説明

免震システム及び免震方法

【課題】第2の弾性体が引張領域から圧縮領域に入る際の剛性変化による上下応答の励起を緩和する。
【解決手段】
弾性範囲内の圧縮領域において荷重が大きくなると剛性が同じ又は小さくなる特性を有し減衰対象物100を支持減衰対象物200に対して上下方向に相対移動可能に支持する第1弾性体10と、圧縮領域においては引張領域よりも剛性が大きくなる特性を有し減衰対象物100を支持減衰対象物200に対して上下方向に相対移動可能に支持する第2弾性体20と、を備え、第2弾性体20が圧縮力を受けるときは第1弾性体10の剛性が弾性範囲内にあるときの第1弾性体10の剛性の平均値よりも小さくなるように第1弾性体10は減衰対象物100から圧縮力を受け、第2弾性体20が引張力を受けるときは第1弾性体10の剛性が弾性範囲内にあるときの第1弾性体10の剛性の平均値よりも大きくなるように第1弾性体10は減衰対象物100から圧縮力を受けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動が入力される支持構造物と、前記支持構造物上方の制振対象である減衰対象物との間に介在され、前記減衰対象物を支持する免震システム及び免震方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弾性範囲内の圧縮領域において荷重が大きくなると剛性が同じ又は小さくなる特性を有し、支持構造物と減衰対象物との間に配置され、減衰対象物を支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第1の弾性体(例えば、皿バネ)と、圧縮領域においては引張領域よりも剛性が大きくなる特性を有し、支持構造物と減衰対象物との間であって前記第1の弾性体と並列に配置され、支持構造物及び減衰対象物にそれぞれ連結し、減衰対象物を支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第2の弾性体(例えば、積層ゴム)と、を備える免震システムが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−74143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、第2の弾性体の引張領域における剛性が圧縮領域における剛性よりも著しく小さい場合には、第2の弾性体が引張領域から圧縮領域に入る際に、急激な剛性変化により上下応答が励起されるという課題がある。
【0005】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、第2の弾性体が引張領域から圧縮領域に入る際の剛性変化による上下応答の励起を緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1の発明は、振動が入力される支持構造物と、前記支持構造物上方の制振対象である減衰対象物との間に介在され、前記減衰対象物を支持する免震システムであって、弾性範囲内の圧縮領域において荷重が大きくなると剛性が同じ又は小さくなる特性を有し、前記支持構造物と前記減衰対象物との間に配置され、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第1の弾性体と、圧縮領域においては引張領域よりも剛性が大きくなる特性を有し、前記支持構造物と前記減衰対象物との間であって前記第1の弾性体と並列に配置され、前記支持構造物及び前記減衰対象物にそれぞれ連結し、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第2の弾性体と、を備え、前記第2の弾性体が圧縮力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも小さくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受け、前記第2の弾性体が引張力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも大きくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受けることを特徴とする免震システムである。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に記載の免震システムであって、前記第1の弾性体の弾性範囲の下限である弾性限界点は、前記第1の弾性体の高さが前記第1の弾性体の自由高の100%以下であって50%以上の何れかであるときであることを特徴とする免震システムである。
【0008】
第3の発明は、第1又は第2の発明に記載の免震システムであって、前記第1の弾性体は、皿バネを有する皿バネ部であることを特徴とする免震システムである。
【0009】
第4の発明は、第3の発明に記載の免震システムであって、前記皿バネ部は、複数の皿バネが積層してなることを特徴とする免震システムである。
【0010】
第5の発明は、第1から第4の発明の何れかに記載の免震システムであって、前記第2の弾性体は、複数のゴムシートを積み重ねた積層ゴムを有する積層ゴム部であることを特徴とする免震システムである。
【0011】
第6の発明は、第1から第5の発明の何れかに記載の免震システムであって、前記支持構造物と前記減衰対象物との間に配置され、前記減衰対象物が前記支持構造物から受けた水平方向外力を減衰させるダンパーを備えることを特徴とする免震システムである。
【0012】
第7の発明は、第1から第6の発明の何れかに記載の免震システムであって、前記第1の弾性体は、前記減衰対象物又は前記支持構造物に対して前記第1の弾性体を水平方向に自在に移動可能とする水平可動部を備えることを特徴とする免震システムである。
【0013】
第8の発明は、第7の発明に記載の免震システムであって、前記水平可動部は、前記減衰対象物が前記支持構造物から受けた水平方向外力が所定値以下であれば摺動せず、前記減衰対象物が前記支持構造物から受けた水平方向外力が所定値よりも大きければ摺動する摩擦機構を備えることを特徴とする免震システムである。
【0014】
第9の発明は、第7の発明に記載の免震システムであって、前記水平可動部は、転がり機構を備えることを特徴とする免震システムである。
【0015】
第10の発明は、振動が入力される支持構造物と前記支持構造物の上方に位置する制振対象である前記減衰対象物との間に配置され、弾性範囲内の圧縮領域において荷重が大きくなると剛性が同じ又は小さくなる特性を有し、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第1の弾性体と、前記支持構造物と前記減衰対象物との間であって前記第1の弾性体と並列に配置され、圧縮領域においては引張領域よりも剛性が大きくなる特性を有し、前記支持構造物及び前記減衰対象物にそれぞれ連結し、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第2の弾性体と、を備える免震装置を用いた免震方法であって、前記第2の弾性体が圧縮力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも小さくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受け、前記第2の弾性体が引張力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも大きくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受けるように設定することを特徴とする免震方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第2の弾性体が引張領域から圧縮領域に入る際の剛性変化による上下応答の励起を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態である免震システム1の概略構成を示す断面図である。
【図2】皿バネ部10の構成を示す図である。
【図3】皿バネの重ね合わせ方のバリエーションを示す図である。
【図4】積層ゴム部20の構成を示す斜視図である。
【図5】皿バネ部10及び積層ゴム部20のそれぞれについて荷重と変位の関係を示す図である。
【図6】皿バネ部10の皿バネ11と皿バネ11の間に摩擦板17を更に備える免震システム1の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<<免震システム1の全体構成について>>
図1は、本発明の一実施形態である免震システム1の概略構成を示す断面図である。同図に示すように、免震システム1は、皿バネ部10(「第1の弾性体」に相当)、積層ゴム部20(「第2の弾性体」に相当)、ダンパー30を備え、減衰対象物100と支持構造物200の間に介在した構成となっている。
【0019】
図2は、皿バネ部10の構成を示す図である。同図に示すように、皿バネ部10は、皿バネ11、上部支持部材12、心棒13、下部支持部材14、摩擦材15、滑り板16を備える。
【0020】
皿バネ11は、中央部に円形状の貫通孔を有し、また外縁部も円形状であって、貫通孔から外縁部にかけては円錐状に広がる形状を有する弾性体である。皿バネ11が押圧力を受けると、円錐状の外縁部が広がる方向に変形し、逆に押圧力が弱まると外縁部が閉じる方向に変形する。
【0021】
皿バネ部10は、同じ種類の皿バネを複数枚重ね合わせて備えてもよい。図3は、皿バネの重ね合わせ方のバリエーションを示す図である。同図に示すように、重ね合わせ方には、並列、直列、並列と直列の組合せがある。並列とは、皿バネの円錐状に広がる方向が同じとなるような重ね合わせ方である。並列に重ね合わせると、剛性が枚数倍になる。直列とは、皿バネの円錐状に広がる方向が互い違いになるような重ね合わせ方である。直列に重ね合わせると、たわみが枚数倍になる。並列と直列を組み合わせて皿バネを重ね合わせることにより、同じ種類の皿バネから様々な剛性及びたわみを有する皿バネ部10を構成することができる。図2においては、3枚並列・直列2段の重ね合せを用いているが、免震システム1の設計条件に基づいて、最も適切な重ね合せを選択する。
【0022】
なお、皿バネ11の弾性限界点は、皿バネ11の自由高hの50%となる点とすると、皿バネをn枚並列・直列m段で重ね合わせた場合の弾性限界点は、高さが0.5×h×mとなる点となる。
【0023】
上部支持部材12は、減衰対象物100の下面に連結する。上部支持部材12の中央部には、円形上の凹部12aが設けられる。
【0024】
心棒13は、円柱形状を有し、その外径は、皿バネ11の中央部の貫通孔の変形時最小内径(最大圧縮変位時における内径)よりも僅かに小さく、また上部支持部材12の中央部の凹部12aの内径よりも僅かに小さい。心棒13には、下側から順に、3枚の皿バネ11が下向きに開いた方向に並列に重ね合わせて挿入され、次いで3枚の皿バネ11が上向きに開いた方向に並列に重ね合わせて挿入される。心棒13は、積層配置された皿バネ11を、上下方向には変形可能にしつつ、水平方向の位置については規制する。心棒14の上部先端は、上部支持部材12の中央部の凹部12aに入り込んでいる。
【0025】
下部支持部材14は、円盤形状であり、その下面には摩擦材15が取り付けられている。摩擦材15は、フェノール樹脂、メラニン樹脂、フラン樹脂などの熱硬化型樹脂を結合材として、アラミド繊維、ガラス繊維、カーボンファイバーなどの繊維材料と、カシューダストとなどの摩擦調整材と、硫酸バリウムなどの充填剤とからなる複合摩擦材料で形成される。下部支持部材14の上面には、心棒13が一体的に立設される。
【0026】
滑り板16は、例えばステンレス板であり、支持構造物200の上面に固着され、下部支持部材14との間に摩擦材15を介在させつつ、下部支持部材14に押圧される。
【0027】
図4は、積層ゴム部20の構成を示す斜視図である。同図に示すように、積層ゴム20は、上端板20a及び下端板20bと、肉厚が5mmから30mmの薄いゴムシートと鋼板を交互に積み重ねた積層ゴムとを備える。上端板20aは減衰対象物100の下面に連結し、下端板20bは支持構造物200の上面に連結する。積層ゴム部20は、皿バネ部10とともに減衰対象物100を支持する。
【0028】
ダンパー30は、例えば油圧ダンパーであって、ピストンロッドとシリンダーのうち、一方が減衰対象物100の側壁に連結され、他方が支持構造物200の垂直擁壁に連結される。すなわち、複数のダンパー30は、水平面の縦方向及び横方向の二次元的に配置され、減衰対象物100と支持構造物200との水平方向の相対移動を減衰させる。
【0029】
図5は、皿バネ部10及び積層ゴム部20のそれぞれについて荷重と変位の関係を示す図である。図5Aに示すように、積層ゴム部20は、圧縮領域(符号a2で示す)において大きい剛性を示す。一方で、引張領域(符号a3で示す)においては、剛性は著しく低下する。すなわち、引張領域と圧縮領域の境界である原点a0を通過するときには、積層ゴム部20の剛性は大きく変化する。
【0030】
また、図5Bに示すように、皿バネ部10は、圧縮領域において荷重がかかると初期には大きな剛性を示すものの、荷重が増加するとともに剛性は低下する。具体的には、図5Bにおいて、荷重がかかっていない状態の原点b4から荷重が増加すると、符号b3で示すようにグラフの傾きは大きい(すなわち、剛性が大きい)。しかし、荷重が増大するに従って、符号b2で示すようにグラフの傾きが小さくなり(すなわち、剛性が小さくなり)、弾性限界点eに至る。ここで、原点b4から弾性限界点eまでの間の皿バネ部10の剛性の平均値は、原点b4と弾性限界点eとを結ぶ直線cの傾きで示すことができるが、荷重が小さい状態(符号b3で示す圧縮領域)では、大きな傾きで示されるように剛性は大きく、荷重が大きい状態(符号b2で示す圧縮領域)では、小さな傾きで示されるように剛性は小さい。一方で、引張領域においては、皿バネ部10は剛性を有さない。
【0031】
なお、「弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値」は、上述の通り原点b4と弾性限界点eとの間の剛性の平均値として求めたが、第1の弾性体の高さが自由高hとして0.5hからhの間での剛性の平均値としてもよい。これは経験的に高さが0.5hとなるまで第1の弾性体が圧縮されると弾性限界に近づくことから、第1の弾性体の高さが0.5hを剛性の平均値を求める際の区切りとすることができる。
【0032】
以上の構成により、本発明の免震システム1は、地震等による上下方向の外力を受けると、皿バネ部10と積層ゴム部20との上下方向の撓みによって、その外力を吸収する。また、水平方向の外力を受けると、皿バネ部10とダンパー30との減衰力により、その外力を吸収する。
【0033】
<<免震システム1の作用について>>
次に、減衰対象物100が上下方向の外力を受けた場合及び受けていない場合のそれぞれにおける免震システム1の作用について説明する。
【0034】
<減衰対象物100が上下方向の外力を受けていない状態>
まず、減衰対象物100が外力を受けていない状態(以下、「静止状態」という)において、皿バネ部10及び積層ゴム部20は、減衰対象物100の自重による荷重Fを負担する。ここで、積層ゴム部20は、減衰対象物100の荷重Fの一部である荷重Fa1(Fa1<F)を負担し、圧縮状態にある。このとき、積層ゴム部20の状態は、図5Aにおいては符号a1で示される。また、皿バネ部10は、同様に、減衰対象物100による荷重Fの一部を負担するが、剛性が小さい状態となるように荷重Fb1を(Fb1<FかつFa1+Fb1=F)を負担させる。このとき、皿バネ部10の状態は、図4Bにおいては符号b1で示される。
【0035】
<減衰対象物100が下向きの外力Fを受けた状態>
減衰対象物100が下向きの外力Fを受けると、皿バネ部10及び積層ゴム部20は、合わせて荷重(F+F)を負担する。このとき、積層ゴム部20は、図4Aの符号a5に示されるように、荷重Fa5(Fa5>Fa1)を負担する。また、皿バネ部10は、図5Bの符号b5に示されるように、荷重Fb5を(Fb5>Fb1かつFa5+Fb5=F+F)を負担する。
静止状態において皿バネ部10よりも積層ゴム部20の方が剛性は大きいので、減衰対象物100が静止状態から下向きの外力Fを受けると、外力Fによる荷重の増加分については、積層ゴム部20と皿バネ部10の負担割合は、静止状態のときに比べると積層ゴム部20の負担割合が大きくなる。
【0036】
<減衰対象物100が上向きの外力Fを受けた状態>
減衰対象物100が上向きの外力Fを受けて積層ゴム部20に引張力Fa6が生じた状態(以下、「引張状態」という)では、皿バネ部10は、減衰対象物100の荷重(F−F)に加えて積層ゴム部20の引張力Fa6(Fa6>0)を負担する。すなわち、積層ゴム部20は、図5Aの符号a6に示されるように、引張力Fa6が生じ、皿バネ部10は、図5Bの符号b6に示されるように、荷重Fb6を(Fb6<Fb1かつFb6−Fa6=F−F)を負担する。
つまり、引張状態では、皿バネ部10が負担する荷重Fb6は静止状態と比べて小さいので、図5Bの領域b3で示すように皿バネ部10は大きな剛性で減衰対象物100の荷重を負担することができる。
【0037】
<積層ゴム部20が「引張状態」から「圧縮状態」へ変化する場合>
引張状態から、減衰対象物100への上向きの外力Fがなくなる(又は減少する)等により積層ゴム部20の引張力がなくなり圧縮力が働くようになる状態(以下、「圧縮状態」という)へ変化する場合について説明する。引張状態では、皿バネ部10が大きな剛性で減衰対象物100を支持する。
【0038】
そして、引張状態から圧縮状態へ変化する点(以下、「中立状態」という)、すなわち図5Aにおいては符号a0の点、図5Bにおいては符号b0の点にそれぞれあるときでは、積層ゴム部20は荷重を受けていない。一方で、皿バネ部10が、減衰対象物100の全ての荷重を負担し、大きな剛性で減衰対象物100を支持する。
【0039】
さらに、中立状態から圧縮状態となると、皿バネ部10に加えて、積層ゴム部20も少しずつ減衰対象物100の荷重を負担しはじめる。このときの皿バネ部10の剛性は、符号b0から更に変位した点bΔの傾きSbΔで示され、積層ゴム部20の剛性は、符号aΔの傾きSaΔで示される。ここで、傾きSbΔと傾きSaΔとが同一値であれば、中立状態から圧縮状態への変化時に剛性に変化はないことから、上下応答が励起されない。また、傾きSbΔと傾きSaΔとが同一値でなくとも、積層ゴム部20は少しずつ荷重の負担を増加することから、免震システム1全体としての剛性は少しずつの変化にとどまり、よって中立状態から圧縮状態への変化時の上下応答はほとんど励起されない。
【0040】
<減衰対象物100が水平方向の外力を受けた場合>
減衰対象物100が地震等の所定の値FH0よりも大きな外力FHA(FHA>FH0)を水平方向に受けた場合、免震システム1は、ダンパー30に加えて皿バネ部10が水平方向に摺動して生じる減衰力により外力を減衰させる。すなわち、皿バネ部10は、心棒14によって皿バネ11と上部支持部材12と下部支持部材14と摩擦材15とは水平方向に相対移動不可となっているので、減衰対象物100が水平方向へ移動すると、皿バネ11と上部支持部材12と下部支持部材14と摩擦材15とはともに水平移動する。一方で、滑り板16は支持構造物200側に固着されている。よって、減衰対象物100が地震等の所定の値よりも大きな外力を水平方向に受けた場合、摩擦材15と滑り板16の間で摺動する。また、この場合、免震システム1のダンパー30が作動し、ダンパー30の減衰力により外力を減衰させる。
【0041】
一方で、減衰対象物100が風荷重等の所定の値FH0以下の外力FHB(FHB≦FH0)を水平方向に受けた場合、免震システム1のダンパー30が作動し、ダンパー30の減衰力により外力を減衰させる。このとき、皿バネ部10は水平方向に摺動せず、減衰力も生じない。
【0042】
以上、本実施形態の免震システム1によれば、積層ゴム部20が引張領域から圧縮領域へ変化する際に生じる上下応答の励起を緩和することができる。
【0043】
すなわち、本実施形態の免震システム1によれば、減衰対象物100を主として積層ゴム部20によって支持する場合には、引張状態又は中立状態から圧縮状態に変化すると、積層ゴム部20の剛性は符号a6の点の傾きSa6から符号aΔの点の傾きSaΔへと変化することから、この剛性の変化の不連続点である原点a0(中立状態)を通過する際に、皿バネ部10が減衰対象物100を支持し、積層ゴム部20の荷重負担は少しずつ増加するので、免震システム1全体としての剛性の変化は小さく、したがって上下応答の励起はほとんどない。
【0044】
また、風荷重等の減衰対象物100が所定の値H0以下の水平方向の外力を受けると、減衰対象物100と支持構造物200との間に設けられたダンパー30の減衰力によって、免震することができる。
【0045】
加えて、地震等の減衰対象物100が所定の値H0よりも大きい水平方向の外力を受けると、皿バネ部10が備える下部支持部材14と滑り板16が摺動する相対移動する。したがって、所定の値H0以下の水平方向の外力を受けた場合に比べて、所定の値H0よりも大きな外力を受けた場合には、皿バネ部10及びダンパー30によって、免震システム1はより大きな減衰力を発揮することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0047】
例えば、図6は、皿バネ部10の皿バネ11と皿バネ11の間に摩擦板17を更に備える免震システム1の構成を示す図である。同図に示すように、免震システム1は、皿バネ部10に摩擦板17を更に備えていてもよい。
【0048】
摩擦板17は、皿バネ11の外縁部において接触している。そして、皿バネ11が押圧力を受けてその外縁部が広がる方向に変形すると、摩擦板17に接している皿バネ11の外縁部が摩擦板17の表面を摺動することによって摩擦力を生じる。同様に、皿バネ11が受ける押圧力が弱まりその外縁部が閉じる方向に変形すると、摩擦板17に接している皿バネ11の外縁部が摩擦板17の表面を摺動することによって摩擦力を生じる。この摩擦力が、震動による皿バネ11の圧縮及び反発を抑制する。
【0049】
また、例えば、下部支持部材14の下面には、摩擦材15に代えてローラー(不図示)が設けられていても良い。ローラーが設けられた場合には、水平方向の減衰機能は、ダンパー30が専ら担うこととなる。
【符号の説明】
【0050】
1 免震システム
10 皿バネ部
11 皿バネ
12 上部支持部材
13 心棒
14 下部支持部材
15 摩擦材
16 滑り板
17 摩擦板
20 積層ゴム部
30 ダンパー
100 減衰対象物
200 支持構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動が入力される支持構造物と、前記支持構造物上方の制振対象である減衰対象物との間に介在され、前記減衰対象物を支持する免震システムであって、
弾性範囲内の圧縮領域において荷重が大きくなると剛性が同じ又は小さくなる特性を有し、前記支持構造物と前記減衰対象物との間に配置され、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第1の弾性体と、
圧縮領域においては引張領域よりも剛性が大きくなる特性を有し、前記支持構造物と前記減衰対象物との間であって前記第1の弾性体と並列に配置され、前記支持構造物及び前記減衰対象物にそれぞれ連結し、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第2の弾性体と、
を備え、
前記第2の弾性体が圧縮力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも小さくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受け、
前記第2の弾性体が引張力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも大きくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受ける
ことを特徴とする免震システム。
【請求項2】
請求項1に記載の免震システムであって、
前記第1の弾性体の弾性範囲の下限である弾性限界点は、前記第1の弾性体の高さが前記第1の弾性体の自由高の100%以下であって50%以上の何れかであるときであることを特徴とする免震システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の免震システムであって、
前記第1の弾性体は、皿バネを有する皿バネ部であることを特徴とする免震システム。
【請求項4】
請求項3に記載の免震システムであって、
前記皿バネ部は、複数の皿バネが積層してなることを特徴とする免震システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の免震システムであって、
前記第2の弾性体は、複数のゴムシートを積み重ねた積層ゴムを有する積層ゴム部であることを特徴とする免震システム。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の免震システムであって、
前記支持構造物と前記減衰対象物との間に配置され、前記減衰対象物が前記支持構造物から受けた水平方向外力を減衰させるダンパーを備えることを特徴とする免震システム。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の免震システムであって、
前記第1の弾性体は、前記減衰対象物又は前記支持構造物に対して前記第1の弾性体を水平方向に自在に移動可能とする水平可動部を備えることを特徴とする免震システム。
【請求項8】
請求項7に記載の免震システムであって、
前記水平可動部は、前記減衰対象物が前記支持構造物から受けた水平方向外力が所定値以下であれば摺動せず、前記減衰対象物が前記支持構造物から受けた水平方向外力が所定値よりも大きければ摺動する摩擦機構を備えることを特徴とする免震システム。
【請求項9】
請求項7に記載の免震システムであって、
前記水平可動部は、転がり機構を備えることを特徴とする免震システム。
【請求項10】
振動が入力される支持構造物と前記支持構造物の上方に位置する制振対象である前記減衰対象物との間に配置され、弾性範囲内の圧縮領域において荷重が大きくなると剛性が同じ又は小さくなる特性を有し、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第1の弾性体と、
前記支持構造物と前記減衰対象物との間であって前記第1の弾性体と並列に配置され、圧縮領域においては引張領域よりも剛性が大きくなる特性を有し、前記支持構造物及び前記減衰対象物にそれぞれ連結し、前記減衰対象物を前記支持構造物に対して上下方向に相対移動可能に支持する第2の弾性体と、
を備える免震装置を用いた免震方法であって、
前記第2の弾性体が圧縮力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも小さくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受け、
前記第2の弾性体が引張力を受けるときは、前記第1の弾性体の剛性が、弾性範囲内にあるときの前記第1の弾性体の剛性の平均値よりも大きくなるように、前記第1の弾性体は前記減衰対象物から圧縮力を受ける
ように設定することを特徴とする免震方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−281395(P2010−281395A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135451(P2009−135451)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(307041573)三菱FBRシステムズ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】