説明

モータ駆動ユニット

【課題】軸が軸受異常で大きく傾斜するとき、出力軸傾斜角を制限して歯面干渉を防止すると共に、この異常をモータ出力低下により警報可能なモータ駆動ユニットを提供する。
【解決手段】軸受部18の異常時は、その周りに出力軸9が大きく傾斜し、これに連動して入力軸8も大きく傾斜することで、減速歯車組5のギヤが(サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとが)相互に干渉する。この干渉よりも前に、ロータ7がB部に示すごとくステータ6の内周に摩擦接触するようラジアルギャップを設定する。この接触により、出力軸9の最大傾斜角が図示の傾斜角に制限され、歯車組5の歯面干渉を防止して、これによる急減速を防止し得る。またロータ7がステータ6の内周に接触することで発生する摩擦熱は、モータ4を不可逆減磁域まで温度上昇させ、モータ出力の自動的な低下により、軸受部18の異常を知らしめることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる車輪ごとの駆動ユニット(インホイールモータユニットと俗称される)等に有用なモータ駆動ユニットに関し、特に、当該モータ駆動ユニット内における出力軸の軸受部が損傷した時の対策技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるモータ駆動ユニットとしては従来、インホイールモータユニットとして構成した例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
このインホイールモータユニットは、電動モータを内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、これら電動モータおよび出力軸間を遊星歯車組式の減速機により駆動結合し、上記出力軸の突出端部に車輪を直結したものである。
【0003】
かかるインホイールモータユニットを駆動車輪ごとに具える電気自動車にあっては、電動モータを駆動するとき、その回転が減速機による減速下で車輪へ伝達され、車両を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−037355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかるモータ駆動ユニットにあっては、出力軸の軸受部と、減速機と、電動モータとが軸線方向に近接配置されていることもあり、出力軸の軸受部が損傷したり、劣化などによりガタが大きくなって、出力軸が軸受部の周りに大きく傾斜するようになったとき、その影響が減速機などに及んで連鎖し、減速機のギヤが噛み合い不良を生じて、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、急減速されることがある。
【0006】
特にモータ駆動ユニットをインホイールモータユニットとして電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータユニットが車輪を個別に駆動するため、上記の現象が車両挙動を不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0007】
また電動モータは、ロータの回転位置をレゾルバなどのセンサで検出し、これにより検出したロータ回転位置に基づく同期制御により駆動制御されている。
ところで軸受部周りにおける出力軸の大きな傾斜は、レゾルバなどのロータ回転位置検出手段にも、芯ずれなどの悪影響を及ぼし、ロータ回転位置の検出精度を低下させる。
この場合、電動モータの駆動制御が不正確になったり、最悪の場合、電動モータを駆動制御することができなくなる。
【0008】
本発明は、上記した軸受部の異常時もその周りにおける出力軸の傾斜が、上記の問題を生ずるほど大きくなることのないようにし、併せてそのための構成が、電動モータの停止を含む出力低下を介して、当該異常を警報し得るものであるよう、モータ駆動ユニットを改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明のモータ駆動ユニットは、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となるモータ駆動ユニットを説明するに、これは、
電動モータを内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、上記電動モータの回転を上記出力軸から取り出すようにしたものである。
【0010】
本発明は、かかるモータ駆動ユニットに対し、以下の対策を施した構成に特徴づけられる。
まず上前記電動モータのロータを、ロータ回転軸線が、上記軸受部の周りにおける上記出力軸の傾斜に連動して傾斜するよう当該出力軸に連係させる。
そして、電動モータのロータおよびステータ間におけるエアギャップを、上記出力軸の傾斜が所定以上になる時ロータがステータに摩擦接触するよう設定したものである。
【発明の効果】
【0011】
かかる本発明のモータ駆動ユニットによれば、軸受部の周りにおける出力軸の傾斜が所定以上になる時、電動モータのロータがステータに摩擦接触することとなり、それ以上に出力軸が傾斜するのを防止することができる。
【0012】
従って、出力軸が軸受部の損傷などによりその周りに大きく傾斜しようとしても、その最大傾斜角を制限することができ、モータ駆動ユニット内の構成部品に前記した歯車損傷や歯面干渉のような悪影響が及ぶのを、またこれら歯車損傷や歯面干渉による急減速を回避することができる。
【0013】
更に同様な理由から、モータ駆動ユニットをインホイールモータユニットとして電気自動車に用いた場合に、上記の歯車損傷や歯面干渉による急減速で車両挙動が不自然になるのを回避することができる。
また上記した出力軸最大傾斜角の制限は、電動モータの駆動制御に資するロータ回転位置を検出するためのロータ回転位置検出手段が出力軸の傾斜で大きく芯ずれされる事態も回避することができ、当該芯ずれに伴うロータ回転位置の検出精度の低下により、電動モータの駆動制御が不正確になったり、電動モータが駆動制御不能に陥るのを防止することができる。
【0014】
そして、電動モータのロータをステータに摩擦接触させて上記の効果が得られるようにしたため、
この摩擦接触により発生した摩擦熱による温度上昇で、例えば電動モータの停止を含む出力低下を介して、上記軸受部の異常を知らしめることができると共に、この異常で出力軸が軸受部の周りに大きく傾斜しているのに電動モータが大きな出力を発し続ける弊害を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インホイールモータユニットとして構成した本発明の第1実施例になるモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
【図2】図1におけるインホイールモータユニットの遊星歯車式減速歯車組に係わるギヤ間噛合関係を示す正面図である。
【図3】図1におけるインホイールモータユニットの電動モータおよび遊星歯車式減速歯車組を、出力軸の軸受部が正常である場合の状態で示す模式図である。
【図4】図1におけるインホイールモータユニットの電動モータおよび遊星歯車式減速歯車組を、本発明の対策を施さないまま、出力軸の軸受部が異常を生じた場合の状態で示す模式図である。
【図5】図1におけるインホイールモータユニットの電動モータおよび遊星歯車式減速歯車組を、出力軸の軸受部が異常を生じても、本発明の異常対策で出力軸の傾斜が制限された状態で示す模式図である。
【図6】図1におけるインホイールモータユニットの出力軸傾斜角と、電動モータのラジアルギャップとの関係を示す特性線図である。
【図7】図1に示すインホイールモータユニットにおける電動モータのステータ温度変化を、出力軸の軸受部が正常な場合と、異常を生じている場合とで比較して示すタイムチャートである。
【図8】図1に示すインホイールモータユニットにおける電動モータの可逆減磁温度域と、不可逆減磁温度域とを示す領域線図である。
【図9】図1に示すインホイールモータユニットにおける出力軸の軸受部が異常を生じた場合における電動モータのステータ温度領域を、軸受部が正常である場合における電動モータのステータ温度変化と共に示す領域線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、インホイールモータユニットとして構成した本発明の第1実施例になるモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
この図において、1は、インホイールモータユニットのケース本体、2は、該ケース本体1のリヤカバーで、これらケース本体1およびリヤカバー2により、インホイールモータユニットのユニットケース3を構成する。
【0017】
図1に示すインホイールモータユニットは、ユニットケース3内に電動モータ4および遊星歯車式減速歯車組5(以下、単に「減速歯車組」と言う)を収納して構成する。
電動モータ4は、ケース本体1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ6と、かかる円環状ステータ6の内周にラジアルギャップを持たせて同心に配したロータ7とで構成する。
【0018】
減速歯車組5は、同軸に突き合わせて対向配置した入力軸8および出力軸9間を駆動結合する用をなし、
サンギヤ11と、このサンギヤ11に対し出力軸9寄りに軸線方向へずらせて同心配置した固定のリングギヤ12と、これらサンギヤ11およびリングギヤ12に噛合する段付きプラネタリピニオン(段付きピニオン)13と、かかる段付きプラネタリピニオン13を回転自在に支持するキャリア14a,14bとにより構成する。
【0019】
入力軸8は、出力軸9に近い内端に前記のサンギヤ11を一体成形して具え、この入力軸8をサンギヤ11からリヤカバー2に向かう後方へ延在させる。
出力軸9は、減速歯車組5から反対方向(外方)に延在させて、ケース本体1の前端(図の右側)開口より突出させ、この突出箇所において出力軸9に後述のごとく車輪15を結合する。
【0020】
これら入力軸8および出力軸9は、両者の同軸突き合わせ端部を相互に相対回転可能に貫入させ合って、両者間にローラベアリングを可とするベアリング16を介在させることにより、入出力軸間軸受嵌合部を設定する。
この入出力軸間軸受嵌合部を成すベアリング16から軸線方向に離間した入力軸8および出力軸9の箇所をそれぞれ、ボールベアリングを可とするベアリング17および複列アンギュラベアリングを可とするベアリング18でユニットケース3に軸受する。
【0021】
なおベアリング18は、ケース本体1の前端開口を塞ぐ端蓋19の内周と、ケース本体1の前端開口から突出する出力軸9の突出部に嵌着したホイールハブ21の外周との間に介在させて、出力軸9をユニットケース3に軸受する用をなし、
これらベアリング18、端蓋19、およびホイールハブ21で、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部が構成される。
【0022】
前記の電動モータ4は、そのロータ7を入力軸8に結合し、この結合位置を、減速歯車組5とベアリング17との間における軸線方向位置とする。
【0023】
ケース本体1の前端開口内に前記のリングギヤ12を廻り止め、且つ抜け止めして固設し、この抜け止めに際しては、ケース本体1の前端開口を塞ぐシールアダプタ22により当該リングギヤ12の抜け止めを行う。
このシールアダプタ22は、上記の端蓋19と共に、ケース本体1の前端開口を塞ぐよう該ケース本体1の前端に共締めして取着する。
【0024】
段付きプラネタリピニオン13は、入力軸8上のサンギヤ11に噛合する大径ギヤ部13a、およびリングギヤ12に噛合して段付きプラネタリピニオン13をリングギヤ12の内周に沿い転動させる小径ギヤ部13bを一体に有した段付きピニオンとする。
この段付きプラネタリピニオン13は、大径ギヤ部13aが出力軸9から遠い側に位置し、小径ギヤ部13bが出力軸9に近い側に位置するよう向きに配置する。
【0025】
段付きプラネタリピニオン13は、図2に明示するごとく例えば4個一組として円周方向等間隔に配置し、この円周方向等間隔配置を保って段付きプラネタリピニオン13を共通なキャリア14により回転自在に支持する。
キャリア14は一対1組のキャリア14a,14bを同軸に対向させて構成し、これらキャリア14a,14bは、減速歯車組5の出力回転メンバとして機能させ、入力軸8に近い出力軸9の内端に一体的に設ける。
このため、キャリア14a,14bおよび段付きプラネタリピニオン13は、出力軸9の内端から入力軸8側へ張り出して出力軸9に一体化されることとなる。
【0026】
次に、車輪15の出力軸9への結合要領を詳述する。
ホイールハブ21に同心に、ブレーキディスク20を一体結合して設け、これらホイールハブ21およびブレーキディスク20を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト23を植設する。
車輪15の取り付けに際しては、そのホイールディスクに穿ったボルト孔にホイールボルト23が貫通するよう当該ホイールディスクをブレーキディスク22の側面に密接させ、この状態でホイールボルト23にホイールナット24を緊締螺合することにより、出力軸9に対する車輪15の取り付けを行う。
【0027】
<第1実施例の作用>
電動モータ4のステータ6に通電すると、これからの電磁力で電動モータ4のロータ7が回転駆動される。
この際、ロータ7の回転位置をレゾルバ26等のロータ回転位置センサで検出し、これにより検出したロータ回転位置に基づき電動モータ4を同期下に駆動制御する。
ロータ7の回転駆動力は入力軸8を介して減速歯車組5のサンギヤ11に伝達される。
これによりサンギヤ11は、大径ギヤ部13aを介して段付きプラネタリピニオン13を回転させるが、このとき固定のリングギヤ12が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリピニオン13は、小径ギヤ部13bがリングギヤ12に沿って転動するような遊星運動を行う。
かかる段付きプラネタリピニオン13の遊星運動はキャリア14(14a,14b)を介して出力軸9に伝達され、出力軸9を入力軸8と同方向に回転させる。
【0028】
上記の伝動作用により減速歯車組5は、電動モータ4から入力軸8への回転を、サンギヤ11の歯数およびリングギヤ12の歯数により決まる比で減速して出力軸9に伝達する。
出力軸9への回転は、これに結合したホイールハブ21およびホイールボルト23を介して車輪15に伝達され、車両を走行させることができる。
なお車両の制動に際しては、ブレーキディスク20を軸線方向両側からブレーキパッド25で挟圧することにより車輪15を摩擦制動させて所期の目的を達成し得る。
【0029】
<出力軸支承ベアリングの損傷時における動作および問題点>
上記した型式のインホイールモータユニットにおいては、入力軸8および出力軸9の同軸突き合わせ端部をベアリング16により相互に相対回転可能に軸受嵌合させ、
この入出力軸間軸受嵌合部(ベアリング16)から軸線方向に離間した入力軸8および出力軸9の箇所をそれぞれベアリング17,18によりユニットケース3に軸受するため、
ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(ベアリング18、端蓋19、およびホイールハブ21)が損傷したり、劣化などによりガタが大きくなって、出力軸9が軸受部(18,19,21)の周りに大きく傾斜するようになったとき、その影響が減速歯車組5や電動モータ4に及び、減速歯車組5のギヤが噛み合い不良を生じて、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、急減速されることがある。
【0030】
特にモータ駆動ユニットを図1のごとくインホイールモータユニットとして電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータユニットが車輪15を個別に駆動するため、上記の現象が車両挙動を不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0031】
また電動モータ4は前記した通り、ロータ7の回転位置をレゾルバ26などのセンサで検出し、これにより検出したロータ回転位置に基づく同期制御により駆動制御されている。
ところで軸受部(18,19,21)周りにおける出力軸9の大きな傾斜は、レゾルバ26などのロータ回転位置検出センサにも、芯ずれなどの悪影響を及ぼし、ロータ回転位置の検出精度を低下させ、電動モータ4の駆動制御が不正確になり、最悪の場合、電動モータ4を駆動制御することができなくなる。
【0032】
図3,4により詳述するに、図3は、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(18)が損傷しておらず、且つ、劣化などによる大きなガタを有していない正常時における減速歯車組5および電動モータ4の状態を模式的に示したものである。
【0033】
この場合、出力軸9がユニットケース3に対する軸受部(18)の周りに大きく傾斜されることがなく、入力軸8および出力軸9が略一直線上に延在し、ほとんど軸交角を持たない。
そのため、減速歯車組5を構成する歯車のうち、相互に噛合するサンギヤ11およびピニオン大径ギヤ部13a間の軸間距離、並びに、相互に噛合するリングギヤ12およびピニオン小径ギヤ部13b間の軸間距離は、それぞれ正規の軸間距離を保つ。
【0034】
しかし、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(18)が損傷したり、劣化などによる大きなガタを有している異常時は、減速歯車組5および電動モータ4の状態を模式的に示す図4から明らかなとおり、出力軸9がユニットケース3に対する軸受部(18)の周りに大きく傾斜され、入力軸8および出力軸9間に軸交角を生じさせる。
【0035】
かかる出力軸9の大きな傾斜は、入力軸8との間の軸交角によって、減速歯車組5や電動モータ4に影響を及ぼし、減速歯車組5のギヤが噛み合い不良を生じて、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪15を急減速させることがある。
例えば図2のA部におけるサンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとの噛合箇所につき代表的に説明すると、図4に同符号Aを付して示すごとく、サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとが偏心により噛み合い不良を生じて、歯車が損傷されたり、歯面干渉が発生することにより、車輪15を急減速されることとなる。
【0036】
かかる車輪15の急減速は、モータ駆動ユニットを図1のごとくインホイールモータユニットとして電気自動車に用いる場合、当該インホイールモータユニットが車輪15を個別に駆動するため、車両の挙動を不安定にしたり、不自然にして運転者を戸惑わせる。
【0037】
また、図4に示さなかったが、出力軸9の上記した大きな傾斜は、電動モータ4の同期駆動制御用にロータ7の回転位置を検出するレゾルバ26(図1参照)などのセンサをも芯ずれさせ、ロータ回転位置の検出精度の低下により、電動モータ4の駆動制御が不正確になり、最悪の場合、電動モータ4を駆動制御することができなくなる。
【0038】
<出力軸支承ベアリングの損傷時における問題解決策>
本実施例は、上記した軸受部(18)の異常時もその周りにおける出力軸9の傾斜が、上記の問題を生ずるほど大きくなることのないよう制限し得るようになし、併せて、軸受部(18)の異常に伴う出力軸9の傾斜時は、電動モータ4を出力低下させたり、停止させて、当該異常を警報し得るよう、モータ駆動ユニットを以下のごとくに改良したものである。
【0039】
このため本実施例おいては、先ず図1につき前述した構成などにより、電動モータ4のロータ7を、ロータ回転軸線(入力軸8)が、軸受部(18)の周りにおける出力軸9の傾斜に連動して、図4につき前述したごとくに傾斜するよう、出力軸9に連係させる。
そして、図3に示すごとく、ユニットケース3に対する出力軸9の軸受部(18)が損傷しておらず、且つ、劣化などによる大きなガタを有していない正常時に、電動モータ4のステータ6およびロータ7間のラジアルギャップCを以下のようなものであるように設定する。
【0040】
つまり図3につき上述した正常時は、つまり軸受部(18)の剛性や部品交差に起因した軸受部(18)の周りにおける出力軸9の傾斜に連動するロータ回転軸線(入力軸8)の傾斜程度では、ロータ7がステータ6の内周に干渉することのないようラジアルギャップCを設定する。
而して図4につき上述した異常時は、軸受部(18)の周りにおける出力軸9の大きな傾斜に連動してロータ回転軸線(入力軸8)が大きく傾斜し、図4のA部に例示するごとく減速歯車組5のギヤが(サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとが)相互に干渉するよりも前に、つまり図4に示すよりも小さな出力軸9およびロータ回転軸線(入力軸8)の傾斜角で、ロータ7が図5のB部に示すごとくステータ6の内周に摩擦接触するようラジアルギャップCを設定し、
出力軸9およびロータ回転軸線(入力軸8)の最大傾斜角を、図4に示すよりも小さな、図5に示すごときものに制限する。
【0041】
図6に基づき付言するに、本実施例においては、軸受部(18)の正常時と、異常時とで異なる、軸受部(18)の周りにおける出力軸9の傾斜角θに対し、ロータ7およびステータ6間のラジアルギャップCが、図6に実線で示す特性を持って変化するよう設定する。
【0042】
つまり、軸受部(18)が正常であって出力軸傾斜角θがθ1未満である正常時領域においては、ラジアルギャップCが残存してロータ7を未だステータ6の内周に接触させないことにより、電動モータ4の性能を保証する。
【0043】
しかし、軸受部(18)が損傷したり、劣化などによる大きなガタを有して、出力軸傾斜角θがθ1以上となる異常時領域においては、ラジアルギャップCが0を含む負値となってロータ7をステータ6の内周に摩擦接触させるようになす。
これにより出力軸9の傾斜角θは最大値を、ラジアルギャップCが0となるときの図5に示す出力軸傾斜角に制限される。
同時に電動モータ4の駆動中は、ロータ7がステータ6の内周に摩擦接触して摩擦熱を発生し、電動モータ4(モータ駆動ユニット内)を温度上昇させる。
【0044】
かくして本実施例では、軸受部(18)が正常である場合、電動モータ4のステータ温度Tempが図7に実線で例示するごとく、モータ出力に応じた温度変化を呈するのに対し、
軸受部(18)が損傷したり、劣化などによる大きなガタを持つこととなった異常時は、ロータ7がステータ6の内周に摩擦接触して摩擦熱によりステータ6(電動モータ4、モータ駆動ユニット内)を温度上昇させるため、ステータ温度Tempが摩擦熱による温度上昇分だけ嵩上げされて、図7に破線で示すごとくに時系列変化する。
【0045】
ところで電動モータ4は、温度上昇につれてモータ内磁石の減磁により最大出力を低下され、定格出力を発生し得なくなるが、モータ温度(ステータ温度)Tempが150℃〜160℃未満である図8の可逆減磁域では、モータ温度(ステータ温度)Tempの低下時に再び定格出力を発生し得る状態に復帰する。
【0046】
しかし、モータ温度(ステータ温度)Tempが150℃〜160℃以上となる図8の不可逆減磁域では、モータ温度(ステータ温度)Tempの上昇につれ、電動モータ4が最大出力を図8に示すように低下され、Temp=170℃〜180℃において電動モータ4が最大出力を遂に0にされてモータ出力を発生し得なくなる。
しかも不可逆減磁域では、モータ温度(ステータ温度)Tempの上昇につれ電動モータ4が最大出力を図8に示すように低下された後は、温度低下によっても電動モータ4の最大出力が元に戻ることはない。
従って、モータ温度(ステータ温度)Tempが一旦Temp=170℃〜180℃まで上昇すると、電動モータ4はその後まったくモータ出力を発生し得なくなる。
【0047】
かくして本実施例においては、軸受部(18)の異常時にモータ温度(ステータ温度)Tempが図7に破線で例示するように時系列変化する間、このモータ温度(ステータ温度)Tempが図8の不可逆減磁域の温度に上昇することで、当該上昇時のモータ温度(ステータ温度)Tempに応じ電動モータ4の出力を低下させ、Temp=170℃〜180℃で電動モータ4の出力を0にすることができる。
【0048】
<第1実施例の効果>
上記した第1実施例によれば、軸受部(18)の異常でその周りにおける出力軸9の傾斜角θが所定値(θ1)以上になる時、電動モータ4のロータ7がステータ6の内周に摩擦接触するよう構成したため、
出力軸9の最大傾斜角を図5に示すごとく、減速歯車組5のギヤが(サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとが)相互に干渉する(図4参照)ことのない傾斜角に制限することとができる。
【0049】
従って、出力軸9が軸受部(18)の異常でその周りに大きく傾斜しようとしても、減速歯車組5のギヤが(サンギヤ11とピニオン大径ギヤ部13aとが)図4に示すごとく相互に干渉するほどの大きさまで傾斜することはなく、減速歯車組5に前記した歯車損傷や歯面干渉のような悪影響が及ぶのを、またこれら歯車損傷や歯面干渉による車輪15の急減速を回避することができ、結果として、当該車輪15の急減速により車両挙動が不自然になって運転者を戸惑わせる事態を生ずることがない。
【0050】
また上記した出力軸最大傾斜角θの制限は、電動モータ4の同期駆動制御に資するロータ回転位置を検出するためのレゾルバ26が、出力軸9(入力軸8)の傾斜で大きな芯ずれなどの弊害を受ける事態も回避させ得て、
ロータ回転位置の検出精度を軸受部(18)の異常時も本来のままに維持することができ、ロータ回転位置の検出不正により、電動モータ4の同期駆動制御が不正確になったり、電動モータ4が駆動制御不能に陥るのを防止することができる。
【0051】
更に、軸受部(18)の異常でその周りにおける出力軸9の傾斜角θが所定値(θ1)以上になる時、電動モータ4のロータ7がステータ6の内周に摩擦接触するよう構成して、上記の効果が奏し得られるようにしたことにより、
軸受部(18)の異常時は、ロータ7およびステータ6の接触部からの摩擦熱によるステータ6の温度上昇(Temp≧150℃〜160℃)で、電動モータ4が不可逆減磁域に入って、出力を自動的に低下されたり、0にされることとなる。
【0052】
このため、出力軸9が軸受部(18)の異常でその周りに正常時よりも大きく傾斜しているのに、電動モータ4が大きな出力を発し続ける弊害を防止することができると共に、かかる電動モータ4の出力低下により上記軸受部(18)の異常を運転者に確実に知らしめることができる。
【0053】
<第2実施例>
なお、上記した第1実施例に以下の構成を追加した第2実施例のような構成にしてもよい。
この第2実施例では、上記第1実施例に、電動モータ4(詳しくはステータ6)の温度Tempを検出する図示せざる温度センサを、温度上昇検出手段として設け、
これにより検出したモータ温度(ステータ温度)Tempに基づき、図9に例示する温度領域マップを用いて、軸受部(18)の前記した異常時に以下のように電動モータ4を出力低下制御する。
【0054】
図9は、軸受部(18)が正常である場合の、モータ出力に対するモータ温度(ステータ温度)Tempの変化特性を実線で例示する。
軸受部(18)が正常である場合、モータ温度(ステータ温度)Tempは主にモータ出力に応じて変化し、モータ出力の大きさに比例して上昇する。
【0055】
本実施例では、かかるモータ温度(ステータ温度)Tempの実線で示す変化特性に対し、これよりも所定温度だけ高い温度(図8の不可逆減磁域よりも低い温度)をモータ出力ごとの下限設定温度とし、この下限設定温度以上の温度域を、軸受部(18)が異常であると判定するための異常時温度域と定める。
この異常時温度域は、出力軸9が軸受部(18)の異常でその周りに正常時よりも大きく傾斜する過程で、ロータ7が図5のごとくステータ6の内周に摩擦接触し、この時の摩擦熱によって上昇されるモータ温度(ステータ温度)Tempの温度域である。
【0056】
そして、上記の温度センサで検出したモータ温度(ステータ温度)Tempと、現在のモータ出力とから、モータ温度(ステータ温度)Tempが、現在のモータ出力に対応した下限設定温度以上か否かにより、つまりモータ温度(ステータ温度)Tempが、図9に示した異常時温度域の温度か否かにより、軸受部(18)が損傷や劣化などによる異常を生じているか否かを判定する。
【0057】
モータ温度(ステータ温度)Tempが、図9の異常時温度域の温度であると判定するとき、つまり、軸受部(18)が損傷や劣化などによる異常を生じていると判定する場合、電動モータ4を出力低下させたり、電動モータ4の出力を0にして、車輪15の駆動力を低下させたり、0にする。
【0058】
<第2実施例の効果>
かかる第2実施例の構成によれば、第1実施例の効果に加えて、以下の効果をも奏し得る。
つまり、図9に示す異常時温度域の下限設定温度を、図8の不可逆減磁域よりも低い温度(可逆減磁域の温度)としたことにより、
第1実施例において説明した電動モータ4自身の減磁による出力低下よりも先に、電動モータ4を出力低下させたり、電動モータ4の出力を0にして、運転者に早期に異常を知らせることができる上に、リンプホーム可能なモータ出力を確保して、修理工場までの自走を可能にすることができる。
【0059】
<その他の実施例>
なお第2実施例では、第1実施例につき前述したと同様な電動モータ4自身の減磁による出力低下と、検出したモータ温度(ステータ温度)Tempに基づく電動モータ4の出力低下制御とを併用するようにしたが、後者のモータ出力低下制御を、減磁によるモータ出力低下とは別に、単独で用いてもよいのは言うまでもない。
【0060】
また第1,2実施例の何れも、電動モータ4がロータ7およびステータ6を相互に径方向内外に配して具え、これらロータ7およびステータ6間のエアギャップとしてラジアルギャップCを有したものである場合につき説明したが、
電動モータが、ロータおよびステータを相互に軸線方向に並べて具え、これらロータおよびステータ間のエアギャップとしてアキシャルギャップを有したものである場合も、本発明の前記した着想はそのまま適用可能であり、同様な作用効果を奏し得ること勿論である。
【0061】
更に第2実施例では、モータ温度(ステータ温度)Tempを直接検出して、検出温度が下限設定温度以上であるとき、電動モータ4の前記した出力低下制御を行うこととしたが、
モータ駆動ユニット内における潤滑オイルの温度がモータ温度(ステータ温度)Tempに近似することから、モータ温度(ステータ温度)Tempの代わりに、モータ駆動ユニット内の油温を検出して、検出油温が異常時温度域の高温であるとき、電動モータ4の前記した出力低下制御を行うようにしてもよい。
【0062】
また、モータ温度(ステータ温度)Tempおよびモータ駆動ユニット内の油温を共に検出し、これら両者を電動モータ4の出力低下制御に用いて、制御の信頼性を向上させることも可能である。
いずれにしても、これら検出温度に基づき電動モータ4の出力低下制御を行う場合は、このとき別に設けた警報手段も作動させて、軸受部(18)の異常を運転者に一層確実に且つ速やかに知らせるようにするのがよい。
【符号の説明】
【0063】
1 ケース本体
2 リヤカバー
3 ユニットケース
4 電動モータ
5 減速歯車組
6 ステータ
7 ロータ
8 入力軸
9 出力軸
11 サンギヤ
12 リングギヤ
13 段付きプラネタリピニオン
14 キャリア
15 車輪
16 ローラベアリング
17 ボールベアリング
18 複列アンギュラベアリング(軸受部)
19 端蓋(軸受部)
20 ブレーキディスク
21 ホイールハブ(軸受部)
23 ホイールボルト
24 ホイールナット
25 ブレーキパッド
26 レゾルバ(ロータ回転位置検出センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを内蔵し、軸受部を介し回転自在に支持して外部に突出するよう設けた出力軸を具え、前記電動モータの回転を前記出力軸から取り出すようにしたモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータのロータを、ロータ回転軸線が、前記軸受部の周りにおける前記出力軸の傾斜に連動して傾斜するよう該出力軸に連係させ、
前記電動モータのロータおよびステータ間におけるエアギャップを、前記出力軸の傾斜が所定以上になる時、ロータがステータに摩擦接触するよう設定したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記出力軸の所定以上の傾斜は、前記軸受部の機能不良に起因した出力軸の傾斜量であることを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータは、ロータおよびステータを相互に径方向内外または径方向外内に配して具え、これらロータおよびステータ間のエアギャップとしてラジアルギャップを有したものであることを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項4】
請求項1または2に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータは、ロータおよびステータを相互に軸線方向に並べて具え、これらロータおよびステータ間のエアギャップとしてアキシャルギャップを有したものであることを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータのロータがステータに摩擦接触することで発生した摩擦熱による温度上昇に応答して前記電動モータの出力を低下させるよう構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記摩擦熱により前記電動モータが不可逆減磁温度域に温度上昇することで前記電動モータの出力低下を生起させるよう構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項7】
請求項5または6に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記摩擦熱による温度上昇を検出する温度上昇検出手段を設け、
該手段により検出した温度上昇に応じ前記電動モータを出力低下制御するよう構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記温度上昇検出手段は、前記電動モータの温度を検出するものであり、
該手段により検出した電動モータの温度が、電動モータの出力ごとに設定した設定モータ温度以上であるとき、前記電動モータの出力低下制御を行うよう構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項9】
請求項7または8に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記温度上昇検出手段は、前記モータ駆動ユニット内の潤滑油温を検出するものであり、
該手段により検出した潤滑油温が、電動モータの出力ごとに設定した設定油温以上であるとき、前記電動モータの出力低下制御を行うよう構成したことを特徴とするモータ駆動ユニット。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータの出力低下制御中であるのを警報する警報手段を設けたことを特徴とするモータ駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1203(P2013−1203A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132825(P2011−132825)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】