説明

マスキング部材脱着構造

【課題】主に、マスキング部材に付着した塗膜やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止し得るようにする。
【解決手段】樹脂成形品を成形可能な樹脂成形金型21の成形面22に対し、成形前に予め塗装による部分的な塗膜24を形成する際に、成形面22の非塗装部分26へマスキング部材27が取付けられると共に、マスキング部材27に対して、塗装後にマスキング部材27のほぼ全面を覆うように被着することにより、マスキング部材27の成形面22からの取外時に、マスキング部材27に付着した塗膜24やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止可能な脱着治具本体31が設けられるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マスキング部材脱着構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、各種の樹脂成形品が用いられている。このような樹脂成形品は、通常、樹脂成形金型内に樹脂原料を注入して硬化(固形化)させることにより成形されている。このような樹脂成形には、樹脂原料として溶融した樹脂を用いる一般的な射出成形や、樹脂原料として2種類のモノマーを用いるRIM成形などが存在している。ここで、RIM成形は、要するに、樹脂成形金型内に2種類のモノマーを混合注入して、注入した2種類のモノマーに樹脂成形金型内で重合反応や発泡などを起こさせるようにしたもの(いわゆる反応射出成形)である。
【0003】
また、このような樹脂成形品には、表面に塗装が施されたものが存在している。樹脂成形品の表面に塗装を施す場合、樹脂成形金型から脱型された樹脂成形品の表面に対して、後工程で塗装を施すようにするのが一般的であるが、内部に予め(塗装による)塗膜を形成した樹脂成形金型に対し樹脂原料を注入して、樹脂成形品と塗膜とを一体化させることにより、樹脂成形品の表面に塗装を施した状態にする、いわゆるインモールドコートによるものも存在している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、樹脂成形品の表面に後工程で塗装を施す場合に、塗装を施さない部分、即ち、非塗装部分などに対してマスキング部材を用いることなども行われている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平07−256695号公報
【特許文献2】特許第3468490号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インモールドコートによって、表面に塗装を有する樹脂成形品を成形する場合には、以下のような問題があった。
【0006】
即ち、例えば、図3に示すように、樹脂成形金型1(キャビティ型)の内部(樹脂成形品の表面となる成形面2)に予め塗装を施す(製品塗膜3を形成する)際に、成形面2を塗装部分4と非塗装部分5とに分ける必要がある場合には、非塗装部分5をマスキング部材6を用いてマスキングしておくなどの必要がある。
【0007】
この際、塗装部分4と非塗装部分5との境界線7(見切ライン)をきれいに仕上げる(樹脂成形品の品質や意匠性を向上させる)ためには、マスキングの境界面を狙って塗装を行う必要があり、その結果、マスキング部材6に対して塗料やミストなどの不要塗膜等8が付着するのを避けることができない。
【0008】
そのため、図4に示すように、マスキング部材6を樹脂成形金型1から取外す際に、マスキング部材6に付着した不要塗膜等8の破片等9が剥がれ落ちて、樹脂成形金型1内(非塗装部分5など)に落下してしまい、図5から分かるように、その破片等9が、完成した樹脂成形品の表面に現れて、外観不良を引起こすおそれがあるという問題がある。
【0009】
これに対し、上記した破片等9による外観不良の部分を、後塗装などによって部分的に修正することなども考えられるが、修正作業に手間と時間がかかると共に、樹脂成形品の表面に絞模様などの表面模様(微細な凹凸形状)がある場合には、修正用の塗料によって絞模様が埋ってしまうため、樹脂成形品の商品性が低下するという問題も発生する。
【0010】
なお、上記した非塗装部分5については、全く塗装を行わないでおくことにより、樹脂成形品を一色部分塗装を有するものとすることや、図5に示すように、別の色の塗装(他の製品塗膜11)を行うことにより、樹脂成形品を二色以上の多色塗装を有するものとすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、樹脂成形金型の成形面に対し、成形前に予め部分的な塗膜を形成する際に、成形面の非塗装部分へマスキング部材が取付けられると共に、該マスキング部材に対して、塗装後にマスキング部材を覆うように被着することにより、マスキング部材の成形面からの取外時に、マスキング部材に付着した塗膜やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止可能な脱着治具本体が設けられたマスキング部材脱着構造を特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂成形金型の成形面の非塗装部分へマスキング部材を取付け、その後、樹脂成形金型の成形面を部分的に塗装して、成形面に部分的な塗膜を形成する。こうして、部分的な塗膜が形成された樹脂成形金型を用いて成形を行うことにより、塗膜が一体化された樹脂成形品を得るようにする。この際、成形面に部分的な塗膜を形成してから成形を行うまでの間に、マスキング部材に対し、マスキング部材を覆うように脱着治具本体を被着し、この状態で、脱着治具本体ごとマスキング部材を樹脂成形金型から取外すようにすることにより、マスキング部材に付着した塗膜やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止することができるようになる。これにより、上記した破片等による外観不良の部分を、後塗装などによって部分的に修正する必要をなくすことができて、修正作業に手間と時間を削減する事が可能となると共に、樹脂成形品の表面に絞模様などの表面模様(微細な凹凸形状)がある場合に、修正用の塗料によって絞模様が埋ってしまうことが防止でき、商品性の低下を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、主に、マスキング部材に付着した塗膜やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止することを目的としている。
【0014】
以下、本発明を具体化した実施例について、図示例と共に説明する。
【実施例】
【0015】
図1、図2は、この発明の実施例およびその変形例を示すものである。
【0016】
<基本部分の説明>まず、基本部分について説明する。
【0017】
自動車などの車両に用いる樹脂成形品を製造する。この樹脂成形品は、樹脂成形金型内に樹脂原料を注入して硬化(固形化)させることにより成形する。このような樹脂成形には、樹脂原料として溶融した樹脂を用いる一般的な射出成形や、樹脂原料として2種類のモノマーを用いるRIM成形などを用いる。この場合には、RIM成形の例としている。
【0018】
ここで、RIM成形は、要するに、樹脂成形金型内に2種類のモノマーを混合注入して、注入した2種類のモノマーに樹脂成形金型内で重合反応や発泡などを起こさせるようにしたもの(いわゆる反応射出成形)である。2種類のモノマーには、例えば、ポリオールと、イソシアネートとが用いられる。2種類のモノマーの混合注入には、高圧で(完全)混合可能な、特殊なミキシングヘッドなどが用いられる。
【0019】
そして、この樹脂成形品の表面に、塗装を施すようにする。この場合、内部に予め(塗装による)塗膜を形成した樹脂成形金型に対し樹脂原料を注入して、樹脂成形品と塗膜とを一体化させることにより、樹脂成形品の表面に塗装を施した状態にする、いわゆるインモールドコートを採用している。
【0020】
塗装には、有機溶剤系塗料と水系塗料とを用いることができるが、この場合、環境対策として、水系塗料を用いるようにしている。なお、水系塗料は、有機溶剤系塗料と比較して乾燥時間が長くなるという性質を有している。水系塗料には、好ましくは、水系2液ウレタン塗料などが用いられる。
【0021】
<構成>そして、以上のような基本部分に対し、この実施例のものでは、以下のような構成を備えるようにしている。
【0022】
(1)図1に示すように、樹脂成形品を成形可能な樹脂成形金型21の成形面22に対して、成形前に予め塗装による部分的(塗装部分23)な塗膜24(製品塗膜25)を形成する際に、成形面22の非塗装部分26へマスキング部材27が取付けられる。このマスキング部材27に対して、塗装後にマスキング部材27の(塗膜付着面28の)を覆うように被着することにより、マスキング部材27の成形面22からの取外時に、マスキング部材27に付着した塗膜24(不要塗膜29)やミストなどの破片等(不要塗膜29等)の剥がれ落ちを防止可能な脱着治具本体31が設けられる。
【0023】
この場合、樹脂成形金型21は、コア型と、キャビティ型とのうちの、キャビティ型とされている。そして、樹脂成形金型21の成形面22は、樹脂成形品の表面となる面(成品面)とされる。マスキング部材27は、非塗装部分26のほぼ全面、または、非塗装部分26の主要部分に密接可能な密接部32と、この密接部32を覆うように取付けられた覆状部33とで、主に構成されている。この密接部32は、非塗装部分26の形状に合せた側面視ほぼ凹形状とされており、また、覆状部33は、側面視ほぼ凸形状とされている。密接部32と覆状部33とは、内部に空洞部34を有してその周縁部間を接合されることにより一体化されている。また、成形面22における、塗装部分23と非塗装部分26との境界線35(見切ライン)の部分は、突出形状を有している(突出形状部36)。そして、脱着治具本体31は、少なくとも、マスキング部材27の不要塗膜29等の部分を覆い得るものとする。但し、脱着治具本体31は、マスキング部材27の(塗膜付着面28の)ほぼ全面を覆い得るようなものとするのが、完全性を期する上では、最も好ましい。
【0024】
(2)上記において、脱着治具本体31が、マスキング部材27に対して真空吸着可能な真空吸着機構37を備えるようにする。
【0025】
(3)上記において、真空吸着機構37が、脱着治具本体31に設けられて、脱着治具本体31とマスキング部材27との間に密閉空間38を形成可能な吸着用凹形状部39と、吸着用凹形状部39を有する脱着治具本体31の周縁部に設けられて、マスキング部材27の周縁部に対するシールが可能なシール手段41と、脱着治具本体31に設けられて、密閉空間38内の空気を真空吸引することによって脱着治具本体31をマスキング部材27に吸着可能な真空吸引手段42とを備えるようにする。
【0026】
この場合、脱着治具本体31は、側面視でマスキング部材27の(塗膜付着面28の)ほぼ全体に亘る大きさの吸着用凹形状部39とされている。シール手段41は、シール性を向上可能な、クッション性のあるものなどとされている。真空吸引手段42には、真空ポンプなどが用いられる。真空吸引手段42は、脱着治具本体31に対し直接取付けるようにしても、脱着治具本体31に対し間接的に取付けるようにしても良い。真空吸引手段42を間接的に設けるようにする場合には、外部に設けられた真空吸引手段42を、真空配管43を介して脱着治具本体31に接続させるようにする。真空配管43と脱着治具本体31との間には、簡便に着脱可能なワンタッチジョイントなどを設けることができる。ここでは、脱着治具本体31の軽量化のために、真空吸引手段42は外部に設けるようにしている。
【0027】
(4)上記において、マスキング部材27を保持可能なクランプ機構45が備えられる。このクランプ機構45が、同時に、脱着治具本体31を保持可能に構成される。
【0028】
この場合、マスキング部材27には、その上面から、ほぼ上方へ向けて延びる短棒状の被保持部46が突設(立設)されている。そして、クランプ機構45は、この短棒状の被保持部46に外嵌した状態で把持可能なクランプ部47を有している。このクランプ部47は、図示しないロボットアームなどの可動装置によって操作および移動し得るように構成されている。
【0029】
そして、被保持部46をクランプ部47で把持することにより、マスキング部材27を単独で取扱う(着脱および搬送する)ことが可能とされている。
【0030】
また、脱着治具本体31には、マスキング部材27に嵌着した時に被保持部46と対応する位置に、被保持部46を貫通可能な貫通孔51が形成されている。この貫通孔51の周囲には、上記と同様のシール手段52が取付けられている。これに対し、クランプ部47には、マスキング部材27に嵌着された脱着治具本体31における貫通孔51またはシール手段52の周辺部分に対して当接、押圧可能な当面部53が設けられている。
【0031】
そして、マスキング部材27に脱着治具本体31が被着された状態で、貫通孔51から突出された被保持部46をクランプ部47で把持し、脱着治具本体31における貫通孔51またはシール手段52の周辺部分に当面部53を当接および押圧させることにより、クランプ機構45によって、マスキング部材27と脱着治具本体31とを同時に取扱う(着脱および搬送する)ことが可能とされている。
【0032】
更に、脱着治具本体31には、クランプ部47によって直接把持可能な把持部が設けられている。
【0033】
そして、クランプ部47で把持部を直接把持することにより、クランプ機構45によって脱着治具本体31を単独で取扱う(着脱および搬送する)ことが可能とされている。
【0034】
(5)上記において、脱着治具本体31に対し、マスキング部材27に形成された塗膜24の乾燥を促進可能な温度調節手段61が設けられる。
【0035】
(6)上記において、温度調節手段61は、電気ヒータ機構62としても良い。
【0036】
電気ヒータ機構62は、例えば、脱着治具本体31の内面全体に亘って配設されたヒータ線などとすることができる。
【0037】
(7)上記において、温度調節手段61は、温度調節用媒体63を流通可能な温度調節用媒体流路64としても良い。
【0038】
温度調節用媒体63には、エア(温風)や水(温水)などを用いることができる。ここでは、エアを用いるようにする。温度調節用媒体流路64は、例えば、脱着治具本体31の内面全体に亘って配設させるようにする。温度調節用媒体63は、図示しない外部の温度調節用媒体供給源から供給されるようにする。
【0039】
(8)上記において、脱着治具本体31(の内部)に、マスキング部材27に付着している塗膜24(不要塗膜29)などを剥離可能なマスキング部材洗浄手段66が設けられる。
【0040】
ここで、付着している塗膜24(不要塗膜29)などを、マスキング部材洗浄手段66によって容易に剥離し得るようにするために、マスキング部材27は、塗膜24(不要塗膜29)が定着し難い材質で構成するのが好ましい。或いは、マスキング部材27は、その表面(塗膜付着面28)に、塗膜24(不要塗膜29)が定着し難くなるような表面処理などを施すようにするのが好ましい。
【0041】
(9)上記において、図2に示すように、マスキング部材洗浄手段66は、マスキング部材27(の塗膜付着面28)へ向けて高圧のエア67(洗浄用エア)を噴射する高圧エア吹出手段68としても良い。
【0042】
高圧エア吹出手段68は、例えば、高圧エアノズル71と、高圧エア配管72とを備えている。高圧エア配管72は、専用のものとしても良いし、上記した温度調節用媒体流路64を利用するようにしても良い。
【0043】
(10)上記において、高圧エア吹出手段68は、噴射する(高圧の)エア67の圧力を調整可能な圧力調整機構73を備えるようにしても良い。
【0044】
この圧力調整機構73は、例えば、高圧のエア67の供給源74や高圧エア配管72の途中などに取付けるようにすることができる。この場合、高圧のエア67の供給源74は、外部に設けられている。
【0045】
(11)上記において、高圧エア吹出手段68は、(高圧の)エア67の吹出位置を調整可能な吹出位置調整機構75を備えるようにしても良い。
【0046】
この場合、例えば、先ず、脱着治具本体31の内部を複数のエリアに分けると共に、各エリアに対して、それぞれ独立した系統の高圧エア吹出手段68(68a,68b,68c・・・)を設けるようにする。そして、各系統の高圧エア吹出手段68(68a,68b,68c・・・)に対し、その上流側にそれぞれ電磁開閉弁76を設け、吹出位置調整用制御装置77からの指令信号で各電磁開閉弁76を適宜開閉させることによって、各系統の高圧エア吹出手段68を選択的に作動し得るようなものなどとする。
【0047】
<作用>次に、この実施例の作用について説明する。
【0048】
インモールドコートによって、表面に塗装を有する樹脂成形品を成形する場合、先ず、図1に示すように、樹脂成形金型21(キャビティ型)の内部(樹脂成形品の表面となる成形面22)に予め塗装を施す(製品塗膜25を形成する)ようにする。この際、成形面22を塗装部分23と非塗装部分26とに分ける必要がある場合には、非塗装部分26をマスキング部材27を用いてマスキングしておく。
【0049】
そして、成形面22の塗装部分23に対して、塗装を施すようにする。
【0050】
この際、塗装部分23と非塗装部分26との境界線35(見切ライン)をきれいに仕上げる(樹脂成形品の品質や意匠性を向上させる)ために、マスキングの境界面を狙って塗装を行うようにする。その結果、マスキング部材27に対して塗料やミストなどの不要塗膜29等が付着されることになる。
【0051】
そして、塗装が乾燥した後に、マスキング部材27を取外す。この実施例では、非塗装部分26からマスキング部材27を取外す際に、特に、脱着治具本体31を用いるようにする。
【0052】
ここで、特に必要がない場合には、成形面22のマスキング部材27が取外された部分(非塗装部分26)をそのままにしておくようにする。または、必要がある場合には、上記非塗装部分26に対して、別の色(二色目の色)の塗装を施すようにする。或いは、上記非塗装部分26を、更に、別の塗装部分23と非塗装部分26とに分け、同様の構成を有する別の(小型の)マスキング部材27を用いて、上記と同様に塗装を行い、三色以上の色の塗装を施すようにしても良い。
【0053】
そして、二色目以上の塗装を行った場合などに、全ての塗装が乾燥したら、樹脂成形金型21を型締めし、樹脂成形金型21内に樹脂原料を注入して硬化(固形化)させることにより、表面に予め塗装が施された樹脂成形品を成形する。
【0054】
この実施例では、樹脂成形金型21内に、ポリオールと、イソシアネートとの2種類のモノマーを特殊なミキシングヘッドなどを用いて高圧で(完全)混合注入して、注入した2種類のモノマーに重合反応や発泡などを起こさせるようにしたRIM成形(いわゆる反応射出成形)を行うようにしている。
【0055】
なお、上記した非塗装部分26に対し、全く塗装を行わない場合には、得られる樹脂成形品は一色部分塗装を有するものとなり、別の色の塗装を行った場合には、得られる樹脂成形品は二色以上の多色塗装を有するものとなる。
【0056】
そして、この実施例によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
【0057】
(1)樹脂成形品を成形可能な樹脂成形金型21の成形面22に対し、成形前に予め塗装による部分的(塗装部分23)な塗膜24を形成する際に、成形面22の非塗装部分26へマスキング部材27が取付けられると共に、マスキング部材27に対して、塗装後にマスキング部材27の(塗膜付着面28の)ほぼ全面を覆うように被着することにより、マスキング部材27の成形面22からの取外時に、マスキング部材27に付着した塗膜24やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止可能な脱着治具本体31が設けられたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0058】
即ち、樹脂成形金型21の成形面22の非塗装部分26へマスキング部材27を取付け、その後、樹脂成形金型21の成形面22を部分的に塗装して、成形面22(の塗装部分23)に部分的な塗膜24を形成する。こうして、部分的な塗膜24が形成された樹脂成形金型21を用いて成形を行うことにより、塗膜24が一体化された樹脂成形品を得るようにする。この際、成形面22に部分的な塗膜24を形成してから成形を行うまでの間に、マスキング部材27に対し、マスキング部材27(の塗膜付着面28)のほぼ全面を覆うように脱着治具本体31を被着し、この状態で、脱着治具本体31ごとマスキング部材27を樹脂成形金型21から取外すようにすることにより、マスキング部材27(の塗膜付着面28)に付着した塗膜24やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止することができるようになる。これにより、上記した破片等による外観不良の部分を、後塗装などによって部分的に修正する必要をなくすことができて、修正作業に手間と時間を削減する事が可能となると共に、樹脂成形品の表面に絞模様などの表面模様(微細な凹凸形状)がある場合に、修正用の塗料によって絞模様が埋ってしまうことが防止でき、商品性の低下を防止することが可能となる。
【0059】
(2)上記において、脱着治具本体31が、マスキング部材27に対して真空吸着可能な真空吸着機構37を備えたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0060】
即ち、脱着治具本体31に備えられた真空吸着機構37を用いて、脱着治具本体31をマスキング部材27に真空吸着させることにより、少なくともマスキング部材27の成形面22からの取外しを容易且つ確実なものとすることができる。また、脱着治具本体31が、マスキング部材27の(塗膜付着面28の)ほぼ全面を覆った状態で、脱着治具本体31を、マスキング部材27に真空吸着できるので、マスキング部材27から塗膜等の破片の剥がれやミスト等の落下を、ほぼ確実に防止することができるようになる。
【0061】
(3)上記において、真空吸着機構37が、脱着治具本体31に設けられて、脱着治具本体31とマスキング部材27との間に密閉空間38を形成可能な吸着用凹形状部39と、吸着用凹形状部39を有する脱着治具本体31の周縁部に設けられて、マスキング部材27の周縁部に対するシールが可能なシール手段41と、脱着治具本体31に設けられて、密閉空間38内の空気を真空吸引することによってマスキング部材27に吸着可能な真空吸引手段42とを備えたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0062】
即ち、吸着用凹形状部39を有する脱着治具本体31の周縁部に備えられたシール手段41を用いて、マスキング部材27の周縁部に対するシールを行わせ、真空吸引手段42を用いて、密閉空間38内の空気を真空吸引することによって、脱着治具本体31を、簡単確実にマスキング部材27に吸着させることができる。この際、好ましくは、シール手段41を、柔軟な材質のものとすることにより、真空吸引を行う際のシール性を向上することができる。
【0063】
(4)上記において、マスキング部材27を保持可能なクランプ機構45が備えられると共に、クランプ機構45が、脱着治具本体31を保持可能に構成されたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0064】
即ち、クランプ機構45を用いることにより、マスキング部材27を直接保持することができる。同時に、クランプ機構45によって、脱着治具本体31を直接保持することができる。これにより、マスキング部材27を単独で保持したり、脱着治具本体31を単独で保持したりする場合と比べて、マスキング部材27および脱着治具本体31を安定して取扱うことが可能となる。
【0065】
(5)上記において、脱着治具本体31に対し、マスキング部材27に形成された塗膜24の乾燥を促進可能な温度調節手段61が設けられたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0066】
即ち、脱着治具本体31に設けた温度調節手段61を用いることにより、脱着治具本体31に形成された塗膜24の乾燥を促進させることができる。これにより、素速く塗膜24を乾燥させて、早期にマスキング部材27の成形面22からの取外しを行わせることができるため、生産性を向上することが可能となる。また、温度調節手段61を、脱着治具本体31に対して設けるようにすることにより、例えば、マスキング部材27に温度調節手段61を設ける場合と比べて、マスキング部材27の構造簡略化と軽量化とを得ることができる。
【0067】
(6)上記において、温度調節手段61が、電気ヒータ機構62であることによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0068】
即ち、温度調節手段61を電気ヒータ機構62とすることにより、電気ヒータ機構62に通電することで簡単確実に温度調節を行わせることができる。また、温度調節手段61を電気ヒータ機構62とすることにより、温度制御を行うことなどが可能となる。そして、温度調節手段61を電気ヒータ機構62とすることにより、温度調節手段61の構成簡略化および軽量化を図ることができる。
【0069】
(7)上記において、温度調節手段61が、温度調節用媒体63を流通可能な温度調節用媒体流路64であることによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0070】
即ち、温度調節手段61を温度調節用媒体流路64とすることにより、温度調節用媒体流路64に温度調節用媒体63を流通させることで温度調節を行わせることができる。また、温度調節手段61を温度調節用媒体流路64とすることにより、安定した温度調節性を得ることができる。また、工場などの排熱を熱源として有効に活用することなども可能となる。なお、温度調節手段61として、電気ヒータ機構62と温度調節用媒体流路64とを組合せることなども可能である。
【0071】
(8)上記において、脱着治具本体31に、マスキング部材27に付着している塗膜24などを剥離可能なマスキング部材洗浄手段66が設けられたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0072】
即ち、脱着治具本体31に設けたマスキング部材洗浄手段66を用いることにより、成形後(マスキング部材27の成形面22からの取外後)などに、マスキング部材27(の塗膜付着面28)に付着した塗膜24などを簡単、確実に剥離させるようにすることができる。また、マスキング部材洗浄手段66を、脱着治具本体31に対して設けるようにすることにより、例えば、マスキング部材27にマスキング部材洗浄手段66を設ける場合と比べて、マスキング部材27の構造簡略化と軽量化とを得ることができる。
【0073】
(9)上記において、マスキング部材洗浄手段66が、マスキング部材27へ向けて高圧のエア67を噴射する高圧エア吹出手段68であることによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0074】
即ち、マスキング部材洗浄手段66を高圧エア吹出手段68として、マスキング部材27へ向けて高圧のエア67(洗浄用エア)を噴射させることにより、高圧のエア67の噴射力でマスキング部材27を洗浄(塗膜24などを剥離除去)することができる。また、マスキング部材洗浄手段66を高圧エア吹出手段68とすることにより、マスキング部材洗浄手段66の構成を簡略化することができる。そして、温度調節用媒体流路64に流通させる温度調節用媒体63を高温で高圧のエア67などとすることにより、温度調節用媒体流路64と高圧エア吹出手段68とを共用化させることができるようになる。
【0075】
(10)上記において、高圧エア吹出手段68が、噴射する(高圧の)エア67の圧力を調整可能な圧力調整機構73を備えたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0076】
即ち、圧力調整機構73を用いて、高圧エア吹出手段68が噴射する高圧のエア67(洗浄用エア)の圧力を調整することにより、マスキング部材27に対する(空気)洗浄力の強さを調整することができる。例えば、高圧のエア67の圧力を高くすることにより洗浄力を強くし、高圧のエア67の圧力を低くすることにより洗浄力を弱くすることができる。
【0077】
(11)上記において、高圧エア吹出手段68が、高圧のエア67の吹出位置を調整可能な吹出位置調整機構75を備えたことによって、以下のような作用効果を得ることができる。
【0078】
即ち、吹出位置調整機構75を用いて、高圧エア吹出手段68の高圧のエア67(洗浄用エア)の吹出位置を調整することにより、マスキング部材27に対する(空気)洗浄力の強さや洗浄位置などを調整することができる。吹付位置や吹付方向例えば、高圧のエア67の吹付位置をマスキング部材27に近くすることにより洗浄力を強くし、高圧のエア67の吹付位置をマスキング部材27から遠くすることにより洗浄力を弱くすることができる。
【0079】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものであるため、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。また、例えば、各実施例に複数の構成が含まれている場合には、特に記載がなくとも、これらの構成の可能な組合せが含まれることは勿論である。また、複数の実施例や変形例が示されている場合には、特に記載がなくとも、これらに跨がった構成の組合せのうちの可能なものが含まれることは勿論である。また、図面に描かれている構成については、特に記載がなくとも、含まれることは勿論である。更に、「等」の用語がある場合には、同等のものを含むという意味で用いられている。また、「ほぼ」「約」「程度」などの用語がある場合には、常識的に認められる範囲や精度のものを含むという意味で用いられている。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例にかかるマスキング部材脱着構造の側方断面図である。
【図2】図1のマスキング部材洗浄手段の系統図である。
【図3】従来例にかかるマスキング部材脱着構造の側方断面図である。
【図4】図3の作動図である。
【図5】図4に続く作動図である。
【符号の説明】
【0081】
21 樹脂成形金型
22 成形面
24 塗膜
26 非塗装部分
27 マスキング部材
28 塗膜付着面
31 脱着治具本体
37 真空吸着機構
38 密閉空間
39 吸着用凹形状部
41 シール手段
42 真空吸引手段
45 クランプ機構
61 温度調節手段
62 電気ヒータ機構
63 温度調節用媒体
64 温度調節用媒体流路
66 マスキング部材洗浄手段
67 高圧のエア
68 高圧エア吹出手段
73 圧力調整機構
75 吹出位置調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形金型の成形面に対し、成形前に予め部分的な塗膜を形成する際に、成形面の非塗装部分へマスキング部材が取付けられると共に、該マスキング部材に対して、塗装後にマスキング部材を覆うように被着することにより、マスキング部材の成形面からの取外時に、マスキング部材に付着した塗膜やミストなどの破片等の剥がれ落ちを防止可能な脱着治具本体が設けられたことを特徴とするマスキング部材脱着構造。
【請求項2】
前記脱着治具本体が、マスキング部材に対して真空吸着可能な真空吸着機構を備えたことを特徴とする請求項1記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項3】
前記真空吸着機構が、脱着治具本体に設けられて、脱着治具本体とマスキング部材との間に密閉空間を形成可能な吸着用凹形状部と、吸着用凹形状部を有する脱着治具本体の周縁部に設けられて、マスキング部材の周縁部に対するシールが可能なシール手段と、脱着治具本体に設けられて、前記密閉空間内の空気を真空吸引することによってマスキング部材に吸着可能な真空吸引手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項4】
マスキング部材を保持可能なクランプ機構が備えられると共に、該クランプ機構が、脱着治具本体を保持可能に構成されたことを特徴とする請求項1または2記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項5】
脱着治具本体に対し、マスキング部材に形成された塗膜の乾燥を促進可能な温度調節手段が設けられたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項6】
前記温度調節手段が、電気ヒータ機構であることを特徴とする請求項5記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項7】
前記温度調節手段が、温度調節用媒体を流通可能な温度調節用媒体流路であることを特徴とする請求項5記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項8】
脱着治具本体に、マスキング部材に付着している塗膜などを剥離可能なマスキング部材洗浄手段が設けられたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項9】
前記マスキング部材洗浄手段が、マスキング部材へ向けて高圧のエアを噴射する高圧エア吹出手段であることを特徴とする請求項8記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項10】
前記高圧エア吹出手段が、噴射するエアの圧力を調整可能な圧力調整機構を備えたことを特徴とする請求項8または請求項9記載のマスキング部材脱着構造。
【請求項11】
前記高圧エア吹出手段が、エアの吹出位置を調整可能な吹出位置調整機構を備えたことを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載のマスキング部材脱着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−104900(P2011−104900A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263103(P2009−263103)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】