光電変換素子及びその製造方法
【課題】光電変換効率を向上させることが可能な光電変換素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】低温で成長させることにより作製した第1窒化ガリウム層と、該第1窒化ガリウム層の表面に形成された窒化インジウム量子ドットと、を有する光電変換素子、及び、低温で成長させることにより窒化ガリウム層を形成する第1工程と、該第1工程によって形成された窒化ガリウム層の表面に窒化インジウム量子ドットを形成する第2工程と、を有する、光電変換素子の製造方法とする。
【解決手段】低温で成長させることにより作製した第1窒化ガリウム層と、該第1窒化ガリウム層の表面に形成された窒化インジウム量子ドットと、を有する光電変換素子、及び、低温で成長させることにより窒化ガリウム層を形成する第1工程と、該第1工程によって形成された窒化ガリウム層の表面に窒化インジウム量子ドットを形成する第2工程と、を有する、光電変換素子の製造方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や光検出素子等に代表される光電変換素子及びその製造方法に関し、特に量子ドットを利用した光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要という利点を有している。そのため、様々な種類の太陽電池に関する研究が、盛んに進められている。現在、実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。ところが、単接合太陽電池の光電変換効率の理論限界(以下において、「理論限界効率」という。)は約30%に留まっているため、理論限界効率をさらに向上させる新たな方法が検討されている。
【0003】
これまでに検討されている新たな方法の1つに、半導体の量子ドットを利用した太陽電池(以下において、「量子ドット太陽電池」という。)がある。量子ドット太陽電池で用いられる量子ドットは、例えば寸法が約10nm程度の半導体ナノ結晶であり、光を照射することにより発生した電子やホール(以下において、これらをまとめて「キャリア」ということがある。)を三次元的に閉じ込めることができる。量子ドットに電子を閉じ込めることにより、電子の量子力学的な波としての性質を使えるようになり、従来の太陽電池では吸収することができなかった帯域の太陽光スペクトルをも吸収させることが可能になる。さらに、量子ドット太陽電池によれば、熱として失われるエネルギーを低減することが可能になる。そのため、量子ドット太陽電池によれば、理論限界効率を60%以上にまで向上させることが可能になると考えられている。
【0004】
このような太陽電池に関する技術として、例えば特許文献1には、基板1と、第一の化合物半導体材料で基板1上に形成されたp型又はn型半導体層2と、この半導体層2上に形成されたi型半導体層3と、第一の化合物半導体材料でi型半導体層3上に形成されたn型又はp型半導体層4とからなり、i型半導体層3が、第一の化合物半導体材料からなるベース層3cと、第二の化合物半導体材料でベース層3c上に形成された量子ドット層3aと、第一の化合物半導体材料で量子ドット層3a上に形成されたキャップ層3bとを構成単位30として形成される太陽電池セル10が開示されている。また、特許文献2には、基板上に、n側窒化物半導体層、活性層及びp側窒化物半導体層を有する窒化物半導体素子において、n側窒化物半導体層がn型不純物を含むn側コンタクト層を有し、該n側コンタクト層がアンドープGaN層の上に形成され、該アンドープGaN層を低温成長させたGadAl1−dN(0<d≦1)からなるバッファ層上に形成する技術が開示されている。また、特許文献3には、カーボンを材料とする第1の半導体層及び第2の半導体層と、第1及び第2の半導体層間に形成されるカーボンを材料とする量子井戸部とを含み、該量子井戸部は、カーボンの半導体薄膜で構成される壁層と、該壁層中に埋め込まれる複数の量子ドットと、該量子ドットの周辺部に設けられるsp2結合防止層とを含み、該sp2結合防止層が、壁層の量子ドットに隣接する部分のカーボン原子に水素を結合させて構成される太陽電池が開示されている。また、特許文献4には、半絶縁性又は第一の導電型のInP基板上に設けられた第一導電型の第1のInP層と、InP基板と第1のInP層との間に設けられた第一導電型の第2のInP層と、第二導電型領域を有する第3のInP層と、第1のInP層と第3のInP層との間に設けられ、pn接合が内部に形成された受光層と、を備え、第2のInP層のキャリア濃度は第1のInP層のキャリア濃度より大きい、受光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3753605号公報
【特許文献2】特開2000−244072号公報
【特許文献3】特開2006−332540号公報
【特許文献4】特開2006−147670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、量子ドットを利用しているため、キャリアを三次元的に閉じ込めることができる。その結果、キャリアのエネルギー損失を低減することが可能になると考えられる。ところが、特許文献1に開示されている技術を用いるのみでは、量子ドットの大きさを十分に小さくすることが困難であり、光電変換効率を向上させ難いという問題があった。かかる問題は、特許文献1〜特許文献4に開示されている技術を組み合わせたとしても、解決することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、光電変換効率を向上させることが可能な光電変換素子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、低温で成長させることにより作製した第1窒化ガリウム層と、該第1窒化ガリウム層の表面に形成された窒化インジウム量子ドットと、を有することを特徴とする、光電変換素子である。
【0009】
ここに、本発明において、「低温」とは、窒化ガリウム(以下において、「GaN」と表記することがある。)をエピタキシャル成長させる際の一般的な温度である800℃〜900℃よりも低い、600℃以下の温度をいう。好ましくは、360℃以上470℃以下の温度である。また、本発明において、「成長」とは、例えば、MOCVDやMBEによる方法をいう。
【0010】
また、上記本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0011】
ここに、本発明において、「p型半導体層」とは、p型半導体として機能する層をいう。
【0012】
また、上記本発明の第1の態様において、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されていることが好ましい。
【0013】
また、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されている上記本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層に水素が含有されていることが好ましい。
【0014】
ここに、「第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層に水素が含有されている」とは、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層が、プラズマや熱等によって活性化した水素が存在する環境下で成長させた層であること、すなわち、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層には水素が積極的に添加されていることをいう。
【0015】
また、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されている上記本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層のドープ濃度が、第1窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことが好ましい。
【0016】
ここに、「ドープ濃度」は、一般に、正孔濃度又は電子濃度(以下において、「キャリア濃度」という。)に比例する。そのため、キャリア濃度を制御するためにはドープ濃度を制御すれば良い。
【0017】
また、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されている上記本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0018】
また、上記本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層が、第3窒化ガリウム層の表面に配設されていることが好ましい。
【0019】
また、第1窒化ガリウム層が第3窒化ガリウム層の表面に配設されている上記本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層に水素が含有されていないことが好ましい。
【0020】
「第3窒化ガリウム層に水素が含有されていない」とは、第3窒化ガリウム層には水素が積極的に添加されていないことをいい、本発明において、不可避的不純物としての水素が第3窒化ガリウム層に含有される形態は、許容される。
【0021】
また、第1窒化ガリウム層が第3窒化ガリウム層の表面に配設されている上記本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層がn型半導体層であっても良い。
【0022】
ここに、本発明において、「n型半導体層」とは、n型半導体として機能する層をいう。
【0023】
本発明の第2の態様は、低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第1工程と、該第1工程によって形成された窒化ガリウム層の表面に窒化インジウム量子ドットを形成する第2工程と、を有することを特徴とする、光電変換素子の製造方法である。
【0024】
また、上記本発明の第2の態様において、第1工程で形成された窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0025】
また、上記本発明の第2の態様において、さらに、第2工程で形成された窒化インジウム量子ドットの表面に、低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第3工程、を有することが好ましい。
【0026】
また、第1工程乃至第3工程を有する上記本発明の第2の態様において、第1工程及び第3工程が、水素を添加しながら窒化ガリウム層を形成する工程であることが好ましい。
【0027】
また、第1工程乃至第3工程を有する上記本発明の第2の態様において、第3工程で形成された窒化ガリウム層のドープ濃度が、第1工程で形成された窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことが好ましい。
【0028】
また、第1工程乃至第3工程を有する上記本発明の第2の態様において、第3工程で形成された窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0029】
また、上記本発明の第2の態様において、第1工程で形成されるべき窒化ガリウム層が表面に配設される窒化ガリウム層、を形成する第4工程を有することが好ましい。
【0030】
また、第1工程乃至第4工程を有する上記本発明の第2の態様において、第4工程が、水素を添加せずに窒化ガリウム層を形成する工程であることが好ましい。
【0031】
また、第1工程乃至第4工程を有する上記本発明の第2の態様において、第4工程で形成された窒化ガリウム層がn型半導体層であっても良い。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1の態様では、窒化インジウム量子ドット(以下において、窒化インジウムを「InN」、窒化インジウム量子ドットを「InN量子ドット」と表記することがある。)が形成される第1窒化ガリウム層が低温で成長させることによって作製されている。窒化ガリウムを低温でエピタキシャル成長させることによって作製すると、多くの結晶欠陥が存在する窒化ガリウムが形成されるため、窒化ガリウム層の表面に多くの微小な凹凸を形成することが可能になる。このように多くの微小な凹凸が形成された窒化ガリウム層の表面に、InN量子ドットを形成すると、窒化ガリウム層の表面におけるInN量子ドットの移動を抑制することが可能になり、複数のInN量子ドットの結合を抑制することが可能になる結果、従来よりも大きさが小さいInN量子ドットを作製することが可能になる。InN量子ドットの大きさを小さくすると、フォノンボトルネック効果によりエネルギー損失を低減しやすくなる。したがって、低温成長によって作製した第1窒化ガリウム層の表面にInN量子ドットが形成された構成を含む本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子を提供することができる。
【0033】
また、本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層がp型半導体層であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0034】
また、本発明の第1の態様において、InN量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されていることにより、GaNは良好な耐熱性を有するため、InN量子ドットの形状を保護することが可能になる。
【0035】
また、本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層に水素が含有されている形態とすることにより、格子欠陥に捕捉されるキャリアを低減することが可能になるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0036】
また、本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層のドープ濃度が、第1窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことにより、InN量子ドット内のキャリアを取り出しやすくなるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0037】
また、本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層がp型半導体層であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0038】
また、本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層が第3窒化ガリウム層の表面に配設されていることにより、InN量子ドット内のキャリアを、第3窒化ガリウム層内の刃状転位を介して取り出すことが可能になるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0039】
また、本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層に水素が含有されていないことにより、水素によって第3窒化ガリウム層内の刃状転位のダングリングボンドが不活性化される事態を回避することができるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0040】
また、本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層がn型半導体層であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0041】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様にかかる光電変換素子を製造することが可能になる。したがって、本発明の第2の態様によれば、光電変換効率を向上させ得る光電変換素子を製造することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の光電変換素子10を説明する断面図である。
【図2】光電変換素子10の製造工程を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の光電変換素子10を説明するバンド図である。
【図4】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図5】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図6】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図7】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図8】GaN基板の凹凸を強調した原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図9】GaN基板の凹凸を示す断面図である。
【図10】GaN基板の凹凸を強調した原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図11】GaN基板の凹凸を示す断面図である。
【図12】GaN及びInNのバンド図である。
【図13】GaNとInN量子ドットとの積層構造を説明する断面図である。
【図14】GaN中の転位のバンド図である。図14(a)はGaN中の刃状転位のバンド図であり、図14(b)はGaN中のらせん転位のバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
格子定数の異なる物質を薄くエピタキシャル成長させると、格子定数の差による歪みエネルギーを最小化するために量子ドットが島状に成長するStranski−Krastanovモード(以下において、「SKモード」という。)と呼ばれる成長が起こる場合がある。GaN上にInNをエピタキシャル成長させると、SKモードによって、InN量子ドットを作製することができる。しかしながら、単にSKモードによりInN量子ドットを作製しても、径が70〜255nm程度になってしまうため、十分な量子効果が得られないという問題があった。InNの格子定数とGaNの格子定数とは、11%も異なるにもかかわらず量子ドットの径が大きくなるのは、作製されたInN量子ドットがGaN表面を移動して、隣り合う量子ドットが融合(コアレッセンス)しているためであると考えられる。本発明者らは鋭意研究の結果、InN量子ドットが作製されるGaNの表面を粗くすることにより、量子ドットの移動を抑制することが可能になり、その結果、小粒の量子ドットを作製することが可能になる、との仮説を立て、その真偽を調査した。
【0044】
図4〜図7は、SKモードでInN量子ドットが表面に作製されたGaN基板を冷却した後、分子線エピタキシー(以下において、「MBE」という。)装置から取り出し、原子間力顕微鏡(以下において、「AFM」という。)で観察した写真を示す図である。
【0045】
図4は、GaN基板の温度を460℃に設定した条件下で、InN換算で5分子層相当のインジウムを照射してInN量子ドットを作製したサンプルAのAFM観察写真である。図4に示すように、サンプルAでは、径が大きい量子ドットが複数作製されていた。InN量子ドットの頂部に凹みが確認できることから、図4に示すInN量子ドットは複数のInN量子ドットが融合したものであると考えられる。
【0046】
図5は、GaN基板の温度を430℃に設定した条件下で、InN換算で3.55分子層相当のインジウムを照射してInN量子ドットを作製したサンプルBのAFM観察写真である。図5に示すように、基板温度を30℃低下させ、且つ、インジウム照射量を低減したことにより、InN量子ドットを小粒化することができた。しかしながら、基板温度を単に低下させると、作製されるInN量子ドット内に多くの欠陥が形成され、光電変換効率を向上させにくくなる虞があると考えられる。そこで、GaN基板上に低温で薄いGaN層を成長させた後、この薄いGaN層の表面にInN量子ドットを成長させることを試みた。
【0047】
図6は、温度が470℃に調整されたGaN基板上に、厚さ10nmのGaNをエピタキシャル成長させた後、この厚さ10nmのGaNの温度を470℃に維持して、InN換算で7分子層相当のインジウムを照射することによりInN量子ドットを作製したサンプルCのAFM観察写真である。図4〜図6に示すように、InN量子ドットが形成されるGaN層の温度がサンプルAよりも高温であり、且つ、照射されたインジウムの量がサンプルAよりも多量であったにもかかわらず、サンプルCでは、サンプルA及びサンプルBよりもInN量子ドットを小粒化することができた。
【0048】
図7は、温度が430℃に調整されたGaN基板上に、厚さ10nmのGaNをエピタキシャル成長させた後、この厚さ10nmのGaNの温度を430℃に維持して、InN換算で3.55分子層相当のインジウムを照射することによりInN量子ドットを作製したサンプルDのAFM観察写真である。図5及び図7に示すように、InN量子ドットを作製する際のGaN温度及びインジウムの照射量が同程度であったサンプルBと比較して、サンプルDではInN量子ドットを小粒化することができた。また、図4〜図7に示すように、InN量子ドットを最も小粒化することができたのは、サンプルCであった。これは、サンプルCでは、InN量子ドットが作製されるGaNの温度が、サンプルDの場合よりも高温であったため、量子ドット材料であるInNが再蒸発して小粒になったためであると考えられる。
【0049】
図8は、サンプルAの下地層(GaN基板)の凹凸を強調して示すAFM観察写真であり、図9は、図8の一部の凹凸を示す断面図である。また、図10は、サンプルCの下地層(470℃で成長させたGaN層)の凹凸を強調して示すAFM観察写真であり、図11は、図10の一部の凹凸を示す断面図である。図9及び図11に示すように、大きなInN量子ドットが作製されたサンプルAでは、下地層の凹凸が比較的少ないが、小さなInN量子ドットが作製されたサンプルCでは、下地層の凹凸が多く、表面が荒れていた。
【0050】
以上実証したように、本発明者らは、表面を荒らしたGaNにInN量子ドットをSKモードで作製することにより、InN量子ドットを小粒化することが可能になることを知見した(以下において、当該知見を「知見1」という。)。このメカニズムは明らかになっていないが、以下のように推定している。
【0051】
量子ドットを構成すべき材料(以下において、「ドット材料」という。)を堆積させることによって量子ドットを生成させる場合のメカニズムとして、一般には、下地材料とドット材料との格子不整合(結晶の格子定数の不一致)による歪みエネルギーを最小にするために、ドット材料が島状に集まり、量子ドットになると言われている(SKモード)。例えば、研究が盛んなGaAs上にInAsの量子ドットを作製する系では、下地材料(GaAs)とドット材料(InAs)との格子不整合が7%あり、径が数十nmの量子ドットが生じる。下地であるGaNの上にInN量子ドットを作製する系では、両者の格子不整合が11%であるため、同様のメカニズムで量子ドットが生成されていると考えられる。ところが、GaNとInNとでは格子不整合が大きすぎるため、量子ドットと下地とのなじみが悪く、InN量子ドットがGaNの表面を動き回り、動き回った量子ドット同士が融合(コアレッセンス)して巨大化するものと推定している。
【0052】
コアレッセンスを防止するには、何らかの方法で量子ドットの移動を抑制・防止すれば良いと考えられる。量子ドットの移動を抑制・防止する方法としては、(1)微量の不純物を用いて下地と量子ドットとのなじみを向上させる、(2)下地表面の格子欠陥等で量子ドットをピン止めする、ことが考えられる。「L.Zhou et. al., Appl.Phys.Lett. 88, p.231906, (2006)」(以下において、「非特許文献1」という。)には、貫通転位の上に量子ドットが生じやすい(上記(2)に相当)と報告されている。格子欠陥を増大させる方法としては、下地を低温で成長することが考えられる。そこで、本発明者らは、低温で成長させた下地(GaN)の上にInN量子ドットを作製することによって、InN量子ドットを小粒化することが可能になると推定し、上記実験によってこれを実証した。
【0053】
図12は、接合されたGaN及びInNのバンド図である。図12の上側ほど電子のエネルギーが高く、下側ほど正孔のエネルギーが高い。図12の「●」は電子を表しており、図12の破線は、GaN中に存在する結晶欠陥のエネルギー準位(以下において、「欠陥準位」という。)の予想位置である。InNは電子親和力が大きいため、図12に示すように、禁制帯の上端がGaNの禁制帯の上端よりも低い位置にある。そのため、InNとGaNとを接合すれば、InN中の伝導帯に存在する電子は、エネルギーを失うことなくGaNの欠陥準位に捉えられることが可能と考えられる。結晶欠陥には様々なタイプがあるが、線状の欠陥である転位であれば、電子が転位に沿って移動可能であると考えられる。以上の理論的予測に基づき、本発明者らは、図13に示す構造を考案した。光を当てると、InN量子ドットが光を吸収して光励起キャリアが生成される。量子ドットの径が数十nm以下であれば、フォノンボトルネック効果によって電子のエネルギーは高い状態に保たれる。このようにして高いエネルギー状態に保たれた電子は、ある確率でGaNの欠陥準位に捉えられ、ここに適度な電界が加えられていれば、電子は転位に沿って移動できると考えられる。欠陥準位を介した電子の移動については、「L.Ivanova et. al., Appl.Phys.Lett. Vol.93, p.192110(2008)」(以下において、「非特許文献2」という。)に報告されている。非特許文献2では、GaN試料内の転位に平行な面に対して金属製短針を接近させた際のトンネル電流を測定し、その結果を分析することによって、欠陥準位を介して電子が移動し得ることを証明している。
【0054】
転位には、刃状転位及びらせん転位の2種類がある。GaNの転位に関しては、非特許文献1に報告されている。非特許文献1に報告されている、GaNの刃状転位のバンド図、及び、GaNのらせん転位のバンド図を図14に示す。図14(a)はGaNの刃状転位のバンド図であり、図14(b)はGaNのらせん転位のバンド図である。図14(a)に示すように、GaN中の刃状転位には、欠陥準位が1つか2つしか生じない。そのため、欠陥準位にエネルギーが一致するキャリアだけが選択的に刃状転位の中に入り込み、刃状転位の中に入り込んだキャリアを転位に沿って移動させることが可能になる。それゆえ、InN量子ドット内の電子を、GaNの刃状転位に沿って移動させることによって、電子を量子ドット内に閉じ込めつつ、特定のエネルギーのキャリアのみを取り出すことが可能になるので、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上させやすくなると考えられる。これに対し、図14(b)に示すように、GaN中のらせん転位には、欠陥準位が多数生じる。そのため、InN量子ドット内の電子をGaNのらせん転位に沿って移動させると、電子を量子ドット内に閉じ込める効果が弱まる結果、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上させ難くなる。以上の検討から、本発明者らは、InN量子ドット内の電子をGaNの刃状転位を介して取り出すことにより、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上することが可能になることを知見した(以下において、当該知見を「知見2」という。)なお、公知の技術によって作製したGaNには、108〜1010cm−2の転位が含まれ、その多くは刃状転位である。そのため、公知技術によって作製したGaNの表面にInN量子ドットを形成することにより、InN量子ドットとGaNの刃状転位とを接続した構造を実現することが可能になると考えられる。
【0055】
上述のように、低温で成長させることによって格子欠陥を増大させた下地(GaN)の上にInN量子ドットを作製することにより、InN量子ドットを小粒化することが可能になる。しかしながら、このような方法で生じた格子欠陥には様々なものが含まれ、電気特性に対して有害な格子欠陥も多く含まれると推定される。本発明者らは、鋭意検討の結果、GaNに水素を含有させることによって、水素が格子欠陥のダングリングボンドを不活性化し、電気的特性を向上させる技術(特許第4126812号公報に開示された技術。以下において「先行特許技術」という。)に着目した。しかしながら、この先行特許技術を単に用いると、GaN中の刃状転位が不活性化され、上記知見2のメカニズムが機能しなくなる虞がある。そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、トンネル効果によってキャリアが移動可能な形態とするため、InN量子ドットと直接接触する層(下地を含む)は厚さを薄くして水素を含有させる一方、InN量子ドットと直接接触しない層には水素を含有させないことにより、格子欠陥を不活性化しつつ量子ドットからキャリアを取り出すことが可能になり、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上させることが容易になることを知見した(以下において、当該知見を「知見3」という。)。
【0056】
本発明は、上記知見1〜3に基づいてなされたものである。本発明は、光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子を提供することを、主な要旨とする。
【0057】
以下、図面を参照しつつ、本発明を量子ドット太陽電池に適用した場合について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。以下の説明において、A以上B以下をA〜Bと表記することがある。
【0058】
図1は、本発明の光電変換素子10(以下において、「太陽電池10」ということがある。)の形態を示す断面図である。図1では、一部の符号の記載を省略している。図1に示すように、本発明の太陽電池10は、サファイア基板1と、該サファイア基板1の上面に形成された第5GaN層2と、該第5GaN層2の上面に形成された第4GaN層3と、該第4GaN層3の上面に形成された第3GaN層4と、該第3GaN層4の上面に形成された第1GaN層5と、該第1GaN層5の上面に形成されたInN量子ドット6、6、…を含む層(以下において、「InN量子ドット6含有層」という。)と、該InN量子ドット6含有層の上面に形成された第2GaN層7と、該第2GaN層7の上面に形成された第6GaN層8と、該第6GaN層8の上面に形成された正極9と、正極9側から第4GaN層3へと達する穴11に、第4GaN層3と接触するように形成された負極12と、正極9と接触するように形成されたくし形形状の電極13と、を有している。太陽電池10において、第3GaN層4は、サファイア基板1の温度が800℃付近に維持された環境下で、水素を混入させずにエピタキシャル成長させることによって作製されており、第1GaN層5は、サファイア基板1の温度が360℃〜470℃に維持された環境下で、pドープをしながら水素を混入させてエピタキシャル成長させることによって作製されている。また、InN量子ドット6含有層は、サファイア基板1の温度が350℃〜470℃に維持された環境下でエピタキシャル成長させることによって作製されており、第2GaN層7は、サファイア基板1の温度が360℃〜470℃に維持された環境下で、pドープをしながら水素を混入させてエピタキシャル成長させることにより作製されている。すなわち、InN量子ドット6含有層は、低温でエピタキシャル成長させることにより作製された第1GaN層の上面に、低温環境下で形成されている。また、第1GaN層5及び第2GaN層7には水素が含有されているので、第1GaN層5及び第2GaN層7の格子欠陥は不活性化されている。これに対し、第3GaN層4には水素が積極的に添加されていないので、第3GaN層4の格子欠陥は不活性化されていない。太陽電池10において、第4GaN層3はn+半導体層、第3GaN層4はn−半導体層、第1GaN層5及び第2GaN層7はp−半導体層、第6GaN層8はp+半導体層である。
【0059】
図2は、光電変換素子10の製造工程を説明するフローチャートである。図2に示すように、光電変換素子10は、基板作製工程(S1)、第5GaN層作製工程(S2)、第4GaN層作製工程(S3)、第4工程(S4)、第1工程(S5)、第2工程(S6)、第3工程(S7)、第6GaN層作製工程(S8)、正極作製工程(S9)、穴形成工程(S10)、負極作製工程(S11)、及び、電極作製工程(S12)を経て製造される。
【0060】
基板作製工程S1は、蒸着等の公知の方法により、サファイア基板1を作製する工程とすることができる。当該S1によって作製されるサファイア基板1の厚さは、例えば、0.3〜0.5mmとすることができる。
【0061】
第5GaN層作製工程S2は、上記S1で作製したサファイア基板1の温度を600〜800℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビームとをサファイア基板1の上面に照射し、GaNをエピタキシャル成長させることによって、第5GaN層2を作製する工程とすることができる。S2によって作製される第5GaN層2の厚さは、例えば、1μmとすることができる。
【0062】
第4GaN層作製工程S3は、サファイア基板1の温度を600〜800℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビーム及びシリコンビームとを、上記S2で作製した第5GaN層2の上面に照射し、強くnドープされたGaNをエピタキシャル成長させることによって、第4GaN層3を作製する工程とすることができる。S3によって作製される第4GaN層3の厚さは、十分な電気伝導が得られ、且つ、穴11をエッチングにより容易に形成可能にする等の観点から、500nm〜1000nmとする。また、第4GaN層3のキャリア濃度は、例えば、1019〜1020cm−3とすることができる。ここで、ガリウム分子ビームの強さは、ビームを真空計に曝して得られる値で、6.67〜8.00×10−5Paとすることができる。窒素ビームはプラズマ励起マイクロ波強度270Wのプラズマで活性化することができ、窒素ガス供給量は大気圧1.013hPaで0.7cm3/minとすることができる。また、第4GaN層3のエピタキシャル成長の速度は、例えば、3分間で厚さが50nmとなる速度とすることができる。
【0063】
第4工程S4は、サファイア基板1の温度を600〜800℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビームとを、上記S3で作製した第4GaN層3の上面に照射し、nドープされたGaNをエピタキシャル成長させることによって、第5GaN層4を作製する工程とすることができる。S4によって作製される第3GaN層4の厚さは、十分な電気伝導が得られ、且つ、穴11をエッチングにより容易に形成可能にする等の観点から、50nm〜200nmとする。S4では、第4GaN層3と第3GaN層4との境界でnドープ濃度が急峻に変化するように、第3GaN層4を作製する。nドープ濃度の急峻な変化は、上記S3でシリコンビームを供給していたKセルのシャッターを閉じることによって実現することができる。第3GaN層4のキャリア濃度は、例えば、1016〜1017cm−3とすることができる。GaNは自然に生じる結晶欠陥がドナーの役割をするため、ドープ濃度がゼロであっても、第3GaN層4のキャリア濃度が上記濃度になる場合もある。上記S2で作製した第5GaN層2、上記S3で作製した第4GaN層3、及び、S4で作製した第3GaN層4には、密度が108〜1010cm−2程度の貫通転位が存在し、その多くは刃状転位である。
【0064】
第1工程S5は、サファイア基板1の温度を360℃〜470℃に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビーム及び水素ビームとを、上記S4で作製した第3GaN層4の上面に照射しながら、軽く(キャリア濃度にして1015〜1017cm−3)pドープ(例えば、マグネシウムをドープ)して、pドープされたGaNをエピタキシャル成長させることにより、第3GaN層4の上面に第1GaN層5を作製する工程とすることができる。S5によって作製される第1GaN層5の厚さは、量子ドット6、6、…に存在する電子がトンネル効果によって第1GaN層5を通過可能な形態にする等の観点から、3nm〜20nmとする。速やかに第2工程S6へと移行するために、S5におけるサファイア基板1の温度は第2工程S6におけるサファイア基板1の温度と同じであることが好ましい。InN量子ドットの品質を良好に保つには、サファイア基板1の温度が高い方が好ましく、熱分解温度より150℃以上低い温度では良い結晶を得るのは難しい。InNの熱分解温度は500℃程度であるので、S5ではサファイア基板1の下限温度を360℃程度とする。一方、再現性良くドットを得る観点からはサファイア基板1の温度を低くすることが好ましく、470℃が上限温度であることが実験で確認できている。
【0065】
第2工程S6は、サファイア基板1の温度を350℃〜470℃に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、上記S5で作製した第1GaN層5の上面にインジウム分子ビーム及びプラズマで活性化された窒素ビームを供給することにより、第1GaN層5の上面にSKモードでInN量子ドット6含有層を作製する工程とすることができる。ここで、窒素ビームはプラズマ励起マイクロ波強度300Wのプラズマで活性化することができ、窒素ガス供給量は大気圧1.013hPaで0.7cm3/minとすることができる。また、インジウム分子ビームは窒素ビームの照射後に照射することができる。インジウム分子ビームの強さは、ビームを真空計に曝して得られる値で、1.33×10−5Paとすることができ、インジウム分子ビーム源であるKセルの温度は755℃とすることができ、インジウム分子ビームの照射時間は70秒間とすることができる。InN量子ドットの品質を良好に保つには、サファイア基板1の温度が高い方が好ましく、熱分解温度より150℃以上低い温度では良い結晶を得るのは難しい。InNの熱分解温度は500℃程度であるので、S6ではサファイア基板1の下限温度を350℃程度とする。一方、再現性良くドットを得る観点からはサファイア基板1の温度を低くすることが好ましく、470℃が上限温度であることが実験で確認できている。
【0066】
第3工程S7は、サファイア基板1の温度を360℃〜470℃に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、980℃のKセルで発生させた強さが8.00×10−5Paのガリウム分子ビームと、290℃のKセルで発生させた強さが4.00×10−5Paのマグネシウム分子ビームと、プラズマで活性化された窒素ビーム及び水素ビームとを、上記S6で作製したInN量子ドット6含有層の上面に220秒間に亘って照射することにより、InN量子ドット6含有層の上面に厚さ20nmの第2GaN層7を作製する工程とすることができる。S7によって作製される第2GaN層7の厚さは、上記S6によって作製した量子ドット6、6、…の形状を保護しつつ正孔が移動可能な厚さとする観点から、10nm〜50nmとする。前述のように、ドットは動きまわることで形が変化してしまうため、速やかにS7に移行する必要がある。そのため、S7におけるサファイア基板1の温度はS6と同じにすることが好ましい。
【0067】
第6GaN層作製工程S8は、マグネシウムの混入が行われやすくするため、サファイア基板1の温度を680℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビーム及び水素ビームとを、上記S7で作製した第2GaN層7の上面に照射しながら、マグネシウムを濃く(キャリア濃度にして1017〜1019cm−3)ドープして、強くpドープされたGaNをエピタキシャル成長させることにより、第2GaN層7の上面に第6GaN層8を作製する工程とすることができる。S8によって作製される第6GaN層8の厚さは、安定して電極と接合するための厚さを確保する等の観点から、10nm〜100nmとする。なお、ここでは第6GaN層8に水素が混入される形態を例示したが、水素が混入されていなくても良い。ただし、ドナーとなってp型化を阻害する欠陥のダングリングを終端させる等の観点から、第6GaN層8にも水素を含有させることが好ましい。
【0068】
正極作製工程S9は、上記S8で作製した第6GaN層8の上面に、蒸着等の公知の方法で、金属等、太陽電池の正極材料として使用可能な公知の導電性材料からなる正極9を作製する工程とすることができる。S9によって作製される正極9は、例えば、ニッケルを10mm、金を20mm蒸着したものとすることができる。
【0069】
穴形成工程S10は、上記S1〜S9によって第5GaN層2〜正極9が順に上面に作製されたサファイア基板1の温度を下げてMBE装置から取り出した後、異方的エッチング等によって、第4GaN層3にまで達する穴11を形成する工程とすることができる。
【0070】
負極作製工程S11は、上記S10によって作製した穴11の第4GaN層3と接触するように、蒸着法等の公知の方法で、太陽電池の負極材料として使用可能な公知の金属からなる負極12を作製する工程とすることができる。S11によって作製される負極12は、例えば、一般によく知られているチタン/アルミニウム/ニッケル/金を数mmずつ積層したものとすることができる。
【0071】
電極作製工程S12は、上記S9によって作製した正極9の上面に、蒸着等の公知の方法で、金属等、太陽電池の電極として使用可能な公知の導電性材料からなる電極13を作製する工程とすることができる。S12によって作製される電極13は、例えば、厚さ50mmの金とすることができる。
【0072】
図3は、太陽電池10の動作形態を説明するバンド図である。図3において、「●」は電子、「○」は正孔を表しており、矢印はキャリアの移動方向を示している。図3に示すように、太陽電池10は、p型半導体層(p−半導体層及びp+半導体層が含まれる)である第1GaN層5、第2GaN層7、及び、第6GaN層8、並びに、n型半導体層(n−半導体層及びn+半導体層が含まれる)である第4GaN層3及び第3GaN層4によって、内部電界が発生している。
【0073】
InN量子ドット6含有層で発生したキャリア、並びに、第1GaN層5及び第2GaN層7からInN量子ドット6含有層へと落ち込んだキャリアは、フォノンボトルネック効果によって高いエネルギーレベルに保たれる。そして、InN量子ドット6含有層に存在する電子(光励起電子も含む)は、厚さが20nm以下である薄い第1GaN層5をトンネル効果によって移動することにより、第3GaN層4の欠陥準位に捉えられる。なお、低温でエピタキシャル成長させることにより作成した第1GaN層5は多くの格子欠陥を含んでおり、多数の格子欠陥が絡み合ったり歪みが大きかったりすることによって、欠陥準位のエネルギーレベルが乱れていることが予想され、電子を移動させることには不向きであるとも考えられる。しかしながら、第1GaN層5に水素を含有させることによって格子欠陥を不活性化させているため、電子が欠陥にトラップされることなく電子を移動させることが可能になる。
【0074】
このようにして第3GaN層4の欠陥準位に捉えられた電子は、pn接合により生じた内部電界によって、第4GaN層3へ向かって移動する。第3GaN層4と第4GaN層3との境界では、図3に示すように、nドープ濃度が急激に変化していることによってバンドが折れ曲がっている。そのため、第3GaN層4の欠陥準位の電子は、トンネル効果によって第4GaN層3の伝導帯へと移動し、次いで負極12へと移動する。ここで、第4GaN層3の欠陥準位は、既に強くnドープされていることによって電子で埋め尽くされており、光励起キャリアである電子がここに落ち込むことはないと考えられる。
【0075】
一方、InN量子ドット6含有層に存在する正孔(光励起正孔も含む)は、第2GaN層7と第6GaN層8とのpドープレベルの違いにより発生する電界等によって、InN量子ドット6含有層から脱出し、第2GaN層7及び第6GaN層8を経て、正極9へと移動する。
【0076】
本発明に関する上記説明では、Inが含有されていない第4GaN層3を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明では、第4GaN層を、強くnドープされたInxGa1−xNによって構成することが好ましく、xを0.5前後の値とすれば、第4GaN層3の伝導帯下端のエネルギーレベルを、第3GaN層4の欠陥準位に近づけることが可能になるため、より好ましい。第4GaN層3の伝導帯下端のエネルギーレベルを、第3GaN層4の欠陥準位に近づけることにより、第4GaN層3のバンドを折り曲げなくても第3GaN層4から第4GaN層3へと電子を移動させることが可能になる。かかる形態とすることにより、第3GaN層4及び第4GaN層3のnドープ濃度の精度に対する制約を低減することが可能になるため、太陽電池の製造が容易になる。
【0077】
また、本発明に関する上記説明では、InN量子ドット6含有層が1層のみ含有されている形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、2層以上のInN量子ドット6含有層がGaN層を挟んで積層された形態とすることも可能である。
【0078】
以上、本発明を量子ドット太陽電池に適用した場合について説明したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、光検出素子等に代表される他の形態の光電変換素子にも適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の光電変換素子は、電気自動車の動力源や太陽光発電システム等に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…基板
2…第5GaN層
3…第4GaN層
4…第3GaN層
5…第1GaN層
6…InN量子ドット
7…第2GaN層
8…第6GaN層
9…正極
10…光電変換素子
11…穴
12…負極
13…電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や光検出素子等に代表される光電変換素子及びその製造方法に関し、特に量子ドットを利用した光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要という利点を有している。そのため、様々な種類の太陽電池に関する研究が、盛んに進められている。現在、実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。ところが、単接合太陽電池の光電変換効率の理論限界(以下において、「理論限界効率」という。)は約30%に留まっているため、理論限界効率をさらに向上させる新たな方法が検討されている。
【0003】
これまでに検討されている新たな方法の1つに、半導体の量子ドットを利用した太陽電池(以下において、「量子ドット太陽電池」という。)がある。量子ドット太陽電池で用いられる量子ドットは、例えば寸法が約10nm程度の半導体ナノ結晶であり、光を照射することにより発生した電子やホール(以下において、これらをまとめて「キャリア」ということがある。)を三次元的に閉じ込めることができる。量子ドットに電子を閉じ込めることにより、電子の量子力学的な波としての性質を使えるようになり、従来の太陽電池では吸収することができなかった帯域の太陽光スペクトルをも吸収させることが可能になる。さらに、量子ドット太陽電池によれば、熱として失われるエネルギーを低減することが可能になる。そのため、量子ドット太陽電池によれば、理論限界効率を60%以上にまで向上させることが可能になると考えられている。
【0004】
このような太陽電池に関する技術として、例えば特許文献1には、基板1と、第一の化合物半導体材料で基板1上に形成されたp型又はn型半導体層2と、この半導体層2上に形成されたi型半導体層3と、第一の化合物半導体材料でi型半導体層3上に形成されたn型又はp型半導体層4とからなり、i型半導体層3が、第一の化合物半導体材料からなるベース層3cと、第二の化合物半導体材料でベース層3c上に形成された量子ドット層3aと、第一の化合物半導体材料で量子ドット層3a上に形成されたキャップ層3bとを構成単位30として形成される太陽電池セル10が開示されている。また、特許文献2には、基板上に、n側窒化物半導体層、活性層及びp側窒化物半導体層を有する窒化物半導体素子において、n側窒化物半導体層がn型不純物を含むn側コンタクト層を有し、該n側コンタクト層がアンドープGaN層の上に形成され、該アンドープGaN層を低温成長させたGadAl1−dN(0<d≦1)からなるバッファ層上に形成する技術が開示されている。また、特許文献3には、カーボンを材料とする第1の半導体層及び第2の半導体層と、第1及び第2の半導体層間に形成されるカーボンを材料とする量子井戸部とを含み、該量子井戸部は、カーボンの半導体薄膜で構成される壁層と、該壁層中に埋め込まれる複数の量子ドットと、該量子ドットの周辺部に設けられるsp2結合防止層とを含み、該sp2結合防止層が、壁層の量子ドットに隣接する部分のカーボン原子に水素を結合させて構成される太陽電池が開示されている。また、特許文献4には、半絶縁性又は第一の導電型のInP基板上に設けられた第一導電型の第1のInP層と、InP基板と第1のInP層との間に設けられた第一導電型の第2のInP層と、第二導電型領域を有する第3のInP層と、第1のInP層と第3のInP層との間に設けられ、pn接合が内部に形成された受光層と、を備え、第2のInP層のキャリア濃度は第1のInP層のキャリア濃度より大きい、受光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3753605号公報
【特許文献2】特開2000−244072号公報
【特許文献3】特開2006−332540号公報
【特許文献4】特開2006−147670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、量子ドットを利用しているため、キャリアを三次元的に閉じ込めることができる。その結果、キャリアのエネルギー損失を低減することが可能になると考えられる。ところが、特許文献1に開示されている技術を用いるのみでは、量子ドットの大きさを十分に小さくすることが困難であり、光電変換効率を向上させ難いという問題があった。かかる問題は、特許文献1〜特許文献4に開示されている技術を組み合わせたとしても、解決することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、光電変換効率を向上させることが可能な光電変換素子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、低温で成長させることにより作製した第1窒化ガリウム層と、該第1窒化ガリウム層の表面に形成された窒化インジウム量子ドットと、を有することを特徴とする、光電変換素子である。
【0009】
ここに、本発明において、「低温」とは、窒化ガリウム(以下において、「GaN」と表記することがある。)をエピタキシャル成長させる際の一般的な温度である800℃〜900℃よりも低い、600℃以下の温度をいう。好ましくは、360℃以上470℃以下の温度である。また、本発明において、「成長」とは、例えば、MOCVDやMBEによる方法をいう。
【0010】
また、上記本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0011】
ここに、本発明において、「p型半導体層」とは、p型半導体として機能する層をいう。
【0012】
また、上記本発明の第1の態様において、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されていることが好ましい。
【0013】
また、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されている上記本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層に水素が含有されていることが好ましい。
【0014】
ここに、「第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層に水素が含有されている」とは、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層が、プラズマや熱等によって活性化した水素が存在する環境下で成長させた層であること、すなわち、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層には水素が積極的に添加されていることをいう。
【0015】
また、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されている上記本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層のドープ濃度が、第1窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことが好ましい。
【0016】
ここに、「ドープ濃度」は、一般に、正孔濃度又は電子濃度(以下において、「キャリア濃度」という。)に比例する。そのため、キャリア濃度を制御するためにはドープ濃度を制御すれば良い。
【0017】
また、窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されている上記本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0018】
また、上記本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層が、第3窒化ガリウム層の表面に配設されていることが好ましい。
【0019】
また、第1窒化ガリウム層が第3窒化ガリウム層の表面に配設されている上記本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層に水素が含有されていないことが好ましい。
【0020】
「第3窒化ガリウム層に水素が含有されていない」とは、第3窒化ガリウム層には水素が積極的に添加されていないことをいい、本発明において、不可避的不純物としての水素が第3窒化ガリウム層に含有される形態は、許容される。
【0021】
また、第1窒化ガリウム層が第3窒化ガリウム層の表面に配設されている上記本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層がn型半導体層であっても良い。
【0022】
ここに、本発明において、「n型半導体層」とは、n型半導体として機能する層をいう。
【0023】
本発明の第2の態様は、低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第1工程と、該第1工程によって形成された窒化ガリウム層の表面に窒化インジウム量子ドットを形成する第2工程と、を有することを特徴とする、光電変換素子の製造方法である。
【0024】
また、上記本発明の第2の態様において、第1工程で形成された窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0025】
また、上記本発明の第2の態様において、さらに、第2工程で形成された窒化インジウム量子ドットの表面に、低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第3工程、を有することが好ましい。
【0026】
また、第1工程乃至第3工程を有する上記本発明の第2の態様において、第1工程及び第3工程が、水素を添加しながら窒化ガリウム層を形成する工程であることが好ましい。
【0027】
また、第1工程乃至第3工程を有する上記本発明の第2の態様において、第3工程で形成された窒化ガリウム層のドープ濃度が、第1工程で形成された窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことが好ましい。
【0028】
また、第1工程乃至第3工程を有する上記本発明の第2の態様において、第3工程で形成された窒化ガリウム層がp型半導体層であっても良い。
【0029】
また、上記本発明の第2の態様において、第1工程で形成されるべき窒化ガリウム層が表面に配設される窒化ガリウム層、を形成する第4工程を有することが好ましい。
【0030】
また、第1工程乃至第4工程を有する上記本発明の第2の態様において、第4工程が、水素を添加せずに窒化ガリウム層を形成する工程であることが好ましい。
【0031】
また、第1工程乃至第4工程を有する上記本発明の第2の態様において、第4工程で形成された窒化ガリウム層がn型半導体層であっても良い。
【発明の効果】
【0032】
本発明の第1の態様では、窒化インジウム量子ドット(以下において、窒化インジウムを「InN」、窒化インジウム量子ドットを「InN量子ドット」と表記することがある。)が形成される第1窒化ガリウム層が低温で成長させることによって作製されている。窒化ガリウムを低温でエピタキシャル成長させることによって作製すると、多くの結晶欠陥が存在する窒化ガリウムが形成されるため、窒化ガリウム層の表面に多くの微小な凹凸を形成することが可能になる。このように多くの微小な凹凸が形成された窒化ガリウム層の表面に、InN量子ドットを形成すると、窒化ガリウム層の表面におけるInN量子ドットの移動を抑制することが可能になり、複数のInN量子ドットの結合を抑制することが可能になる結果、従来よりも大きさが小さいInN量子ドットを作製することが可能になる。InN量子ドットの大きさを小さくすると、フォノンボトルネック効果によりエネルギー損失を低減しやすくなる。したがって、低温成長によって作製した第1窒化ガリウム層の表面にInN量子ドットが形成された構成を含む本発明によれば、光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子を提供することができる。
【0033】
また、本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層がp型半導体層であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0034】
また、本発明の第1の態様において、InN量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されていることにより、GaNは良好な耐熱性を有するため、InN量子ドットの形状を保護することが可能になる。
【0035】
また、本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層及び第2窒化ガリウム層に水素が含有されている形態とすることにより、格子欠陥に捕捉されるキャリアを低減することが可能になるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0036】
また、本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層のドープ濃度が、第1窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことにより、InN量子ドット内のキャリアを取り出しやすくなるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0037】
また、本発明の第1の態様において、第2窒化ガリウム層がp型半導体層であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0038】
また、本発明の第1の態様において、第1窒化ガリウム層が第3窒化ガリウム層の表面に配設されていることにより、InN量子ドット内のキャリアを、第3窒化ガリウム層内の刃状転位を介して取り出すことが可能になるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0039】
また、本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層に水素が含有されていないことにより、水素によって第3窒化ガリウム層内の刃状転位のダングリングボンドが不活性化される事態を回避することができるので、光電変換効率を向上させることが容易になる。
【0040】
また、本発明の第1の態様において、第3窒化ガリウム層がn型半導体層であっても、光電変換効率を向上させることが可能になる。
【0041】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様にかかる光電変換素子を製造することが可能になる。したがって、本発明の第2の態様によれば、光電変換効率を向上させ得る光電変換素子を製造することが可能な、光電変換素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の光電変換素子10を説明する断面図である。
【図2】光電変換素子10の製造工程を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の光電変換素子10を説明するバンド図である。
【図4】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図5】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図6】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図7】InN量子ドットの原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図8】GaN基板の凹凸を強調した原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図9】GaN基板の凹凸を示す断面図である。
【図10】GaN基板の凹凸を強調した原子間力顕微鏡観察写真を示す図である。
【図11】GaN基板の凹凸を示す断面図である。
【図12】GaN及びInNのバンド図である。
【図13】GaNとInN量子ドットとの積層構造を説明する断面図である。
【図14】GaN中の転位のバンド図である。図14(a)はGaN中の刃状転位のバンド図であり、図14(b)はGaN中のらせん転位のバンド図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
格子定数の異なる物質を薄くエピタキシャル成長させると、格子定数の差による歪みエネルギーを最小化するために量子ドットが島状に成長するStranski−Krastanovモード(以下において、「SKモード」という。)と呼ばれる成長が起こる場合がある。GaN上にInNをエピタキシャル成長させると、SKモードによって、InN量子ドットを作製することができる。しかしながら、単にSKモードによりInN量子ドットを作製しても、径が70〜255nm程度になってしまうため、十分な量子効果が得られないという問題があった。InNの格子定数とGaNの格子定数とは、11%も異なるにもかかわらず量子ドットの径が大きくなるのは、作製されたInN量子ドットがGaN表面を移動して、隣り合う量子ドットが融合(コアレッセンス)しているためであると考えられる。本発明者らは鋭意研究の結果、InN量子ドットが作製されるGaNの表面を粗くすることにより、量子ドットの移動を抑制することが可能になり、その結果、小粒の量子ドットを作製することが可能になる、との仮説を立て、その真偽を調査した。
【0044】
図4〜図7は、SKモードでInN量子ドットが表面に作製されたGaN基板を冷却した後、分子線エピタキシー(以下において、「MBE」という。)装置から取り出し、原子間力顕微鏡(以下において、「AFM」という。)で観察した写真を示す図である。
【0045】
図4は、GaN基板の温度を460℃に設定した条件下で、InN換算で5分子層相当のインジウムを照射してInN量子ドットを作製したサンプルAのAFM観察写真である。図4に示すように、サンプルAでは、径が大きい量子ドットが複数作製されていた。InN量子ドットの頂部に凹みが確認できることから、図4に示すInN量子ドットは複数のInN量子ドットが融合したものであると考えられる。
【0046】
図5は、GaN基板の温度を430℃に設定した条件下で、InN換算で3.55分子層相当のインジウムを照射してInN量子ドットを作製したサンプルBのAFM観察写真である。図5に示すように、基板温度を30℃低下させ、且つ、インジウム照射量を低減したことにより、InN量子ドットを小粒化することができた。しかしながら、基板温度を単に低下させると、作製されるInN量子ドット内に多くの欠陥が形成され、光電変換効率を向上させにくくなる虞があると考えられる。そこで、GaN基板上に低温で薄いGaN層を成長させた後、この薄いGaN層の表面にInN量子ドットを成長させることを試みた。
【0047】
図6は、温度が470℃に調整されたGaN基板上に、厚さ10nmのGaNをエピタキシャル成長させた後、この厚さ10nmのGaNの温度を470℃に維持して、InN換算で7分子層相当のインジウムを照射することによりInN量子ドットを作製したサンプルCのAFM観察写真である。図4〜図6に示すように、InN量子ドットが形成されるGaN層の温度がサンプルAよりも高温であり、且つ、照射されたインジウムの量がサンプルAよりも多量であったにもかかわらず、サンプルCでは、サンプルA及びサンプルBよりもInN量子ドットを小粒化することができた。
【0048】
図7は、温度が430℃に調整されたGaN基板上に、厚さ10nmのGaNをエピタキシャル成長させた後、この厚さ10nmのGaNの温度を430℃に維持して、InN換算で3.55分子層相当のインジウムを照射することによりInN量子ドットを作製したサンプルDのAFM観察写真である。図5及び図7に示すように、InN量子ドットを作製する際のGaN温度及びインジウムの照射量が同程度であったサンプルBと比較して、サンプルDではInN量子ドットを小粒化することができた。また、図4〜図7に示すように、InN量子ドットを最も小粒化することができたのは、サンプルCであった。これは、サンプルCでは、InN量子ドットが作製されるGaNの温度が、サンプルDの場合よりも高温であったため、量子ドット材料であるInNが再蒸発して小粒になったためであると考えられる。
【0049】
図8は、サンプルAの下地層(GaN基板)の凹凸を強調して示すAFM観察写真であり、図9は、図8の一部の凹凸を示す断面図である。また、図10は、サンプルCの下地層(470℃で成長させたGaN層)の凹凸を強調して示すAFM観察写真であり、図11は、図10の一部の凹凸を示す断面図である。図9及び図11に示すように、大きなInN量子ドットが作製されたサンプルAでは、下地層の凹凸が比較的少ないが、小さなInN量子ドットが作製されたサンプルCでは、下地層の凹凸が多く、表面が荒れていた。
【0050】
以上実証したように、本発明者らは、表面を荒らしたGaNにInN量子ドットをSKモードで作製することにより、InN量子ドットを小粒化することが可能になることを知見した(以下において、当該知見を「知見1」という。)。このメカニズムは明らかになっていないが、以下のように推定している。
【0051】
量子ドットを構成すべき材料(以下において、「ドット材料」という。)を堆積させることによって量子ドットを生成させる場合のメカニズムとして、一般には、下地材料とドット材料との格子不整合(結晶の格子定数の不一致)による歪みエネルギーを最小にするために、ドット材料が島状に集まり、量子ドットになると言われている(SKモード)。例えば、研究が盛んなGaAs上にInAsの量子ドットを作製する系では、下地材料(GaAs)とドット材料(InAs)との格子不整合が7%あり、径が数十nmの量子ドットが生じる。下地であるGaNの上にInN量子ドットを作製する系では、両者の格子不整合が11%であるため、同様のメカニズムで量子ドットが生成されていると考えられる。ところが、GaNとInNとでは格子不整合が大きすぎるため、量子ドットと下地とのなじみが悪く、InN量子ドットがGaNの表面を動き回り、動き回った量子ドット同士が融合(コアレッセンス)して巨大化するものと推定している。
【0052】
コアレッセンスを防止するには、何らかの方法で量子ドットの移動を抑制・防止すれば良いと考えられる。量子ドットの移動を抑制・防止する方法としては、(1)微量の不純物を用いて下地と量子ドットとのなじみを向上させる、(2)下地表面の格子欠陥等で量子ドットをピン止めする、ことが考えられる。「L.Zhou et. al., Appl.Phys.Lett. 88, p.231906, (2006)」(以下において、「非特許文献1」という。)には、貫通転位の上に量子ドットが生じやすい(上記(2)に相当)と報告されている。格子欠陥を増大させる方法としては、下地を低温で成長することが考えられる。そこで、本発明者らは、低温で成長させた下地(GaN)の上にInN量子ドットを作製することによって、InN量子ドットを小粒化することが可能になると推定し、上記実験によってこれを実証した。
【0053】
図12は、接合されたGaN及びInNのバンド図である。図12の上側ほど電子のエネルギーが高く、下側ほど正孔のエネルギーが高い。図12の「●」は電子を表しており、図12の破線は、GaN中に存在する結晶欠陥のエネルギー準位(以下において、「欠陥準位」という。)の予想位置である。InNは電子親和力が大きいため、図12に示すように、禁制帯の上端がGaNの禁制帯の上端よりも低い位置にある。そのため、InNとGaNとを接合すれば、InN中の伝導帯に存在する電子は、エネルギーを失うことなくGaNの欠陥準位に捉えられることが可能と考えられる。結晶欠陥には様々なタイプがあるが、線状の欠陥である転位であれば、電子が転位に沿って移動可能であると考えられる。以上の理論的予測に基づき、本発明者らは、図13に示す構造を考案した。光を当てると、InN量子ドットが光を吸収して光励起キャリアが生成される。量子ドットの径が数十nm以下であれば、フォノンボトルネック効果によって電子のエネルギーは高い状態に保たれる。このようにして高いエネルギー状態に保たれた電子は、ある確率でGaNの欠陥準位に捉えられ、ここに適度な電界が加えられていれば、電子は転位に沿って移動できると考えられる。欠陥準位を介した電子の移動については、「L.Ivanova et. al., Appl.Phys.Lett. Vol.93, p.192110(2008)」(以下において、「非特許文献2」という。)に報告されている。非特許文献2では、GaN試料内の転位に平行な面に対して金属製短針を接近させた際のトンネル電流を測定し、その結果を分析することによって、欠陥準位を介して電子が移動し得ることを証明している。
【0054】
転位には、刃状転位及びらせん転位の2種類がある。GaNの転位に関しては、非特許文献1に報告されている。非特許文献1に報告されている、GaNの刃状転位のバンド図、及び、GaNのらせん転位のバンド図を図14に示す。図14(a)はGaNの刃状転位のバンド図であり、図14(b)はGaNのらせん転位のバンド図である。図14(a)に示すように、GaN中の刃状転位には、欠陥準位が1つか2つしか生じない。そのため、欠陥準位にエネルギーが一致するキャリアだけが選択的に刃状転位の中に入り込み、刃状転位の中に入り込んだキャリアを転位に沿って移動させることが可能になる。それゆえ、InN量子ドット内の電子を、GaNの刃状転位に沿って移動させることによって、電子を量子ドット内に閉じ込めつつ、特定のエネルギーのキャリアのみを取り出すことが可能になるので、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上させやすくなると考えられる。これに対し、図14(b)に示すように、GaN中のらせん転位には、欠陥準位が多数生じる。そのため、InN量子ドット内の電子をGaNのらせん転位に沿って移動させると、電子を量子ドット内に閉じ込める効果が弱まる結果、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上させ難くなる。以上の検討から、本発明者らは、InN量子ドット内の電子をGaNの刃状転位を介して取り出すことにより、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上することが可能になることを知見した(以下において、当該知見を「知見2」という。)なお、公知の技術によって作製したGaNには、108〜1010cm−2の転位が含まれ、その多くは刃状転位である。そのため、公知技術によって作製したGaNの表面にInN量子ドットを形成することにより、InN量子ドットとGaNの刃状転位とを接続した構造を実現することが可能になると考えられる。
【0055】
上述のように、低温で成長させることによって格子欠陥を増大させた下地(GaN)の上にInN量子ドットを作製することにより、InN量子ドットを小粒化することが可能になる。しかしながら、このような方法で生じた格子欠陥には様々なものが含まれ、電気特性に対して有害な格子欠陥も多く含まれると推定される。本発明者らは、鋭意検討の結果、GaNに水素を含有させることによって、水素が格子欠陥のダングリングボンドを不活性化し、電気的特性を向上させる技術(特許第4126812号公報に開示された技術。以下において「先行特許技術」という。)に着目した。しかしながら、この先行特許技術を単に用いると、GaN中の刃状転位が不活性化され、上記知見2のメカニズムが機能しなくなる虞がある。そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、トンネル効果によってキャリアが移動可能な形態とするため、InN量子ドットと直接接触する層(下地を含む)は厚さを薄くして水素を含有させる一方、InN量子ドットと直接接触しない層には水素を含有させないことにより、格子欠陥を不活性化しつつ量子ドットからキャリアを取り出すことが可能になり、量子ドット太陽電池の光電変換効率を向上させることが容易になることを知見した(以下において、当該知見を「知見3」という。)。
【0056】
本発明は、上記知見1〜3に基づいてなされたものである。本発明は、光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子を提供することを、主な要旨とする。
【0057】
以下、図面を参照しつつ、本発明を量子ドット太陽電池に適用した場合について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。以下の説明において、A以上B以下をA〜Bと表記することがある。
【0058】
図1は、本発明の光電変換素子10(以下において、「太陽電池10」ということがある。)の形態を示す断面図である。図1では、一部の符号の記載を省略している。図1に示すように、本発明の太陽電池10は、サファイア基板1と、該サファイア基板1の上面に形成された第5GaN層2と、該第5GaN層2の上面に形成された第4GaN層3と、該第4GaN層3の上面に形成された第3GaN層4と、該第3GaN層4の上面に形成された第1GaN層5と、該第1GaN層5の上面に形成されたInN量子ドット6、6、…を含む層(以下において、「InN量子ドット6含有層」という。)と、該InN量子ドット6含有層の上面に形成された第2GaN層7と、該第2GaN層7の上面に形成された第6GaN層8と、該第6GaN層8の上面に形成された正極9と、正極9側から第4GaN層3へと達する穴11に、第4GaN層3と接触するように形成された負極12と、正極9と接触するように形成されたくし形形状の電極13と、を有している。太陽電池10において、第3GaN層4は、サファイア基板1の温度が800℃付近に維持された環境下で、水素を混入させずにエピタキシャル成長させることによって作製されており、第1GaN層5は、サファイア基板1の温度が360℃〜470℃に維持された環境下で、pドープをしながら水素を混入させてエピタキシャル成長させることによって作製されている。また、InN量子ドット6含有層は、サファイア基板1の温度が350℃〜470℃に維持された環境下でエピタキシャル成長させることによって作製されており、第2GaN層7は、サファイア基板1の温度が360℃〜470℃に維持された環境下で、pドープをしながら水素を混入させてエピタキシャル成長させることにより作製されている。すなわち、InN量子ドット6含有層は、低温でエピタキシャル成長させることにより作製された第1GaN層の上面に、低温環境下で形成されている。また、第1GaN層5及び第2GaN層7には水素が含有されているので、第1GaN層5及び第2GaN層7の格子欠陥は不活性化されている。これに対し、第3GaN層4には水素が積極的に添加されていないので、第3GaN層4の格子欠陥は不活性化されていない。太陽電池10において、第4GaN層3はn+半導体層、第3GaN層4はn−半導体層、第1GaN層5及び第2GaN層7はp−半導体層、第6GaN層8はp+半導体層である。
【0059】
図2は、光電変換素子10の製造工程を説明するフローチャートである。図2に示すように、光電変換素子10は、基板作製工程(S1)、第5GaN層作製工程(S2)、第4GaN層作製工程(S3)、第4工程(S4)、第1工程(S5)、第2工程(S6)、第3工程(S7)、第6GaN層作製工程(S8)、正極作製工程(S9)、穴形成工程(S10)、負極作製工程(S11)、及び、電極作製工程(S12)を経て製造される。
【0060】
基板作製工程S1は、蒸着等の公知の方法により、サファイア基板1を作製する工程とすることができる。当該S1によって作製されるサファイア基板1の厚さは、例えば、0.3〜0.5mmとすることができる。
【0061】
第5GaN層作製工程S2は、上記S1で作製したサファイア基板1の温度を600〜800℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビームとをサファイア基板1の上面に照射し、GaNをエピタキシャル成長させることによって、第5GaN層2を作製する工程とすることができる。S2によって作製される第5GaN層2の厚さは、例えば、1μmとすることができる。
【0062】
第4GaN層作製工程S3は、サファイア基板1の温度を600〜800℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビーム及びシリコンビームとを、上記S2で作製した第5GaN層2の上面に照射し、強くnドープされたGaNをエピタキシャル成長させることによって、第4GaN層3を作製する工程とすることができる。S3によって作製される第4GaN層3の厚さは、十分な電気伝導が得られ、且つ、穴11をエッチングにより容易に形成可能にする等の観点から、500nm〜1000nmとする。また、第4GaN層3のキャリア濃度は、例えば、1019〜1020cm−3とすることができる。ここで、ガリウム分子ビームの強さは、ビームを真空計に曝して得られる値で、6.67〜8.00×10−5Paとすることができる。窒素ビームはプラズマ励起マイクロ波強度270Wのプラズマで活性化することができ、窒素ガス供給量は大気圧1.013hPaで0.7cm3/minとすることができる。また、第4GaN層3のエピタキシャル成長の速度は、例えば、3分間で厚さが50nmとなる速度とすることができる。
【0063】
第4工程S4は、サファイア基板1の温度を600〜800℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビームとを、上記S3で作製した第4GaN層3の上面に照射し、nドープされたGaNをエピタキシャル成長させることによって、第5GaN層4を作製する工程とすることができる。S4によって作製される第3GaN層4の厚さは、十分な電気伝導が得られ、且つ、穴11をエッチングにより容易に形成可能にする等の観点から、50nm〜200nmとする。S4では、第4GaN層3と第3GaN層4との境界でnドープ濃度が急峻に変化するように、第3GaN層4を作製する。nドープ濃度の急峻な変化は、上記S3でシリコンビームを供給していたKセルのシャッターを閉じることによって実現することができる。第3GaN層4のキャリア濃度は、例えば、1016〜1017cm−3とすることができる。GaNは自然に生じる結晶欠陥がドナーの役割をするため、ドープ濃度がゼロであっても、第3GaN層4のキャリア濃度が上記濃度になる場合もある。上記S2で作製した第5GaN層2、上記S3で作製した第4GaN層3、及び、S4で作製した第3GaN層4には、密度が108〜1010cm−2程度の貫通転位が存在し、その多くは刃状転位である。
【0064】
第1工程S5は、サファイア基板1の温度を360℃〜470℃に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビーム及び水素ビームとを、上記S4で作製した第3GaN層4の上面に照射しながら、軽く(キャリア濃度にして1015〜1017cm−3)pドープ(例えば、マグネシウムをドープ)して、pドープされたGaNをエピタキシャル成長させることにより、第3GaN層4の上面に第1GaN層5を作製する工程とすることができる。S5によって作製される第1GaN層5の厚さは、量子ドット6、6、…に存在する電子がトンネル効果によって第1GaN層5を通過可能な形態にする等の観点から、3nm〜20nmとする。速やかに第2工程S6へと移行するために、S5におけるサファイア基板1の温度は第2工程S6におけるサファイア基板1の温度と同じであることが好ましい。InN量子ドットの品質を良好に保つには、サファイア基板1の温度が高い方が好ましく、熱分解温度より150℃以上低い温度では良い結晶を得るのは難しい。InNの熱分解温度は500℃程度であるので、S5ではサファイア基板1の下限温度を360℃程度とする。一方、再現性良くドットを得る観点からはサファイア基板1の温度を低くすることが好ましく、470℃が上限温度であることが実験で確認できている。
【0065】
第2工程S6は、サファイア基板1の温度を350℃〜470℃に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、上記S5で作製した第1GaN層5の上面にインジウム分子ビーム及びプラズマで活性化された窒素ビームを供給することにより、第1GaN層5の上面にSKモードでInN量子ドット6含有層を作製する工程とすることができる。ここで、窒素ビームはプラズマ励起マイクロ波強度300Wのプラズマで活性化することができ、窒素ガス供給量は大気圧1.013hPaで0.7cm3/minとすることができる。また、インジウム分子ビームは窒素ビームの照射後に照射することができる。インジウム分子ビームの強さは、ビームを真空計に曝して得られる値で、1.33×10−5Paとすることができ、インジウム分子ビーム源であるKセルの温度は755℃とすることができ、インジウム分子ビームの照射時間は70秒間とすることができる。InN量子ドットの品質を良好に保つには、サファイア基板1の温度が高い方が好ましく、熱分解温度より150℃以上低い温度では良い結晶を得るのは難しい。InNの熱分解温度は500℃程度であるので、S6ではサファイア基板1の下限温度を350℃程度とする。一方、再現性良くドットを得る観点からはサファイア基板1の温度を低くすることが好ましく、470℃が上限温度であることが実験で確認できている。
【0066】
第3工程S7は、サファイア基板1の温度を360℃〜470℃に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、980℃のKセルで発生させた強さが8.00×10−5Paのガリウム分子ビームと、290℃のKセルで発生させた強さが4.00×10−5Paのマグネシウム分子ビームと、プラズマで活性化された窒素ビーム及び水素ビームとを、上記S6で作製したInN量子ドット6含有層の上面に220秒間に亘って照射することにより、InN量子ドット6含有層の上面に厚さ20nmの第2GaN層7を作製する工程とすることができる。S7によって作製される第2GaN層7の厚さは、上記S6によって作製した量子ドット6、6、…の形状を保護しつつ正孔が移動可能な厚さとする観点から、10nm〜50nmとする。前述のように、ドットは動きまわることで形が変化してしまうため、速やかにS7に移行する必要がある。そのため、S7におけるサファイア基板1の温度はS6と同じにすることが好ましい。
【0067】
第6GaN層作製工程S8は、マグネシウムの混入が行われやすくするため、サファイア基板1の温度を680℃付近に保ちながら、MBE法等の公知の方法で、ガリウム分子ビームとプラズマで活性化された窒素ビーム及び水素ビームとを、上記S7で作製した第2GaN層7の上面に照射しながら、マグネシウムを濃く(キャリア濃度にして1017〜1019cm−3)ドープして、強くpドープされたGaNをエピタキシャル成長させることにより、第2GaN層7の上面に第6GaN層8を作製する工程とすることができる。S8によって作製される第6GaN層8の厚さは、安定して電極と接合するための厚さを確保する等の観点から、10nm〜100nmとする。なお、ここでは第6GaN層8に水素が混入される形態を例示したが、水素が混入されていなくても良い。ただし、ドナーとなってp型化を阻害する欠陥のダングリングを終端させる等の観点から、第6GaN層8にも水素を含有させることが好ましい。
【0068】
正極作製工程S9は、上記S8で作製した第6GaN層8の上面に、蒸着等の公知の方法で、金属等、太陽電池の正極材料として使用可能な公知の導電性材料からなる正極9を作製する工程とすることができる。S9によって作製される正極9は、例えば、ニッケルを10mm、金を20mm蒸着したものとすることができる。
【0069】
穴形成工程S10は、上記S1〜S9によって第5GaN層2〜正極9が順に上面に作製されたサファイア基板1の温度を下げてMBE装置から取り出した後、異方的エッチング等によって、第4GaN層3にまで達する穴11を形成する工程とすることができる。
【0070】
負極作製工程S11は、上記S10によって作製した穴11の第4GaN層3と接触するように、蒸着法等の公知の方法で、太陽電池の負極材料として使用可能な公知の金属からなる負極12を作製する工程とすることができる。S11によって作製される負極12は、例えば、一般によく知られているチタン/アルミニウム/ニッケル/金を数mmずつ積層したものとすることができる。
【0071】
電極作製工程S12は、上記S9によって作製した正極9の上面に、蒸着等の公知の方法で、金属等、太陽電池の電極として使用可能な公知の導電性材料からなる電極13を作製する工程とすることができる。S12によって作製される電極13は、例えば、厚さ50mmの金とすることができる。
【0072】
図3は、太陽電池10の動作形態を説明するバンド図である。図3において、「●」は電子、「○」は正孔を表しており、矢印はキャリアの移動方向を示している。図3に示すように、太陽電池10は、p型半導体層(p−半導体層及びp+半導体層が含まれる)である第1GaN層5、第2GaN層7、及び、第6GaN層8、並びに、n型半導体層(n−半導体層及びn+半導体層が含まれる)である第4GaN層3及び第3GaN層4によって、内部電界が発生している。
【0073】
InN量子ドット6含有層で発生したキャリア、並びに、第1GaN層5及び第2GaN層7からInN量子ドット6含有層へと落ち込んだキャリアは、フォノンボトルネック効果によって高いエネルギーレベルに保たれる。そして、InN量子ドット6含有層に存在する電子(光励起電子も含む)は、厚さが20nm以下である薄い第1GaN層5をトンネル効果によって移動することにより、第3GaN層4の欠陥準位に捉えられる。なお、低温でエピタキシャル成長させることにより作成した第1GaN層5は多くの格子欠陥を含んでおり、多数の格子欠陥が絡み合ったり歪みが大きかったりすることによって、欠陥準位のエネルギーレベルが乱れていることが予想され、電子を移動させることには不向きであるとも考えられる。しかしながら、第1GaN層5に水素を含有させることによって格子欠陥を不活性化させているため、電子が欠陥にトラップされることなく電子を移動させることが可能になる。
【0074】
このようにして第3GaN層4の欠陥準位に捉えられた電子は、pn接合により生じた内部電界によって、第4GaN層3へ向かって移動する。第3GaN層4と第4GaN層3との境界では、図3に示すように、nドープ濃度が急激に変化していることによってバンドが折れ曲がっている。そのため、第3GaN層4の欠陥準位の電子は、トンネル効果によって第4GaN層3の伝導帯へと移動し、次いで負極12へと移動する。ここで、第4GaN層3の欠陥準位は、既に強くnドープされていることによって電子で埋め尽くされており、光励起キャリアである電子がここに落ち込むことはないと考えられる。
【0075】
一方、InN量子ドット6含有層に存在する正孔(光励起正孔も含む)は、第2GaN層7と第6GaN層8とのpドープレベルの違いにより発生する電界等によって、InN量子ドット6含有層から脱出し、第2GaN層7及び第6GaN層8を経て、正極9へと移動する。
【0076】
本発明に関する上記説明では、Inが含有されていない第4GaN層3を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明では、第4GaN層を、強くnドープされたInxGa1−xNによって構成することが好ましく、xを0.5前後の値とすれば、第4GaN層3の伝導帯下端のエネルギーレベルを、第3GaN層4の欠陥準位に近づけることが可能になるため、より好ましい。第4GaN層3の伝導帯下端のエネルギーレベルを、第3GaN層4の欠陥準位に近づけることにより、第4GaN層3のバンドを折り曲げなくても第3GaN層4から第4GaN層3へと電子を移動させることが可能になる。かかる形態とすることにより、第3GaN層4及び第4GaN層3のnドープ濃度の精度に対する制約を低減することが可能になるため、太陽電池の製造が容易になる。
【0077】
また、本発明に関する上記説明では、InN量子ドット6含有層が1層のみ含有されている形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、2層以上のInN量子ドット6含有層がGaN層を挟んで積層された形態とすることも可能である。
【0078】
以上、本発明を量子ドット太陽電池に適用した場合について説明したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、光検出素子等に代表される他の形態の光電変換素子にも適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の光電変換素子は、電気自動車の動力源や太陽光発電システム等に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…基板
2…第5GaN層
3…第4GaN層
4…第3GaN層
5…第1GaN層
6…InN量子ドット
7…第2GaN層
8…第6GaN層
9…正極
10…光電変換素子
11…穴
12…負極
13…電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温で成長させることにより作製した第1窒化ガリウム層と、該第1窒化ガリウム層の表面に形成された窒化インジウム量子ドットと、を有することを特徴とする、光電変換素子。
【請求項2】
前記第1窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記第1窒化ガリウム層及び前記第2窒化ガリウム層に水素が含有されていることを特徴とする、請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第2窒化ガリウム層のドープ濃度が、前記第1窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことを特徴とする、請求項3又は4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記第2窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第1窒化ガリウム層が、第3窒化ガリウム層の表面に配設されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記第3窒化ガリウム層に水素が含有されていないことを特徴とする、請求項7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記第3窒化ガリウム層がn型半導体層であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第1工程と、該第1工程によって形成された前記窒化ガリウム層の表面に窒化インジウム量子ドットを形成する第2工程と、を有することを特徴とする、光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程で形成された前記窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項10に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記第2工程で形成された前記窒化インジウム量子ドットの表面に、低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第3工程、を有することを特徴とする、請求項10又は11に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1工程及び前記第3工程が、水素を添加しながら前記窒化ガリウム層を形成する工程であることを特徴とする、請求項12に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記第3工程で形成された前記窒化ガリウム層のドープ濃度が、前記第1工程で形成された前記窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことを特徴とする、請求項12又は13に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項15】
前記第3工程で形成された前記窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項16】
さらに、前記第1工程で形成されるべき窒化ガリウム層が表面に配設される窒化ガリウム層を形成する第4工程を有することを特徴とする、請求項10〜15のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項17】
前記第4工程が、水素を添加せずに前記窒化ガリウム層を形成する工程であることを特徴とする、請求項16に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項18】
前記第4工程で形成された窒化ガリウム層がn型半導体層であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項1】
低温で成長させることにより作製した第1窒化ガリウム層と、該第1窒化ガリウム層の表面に形成された窒化インジウム量子ドットと、を有することを特徴とする、光電変換素子。
【請求項2】
前記第1窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記窒化インジウム量子ドットの表面に第2窒化ガリウム層が配設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記第1窒化ガリウム層及び前記第2窒化ガリウム層に水素が含有されていることを特徴とする、請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第2窒化ガリウム層のドープ濃度が、前記第1窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことを特徴とする、請求項3又は4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記第2窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第1窒化ガリウム層が、第3窒化ガリウム層の表面に配設されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記第3窒化ガリウム層に水素が含有されていないことを特徴とする、請求項7に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記第3窒化ガリウム層がn型半導体層であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第1工程と、該第1工程によって形成された前記窒化ガリウム層の表面に窒化インジウム量子ドットを形成する第2工程と、を有することを特徴とする、光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程で形成された前記窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項10に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
さらに、前記第2工程で形成された前記窒化インジウム量子ドットの表面に、低温で成長させた窒化ガリウム層を形成する第3工程、を有することを特徴とする、請求項10又は11に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1工程及び前記第3工程が、水素を添加しながら前記窒化ガリウム層を形成する工程であることを特徴とする、請求項12に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記第3工程で形成された前記窒化ガリウム層のドープ濃度が、前記第1工程で形成された前記窒化ガリウム層のドープ濃度よりも高いことを特徴とする、請求項12又は13に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項15】
前記第3工程で形成された前記窒化ガリウム層がp型半導体層であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項16】
さらに、前記第1工程で形成されるべき窒化ガリウム層が表面に配設される窒化ガリウム層を形成する第4工程を有することを特徴とする、請求項10〜15のいずれか1項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項17】
前記第4工程が、水素を添加せずに前記窒化ガリウム層を形成する工程であることを特徴とする、請求項16に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項18】
前記第4工程で形成された窒化ガリウム層がn型半導体層であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の光電変換素子の製造方法。
【図2】
【図12】
【図14】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図12】
【図14】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2011−233810(P2011−233810A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104887(P2010−104887)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】
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