説明

停止制御装置

【課題】電気ブレーキと空気ブレーキとの切り替わったタイミングを正確に推定し、駅定点停止制御において使用すべきブレーキモデルを誤判断無く適切に選択して精度のよい駅定点停止制御を行う停止制御装置を提供する。
【解決手段】ブレーキモデル選択情報に基づき列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する駅定点停止ノッチ制御部6とを備え、ブレーキモデル判断部20は、列車の速度を検出する列車走行速度検出部1と、速度を微分することにより減速度を算出する減速度演算部2と、減速度の波形を微分することによりジャーク波形を算出するジャーク演算部3aと、ジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4と、切替の判断結果に基づきブレーキモデルを選択するブレーキモデル選択部5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両を目標停止点に停止させるための停止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車両用のブレーキとして、機械的に制輪子を踏面またはディスクに押し付けることでブレーキ力を発生させる空気ブレーキと、電動機を発電機として動作させ、ブレーキ方向のトルクを発生させる電気ブレーキとが使用されている。2種類のブレーキが併用されている理由として、電気ブレーキのみによる急な減速や停止状態を保つことが困難であるというものがあり、通常の鉄道車両は、高速域において電気ブレーキを使用し、停止前の低速域において空気ブレーキを主体として使用することが多い。
【0003】
鉄道車両は、例えば車両毎あるいは車軸毎にブレーキ制御装置を備え、速度等の情報に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとのいずれかを選択し、あるいは両ブレーキを併用して停止制御を行う。停止制御を行う際に当該ブレーキ制御装置は、運転台に設けられた主幹制御器等によるブレーキノッチ指令に応じてブレーキ力のコントロールを行う。
【0004】
特許文献1には、各車輪の滑走に対してブレーキ力をきめ細かく制御することが可能なブレーキ制御システムが記載されている。このブレーキ制御システムは、車軸単位にブレーキ制御器を備えており、対応する車軸の軸速度と他の車軸の軸速度とを用いて対応する車軸の滑走を検知するとともに、滑走が発生した場合にブレーキ力をきめ細かく制御することができる。
【0005】
近年では、列車鉄道システムや新交通システム等の走行路上を走行する車両の時隔短縮を担う自動列車制御装置が利用されており、各車両の運転制御が自動化され、車両の運行の高密度化、効率化が図られている。列車の運行ダイヤは高密度化の傾向にあり、車両が所定停止位置を過走すると列車運行遅延の原因となるため、精度のよい駅定点停止制御を自動で行う停止制御装置が求められている。
【0006】
したがって、鉄道車両に搭載された停止制御装置は、目標とする停止位置までの距離や速度等の要素を考慮し、適切なブレーキノッチ指令を自動的に選択して出力する必要がある。しかしながら、上述したように、鉄道車両は通常、電気ブレーキと空気ブレーキの2種類のブレーキを使いわけているため、現時点においていずれのブレーキを使用しているのかを判断した上で、当該ブレーキ種類に応じた適切なブレーキノッチ指令を選択する必要がある。すなわち、鉄道車両における停止制御装置は、駅定点停止制御において停止精度を許容範囲内に維持するために、現時点で使用しているブレーキの種類を把握した上で、ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)の適切な選択を行う必要がある。これは、同じブレーキノッチ指令であっても、当該ブレーキノッチ指令に対する空気ブレーキのブレーキ性能と電気ブレーキのブレーキ性能に違いがあることに起因する。
【0007】
いずれのブレーキを使用しているか判断するに際し、停止制御装置は、既存車両における「電気ブレーキ」と「空気ブレーキ」の切替タイミングの情報を取得する必要がある。しかしながら、上述したようにブレーキ制御装置が車両毎あるいは車軸毎に備えられているため、各ブレーキ制御装置から切替タイミングの情報を取得するためには、新たな引き通し線の配線や車両の改造が必要とされる。
【0008】
そこで、引き通し線等を介さずに切替タイミングの推定を行うため、「予め決められたブレーキ切替条件」を利用して切替の推定を行う停止制御装置の開発が行われてきた。「予め決められたブレーキ切替条件」の例として、車両性能に応じた特定の列車速度で「電気ブレーキ」と「空気ブレーキ」とが切り替わるケースや、特定の速度以下でブレーキ緩解した場合に「電気ブレーキ」と「空気ブレーキ」とが切り替わるケース等が挙げられる。
【0009】
図6は、鉄道車両に使用される従来の停止制御装置の構成を示すブロック図である。この停止制御装置は、図6に示すように、列車走行速度検出部1、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4、ブレーキモデル選択部5、及び駅定点停止ノッチ制御部6で構成される。
【0010】
列車走行速度検出部1は、TG(速度発電機)あるいはPG(パルス発電機)からの定周期毎のカウント値を速度値に変換することにより、列車の走行速度を検出して出力する。
【0011】
電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、列車走行速度検出部1により出力された列車走行速度とブレーキ指令情報とに基づき、ブレーキ切替の発生の有無を判断し、判断結果を切替発生判断情報として出力する。
【0012】
ブレーキモデル選択部5は、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4により出力された切替発生判断情報に基づき、ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)の選択を行い、選択結果をブレーキモデル選択情報として出力する。
【0013】
駅定点停止ノッチ制御部6は、電気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)7と空気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)8とを予め情報として有しており、ブレーキモデル選択部5により出力されたブレーキモデル選択情報に基づいていずれかのブレーキモデルを選択し、当該ブレーキモデルを参照して適切なブレーキノッチ指令値を出力する。
【0014】
図7は、従来の停止制御装置の電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4により使用される「予め決められたブレーキ切替条件」の例を示す図である。電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、上述したように、列車走行速度検出部1により出力された列車走行速度とブレーキ指令情報(ブレーキ指令がオンであるかオフであるかに関する情報)とに基づき、ブレーキ種類(電気ブレーキと空気ブレーキ)の切替が生じたか否かを判断する。
【0015】
図7(a)は、車両性能に応じた特定の列車速度(25km/h)で「電気ブレーキ」と「空気ブレーキ」とが切り替わるケースを示す。この場合において、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ブレーキ指令が継続して与えられている状況下において、時速25kmを境に電気ブレーキから空気ブレーキに切り替わったものと判断する。
【0016】
また、図7(b)は、特定の速度(30km/h)以下でブレーキ緩解にした場合に「電気ブレーキ」と「空気ブレーキ」とが切り替わるケースを示す。この場合において、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ブレーキ指令が与えられている状況下で時速30km/hに減速するまでは「電気ブレーキ」が使用されていると判断し、時速30kmに達してブレーキを緩めるために一旦ブレーキ指令がストップし、その後再びブレーキ指令が与えられて時速30km未満に減速し始めた場合には「空気ブレーキ」が使用されていると判断する。
【0017】
したがって、図6に示す鉄道車両用の停止制御装置は、新たな引き通し線の配線や車両の改造を必要とせずに、ブレーキの種類の切替タイミングを推定してブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)を選択することができ、適切なブレーキノッチ指令値を出力して精度のよい駅定点停止制御を行うことができる。
【特許文献1】特開2008−143365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上述した停止制御装置は、図7に示すような「予め決められたブレーキ切替条件」を電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4に設定しておく必要がある。ブレーキの切替タイミングを決定するブレーキ制御装置には様々な種類があり、切替タイミングの決定方法も様々であるため、停止制御装置は、車種毎に異なる「ブレーキ切替条件」を電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4に予め設定する必要がある。また、ブレーキ制御装置が車両毎に設けられ、車両毎にブレーキの切り替わるタイミングがばらつく場合があるため、開発者は、例えば車両毎のバラツキを測定して平均化した「ブレーキ切替条件」を決定し、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4に予め設定する必要がある場合も考えられる。このような「ブレーキ切替条件」は、決定に時間を要するとともに、定点停止制御において精度に欠ける面もある。
【0019】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するもので、電気ブレーキと空気ブレーキとの切り替わったタイミングを正確に推定し、駅定点停止制御において使用すべきブレーキモデルを誤判断無く適切に選択して精度のよい駅定点停止制御を行う停止制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る停止制御装置は、上記課題を解決するために、複数の車両により構成された列車内に搭載された停止制御装置であって、前記列車の速度情報に基づき前記列車を目標とする地点に停車させるために使用すべきブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力するブレーキモデル判断部と、前記ブレーキモデル判断部により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき前記列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する制御部とを備え、前記ブレーキモデル判断部は、前記列車の速度を検出する速度検出部と、前記速度検出部により検出された速度を微分することにより減速度を算出する減速度算出部と、前記減速度算出部により算出された減速度の波形を微分することによりジャーク波形を算出するジャーク波形算出部と、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する切替発生判断部と、前記切替発生判断部による判断結果に基づき前記列車の停止制御に使用するブレーキモデルを選択するブレーキモデル選択部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る停止制御装置によれば、電気ブレーキと空気ブレーキとの切り替わったタイミングを正確に推定し、駅定点停止制御において使用すべきブレーキモデルを誤判断無く適切に選択して精度のよい駅定点停止制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の停止制御装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1に係る停止制御装置の構成を示すブロック図である。本実施例における停止制御装置は、複数の車両により構成された列車内に搭載されるものであり、いずれかの車両内に搭載されていればよい。この停止制御装置は、駅定点停止制御で使用すべきブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)を電気ブレーキ用のブレーキモデルとすべきか空気ブレーキ用のブレーキモデルとすべきかを適切に判断し、選択したブレーキモデルに基づいてブレーキノッチ指令を出力して列車の停止制御を行うものである。本実施例において、停止制御装置は、図1に示すように、ブレーキモデル判断部20、駅定点停止ノッチ制御部6、及び路線データベース9により構成される。
【0024】
ブレーキモデル判断部20は、図1に示すように、列車走行速度検出部1と、減速度演算部2と、ジャーク演算部3aと、ジャーク波形演算部3bと、バンドパスフィルタリング部3cと、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4と、ブレーキモデル選択部5とから構成され、列車の速度情報に基づき列車を目標とする地点に停車させるために使用すべきブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。
【0025】
駅定点停止ノッチ制御部6は、本発明の制御部に対応し、ブレーキモデル判断部20により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき、列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。本実施例において、駅定点停止ノッチ制御部6は、電気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)7と空気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)8とをブレーキモデルとして記憶しており、ブレーキモデル選択情報に基づいていずれかのブレーキモデルを参照し、停止制御に必要なブレーキノッチ指令を出力する。
【0026】
路線データベース9は、セクション切替区間情報を記憶しており、必要に応じて電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4に当該セクション切替区間情報を提供する。なお、路線データベース9は、本発明において必ずしも必須の構成要件ではない。
【0027】
列車走行速度検出部1は、本発明の速度検出部に対応し、TG(速度発電機)あるいはPG(パルス発電機)からの定周期毎のカウント値を速度値に変換することにより、列車の速度を検出する。
【0028】
減速度演算部2は、本発明の減速度算出部に対応し、列車走行速度検出部1により検出された速度を微分することにより減速度を算出する。これにより、減速度演算部2は、走行速度波形を一次微分した減速度波形を得ることができる。
【0029】
ジャーク演算部3aは、本発明のジャーク波形算出部に対応し、減速度演算部2により算出された減速度の波形を微分することによりジャーク波形を算出する。
【0030】
ジャーク波形分析部3bは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に基づき電気ブレーキから空気ブレーキに変化する際のジャーク値の周波数スペクトルを抽出する。
【0031】
バンドパスフィルタリング3cは、本発明のフィルタリング部に対応し、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対し、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトルの周波数帯の信号を中心に抽出するようにフィルタリング処理を行う。
【0032】
また、ブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を事前に抽出しておくことにより、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対し、ブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去するようにフィルタリング処理を行うことができる。
【0033】
さらに、バンドパスフィルタリング3cは、ブレーキノッチの切替が行われたことを示すブレーキ指令情報を外部から取得する。これにより、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対してブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去する際に、外部から入力されたブレーキ指令情報により得られたブレーキノッチ切替時と一致する時刻の周波数成分のみを除去するようにフィルタリング処理を行う。
【0034】
また、空転・滑走時にジャーク波形上に発生する周波数成分を事前に抽出しておくことにより、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対し、空転及び滑走時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去するようにフィルタリング処理を行う。
【0035】
電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、本発明の切替発生判断部に対応し、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断し、切替発生判断情報として出力する。具体的には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形の変動幅が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断する。
【0036】
また、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトルに基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する。具体的には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトル(周波数成分)の強度が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断する。
【0037】
また、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、バンドパスフィルタリング部3cによりフィルタリング処理されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する。具体的には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、バンドパスフィルタリング部3cによりフィルタリング処理されたジャーク波形の変動幅が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断する。
【0038】
さらに、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、路線データベース9から取得したセクション切替区間情報に基づき、セクション切替区間におけるジャーク波形を除外して電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する。
【0039】
ブレーキモデル選択部5は、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4による判断結果に基づき列車の停止制御に使用するブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。例えば、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4による判断結果において未だブレーキの切替が発生しておらず電気ブレーキを使用しているのであれば、ブレーキモデル選択部5は、電気ブレーキ用のブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4による判断結果が、既にブレーキの切替が発生し、現在空気ブレーキを使用しているというものであれば、ブレーキモデル選択部5は、空気ブレーキ用のブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。
【0040】
次に、上述のように構成された本実施の形態の停止制御装置の作用を説明する。図2は、本実施例に係る停止制御装置の動作を示す図である。まず、列車走行速度検出部1は、TG(速度発電機)あるいはPG(パルス発電機)からの定周期毎のカウント値を速度値に変換することにより、列車の速度を検出する。図2(a)は、減速時において列車走行速度検出部1により検出された速度と時間の関係を示す図である。
【0041】
次に、減速度演算部2は、列車走行速度検出部1により検出された速度の波形を一次微分することにより減速度波形を算出する。図2(b)は、減速度演算部2により算出された減速度波形を示す図である。
【0042】
次に、ジャーク演算部3aは、減速度演算部2により算出された減速度の波形をさらに微分(速度波形の二次微分)することによりジャーク波形を算出する。図2(c)は、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形を示す図である。
【0043】
ジャーク波形分析部3bは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形を入力値とし、当該ジャーク波形に基づき電気ブレーキから空気ブレーキに変化する際のジャーク値の周波数スペクトルを抽出する。図2(d)は、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトルを示す図である。一般的に、電気/空気ブレーキ切替時に発生する周波数は低周波数帯域である。
【0044】
なお、ジャーク波形分析部3bは、オンラインで動作してもオフラインで動作してもよい。例えば、ジャーク波形分析部3bは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形の周波数分析を当該停止制御装置による停止制御中にオンラインで行う。あるいは、ジャーク波形分析部3bは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形の周波数分析をオフラインで行う。
【0045】
また、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対し、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトルの周波数帯の信号を中心に抽出するようにフィルタリング処理を行う。図2(e)は、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形から、電気/空気ブレーキ切替時に発生する周波数成分を中心とする周波数帯域の波形のみを抽出するようにフィルタリング処理を行う様子を示す図である。
【0046】
さらに、図2(f)において、ジャーク波形分析部3bは、電気/空気ブレーキ切替時におけるジャーク値の周波数スペクトルを抽出するのみならず、ブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を事前に抽出する。これにより、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対し、電気/空気ブレーキ切替時のジャーク波形を周波数で抽出するとともに、ブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去するようにフィルタリング処理を行うことができる。したがって、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク波形に与えるブレーキノッチ切替の影響を除外することができる。
【0047】
また、図2(g)において、バンドパスフィルタリング3cは、ブレーキノッチの切替が行われたことを示すブレーキ指令情報を外部から取得する。これにより、バンドパスフィルタリング3cは、電気/空気ブレーキ切替時のジャーク波形を周波数で抽出するとともに、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対してブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去する際に、外部から入力されたブレーキ指令情報により得られたブレーキノッチ切替時と一致する時刻の周波数成分のみを除去するようにフィルタリング処理を行う。なお、図2(g)におけるブレーキ指令の有無は、その前後においてブレーキノッチの切替が行われたことを示すものとする。
【0048】
また、ジャーク波形分析部3bは、ブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分の抽出について、事前にオフライン処理で行っても、駅定点制御中にオンライン処理で行ってもよい。
【0049】
次に、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、以下に示す3つの方法のいずれかにより、電気ブレーキと空気ブレーキの切替が発生したか否かを判断する。なお、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、以下に示す3つの方法のうち複数の方法を組み合わせて動作してもよい。その場合には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、組み合わせ実施による複数結果を1つに集約して(例えば多数決等により)最終的な判断を行う。
【0050】
1つ目の方法として、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断し、切替発生判断情報として出力する。具体的には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形(すなわちフィルタリング前のジャーク波形)の変動幅が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断する。
【0051】
2つ目の方法として、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトルに基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する。具体的には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、ジャーク波形分析部3bにより抽出された周波数スペクトルの強度が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断する。
【0052】
3つ目の方法として、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、バンドパスフィルタリング部3cによりフィルタリング処理されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する。具体的には、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、バンドパスフィルタリング部3cによりフィルタリング処理されたジャーク波形の変動幅が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断する。
【0053】
上述したように、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、上の3つの方法を組み合わせて判断を行う。そのため、例えば1つ目の方法のみを用いて判断する場合には、ジャーク波形分析部3b及びバンドパスフィルタリング部3cは不要である。すなわち、ジャーク波形分析部3b及びバンドパスフィルタリング部3cは、必ずしも本発明において必須の構成要件ではない。
【0054】
また、図2中に示されてはいないが、ジャーク波形分析部3bは、空転・滑走時にジャーク波形上に発生する周波数成分を事前に抽出しておくこともできる。この場合において、バンドパスフィルタリング3cは、ジャーク演算部3aにより算出されたジャーク波形に対し、空転及び滑走時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去するようにフィルタリング処理を行うこともできる。
【0055】
図3は、セクション切替区間情報を使用して該当区間のジャーク波形を除外した様子を示す図である。この場合において、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、路線データベース9から取得したセクション切替区間情報に基づき、セクション切替区間におけるジャーク波形を除外して電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する。なお、セクション切替区間情報を使用しない場合には、路線データベース9は不要である。
【0056】
次に、ブレーキモデル選択部5は、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4による判断結果に基づき列車の停止制御(駅定点停止制御)に使用するブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。
【0057】
このようにしてブレーキモデル判断部20は、列車の速度情報に基づき列車を目標とする地点に停車させるために使用すべきブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。
【0058】
駅定点停止ノッチ制御部6は、ブレーキモデル判断部20内のブレーキモデル選択部5により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき、電気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)7と空気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)8とのいずれかを選択し、当該ブレーキモデルにしたがって列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。
【0059】
上述したように、本発明の実施例1に係る停止制御装置によれば、電気ブレーキと空気ブレーキとの切り替わったタイミングを正確に推定し、駅定点停止制御において使用すべきブレーキモデルを誤判断無く適切に選択して精度のよい駅定点停止制御を行うことができる。
【0060】
図6に示す従来の停止制御装置において、電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部4は、「予め決められたブレーキ切替条件」を設定しておく必要がある。したがって、設定した「ブレーキ切替条件」によっては、当該停止制御装置による駅定点停止制御は、不正確なものとなる可能性がある。
【0061】
しかしながら、本実施例の停止制御装置は、列車の速度を二次微分したジャーク波形の変動幅が所定のしきい値を超えたか否かにより電気ブレーキから空気ブレーキに切り替わるタイミングを検知するため、従来のように最適な「ブレーキ切替条件」を決定するために時間を費やす必要も無く、またあらゆる車種の列車に対応して正確にブレーキ切替を検知し、正確な停止制御を行うことができる。
【0062】
さらに、本実施例の停止制御装置は、ジャーク波形分析部3bを備えることにより、ジャーク波形を周波数分析し、抽出した周波数成分の強度がしきい値を超えた場合に電気ブレーキから空気ブレーキに切り替わったと判断するので、ブレーキ切替時の周波数成分のみを対象とし、誤判断を無くして、より正確にブレーキ切替発生の有無を判断することができる。さらに、ジャーク波形分析部3bは、オンラインで周波数分析を行う構成にすることもオフラインで周波数分析を行う構成とすることもできるので、より正確且つ迅速な周波数分析が可能である。
【0063】
また、本実施例の停止制御装置は、バンドパスフィルタリング部3cを備えるので、ブレーキ切替時以外の周波数成分、ブレーキノッチ切替の影響、空転・滑走時の影響、及びセクション切替区間の影響を排除することができ、誤判断を無くして、より正確に電気ブレーキから空気ブレーキへの切替発生の有無を判断することができる。
【実施例2】
【0064】
図4は、本発明の実施例2に係る停止制御装置の構成を示すブロック図である。本実施例において、停止制御装置は、図4に示すように、1号車ブレーキモデル判断部20−1,2号車ブレーキモデル判断部20−2,…,15号車ブレーキモデル判断部20−15,16号車ブレーキモデル判断部20−16、編成ブレーキモデル選択部21、及び駅定点停止ノッチ制御部6で構成されている。
【0065】
すなわち、本実施例において、1号車ブレーキモデル判断部20−1,2号車ブレーキモデル判断部20−2,…,15号車ブレーキモデル判断部20−15,16号車ブレーキモデル判断部20−16は、本発明のブレーキモデル判断部に対応し、複数の車両の各々に対応して複数(本実施例においては1号車から16号車まであるため16個)設けられている。なお、各車両に設けられたブレーキモデル判断部は、実施例1のブレーキモデル判断部20と同一の構成であるものとする。したがって、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々は、自己の車両の速度情報に基づき列車を目標とする地点に停車させるために使用すべきブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力する。
【0066】
また、各ブレーキモデル判断部は、実施例1で説明したように内部に速度検出部を有し、自己の車両の速度を検出する。1例として、1号車ブレーキモデル判断部20−1内に設けられた速度検出部は、1号車の速度を検出する。
【0067】
全ての車両は連結されているため、いずれの車両もほぼ同じ速度で走行するはずではあるが、厳密な速度は車両毎にわずかに異なり、空転や滑走が生じている場合もありうるため、各速度検出部が検出する速度はわずかに異なる。
【0068】
編成ブレーキモデル選択部21は、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき列車の編成全体として停止制御に使用するブレーキモデルを選択する。
【0069】
具体的には、編成ブレーキモデル選択部21は、各号車のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)が一次判断したブレーキモデル選択情報を集約し、駅定点停止制御で使用すべきブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)を電気ブレーキ用とすべきか、空気ブレーキ用とすべきか、電気ブレーキ/空気ブレーキ混在とすべきかを判断する。
【0070】
例えば、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の全てが電気ブレーキ用のブレーキモデルを選択している場合には、編成ブレーキモデル選択部21は、電気ブレーキ用のブレーキモデルを選択する。一方、一部のブレーキモデル判断部(例えば20−1〜20−12)が電気ブレーキ用のブレーキモデルを選択し、その他のブレーキモデル判断部(20−13〜20−16)が空気ブレーキ用のブレーキモデルを選択している場合には、編成ブレーキモデル選択部21は、「電気/空気混在ブレーキモデル」を選択する。
【0071】
本実施例の駅定点停止ノッチ制御部6は、実施例1と同様に本発明の制御部に対応する。実施例1の駅定点停止ノッチ制御部6は、ブレーキモデル判断部20により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき、列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。しかしながら、本実施例の駅定点停止ノッチ制御部6は、ブレーキモデル判断部20に代えて、編成ブレーキモデル選択部21により選択されたブレーキモデルに基づき列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。
【0072】
次に、上述のように構成された本実施の形態の停止制御装置の作用を説明する。複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々は、内部の速度検出部が自己の車両の速度を検出する点を除き、実施例1のブレーキモデル判断部20と同様の動作を行う。
【0073】
編成ブレーキモデル選択部21は、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき列車の編成全体として停止制御に使用するブレーキモデルを選択する。
【0074】
従来技術として上述したように、鉄道車両は、例えば車両毎あるいは車軸毎にブレーキ制御装置を備え、速度等の情報に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとのいずれかを選択し、あるいは両ブレーキを併用して停止制御を行う。したがって、例えば車両毎に設けられたブレーキ制御装置は、各車両の速度に応じていずれのブレーキを使用するかをそれぞれ決定している。一方、本実施例の複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々は、自己の車両の速度に応じてそれぞれブレーキモデルを判断しているため、各ブレーキ制御装置に対応してブレーキモデルを判断していることとなり、理に適っている。
【0075】
駅定点停止ノッチ制御部6は、編成ブレーキモデル選択部21により選択されたブレーキモデルに基づき列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。本実施例において、駅定点停止ノッチ制御部6は、電気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)7、空気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)8、及び電気/空気混在ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)22をブレーキモデルとして記憶しており、編成ブレーキモデル選択部21により選択されたブレーキモデルに基づいていずれかのブレーキモデルを参照し、停止制御に必要なブレーキノッチ指令を出力する。
上述したように、本発明の実施例2に係る停止制御装置によれば、実施例1の効果に加え、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々が各車両の速度に応じたブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力するので、各情報を集約することにより編成全体のブレーキ切替状態を考慮することができ、駅定点停止制御で使用するブレーキノッチから予想される減速度の推定速度が向上し、停止精度向上につなげることができる。
【実施例3】
【0076】
図5は、本発明の実施例3に係る停止制御装置の構成を示すブロック図である。本実施例における停止制御装置の構成は、基本的に実施例2の停止制御装置と同様であり、異なる点は、編成ブレーキモデル選択部21の動作と駅定点停止ノッチ制御部6が記憶するブレーキモデルの種類である。
編成ブレーキモデル選択部21は、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき電気ブレーキを選択する車両と空気ブレーキを選択する車両の混在比を算出するとともに、算出結果に基づいて列車の編成全体として停止制御に使用するブレーキモデルを選択する。
【0077】
具体的には、編成ブレーキモデル選択部21は、各号車のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)が一次判断したブレーキモデル選択情報を集約し、電気ブレーキと空気ブレーキを選択している号車(車両)の混在比を算出し、駅定点停止制御で使用すべきブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)を電気ブレーキ用とすべきか、空気ブレーキ用とすべきか、電気ブレーキ/空気ブレーキ混在とすべきかを判断する。その際に、編成ブレーキモデル選択部21は、電気ブレーキ/空気ブレーキ混在とする場合には、混在比を考慮した電気/空気混在ブレーキモデルを選択する
例えば、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の全てが空気ブレーキ用のブレーキモデルを選択している場合には、編成ブレーキモデル選択部21は、空気ブレーキ用のブレーキモデルを選択する。一方、一部のブレーキモデル判断部(例えば20−1〜20−2)が電気ブレーキ用のブレーキモデルを選択し、その他のブレーキモデル判断部(20−3〜20−16)が空気ブレーキ用のブレーキモデルを選択している場合には、編成ブレーキモデル選択部21は、電気ブレーキと空気ブレーキの混在比が2:14(1:7)の「電気/空気混在ブレーキモデル」を選択する。
【0078】
本実施例の駅定点停止ノッチ制御部6は、実施例2と同様に、編成ブレーキモデル選択部21により選択されたブレーキモデルに基づき列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。具体的には、駅定点停止ノッチ制御部6は、電気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)7、空気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)8、及び電気/空気混在ブレーキモデル(混在率を考慮したノッチ−減速度特性)23をブレーキモデルとして記憶しており、編成ブレーキモデル選択部21により選択されたブレーキモデルに基づいていずれかのブレーキモデルを参照し、停止制御に必要なブレーキノッチ指令を出力する。
【0079】
その他の構成は、実施例2と同様であり、重複した説明を省略する。
【0080】
次に、上述のように構成された本実施の形態の停止制御装置の作用を説明する。基本的な動作は、実施例2と同様である。複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々は、内部の速度検出部が自己の車両の速度を検出する点を除き、実施例1のブレーキモデル判断部20と同様の動作を行う。
【0081】
編成ブレーキモデル選択部21は、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき、複数のブレーキモデル判断部(20−1〜20−16)の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき電気ブレーキを選択する車両と空気ブレーキを選択する車両の混在比を算出するとともに、算出結果に基づいて列車の編成全体として停止制御に使用するブレーキモデルを選択する。
【0082】
例えば、電気ブレーキを選択する車両と空気ブレーキを選択する車両の混在比が1:9であった場合には、編成ブレーキモデル選択部21は、電気ブレーキと空気ブレーキの混在比が1:9の「電気/空気混在ブレーキモデル」を選択する。この場合において、当該「電気/空気混在ブレーキモデル」は、空気ブレーキ用のブレーキモデルに近いものとなる。
【0083】
駅定点停止ノッチ制御部6は、編成ブレーキモデル選択部21により選択されたブレーキモデルに基づき列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成して出力する。一般的に、同じブレーキノッチ指令を出したとしても、電気ブレーキと空気ブレーキとはブレーキ性能が異なる。したがって、本実施例の駅定点停止ノッチ制御部6は、列車内において電気ブレーキを選択する車両と空気ブレーキを選択する車両が混在する場合に、混在比を考慮した電気/空気混在ブレーキモデル23に基づいてブレーキノッチ指令を出力することにより、より正確な停止制御を行うことができる。
【0084】
上述したように、本発明の実施例3に係る停止制御装置によれば、実施例2の効果に加え、電気ブレーキ/空気ブレーキ混在時に混在比を考慮に入れたブレーキモデルを使用することにより、駅定点停止制御で使用するブレーキノッチから予想される減速度の推定速度が向上し、停止精度向上につなげることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、列車鉄道システムや新交通システム等において、鉄道車両を目標停止点に停止させるための停止制御装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施例1に係る停止制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る停止制御装置の動作を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る停止制御装置の切替発生判断部がセクション切替区間情報を使用して該当区間のジャーク波形を除外した様子を示す図である。
【図4】本発明の実施例2に係る停止制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例3に係る停止制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来の停止制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】従来の停止制御装置の切替発生判断部により使用される「予め決められたブレーキ切替条件」の例を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1 列車走行速度検出部
2 減速度演算部
3a ジャーク演算部
3b ジャーク波形分析部
3c バンドパスフィルタリング部
4 電気ブレーキ/空気ブレーキ切替発生判断部
5 ブレーキモデル選択部
6 駅定点停止ノッチ制御部
7 電気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)
8 空気ブレーキモデル(ノッチ−減速度特性)
9 路線データベース
20 ブレーキモデル判断部
21 編成ブレーキモデル選択部
22 電気/空気混在ブレーキモデル
23 電気/空気混在ブレーキモデル(混在率を考慮したノッチ−減速度特性)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両により構成された列車内に搭載された停止制御装置であって、
前記列車の速度情報に基づき前記列車を目標とする地点に停車させるために使用すべきブレーキモデルを選択し、ブレーキモデル選択情報として出力するブレーキモデル判断部と、
前記ブレーキモデル判断部により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき前記列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成し出力する制御部とを備え、
前記ブレーキモデル判断部は、
前記列車の速度を検出する速度検出部と、
前記速度検出部により検出された速度を微分することにより減速度を算出する減速度算出部と、
前記減速度算出部により算出された減速度の波形を微分することによりジャーク波形を算出するジャーク波形算出部と、
前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断する切替発生判断部と、
前記切替発生判断部による判断結果に基づき前記列車の停止制御に使用するブレーキモデルを選択するブレーキモデル選択部と、
を有することを特徴とする停止制御装置。
【請求項2】
前記切替発生判断部は、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形の変動幅が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断することを特徴とする請求項1記載の停止制御装置。
【請求項3】
前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に基づき電気ブレーキから空気ブレーキに変化する際のジャーク値の周波数スペクトルを抽出するジャーク波形分析部を備え、
前記切替発生判断部は、前記ジャーク波形分析部により抽出された周波数スペクトルに基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の停止制御装置。
【請求項4】
前記ジャーク波形分析部は、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形の周波数分析を当該停止制御装置による停止制御中にオンラインで行うことを特徴とする請求項3記載の停止制御装置。
【請求項5】
前記ジャーク波形分析部は、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形の周波数分析をオフラインで行うことを特徴とする請求項3記載の停止制御装置。
【請求項6】
前記切替発生判断部は、前記ジャーク波形分析部により抽出された周波数スペクトルの強度が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断することを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項記載の停止制御装置。
【請求項7】
前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に対し、前記ジャーク波形分析部により抽出された周波数スペクトルの周波数帯の信号を中心に抽出するようにフィルタリング処理を行うフィルタリング部を備え、
前記切替発生判断部は、前記フィルタリング部によりフィルタリング処理されたジャーク波形に基づき電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断することを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか1項記載の停止制御装置。
【請求項8】
前記切替発生判断部は、前記フィルタリング部によりフィルタリング処理されたジャーク波形の変動幅が所定のしきい値を超えた場合に電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したと判断することを特徴とする請求項7記載の停止制御装置。
【請求項9】
前記フィルタリング部は、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に対し、ブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去するようにフィルタリング処理を行うことを特徴とする請求項7又は請求項8記載の停止制御装置。
【請求項10】
前記フィルタリング部は、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に対してブレーキノッチ切替時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去する際に、外部から入力されたブレーキ指令情報により得られたブレーキノッチ切替時と一致する時刻の周波数成分のみを除去するようにフィルタリング処理を行うことを特徴とする請求項9記載の停止制御装置。
【請求項11】
前記フィルタリング部は、前記ジャーク波形算出部により算出されたジャーク波形に対し、空転及び滑走時にジャーク波形上に発生する周波数成分を除去するようにフィルタリング処理を行うことを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項記載の停止制御装置。
【請求項12】
セクション切替区間情報を記憶する路線データベースを備え、
前記切替発生判断部は、前記路線データベースから取得したセクション切替区間情報に基づきセクション切替区間におけるジャーク波形を除外して電気ブレーキと空気ブレーキとの切替が発生したか否かを判断することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の停止制御装置。
【請求項13】
前記ブレーキモデル判断部は、前記複数の車両の各々に対応して複数設けられ、
前記速度検出部は、自己の車両の速度を検出し、
前記複数のブレーキモデル判断部の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき前記列車の編成全体として停止制御に使用するブレーキモデルを選択する編成ブレーキモデル選択部をさらに備え、
前記制御部は、前記ブレーキモデル判断部に代えて前記編成ブレーキモデル選択部により選択されたブレーキモデルに基づき前記列車を目標とする地点に停車させるための停止制御に必要なブレーキノッチ指令を生成し出力することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の停止制御装置。
【請求項14】
前記編成ブレーキモデル選択部は、前記複数のブレーキモデル判断部の各々により出力されたブレーキモデル選択情報に基づき電気ブレーキを選択する車両と空気ブレーキを選択する車両の混在比を算出するとともに、算出結果に基づいて前記列車の編成全体として停止制御に使用するブレーキモデルを選択することを特徴とする請求項13記載の停止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−89737(P2010−89737A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264044(P2008−264044)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】