説明

光学式変位計

【課題】発光素子の発光量や増幅器の増幅率のフィードバック制御を行うことの利点を残しながら、計測の高速化に対応可能な光学式変位計を提供する。
【解決手段】光学式変位計は、対象物に光を照射するための発光素子と、対象物からの光を受光して画像信号を生成するためのイメージセンサーと、イメージセンサーからの画像信号を増幅する増幅器を含む信号処理回路と、信号処理回路からの画像信号に基づいて発光素子の発光量及び増幅器の増幅率を含む操作量の少なくとも一つのフィードバック制御を実行する制御部とを備え、フィードバック制御における操作量の少なくとも一つの可変幅が変更設定可能である。制御部は、可変幅設定モードにおいて所定期間の操作量のデータに基づいて操作量の適切な可変幅を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に光を照射し、対象物からの光を受光して得られる画像信号から対象物の変位を計測する光学式変位計に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光学式変位計として、例えば特許文献1に記載されているように、三角測量の原理を用いて対象物までの距離又は変位を計測するものがある。この光学式変位計は、対象物に光を照射するための発光素子としてレーザダイオードを備え、その発光量は駆動電圧又はデューティ比を変えることによって変更可能である。また、対象物からの反射光を受光して画像信号(受光量の一次元分布に相当する信号波形)を生成するためのリニアイメージセンサーと、その画像信号から対象物までの距離又は変位を求めるマイクロプロセッサを用いた制御部を備えている。
【0003】
リニアイメージセンサーから得られた受光量に相当する画像信号は、増幅器で増幅され、ADコンバータでディジタル値に変換されて制御部に与えられる。制御部は、この画像信号に対応するディジタル値のピーク位置又は重心位置を算出し、この位置から三角測量の原理に基づいて対象物までの距離又は変位を算出する。
【0004】
上記のような光学式変位計では、対象物の色、表面の粗さ、角度等の条件に応じて光の反射率、ひいては受光量が大きく変動する。そこで、例えば受光量(画像信号レベル)のピーク値が目標値になるように、発光素子の発光量や増幅器の増幅率(ゲイン)を調整するフィードバック制御が行われる。画像信号に基づいて制御部がこのフィードバック制御を実行する。
【0005】
従来の光学式変位計では、光反射率が小さい対象物から大きい対象物まで、種々の対象物に対応できるようにするために、上記のフィードバック制御における発光量又は(及び)増幅率の可変幅をできるだけ広くとっている。
【特許文献1】特開平10−267648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に光学式変位計が使用される製造ライン等の現場において、同一種類の対象物を順次計測する場合のように、対象物の違いによる光反射率の変動(受光量の変動)がそれほど大きくない場合がほとんどである。他方、フィードバック制御に起因して次のようなデメリットが発生することがあった。
【0007】
例えば、コンベアによって順次運ばれて来る対象物を所定箇所に設置された光学式変位計で次々に計測するような場合に、対象物と対象物との間の空間では光が反射されないので、受光量はほとんどゼロになる。その結果、フィードバック制御によって発光量や増幅率が最大となるように調整される。次の対象物が来たときには、光の反射率がゼロから急激に上昇するので受光量も急激に上昇する。その結果、フィードバック制御によって発光量や増幅率が下げられるが、安定した発光量や増幅率に収束するまでに一定の時間が必要である。したがって、コンベアによる対象物の搬送速度が速すぎる場合は、フィードバック制御による発光量や増幅率の最適化が間に合わないことになる。換言すれば、コンベアによる対象物の搬送速度の高速化に際して、光学式変位計が計測に要する時間によって搬送速度が制限される結果となる。
【0008】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑み、発光素子の発光量や増幅器の増幅率のフィードバック制御を行うことの利点を残しながら、計測の高速化に対応可能な光学式変位計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による光学式変位計の第1の構成は、対象物に光を照射するための発光素子と、対象物からの光を受光して画像信号を生成するためのイメージセンサーと、イメージセンサーからの画像信号を増幅する増幅器を含む信号処理回路と、信号処理回路からの画像信号に基づいて発光素子の発光量及び増幅器の増幅率の少なくとも一つのフィードバック制御を実行する制御部とを備えた光学式変位計において、制御部が実行するフィードバック制御における発光量及び増幅率を含む操作量の少なくとも一つの可変幅が変更設定可能であることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、フィードバック制御における発光量又は増幅率のような操作量の可変幅を小さくすることによって、フィードバック制御に起因する計測時間の増加を抑えることができる。例えば、前述のようなコンベアによって運ばれて来る複数の対象物を順次計測する光学式変位計の使用態様において、対象物と対象物との間の空間で受光量がほとんどゼロになる場合に、発光量や増幅率が最大に調整されるのではなく、設定された可変幅で決まる上限の値に調整されることになる。したがって、次の対象物が来たときに、フィードバック制御によって発光量や増幅率が下がり安定するまでにかかる時間が短くなり、その結果として計測の高速化(すなわち搬送速度の高速化)に対応することができる。
【0011】
本発明による光学式変位計の第2の構成は、上記第1の構成において、制御部が信号処理回路からの画像信号に基づいてフィードバック制御を実行しながら対象物の変位を計測する計測モードと、可変幅の設定を行うための可変幅設定モードとを有し、可変幅設定モードにおいて所定期間の操作量のデータに基づいて可変幅を設定する可変幅設定手段を備えていることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、例えば前述のようなコンベアによって搬送される複数の対象物を順次計測する光学式変位計の使用態様において、まず、光学式変位計を可変幅設定モードにしておいて対象物を移動させれば、可変幅設定手段が適切な可変幅を設定する。この際、対象物を低速で移動させて対象物の無い箇所を計測しないようにする。可変幅設定手段は、所定期間の操作量のデータ(例えばその期間の最大値及び最小値)に基づいて操作量の適切な可変幅を設定する。
【0013】
本発明による光学式変位計の第3の構成は、上記第2の構成において、可変幅設定手段によって設定された可変幅を表示する表示器と、当該表示器の表示と連動して可変幅を手動で変更調整するための可変幅調整手段を更に備えていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、実際に対象物を計測したときの受光量のばらつきが自動設定された可変幅を大きく超えるような状況が発生したような場合に、容易に対応することができる。すなわち、そのような場合に設定モードでの設定を再度実行する代わりに、可変幅調整手段を用いて手動で変更調整(微調整)を行えばよい。
【0015】
本発明による光学式変位計の第4の構成は、上記第2又は第3の構成における具体的な実施形態を特定するものであり、制御部が実行する制御モードとして計測モード及び可変幅設定モードが備えられ、可変幅設定手段が制御部の機能の一つとして実現されていることを特徴とする。この他の実施形態として、制御部とは別に可変幅設定手段を設けてもよい。
【0016】
本発明による光学式変位計の第5の構成は、外部コンピュータとの通信を行うための通信手段と、可変幅を設定する可変幅設定手段とを更に備え、制御部が信号処理回路からの画像信号に基づいてフィードバック制御を実行しながら対象物の変位を計測する計測モードと、可変幅設定手段が外部コンピュータとの通信によって可変幅を設定する可変幅設定モードとを有することを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、通信手段を介して光学式変位計と接続された外部コンピュータ上で動作するプログラム(ソフトウェア)によって可変幅設定機能を実現することができる。この場合は、外部コンピュータの表示装置や入力装置によって提供されるユーザーインターフェイスにより、可変幅の設定操作を分かりやすいものとすることができる。
【0018】
本発明による光学式変位計の第6の構成は、上記第5の構成において、可変幅設定手段によって設定された可変幅を表示する表示器と、当該表示器の表示と連動して可変幅を手動で変更調整するための可変幅調整手段を更に備えていることを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、実際に対象物を計測したときの受光量のばらつきが自動設定された可変幅を大きく超えるような状況が発生したような場合に、容易に対応することができる。
【0020】
本発明による光学式変位計の第7の構成は、上記第5又は第6の構成における具体的な実施形態を特定するものであり、制御部が実行する制御モードとして計測モード及び可変幅設定モードが備えられ、可変幅設定手段が制御部の機能の一つとして実現されていることを特徴とする。この他の実施形態として、制御部とは別に可変幅設定手段を設けてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係る光学式変位計の測定原理を示す図である。この光学式変位計はレーザ変位計ともいわれ、三角測量の原理を用いて対象物の変位を非接触で測定するのに用いられる。LDドライバ11の制御によってレーザダイオード12から発せられたレーザ光は、投光レンズ13を通り対象物WKを照射する。対象物WKで反射したレーザ光の一部は、受光レンズ14を通ってリニアイメージセンサー15により受光される。リニアイメージセンサー15は、複数の画素構成部が一列に配列されたCCD又はCMOSイメージセンサーであり、受光量に相当する電荷が画素構成部ごとに蓄積され、取り出される。
【0023】
対象物WKが図1に破線で示すように変位すると、対象物WKで反射してリニアイメージセンサー15に達するレーザ光の光路が破線のように変化する。その結果、リニアイメージセンサー15の受光面における受光スポットの位置が移動し、上記の受光波形、すなわち受光量のピーク位置又は重心位置が変化する。リニアイメージセンサー15の各画素構成部における受光量に応じた蓄積電荷が読み出し回路16によって読み出され、信号処理によって一次元の受光量分布である受光波形が得られる。この受光波形のピーク位置又は重心位置から対象物WKの変位が求まる。
【0024】
図2は、光学式変位計の外観を示し、図2(a)は平面図、(b)は側面図である。この光学式変位計は、センサーヘッド部21とコントローラ部22からなる。センサーヘッド部21は、上記のLDドライバ11、レーザダイオード12、投光レンズ13、受光レンズ14、リニアイメージセンサー15及び読み出し回路16を内蔵している。
【0025】
コントローラ部22は、マイクロプロセッサ(制御部)を有し、センサーヘッド部21のLDドライバを介してレーザダイオード12の出力(発光量)を制御すると共に、リニアイメージセンサー15から読み出された信号から対象物WKの変位を求める処理を実行する。また、コントローラ部22の上面には、7セグメントLEDを用いた表示器221と、その表示値(設定値)を増減するためのシーソータイプの押ボタンスイッチである増減キー222が設けられている。表示器221は、計測結果の数値表示や各種設定値の表示に使用される。
【0026】
センサーヘッド部21とコントローラ部22は電気ケーブル23で接続され、相互に電気信号がやりとりされると共に、電源電圧がコントローラ部22からセンサーヘッド部21に供給される。また、センサーヘッド部21は、2本のボルト24を用いて所定の取付け台25に固定される。ボルト24が挿通される2箇所の取付け孔はセンサーヘッド部21の基準面26に沿って設けられている。この基準面26は、測定用のレーザ光が出射すると共に対象物WKからの反射光が入射する面である。
【0027】
図3は、光学式変位計の主な回路構成を示すブロック図である。センサーヘッド部21は、レーザダイオード12とそのドライブ回路(LDドライバ)11、リニアイメージセンサー15とその読み出し回路16、投光レンズ13及び受光レンズ14を含む。コントローラ部22はローパスフィルタ(LPF)41、ピークホールド回路42、ADコンバータ(A/D)43,47、マイクロプロセッサ(MPU)44、DAコンバータ(D/A)45、増幅器46及びリセット・制御回路48を含む。
【0028】
レーザダイオード12から発せられたレーザ光は、投光レンズ13を通り対象物WKを照射する。対象物WKで反射したレーザ光の一部は、受光レンズ14を通ってリニアイメージセンサー15に入射する。リニアイメージセンサー15の各画素構成部に蓄積された電荷は、読み出し回路16によって読み出される。読み出し回路16は、読み出し用パルス信号である画素選択信号をリニアイメージセンサー15に与えて各画素構成部を順次走査することによって、一次元の受光量分布に相当する時系列の電圧信号を得る。
【0029】
例えば、リニアイメージセンサー15が256画素からなり、画素ごとの転送レートが1マイクロ秒の場合は、256マイクロ秒かかって全画素構成部の蓄積電荷が読み出され、読み出し回路16から時系列の電圧信号として出力される。この全画素の蓄積電荷を読み出すのに要する時間がサンプリング周期である。読み出し回路16の出力信号は、コントローラ部22に渡され、まずローパスフィルタ41によって高周波成分を除かれる。この高周波成分には、リニアイメージセンサー15に与えられる画素選択信号の周波数成分が含まれる。
【0030】
図4は、読み出し回路16から出力された電圧信号がローパスフィルタ41及びピークホールド回路42を経て変化していく様子を模式的に描いた図である。読み出し回路16の出力信号31は、図4に示すように、矩形波の連続であり、この矩形波の周波数が画素選択信号の周波数に相当する。この出力信号31がローパスフィルタ41を通過すると、画素選択信号の周波数に相当する高周波成分が除かれ、その包絡線に相当する低周波成分のみの電圧信号32となる。この電圧信号32は、リニアイメージセンサー15における画素位置に関する受光量の分布の情報を含んでいる。電圧値が高いほど、その画素位置における受光量が多いことを意味する。したがって、この電圧信号32のピーク位置は対象物WKの変位に応じて変化する受光量の最も多い画素位置に対応している。
【0031】
ローパスフィルタ41から出力される電圧信号32はピークホールド回路42に与えられる。ピークホールド回路42は電圧信号32のピーク値Vpを保持し、第1のADコンバータ43に出力する。ADコンバータ43はピーク値Vpをディジタル値に変換してマイクロプロセッサ44に与える。また、図3に示すように、ローパスフィルタ41から出力される電圧信号32は増幅器46にも与えられる。増幅器46で増幅された電圧信号は第2のADコンバータ47でディジタル値に変換され、そのディジタル値がマイクロプロセッサ44に逐次与えられる。
【0032】
マイクロプロセッサ44は、第1のADコンバータ43を経て入力されるピークデータと第2のADコンバータ47を経て入力される逐次データとに基づいて、受光量の重心値の位置を判定する。受光量の重心値の位置が求まると、前述の三角測量の原理から、対象物WKまでの距離又は変位が求まる。このようにして求められた対象物WKまでの距離又は変位は、マイクロプロセッサ44からDAコンバータ45に与えられ、アナログ電圧に変換されて出力される。
【0033】
図3において、レーザダイオード12から発せられるレーザ光の強さ(発光量)はLDドライバ11を介してマイクロプロセッサ44によって制御される。レーザ光の強さが変われば、対象物WKで反射され、リニアイメージセンサー15に入射する光量(受光量)も変化する。そこで、対象物WKの光反射率(明るさ)に応じてレーザダイオード12から発せられるレーザ光の強さを調節することにより、リニアイメージセンサー15の各画素構成部における蓄積電荷の飽和を回避しながら、そのダイナミックレンジを十分に活用できるようにしている。具体的には、レーザダイオード12を駆動するパルスのパルス幅又はデューティ比を変えることによってレーザ光の強さを調節する。もちろん、パルス電圧(ピーク値)を変えることによって、レーザ光の強さを調節してもよい。
【0034】
上記のようなマイクロプロセッサ44による発光量(レーザ光の強さ)の制御は、一種のフィードバック制御として行われる。つまり、受光量に相当する値(例えばピーク値)が所定の目標値になるように、発光量(レーザ光の強さ)のフィードバック制御が行われる。発光量のフィードバック制御に代えて、図3に破線で示すように、増幅器46のゲイン(増幅率)のフィードバック制御を行ってもよい。あるいは、発光量のフィードバック制御と増幅器46の増幅率のフィードバック制御とを併用するようにしてもよい。例えば目標値に対するフィードバック量の誤差が所定の範囲内に収まっている間は増幅器46の増幅率のフィードバック制御を行い、フィードバック量の誤差が所定の範囲を超えたときは発光量のフィードバック制御を行うように構成することが可能である。したがって、レーザダイオード12の発光量及び増幅器46の増幅率を含む操作量の少なくとも一つのフィードバック制御を実行すればよい。
【0035】
図5は、マイクロプロセッサ44によるフィードバック制御の構成を示すブロック図である。マイクロプロセッサ44(が実行するプログラム)によって、比較部441、操作量算出部442及び出力部443が構成されている。また、図3におけるLDドライバ11及びレーザダイオード12が制御対象51に相当し、リニアイメージセンサー15、読出し回路16、ピークホールド回路42等がフィードバック回路(FB回路)52に相当する。この例では、受光量に相当する電圧信号32のピーク値Vp(のディジタル変換値)がフィードバック量(FB量)としてマイクロプロセッサ44の比較部441に入力される。
【0036】
比較部441は、あらかじめ定められた目標値とフィードバック量とを比較し、その誤差を出力する。この誤差に基づいて操作量算出部442が操作量を算出し、出力部443に与える。この操作量は、上述の発光量又は(及び)増幅率に相当する。操作量は、マイクロプロセッサ44の出力部443から制御信号として制御対象51に与えられる。すなわち、LDドライバ11又は(及び)増幅器46に制御信号が与えられ、レーザダイオード12の発光量又は(及び)増幅器46の増幅率が制御される。そして、フィードバック回路52(リニアイメージセンサー15、読出し回路16、ピークホールド回路42等)によって得られる受光量のピーク値が再びマイクロプロセッサ44の比較部441にフィードバックされることにより、フィードバックループが形成されている。
【0037】
本実施例の光学式変位計では、上述のようなフィードバック制御における操作量(発光量又は(及び)増幅率)の可変幅が変更設定可能である。操作量の可変幅を制限することにより、対象物の光反射率が大きく変動するような場合にフィードバック制御が安定するまでの時間を短縮し、ひいては計測に要する時間を短縮することが可能になる。これにより、以下のような問題の発生を回避することができる。
【0038】
例えば、コンベアによって順次運ばれて来る対象物を所定箇所に設置された光学式変位計で次々に計測するような場合に、対象物と対象物との間の空間では受光量がほとんどゼロになるので、操作量の可変幅が制限されない場合(最大の場合)は、フィードバック制御によって発光量や増幅率が最大となるように調整される。そして、次の対象物が来たときには、光の反射率がゼロから急激に上昇するので受光量も急激に上昇する。その結果、フィードバック制御によって発光量や増幅率が下げられるが、安定した発光量や増幅率に収束するまでに一定の時間が必要である。
【0039】
したがって、コンベアによる対象物の搬送速度が速すぎる場合は、フィードバック制御による発光量や増幅率の最適化が間に合わないことになる。換言すれば、コンベアによる対象物の搬送速度の高速化に際して、光学式変位計が計測に要する時間によって搬送速度が制限される結果となる。本実施例の光学式変位計では、以下に詳しく述べるように、操作量の可変幅を制限するように設定することにより、上記のような問題の発生を回避し、搬送速度の高速化に容易に対応することができる。
【実施例1】
【0040】
図6は、本発明の実施例1に係る光学式変位計のフィードバック制御の構成を示すブロック図である。図5のブロック図と異なる点は、マイクロプロセッサ44(が実行するプログラム)によって実現される機能として、操作量記憶部444と可変幅設定部445が追加されていることである。操作量記憶部444は、所定期間の操作量のデータ(履歴データ)を記憶する。可変幅設定部445は、操作量記憶部444から読み出した操作量のデータに基づいて操作量の可変幅を設定する。この設定された可変幅は、操作量算出部442の動作を制限する。すなわち、操作量算出部442は、誤差から算出した操作量が設定された可変幅の上限値を超えている場合、又は下限値を下回っている場合は、可変幅の上限値又は下限値を操作量として出力部443に与える。
【0041】
操作量記憶部444による所定期間の操作量データの記憶と、可変幅設定部445による可変幅の設定は、通常の計測モードとは別の可変幅設定モードにおいて行われる。つまり、本実施例の光学式変位計は、マイクロプロセッサ44が実行する制御モードとして、ローパスフィルタ41、増幅器46、ADコンバータ47等で構成される信号処理回路から得られた受光量のピーク値に基づいてフィードバック制御を実行しながら対象物WKの変位を計測する計測モードと、操作量の可変幅の設定を行うための可変幅設定モードとを有する。光学式変位計のユーザーは、可変幅設定モードにおいて対象物WKを動かしながら複数箇所にレーザ光が当たるようにすることにより、操作量の可変幅を適切に設定することができる。
【0042】
図7は、可変幅設定モードにおける処理の例を示すフローチャートである。また、図8は、可変幅の設定方法の例を説明するための模式図である。マイクロプロセッサ44は、可変幅設定モードにおいて、ステップ#101で操作量記憶データをクリアした後に、サンプリング周期ごとに操作量のデータを記憶する(ステップ#102、操作量記憶部444)。これが図8における折れ線の「操作量の履歴」に相当する。所定時間が経過するまでこの処理を繰り返し、この間にユーザーは対象物WKを動かしながら複数箇所にレーザ光が当たるようにする。
【0043】
所定時間が経過すると(ステップ#103のYes)、マイクロプロセッサ44(可変幅設定部445)は、操作量記憶部444から操作量記憶データを読み出し(ステップ#104)、このデータに基づいて操作量の可変幅を算出し設定する(ステップ#105)。こうして操作量の適切な可変幅が設定され、可変幅設定モードが終了する。操作量記憶データから可変幅を算出する処理の例を次に説明する。
【0044】
図8に示すように、所定時間Tにおいて、操作量が折れ線で示す「操作量の履歴」のように変化したとする。可変幅設定部445は、この間における最大操作量Mmaxに1より大きい適当な係数を掛けた値(1+α)Mmaxを操作量の可変幅の最大値とする。同様に、所定時間Tにおける最小操作量Mminに1より小さい適当な係数を掛けた値(1−β)Mminを操作量の可変幅の最小値とする。ここで、α及びβは1より小さい適当な値である。例えばα=β=0.3とすれば、最大操作量Mmaxに対して30%大きい値が操作量の可変幅の最大値として設定されると共に、最小操作量Mminに対して30%小さい値が操作量の可変幅の最小値として設定される。必ずしもα=βである必要はない。
【0045】
操作量記憶データから可変幅を算出する別の方法として、所定時間Tにおける操作量データの平均値、最大値及び最小値を求め、平均値と最大値との差に所定の係数を掛けたものを可変幅(この場合は平均値からの偏差)の最大値とすると共に、平均値と最小値との差に所定の係数を掛けたものを可変幅(平均値からの偏差)の最小値としてもよい。その他にも、所定時間Tに記憶された操作量データから可変幅を算出する方法として種々の方法が考えられる。必要な精度と算出に要する処理時間等を考慮して適当な算出方法を採用すればよい。
【0046】
図9は、計測モードにおける処理の例を示すフローチャートである。計測モードにおいてマイクロプロセッサ44は、可変幅の設定値の有無をチェックする(ステップ#201)。可変幅設定値がある場合(ステップ#202のYes)は、それを読み出して(ステップ#203)、操作量の可変範囲として設定する(ステップ#204)。可変幅設定値がない場合(ステップ#202のNo)は、操作量の可変範囲を最大幅に設定する(ステップ#205)。
【0047】
続くステップ#206で前述のフィードバック制御を実行し、ステップ#207で前述の計測処理を実行する。計測停止の指令があるまで(ステップ#208のYes)、ステップ#206からステップ#208の処理を繰り返す。このようにして、可変幅設定値がない場合はフィードバック制御による操作量の可変幅には特に制限が無く最大幅の範囲内でフィードバック制御が行われるが、可変幅設定値がある場合はその設定値の範囲内でフィードバック制御が行われる(操作量の可変幅が制限される)。
【実施例2】
【0048】
図10は、本発明の実施例2に係る光学式変位計のフィードバック制御の構成を示すブロック図である。この実施例では、マイクロプロセッサ44(が実行するプログラム)によって実現される機能として、図6に示した実施例1の構成に加えて、可変幅調整部446が追加されている。また、可変幅設定モードにおいて、可変幅設定部445で設定された可変幅が図2に示した表示器221に表示されるように構成されている。例えば、可変幅の最大値の表示と最小値の表示が一定時間ごとに切り替わる。あるいは、別途設けた押ボタンスイッチによって切り替わるようにしてもよい。
【0049】
ユーザーは、図2に示した増減キー222を用いて可変幅の設定値、つまり表示器221の表示値を増減変更することができる。可変幅設定部445によって自動設定された操作量の可変幅をこのようにして手動で変更調整できることにより、光学式変位計の実用性が高くなる。実際に対象物を計測したときの受光量のばらつきが自動設定された可変幅を大きく超えるような状況が発生したような場合に、容易に対応することができる。すなわち、そのような場合に設定モードでの設定を再度実行する代わりに、増減キー222を用いて手動で変更調整(微調整)を行えばよい。
【0050】
なお、可変幅設定部445で設定された可変幅を表示器221に表示する方法(態様)及び、その設定値(表示値)を手動で変更調整する方法(態様)は、上記の例示に限らず、種々の方法を用いることが可能である。例えば、増減キー222ではなく、ダイヤルやスライダーのような操作手段を用いて変更調整するようにしてもよい。また、7セグメントの表示器221を用いた数値表示に代えて、可変幅をバーグラフで表示したり、グラフィック表示したりする構成も可能である。
【実施例3】
【0051】
図11は、本発明の実施例3に係る光学式変位計のフィードバック制御の構成を示すブロック図である。この実施例では、実施例1及び2における操作量記憶部444が無くなり、マイクロプロセッサ44が外部コンピュータPCとの通信を行うための通信インターフェイス(通信I/F)49が光学式変位計に備えられている。したがって、図2に示した光学式変位計のコントローラ部22には、外部コンピュータとの通信ケーブルを接続するコネクタ(RS232Cポート、USBポート、その他)が備えられている。あるいは無線通信によってコントローラ部22と外部コンピュータPCとの通信を行ってもよい。いずれの通信手段を用いるにせよ、本実施例の光学式変位計では、外部コンピュータPCとの通信によってマイクロプロセッサ44の可変幅設定部445が操作量の可変幅を設定する。
【0052】
この実施例での可変幅設定部445は、既述の実施例の可変幅設定部445と少し異なる機能を有する。可変幅設定モードにおいて、サンプリング周期ごとに操作量算出部で算出された操作量は、可変幅設定部445及び通信インターフェイス49を介して外部コンピュータPCに送信され、外部コンピュータPCで操作量データが記憶される。すなわち、外部コンピュータPC上で動作するプログラム(ソフトウェア)によって、既述の実施例における操作量記憶部444の機能が実現する。
【0053】
また、既述の実施例における可変幅設定部445の機能の一部も外部コンピュータPC上で動作するプログラムによって実現する。つまり、外部コンピュータPC上で動作するプログラムによって、記憶された操作量データが所定時間経過後に読み出され、その操作量データに基づいて適切な操作量の可変幅が算出される。算出された可変幅は光学式変位計に送信され、通信インターフェイス49を介してマイクロプロセッサ44に与えられる。マイクロプロセッサ44の可変幅設定部445は、単に外部コンピュータPCから受信した可変幅を設定するだけである。他の動作については既述の実施例と同じである。
【0054】
本実施例の変形例として、外部コンピュータPC上で動作するプログラムが、操作量データに基づいて適切な操作量の可変幅を決定するのではなく、ユーザーが可変幅を任意に設定又は変更するための表示等のユーザーインターフェイスを提供するように構成してもよい。例えば、外部コンピュータPCのCRTやLCDの表示装置を用いて、図8に示したような操作量の履歴(記憶データ)をグラフとして表示する。このとき、操作量の履歴から算出した仮の可変幅を図8のように表示してもよい。ユーザーは、表示装置に表示された操作量の履歴グラフ(及び算出された仮の可変幅)を見ながら、画面上に任意の可変幅を設定することができる。例えば仮の可変幅が表示されている場合は、マウス等を用いて、その最大値を示すライン又は最小値を示すラインを上下に移動することにより、可変幅(の最大値又は最小値)を容易に変更することができる。このようにして設定又は変更された可変幅のデータが外部コンピュータPCから光学式変位計に送信される。
【0055】
なお、本実施例においても、可変幅調整部446が追加された実施例2の構成を組み合わせることが可能である。この場合は、外部コンピュータPCによって設定された操作量の可変幅を光学式変位計の表示器221及び増減キー222を用いて変更設定(微調整)できることが利点となる。
【0056】
以上、本発明の実施例を変形例も含めながら説明したが、本発明はこれらの実施例及び変形例に限らず、種々の形態で実施することができる。例えば、図8を用いて説明した操作量記憶データから可変幅を算出する方法の他の例として、操作量データのヒストグラムを集計し、その正規分布の平均値と標準偏差σから可変幅を定めてもよい。この方法によれば、ノイズが多い環境下において、ノイズの可能性が高い最大値及び最小値の幅より狭い実用的な可変幅を設定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例に係る光学式変位計の測定原理を示す図である。
【図2】光学式変位計の外観を示す平面図及び側面図である。
【図3】光学式変位計の主な回路構成を示すブロック図である。
【図4】読み出し回路から出力された電圧信号がローパスフィルタ及びピークホールド回路を経て変化していく様子を模式的に描いた図である。
【図5】マイクロプロセッサによるフィードバック制御の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例1に係る光学式変位計のフィードバック制御の構成を示すブロック図である。
【図7】可変幅設定モードにおける処理の例を示すフローチャートである。
【図8】可変幅の設定方法の例を説明するための模式図である。
【図9】計測モードにおける処理の例を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施例2に係る光学式変位計のフィードバック制御の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施例3に係る光学式変位計のフィードバック制御の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0058】
12 レーザダイオード(発光素子)
15 イメージセンサー
44 マイクロプロセッサ(制御部)
46 増幅器
49 通信インターフェイス(通信手段)
221 表示器
222 増減キー(可変幅調整手段)
445 可変幅設定部(可変幅設定手段)
446 可変幅調整部(可変幅調整手段)
PC 外部コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に光を照射するための発光素子と、前記対象物からの光を受光して画像信号を生成するためのイメージセンサーと、前記イメージセンサーからの画像信号を増幅する増幅器を含む信号処理回路と、前記信号処理回路からの画像信号に基づいて前記発光素子の発光量及び前記増幅器の増幅率を含む操作量の少なくとも一つのフィードバック制御を実行する制御部とを備えた光学式変位計であって、
前記制御部が実行するフィードバック制御における前記操作量の少なくとも一つの可変幅が変更設定可能であることを特徴とする光学式変位計。
【請求項2】
前記制御部が前記信号処理回路からの画像信号に基づいて前記フィードバック制御を実行しながら前記対象物の変位を計測する計測モードと、前記可変幅の設定を行うための可変幅設定モードとを有し、前記可変幅設定モードにおいて所定期間の前記操作量のデータに基づいて前記可変幅を設定する可変幅設定手段を備えていることを特徴とする
請求項1記載の光学式変位計。
【請求項3】
前記可変幅設定手段によって設定された可変幅を表示する表示器と、当該表示器の表示と連動して前記可変幅を手動で変更調整するための可変幅調整手段を更に備えていることを特徴とする
請求項2記載の光学式変位計。
【請求項4】
前記制御部が実行する制御モードとして前記計測モード及び前記可変幅設定モードが備えられ、前記可変幅設定手段が前記制御部の機能の一つとして実現されていることを特徴とする
請求項2又は3記載の光学式変位計。
【請求項5】
外部コンピュータとの通信を行うための通信手段と、前記可変幅を設定する可変幅設定手段とを更に備え、前記制御部が前記信号処理回路からの画像信号に基づいて前記フィードバック制御を実行しながら前記対象物の変位を計測する計測モードと、前記可変幅設定手段が外部コンピュータとの通信によって前記可変幅を設定する可変幅設定モードとを有することを特徴とする
請求項1記載の光学式変位計。
【請求項6】
前記可変幅設定手段によって設定された可変幅を表示する表示器と、当該表示器の表示と連動して前記可変幅を手動で変更調整するための可変幅調整手段を更に備えていることを特徴とする
請求項5記載の光学式変位計。
【請求項7】
前記制御部が実行する制御モードとして前記計測モード及び前記可変幅設定モードが備えられ、前記可変幅設定手段が前記制御部の機能の一つとして実現されていることを特徴とする
請求項5又は6記載の光学式変位計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−10361(P2006−10361A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184324(P2004−184324)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】