マルチビームアンテナ
【課題】 複数の方向に指向性を切り替えることができマルチビームアンテナの小型化及び薄型化を図る。
【解決手段】 1素子の給電素子11と、この給電素子11の前後に配置されたN素子(N:自然数)の無給電素子12,13からなるアンテナ素子列を具備し、上記N素子の無給電素子12,13の少なくとも1素子の電気長を切替素子20により可変可能としたことを特徴とする。
【解決手段】 1素子の給電素子11と、この給電素子11の前後に配置されたN素子(N:自然数)の無給電素子12,13からなるアンテナ素子列を具備し、上記N素子の無給電素子12,13の少なくとも1素子の電気長を切替素子20により可変可能としたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報通信機能やストレージ機能等を搭載し、パーソナルコンピュータ、携帯電話機或いはオーディオ機器等の各種電子機器に装着して用いられる超小型通信モジュールに用いて好適な複数の方向に指向性を切り替えることができるマルチビームアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、音楽、音声或いは各種データや画像等の情報は、近年データのデジタル化に伴ってパーソナルコンピュータやモバイル機器等によっても手軽に扱えるようになっている。また、これらの情報は、音声コーディック技術や画像コーディック技術により帯域圧縮が図られて、デジタル通信やデジタル放送により各種の通信端末機器に対して容易かつ効率的に配信される環境が整いつつある。例えば、オーディオ・ビデオデータ(AVデータ)は、携帯電話機によっても受信が可能となっている。
【0003】
一方、データ等の送受信システムは、小規模な地域内においても適用可能な簡易な無線ネットワークシステムの提案によって、家庭を始めとして様々な場において活用されるようになっている。無線ネットワークシステムとしては、例えばIEEE802.1aで提案されている5GHz帯域の狭域無線通信システムやIEEE802.1bで提案されている2.45GHz帯域の無線LANシステム或いはBluetoothと称される近距離無線通信システム等の次世代無線通信システムが注目されている。
【0004】
ところで、特性方向に指向性を持たないアンテナを使用した場合、多くの電波が存在する多重波伝搬環境においては、建物壁などに反射によって生じた干渉波によって、通信品質が劣化するという問題がある。
【0005】
そこで、指向性を特定方向に向けるアンテナが注目されている。
【0006】
その中に、複数の位相器を使用したフェーズアレーアンテナや複数の送受信系を使用して適応信号処理を用いるアダプティブアレーアンテナが提案されている。
【0007】
また、指向性アンテナとして、テレビ受信などに使用される八木宇田アンテナがある。八木宇田アンテナ100では、図20に示すように、電波の放射する放射器111の他に、放射器111よりもわずかに長い反射器112、放射器111よりも短い導波器113を前後に配置することによって、図21に示すような指向性を呈する(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、この八木宇田アンテナを複数並べて切り替えることにより、指向性を特性方向に向ける(指向性制御アンテナ)が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平10−123142号公報
【特許文献2】特開2003−142919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、アダプティブアレーアンテナは、複数の系統が必要であるため、システムが複雑かつ高価になり、民生用に向いていると言い難い。
【0011】
また、特許文献1に示されたアンテナ装置では、八木宇田アンテナを複数並べた構造をしているため、反射器と複数個の導波器が必要であるため小型化ができないという問題があった。さらに、このアンテナ装置では、グランド板から、モノポールアンテナが基板の垂直方向に突起してしまい。薄型化ができないという問題があった。また、このアンテナ装置の構造をモノポールアンテナからダイポールアンテナに変更したプリント板に形成した場合、グランド板を近傍に配置することは難しいので、切替スイッチ等を実装するのが難しいという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献2に示されたマルチビームアンテナでは、導波器と反射器のスペースの共用化を図り、給電の位置を切り替えることによってマルチビーム化を行っているが、
小型化には限界がある。さらに、これらのアンテナでは、複数の方向にビーム向けるために、そのビーム毎に、送受信系の間に切替スイッチが必要という問題がある。これらのアンテナは、送受信系が一つという基本であるため、そのスイッチは1対複数の切替が必要であり、無線通信の利用周波数帯での製造は難しいという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数の方向に指向性を切り替えることができるマルチビームアンテナの小型化及び薄型化を図ることにある。
【0014】
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るマルチビームアンテナは、少なくとも1素子の給電素子と、N素子(N:自然数)の無給電素子からなるアンテナ素子列を具備し、上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子の電気長を可変としたことを特徴とする。
【0016】
このマルチビームアンテナでは、例えば、上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にインピーダンス変換器を設けることにより電気長を可変とすることができる。
【0017】
また、このマルチビームアンテナでは、例えば、上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にリアクタンス可変素子を設けることにより電気長を可変とすることができる。
【0018】
また、このマルチビームアンテナにおいて、上記給電素子とN素子の無給電素子は、例えば、スロットアンテナからなるものとすることができる。
【0019】
さらに、このマルチビームアンテナは、上記アンテナ素子列を複数具備するものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るマルチビームアンテナでは、無給電素子を導波器と反射器として共用することができ、小型化を図ることができる。また、指向性制御する際に必要なスイッチが、基本的には、無給電素子に実装されるため、放射素子と給電回路の間に入ったスイッチ数を削減することができ、アンテナ素子としての効率を損なうことがない。また、上記給電素子とN素子の無給電素子にスロットアンテナを採用した場合は、さらに、薄型化を図ることができる。さらに、誘電体基板を使用した場合は、波長短縮効果により小型化を図ることができる。また、グランド板を備えるため切替えのためのスイッチ等を実装し易いという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本発明に係るマルチビームアンテナの基本構造を図1に示す。
【0023】
このマルチビームアンテナ10は、図1の(A)に示すように、八木宇田アンテナをスロット構造にしたもので、1素子の給電素子11と、2素子の無給電素子12,13からなるアンテナ素子列を具備し、図1の(B),(C)に示すように、上記無給電素子12,13の各電気長を切り替える切替素子20を設けることにより、上記無給電素子12,13の各電気長を可変とすることにより、指向性を2方向に切り替え可能としたものである。
【0024】
ここで、スロットアンテナは、導体(グランド面)上に約1/2波長のスリットを開けることによって形成される。
【0025】
図1の(A)に示すように、両面プリント基板15のグランド面15Aに形成されたスロットアンテナは、上記グランド面15Aと対応する面に形成されたマイクロストリップ線路14によって電磁結合給電され、電波を放射する放射スロットすなわち上記給電素子11として機能する。
【0026】
ここで、スロットアンテナすなわち上記給電素子11は、プリント基板15の基材の誘電率によりその共振周波数が変化する。その放射スロットすなわち上記給電素子11より、約1/4波長(0.25λ0)離して、給電しないスロットすなわち無給電素子12,13を配置し、その長さL1,L2を、放射スロットの長さL0(約1/2波長(0.5λg))と比べて、短くすると導波器として機能し、上記放射スロットの長さL0(約1/2波長(0.5λg))より長くすると反射器として機能し、一般的な八木宇田アンテナ同等に機能することができる。したがって、反射器と導波器を上記給電素子11の前後に配置することによって、指向性を特定方向に持たせることができる。
【0027】
このような構造のスロット八木宇田アンテナにおいて、プリント基板15のパターンによって、導波器と反射器の長さを変更した場合の特性を図2〜図5に示す。
【0028】
プリント基板には、大きさ40mm角、厚さ1mmのFR−4基板を用い、図2の(A)に示すように、スロットの幅は2mm、長さは、導波器(無給電素子12)、放射器(給電素子11)、反射器(無給電素子13)の順に、L1=18mm、L0=17mm、L2=20.5mmとしたスロット八木宇田アンテナでは、図2の(B)に示すような入力特性を呈し、放射器(給電素子11)の長さが管内波長λgの約1/2波長で共振していることがわかる。また、このスロット八木宇田アンテナの指向性特性を図3の(A),(B),(C)に示す。
【0029】
また、図4の(A)に示すように、導波器と反射器を反対にしたスロット八木宇田アンテナでは、図4の(B)に示すような入力特性を呈し、図5の(A),(B),(C)に示すような指向性特性を呈する。
【0030】
図3の(C)及び図5(C)に示すYZ面の特性より、導波器と反射器によって指向性が制御できていることが確認できる。
【0031】
なお、図3の(A),(B),(C)及び図5の(A),(B),(C)は、上記スロットの長手方向をX方向、各スロットの配列方向をY方向、X方向及びY方向と直交する方向をZ方向として、XY面、XZ面及びYZ面における利得の解析値及び実測値を示した各指向性特性を示している。
【0032】
このように、スロット八木宇田アンテナでは、導波器スロットと反射器スロットを配置すれば、指向性を持たせることができることから、導波器スロットと反射器スロットの位置を交換することによって、対称な指向性を得ることができる。したがって、プリントスロットアンテナにおいて、輻射スロットの前後に無給電スロットを配置しその長さを切り替えることによって、導波器スロットと反射器スロットとして動作させることができ、指向性を切り替えることができる。
【0033】
例えば図6の(A),(B)に示すように、スロット長LSが17mmの輻射スロット(給電素子11)の前後に、反射器として動作するスロット長(LP1+LP2+GP=20.5mm)の無給電スロット(無給電素子12,13)を配置し、一方の無給電スロットの導波器として動作するスロット長(LP1=18.5mm)の位置に、ショートPIN30を配置すれば、この無給電スロットは導波器として動作し、スロット八木宇田アンテナとして動作する。無給電スロットの一方にショートPIN30を配置した場合のYZ平面の指向性の解析値を図7に示す。この図7において、指向特性(a)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12にショートPIN30を配置した場合、指向特性(b)は、無給電スロット#2すなわち無給電素子13にショートPIN30を配置した場合を示している。この図7により指向性が切り替わっていることが確認できる。
【0034】
ここで、上述のスロット八木宇田アンテナでは、プリント基板15に形成した無給電素子12,13のパターンによって、導波器と反射器の長さを変更していたが、例えば、無給電スロットにリアクタンス素子を配設することによって導波器と反射器の機能を切り替えることができる。すなわち、上記ショートPIN30に代えて、無給電スロットのスロット長をLP1とLP2に分離する位置にリアクタンス素子を配置することにより、スロット八木宇田アンテナの指向性を切り替えることができる。
【0035】
具体的には、例えば図8の(A),(B)に示すように、あらかじめ反射器と同等の長さのスロットによって無給電素子12,13を形成し、導波器長のところに、上記切替素子20として例えばリアクタンス素子21を配置することによって、導波器と反射器の機能を切り替えることができる。
【0036】
無給電スロット(無給電素子12,13)のスロット長をLP1(L1’,L2’)とLP2に分離する位置に、上記切替素子20としてリアクタンス素子21を設けた場合のXZ平面の指向性の変化の解析結果を図9の(A),B)に示す。上記リアクタンス素子21としてキャパシタを用いた場合の最大放射方向の変化を図9の(A)に示し、また、上記リアクタンス素子21としてインダクタを用いた場合の最大放射方向の変化を図9の(B)に示す。図9の(A),(B)に示される定数によって、指向性が変化していることがわかる。
【0037】
いずれの部品に場合おいても、設計周波数において低インピーダンスの定数の部品を配置した場合は、無給電スロットに励振される磁流が妨げられることがなく、スロットが開放されているのと等価となり反射器として動作する。一方、高インピーダンスの定数の素子を配置した場合は、無給電スロットの磁流の経路がその位置で切断され、スロットが部品によって短絡されているのと等価となり、LP2側に磁流が分布しなくなり導波器として動作する。いずれも場合も、設計周波数において、低インピーダンスの時は、反射器として働き、高インピーダンスの場合は、導波器として働くことがわかる。
【0038】
無給電スロットのスロット長をLP1(L1’,L2’)とLP2に分離する位置に、リアクタンス素子を用いた場合のYZ平面の指向性の一例を図10に示す。このように、定数を適切に選ぶことにより、無給電スロットを導波器および反射器として動作させ、スロット八木宇田アンテナを構成することができる。この図10において、指向特性(a)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に0.5pFのキャパシタを配置し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に18pFのキャパシタを配置した場合を示し、また、指向特性(b)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に18pFのキャパシタを配置し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に0.5pFのキャパシタを配置した場合を示している。この図10により指向性が切り替わっていることが確認できる。
【0039】
さらに、ディスクリート部品の代わりに、バリキャップやMEMSスイッチを配置した場合も、その電圧によるインピーダンスの可変によって、無給電スロットを導波器および反射器としての動作を切り替えることが可能である。つまり、指向性を切り替えることが可能である。このことによって、導波器と反射器を完全に共用することができ、小型化を図ることができる。
【0040】
また、本発明に係るスロット八木宇田アンテナでは、図11の(A),(B)に示すように、無給電スロット(無給電素子12,13)のスロット長をLP1(L1’,L2’)とLP2に分離する位置に、上記リアクタンス素子21に代えて例えばインピーダンス変換器22を設けるようにしても、無給電スロット(無給電素子12,13)を導波器および反射器としての動作を切り替えることが可能である。
【0041】
インピーダンス変換器22として、例えばMMIC(MMIC:monolithic microwave integrated circuits) SPDT(SPDT:single pole double throw switch)スイッチ(以下単にMMICスイッチという)を実装する。
【0042】
ここで、MMICスイッチの場合は、内部のFET以外にリアクタンス素子が含まれており、単純に切り替えスイッチとして動作することができない。スロット八木宇田アンテナの場合、無給電スロット(無給電素子12,13)のリアクタンス成分が容量性の場合は、導波器として動作し、誘導性の場合は、反射器として動作する。したがって、スロットとMMICスイッチの合成リアクタンス成分が、容量性か誘導性かによって、導波器と反射器の動作を切り替えることができる。
【0043】
無給電素子12,13にMMICスイッチを実装する場合、スイッチの#Aポートは、スロット線路に短絡させ、#Bポートは開放させる。ここで、MMICスイッチ付き無給電スロット(無給電素子12,13)のインピーダンスは以下の(1)式〜(5)式のように表すことができる。
【0044】
【数1】
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
【数5】
【0049】
ここで、
ZP:無給電スロットインピーダンス
ZLPn:無給電スロットインピーダンス(長さ:n)
ZSW:MMICスイッチインピーダンス
ZSWLP2:合成インピーダンス(SW+LP2)
である。
【0050】
MMICスイッチのインピーダンスの切り替え(オープンおよびショート)により、(4)式及び(5)式の条件を満たすようにLP1(L1’,L2’)及びLP2の長さを決定すれば、無給電素子12,13による導波器と反射器の動作を切り替えることができる。
【0051】
二つの無給電スロット(無給電素子12,13)に上記切替素子20としてMMICスイッチ(NEC uPG2022TB,Open:10−j100Ω,Short:47+5jΩ)を実装した場合のYZ平面指向性の測定値を図12に示す。この図12において、指向特性(a)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に設けたスイッチを開放し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に設けたスイッチを短絡した場合を示し、指向特性(b)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に設けたスイッチを短絡し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に設けたスイッチを開放した場合を示している。この図12からMMICスイッチのインピーダンスの切り替えによって、指向性が切り替わっていることがわかる。つまり、MMICスイッチにより導波器と反射器の機能を切り替え、無給電スロット(無給電素子12,13)を共有することでき、小型化を図ることができる。また、放射スロット(給電素子11)には、スイッチが入っておらず、また、フェイズドアレーアンテナのような移相器が装加されていないため、放射素子としての機能は損なうことがない。さらに、給電素子11や無給電素子12,13は、グランド面15Aに形成されているため、素子自体の厚みがプリント基板15の厚みそのものになり薄型化を図ることができ、切り替えのためのもアンテナ素子への影響も小さく実装し易いという利点がある。
【0052】
上述のスロット八木宇田アンテナは、前後方向のみに指向性を向けることができる指向性を2方向に切り替え可能としたマルチビームアンテナ10を構成したものであるが、図13に示すように、図1の(A)に示したアンテナ素子列を互いに直交するように配置することによって、指向性を4方向に切り替え可能としたマルチビームアンテナ110を構成することができる。
【0053】
この図13に示すマルチビームアンテナ110は、1素子の給電素子11Aと2素子の無給電素子12A,13Aからなるアンテナ素子列10Aと、このアンテナ素子列10Aに直交するように配置された1素子の給電素子11Bと2素子の無給電素子12B,13Bからなるアンテナ素子列10Bとを備え、上記給電素子11A,11Bとして機能する放射スロットをクロススロットにより形成し、マイクロストリップ線路14によるクロススロットすなわち給電素子11A,11Bへの給電をスイッチによって切り替えることによって、放射方向すなわち指向性を前後(#1,#2)、左右(#3,#4)に切り替えるようにしたクロススロット八木宇田アンテナを構成したものである。
【0054】
このマルチビームアンテナ110において、各無給電素子12A,13A,12B,13Bの電気長さをリアクタンス素子21によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を図14に示すとともに、各方向#1,#2,#3,#4の指向性特性を図15の(A),(B),(C),(D)に示す。
【0055】
図14に示す入力特性から明らかなように、このマルチビームアンテナ110の比帯域は約5%程となっている。また、図15に示す指向性特性から明らかなように、このマルチビームアンテナ110では、4方向に指向性が制御できる。
【0056】
なお、このマルチビームアンテナ110の平均利得を表1に示す。放射方向以外の方向より少なくても3dB以上に平均利得差があることから、受信検波した場合の最大利得が放射方向となり、その放射方向に送信することによって、不要波を抑制することができる。
【0057】
【表1】
【0058】
また、上記図13に示すマルチビームアンテナ110において、各無給電素子12A,13A,12B,13Bの電気長さをインピーダンス変換器(MMICスイッチ)22によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を図16に示すとともに、指向性特性を図17の(A),(B)に示す。
【0059】
無給電スロットにMMICスイッチを実装したクロススロットアンテナ八木宇田アンテナでは、MMICスイッチを切り替えることにより、導波器および反射器を構成し、指向性を変化させることができ、例えば、方向#1(+Y方向)に指向性を傾けたい場合は、無給電素子12Aを導波器、それ以外の無給電素子13A12B,13Bを反射器となるようにMMICスイッチを設定する。
【0060】
このクロススロット八木宇田アンテナでは、入力特性を図16に示すように、周波数帯域は約200MHz(5.1〜5.3GHz)となっており、MMICスイッチを実装していない場合とほぼ同じ傾向を示している。
【0061】
また、このクロススロット八木宇田アンテナの指向性を図17の(A),(B)に示すように、いずれの方向においても導波器側に傾いており、八木宇田アンテナとして動作していることがわかる。図17の(A)において、指向特性(a)は、無給電素子12Aを導波器として機能させ、の無給電素子13A,12B,13Bを反射器として機能させた場合を示し、また、指向特性(b)は、無給電素子13Aを導波器として機能させ、の無給電素子12A,12B,13Bを反射器として機能させた場合を示している。図17の(B)において、指向特性(a)は、無給電素子12Bを導波器として機能させ、の無給電素子13B,12A,13Aを反射器として機能させた場合を示し、また、指向特性(b)は、無給電素子13Bを導波器として機能させ、の無給電素子12B,12A,13Aを反射器として機能させた場合を示している。
【0062】
さらに、このクロススロット八木宇田アンテナのアンテナ利得を表2に示す。MMICスイッチの実装によって若干利得が低下しているが、所望方向の平均利得は、他方向より約6dB以上向上しているおり、ビームスイッチアンテナとして十分動作していることが確認できる。以上より、4方向においてビームスイッチアンテナが実現することができた。
【0063】
【表2】
【0064】
このような構成のマルチビームアンテナ110は、図18の(A)に示すように、無線LANの基地局131、図18の(B)に示すようにノートPC(情報端末)132、図18の(C)に示すようにワイヤレスTV(AV機器)133などに実装することにより、壁等に反射して生じた干渉波を、送受信系統を増やすことなく抑制することができる。
【0065】
なお、本発明はスロットアンテナ以外にも適用することができ、例えば、図19に示すマルチビームアンテナ210ように、放射素子11に線状アンテナを用いた場合も、同様に、無給電素子12a,12b,13a,13bと切替素子20を組み合わせることによって、線状アンテナにおいても同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るマルチビームアンテナの基本構成を示す模式的な平面図である。
【図2】プリント基板のパターンによって、導波器と反射器の長さを変更したスロット八木宇田アンテナを示す模式的な平面図(A)、及び、その入力特性を示す特性図(B)である。
【図3】図2に示したスロット八木宇田アンテナの指向特性を示す特性図(A),(B),(C)である。
【図4】導波器と反射器の逆に配置したスロット八木宇田アンテナを示す模式的な平面図(A)、及び、その入力特性示す特性図(B)である。
【図5】図4に示したスロット八木宇田アンテナの指向特性を示す特性図(A),(B),(C)である。
【図6】無給電スロットにショートPINを設けたスロット八木宇田アンテナの構成を示す模式的な平面図(A)、及び、その無給電スロット部分の拡大図(B)である。
【図7】図6に示したスロット八木宇田アンテナの指向特性を示す特性図である。
【図8】無給電スロットにリアクタンス素子を配設することによって導波器と反射器の機能を切り替えるようにしたマルチビームアンテナの構成を示す模式的な平面図(A)、及び、その無給電スロット部分の拡大図(B)である。
【図9】図8に示したマルチビームアンテナにおけるXZ平面の指向性の変化の解析結果をしめす特性図であり、上記リアクタンス素子としてキャパシタを用いた場合の最大放射方向の変化を(A)に示し、また、上記リアクタンス素子としてインダクタを用いた場合の最大放射方向の変化を(B)に示す。
【図10】上記リアクタンス素子としてキャパシタを用いたマルチビームアンテナの指向特性を示す特性図である。
【図11】無給電スロットにインピーダンス変換器を配設することによって導波器と反射器の機能を切り替えるようにしたマルチビームアンテナの構成を示す模式的な平面図(A)、及び、その無給電スロット部分の拡大図(B)である。
【図12】図11に示したマルチビームアンテナの指向特性を示す特性図である。
【図13】指向性を4方向に切り替え可能としたマルチビームアンテナの構成を示す模式的な平面図である。
【図14】図13に示したマルチビームアンテナにおいて、各無給電素子の電気長さをリアクタンス素子によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を示す特性図である。
【図15】各無給電素子の電気長さをリアクタンス素子によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにしたマルチビームアンテナにおける4方向の指向特性を示す特性図(A),(B),(C),(D)である。
【図16】図13に示したマルチビームアンテナにおいて、各無給電素子の電気長さをインピーダンス変換器によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を示す特性図である。
【図17】各無給電素子の電気長さをインピーダンス変換器によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにしたマルチビームアンテナにおける指向特性を示す特性図(A),(B)である。
【図18】本発明に係るマルチビームアンテナの実装例を模式的に示す図(A),(B),(C)である。
【図19】本発明に係るマルチビームアンテナの他の構成例を模式的に示す斜視図である。
【図20】指向性アンテナとして、テレビ受信などに使用される八木宇田アンテナの構成を示す模式的な斜視図である。
【図21】上記八木宇田アンテナの指向性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0067】
10,110,210 マルチビームアンテナ、11,11A,11B 給電素子、12,13,12A,13A,12B,13B,12a,12b,13a,13b 無給電素子、14 マイクロストリップ線路、15 両面プリント基板、15A グランド面、20 切替素子、21 リアクタンス素子、22 インピーダンス変換器
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報通信機能やストレージ機能等を搭載し、パーソナルコンピュータ、携帯電話機或いはオーディオ機器等の各種電子機器に装着して用いられる超小型通信モジュールに用いて好適な複数の方向に指向性を切り替えることができるマルチビームアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、音楽、音声或いは各種データや画像等の情報は、近年データのデジタル化に伴ってパーソナルコンピュータやモバイル機器等によっても手軽に扱えるようになっている。また、これらの情報は、音声コーディック技術や画像コーディック技術により帯域圧縮が図られて、デジタル通信やデジタル放送により各種の通信端末機器に対して容易かつ効率的に配信される環境が整いつつある。例えば、オーディオ・ビデオデータ(AVデータ)は、携帯電話機によっても受信が可能となっている。
【0003】
一方、データ等の送受信システムは、小規模な地域内においても適用可能な簡易な無線ネットワークシステムの提案によって、家庭を始めとして様々な場において活用されるようになっている。無線ネットワークシステムとしては、例えばIEEE802.1aで提案されている5GHz帯域の狭域無線通信システムやIEEE802.1bで提案されている2.45GHz帯域の無線LANシステム或いはBluetoothと称される近距離無線通信システム等の次世代無線通信システムが注目されている。
【0004】
ところで、特性方向に指向性を持たないアンテナを使用した場合、多くの電波が存在する多重波伝搬環境においては、建物壁などに反射によって生じた干渉波によって、通信品質が劣化するという問題がある。
【0005】
そこで、指向性を特定方向に向けるアンテナが注目されている。
【0006】
その中に、複数の位相器を使用したフェーズアレーアンテナや複数の送受信系を使用して適応信号処理を用いるアダプティブアレーアンテナが提案されている。
【0007】
また、指向性アンテナとして、テレビ受信などに使用される八木宇田アンテナがある。八木宇田アンテナ100では、図20に示すように、電波の放射する放射器111の他に、放射器111よりもわずかに長い反射器112、放射器111よりも短い導波器113を前後に配置することによって、図21に示すような指向性を呈する(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、この八木宇田アンテナを複数並べて切り替えることにより、指向性を特性方向に向ける(指向性制御アンテナ)が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平10−123142号公報
【特許文献2】特開2003−142919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、アダプティブアレーアンテナは、複数の系統が必要であるため、システムが複雑かつ高価になり、民生用に向いていると言い難い。
【0011】
また、特許文献1に示されたアンテナ装置では、八木宇田アンテナを複数並べた構造をしているため、反射器と複数個の導波器が必要であるため小型化ができないという問題があった。さらに、このアンテナ装置では、グランド板から、モノポールアンテナが基板の垂直方向に突起してしまい。薄型化ができないという問題があった。また、このアンテナ装置の構造をモノポールアンテナからダイポールアンテナに変更したプリント板に形成した場合、グランド板を近傍に配置することは難しいので、切替スイッチ等を実装するのが難しいという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献2に示されたマルチビームアンテナでは、導波器と反射器のスペースの共用化を図り、給電の位置を切り替えることによってマルチビーム化を行っているが、
小型化には限界がある。さらに、これらのアンテナでは、複数の方向にビーム向けるために、そのビーム毎に、送受信系の間に切替スイッチが必要という問題がある。これらのアンテナは、送受信系が一つという基本であるため、そのスイッチは1対複数の切替が必要であり、無線通信の利用周波数帯での製造は難しいという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数の方向に指向性を切り替えることができるマルチビームアンテナの小型化及び薄型化を図ることにある。
【0014】
本発明の更に他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るマルチビームアンテナは、少なくとも1素子の給電素子と、N素子(N:自然数)の無給電素子からなるアンテナ素子列を具備し、上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子の電気長を可変としたことを特徴とする。
【0016】
このマルチビームアンテナでは、例えば、上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にインピーダンス変換器を設けることにより電気長を可変とすることができる。
【0017】
また、このマルチビームアンテナでは、例えば、上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にリアクタンス可変素子を設けることにより電気長を可変とすることができる。
【0018】
また、このマルチビームアンテナにおいて、上記給電素子とN素子の無給電素子は、例えば、スロットアンテナからなるものとすることができる。
【0019】
さらに、このマルチビームアンテナは、上記アンテナ素子列を複数具備するものとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るマルチビームアンテナでは、無給電素子を導波器と反射器として共用することができ、小型化を図ることができる。また、指向性制御する際に必要なスイッチが、基本的には、無給電素子に実装されるため、放射素子と給電回路の間に入ったスイッチ数を削減することができ、アンテナ素子としての効率を損なうことがない。また、上記給電素子とN素子の無給電素子にスロットアンテナを採用した場合は、さらに、薄型化を図ることができる。さらに、誘電体基板を使用した場合は、波長短縮効果により小型化を図ることができる。また、グランド板を備えるため切替えのためのスイッチ等を実装し易いという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本発明に係るマルチビームアンテナの基本構造を図1に示す。
【0023】
このマルチビームアンテナ10は、図1の(A)に示すように、八木宇田アンテナをスロット構造にしたもので、1素子の給電素子11と、2素子の無給電素子12,13からなるアンテナ素子列を具備し、図1の(B),(C)に示すように、上記無給電素子12,13の各電気長を切り替える切替素子20を設けることにより、上記無給電素子12,13の各電気長を可変とすることにより、指向性を2方向に切り替え可能としたものである。
【0024】
ここで、スロットアンテナは、導体(グランド面)上に約1/2波長のスリットを開けることによって形成される。
【0025】
図1の(A)に示すように、両面プリント基板15のグランド面15Aに形成されたスロットアンテナは、上記グランド面15Aと対応する面に形成されたマイクロストリップ線路14によって電磁結合給電され、電波を放射する放射スロットすなわち上記給電素子11として機能する。
【0026】
ここで、スロットアンテナすなわち上記給電素子11は、プリント基板15の基材の誘電率によりその共振周波数が変化する。その放射スロットすなわち上記給電素子11より、約1/4波長(0.25λ0)離して、給電しないスロットすなわち無給電素子12,13を配置し、その長さL1,L2を、放射スロットの長さL0(約1/2波長(0.5λg))と比べて、短くすると導波器として機能し、上記放射スロットの長さL0(約1/2波長(0.5λg))より長くすると反射器として機能し、一般的な八木宇田アンテナ同等に機能することができる。したがって、反射器と導波器を上記給電素子11の前後に配置することによって、指向性を特定方向に持たせることができる。
【0027】
このような構造のスロット八木宇田アンテナにおいて、プリント基板15のパターンによって、導波器と反射器の長さを変更した場合の特性を図2〜図5に示す。
【0028】
プリント基板には、大きさ40mm角、厚さ1mmのFR−4基板を用い、図2の(A)に示すように、スロットの幅は2mm、長さは、導波器(無給電素子12)、放射器(給電素子11)、反射器(無給電素子13)の順に、L1=18mm、L0=17mm、L2=20.5mmとしたスロット八木宇田アンテナでは、図2の(B)に示すような入力特性を呈し、放射器(給電素子11)の長さが管内波長λgの約1/2波長で共振していることがわかる。また、このスロット八木宇田アンテナの指向性特性を図3の(A),(B),(C)に示す。
【0029】
また、図4の(A)に示すように、導波器と反射器を反対にしたスロット八木宇田アンテナでは、図4の(B)に示すような入力特性を呈し、図5の(A),(B),(C)に示すような指向性特性を呈する。
【0030】
図3の(C)及び図5(C)に示すYZ面の特性より、導波器と反射器によって指向性が制御できていることが確認できる。
【0031】
なお、図3の(A),(B),(C)及び図5の(A),(B),(C)は、上記スロットの長手方向をX方向、各スロットの配列方向をY方向、X方向及びY方向と直交する方向をZ方向として、XY面、XZ面及びYZ面における利得の解析値及び実測値を示した各指向性特性を示している。
【0032】
このように、スロット八木宇田アンテナでは、導波器スロットと反射器スロットを配置すれば、指向性を持たせることができることから、導波器スロットと反射器スロットの位置を交換することによって、対称な指向性を得ることができる。したがって、プリントスロットアンテナにおいて、輻射スロットの前後に無給電スロットを配置しその長さを切り替えることによって、導波器スロットと反射器スロットとして動作させることができ、指向性を切り替えることができる。
【0033】
例えば図6の(A),(B)に示すように、スロット長LSが17mmの輻射スロット(給電素子11)の前後に、反射器として動作するスロット長(LP1+LP2+GP=20.5mm)の無給電スロット(無給電素子12,13)を配置し、一方の無給電スロットの導波器として動作するスロット長(LP1=18.5mm)の位置に、ショートPIN30を配置すれば、この無給電スロットは導波器として動作し、スロット八木宇田アンテナとして動作する。無給電スロットの一方にショートPIN30を配置した場合のYZ平面の指向性の解析値を図7に示す。この図7において、指向特性(a)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12にショートPIN30を配置した場合、指向特性(b)は、無給電スロット#2すなわち無給電素子13にショートPIN30を配置した場合を示している。この図7により指向性が切り替わっていることが確認できる。
【0034】
ここで、上述のスロット八木宇田アンテナでは、プリント基板15に形成した無給電素子12,13のパターンによって、導波器と反射器の長さを変更していたが、例えば、無給電スロットにリアクタンス素子を配設することによって導波器と反射器の機能を切り替えることができる。すなわち、上記ショートPIN30に代えて、無給電スロットのスロット長をLP1とLP2に分離する位置にリアクタンス素子を配置することにより、スロット八木宇田アンテナの指向性を切り替えることができる。
【0035】
具体的には、例えば図8の(A),(B)に示すように、あらかじめ反射器と同等の長さのスロットによって無給電素子12,13を形成し、導波器長のところに、上記切替素子20として例えばリアクタンス素子21を配置することによって、導波器と反射器の機能を切り替えることができる。
【0036】
無給電スロット(無給電素子12,13)のスロット長をLP1(L1’,L2’)とLP2に分離する位置に、上記切替素子20としてリアクタンス素子21を設けた場合のXZ平面の指向性の変化の解析結果を図9の(A),B)に示す。上記リアクタンス素子21としてキャパシタを用いた場合の最大放射方向の変化を図9の(A)に示し、また、上記リアクタンス素子21としてインダクタを用いた場合の最大放射方向の変化を図9の(B)に示す。図9の(A),(B)に示される定数によって、指向性が変化していることがわかる。
【0037】
いずれの部品に場合おいても、設計周波数において低インピーダンスの定数の部品を配置した場合は、無給電スロットに励振される磁流が妨げられることがなく、スロットが開放されているのと等価となり反射器として動作する。一方、高インピーダンスの定数の素子を配置した場合は、無給電スロットの磁流の経路がその位置で切断され、スロットが部品によって短絡されているのと等価となり、LP2側に磁流が分布しなくなり導波器として動作する。いずれも場合も、設計周波数において、低インピーダンスの時は、反射器として働き、高インピーダンスの場合は、導波器として働くことがわかる。
【0038】
無給電スロットのスロット長をLP1(L1’,L2’)とLP2に分離する位置に、リアクタンス素子を用いた場合のYZ平面の指向性の一例を図10に示す。このように、定数を適切に選ぶことにより、無給電スロットを導波器および反射器として動作させ、スロット八木宇田アンテナを構成することができる。この図10において、指向特性(a)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に0.5pFのキャパシタを配置し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に18pFのキャパシタを配置した場合を示し、また、指向特性(b)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に18pFのキャパシタを配置し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に0.5pFのキャパシタを配置した場合を示している。この図10により指向性が切り替わっていることが確認できる。
【0039】
さらに、ディスクリート部品の代わりに、バリキャップやMEMSスイッチを配置した場合も、その電圧によるインピーダンスの可変によって、無給電スロットを導波器および反射器としての動作を切り替えることが可能である。つまり、指向性を切り替えることが可能である。このことによって、導波器と反射器を完全に共用することができ、小型化を図ることができる。
【0040】
また、本発明に係るスロット八木宇田アンテナでは、図11の(A),(B)に示すように、無給電スロット(無給電素子12,13)のスロット長をLP1(L1’,L2’)とLP2に分離する位置に、上記リアクタンス素子21に代えて例えばインピーダンス変換器22を設けるようにしても、無給電スロット(無給電素子12,13)を導波器および反射器としての動作を切り替えることが可能である。
【0041】
インピーダンス変換器22として、例えばMMIC(MMIC:monolithic microwave integrated circuits) SPDT(SPDT:single pole double throw switch)スイッチ(以下単にMMICスイッチという)を実装する。
【0042】
ここで、MMICスイッチの場合は、内部のFET以外にリアクタンス素子が含まれており、単純に切り替えスイッチとして動作することができない。スロット八木宇田アンテナの場合、無給電スロット(無給電素子12,13)のリアクタンス成分が容量性の場合は、導波器として動作し、誘導性の場合は、反射器として動作する。したがって、スロットとMMICスイッチの合成リアクタンス成分が、容量性か誘導性かによって、導波器と反射器の動作を切り替えることができる。
【0043】
無給電素子12,13にMMICスイッチを実装する場合、スイッチの#Aポートは、スロット線路に短絡させ、#Bポートは開放させる。ここで、MMICスイッチ付き無給電スロット(無給電素子12,13)のインピーダンスは以下の(1)式〜(5)式のように表すことができる。
【0044】
【数1】
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
【数5】
【0049】
ここで、
ZP:無給電スロットインピーダンス
ZLPn:無給電スロットインピーダンス(長さ:n)
ZSW:MMICスイッチインピーダンス
ZSWLP2:合成インピーダンス(SW+LP2)
である。
【0050】
MMICスイッチのインピーダンスの切り替え(オープンおよびショート)により、(4)式及び(5)式の条件を満たすようにLP1(L1’,L2’)及びLP2の長さを決定すれば、無給電素子12,13による導波器と反射器の動作を切り替えることができる。
【0051】
二つの無給電スロット(無給電素子12,13)に上記切替素子20としてMMICスイッチ(NEC uPG2022TB,Open:10−j100Ω,Short:47+5jΩ)を実装した場合のYZ平面指向性の測定値を図12に示す。この図12において、指向特性(a)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に設けたスイッチを開放し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に設けたスイッチを短絡した場合を示し、指向特性(b)は、無給電スロット#1すなわち無給電素子12に設けたスイッチを短絡し、無給電スロット#2すなわち無給電素子13に設けたスイッチを開放した場合を示している。この図12からMMICスイッチのインピーダンスの切り替えによって、指向性が切り替わっていることがわかる。つまり、MMICスイッチにより導波器と反射器の機能を切り替え、無給電スロット(無給電素子12,13)を共有することでき、小型化を図ることができる。また、放射スロット(給電素子11)には、スイッチが入っておらず、また、フェイズドアレーアンテナのような移相器が装加されていないため、放射素子としての機能は損なうことがない。さらに、給電素子11や無給電素子12,13は、グランド面15Aに形成されているため、素子自体の厚みがプリント基板15の厚みそのものになり薄型化を図ることができ、切り替えのためのもアンテナ素子への影響も小さく実装し易いという利点がある。
【0052】
上述のスロット八木宇田アンテナは、前後方向のみに指向性を向けることができる指向性を2方向に切り替え可能としたマルチビームアンテナ10を構成したものであるが、図13に示すように、図1の(A)に示したアンテナ素子列を互いに直交するように配置することによって、指向性を4方向に切り替え可能としたマルチビームアンテナ110を構成することができる。
【0053】
この図13に示すマルチビームアンテナ110は、1素子の給電素子11Aと2素子の無給電素子12A,13Aからなるアンテナ素子列10Aと、このアンテナ素子列10Aに直交するように配置された1素子の給電素子11Bと2素子の無給電素子12B,13Bからなるアンテナ素子列10Bとを備え、上記給電素子11A,11Bとして機能する放射スロットをクロススロットにより形成し、マイクロストリップ線路14によるクロススロットすなわち給電素子11A,11Bへの給電をスイッチによって切り替えることによって、放射方向すなわち指向性を前後(#1,#2)、左右(#3,#4)に切り替えるようにしたクロススロット八木宇田アンテナを構成したものである。
【0054】
このマルチビームアンテナ110において、各無給電素子12A,13A,12B,13Bの電気長さをリアクタンス素子21によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を図14に示すとともに、各方向#1,#2,#3,#4の指向性特性を図15の(A),(B),(C),(D)に示す。
【0055】
図14に示す入力特性から明らかなように、このマルチビームアンテナ110の比帯域は約5%程となっている。また、図15に示す指向性特性から明らかなように、このマルチビームアンテナ110では、4方向に指向性が制御できる。
【0056】
なお、このマルチビームアンテナ110の平均利得を表1に示す。放射方向以外の方向より少なくても3dB以上に平均利得差があることから、受信検波した場合の最大利得が放射方向となり、その放射方向に送信することによって、不要波を抑制することができる。
【0057】
【表1】
【0058】
また、上記図13に示すマルチビームアンテナ110において、各無給電素子12A,13A,12B,13Bの電気長さをインピーダンス変換器(MMICスイッチ)22によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を図16に示すとともに、指向性特性を図17の(A),(B)に示す。
【0059】
無給電スロットにMMICスイッチを実装したクロススロットアンテナ八木宇田アンテナでは、MMICスイッチを切り替えることにより、導波器および反射器を構成し、指向性を変化させることができ、例えば、方向#1(+Y方向)に指向性を傾けたい場合は、無給電素子12Aを導波器、それ以外の無給電素子13A12B,13Bを反射器となるようにMMICスイッチを設定する。
【0060】
このクロススロット八木宇田アンテナでは、入力特性を図16に示すように、周波数帯域は約200MHz(5.1〜5.3GHz)となっており、MMICスイッチを実装していない場合とほぼ同じ傾向を示している。
【0061】
また、このクロススロット八木宇田アンテナの指向性を図17の(A),(B)に示すように、いずれの方向においても導波器側に傾いており、八木宇田アンテナとして動作していることがわかる。図17の(A)において、指向特性(a)は、無給電素子12Aを導波器として機能させ、の無給電素子13A,12B,13Bを反射器として機能させた場合を示し、また、指向特性(b)は、無給電素子13Aを導波器として機能させ、の無給電素子12A,12B,13Bを反射器として機能させた場合を示している。図17の(B)において、指向特性(a)は、無給電素子12Bを導波器として機能させ、の無給電素子13B,12A,13Aを反射器として機能させた場合を示し、また、指向特性(b)は、無給電素子13Bを導波器として機能させ、の無給電素子12B,12A,13Aを反射器として機能させた場合を示している。
【0062】
さらに、このクロススロット八木宇田アンテナのアンテナ利得を表2に示す。MMICスイッチの実装によって若干利得が低下しているが、所望方向の平均利得は、他方向より約6dB以上向上しているおり、ビームスイッチアンテナとして十分動作していることが確認できる。以上より、4方向においてビームスイッチアンテナが実現することができた。
【0063】
【表2】
【0064】
このような構成のマルチビームアンテナ110は、図18の(A)に示すように、無線LANの基地局131、図18の(B)に示すようにノートPC(情報端末)132、図18の(C)に示すようにワイヤレスTV(AV機器)133などに実装することにより、壁等に反射して生じた干渉波を、送受信系統を増やすことなく抑制することができる。
【0065】
なお、本発明はスロットアンテナ以外にも適用することができ、例えば、図19に示すマルチビームアンテナ210ように、放射素子11に線状アンテナを用いた場合も、同様に、無給電素子12a,12b,13a,13bと切替素子20を組み合わせることによって、線状アンテナにおいても同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るマルチビームアンテナの基本構成を示す模式的な平面図である。
【図2】プリント基板のパターンによって、導波器と反射器の長さを変更したスロット八木宇田アンテナを示す模式的な平面図(A)、及び、その入力特性を示す特性図(B)である。
【図3】図2に示したスロット八木宇田アンテナの指向特性を示す特性図(A),(B),(C)である。
【図4】導波器と反射器の逆に配置したスロット八木宇田アンテナを示す模式的な平面図(A)、及び、その入力特性示す特性図(B)である。
【図5】図4に示したスロット八木宇田アンテナの指向特性を示す特性図(A),(B),(C)である。
【図6】無給電スロットにショートPINを設けたスロット八木宇田アンテナの構成を示す模式的な平面図(A)、及び、その無給電スロット部分の拡大図(B)である。
【図7】図6に示したスロット八木宇田アンテナの指向特性を示す特性図である。
【図8】無給電スロットにリアクタンス素子を配設することによって導波器と反射器の機能を切り替えるようにしたマルチビームアンテナの構成を示す模式的な平面図(A)、及び、その無給電スロット部分の拡大図(B)である。
【図9】図8に示したマルチビームアンテナにおけるXZ平面の指向性の変化の解析結果をしめす特性図であり、上記リアクタンス素子としてキャパシタを用いた場合の最大放射方向の変化を(A)に示し、また、上記リアクタンス素子としてインダクタを用いた場合の最大放射方向の変化を(B)に示す。
【図10】上記リアクタンス素子としてキャパシタを用いたマルチビームアンテナの指向特性を示す特性図である。
【図11】無給電スロットにインピーダンス変換器を配設することによって導波器と反射器の機能を切り替えるようにしたマルチビームアンテナの構成を示す模式的な平面図(A)、及び、その無給電スロット部分の拡大図(B)である。
【図12】図11に示したマルチビームアンテナの指向特性を示す特性図である。
【図13】指向性を4方向に切り替え可能としたマルチビームアンテナの構成を示す模式的な平面図である。
【図14】図13に示したマルチビームアンテナにおいて、各無給電素子の電気長さをリアクタンス素子によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を示す特性図である。
【図15】各無給電素子の電気長さをリアクタンス素子によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにしたマルチビームアンテナにおける4方向の指向特性を示す特性図(A),(B),(C),(D)である。
【図16】図13に示したマルチビームアンテナにおいて、各無給電素子の電気長さをインピーダンス変換器によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにした場合の入力特性を示す特性図である。
【図17】各無給電素子の電気長さをインピーダンス変換器によって切り替え、導波器と反射器として機能させるようにしたマルチビームアンテナにおける指向特性を示す特性図(A),(B)である。
【図18】本発明に係るマルチビームアンテナの実装例を模式的に示す図(A),(B),(C)である。
【図19】本発明に係るマルチビームアンテナの他の構成例を模式的に示す斜視図である。
【図20】指向性アンテナとして、テレビ受信などに使用される八木宇田アンテナの構成を示す模式的な斜視図である。
【図21】上記八木宇田アンテナの指向性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0067】
10,110,210 マルチビームアンテナ、11,11A,11B 給電素子、12,13,12A,13A,12B,13B,12a,12b,13a,13b 無給電素子、14 マイクロストリップ線路、15 両面プリント基板、15A グランド面、20 切替素子、21 リアクタンス素子、22 インピーダンス変換器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1素子の給電素子と、N素子(N:自然数)の無給電素子からなるアンテナ素子列を具備し、
上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子の電気長を可変としたことを特徴とするマルチビームアンテナ。
【請求項2】
上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にインピーダンス変換器を設けることにより電気長を可変としたことを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項3】
上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にリアクタンス可変素子を設けることにより電気長を可変としたことを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項4】
上記給電素子とN素子の無給電素子は、スロットアンテナからなることを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項5】
上記アンテナ素子列を複数具備することを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項1】
少なくとも1素子の給電素子と、N素子(N:自然数)の無給電素子からなるアンテナ素子列を具備し、
上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子の電気長を可変としたことを特徴とするマルチビームアンテナ。
【請求項2】
上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にインピーダンス変換器を設けることにより電気長を可変としたことを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項3】
上記N素子の無給電素子の少なくとも1素子にリアクタンス可変素子を設けることにより電気長を可変としたことを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項4】
上記給電素子とN素子の無給電素子は、スロットアンテナからなることを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【請求項5】
上記アンテナ素子列を複数具備することを特徴とする請求項1記載のマルチビームアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2006−66993(P2006−66993A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244047(P2004−244047)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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