説明

乳化剤系、そのエマルジョンおよびその使用

本発明は、a)長鎖脂肪酸を有するアスコルビン酸エステル、b)エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、およびc)糖脂肪酸エステルを含有する乳化剤系、ならびに本発明の乳化剤系を用いて調製されたエマルジョンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、a)長鎖脂肪酸を有するアスコルビン酸エステルと、b)エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルと、c)糖脂肪酸エステルとを含んでなる乳化剤系に関する。成分a)、b)およびc)の合計は100重量%である。
【0002】
本発明はさらに、α)脂溶性物質α)を含む分散相と、β)分散媒体としてのグリセロールまたはグリセロールと水の混合物と、γ)本発明の乳化剤系とを含んでなるエマルジョンに関する。成分α)、β)、γ)の合計は、エマルジョンを基準にして100重量%である。
【0003】
本発明はさらに、本発明エマルジョンの調製方法、ならびにヒト食品、動物飼料、化粧品、または医薬品産業でのその使用に関する。本発明のさらなる実施形態は、その特許請求の範囲、詳細な説明および実施例から推量されるべきである。本発明が関わり、上記で言及した、また以下で説明される構成は、それぞれのケースで示されている組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも、本発明の範囲から逸脱することなく用いることができることは理解されるであろう。
【背景技術】
【0004】
ドイツ特許(特許文献1)には、糖を含有するビタミンおよびカロテノイドの液体製品の調製が記載されている。この乳化にはレシチンやパルミチン酸アスコルビルのような生理学的に許容されている乳化剤が用いられている。このような製品の一つの欠点は、例えば製品を低温に貯蔵しておくと、糖または糖アルコールが結晶化する傾向があることである。この結晶化する傾向は、望ましくない不均質をもたらす。
【0005】
欧州特許(特許文献2)は、脂溶性物質の液体製品を最大貯蔵期間(>6ヶ月)に亘って安定化させることに関する。この目的のために、アスコルビン酸と長鎖脂肪酸とのエステルが乳化剤として提案されている。しかしながら、このエマルジョンは冷蔵を必要とする。そのため、輸送コストが高くなり、取り扱いも難しくなる。
【0006】
日本特許(特許文献3)には、脂溶性物質のエマルジョンのための乳化剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いることおよび糖脂肪酸エステルを用いることが開示されている。
【0007】
日本特許(特許文献4)には、カロテノイドエマルジョンのための乳化剤としてソルビタン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルを用いることが開示されている。
【0008】
韓国特許(特許文献5)には、カロテノイドエマルジョンのための乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステルを用いることおよびソルビタン脂肪酸エステルを用いることが開示されている。最大3%のβ−カロテン濃度が達成されている。
【0009】
欧州特許(特許文献6)では、分散相の凝固を防ぐことについての問題が取り扱われている。この問題は、脂溶性物質の水性液体製品を安定化させるための方法を提供することによって解決されている。これには、保護コロイドを含まない水中油型エマルジョンを、保護コロイドを含む脂溶性物質と混合することが必要である。この調製物は水相とブレンドされる。保護コロイドは、高分子量安定化剤である。熱安定性および貯蔵安定性の問題は、これによっては解決されない。
【0010】
欧州特許(特許文献7)には、グリセロール/水混合物を分散媒体とし、脂溶性医薬を分散相とする極めて微細なエマルジョンが記載されている。安定化剤としては、分子量が1000以上の非イオン性安定化剤が用いられている。このケースでの分散相の平均粒子サイズは、10〜70nmである。実施例に記載されるエマルジョンは、たった3ヶ月後には変化を見せる。熱安定性および貯蔵安定性の問題は、これによっては解決されない。このケースでも冷却を必要とするからである。
【特許文献1】独国特許第2363534号
【特許文献2】欧州特許第551638号
【特許文献3】特公第2000 212066号
【特許文献4】特公第08 120187号
【特許文献5】韓国特許第20020018518号
【特許文献6】欧州特許第1095986号
【特許文献7】欧州特許第361928号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的の一つは、可能なかぎり多様な使用可能性を意図した乳化剤系を提供することである。特に、本乳化剤系は、生理学的に許容されるエマルジョンを調製するために使用可能であることを意図としている。この乳化剤系は、特に、以下の望まれるプラスの特性:
・ 脂溶性物質の高い濃度、
・ 貯蔵安定性、
・ 温度非感受性、および
・ 高い安定性と色彩強度、
を有するエマルジョンをもたらすことが意図される。
【0012】
本発明の特別の目的は、高含有量(好ましくは、エマルジョンの2.0重量%以上、しかし可能なら10重量%以上に達する)の脂溶性物質を含むエマルジョンを提供することであった。このエマルジョンは、室温および約40℃までの昇温のどちらでも貯蔵が可能であるように、高い貯蔵安定性を有していることが意図される。本発明のさらなる目的は、飲料への導入時のエマルジョンの安定性を改善すること、およびこの飲料中での貯蔵安定性を改善することであった。このエマルジョンは、特に、飲料の中に導入された後も、また低温殺菌工程の後も安定であるべきである。さらに、本発明のエマルジョンは、例えば飲料業界で必要とされる高い相対色彩強度と色彩安定性を有していることが望ましい。このエマルジョンは、ヒトまたは動物用栄養食品、化粧品または医薬品産業で使用する場合に静菌性であることが特に意図される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、冒頭で記載した本発明による乳化剤系によって、また冒頭で記載した本発明によるエマルジョンによって達成された。
【0014】
乳化剤は、エマルジョンを調製するための、またエマルジョンを安定化させるための助剤である。エマルジョンとは、液・液混合物を意味する。安定化とは、分散相α)と分散媒体β)が分離して熱力学的に安定な最終状態を生じることを防ぐことを意味する。分散相とは、本発明との関連では、エマルジョンの微細に分散された相のことを意味する。エマルジョンの連続相とは、本発明との関連では、分散媒体を意味する。本発明の乳化剤系は、分散助剤として用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の乳化剤系は、3種の乳化剤を含んでなる。本発明の乳化剤系は、さらなる成分を含んでいてもよい。本発明の乳化剤系の全成分を合わせると、乳化剤系を基準にして合計100重量%になる。
【0016】
アスコルビン酸エステルが乳化剤a)として用いられる。本発明によれば長鎖アルキルエステル、例えばC10〜C20−アルキルエステルが用いられる。好ましい乳化剤a)の実施形態は、C16〜C18−アルキル基を有するアスコルビン酸エステルである。特に好ましい実施形態では、パルミチン酸アスコルビル(C16−アルキルエステル)が乳化剤a)として用いられる。
【0017】
本発明の乳化剤系中には1種以上の異なる乳化剤a)、例えば2種または3種の異なる乳化剤a)が存在していてもよい。これには、乳化剤系中のアスコルビン酸エステルの本発明濃度から逸脱しないことが必要である。本発明の乳化剤系には、好ましくはただ1種の乳化剤a)が、特にパルミチン酸アスコルビルを用いる実施形態では、使用される。
【0018】
本発明の乳化剤系中の乳化剤a)の比率は、広い範囲内で変化し得る。乳化剤a)は、好ましくは30重量%〜70重量%の濃度で、特に好ましくは40重量%〜60重量%の濃度で存在している(ここで、重量%データは、それぞれの場合、本発明の乳化剤系を基準にしている)。
【0019】
乳化剤a)の効果、特に乳化剤a)としてのパルミチン酸アスコルビルの効果は、塩を形成させることによって、通常アルカリ金属塩、特にナトリウム塩を形成させることによって増大させることができる。この目的のためには、アスコルビン酸エステルに、水酸化ナトリウム溶液が、通常0.5〜2モル量で、好ましくは1モル量で加えられる。特に、エステルと塩の混合物を用いるのが好ましい。
【0020】
乳化剤b)として一般的に適しているのは、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステルである。乳化剤b)は、一般的には、10〜18のHLB値を有している。好ましい乳化剤b)は、一般化学構造式:
【化1】

【0021】
を有する。長鎖アルキル基とは、一般的には、C10〜C20−アルキル基を意味し、また特にはC16〜C18−アルキル基を意味する。
【0022】
好ましい実施形態は、エトキシル化ソルビタンオレイン酸モノエステルである。乳化剤b)は、特に好ましい実施形態では、次の一般化学構造式:
【化2】

【0023】
を有する。モノエステルの比率は、一般的には、55重量%以上、好ましくは70重量%〜85重量%、特に好ましくは75重量%〜85重量%である。乳化剤b)は、好ましくは非イオン性である。
【0024】
本発明の乳化剤系中には1種以上の異なる乳化剤b)、例えば2種または3種の異なる乳化剤b)、が存在していてもよい。好ましくは本発明の乳化剤系にはただ1種の乳化剤b)を用いる。
【0025】
本発明の乳化剤系中の乳化剤b)の比率は、広い範囲内で変化し得る。乳化剤b)は、好ましくは、10重量%〜50重量%の濃度で、特に好ましくは12.5重量%〜40重量%の濃度で、特には20重量%〜30重量%の濃度で存在している(ここで、重量%データは、それぞれの場合、本発明の乳化剤系を基準にしている)。
【0026】
乳化剤c)として一般的に適しているのは、糖脂肪酸エステルである。乳化剤c)は、一般的には、10〜18のHLB値を有している。適当な例は、ステアリン酸スクロース、パルミチン酸スクロース、ミリスチン酸スクロース、ラウリン酸スクロースおよびオレイン酸スクロースである。これらのケースのそれぞれにおいては、モノエステルの比率は、55重量%以上、好ましくは70重量%〜85重量%、特に好ましくは75重量%〜85重量%である。好ましい乳化剤c)は、一般化学構造式:
【化3】

【0027】
を有する。本発明の乳化剤系中には1種以上の異なる乳化剤c)、例えば2種または3種の異なる乳化剤c)が存在していてもよい。好ましくは本発明の乳化剤系にはただ1種の乳化剤c)を用いる。
【0028】
本発明の乳化剤系中の乳化剤c)の比率は、広い範囲内で変化し得る。乳化剤c)は、好ましくは、10重量%〜50重量%の濃度で、特に好ましくは12.5重量%〜40重量%の濃度で、特には20重量%〜30重量%の濃度で存在している(ここで、重量%データは、それぞれの場合、本発明の乳化剤系を基準にしている)。
【0029】
これら3種の乳化剤a)、b)およびc)のうちの1種、2種または全ては、好ましい実施形態では、低い分子量、例えば2000以下の分子量、好ましくは1000以下の分子量を有している。特に好ましい実施形態では、乳化剤a)が低分子量のものである。本発明の乳化剤系は、特に、分散相α)の分散を容易にする。低分子量の乳化剤、特に乳化剤a)は、高分子量の安定化剤と比べて、例えば機械的作用によって生成されたエマルジョンにそれらが素早く付着することで特徴づけられる。この低分子量乳化剤は、他方では、調製した後のエマルジョンを安定化させるのにも役立つことができる。
【0030】
本発明の乳化剤系は、特にその相乗作用的な効果を特徴としている。相乗効果とは、同調された全体的性能への異なる乳化剤同士の協働作用を意味し、本発明との関連では、それから結果的に生じる本発明の乳化剤系の全体的性能をも意味する。この全体的性能は、個々の性能を総合したものよりも大きいものである。
【0031】
本発明の乳化剤系は、好ましい実施形態では、20重量%〜30重量%の、構造式:
【化4】

【0032】
のエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルの実施形態にある乳化剤b)、および
20重量%〜30重量%の、化学構造式:
【化5】

【0033】
を有する糖脂肪酸エステルの実施形態にある乳化剤c)、および
合計が乳化剤系を基準にして100重量%となるような量のパルミチン酸アスコルビル、
から構成される。
【0034】
本発明の乳化剤系の3種の乳化剤a)、b)およびc)を標的として選択して組み合わせると、驚くべきことに、例えば以下に記載される本発明の予期せざる有利なエマルジョンを調製することが可能となる乳化剤系が生じる。本発明の乳化剤系は、これに関連して、エマルジョンの調製、エマルジョンの貯蔵およびエマルジョンの使用を容易にする。
【0035】
本発明のエマルジョンは、分散相α)、分散媒体β)および本発明の乳化剤系γ)からなる。しかしながら、さらなる成分が存在していてもよい。本発明のエマルジョンの全ての成分は、エマルジョンを基準にして合計100重量%になる。
【0036】
本発明のエマルジョン中に存在する脂溶性物質α)は、原則として、どのような脂溶性物質であってもよい。脂溶性物質α)は、好ましくは、生理学的に許容されるものである。すなわちヒト生理学の点でおよび動物生理学の点でそれは許容されるものである。しかしながら、植物生理学的に許容されるものも可能である。適切な例は、脂溶性のビタミンA、ビタミンD、ビタミンEまたはビタミンKあるいはそれらの誘導体、例えばビタミンAのエステルおよびビタミンEのエステル(例:酢酸レチニル、酢酸トコフェロール)、トコトリエノール、ビタミンK、ビタミンK、キサントフィル類、およびカロテノイド例えばカンタキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、リコペン、アポカロテナールおよび特にβ−カロテンである。カロテノイドは自然界に広く存在する色素であり、多くの食品中に極めて微細に分散された形態で存在しており、食品に独特の色を与える。多くのカロテノイドの一般的に知られているプロビタミンA効果以外に、この理由から、カロテノイドは、ヒト用および動物用食品ならびに医薬品産業にとっての着色剤としても興味あるものである。比較的濃厚なカロテノイドエマルジョンによって達成される色は、通常、オレンジから赤の範囲にわたる。これに対して、本発明による比較的濃厚なβ−カロテン含有エマルジョンは、多くの食品に対して望まれている鮮やかな黄色の色相と、高い色彩強度を特徴としている。
【0037】
本発明との関連で用いることができるさらなる脂溶性物質α)は、多価不飽和脂肪酸、例えばアラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、リノール酸、リノレン酸(遊離の形態とトリグリセリドとしての両方)、および芳香油、例えばオレンジ油、ペパーミント油または柑橘類の油、例えば化学構造式:
【化6】

【0038】
を有しているものである。
【0039】
さらなる適当な脂溶性物質α)は、多価不飽和脂肪酸のグリセリド、例えばコムギ油、ヒマワリ油またはトウモロコシ油あるいはこれらの油の混合物である。
【0040】
最後に、ヒトまたは動物の体内で生理学的な役割を果たすが、水に溶けないために通常はエマルジョンに加工される、ごく一般的な脂溶性物質α)は、いずれも、本エマルジョンの成分として適している。
【0041】
本発明との関連で好ましい脂溶性物質α)は、特に、上述した脂溶性ビタミン(例えばビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKならびにそれらの誘導体)、キサントフィル類、および多価不飽和脂肪酸ならびにβ−カロテンである。特に好ましいのは、β−カロテンである。
【0042】
脂溶性物質α)としてのβ−カロテンは、一般に、油に溶けた状態で存在する。油に溶けたβ−カロテンは、その油と一緒に、分散相として一般的には用いられる。適切な油の例は、あらゆる生理学的に許容される油であって、特にはラッカセイ油、ヒマワリ油、オリーブ油または他のトリアシルグリセリドである。β−カロテンは、好ましくは、一般化学構造式:
【化7】

【0043】
を有するトリアシルグリセリドに溶解される。このケースではβ-カロテンを適量の油に溶解する。一般的にこのケースでは、油のβ−カロテンに対する比を1〜3、好ましくは1.5〜2.5、特に好ましくは1.8〜2.2とする。
【0044】
脂溶性物質α)とは、主に、1種の脂溶性物質を意味する。しかしながら、種々の脂溶性物質、例えば2種または3種の脂溶性物質α)を組み合わせることも可能である。1種の脂溶性物質α)を用いることが好ましい。
【0045】
本発明の脂溶性物質α)は、好ましくは、エマルジョンを基準にして40重量%以下の量で存在する。好ましい実施形態では、脂溶性物質α)の比率は、エマルジョンを基準にして2〜40重量%である。脂溶性物質α)は、しかしながら、2重量%〜20重量%の濃度で、あるいは5重量%〜15重量%の濃度で、特に好ましくは、例えば飲料産業での用途に対しては10重量%の濃度で存在することもできる(ここで、重量%データは、それぞれの場合、エマルジョンを基準にしている)。
【0046】
本発明のエマルジョンの分散相α)の平均粒子サイズは、一般的には、500nm以下である。本発明のさらなる実施形態では、分散相α)の平均粒子サイズは50nm〜250nmである。本発明の好ましい実施形態では、分散相α)の粒子サイズは50nm〜100nmである。これに関連して、本発明のエマルジョンの平均粒子サイズは、例えば、光子相関分光計を波長632.8nmで用いて、質量に基づく重量分布によって測定することができる。
【0047】
分散媒体β)は、一般的には、エマルジョンの40重量%〜95重量%、好ましくは50重量%〜80重量%を占める。分散媒体β)は、グリセロールのみからなっていてもよい。しかしながら、グリセロールに加えて50%以下の水が存在していてもよい。グリセロール−水の比は、好ましくは、95:5〜85:15である。グリセロールと水の重量比は、分散されることになる脂溶性物質α)の特性、および均一で微細な分散に対する要求度によって決まる。
【0048】
蒸留水またはそうでなければ脱イオン水または部分的脱イオン水を用いることができる。しかしながら、飲用水を用いることも可能である。
【0049】
乳化剤系γ)は、好ましくは、エマルジョンの0.2〜10重量%を占める。もう一つの実施形態では、本発明の乳化剤系γ)は、本発明のエマルジョンを基準にして0.3重量%〜5重量%を占める。好ましい実施形態では、本発明の乳化剤系γ)は、本発明のエマルジョンを基準にして0.5重量%〜1.0重量%を占める。
【0050】
本発明のエマルジョンは、本発明の好ましい実施形態では、長い貯蔵期間にわたって高い安定性を見せる。本発明のエマルジョンは、例えば、室温で、特に約40℃の昇温で、実質的に遮光して、およそ2年間は貯蔵しておくことができる。室温とは、本発明との関連では、15℃〜35℃の温度を意味するが、特には20℃〜30℃の温度を意味する。本発明のエマルジョンは、一般的には、この2年までの貯蔵期間にわたって、安定した状態のままである。本発明エマルジョンの分散相α)の合体、特にリング形成、凝集または退色は、一般的には起こらない。
【0051】
本発明のエマルジョンはさらに高い色彩強度を見せる。色彩強度に用いられる尺度は相対色彩強度であり、E1/1値とも呼ばれる。E1/1値は、1cmキュベット中の1.0%濃度の水性エマルジョンの吸収極大における比吸収係数を定義するものである。高い色彩強度とは、本発明との関連では、特に180以上の相対色彩強度を意味する。本発明のエマルジョンの相対色彩強度は通常180〜200である。
【0052】
本発明のエマルジョンは、本発明のさらなる実施形態で、例えば一部の食品に対して望まれている有利な低濁度を呈する。エマルジョンの濁度は、一般的には、ISO 7027/DIN EN 27027に規定されているようにして測定される。本発明のエマルジョンは、一般的には、その特定の組成に依存して、50NTU〜1000NTUの濁度を有する。低濁度は、一般的には、50NTU〜400NTUの濁度であり、特に好ましくは50NTU〜200NTUである。本発明のエマルジョンでは、脂溶性物質α)の上記比率が高くても、特にβ−カロテンの実施形態において、低濁度を達成することができる。
【0053】
本発明のエマルジョンは、さらなる実施形態において、飲料産業でのその良好な適用可能性を特徴としている。すなわち、本明細書に記載したプラスの特性を、それぞれのケースで、または様々な組合せで、特に例えば飲料産業での適用例で達成することができる。
【0054】
本エマルジョンが飲料業界で用いられる場合は、望ましい濃度は、好ましくは、すぐに飲める状態にある飲料中でおよそ5ppm〜50ppmのβ−カロテン、特に好ましくはおよそ10ppm〜25ppmのβ−カロテン、特には15ppm〜20ppmのβ−カロテンである。β−カロテン濃度は、特に好ましい実施形態では、15〜18ppmである。
【0055】
本エマルジョンを飲料業界で使用する際には、高含有量の電解質を存在させることがさらに可能である。高電解質含有量は、特に、各種塩類をかなりの割合で含む濃厚液または等張性飲料のような臨界系で達成される。
【0056】
さらに、本エマルジョンを飲料業界で使用する際には、一般に、低pHとすることがさらに可能である。低pHとは、本発明との関連では、特に6以下のpHを意味し、例えば2〜5のpH、特に2〜3のpHを意味する。
【0057】
本エマルジョンを飲料業界で使用する際には、低温殺菌を実施することがさらに可能である。低温殺菌とは、本発明との関連では、例えば100℃以下、好ましくは60℃〜90℃での60秒〜120秒間の熱処理を意味する。
【0058】
低温殺菌以外にも、本発明のさらなる実施形態では、特に飲料業界で常用されるさらなる技術的工程、例えば本発明のエマルジョンによる均質化が可能であり、本発明のエマルジョンなしではその高い安定性またはその高い色彩強度を失ってしまう。
【0059】
さらに、本発明の乳化剤系の好ましい実施形態では、特に飲料業界用に、タンパク質フリーのエマルジョンを得ることも可能である。タンパク質は一般にアレルゲンを含んでいることがあり、そのため、特定の実施形態では、本発明のエマルジョンはタンパク質フリーである。そのために、一般には、考えられる別の乳化剤または安定化剤としてタンパク質を用いることはない。
【0060】
本発明のさらなる実施形態では、本発明のエマルジョンは、特に、飲料産業で典型的に用いられる処方物と非常に適合性があるので、それと組み合わせることができる。適合性とは、本発明との関連では、飲料産業で通常用いられる成分との、特にそこで用いられる安定化剤との相互作用が小さいことを意味する。したがって、飲料業界の通常の処方物は、本発明のエマルジョンによっては損なわれないか、損なわれても無視できるほどである。本発明のエマルジョンは、このように、飲料業界の処方物の中にうまくとけ込むことができる。
【0061】
適用分野にもよるが、本発明のエマルジョンにはさらなる成分または添加剤を加えることができる。成分α)、β)、γ)および任意の付加的な成分は、この場合、合わせてエマルジョンを基準にして100重量%になる。
【0062】
本発明のエマルジョンは、本発明の乳化剤系に加えて、1種以上の異なる(例えば2種または3種の)低分子量の乳化剤を含んでいてもよい。適切な追加の乳化剤は例えばレシチンであり、エマルジョンを基準にして5重量%〜30重量%、しかし特にはエマルジョンを基準にして10重量%〜20重量%の比率で含まれる。
【0063】
特定の長期安定性を有するエマルジョンを調製するためには、分散相のクリーミングや沈殿を防止しなければならないし、またその合体傾向もより一層低減させなければならない。本発明の乳化剤系は、この場合、乳化剤a)、b)、c)に加えて、本発明との関連で安定化剤と称されるさらなる成分をも含むことができる。この安定化剤は、好ましくは、分子量が1000以上の高分子量化合物である。それらは好ましくは、本発明のエマルジョンが飲料やその他の水性溶液に加えられる場合に、本発明の乳化剤系に加えて分散相を安定化させるために用いられる。こうして、この好ましくは高分子量の安定化剤は、例えば本発明のエマルジョンを飲料業界の処方物に加えることにより、特に本発明のエマルジョンの使用時に加えられる。
【0064】
安定化剤の典型的な例は、アラビアゴム、ゼラチン、カゼイン、カゼイン塩、ペクチン、デキストリン、イナゴマメ粉、グアーゴム、キサンタン、または場合によっては加水分解されていてもよいダイズタンパク質のような植物タンパク質、ならびにこれらの混合物である。しかしながら、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびアルギン酸塩を用いることもできる。加工デンプンも適しているが、これは、技術的な手段、すなわち物理的または化学的な手段によって調製されたデンプン加工製品である。好ましい安定化剤は、ゼラチン、例えばウシ、ブタおよびサカナのゼラチン、植物タンパク質、ペクチン、カゼイン、カゼイン塩およびアラビアゴムならびに加工デンプンである。特に好ましい安定化剤は、加工デンプンである。
【0065】
本発明のエマルジョンには抗酸化剤を加えることもできる。好適な例は、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、パルミチン酸アスコルビル(パルミチン酸アスコルビルの量に関して、本発明に従う範囲から逸脱しない量である)、または没食子酸エステルである。またビタミンCおよびローズマリーエキスも適している。
【0066】
本発明のエマルジョンには抗酸化剤を0.5重量%〜10重量%、好ましくは1重量%〜5重量%の量で加えることができる(ここで重量%データは、それぞれの場合、本発明のエマルジョンを基準にしている)。
【0067】
パルミチン酸アスコルビルの抗酸化作用は、知られているように、トコフェロールを分散相α)とさらに混合することで、さらに増大させることができる。トコフェロールの比率は、好ましくは、本発明のエマルジョンを基準にして1重量%〜4重量%である。
【0068】
本発明のエマルジョンは、本発明のさらなる実施形態で、その静菌効果を特徴としている。これは、細菌を殺すことなく細菌の生育および増殖を防ぐことを意味する。
【0069】
本発明のエマルジョンの各成分の混合は、エマルジョンを食品に、飲料に、動物飼料に、化粧品にまたは医薬品に加える直前に行うことができる。しかしながら、本発明のエマルジョンは、その調製後ひと先ず容器の中に投入して貯蔵しておき、必要に応じて食品に、飲料に、動物飼料に、化粧品にまたは医薬品に加えることもできる。
【0070】
本発明のエマルジョンは、好ましい実施形態では、
β−カロテンの実施形態にある5重量%〜15重量%の脂溶性物質α);
構造式:
【化8】

【0071】
のエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルの実施形態にある20重量%〜30重量%の乳化剤b)、および構造式:
【化9】

【0072】
を有する糖脂肪酸エステルの実施形態にある20重量%〜30重量%の乳化剤c)、および乳化剤系を基準にして合計が100重量%となるような量のパルミチン酸アスコルビルの実施形態にある0.5重量%〜1重量%の本発明の乳化剤系γ);ならびに
グリセロール−水の比が95:5〜85:15の実施形態にある、成分α)、β)およびγ)が合計で100%になるような量の分散媒体β);
を含んでなる。
【0073】
当業者には本発明のエマルジョンの調製方法は知られている。本発明のエマルジョンは、例えば、2段階で調製することができる:
・ 脂溶性物質α)を分散媒体β)中に乳化して粗製エマルジョンを調製する予備乳化段階、および
・ 最終エマルジョンを調製する最終乳化段階。
【0074】
本発明のエマルジョンを調製するには、好ましくは、ローター/ステーターシステムを用い、続いて高圧ホモジナイザーに1回または複数回通過させて乳化する。最終乳化は、粗製エマルジョンを、例えば高圧ホモジナイザーに1回以上(例えば2回または3回)通すことによって行うことができる。均質化は、一般的には、200バール〜1200バール、好ましくは600バール〜800バールの圧力下で行われる。回転速度は、一般的には、1分間あたり6000〜10000回転であるが、好ましくは1分間あたり8000〜10000回転である。
【0075】
本発明のエマルジョンは様々な目的に用いることができ、特に着色用に、ビタミン添加用に(特にプロビタミンA)、またはヒト栄養食品での、特に飲料での、特に好ましくはソフトドリンク、ビタミンジュースまたはスポーツドリンクでの抗酸化剤として用いることができる。動物用栄養食品での使用、化粧品産業での使用、または医薬品産業での使用も考えられる。
【0076】
本発明のエマルジョンは、例えばヒトまたは動物用の液体食品にビタミンを添加するための、またはβ−カロテンのケースでは飲料(例えばレモネード)を着色するための、容易かつ正確な配量に抜きん出て適している。
【0077】
本発明はまた、本発明の乳化剤系または本発明のエマルジョンを含むヒト用食品、動物用飼料、化粧品または医薬品にも関する。
【実施例】
【0078】
以下の物質および以下の方法を後の実施例に採用した。
脂溶性物質α11) β−カロテン
乳化剤a) パルミチン酸アスコルビル
乳化剤b

乳化剤c

相対色彩強度E1/1は、Hewlett Packard製のHP8452A測定器を使用し、200nm〜800nmに設定して測定した。E1/1値は、1cmキュベット中の1.0%濃度の水性エマルジョンの吸収極大での比吸収係数を定義している。
【0079】
UV/VISスペクトルは、Hewlett Packard製のHP8452Aを使用し、200nm〜800nmに設定して記録した。
【0080】
本発明のエマルジョンの平均粒子サイズは、光子相関分光計を波長632.8nmで用いて、質量に基づく重量分布によって測定した。
【0081】
実施例1: β−カロテンを含むエマルジョンでの、個々の乳化剤と比較しての乳化剤系の効果
分散相α):
14.43gのβ−カロテンα11
28.60gの

0.97gのα−トコフェロール
分散媒体β):
34gの脱イオン水
412gのグリセロール
および
乳化剤 4g
6gの1M NaOH
【0082】
エマルジョンは以下のようにして調製した。分散相α)を、およそ170℃で、β−カロテンα11)が溶解するまで加熱した。分散相α)を次に分散媒体β)に加え、Ultra Turraxを用いて1分あたり10000回転でおよそ15秒間ホモジナイズした。エマルジョンの温度はおよそ70℃であった。この粗製エマルジョンを、次に、Microfluids製のマイクロフリューダイザを用いて800バールで最終乳化したが、サイズ分布の狭い分散相α)の微小液滴を得るためにこれを3回繰り返した。
【表1】

【0083】
本発明の乳化剤系には、2gの乳化剤a)、1gの乳化剤b)、および1gの乳化剤c)を用いた。本発明のエマルジョンは、相対色彩強度E1/1が非常に高いこと、および着色が非常に鮮やかでかつ澄んでいることが特徴であった。さらには、23℃の室温で4ヶ月の観察期間にわたって非常に優れた安定性も示した。結果を表1にまとめてある。
【0084】
実施例2: β−カロテンを含む濃厚なエマルジョン
分散相α):
28.86gのβ−カロテン
57.20gの

1.94gのα−トコフェロール
分散媒体β):
36gのカチオン交換水
412gのグリセロール
および
乳化剤 4gの本発明の乳化剤系
6gの1M NaOH
【0085】
エマルジョンは、実施例1で述べた方法によって調製した。本発明の乳化剤系における乳化剤a)、b)およびc)の含有量の比は、2:1:1とした。
【0086】
市販されている濃厚液は、エマルジョンを基準にしておよそ2.4重量%のβ−カロテン濃度を示した。上記処方で調製したエマルジョンは、一定含有量の本発明の乳化剤系を用いて、β−カロテンのより高い含有量を有していた。結果を表2にまとめてある。
【表2】

【0087】
エマルジョンP3のUV/VISスペクトルは、28日後に無視できる程度の色彩強度の低下を示した。
【0088】
実施例3: β−カロテンを含む濃厚なエマルジョン
本発明のエマルジョンは以下の組成を有していた(重量%データはエマルジョンを基準とする):
β−カロテンα11) 12.1重量%

24.0重量%

グリセロールβ) 57.4重量%
水β) 5.04重量%

パルミチン酸アスコルビルa) 0.28重量%
NaOH 0.03重量%
トコフェロール 0.8重量%
乳化剤b) 0.14重量%
乳化剤c) 0.14重量%
【0089】
上に詳述した本発明のエマルジョンを、安定化剤キサンタンを含む、または別の安定化剤カルボキシメチルセルロースを含むスポーツドリンクで試験した。この目的のために、エマルジョンを基準にして12重量%のカロテノイド含有量を有する、上に詳述した本発明のエマルジョンを15ppmに希釈して、2.0gの安定化剤、932gの水、0.57gのリン酸塩、0.49gのクエン酸ナトリウム5.5HO、0.8gのNaCl、0.15gの安息香酸ナトリウム、0.2gのソルビン酸カリウム、2.5gのクエン酸、61gの糖および0.15gのアスコルビン酸の組成を有する透明で黄色のスポーツ飲料を得た。次に、熱処理を90℃で10分間行った。熱処理の前と後のUV/VIS吸収スペクトルは、300nmと800nmの波長の間では実質的に同一であった。黄色から黄色がかった赤色への色の変化は一切見られなかった。
【0090】
実施例1〜3は、本発明の乳化剤系を用いた本発明のエマルジョンが、飲料業界の要求を満たすのに非常に適したものであることを証明するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)長鎖脂肪酸を有するアスコルビン酸エステルと、
b)エトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルと、
c)糖脂肪酸エステルと
を含んでなる乳化剤系。
【請求項2】
a)30〜70重量%の、長鎖脂肪酸を有するアスコルビン酸エステルと、
b)10〜50重量%のエトキシル化ソルビタン脂肪酸エステルと、
c)10〜50重量%の糖脂肪酸エステルと
[ここで、重量%データは、それぞれの場合、乳化剤系を基準にしたものである]
を含んでなる、請求項1に記載の乳化剤系。
【請求項3】
α)脂溶性物質α)を含む分散相と、
β)分散媒体としてのグリセロールまたはグリセロールと水の混合物と、
γ)請求項1または2に記載の乳化剤系と
含んでなるエマルジョン。
【請求項4】
脂溶性物質α)が、ビタミンA、D、EもしくはKまたはそれらの誘導体、キサントフィル、カロテノイド、または多価不飽和脂肪酸のグリセリドである、請求項3に記載のエマルジョン。
【請求項5】
脂溶性物質α)が、β−カロテンである、請求項3または4に記載のエマルジョン。
【請求項6】
脂溶性物質α)の含有量が、エマルジョンを基準にして2〜40重量%である、請求項3〜5のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項7】
分散媒体β)が、エマルジョンを基準にして40〜95重量%の量になり、グリセロールと水の比が、100:0〜50:50である、請求項3〜6のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項8】
乳化剤系γ)の量が、エマルジョンを基準にして0.2〜10重量%である、請求項3〜7のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項9】
分散相α)の平均粒子サイズが500nm以下である、請求項3〜8のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項10】
さらなる乳化剤が存在している、請求項3〜9のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項11】
安定化剤が存在している、請求項3〜10のいずれか1項に記載のエマルジョン。
【請求項12】
予備乳化および後続の最終乳化による、請求項3〜11のいずれか1項に記載のエマルジョンの調製方法。
【請求項13】
ローター/ステーターシステムを使用し、その後高圧ホモジナイザーで乳化する、請求項3〜11のいずれか1項に記載のエマルジョンの調製方法。
【請求項14】
ヒト用栄養食品、動物用栄養食品、化粧品または医薬品産業での請求項3〜11のいずれか1項に記載のエマルジョンの使用。
【請求項15】
請求項1または2に記載の乳化剤系、あるいは請求項3〜11のいずれか1項に記載のエマルジョンを含むヒト食品または動物飼料、化粧品または医薬品。

【公表番号】特表2009−505809(P2009−505809A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519905(P2008−519905)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063665
【国際公開番号】WO2007/003565
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】