説明

ワンレバー操作式軌条運搬車

【課題】ワンレバーで主要運転操作を全て行えるようにするとともに、ずり落ち及びエンジンストールを容易な調整で回避でき、しかも動作信頼性の高い安価な軌条運搬車を提供する。
【解決手段】1本の運転操作レバー52を1本の基軸51に接続し、その基軸に接続した機械リンク機構54〜57のみにより、エンジン1、ブレーキ6、トランスミッション2、クラッチ3を全てシーケンシャルに駆動できるようにした。また、ブレーキ6とクラッチ3とがアナログ的に穏やかに切り替わるように構成するとともに、例えば発進時において半ブレーキ領域と半クラッチ領域とが重合するように構成し、走行駆動輪4にブレーキ6又はエンジン1からの拘束力が常に作用するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山地や丘陵等の傾斜地に設置された軌条上を、前後進切換により往復動して人員や物品を運搬する軌条運搬車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の軌条運搬機には、走行方向を前後いずれかに設定する前後進切換用操作レバーと、エンジン出力を制御するアクセル操作レバーとが運転席に別々に設けられており、運転者は、各操作レバーを独立して操作することによって、車両を走行させる。しかし、前後進切換レバーとアクセル操作レバーとが別体の構成であると、これらを間違えて操作する恐れがあることから、特許文献1に示すように、操作レバーを1つにしたもの(ワンレバー式)も開発されている。
【0003】
この特許文献1記載の軌条運搬車では、カム構造及びリンクワイヤを利用して、操作レバーの中立位置からの前後動をトランスミッションの前後進切換桿に伝達するとともに、操作レバーの傾動角度に応じてエンジンのスロットル桿を動かすようにしている。また、クラッチの断接には、電動アクチュエータを用いている。
【0004】
ところで、軌条運搬機はそもそも傾斜地に設置されるものであることから、軌条の途中のみならず、始点や終点でもきつい傾斜角度で停止することがしばしばある。そのため、停止状態では、安全上、必ずブレーキを作動させる必要がある。そこで従来は、リミットスイッチなどによって操作レバーが中立位置にあることを検知し、その際には、電磁ブレーキを強制的に作動させるように構成している。
【特許文献1】特開平10−203356
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワンレバー式のものでは、ブレーキの解放タイミングとクラッチの接続タイミングがずれて設定されていると、ずり落ちやエンジンストールが生じ得る。すなわち、例えば発進時において、ブレーキの解放タイミングの方がクラッチ接続タイミングよりも一定以上早くなると、一時的に駆動輪がフリー又はそれに近い状態になり、車両の自然落下によるずり落ちが生じ得る。これは安全性に問題はないにしても乗員に恐怖感を与え得るため、好ましいものではない。また、ブレーキの解放タイミングが遅いと、クラッチがつながっても駆動輪がロック状態のままであるため、スロットルを操作できない以上、エンジンストールが生じ得る。
【0006】
したがって、ブレーキ解放タイミングとクラッチ接続タイミングとをアジャストする必要があるが、電磁ブレーキは、ほぼ一瞬で作動/解放が切り替わるため、前記タイミングのずれに対する許容幅は、半クラッチ幅でのみ規定される非常に小さいものとなる。しかも、積み荷の重量や傾斜が増すほどに、そのずれの許容幅はさらに小さくなるので、実際には、製造時にブレーキの解放タイミングとクラッチの接続タイミングとを正確に合わせるための、多大な労力や時間、費用が必要となる。
【0007】
さらに、この種の軌条運搬車は、そもそも山間など屋外での過酷な条件下で使用されるものであって、そのような軌条運搬車に、電動アクチュエータやリミットスイッチなどの電子部品を用いるのは、動作の信頼性や故障等の観点から決して好ましいものではない。
【0008】
本発明は、かかる問題点を一挙に解決すべくなされたものであって、ワンレバーで主要運転操作を全て行えるようにするとともに、ずり落ちやエンジンストールを容易な調整で回避でき、しかも動作の信頼性に富む安価な軌条運搬車を提供することをその主たる所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点を解決すべくなされた本発明は、エンジンと、駆動輪と、それらの間に設けられたクラッチ及び前後進切換用のギヤ式トランスミッションとを有し、軌条上を往復動する軌条運搬車であり、基軸、単一の運転操作レバー、レバー動作制限機構、第1〜第4の機械リンク機構を備えている。
【0010】
基軸は、例えば運転席の床下に左右水平に取りつけられたものである。
【0011】
運転操作レバーは、前記基軸に取りつけられて、当該基軸を中心とした回転移動及び当該基軸に沿ったスライド移動ができるように支持されたものである。
【0012】
レバー動作制限機構は、運転操作レバーの動作範囲を、スライドについては、回転方向に予め定めた第1角度の状態でのみ、軸方向に予め定めた第1位置と第2位置との間で移動可能に制限するとともに、回転については、軸方向に前記第1位置又は第2位置にある状態でのみ、前記第1角度と予め定めた第2角度との間で移動可能に制限するものである。
【0013】
第1の機械リンク機構は、前記運転操作レバーの回転動作をエンジンの出力制御桿に伝達するものであって、前記運転操作レバーが第1角度にあるときにはエンジン出力を低状態にし、運転操作レバーが第2角度にあるときにはエンジン出力を高状態にするものである。
【0014】
第2の機械リンク機構は、前記運転操作レバーのスライド動作を、前記トランスミッションに設けられた前後進切換桿に伝達するものであって、運転操作レバーが第1位置にあるときには前後進切換桿を前進位置に設定し、運転操作レバーが第2位置にあるときには前後進切換桿を後進位置に設定するものである。
【0015】
第3の機械リンク機構は、前記運転操作レバーの回転動作をクラッチに伝達するものであって、第1角度から第2角度側への一定範囲に広がるクラッチ切断領域に運転操作レバーが位置したときにはクラッチを完全に切断し、第2角度から第1角度側への一定範囲に広がるクラッチ接続領域に運転操作レバーが位置したときにはクラッチを完全に接続し、クラッチ切断領域とクラッチ接続領域との間の領域である半クラッチ領域に運転操作レバーが位置したときには、当該運転操作レバーの角度が第2角度に近づくほどクラッチの接続力を強めるように設定するものである。
【0016】
第4の機械リンク機構は、前記運転操作レバーの回転動作をブレーキに伝達するものであって、第1角度から第2角度側への一定範囲に広がるブレーキ作動領域に運転操作レバーが位置したときにはブレーキを完全に作動させ、第2角度から第1角度側への一定範囲に広がるブレーキ解放領域に運転操作レバーが位置したときにはブレーキを完全に解放し、ブレーキ作動領域とブレーキ解放領域との間の領域である半ブレーキ領域に運転操作レバーが位置したときには、当該運転操作レバーの角度が第1角度に近づくほどブレーキの作動力を強めるように設定するものである。
【0017】
そして、前記半ブレーキ領域と半クラッチ領域との一部同士が少なくとも重合するように構成している。
【0018】
このようなものであれば、停止状態からの発進過程において、駆動輪には、ブレーキ又はエンジンからの拘束力が常に作用して、フリーになることは決してなく、例えば、傾斜地に停車して、そこから発進するときに、車両が一時的にでも自然落下するような事態は生じ得ない。また、半ブレーキ領域と半クラッチ領域とが重合しているのであって、駆動輪がロックされた状態でエンジンにリジッドに接続されることがないため、エンジンストール発生も回避できる。前後進状態から停止に至る過程でも同様である。
【0019】
しかも、機械リンク機構によるブレーキとクラッチとの駆動であり、それらの作動と非作動が、アナログ的に穏やかに切り替わるため、半ブレーキ領域と半クラッチ領域とが、いずれも比較的大きな領域となる。そのため、車両の自然落下防止とエンジンストール防止の双方を成り立たせるための重合調整を、従来の電磁ブレーキを用いているときのようにシビアに行う必要はなく、ある程度の幅を持って容易に行うことができる。
【0020】
また、1つの運転操作レバーのみで、軌条運搬車の前後進・停止操作を行えることから、操作ミスを軽減できる。さらに、電子部品等を使用することなく、運転操作レバーから1本の基軸を介して機械的にエンジンやクラッチ、ブレーキを駆動するため、構造を極めて簡単にでき、確実な動作と故障の低減化を図ることができる。
【0021】
ずり落ち等を確実に防止するには、前記ブレーキ領域の一部を、半クラッチ領域の一部に重合するように構成してもよいし、さらには、前記半ブレーキ領域をクラッチ接続領域の一部に重合させてもよい。
【0022】
運転操作レバーを、外力の加わらない状態では、第1角度又は第2角度のいずれかに維持されるようにしておけば、停止状態や走行状態での、手を離すことなどによる不測の運転操作レバーの移動を防止して、安全性を高めることができる。この構造を、部品点数を少なくしてより簡単に実現するには、前記第3の機械リンク機構が、弾性部材を利用した思案点を有する構造であり、その思案点より第1角度側に運転操作レバーが位置したときには、前記弾性部材の弾性力により、当該運転操作レバーが第1角度に向かって付勢され、前記思案点より第2角度側に運転操作レバーが位置したときには、前記弾性部材の弾性力により、当該運転操作レバーが第2角度に向かって付勢されるように構成されているものが好ましい。
【0023】
さらに、この思案点構造を利用すれば、車両の行き過ぎなどを防止する安全機構をも簡単に構成できる。具体的には、ボディに回転可能に設けられた安全バーと、その安全バーの回転動作を基軸を介して運転操作レバーに伝達する第5の機械リンク機構とを有した強制停止を行うための安全機構を更に備え、その安全機構が、軌条に設けた強制停止用突起に安全バーが接触して基準位置から一定角度以上回転すると、その回転が第5の機械リンク機構によって運転操作レバーに伝達され、前記思案点よりも第1角度側に当該運転操作レバーを傾動させるように構成されているものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように構成した本発明によれば、ワンレバーで主要運転操作を全て行うことができるだけでなく、ずり落ち及びエンジンストールを容易な調整で回避でき、しかも信頼性が高い安価な軌条運搬車を実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態による軌条運搬車100は、図1に示すように、整地の難しい山林地帯等に設置された軌条200上を往復走行して人員や物品を運搬するものであって、動力車101とそれに連結される1又は複数の台車102とからなる。台車102は既存のもので、乗用タイプのものや物品搬送用のものなどがある。
【0027】
動力車101は、図2、図3に示すように、走行駆動源たるエンジン1と、走行方向を前後に切り換えるためのトランスミッション2と、クラッチ3と、走行駆動輪4と、運転操作装置5と、メインブレーキ6とをシャーシSHに搭載したものである。
【0028】
各部を説明する。
【0029】
エンジン1は、図3に示すように、スロットルを開閉しその出力を制御するための出力制御桿11や、その他、図示しない排気管等を有する既知のものである。なお、出力制御桿11は、エンジン1がガソリン式のものならばスロットルバルブを開閉させるものに相当し、ディーゼル式のものならばガバナーを駆動するものに相当する。
【0030】
トランスミッション2は、図3に示すように、内部に図示しないギヤ列を有したボディ21と、そのボディ21の上面に取りつけられた前後進切換桿22とを有したものである、前後進切換桿22は、前進位置、中立位置、後進位置の間で支持軸25を中心に水平に回転可能なものであり、前進位置と後進位置とでは、当該トランスミッション2の入力軸23の回転に対する出力軸24の回転方向が正逆反転し、中立位置では、内部ギヤの噛合が解除されて、入力軸23と出力軸24との接続が切断される。
【0031】
クラッチ3は、図3、図4、図6、図7等に示すようにエンジン1の出力軸12とトランスミッション2の入力軸23とを断接可能に連結するものであり、本実施形態ではベルト式のテンションクラッチと呼ばれるものを採用している。このクラッチ3は、具体的には、エンジン1の出力軸12に連結した入力側プーリ31と、トランスミッション2の入力軸23に連結した出力側プーリ32と、それらプーリ31,32の間に掛け渡したベルト33と、そのベルト33のテンションを増減するテンションプーリ34を具備したものである。テンションプーリ34は、支持アーム35の先端部に取りつけられており、この支持アーム35の基端部は、シャーシSHによって回動可能に支持されている。そして、この支持アーム35が正逆回動することで、テンションプーリ34が押圧位置と退避位置との間で移動するように構成してある。しかして押圧位置及びその近傍では、図6に示すように、テンションプーリ34がベルト33に押し付けられることでベルトテンションが増大し、エンジン出力軸12の回転がトランスミッション入力軸23に伝えられる(クラッチ接続状態)。退避位置及びその近傍では、図7に示すように、テンションプーリ34はベルト33を押圧せず、ベルトテンションは減少してエンジン出力軸12の回転はトランスミッション入力軸23には伝わらない(クラッチ切断状態)。また、その中間では、テンションプーリ34の位置に応じて、伝達力が変化する半クラッチ状態となる。
【0032】
メインブレーキ6は、図3、図8、図9等に示すように、走行駆動輪4をロックする機械式のものであり、本体62に付帯されたブレーキレバー61を傾動させることによってブレーキ6の作動/解放が行われる。作動位置と解放位置との間では、ブレーキレバー61の傾動角度に応じてブレーキ力が変動する半ブレーキ状態となる。
【0033】
走行駆動輪4は、図3に示すように、トランスミッション2の出力軸24に連結されるもので、軌条200の下面に設けたラック歯201に噛合しながら回転する。
【0034】
運転操作装置5は、図3、図4等に示すように、シャーシSHに取りつけられた基軸51と、その基軸51によって回転移動及びスライド移動可能に支持された運転操作レバー52と、その運転操作レバー52の動作範囲及び軌道を制限するレバー動作制限機構(貫通溝)53と、基軸51にそれぞれ取りつけられて、前記運転操作レバー52の動作を、電機部品や液圧回路などを用いず、機械部品のみで、エンジン1、クラッチ3、トランスミッション2、ブレーキ6にそれぞれ伝達する第1〜第4の機械リンク機構54〜57とを備えている。
【0035】
基軸51は、図3、図4等に示すように、運転席の床板の下方において左右水平に延伸するものであり、自身の軸線C(図6、図7参照)を中心に回転可能なようにシャーシSHに両端を支持されている。
【0036】
運転操作レバー52は、図4、図5等に示すように、前記基軸51に回転かつスライド可能に外嵌する円筒部52aと、その円筒部52aから上方に延びて運転席の床板に設けた貫通溝53から上方に突出する操作レバー本体52bとを備えたものである。さらにこの実施形態では、運転操作レバー52と基軸51を同期回転させるための同期回転機構を設けている。この同期回転機構7は、運転操作レバー52の両側方において基軸51に固定され、ラジアル方向に延伸する一対の延伸部材71と、各延伸部材71間に基軸51と平行に架橋された案内バー72と、運転操作レバー52に設けられて前記案内バーにスライド可能に外嵌する貫通穴73とから構成されたものである。この同期回転機構7により、運転操作レバー52の回転動作は案内バー、延伸部材を介して基軸51に伝達される一方、運転操作レバー52のスライド動作をこの同期回転機構7が阻害することはない。
【0037】
レバー動作制限機構は、図5に示すように、主として、運転席の床板に設けた前記貫通溝53がその機能を果たす。この貫通溝53は、操作レバー本体52bの径より若干大きい幅を有したものであり、平面視、前後に延びる一対の平行な縦溝部53a、53bと、それら縦溝部53a、53bの前端同士を繋ぐ横溝部53cとからなる。そして運転操作レバー52は、この貫通溝53に沿ってのみ動く。より具体的には、運転操作レバー52は、前記基軸51周りに回転動作(傾動動作)することで縦溝部53a、53bに沿って動く一方、基軸51に沿ってスライド動作することで横溝部53cに沿って動く。なお、運転操作レバー52が縦溝部53a、53bの前端に位置するときの当該運転操作レバー52の角度を第1角度α1、縦溝部53a、53bの後端に位置するときの当該運転操作レバー52の角度を第2角度α2とする。また、運転操作レバー52が横溝部53cの左端に位置するときの当該運転操作レバー52の横方向の位置を第1位置P1(図5(a)参照)、右端に位置するときの当該運転操作レバー52の横方向の位置を第2位置P2(図5(c)参照)とする。
【0038】
第1の機械リンク機構54は、図3に示すように、運転操作レバー52の回転動作をエンジン1の出力制御桿11に伝達するものであって、基軸51に接続されて前記運転操作レバー52の回転動作に伴って変位する部材(より具体的には、後述する第4の機械リンク機構57の押圧桿57eと、エンジン1の出力制御桿11とを連結するリンクワイヤ54aを具備してなる。そして、前記運転操作レバー52が第1角度α1にあるときにはスロットルを閉じ、運転操作レバー52が第2角度α2にあるときにはスロットルを開くように設定されている。
【0039】
第2の機械リンク機構55は、前記運転操作レバー52のスライド動作を、前記トランスミッション2の前後進切換桿22に伝達するものであって、図4、図5等に示すように、前後進切換桿22の先端部から鉛直に起立する連結バー55aと、前記運転操作レバー52の円筒部52aに設けられ、連結バー55aの先端部に前後方向にスライド可能に係合する係合溝55bとを具備してなる。そして、運転操作レバー52を第1位置P1に位置づけたときには、前後進切換桿22が前進位置に位置づけられ(図5(a)参照)、運転操作レバー52を第2位置P2に位置づけたときには、前後進切換桿22が後進位置に位置づけられる(図5(c)参照)ように構成してある。また、その中間では、ニュートラル(図5(b)参照)となる。
【0040】
第3の機械リンク機構56は、図4、図6、図7等に示すように、前記運転操作レバー52の回転動作をクラッチ3の断接部材たるテンションプーリ34に伝達するものであって、基軸51に固定されてラジアル方向に延伸する回転アーム56aと、その回転アーム56aの先端部に一端部を回転可能に連結されたコの字型をなす中間連結部材56bと、その中間連結部材56bの他端部に回転可能に一端部を連結された弾性部材(コイルバネ)56cと、その弾性部材56cの他端部に一端部を回転可能に連結され、他端部をテンションプーリ34に回転可能に連結された長さ調節可能な調整アーム56dとを備えている。そして、運転操作レバー52を第2角度α2から第1角度α1側への一定範囲に広がるクラッチ接続領域(図6、図10参照)に位置付けたときには、回転アーム56aの先端連結点が後方へ回動するとともに、中間連結部材56b、弾性部材56c(コイルバネ)、調整アーム56dを介してテンションプーリ34が押圧位置又はその近傍にまで持ち上げられ、クラッチ3が完全に接続される。その一方、運転操作レバー52を第1角度α1から第2角度α2側への一定範囲に広がるクラッチ切断領域(図7、図10参照)に位置づけたときには、回転アーム56aの先端連結点が前方へ回動し、テンションプーリ34が退避位置又はその近傍にまで下降してクラッチ3が完全に切断されるように構成されている。そして、クラッチ切断領域とクラッチ接続領域との間の領域である半クラッチ領域(図10参照)に運転操作レバー52が位置したときには、運転操作レバー52の角度に応じてクラッチ3の接続力が変わるように構成されている。
【0041】
なお、さらに説明を付加しておけば、かかる第3の機械リンク機構56は、思案点を有する構造となっている。すなわち、第3の機械リンク機構56におけるテンションプーリ34との連結点Aと、回転アーム56aの先端連結点Bとを結んだ直線L1が、側面から見て、基軸51の軸線C上にあるときが思案点であり、前記直線L1が、基軸軸線Cよりもテンションプーリ34の回動支点D側(この実施形態では下側であり、運転操作レバー52でいうと、第2角度α2側)に位置すると、前記弾性部材56cの弾性引張力により、当該運転操作レバー52が第2角度α2に向かって付勢される一方、前記直線L1が、反対側(この実施形態では上側であり、運転操作レバー52でいうと、第1角度α1側)に位置すると、前記弾性部材56cの弾性引張力により、当該運転操作レバー52が第1角度α1に向かって付勢されるように構成されている。なお、この実施形態では、図6に示すように、思案点は第2角度α2の近傍に設定されている。
【0042】
第4の機械リンク機構57は、図4、図8、図9等に示すように、基軸51に固定されてラジアル方向に延伸する回転アーム57aと、その回転アーム57aの先端部に一端部を回転可能に連結されたコの字型をなす中間連結部材57bと、その中間連結部材57bの他端部に回転可能に一端部を連結された長さ調節可能な調整アーム57dと、その調整アーム57dの他端部に回転可能に一端部を連結され、シャーシSHに回転可能に他端部を連結されたL字型をなす押圧桿57eとを備えている。この押圧桿57eのL字コーナ部分には、ブレーキレバー61に接する円盤状の押圧体57fが固定されており、運転操作レバー52の回動操作に伴って、押圧体57fが移動し、ブレーキレバー61を駆動する。具体的には、運転操作レバー52を、第1角度α1から第2角度α2側への一定範囲に広がるブレーキ作動領域(図8、図10参照)に位置付けたときには、ブレーキレバー61をブレーキ位置又はその近傍に駆動してブレーキ6を完全に作動させる一方、運転操作レバー52を第2角度α2から第1角度α1側への一定範囲に広がるブレーキ解放領域(図9、図10参照)に位置付けたときには、ブレーキレバー61を解放位置又はその近傍に駆動してブレーキ6を完全に解放する。また、前記ブレーキ作動領域とブレーキ解放領域との間の領域である半ブレーキ領域(図10参照)に運転操作レバー52が位置したときには、当該運転操作レバー52の角度が第1角度α1に近づくほどブレーキ6の作動力を強めるように設定する。なお、図中符号63は、一端をシャーシSH、他端をブレーキレバー61に押し当てた押しバネであり、ブレーキレバー6を押圧体57f側に付勢し、常に該押圧体57fに添接させるためのものである。
【0043】
さらにこの実施形態では、図4、図8等に示すように、安全機構8を設けている。この安全機構7は、車両のシャーシSHに回転可能に設けられた安全バー81と、その安全バー81の回転動作を基軸51を介して運転操作レバー52に伝達する第5の機械リンク機構82とを有したものである。第5の機械リンク機構82は、基軸51に固定されてラジアル方向に延伸する被作動アーム82aと、この被作動アーム82aに接離可能に接触して回転力を与える、安全バー81に固定された作動アーム82bとからなる。被作動アーム82aと作動アーム82bとは、基準位置において延伸方向が略直角となり、互いの先端部を接触させている。具体的には、被作動アーム82aにおける先端接触部輪郭が側面視、凹んだ概略放物線形状をなし、その凹んだ先端部に、作動アーム82bの先端に設けたローラ82cが嵌り込むように構成されている。このことにより、安全バー81、すなわち作動アーム82bの基準位置からの正逆いずれの回動に拘わらず、被作動アーム82aは、一定方向、すなわち基軸51を介して運転操作レバー52第1角度α1の方に傾動させる向きに回転する。そして、軌条200に設けた強制停止用突起(図示しない)に安全バー81が接触して基準位置から一定角度以上回転すると、その回転が作動アーム82b、被作動アーム82aを介して基軸51に伝達され、前記思案点よりも第1角度α1側に当該運転操作レバー52を傾動させるように構成されている。この結果、運転操作レバー52は第1角度α1に強制的に戻され、ブレーキ6が作動することとなる。
【0044】
次に、このように構成した軌条運搬車100の動作について説明する。
【0045】
まず、停止状態では、運転操作レバー52が横溝部53c、すなわち第1角度α1にあって、エンジン1はアイドリング状態、クラッチ3は切断状態、ブレーキ6は作動状態にある。
【0046】
ここから例えば、横溝部53cに沿って運転操作レバー52を横向きに第1位置P1にまでスライド移動させると、第2の機械リンク機構55により、そのスライド動作がトランスミッション2の前後進切換桿22に伝達され、トランスミッション2が前進に設定される。なお、この状態で乗員が運転操作レバー52から手を離しても、前記第3の機械リンク機構56の思案点構造によって、運転操作レバー52は第1角度α1側に付勢されているため、当該運転操作レバー52が勝手に第2角度α2に向かって動くことはない。
【0047】
次に、乗員は、この第1角度α1にある運転操作レバー52を縦溝部53aに沿って第2角度α2に向かって動かす。そうすると、ブレーキ6が解除されるとともに、クラッチ3が接続され、クラッチ接続領域に入った近傍から、運転操作レバー52の第2位置α2への傾動角度に応じてスロットルが徐々に開き(図10参照)、軌条運搬車100は前進することとなる。
【0048】
停止するときは、第2角度α2から運転操作レバー52を第1角度α1に戻す。このことにより、ブレーキ6が作動するとともに、クラッチ3が切断され、スロットルが閉じて、軌条運搬車100は停止することとなる。後進についても同様である。
【0049】
ところで、停止状態、すなわち運転操作レバー52が第1角度α1にある状態から、前進又は後進のために、運転操作レバー52を第2角度α2に傾動させると、その過程で、ブレーキ6が作動状態から半ブレーキ状態に移行するとともに、クラッチ3が切断状態から半クラッチ状態に移行する。しかしてこの実施形態では、図10に示すように、半ブレーキ領域と半クラッチ領域の少なくとも一部同士が重合するように構成している。要は、ブレーキ6とクラッチ3とがアナログ的に緩やかに切り替わるように構成してある。したがって、停止状態からの発進過程において、走行駆動輪4には、ブレーキ6又はエンジン1からの拘束力が常に作用して、フリーになることは決してなく、例えば、傾斜地に停車して、そこから発進するときに、車両が一時的にでも自然落下するような事態は生じ得ない。また、半ブレーキ領域と半クラッチ領域とが重合しているのであって、走行駆動輪4がロックされた状態でエンジン1にリジッドに接続されることがないため、エンジンストールも回避できる。進行状態から停止に至る過程でも同様である。
【0050】
しかも、半ブレーキ領域と半クラッチ領域とは、いずれも比較的大きな領域であることから、車両の自然落下防止とエンジンストール防止の双方を成り立たせるための重合調整を、従来の電磁ブレーキを用いているときのようにシビアに行う必要はなく、ある程度の幅を持って容易に行うことができる。なお、この調整は、第3、第4の機械リンク機構56、57における調整アーム56d、57dの長さ調節によって行う。
【0051】
また、この実施形態によれば、ワンレバーのみで、軌条運搬車100の前後進・停止操作を行えることから、操作ミスを軽減できる。
さらに、電子部品等を使用することなく、運転操作レバー52から1本の基軸51を介してエンジン1やクラッチ3、ブレーキ6を全て機械リンク機構によって駆動するため、構造を極めて簡単にでき、しかも確実な動作と故障の低減化を促進することができるようになる。
【0052】
なお、本発明は前記実施形態に限られたものではない。
【0053】
例えば、走行駆動輪をより確実にフリーにしないためには、エンジンストールが生じない範囲で、ブレーキ領域の一部を半クラッチ領域の一部に重合させればよいし、さらには半ブレーキ領域をクラッチ接続領域の一部に重合させても構わない。
【0054】
その他、本発明は、図示例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態における軌条運搬車の全体図。
【図2】同実施形態における軌条運搬車の動力車を示す斜視図。
【図3】同実施形態における軌条運搬車の動力伝達構造を示す概略図。
【図4】同実施形態における軌条運搬車の動力伝達構造を示す斜視概略図。
【図5】同実施形態における運転操作装置の前後進切替動作を説明するための動作説明図。
【図6】同実施形態における運転操作装置のクラッチ接断動作を説明するための動作説明図。
【図7】同実施形態における運転操作装置のクラッチ接断動作を説明するための動作説明図。
【図8】同実施形態における運転操作装置のブレーキ動作を説明するための動作説明図。
【図9】同実施形態における運転操作装置のブレーキ動作を説明するための動作説明図。
【図10】同実施形態における運転操作レバーの操作領域を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0056】
100・・・軌条運搬車
1・・・エンジン
11・・・出力制御桿
2・・・トランスミッション
22・・・前後進切換桿
3・・・クラッチ
4・・・走行駆動輪
51・・・基軸
52・・・運転操作レバー
53・・・レバー動作制限機構
54・・・第1の機械リンク機構
55・・・第2の機械リンク機構
56・・・第3の機械リンク機構
56c・・・弾性部材
57・・・第4の機械リンク機構
6・・・ブレーキ
81・・・安全バー
82・・・第5の機械リンク機構
α1・・・第1角度
α2・・・第2角度
P1・・・第1位置
P2・・・第2位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、駆動輪と、それらの間に設けられたクラッチ及び前後進切換用のギヤ式トランスミッションとを有し、軌条上を往復動する軌条運搬車であって、
基軸と、
前記基軸に取りつけられて、当該基軸を中心とした回転移動及び当該基軸に沿ったスライド移動ができるように支持された運転操作レバーと、
運転操作レバーの動作範囲を、スライドについては、回転方向に予め定めた第1角度の状態でのみ、軸方向に予め定めた第1位置と第2位置との間で移動可能に制限するとともに、回転については、軸方向に前記第1位置又は第2位置にある状態でのみ、前記第1角度と予め定めた第2角度との間で移動可能に制限するレバー動作制限機構と、
前記運転操作レバーの回転動作をエンジンの出力制御桿に伝達するものであって、前記運転操作レバーが第1角度にあるときにはエンジン出力を低状態にし、運転操作レバーが第2角度にあるときにはエンジン出力を高状態にする第1の機械リンク機構と、
前記運転操作レバーのスライド動作を、前記トランスミッションに設けられた前後進切換桿に伝達するものであって、運転操作レバーが第1位置にあるときには前後進切換桿を前進位置に設定し、運転操作レバーが第2位置にあるときには前後進切換桿を後進位置に設定する第2の機械リンク機構と、
前記運転操作レバーの回転動作をクラッチに伝達するものであって、第1角度から第2角度側への一定範囲に広がるクラッチ切断領域に運転操作レバーが位置したときにはクラッチを完全に切断し、第2角度から第1角度側への一定範囲に広がるクラッチ接続領域に運転操作レバーが位置したときにはクラッチを完全に接続し、クラッチ切断領域とクラッチ接続領域との間の領域である半クラッチ領域に運転操作レバーが位置したときには、当該運転操作レバーの角度が第2角度に近づくほどクラッチの接続力を強めるように設定する第3の機械リンク機構と、
前記運転操作レバーの回転動作をブレーキに伝達するものであって、第1角度から第2角度側への一定範囲に広がるブレーキ作動領域に運転操作レバーが位置したときにはブレーキを完全に作動させ、第2角度から第1角度側への一定範囲に広がるブレーキ解放領域に運転操作レバーが位置したときにはブレーキを完全に解放し、ブレーキ作動領域とブレーキ解放領域との間の領域である半ブレーキ領域に運転操作レバーが位置したときには、当該運転操作レバーの角度が第1角度に近づくほどブレーキの作動力を強めるように設定する第4の機械リンク機構と、を備え、
前記半ブレーキ領域と半クラッチ領域との一部同士が少なくとも重合するように構成していることを特徴とする軌条運搬車。
【請求項2】
前記ブレーキ領域の一部が半クラッチ領域の一部に重合するように構成していることを特徴とする請求項1記載の軌条運搬車。
【請求項3】
前記半ブレーキ領域をクラッチ接続領域の一部に重合させている請求項1又は2記載の軌条運搬車。
【請求項4】
前記第3の機械リンク機構が、弾性部材を利用した思案点を有する構造であり、その思案点より第1角度側に運転操作レバーが位置したときには、前記弾性部材の弾性力により、当該運転操作レバーが第1角度に向かって付勢され、前記思案点より第2角度側に運転操作レバーが位置したときには、前記弾性部材の弾性力により、当該運転操作レバーが第2角度に向かって付勢されるように構成されている請求項1、2又は3記載の軌条運搬車。
【請求項5】
車両のシャーシに回転可能に設けられた安全バーと、その安全バーの回転動作を基軸を介して運転操作レバーに伝達する第5の機械リンク機構とを有した強制停止を行うための安全機構を更に備え、
その安全機構が、軌条に設けた強制停止用突起に安全バーが接触して基準位置から一定角度以上回転すると、その回転が第5の機械リンク機構によって運転操作レバーに伝達され、前記思案点よりも第1角度側に当該運転操作レバーを傾動させるように構成されている請求項4記載の軌条運搬車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−110207(P2009−110207A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280937(P2007−280937)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(592158316)
【Fターム(参考)】