説明

光診断治療装置

【課題】 非侵襲的に断層像を表示して診断に供することが可能で、かつ生体患部の治療も行うことができる光診断治療装置を得る。
【解決手段】 パルス光14を発するパルス光源10と、導入管12内を通して生体内の部位11にパルス光14を照射する照射光学系15と、そこから出射したパルス14光を集光する集光手段16と、集光されたパルス光14を部位11において2次元走査させる光走査手段17と、部位11で反射したパルス光14を検出する光検出手段24と、この光検出手段24の出力に基づいてパルス光14が照射された部位11の断層像を再構成する演算手段29と、演算手段29の出力に基づいて断層像を表示する画像表示手段30と、部位11に照射されるパルス光14の強度を、集光手段16による収束位置において多光子吸収による生体組織の蒸散が生じる強度と、生じない強度との少なくとも2段階に切り替える光強度切替手段25とから光診断治療装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内部の部位を非侵襲的に診断、治療するための光診断治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばがんの浸潤状態を診断する等の目的で、生体内部の部位の断層像を表示可能とした診断装置が種々実用に供されている。そのような診断装置の中でも、開腹・開胸をすることなく、いわゆる非侵襲的に診断できる装置は、生体の他の部位に与える負荷を少なくすることができるという点で有利であり、近時多くのものが研究、開発されている。
【0003】
その種の診断装置としては、超音波診断装置や光干渉断層診断装置などがよく知られているが、前者にあっては超音波振動子と生体との間に水を介在させる必要があることから複雑な手技が必要になる、音速による物理的限界があるためにフレームレートが極端に遅くなる、といった問題が認められる。また後者にあっては、光学系の構造が複雑かつ精密であるので、小型化が難しくコストも高くなる、といった問題が認められる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1および2に示されるように、例えば内視鏡の形態に形成され、パルス光を用いて生体内部の断層像を表示可能とした装置も提案されている。この装置は、内視鏡の導入管を通して生体内部の部位にパルス光を照射した上でその反射光を検出し、そのとき該部位の深さ方向に亘る光反射位置(これは屈折率が互いに異なる2つの生体構成要素の境界面である)の違いに応じてパルス光が戻って来る時間がずれることを利用して、反射光検出の時間に基づいて生体部位の深さ方向つまりパルス光照射方向の情報を得、断層像を再構成、表示するようにしたものである。
【特許文献1】特開平4−135551号公報
【特許文献2】特開平4−135552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2に示される光診断装置は、生体内部の断層像を非侵襲で表示できるものであるが、そこに例えばがん組織などが存在することが判った場合でも治療を行うことは不可能であるから、治療は他の装置を用いて別途行う必要がある。従来、例えば内視鏡の処置具挿通チャンネルを介し、機械的な鉗子を用いて患部を切除したり、高周波を用いて患部を焼灼したりして治療可能な内視鏡装置も知られており、そのような装置と比べると、上記特許文献1および2に示される光診断装置は、診断および治療の作業能率が良くないものであると言える。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、非侵襲的に断層像を表示して診断に供することが可能で、その上さらに、生体患部の治療も行うことができる光診断治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光診断治療装置は、断層像の再構成に使用するためのパルス光を利用して診断も行えるようにしたものであり、具体的には、
パルス光を発するパルス光源と、
生体内に挿入される導入管と、
この導入管内を通して、前記生体内の部位に前記パルス光を照射する照射光学系と、
この照射光学系から出射したパルス光を集光する集光手段と、
集光されたパルス光を前記部位において2次元走査させる光走査手段と、
前記部位で反射した前記パルス光を検出する光検出手段と、
この光検出手段の出力に基づいて、前記パルス光が照射された部位の断層像を再構成する演算手段と、
この演算手段の出力に基づいて前記断層像を表示する画像表示手段と、
前記部位に照射されるパルス光の強度を、前記集光手段による収束位置において多光子吸収による生体組織の蒸散が生じる強度と、生じない強度との少なくとも2段階に切り替える光強度切替手段とからなることを特徴とするものである。
【0008】
なお上記のパルス光源としては、fs(フェムト秒)オーダーのパルス幅のパルス光を発する、いわゆるフェムト秒レーザを特に好適に用いることができる。
【0009】
一方、上記の光強度切替手段としては、例えばパルス光源の出力を変化させる手段や、パルス光源から発せられたパルス光の光路に対して挿入、退出自在とされて、該光路に挿入されたときパルス光を減衰させるNDフィルタ等から構成することができる。
【0010】
また上記の集光手段は、パルス光の収束位置を変更させ得る可変焦点機構を備えたものであることが望ましい。
【0011】
また、上記構成を有する本発明の光診断治療装置は、パルス光の強度が、前記蒸散が生じる強度に設定されたとき、パルス光の2次元走査の方向および/または照射深さ方向に関するパルス光収束位置を、再構成された断層像における位置情報に基づいて設定する制御手段を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明による光診断治療装置は、生体内の部位に照射されるパルス光の強度を、集光手段による収束位置において多光子吸収による生体組織の蒸散が生じる強度と、生じない強度との少なくとも2段階に切り替える光強度切替手段を備えたものであるので、本装置によれば、上記蒸散が生じない強度のパルス光を生体内部位に照射させて断層像の再構成および表示を行なうこともできるし、あるいはこの蒸散が生じる強度のパルス光を生体内部位に照射させて、例えばがん組織を除去する等の治療を行うことも可能となる。
【0013】
なおパルス光源として特にフェムト秒レーザが用いられた場合は、fsオーダーの極めて短いパルス幅のパルス光が利用可能となるので、生体からの反射光を時間分割して検出する上で光検出の時間分解能が高くなり、よって極めて精細な断層像を再構成することが可能となる。また、このようにパルス幅が短いパルス光は極めて高強度のものとなり得るので、それを利用することにより、生体組織を良好に蒸散させることが可能となる。
【0014】
一方前記集光手段が、パルス光の収束位置を変更させ得る可変焦点機構を備えている場合は、この収束位置を適宜変更させることにより、例えばがん組織の浸潤状態に対応させて、生体組織を蒸散させる深さ位置を簡単にコントロール可能となる。
【0015】
また本発明の光診断治療装置において、パルス光の強度が、前記蒸散が生じる強度に設定されたとき、パルス光の2次元走査の方向および/または照射深さ方向に関するパルス光収束位置を、再構成された断層像における位置情報に基づいて設定する制御手段が設けられている場合は、表示されている断層像を参照しながら、パルス光の収束位置つまり蒸散を起こさせる位置を適正位置に正確に設定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の光診断治療装置は、一例として一部が内視鏡に組み込まれたものであり、パルスレーザ光を発するパルス光源としてのフェムト秒レーザ(以下、fsレーザという)10と、内視鏡を構成して先端部が人体等の生体100の内部に挿入される導入管12と、この導入管12内を通して生体内の部位(例えば粘膜表面)11に、fsレーザ10が発したパルスレーザ光14を照射する照射光学系15と、この照射光学系15から出射したパルスレーザ光14を集光する集光レンズ16と、集光されたパルスレーザ光14を上記部位11に対して2次元走査させる光走査手段17とを有している。
【0018】
上記照射光学系15は、fsレーザ10の光出射部に光学的に結合された光ファイバー20と、先端部が導入管12内に収められた光ファイバー21と、これら両光ファイバー20および21を結合するファイバーカプラ22とから構成されている。なお光ファイバー21、集光レンズ16および光走査手段17は、導入管12に形成された鉗子挿通孔(図示せず)内に通されるプローブの形にまとめて構成することができ、その場合、プローブの直径は1mm程度とされる。
【0019】
集光レンズ16はいわゆるFluid Focusレンズであり、互いに混ざらないで界面を構成する2つの流体からなる流体レンズ16aと、該流体に直流電圧を印加して表面張力を変化させることにより、上記界面の形状を変化させる駆動部16bとから構成されている。この構成においては、電圧の印加状態により流体レンズ16aを凸レンズとすることができるが、その印加電圧を変化させると上記界面の形状が変わり、該レンズの焦点距離を変化させることができる。
【0020】
一方上記光走査手段17は、一例として単結晶シリコン素材を用いて一体形成されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems) デバイスであり、微小ミラー17aおよびこの微小ミラー17aを2つの軸の周りを回転するように揺動させる駆動部17bとから構成されている。本例において上記2つの軸は共に光ファイバー21の軸方向に対して直角で、一方は図の紙面と直角な方向に延びるx軸、他方は図中上下方向に延びるy軸である。そこで微小ミラー17aはx軸の周りをφ方向に揺動し、y軸の周りをθ方向に揺動する。なお駆動部17bとしては、微小ミラー17aを電磁力で駆動するものや、静電力で駆動するもの等を適宜採用することができる。
【0021】
さらにこの光診断治療装置は、部位11の内部組織13で反射して光ファイバー21を戻って来たパルスレーザ光14が入射するようにファイバーカプラ22に接続された光ファイバー23と、この光ファイバー23に光学的に結合されて、戻って来たパルスレーザ光14を検出するストリークカメラ24と、このストリークカメラ24の出力S1を受ける制御装置25と、光ファイバー20を伝搬したパルスレーザ光14が一部分岐して入射するようにファイバーカプラ22に接続された光ファイバー26と、この光ファイバー26に結合されてパルスレーザ光14を検出する例えばフォトダイオード等の光検出器27とを備えている。
【0022】
ストリークカメラ24は、部位11の内部組織13で反射して光ファイバー21を戻って来たパルスレーザ光14を、fsオーダーの超高速の分解能で時間分割して検出するものであり、その検出出力S1を制御装置25に入力する。
【0023】
上記光検出器27はfsレーザ10の出力を制御する出力制御回路28と接続され、該出力制御回路28はfsレーザ10および制御装置25と接続されている。そして制御装置25は、後述の通りにして内部組織13の3次元断層像を再構成する演算装置29と接続され、この演算装置29は上記3次元断層像を表示するモニタ(画像表示手段)30と接続されている。
【0024】
また制御装置25は、光走査手段17の駆動を制御する光走査制御信号S4を前記駆動部17bに入力するとともに、集光レンズ16の焦点距離を制御する焦点制御信号S5を前記駆動部16bに入力する。
【0025】
この光診断治療装置は以上の構成に加えて、一般的な内視鏡の構成も備えている。以下、その点の構成について説明する。導入管12内にはライトガイド40の先端部が収容され、このライトガイド40は、部位11を照明する照明光41を発する例えば白色光源等の光源42に接続されている。また導入管12内には、ライトガイド40から出射する照明光41を拡散させるレンズ43が配設されるとともに、部位11で反射した照明光41による像を結像する結像レンズ44および、この結像レンズ44が結ぶ部位11の表面の像を撮像するCCD等の撮像手段45が配設されている。そして導入管12の外には、上記撮像手段45と電気的に接続するプロセッサ装置60およびモニタ(画像表示手段)46が設けられている。
【0026】
以下、上記構成を有する光診断治療装置の作用について説明する。まず診断について、つまり診断に供するための断層像を再構成し、表示する点について説明する。その際には光源42が点灯され、そこから発せられた照明光41はライトガイド40を伝搬して導入管12の先端部から出射し、部位11を照明する。この照明光41は部位11の表面で反射し、反射した照明光41による部位11の表面部分の像が結像レンズ43によって結像される。この像は撮像手段45によって撮像され、該撮像手段45が出力する画像信号S8がプロセッサ装置60に入力される。プロセッサ装置60はこの画像信号S8を処理して映像信号S9をモニタ46に出力し、モニタ46はこの映像信号S9に基づいて、部位11の表面部分の像を表示する。
【0027】
したがって手術者等の装置利用者は、このモニタ46に表示された画像を観察してそれを目安にしながら、上記断層像を形成する範囲、つまりパルスレーザ光14を2次元走査させる範囲および、後述の治療を行う範囲を決めることができる。
【0028】
なお本実施形態では、診断および治療を行う間、部位11の像を撮像してモニタ46に表示させるようにしているので、このモニタ46を観察して、パルスレーザ光14の照射状態を確認することができる。しかしそのようにすると、CCD等の撮像手段45によっては、部位11の表面等で反射したパルスレーザ光14を受けて該撮像手段45に悪影響が及ぶこともあり得る。そのような不具合に対処するためには、例えば結像レンズ44と撮像手段45との間に、パルスレーザ光14の波長領域の光をカットする光学フィルターを介設する等の構成を採用すればよい。
【0029】
一方fsレーザ10としては、生体による光吸収損失が少ない波長700〜1100nmのうち、最も吸収が少ない波長800nmを中心波長とするパルスレーザ光14を発するものが使用されている。そして制御装置25は、このfsレーザ10の出力を高、低の2段階に切り替える光強度切替手段を兼ねている。なおこの場合の高出力とは、部位11に照射されるパルスレーザ光14の強度が、集光レンズ16によるレーザ光収束位置(ビームウエスト)において多光子吸収による生体組織の蒸散を生じさせる強度となる出力であり、それに対して低出力とは、この蒸散を生じさせることのない出力である。
【0030】
診断時、つまり部位11の内部組織13の断層像を形成する際に、fsレーザ10の出力は上記の低出力に設定される。このとき光ファイバー21から発散光状態で出射したパルスレーザ光14は、流体レンズ16aの表面に形成された副鏡(図示せず)で反射して微小ミラー17a側に折り返し、該微小ミラー17aで反射して流体レンズ16aを通過し、内部組織13中で収束するように集光される。このパルスレーザ光14は内部組織13において反射し、流体レンズ16aおよび微小ミラー17aを経て、光ファイバー21内に再入射する。
【0031】
このパルスレーザ光14は光ファイバー21、ファイバーカプラ22および光ファイバー23を伝搬し、ストリークカメラ24によって検出される。部位11に対してパルスレーザ光14が1パルス照射されたとき、該パルスレーザ光14は内部組織13において反射するが、この内部組織13の深さ方向に亘る光反射位置(これは屈折率が互いに異なる2つの生体構成要素の境界面である)の違いに応じて、パルスレーザ光14が戻って来る時間がずれる。ストリークカメラ24は、このように時間がずれて入射して来るパルスレーザ光14を、fsオーダーの超高速の分解能で時間分割して検出し、検出出力S1を制御装置25に入力する。この検出出力S1は、その検出時間(これはストリークカメラ24の蛍光面上の位置情報に変換されている)が上記光反射位置に対応し、またその強度が各光反射位置における生体性状、例えば光吸収特性等に対応するので、内部組織13の深さ方向つまり図1のz軸方向の情報を示すものとなっている。
【0032】
上記部位11に対するパルスレーザ光14の照射は、光走査手段17によって該パルスレーザ光14を2次元走査させながら次々となされる。したがって、制御装置25に次々と入力されるストリークカメラ24の検出出力S1は、上記2次元走査における各走査位置毎に内部組織13の深さ方向情報を示すものとなる。
【0033】
制御装置25は、上記検出出力S1および、光走査制御信号S4に対応した走査位置信号を、3次元断層像を再構成するための再構成データS6として演算装置29に入力させる。演算装置29はこの再構成データS6に基づいて、部位11の所定の2次元走査範囲における断層像を再構成し、その再構成画像を示す画像データS7をモニタ30に入力する。モニタ30においては、上記断層像が表示される。
【0034】
図2は、モニタ30に表示される画像の一例を示すものである。図示の通りこの例では、画面上段において左側から順に擬似的な3次元画像、1つのy−z面内断層像、1つのz−x面内断層像が表示され、画面下段においてx軸方向位置が異なる複数のy−z面内断層像が表示されている。
【0035】
なお図1に示す通り、fsレーザ10から発せられたパルスレーザ光14の一部はファイバーカプラ22および光ファイバー26を伝搬し、光検出器27によって検出される。この光検出器27が出力する光検出信号S2はストリークカメラ24に入力され、該ストリークカメラ24の電子掃引をパルスレーザ光14の出射と同期させて開始させるためのトリガ信号として利用される。
【0036】
また光検出器27が出力する光検出信号S2は、出力制御回路28にも入力される。出力制御回路28はこの光検出信号S2と、制御装置25から入力される出力設定信号S3とを比較し、その比較結果に基づいてfsレーザ10の出力を変化させることにより、該出力を上記出力設定信号S3が示す所定値に正確に設定する。
【0037】
次に、本実施形態の光診断治療装置による生体11の治療について説明する。この治療がなされる際には制御装置25が、fsレーザ10の出力を前述の高出力に切り替える。すると、内部組織13に照射されるパルスレーザ光14の強度が、その収束位置(ビームウエスト)において多光子吸収による生体組織の蒸散を起こさせる高い値となるので、例えば内部組織13に存在するがん細胞を除去する等の治療を行うことができる。このように1つの光診断治療装置を用いて診断(断層像の表示)と治療の双方を行うことができれば、これら診断および治療の作業能率は十分高いものとなる。
【0038】
なお、内部組織13に照射するパルスレーザ光のパルス幅がナノ秒オーダーの場合は誘電破壊が生じ、プラズマが発生する。そのため衝撃波や熱が発生し、パルスレーザ光を照射した部分の周辺まで悪影響が及ぶことがある。パルスレーザ光のパルス幅がピコ秒オーダーまで短くなると、上記プラズマの発生は無くなり、熱変性等を抑えることが可能となる。パルスレーザ光のパルス幅がさらにフェムト秒オーダーまで短くなると、2光子吸収等の多光子吸収という新たな物理プロセスが発生する。
【0039】
この多光子吸収を利用すると、照射するパルスレーザ光14のビーム径より小さな領域も処置可能となり、さらには、透明物質の内部処置が可能になる。この内部処置が可能であるという点は、パルスレーザ光14の強度が大きい部分でのみ多光子吸収が生じる、という特異な性質によってもたらされるものである。
【0040】
ここで図3を参照して、上記診断および治療の実行タイミングについて詳しく説明する。同図(1)および(2)にそれぞれ示す長方形はパルスレーザ光14の2次元走査範囲を示しており、またそれらの長方形内に示されるジグザグの線は、微小ミラー17aによる光軸の走査軌跡を示し、そしてこの走査軌跡上に有る黒丸はパルスレーザ光14の照射位置を示している。
【0041】
同図(1)は診断時の状態を示すものであり、このとき上記走査軌跡は図中上から下に移動し、パルスレーザ光14は所定の時間間隔で必ず照射される。本実施形態では、パルスレーザ光14の1垂直走査期間が終了すると、同図(2)に示すように次の垂直走査が逆方向になされ、この逆方向の垂直走査の期間に治療がなされる。つまり、この逆方向の垂直走査の期間に、上述したようにfsレーザ10の出力が高出力に切り替えられる。ただし、この逆方向の垂直走査期間において、パルスレーザ光14は所定の時間間隔で必ず照射されるものではなく、所定の治療範囲内においてのみ内部組織13に照射される。なお、パルスレーザ光14の垂直走査期間や水平走査期間は、例えばNTSC規格に準じたものとされるが、勿論それに限ることなく、適宜定めることができる。
【0042】
次に、治療範囲の設定について詳しく説明する。なおここでは、図1に示す制御装置25、演算装置29およびモニタ30が一般的なパーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムから構成されている場合を例に挙げて説明する。まず最初に、このコンピュータシステムを構成する図示外のキーボードあるいはマウス等の入力手段により、治療範囲設定ピッチを示す情報が制御装置25に入力される。この治療範囲設定ピッチは、3次元断層像のある所定方向に関する治療範囲設定の細かさのことであり、本実施形態においてこの所定方向は、例えばx方向である。
【0043】
制御装置25はこの治療範囲設定ピッチを示す情報を受けると、そのピッチでx方向に並ぶ複数の2次元断層像をモニタ30に表示させる。つまりこの場合は図2の表示画面下段に示されるように、上記ピッチ毎のy−z面内断層像が複数、モニタ30に表示される。次に、例えばマウス等の入力手段によりカーソルを動かして指定することにより、上記複数の断層像の各々において、縦横方向に亘る2次元の治療範囲が設定される。勿論ながら、治療の必要が認められない断層像については、この治療範囲は設定されない。以上により、治療範囲が3次元領域情報として規定されることになる。この3次元領域情報は、例えば制御装置25の内部メモリ等に一時的に記憶される。
【0044】
なお、例えばがん治療においては、がん細胞がどの領域まで進行しているか(進達度)を知ることが重要であるので、上記のように複数表示させる断層像は、深さ方向の状態が示される縦断面像であることが望ましい。本実施形態においてこの縦断面像は、上述のy−z面内断層像あるいはz−x面内断層像である。
【0045】
次に、以上の通りにして設定された3次元治療範囲内にパルスレーザ光14を照射する具体的手法について説明する。まず制御装置25は、上記内部メモリ等から治療範囲を示す3次元領域情報を読み出し、その情報を3次元ボクセルデータにマッピングし、次にこのマッピング情報から、レーザ光照射位置を抽出する。
【0046】
そして制御装置25は、治療モード下においてパルスレーザ光14が部位11を2次元走査している際に、光軸位置(もしパルスレーザ光14が出射していたら、そのビーム中心が通ることになる位置)が上記抽出されたレーザ光照射位置に該当するか否かを判別し、該当する場合はfsレーザ10にトリガ信号を送ってパルスレーザ光14を射出させ、該当しない場合は該トリガ信号を送らない。それにより、図3の(2)に黒丸で示すように、治療範囲内のみにおいて内部組織13にパルスレーザ光14が照射されることになる。
【0047】
以上の通りにして、図2に示すx−y面の1つにおいてパルスレーザ光14の照射、非照射が制御されつつ該パルスレーザ光14の2次元走査が終了すると、制御装置25は焦点制御信号S5を集光レンズ16の駆動部16bに入力して、流体レンズ16aの焦点距離を所定値だけ増大あるいは低下させる。それにより、パルスレーザ光14のビームウエスト位置が内部組織13の深さ方向に所定値移動する。
【0048】
こうしてパルスレーザ光14のビームウエスト位置が変更される毎に、上述と同じ処理が繰り返される。それにより内部組織13の3次元領域に設定された所定の治療範囲のみにパルスレーザ光14が照射されるので、がん組織等を3次元的に蒸散、除去させることが可能となる。
【0049】
なお本実施形態では、内部組織13に照射されるパルスレーザ光14の光強度を切り替える手段が、fsレーザ10の出力を変化させる制御装置25から構成されているが、この光強度を切り替える手段はその他の構成とすることも可能である。図4には、その他の構成の一例としてターレット50を示してある。この円形のターレット50は、周方向にNDフィルタ51および開口52を並べて配置したものであり、図示外の駆動手段により診断モードと治療モードの切替えと同期を取って矢印方向に回転され、診断時にはfsレーザ10が発したパルスレーザ光14の光路にNDフィルタ51が挿入され、治療時には該光路に開口52が位置するように構成されている。
【0050】
この構成において、パルスレーザ光14の光路にNDフィルタ51が挿入されると、該NDフィルタ51によってパルスレーザ光14が減衰されるので、光ファイバー20を介して生体部位に照射されるパルスレーザ光14の強度が比較的低い値となる。それに対して、パルスレーザ光14の光路に開口52が位置する状態にターレット50が設定されると、NDフィルタ51が該光路から退出するので、生体部位に照射されるパルスレーザ光14の強度が比較的高い値となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による光診断治療装置を示す概略側面図
【図2】図1の光診断治療装置における断層像表示状態の一例を示す概略正面図
【図3】図1の光診断治療装置における、パルスレーザ光の走査状態および照射状態を説明する図
【図4】本発明の光診断治療装置に用いられる光強度切替手段の別の例を示す斜視図
【符号の説明】
【0052】
10 フェムト秒レーザ
11 生体の部位
12 内視鏡の導入管
13 内部組織
14 パルスレーザ光
15 照射光学系
16 集光レンズ
17 光走査手段
20、21、23、26 光ファイバー
22 ファイバーカプラ
24 ストリークカメラ
25 制御装置
27 光検出器
28 出力制御回路
29 演算装置
30、46 モニタ(画像表示手段)
100 生体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を発するパルス光源と、
生体内に挿入される導入管と、
この導入管内を通して、前記生体内の部位に前記パルス光を照射する照射光学系と、
この照射光学系から出射したパルス光を集光する集光手段と、
集光されたパルス光を前記部位において2次元走査させる光走査手段と、
前記部位で反射した前記パルス光を検出する光検出手段と、
この光検出手段の出力に基づいて、前記パルス光が照射された部位の断層像を再構成する演算手段と、
この演算手段の出力に基づいて前記断層像を表示する画像表示手段と、
前記部位に照射されるパルス光の強度を、前記集光手段による収束位置において多光子吸収による生体組織の蒸散が生じる強度と、生じない強度との少なくとも2段階に切り替える光強度切替手段とからなる光診断治療装置。
【請求項2】
前記パルス光源が、フェムト秒レーザであることを特徴とする請求項1記載の光診断治療装置。
【請求項3】
前記光強度切替手段が、前記パルス光源の出力を変化させるものであることを特徴とする請求項1または2記載の光診断治療装置。
【請求項4】
前記光強度切替手段が、前記パルス光源から発せられたパルス光の光路に対して挿入、退出自在とされて、該光路に挿入されたときパルス光を減衰させるNDフィルタであることを特徴とする請求項1または2記載の光診断治療装置。
【請求項5】
前記集光手段が、前記パルス光の収束位置を変更させ得る可変焦点機構を備えたものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の光診断治療装置。
【請求項6】
前記パルス光の強度が、前記蒸散が生じる強度に設定されたとき、前記2次元走査の方向および/または照射深さ方向に関するパルス光収束位置を、前記再構成された断層像における位置情報に基づいて設定する制御手段を備えたことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の光診断治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−29603(P2007−29603A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220064(P2005−220064)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】