説明

作業車の走行変速構造

【課題】 作業車の走行変速構造において、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、伝動クラッチの半伝動状態の制御が適切に行えるように構成する。
【解決手段】 エンジン1の動力が伝達される走行用の変速装置13〜16を備え、走行用の変速装置13〜16の伝動下手側に油圧多板式の伝動クラッチ75,76を備える。走行用の変速装置13〜16の変速操作に伴って伝動クラッチ75,76が伝動状態から半伝動状態に操作され再び伝動状態に操作されるように構成する。伝動クラッチ75,76から走行装置77,78までの伝動系を、一定の減速比で動力を伝達する定減速伝動系に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの動力が伝達される走行用の変速装置を備え、走行用の変速装置の伝動下手側に油圧多板式の伝動クラッチを備えた作業車の走行変速構造に関する。
【背景技術】
【0002】
前述のような作業車の走行変速構造の一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、エンジン(特許文献1の図1の1)、前進及び後進クラッチ(特許文献1の図1の5,6)、油圧クラッチ型式の走行用の変速装置(特許文献1の図1の10)、油圧多板式の伝動クラッチ(特許文献1の図1の26,27)、及びギヤ変速型式の副変速装置(特許文献1の図1の12)を備えており、エンジンの動力が前進又は後進クラッチ、走行用の変速装置、伝動クラッチ及び副変速装置を介して、前輪及び後輪(特許文献1の図1の14,19)(走行装置に相当)に伝達される。
【0003】
特許文献1では、走行用の変速装置の変速操作に伴って(特許文献1の図7の10)、伝動クラッチ(特許文献1の図1の26,27)が伝動状態から半伝動状態に操作され(特許文献1の図7のA2,P3参照)、再び伝動状態(特許文献1の図7のA2,P2参照)に操作されるように構成されており、走行用の変速装置の変速操作を行っている間、伝動クラッチを半伝動状態として、動力を走行装置に少し伝達している。
【0004】
作業車は一般に走行抵抗の大きな軟弱な地面を走行する場合や荷物を載せた台車を牽引したりする場合等のように、大きな走行負荷が掛かることが多いので、特許文献1のように、走行用の変速装置の変速操作を行っている間、伝動クラッチを半伝動状態として、動力を走行装置に少し伝達することにより、走行用の変速装置の変速操作を行っている間、走行負荷により機体の走行速度が急激に低下しないようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−20258号公報(図1及び図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、伝動クラッチ(特許文献1の図1の26,27)から前輪及び後輪(特許文献1の図1の14,19)までの伝動系に、副変速装置(特許文献1の図1の12)を備えている。
これにより、副変速装置が高速位置に操作されている状態において、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、伝動クラッチを伝動状態に比較的近い半伝動状態(比較的高トルクの動力が伝達される状態)に操作する必要がある(伝動クラッチの動力が高速位置の副変速装置により高回転低トルクの動力に変速されることによる)。
【0007】
逆に、副変速装置が低速位置に操作されている状態において、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、伝動クラッチを遮断状態に比較的近い半伝動状態(比較的低トルクの動力が伝達される状態)に操作する必要がある(伝動クラッチの動力が低速位置の副変速装置により低回転高トルクの動力に変速されることによる)。
このように、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、副変速装置の変速位置に応じて伝動クラッチの半伝動状態を比較的広い範囲で制御することにより、適切な動力(適切なトルク)が前輪及び後輪に伝達されるようにする。
【0008】
しかしながら、伝動クラッチに作動油を給排操作する制御弁の能力に限界がある為に、前述のように伝動クラッチの半伝動状態を比較的広い範囲で制御することが、困難なものになることが考えられる。特に副変速装置が低速位置に操作されている状態において、伝動クラッチを遮断状態に比較的近い半伝動状態に操作して、低速位置の副変速装置から前輪及び後輪に適切な動力(適切なトルク)が伝達されるようにすることが、困難なものになっている(伝動クラッチを遮断状態に比較的近い半伝動状態に操作する為の圧力が低いことによる)。
【0009】
本発明は、作業車の走行変速構造において、走行用の変速装置を備え、走行用の変速装置の伝動下手側に油圧多板式の伝動クラッチを備えて、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、伝動クラッチの半伝動状態の制御が適切に行えるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は作業車の走行変速構造において次のように構成することにある。
エンジンの動力が伝達される走行用の変速装置を備え、走行用の変速装置の伝動下手側に油圧多板式の伝動クラッチを備える。走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する制御手段を備える。伝動クラッチから走行装置までの伝動系を、一定の減速比で動力を伝達する定減速伝動系に構成する。
【0011】
(作用)
本発明の第1特徴によると、伝動クラッチから走行装置までの伝動系に特許文献1のような副変速装置は備えられておらず、伝動クラッチから走行装置までの伝動系が一定の減速比で動力を伝達する定減速伝動系に構成されているので、伝動クラッチの動力が高速位置の副変速装置により高回転低トルクの動力に変速されたり、低速位置の副変速装置により低回転高トルクの動力に変速されたりすることがない。
【0012】
これにより、本発明の第1特徴によると、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、伝動クラッチの半伝動状態を比較的広い範囲で制御する必要がなくなり、伝動クラッチを遮断状態に比較的近い半伝動状態に操作して制御する必要がなくなって、伝動クラッチの半伝動状態を比較的狭い一定の範囲で制御することでよくなるのであり、伝動クラッチの半伝動状態の制御が容易に行えるようになる。
本発明の第1特徴によると、伝動クラッチの半伝動状態の制御が容易に行えるようになることにより、適切な動力(適切なトルク)が走行装置に伝達されるようにすることが容易に行えるようになる。
【0013】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、走行用の変速装置を備え、走行用の変速装置の伝動下手側に油圧多板式の伝動クラッチを備えて、走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する場合、伝動クラッチの半伝動状態の制御が容易に行える点、及び適切な動力(適切なトルク)が走行装置に伝達されるようにすることが容易に行える点により、作業車の走行変速性能を向上させることができた。
【0014】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴の作業車の走行変速構造において次のように構成することにある。
油圧多板式の前進クラッチ及び後進クラッチを備えて構成された前後進切換装置を、走行用の変速装置の伝動下手側に備え、前進クラッチ及び後進クラッチを伝動クラッチとする。
【0015】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、エンジンの動力が走行用の変速装置から、前後進切換装置(前進又は後進クラッチ)を介して、走行装置に伝達される。これにより、前進状態(前進クラッチが伝動状態で後進クラッチが遮断状態)において、走行用の変速装置の変速操作に伴って前進クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作するのであり、後進状態(前進クラッチが遮断状態で後進クラッチが伝動状態)において、走行用の変速装置の変速操作に伴って後進クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する。従って、前後進切換装置(前進及び後進クラッチ)を伝動クラッチに兼用することができる。
【0016】
本発明の第2特徴によると、前後進切換装置(前進及び後進クラッチ)と走行装置(前輪及び後輪やクローラ走行装置等)との間に、特許文献1のような副変速装置は備えられておらず、前後進切換装置(前進及び後進クラッチ)と走行装置(前輪及び後輪やクローラ走行装置等)との間の伝動系の慣性重量が小さなものとなっている。
これにより、前後進切換装置を前進状態から後進状態(後進状態から前進状態)に切換操作した場合、前述の伝動系の慣性重量が小さいことにより、前述の伝動系の回転方向の切り換わり(前進状態から後進状態、後進状態から前進状態)によるショックが小さなものとなる。
【0017】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、前後進切換装置(前進及び後進クラッチ)を伝動クラッチに兼用することができ、専用の伝動クラッチを備える必要がなくなって、構造の簡素化の面で有利なものとなった。
本発明の第2特徴によると、前後進切換装置を前進状態から後進状態(後進状態から前進状態)に切換操作した際のショックを小さなものにすることができて、作業車の走行変速性能を向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[1]
図1は作業車の一例である四輪駆動型の農用トラクタの走行伝動系を示しており、先ず第1主変速装置13(走行用の変速装置に相当)、第2主変速装置15(走行用の変速装置に相当)、第1副変速装置14(走行用の変速装置に相当)、第2副変速装置16(走行用の変速装置に相当)について説明する。
【0019】
図1に示すように、エンジン1の動力が伝動軸2に伝達され、後述する[4]に記載のようにPTO軸3に伝達される。伝動軸2に円筒状の伝動軸4が相対回転自在に外嵌されており、伝動軸2,4と平行に第1主伝動軸7及び第1副伝動軸8が配置されて、第1主及び副伝動軸7,8の間に第1油圧クラッチ9が備えられている。伝動軸2,4と平行に第2主伝動軸10及び第2副伝動軸11が配置されて、第2主及び副伝動軸10,11の間に第2油圧クラッチ12が備えられている。第1及び第2油圧クラッチ9,12は油圧多板式で摩擦式に構成されており、作動油が供給されることにより伝動状態に操作され、作動油が排出されることにより遮断状態に操作されるように構成されている。
【0020】
図1に示すように、伝動軸2と第1主伝動軸7との間にシンクロメッシュ型式の第1主変速装置13が備えられて、伝動軸2と第2主伝動軸10との間にシンクロメッシュ型式の第2主変速装置15が備えられている。伝動軸2に第1ギヤ17、第2ギヤ18、第3ギヤ19、第4ギヤ20が固定されている。第1主伝動軸7に相対回転自在に外嵌された低速ギヤ21及び高速ギヤ22が第1ギヤ17及び第3ギヤ19に咬合しており、シフト部材23がスプライン構造により第1主伝動軸7に一体回転及びスライド自在に外嵌されて、第1主変速装置13が構成されている。第2主伝動軸10に相対回転自在に外嵌された低速ギヤ24及び高速ギヤ25が第2ギヤ18及び第4ギヤ20に咬合しており、シフト部材26がスプライン構造により第2主伝動軸10に一体回転及びスライド自在に外嵌されて、第2主変速装置15が構成されている。
【0021】
図1に示すように、伝動軸4と第1副伝動軸8との間にシンクロメッシュ型式の第1副変速装置14が備えられ、伝動軸4と第2副伝動軸11との間にシンクロメッシュ型式の第2副変速装置16が備えられている。伝動軸4に低速ギヤ27及び高速ギヤ28が固定されており、第1副伝動軸8に相対回転自在に外嵌された低速ギヤ29及び高速ギヤ30が低速ギヤ27及び高速ギヤ28に咬合し、シフト部材31がスプライン構造により第1副伝動軸8に一体回転及びスライド自在に外嵌されて、第1副変速装置14が構成されている。第2副伝動軸11に相対回転自在に外嵌された低速ギヤ32及び高速ギヤ33が低速ギヤ27及び高速ギヤ28に咬合し、シフト部材34がスプライン構造により第2副伝動軸11に一体回転及びスライド自在に外嵌されて、第2副変速装置16が構成されている。
【0022】
以上の構造により、後述する[5]に記載のように、伝動軸2の動力が第1主及び副伝動軸7,8を介して伝動軸4に伝達される状態(第1油圧クラッチ9の伝動状態)、並びに伝動軸2の動力が第2主及び副伝動軸10,11を介して伝動軸4に伝達される状態(第2油圧クラッチ12の伝動状態)が得られる。
【0023】
図1に示すように、伝動軸2の動力が第1主及び副伝動軸7,8を介して伝動軸4に伝達される状態(第1油圧クラッチ9の伝動状態)において、伝動軸2の動力が第1主変速装置13、第1主伝動軸7、第1油圧クラッチ9、第1副伝動軸8及び第1副変速装置14を介して4段に変速されて伝動軸4に伝達される(後述する1速位置、3速位置、5速位置、7速位置)。
【0024】
図1に示すように、伝動軸2の動力が第2主及び副伝動軸10,11を介して伝動軸4に伝達される状態(第2油圧クラッチ12の伝動状態)において、伝動軸2の動力が第2主変速装置15、第2主伝動軸10、第2油圧クラッチ12、第2副伝動軸11及び第2副変速装置16を介して4段に変速されて伝動軸4に伝達される(後述する2速位置、4速位置、6速位置、8速位置)。
【0025】
[2]
次に、第3副変速装置44について説明する。
図1に示すように、伝動軸2,4と平行に伝動軸5が配置され、伝動軸5に円筒状の伝動軸6が相対回転自在に外嵌されており、伝動軸5に固定された伝動ギヤ43が高速ギヤ28に咬合している。伝動軸5,6の間に、シンクロメッシュ型式の第3副変速装置44が備えられている。
【0026】
図1に示すように、伝動軸6に伝動ギヤ45が固定され、伝動軸5に伝動ギヤ46が相対回転自在に外嵌されており、シフト部材47がスプライン構造により伝動軸5に一体回転及びスライド自在に外嵌されている。伝動軸5,6と平行に配置された伝動軸48,49が備えられており、伝動軸48に伝動ギヤ50,51が相対回転自在に外嵌されて、伝動軸48に伝動ギヤ52が固定され、伝動ギヤ45,50が咬合し、伝動ギヤ46,52が咬合している。伝動軸49に伝動ギヤ54,55が固定され、伝動ギヤ51,54が咬合しており、シフトギヤ56がスプライン構造により伝動軸48に一体回転及びスライド自在に外嵌されている。シフト部材47及びシフトギヤ56をスライド操作する副変速レバー(図示せず)が備えられており、運転者が副変速レバーを人為的に操作する。以上のようにして、第3副変速装置44が構成されている。
【0027】
これにより、図1に示すように、シフト部材47を伝動軸6に咬合させると、伝動軸5,6が連結された状態となって、伝動軸4の動力が高速ギヤ28及び伝動ギヤ43、伝動軸6を介して伝動軸5に伝達される(副変速装置44の高速位置)。
シフト部材47を伝動ギヤ46に咬合させ、シフトギヤ56を伝動ギヤ55から離間させて伝動ギヤ51に咬合させると、伝動軸4の動力が高速ギヤ28及び伝動ギヤ43,45,50、伝動軸48、伝動ギヤ52,46を介して伝動軸5に伝達される(副変速装置44の低速位置)。
シフト部材47を伝動ギヤ46に咬合させ、シフトギヤ56を伝動ギヤ51から離間させて伝動ギヤ55に咬合させると、伝動軸4の動力が高速ギヤ28及び伝動ギヤ43,45,50,51、伝動ギヤ54,55及び伝動軸49、シフトギヤ56、伝動軸48、伝動ギヤ52,46を介して伝動軸5に伝達される(副変速装置44の超低速位置)。
【0028】
[3]
次に、前後進切換装置67、前後進切換装置67(前進及び後進クラッチ75,76(伝動クラッチに相当))から前輪77(走行装置に相当)及び後輪78(走行装置に相当)までの伝動系について説明する。
図1に示すように、伝動軸5と同芯状に伝動軸66が配置されており、伝動軸5,66の間に油圧クラッチ型式の前後進切換装置67が備えられている。
【0029】
図1に示すように、円筒状の伝動軸68が伝動軸2に相対回転自在に外嵌されて、伝動軸68に伝動ギヤ69,70が固定されており、伝動軸5に固定された伝動ギヤ71が伝動ギヤ69に咬合している。伝動軸66に伝動軸72が連結され、伝動軸72が伝動軸5と同芯状に配置されており、伝動軸72に相対回転自在に外嵌された伝動ギヤ73が中間ギヤ74を介して伝動ギヤ70に咬合している。伝動ギヤ71と伝動軸72との間に、油圧多板式で摩擦式の前進クラッチ75が備えられ、伝動ギヤ73と伝動軸72との間に、油圧多板式で摩擦式の後進クラッチ76が備えられており、前進及び後進クラッチ75,76は作動油が供給されることにより伝動状態に操作され、作動油が排出されることにより遮断状態に操作されるように構成されている。以上のようにして、前後進切換装置67が構成されている。
【0030】
これにより、図1に示すように、前進クラッチ75を伝動状態に操作し、後進クラッチ76を遮断状態に操作すると、伝動軸5,72が連結された状態となって、伝動軸5の動力が前進クラッチ75を介して前進状態で伝動軸72,66に伝達される。後進クラッチ76を伝動状態に操作し、前進クラッチ75を遮断状態に操作すると、伝動軸5の動力が伝動ギヤ71,69、伝動軸68、伝動ギヤ70、中間ギヤ74、伝動ギヤ73及び後進クラッチ76を介して後進状態で伝動軸72,66に伝達される。
【0031】
図1に示すように、伝動軸66に対して後輪デフ機構79及び遊星減速機構80が備えられており、伝動軸66の動力が後輪デフ機構79及び遊星減速機構80を介して、右及び左の後輪78に伝達される(前後進切換装置67(前進及び後進クラッチ75,76)から後輪78までの伝動系が、一定の減速比で動力を伝達する定減速伝動系に構成された状態に相当)。
【0032】
図1に示すように、伝動軸66と平行に伝動軸81が配置され、伝動軸66に固定された伝動ギヤ82と伝動軸81に固定された伝動ギヤ83とが咬合しており、伝動軸81と前輪伝動軸84との間に、油圧クラッチ型式の前輪変速機構85が備えられ、前輪伝動軸84に対して前輪デフ機構86及び遊星減速機構87が備えられている。これにより、伝動軸66の動力が伝動ギヤ82,83、伝動軸81、前輪変速機構85、前輪デフ機構86及び遊星減速機構87を介して、右及び左の前輪77に伝達される(前後進切換装置67(前進及び後進クラッチ75,76)から前輪77までの伝動系が、一定の減速比で動力を伝達する定減速伝動系に構成された状態に相当)。
【0033】
図1に示すように、前輪変速機構85は前輪77及び後輪78が同じ速度で駆動される標準状態、前輪77が後輪78よりも高速で駆動される増速状態に操作自在に構成されている。前輪77が直進位置、直進位置から右及び左の設定角度の範囲内に操向操作されている状態では、前輪変速機構85が標準状態に操作されており、前輪77が右又は左の設定角度を越えて右又は左に操向操作されると、前輪変速機構85が増速状態に操作されて小回り旋回が円滑に行われる。
【0034】
[4]
次に、PTO軸3への伝動系について説明する。
図1に示すように、伝動軸2に伝動ギヤ88が固定されて、伝動軸2の動力が伝動ギヤ88及び中間ギヤ89を介して油圧ポンプ90に伝達されており、エンジン1が作動している状態では、油圧ポンプ90に常に動力が伝達されて、油圧ポンプ90が駆動されている。
【0035】
図1に示すように、伝動軸2と同芯状に伝動軸91が配置されており、伝動ギヤ88と伝動軸91との間にPTOクラッチ92及びPTO変速装置93が備えられている。PTOクラッチ92は油圧多板式で摩擦式に構成されており、作動油が供給されることにより伝動状態に操作され、作動油が排出されることにより遮断状態に操作されるように構成されている。
【0036】
図1に示すように、PTOクラッチ92に伝動ギヤ94が固定され、円筒状の伝動軸95が伝動軸66に相対回転自在に外嵌されて、伝動軸95に伝動ギヤ96,97,98が固定されており、伝動ギヤ94,98が咬合している。伝動軸91に伝動ギヤ99,100が相対回転自在に外嵌されて、伝動ギヤ96,99が咬合し、伝動ギヤ97,100が咬合しており、シフト部材101,102がスプライン構造により伝動軸91に一体回転及びスライド自在に外嵌されている。伝動軸66に伝動ギヤ103が固定され、伝動軸91に伝動ギヤ104が相対回転自在に外嵌されており、伝動ギヤ103,104が咬合している。以上のようにして、PTO変速装置93が構成されている。
【0037】
これにより、図1に示すように、シフト部材101を伝動ギヤ99に咬合させると、PTOクラッチ92の動力が伝動ギヤ94,98、伝動軸95、伝動ギヤ96,99を介して、低速状態で伝動軸91及びPTO軸3に伝達される。シフト部材102を伝動ギヤ100に咬合させると、PTOクラッチ92の動力が伝動ギヤ94,98、伝動軸95、伝動ギヤ97,100を介して、中速状態で伝動軸91及びPTO軸3に伝達される。シフト部材102を伝動ギヤ94に咬合させると、PTOクラッチ92及び伝動軸91が連結された状態となって、PTOクラッチ92の動力が高速状態で伝動軸91及びPTO軸3に伝達される。シフト部材101を伝動ギヤ104に咬合させると、伝動軸66の動力が伝動ギヤ103,104を介して、伝動軸91及びPTO軸3に伝達される。
【0038】
[5]
次に、第1主変速装置13及び第1副変速装置14、第2主変速装置15及び第2副変速装置16の操作構造について説明する。
図1及び図2に示すように、第1主変速装置13において、シフト部材23をスライド操作する複動型で油圧シリンダ型式のアクチュエータ35、アクチュエータ35に作動油を給排操作する制御弁39が備えられ、第1副変速装置14において、シフト部材31をスライド操作する複動型で油圧シリンダ型式のアクチュエータ36、アクチュエータ36に作動油を給排操作する制御弁40が備えられている。アクチュエータ35はシフト部材23が低速ギヤ21に咬合する低速位置L、シフト部材23が高速ギヤ22に咬合する高速位置H及び中立位置Nに作動自在に構成されており、アクチュエータ36はシフト部材31が低速ギヤ29に咬合する低速位置L、及びシフト部材31が高速ギヤ30に咬合する高速位置Hに作動自在に構成されている。
【0039】
図1及び図2に示すように、第2主変速装置15において、シフト部材26をスライド操作する複動型で油圧シリンダ型式のアクチュエータ37、アクチュエータ37に作動油を給排操作する制御弁41が備えられ、第2副変速装置16において、シフト部材34をスライド操作する複動型で油圧シリンダ型式のアクチュエータ38、アクチュエータ38に作動油を給排操作する制御弁42が備えられている。アクチュエータ37はシフト部材26が低速ギヤ24に咬合する低速位置L、シフト部材26が高速ギヤ25に咬合する高速位置H及び中立位置Nに作動自在に構成されており、アクチュエータ38はシフト部材34が低速ギヤ32に咬合する低速位置L、及びシフト部材34が高速ギヤ33に咬合する高速位置Hに作動自在に構成されている。
【0040】
図2に示すように、前進クラッチ75に作動油を給排操作する電磁比例減圧弁型式の制御弁59、後進クラッチ76に作動油を給排操作する電磁比例減圧弁型式の制御弁60、第1油圧クラッチ9に作動油を給排操作する電磁比例減圧弁型式の制御弁61、及び第2油圧クラッチ12に作動油を給排操作する電磁比例減圧弁型式の制御弁62が備えられている。
【0041】
以上の構造により図1及び図7に示すように、伝動軸2の動力が第1主及び副伝動軸7,8を介して伝動軸4に伝達される状態(第1油圧クラッチ9の伝動状態)において、シフト部材31の低速位置Lでシフト部材23の低速位置Lが1速位置、シフト部材31の低速位置Lでシフト部材23の高速位置Hが3速位置、シフト部材31の高速位置Hでシフト部材23の低速位置Lが5速位置、シフト部材31の高速位置Hでシフト部材23の高速位置Hが7速位置となる。前述の1速及び3速位置において、第2油圧クラッチ12が遮断状態に操作され、シフト部材26が中立位置Nでシフト部材34が低速位置Lに位置している。5速及び7速位置において、第2油圧クラッチ12が遮断状態に操作され、シフト部材26が中立位置Nでシフト部材34が高速位置Hに位置している。
【0042】
図1及び図7に示すように、伝動軸2の動力が第2主及び副伝動軸10,11を介して伝動軸4に伝達される状態(第2油圧クラッチ12の伝動状態)において、シフト部材34の低速位置Lでシフト部材26の低速位置Lが2速位置、シフト部材34の低速位置Lでシフト部材26の高速位置Hが4速位置、シフト部材34の高速位置Hでシフト部材26の低速位置Lが6速位置、シフト部材34の高速位置Hでシフト部材26の高速位置Hが8速位置となる。前述の2速及び4速位置において、第1油圧クラッチ9が遮断状態に操作され、シフト部材23が中立位置Nでシフト部材31が低速位置Lに位置している。6速及び8速位置において、第1油圧クラッチ9が遮断状態に操作され、シフト部材23が中立位置Nでシフト部材31が高速位置Hに位置している。
【0043】
図2に示すように、1〜8速位置に操作自在な変速レバー63及び前後進レバー57、設定スイッチ65が備えられており、変速レバー63及び前後進レバー57、設定スイッチ65の操作位置が、制御装置64(制御手段に相当)に入力されている。制御装置64は、変速レバー63及び前後進レバー57の操作位置、設定スイッチ65の操作位置(第1〜第4変速モード)に基づいて、制御弁39〜42,59〜62を操作して、アクチュエータ35〜38を作動させ、前進及び後進クラッチ75,76、第1及び第2油圧クラッチ9,12を伝動及び遮断状態に操作する。前後進レバー57を前進位置Fに操作すると、前進クラッチ75が伝動状態に操作されて後進クラッチ76が遮断状態に操作され、前後進レバー57を後進位置Rに操作すると、後進クラッチ76が伝動状態に操作されて前進クラッチ75が遮断状態に操作される。
【0044】
前進及び後進クラッチ75,76に対して、人為的に踏み操作自在なクラッチペダル(図示せず)が備えられて、クラッチペダルの操作位置が制御装置64に入力されている。これにより、前後進レバー57が前進位置Fに操作されている状態(前進クラッチ75が伝動状態に操作されて後進クラッチ76が遮断状態に操作された状態)において、クラッチペダルを踏み操作すると前進クラッチ75が遮断状態に操作され、クラッチペダルを戻し操作すると前進クラッチ75が伝動状態に操作される。前後進レバー57が後進位置Rに操作されている状態(後進クラッチ76が伝動状態に操作されて前進クラッチ75が遮断状態に操作された状態)において、クラッチペダルを踏み操作すると後進クラッチ76が遮断状態に操作され、クラッチペダルを戻し操作すると後進クラッチ76が伝動状態に操作される。
【0045】
[6]
次に、第1変速モードについて説明する。
この農用トラクタでは第1変速モード、第2変速モード、第3変速モード及び第4変速モードの4つを備えており、運転者が設定スイッチ65(図2参照)を操作することによって、第1変速モード、第2変速モード、第3変速モード及び第4変速モードのうちの一つを選択する。第1変速モードにおいては、変速レバー63をある操作位置(変速位置)から別の操作位置(変速位置)に操作した場合に、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)に一気に変速操作が行われる。
【0046】
図3及び図7に示すように、例えば変速レバー63を1速位置に操作している状態から2速位置に操作したとする。変速レバー63を1速位置に操作している状態では、シフト部材31が低速位置L、シフト部材23が低速位置Lで、前進クラッチ75(後進クラッチ76)及び第1油圧クラッチ9が作動圧P1で伝動状態に操作されており、シフト部材34が低速位置L、シフト部材26が中立位置Nで、第2油圧クラッチ12が作動圧P0で遮断状態に操作されている。
【0047】
図3に示すように、変速レバー63を1速位置に操作している状態で、変速レバー63を2速位置に操作すると(時点T11)、前進クラッチ75(後進クラッチ76)及び第1油圧クラッチ9が作動圧P0に速やかに減圧されて遮断状態に操作され(実線A3及び一点鎖線A1参照)、第2油圧クラッチ12が作動圧P1に速やかに昇圧されて伝動状態に操作される(点線A2参照)。これと同時に、シフト部材23が低速位置Lから中立位置Nに操作され、シフト部材26が中立位置Nから低速位置Lに操作される(シフト部材31,34は低速位置Lに保持されている)。
【0048】
図3に示すように、シフト部材23が低速位置Lから中立位置Nに操作され、シフト部材26が中立位置Nから低速位置Lに操作されると(時点T12)、前進クラッチ75(後進クラッチ76)が作動圧P0から漸次的に昇圧されて作動圧P1に達し(実線A3参照)、前進クラッチ75(後進クラッチ76)が伝動状態に操作される(時点T13)。以上のようにして、変速操作を終了する。この場合、1回の変速操作に要する時間T1(時点T11から時点T13まで)が比較的短いものとなっている。
【0049】
例えば変速レバー63を2速位置から1速位置に操作する場合、図7に示すようにシフト部材23,26(シフト部材31,34は低速位置Lに保持されている)が操作されるのに加えて、図3において第1及び第2油圧クラッチ9,12の状態が逆転し、第1油圧クラッチ9が遮断状態から伝動状態に操作され、第2油圧クラッチ12が伝動状態から遮断状態に操作されるのであり、図3の実線A3に示すように前進クラッチ75(後進クラッチ76)の減圧及び昇圧が行われる。
【0050】
例えば変速レバー63を1速位置から3速位置に操作する場合、図7に示すようにシフト部材23が操作されるが、シフト部材26は中立位置Nのままで(シフト部材31,34は低速位置Lに保持されている)、第1油圧クラッチ9が伝動状態に保持され、第2油圧クラッチ12が遮断状態に保持されて、図3の実線A3に示すように前進クラッチ75(後進クラッチ76)の減圧及び昇圧が行われる。
【0051】
例えば変速レバー63を2速位置から4速位置に操作する場合、図7に示すようにシフト部材26が操作されるが、シフト部材23は中立位置Nのままで(シフト部材31,34は低速位置Lに保持されている)、第1油圧クラッチ9が遮断状態に保持され、第2油圧クラッチ12が伝動状態に保持されて、図3の実線A3に示すように前進クラッチ75(後進クラッチ76)の減圧及び昇圧が行われる。
【0052】
[7]
次に、第2変速モードの前半について、図4,5,7に基づいて説明する。
第2変速モードにおいては、変速レバー63をある操作位置(変速位置)から別の操作位置(変速位置)に操作した場合、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から、1回ずつ変速操作が行われて、最後に変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)に達するように変速操作が行われる。
例えば変速レバー63を1速位置から5速位置に操作すると、1速位置から2速位置への変速操作が行われ、2速位置から3速位置への変速操作が行われ、3速位置から4速位置への変速操作が行われ、4速位置から5速位置への変速操作が行われる。例えば変速レバー63を6速位置から3速位置に操作すると、6速位置から5速位置への変速操作が行われ、5速位置から4速位置への変速操作が行われ、4速位置から3速位置への変速操作が行われる。
【0053】
例えば変速レバー63を1速位置に操作している状態(シフト部材23が低速位置L、シフト部材26が中立位置N、シフト部材31,34が低速位置L、前進クラッチ75(後進クラッチ76)及び第1油圧クラッチ9が作動圧P1で伝動状態、第2油圧クラッチ12が作動圧P0で遮断状態に操作された状態)において、例えば変速レバー63を5速位置に操作すると(ステップS1)(時点T21)、シフト部材26が中立位置Nから低速位置Lに操作される(ステップS2,S3)(時点T21から時点T22)。これにより、シフト部材23,31が1速位置の状態で、シフト部材26,34が2速位置の状態となる。この場合、シフト部材34は高速位置Hに操作されずに低速位置Lに残される(ステップS4を通過)(図7参照)。
【0054】
シフト部材26が低速位置L(2速位置の状態)に操作されると(ステップS3)(時点T22)、前進クラッチ75(後進クラッチ76)が作動圧P2(作動圧P0,P1の間の中間)に速やかに減圧されて、半伝動状態に操作される(ステップS5)(時点T22)(実線A3参照)。これと略同時に、第2油圧クラッチ12が作動圧P0から比較的速やかに昇圧されて伝動状態に操作されながら(時点T22から時点T23)(点線A2参照)、第1油圧クラッチ9が作動圧P1から比較的速やかに減圧されて遮断状態に操作される(ステップS6)(時点T22から時点T23)(一点鎖線A1参照)。
【0055】
これにより、図1に示すように、シフト部材23,31が1速位置の状態での動力が伝動軸4に伝達されるのと同時に、シフト部材26,34が2速位置の状態での動力が伝動軸4に伝達されて合流する二重伝動状態が発生するのであり、二重伝動状態においてトルクの変動が生じても、半伝動状態の前進クラッチ75(後進クラッチ76)がある程度滑ることによりトルクの変動が吸収されて、トルクの変動の少ない動力が前輪77及び後輪78に伝達される。
【0056】
第2油圧クラッチ12が作動圧P1で伝動状態に操作され、第1油圧クラッチ9が作動圧P0で遮断状態に操作されると(時点T23)、シフト部材23が中立位置Nに操作される(ステップS7)(時点T23から時点T24)。この場合、シフト部材31は高速位置Hに操作されずに低速位置Lに残される(ステップS8を通過)(図7参照)。シフト部材23が中立位置Nに操作されると(時点T24)、前進クラッチ75(後進クラッチ76)が作動圧P2から漸次的に昇圧されて作動圧P1に達し伝動状態に操作される(ステップS9)(時点T24から時点T25)。以上のようにして、1速位置から2速位置への変速操作が終了する。
【0057】
[8]
次に、第2変速モードの後半について、図4,5,7に基づいて説明する。
前項[7]に記載のような1速位置から2速位置への変速操作が終了すると、ステップS16,S2からステップS10に移行し、シフト部材26,34が2速位置の状態で、シフト部材23,31が3速位置の状態に操作される(ステップS10)。この場合、シフト部材31は高速位置Hに操作されずに低速位置Lに残される(ステップS11を通過)(図7参照)。前進クラッチ75(後進クラッチ76)が作動圧P2(作動圧P0,P1の間の中間)に速やかに減圧されて、半伝動状態に操作され(ステップS12)、これと略同時に第1油圧クラッチ9が作動圧P0から比較的速やかに昇圧されて伝動状態に操作されながら、第2油圧クラッチ12が作動圧P1から比較的速やかに減圧されて遮断状態に操作される(ステップS13)。
【0058】
これにより、図1に示すように、シフト部材26,34が2速位置の状態での動力が伝動軸4に伝達されるのと同時に、シフト部材23,31が3速位置の状態での動力が伝動軸4に伝達されて合流する二重伝動状態が発生するのであり、二重伝動状態においてトルクの変動が生じても、半伝動状態の前進クラッチ75(後進クラッチ76)がある程度滑ることによりトルクの変動が吸収されて、トルクの変動の少ない動力が前輪77及び後輪78に伝達される。
【0059】
第1油圧クラッチ9が作動圧P1で伝動状態に操作され、第2油圧クラッチ12が作動圧P0で遮断状態に操作されると、シフト部材26が中立位置Nに操作される(ステップS14)。この場合、シフト部材34は高速位置Hに操作されずに低速位置Lに残される(ステップS15を通過)(図7参照)。シフト部材26が中立位置Nに操作されると、前進クラッチ75(後進クラッチ76)が作動圧P2から漸次的に昇圧されて作動圧P1に達し伝動状態に操作される(ステップS9)。以上のようにして、2速位置から3速位置への変速操作が終了する。
【0060】
前述のように2速位置から3速位置への変速操作が終了すると、次にシフト部材23,31が3速位置の状態及びシフト部材26,34が4速位置の状態での3速位置から4速位置への変速操作が、前項[7]及びステップS2〜S9に基づいて行わる(この場合、シフト部材34,31は高速位置Hに操作されずに低速位置Lに残される(ステップS4,S8を通過)(図7参照)。
【0061】
次にシフト部材26,34が4速位置の状態及びシフト部材23,31が5速位置の状態での4速位置から5速位置への変速操作が、本項[8]及びステップS2,S10〜S15,S9に基づいて行われる(この場合、ステップS11において、シフト部材31が低速位置Lから高速位置Hに操作されるのであり、ステップS15において、シフト部材34が低速位置Lから高速位置Hに操作される)(図7参照)。
以上のようにして変速操作が繰り返されて、変速レバー63の操作位置(変速位置)に達すると(ステップS16)、変速操作が終了する。
【0062】
[9]
次に、第3変速モードの前半について、図6及び図7に基づいて説明する。
第3変速モードにおいては、変速レバー63をある操作位置(変速位置)から別の操作位置(変速位置)に操作した場合、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)と、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)との間において、略中間の伝動比の第1中間変速位置(第1及び第2中間変速位置)が設定され、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作が行われ、第1中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる(変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作が行われて、第1中間変速位置から第2中間変速位置への変速操作が行われ、第2中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる。
【0063】
変速レバー63をある操作位置(変速位置)から1つ高速側又は低速側の操作位置に操作した場合(例えば変速レバー63を1速位置から2速位置に操作した場合や8速位置から7速位置に操作した場合)、ステップS21,S22,S23からステップS29に移行して、変速レバー63の操作位置(変速位置)への変速操作が行われる。この場合、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0064】
変速レバー63を1,3,5,7速位置に操作した状態で変速レバー63を別の1,3,5,7速位置に操作した場合(ステップS21,S22)、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)と、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)との間において、2,4,6,8速位置のうちで略中間の伝動比の第1中間変速位置が設定される(ステップS24)。例えば変速レバー63を1速位置から7速位置に操作すると、4速位置が第1中間変速位置として設定される。
【0065】
変速レバー63を2,4,6,8速位置に操作した状態で変速レバー63を別の2,4,6,8速位置に操作した場合(ステップS21,S23)、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)と、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)との間において、1,3,5,7速位置のうちで略中間の伝動比の第1中間変速位置が設定される(ステップS24)。例えば変速レバー63を8速位置から2速位置に操作すると、5速位置が第1中間変速位置として設定される。
【0066】
変速レバー63を1,3,5,7速位置に操作した状態で、変速レバー63を2,4,6,8速位置に操作した場合(前述のように変速レバー63をある操作位置(変速位置)から1つ高速側又は低速側の操作位置に操作した場合を除く)(ステップS21,S22)、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)と、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)との間において、2,4,6,8速位置のうちで略中間の伝動比の第1中間変速位置が設定され、1,3,5,7速位置のうちで略中間の伝動比の第2中間変速位置が設定される(ステップS26)。この場合、第1中間変速位置に対し第2中間変速位置が、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)に寄っている。例えば変速レバー63を1速位置から6速位置に操作すると、3速位置が第1中間変速位置として設定され、4速位置が第2中間変速位置として設定される。例えば変速レバー63を1速位置から8速位置に操作すると、4速位置が第1中間変速位置として設定され、5速位置が第2中間変速位置として設定される。
【0067】
変速レバー63を2,4,6,8速位置に操作した状態で、変速レバー63を1,3,5,7速位置に操作した場合(前述のように変速レバー63をある操作位置(変速位置)から1つ高速側又は低速側の操作位置に操作した場合を除く)(ステップS21,S23)、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)と、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)との間において、1,3,5,7速位置のうちで略中間の伝動比の第1中間変速位置が設定され、2,4,6,8速位置のうちで略中間の伝動比の第2中間変速位置が設定される(ステップS26)。この場合、第1中間変速位置に対し第2中間変速位置が、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)に寄っている。例えば変速レバー63を8速位置から1速位置に操作すると、5速位置が第1中間変速位置として設定され、4速位置が第2中間変速位置として設定される。
【0068】
[10]
次に、第3変速モードの後半について、図6及び図7に基づいて説明する。
前項[9]に記載のように、第1中間変速位置が設定された状態において(ステップS24)、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作が行われる(ステップS25)。この場合、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0069】
次に、第1中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる(ステップS29)。この場合に、第1中間変速位置が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、第1中間変速位置が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0070】
前項[9]に記載のように、第1及び第2中間変速位置が設定された状態において(ステップS26)、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作が行われる(ステップS27)。この場合に、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0071】
次に、第1中間変速位置から第2中間変速位置への変速操作が行われる(ステップS28)。この場合、第1中間変速位置が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、第1中間変速位置が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0072】
次に、第2中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる(ステップS29)。この場合に、第2中間変速位置が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、第2中間変速位置が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0073】
[11]
次に、第4変速モードについて説明する。
第4変速モードにおいては、前項[9][10]に記載の第3変速モードと同様に第1中間変速位置(第1及び第2中間変速位置)が設定されるが、第1中間変速位置(第1及び第2中間変速位置)が以下のように第3変速モードとは異なっている。
【0074】
第4変速モードにおいては、変速レバー63をある操作位置(変速位置)から別の操作位置(変速位置)に操作した場合、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第1中間変速位置(第1及び第2中間変速位置)が設定され、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作が行われ、第1中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる(変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作が行われて、第1中間変速位置から第2中間変速位置への変速操作が行われ、第2中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる。
【0075】
変速レバー63をある操作位置(変速位置)から1つ高速側又は低速側の操作位置に操作した場合(例えば変速レバー63を1速位置から2速位置に操作した場合や8速位置から7速位置に操作した場合)、第3変速モード(前項[9][10]参照)と同様に変速レバー63の操作位置(変速位置)への変速操作が行われる。この場合、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が1,3,5,7速位置であると、前項[7]及び図5のステップS3〜S9に基づく変速操作が行われ、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)が2,4,6,8速位置であると、前項[8]及び図5のステップS10〜S15,S9に基づく変速操作が行われる。
【0076】
変速レバー63を1,3,5,7速位置に操作した状態で、変速レバー63を別の1,3,5,7速位置に操作した場合、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第1中間変速位置が、2,4,6,8速位置のうちから設定される。例えば変速レバー63を1速位置から7速位置に操作すると、6速位置が第1中間変速位置として設定される。
【0077】
変速レバー63を2,4,6,8速位置に操作した状態で、変速レバー63を別の2,4,6,8速位置に操作した場合、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第1中間変速位置が、1,3,5,7速位置のうちから設定される。例えば変速レバー63を8速位置から2速位置に操作すると、3速位置が第1中間変速位置として設定される。
【0078】
変速レバー63を1,3,5,7速位置に操作した状態で、変速レバー63を2,4,6,8速位置に操作した場合(前述のように変速レバー63をある操作位置(変速位置)から1つ高速側又は低速側の操作位置に操作した場合を除く)、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第1中間変速位置が、2,4,6,8速位置のうちから設定され、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第2中間変速位置が、1,3,5,7速位置のうちから設定される。この場合、第1中間変速位置に対し第2中間変速位置が、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)に寄っている。例えば変速レバー63を1速位置から8速位置に操作すると、6速位置が第1中間変速位置として設定され、7速位置が第2中間位置として設定される。
【0079】
変速レバー63を2,4,6,8速位置に操作した状態で、変速レバー63を1,3,5,7速位置に操作した場合(前述のように変速レバー63をある操作位置(変速位置)から1つ高速側又は低速側の操作位置に操作した場合を除く)、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第1中間変速位置が、1,3,5,7速位置のうちから設定され、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)から、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)に少し寄った第2中間変速位置が、2,4,6,8速位置のうちから設定される。この場合、第1中間変速位置に対し第2中間変速位置が、変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)に寄っている。例えば変速レバー63を8速位置から1速位置に操作すると、3速位置が第1中間変速位置として設定され、2速位置が第2中間位置として設定される。
【0080】
以上のようにして、第1中間変速位置(第1及び第2中間変速位置)が設定されると、前項[9][10]及び図6に記載の第3変速モードと同様に、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作、第1中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われるのであり、変速レバー63が操作される前の操作位置(変速位置)から第1中間変速位置への変速操作、第1中間変速位置から第2中間変速位置への変速操作、第2中間変速位置から変速レバー63が操作された操作位置(変速位置)への変速操作が行われる。
【0081】
[発明の実施の別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]において、図1に示す第1主変速装置13を第1副伝動軸8と伝動軸4との間に構成し、第1副変速装置14を第1主伝動軸7と伝動軸2との間に構成してもよい。図1に示す第2主変速装置15を第2副伝動軸11と伝動軸4との間に構成し、第2副変速装置16を第2主伝動軸10と伝動軸2との間に構成してもよい。
本発明は、特許文献1のように油圧クラッチ型式の走行用の変速装置を備えた作業車に適用することもでき、前輪77及び後輪78に代えて右及び左のクローラ走行装置(図示せず)を備えた作業車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】走行伝動系を示す概略図
【図2】前後進レバー、変速レバー、前進及び後進クラッチ、第1及び第2油圧クラッチ、アクチュエータの操作系を示す図
【図3】第1変速モードにおいて、1速位置から2速位置への変速操作を示す図
【図4】第2変速モードにおいて、1速位置から2速位置への変速操作を示す図
【図5】第2変速モードの流れを示す図
【図6】第3変速モードの流れを示す図
【図7】1〜8速位置でのシフト部材、第1及び第2油圧クラッチの状態を示す図
【符号の説明】
【0083】
1 エンジン
13,14,15,16 走行用の変速装置
67 前後進切換装置
75 伝動クラッチ、前進クラッチ
76 伝動クラッチ、後進クラッチ
77,78 走行装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力が伝達される走行用の変速装置を備え、前記走行用の変速装置の伝動下手側に油圧多板式の伝動クラッチを備えて、
前記走行用の変速装置の変速操作に伴って伝動クラッチを伝動状態から半伝動状態に操作し再び伝動状態に操作する制御手段を備えると共に、
前記伝動クラッチから走行装置までの伝動系を、一定の減速比で動力を伝達する定減速伝動系に構成してある作業車の走行変速構造。
【請求項2】
油圧多板式の前進クラッチ及び後進クラッチを備えて構成された前後進切換装置を、前記走行用の変速装置の伝動下手側に備え、
前記前進クラッチ及び後進クラッチを伝動クラッチとしてある請求項1に記載の作業車の走行変速構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−218277(P2007−218277A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36539(P2006−36539)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】