塩にはビスアセチルアセトナート白金(II)Pt(II)(acac)2を、鉄塩にはアセチルアセトナート鉄(II)Fe(acac)2溶媒には0.5mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたFe/CのTEM像は図7に示されており、粒径3〜5nmの白金鉄ナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された白金鉄ナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図8に示されている。測定されたXRDパターンのピークは近年液相法(ポリオール法)で合成されているfct(L10)なる高い結晶性を有している白金
クはKetjenblack粉末の結晶構造に由来するXRDパターンである。
得られたPtFeナノ粒子の磁化測定結果を図9に示す。図9(a)はT=300Kで測定された磁気ヒステリシス曲線であり、磁気ナノ粒子特有の超常磁性を示している。
また、T=2Kでの磁気ヒステリシス曲線は図9(b)に示されており、低温領域では強磁性に転移していることが分かる。
(実施例5)
【0012】
炭素素材に坦持された白金ルテニウムナノ粒子の合成(PtRu/C)結果を示す。白金塩とルテニウム塩を溶媒に溶解・分散させた混合液を炭素素材と混ぜ合わせ、実施例1に示しているマイクロ波照射方法で600℃まで昇温速度1℃/sで昇温し、600℃で5分間保持させた。ここでは白金塩にはビスアセチルアセトナート白金(II)Pt(II)(acac)2を、ルテニウム塩にはトリスアセチルアセトナートルテニウム(III)Ru(acac)3溶媒には0.5mlのテトラエチレングリコール(TEG)を、炭素素材には0.25gのKetjenblack粉末を用いた場合の結果を示す。
得られたFeRu/CのTEM像は図10に示されており、粒径5〜10nmの白金ルテニウムナノ粒子が炭素素材上に一様に分散して坦持されている様子が確認できる。合成された白金ルテニュームナノ粒子に関す測定されたXRDパターンは図11(a)に示されている。測定されたXRDパターンのピークは図11(b)に示されているICDD(International Centre for Diffraction Data)に掲載されている炭素素材坦持されたPtRu/CのXRDパターンと正確に
の幅広いピークはKetjenblack粉末の結晶構造に由来するXRDパターンである。
(実施例6)
【0013】
実施例1のマイクロ波照射システムを使用し、N2,Ar,He,メタンガス雰囲気中の反応場にFe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh,PtRuなどの金属微粒子と炭素素材を挿入し、温度上昇が暴走しないように100W又は数100W以下の低出力で温度制御しながらマイクロ波を照射する。反応場の温度上昇は図2に示すように1000℃以上に上昇する。600℃〜1000℃までは希ガス雰囲気中でマイクロ波を照射し1000℃以上はメタンガス雰囲気中でマイクロ波を照射する。金属微粒子と炭素素材の反応場がガス雰囲気中で1000℃〜1200℃の温度に達したとき、金属微粒子に炭素の膜が蒸着し、合成の最適条件に温度が制御されていることから反応場によるプラズマ作用でスパッタリングすることなく高純度の金属微粒子内包フラーレン、及び単層カーボンナノチューブが合成できる。
(実施例7)
【0014】
炭化珪素又は酸化アルミニウムとマグネタイトの混合物をセラミックの内部塗布と1250℃で焼結した容器を作り、容器の外部からマイクロ波を照射し、実施例1,実施例2,実施例3,実施例4,実施例5、実施例6の実験を行った。その結果同様の効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
金属微粒子を担持または内包させたナノ炭素素材又は金属微粒子を使用したナノ炭素素材の合成は従来、CVD法、CCVD法、レーザーを使用してなされていた。いずれも大量生産が困難で温度が暴走し、高純度かつ高収率の合成は困難であった。また単にマイクロ波、超音波、X線の照射下によってナノ炭素素材、金属を内包、担持、または触媒とする方法、及び液相の中でマイクロ波を照射し金属を炭素素材に担持する方法は少数存在するが、最適の反応温度に制御されていない。本発明はマイクロ波を使用し、液相下での合成に必要とする処理及び精製を必要とせず、その反応場を10Wの低出力から数100Wの出力まで、モニターによる温度制御から最適の温度制御によって高純度良質の合成が可能である。燃料電池又は電池の材料である良質で安価なナノ炭素素材の大量生産が可能である。
更に、窒化膜を絶縁膜として利用したカーボンナノチューブの細線が、カーボンナノチューブの電子デバイス応用として、存在する。シリコンLSIの配線金属の代わりにカーボンナノチューブを利用する方法で、カーボンナノチューブは銅の1000倍の電流密度耐性、10倍の熱伝導率をもつという性質を利用する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に適用するマイクロ波照射システムと反応槽の概念図
【図2】 本発明に適用する制御されたマイクロ波照射による制御温度と測定温度の時間依存性
【図3】 本発明に適用する合成方法で合成されたPt/Cナノ粒子のTEM像
【図4】 本発明に適用する合成方法で合成されたPt/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図5】 本発明に適用する合成方法で合成されたFe/Cナノ粒子のTEM像
【図6】 本発明に適用する合成方法で合成されたFe/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図7】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtFe/Cナノ粒子のTEM像
【図8】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtFe/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図9】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtFe/Cナノ粒子の磁気ヒステリシス測定
【図10】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtRu/Cナノ粒子のTEM像
【図11】 本発明に適用する合成方法で合成されたPtRu/Cナノ粒子のXRD測定パターン
【図12】 PtFe/Cナノ粒子のXRDパターンの仕込み量依存性
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波超高吸収発熱素材(マイクロ波を非常に良く吸収し、制御し難く急激に発熱する素材)に、温度測定・出力制御されたマイクロ波を照射して、素材表面に常温から超高温に亘る制御された温度場を迅速に生成させる方法。
【請求項2】
前記請求項に記載した方法で生成された温度場を反応場とした化学反応を素材表面で促進させ、迅速に合成物を生成させるマイクロ波照射による化学反応合成方法。
【請求項3】
マイクロ波の波長を金属酸化物に照射し、波長転換させ輻射する波長を赤外線波長によって、請求項1の温度場を反応場として化学反応を素材表面で促進させ、合成物を生成する方法
【請求項4】
請求項1と請求項2を実現させるマクロ波照射化学反応槽を変更することなく、マイクロ波出力をより高出力にすることにより、前記請求項2で生成された合成物質以外の副生成物や溶媒を迅速に分解・蒸散させ、合成物質を精製する方法。
【請求項5】
請求項2で記載されている方法で合成された生成物を請求項3で記載されている方法で精製し、それをマイクロ波吸収発熱素材表面に坦持、内包させる方法。
【請求項6】
請求項4に記載されている方法で、マイクロ波超高吸収発熱素材が活性炭素繊維、Vulcan、Ketjenblack,CNT(カーボンナノチューブ)などの炭素素材である場合、磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持させる方法及び磁性ナノ粒子や金属ナノ粒子を炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンに内包させる方法及び触媒活性ナノ粒子を用いて単層カーボンナノチューブを合成する方法。
【請求項7】
請求項5で記載されている方法で金属塩を前駆体に用いたFe,PtFe,SmCo5等の磁性ナノ粒子を合成する方法。
【請求項8】
請求項5で記載されている方法で金属塩を前駆体に用いたPt,PtFe,PtRu等の触媒活性ナノ粒子を合成する方法。
【請求項9】
請求項7と請求項8で記載されている磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子に炭素被服させる方法。
【請求項1】
マイクロ波超高吸収発熱素材(マイクロ波を非常に良く吸収し、制御し難く急激に発熱する素材)に、温度測定・出力制御されたマイクロ波を照射して、素材表面に常温から超高温に亘る制御された温度場を迅速に生成させる方法。
【請求項2】
前記請求項に記載した方法で生成された温度場を反応場とした化学反応を素材表面で促進させ、迅速に合成物を生成させるマイクロ波照射による化学反応合成方法。
【請求項3】
マイクロ波の波長を金属酸化物に照射し、波長転換させ輻射する波長を赤外線波長によって、請求項1の温度場を反応場として化学反応を素材表面で促進させ、合成物を生成する方法
【請求項4】
請求項1と請求項2を実現させるマクロ波照射化学反応槽を変更することなく、マイクロ波出力をより高出力にすることにより、前記請求項2で生成された合成物質以外の副生成物や溶媒を迅速に分解・蒸散させ、合成物質を精製する方法。
【請求項5】
請求項2で記載されている方法で合成された生成物を請求項3で記載されている方法で精製し、それをマイクロ波吸収発熱素材表面に坦持、内包させる方法。
【請求項6】
請求項4に記載されている方法で、マイクロ波超高吸収発熱素材が活性炭素繊維、Vulcan、Ketjenblack,CNT(カーボンナノチューブ)などの炭素素材である場合、磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子を炭素素材に坦持させる方法及び磁性ナノ粒子や金属ナノ粒子を炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンに内包させる方法及び触媒活性ナノ粒子を用いて単層カーボンナノチューブを合成する方法。
【請求項7】
請求項5で記載されている方法で金属塩を前駆体に用いたFe,PtFe,SmCo5等の磁性ナノ粒子を合成する方法。
【請求項8】
請求項5で記載されている方法で金属塩を前駆体に用いたPt,PtFe,PtRu等の触媒活性ナノ粒子を合成する方法。
【請求項9】
請求項7と請求項8で記載されている磁性ナノ粒子や触媒活性ナノ粒子に炭素被服させる方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−273807(P2008−273807A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144138(P2007−144138)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
2.テフロン
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(599106204)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
2.テフロン
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(599106204)
【Fターム(参考)】
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