説明

六方晶系チタン酸バリウム粉末、その製造方法、誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】高い比誘電率を示し、絶縁抵抗に優れ、十分な信頼性が確保されたコンデンサ等の電子部品を製造するのに好適な誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】一般式(Ba1−αα(Ti1−βMnβで表され、結晶構造が六方晶であって、Mの12配位時の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して±20%以内であり、A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0.003≦α≦0.05、0.03≦β≦0.2の関係を満足する六方晶系チタン酸バリウムを主成分とし、該主成分100モルに対し、副成分としてMgO等のアルカリ土類酸化物と、Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alと、希土類元素酸化物と、SiOを含むガラス成分とを特定量含んでなる誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶系チタン酸バリウム粉末、その製造方法および該六方晶系チタン酸バリウムを主成分として含む誘電体磁器組成物に関し、さらに詳しくは、所望の特性(たとえば非常に高い比誘電率)を示すと共に、十分な信頼性が確保されたセラミックコンデンサ等の電子部品の誘電体層を製造するのに好適な誘電体磁器組成物に関する。また本発明は、該誘電体磁器組成物からなる誘電体層を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器および電子機器の小型化かつ高性能化が急速に進み、このような機器に使用される電子部品についても、信頼性を十分に確保しつつ、諸特性(比誘電率、温度特性等)を向上させることが求められている。これは、電子部品の一例であるセラミックコンデンサについても例外ではない。
【0003】
このようなコンデンサの誘電体材料、特に比誘電率の高い誘電体材料としては、正方晶のチタン酸バリウムを主体とし、部分的に立方晶を含む正方晶系チタン酸バリウムが使用されていた。ところで、近年容量の向上のため、誘電体層の薄層化が検討されている。誘電体層の薄層化を図るためには、誘電体粒子の粒子径が小さいほど好ましい。しかし、上記のような正方晶系チタン酸バリウム粉末を微粒化すると、比誘電率が低下してしまうという問題があった。
【0004】
比誘電率の高い材料として、六方晶チタン酸バリウムが検討されている。六方晶チタン酸バリウムは、本来的には正方晶系のチタン酸バリウムよりは比誘電率が低いが、特許文献1には、六方晶チタン酸バリウム単結晶に酸素欠損を導入することで、比誘電率が著しく向上することが示唆されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1の教示に基づき本発明者らが検討を進めたところ、酸素欠損の導入により比誘電率は向上するものの、絶縁抵抗が低下することが見出された。このため、酸素欠損の導入により比誘電率が向上された六方晶チタン酸バリウムを用いた場合には、素子寿命等が損なわれるおそれがある。
【0006】
また、チタン酸バリウムの結晶構造において、六方晶構造は準安定相であり、通常1460℃以上においてのみ存在することができる。そのため、室温において六方晶チタン酸バリウムを得るには、1460℃以上の高温から急冷する必要がある。
【0007】
この場合、高温からの急冷により、得られる六方晶チタン酸バリウムの比表面積は1m/g以下となってしまい、粗い粉末しか得られない。このような粗い粉末を用いて、薄層化された誘電体層を有する電子部品を製造すると、誘電体層の薄層化に対応できず、十分な信頼性が確保されないという問題がある。
【0008】
ところで、六方晶チタン酸バリウムを製造する方法としては、たとえば、非特許文献1には、出発原料としてBaCO、TiOおよびMnを用いて、これを熱処理することが開示されている。このようにすることで、六方晶への変態温度を下げることができるため、1460℃以下の温度での熱処理によりMnが固溶した六方晶チタン酸バリウムを得ている。
【0009】
しかしながら、非特許文献1において得られる六方晶チタン酸バリウムの比表面積は1.6m/g程度であり、この六方晶チタン酸バリウム粉末を用いても、薄層化が進む電子部品の誘電体層への適用は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3941871号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wang Sea-Fue、他4名、「六方晶Ba(Ti1−xMnx)O3セラミックスの性質:焼結温度およびMn量の影響(Properties of Hexagonal Ba(Ti1-xMnx)O3 Ceramics: Effects of Sintering Temperature and Mn Content)」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス(Japanese Journal of Applied Physics)、2007年、Vol.46, No.5A, 2978-2983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、六方晶チタン酸バリウムを主相とし、極めて高い比誘電率を示すと共に、絶縁抵抗にも優れ、十分な信頼性が確保されたセラミックコンデンサ等の電子部品の誘電体層を製造するのに好適な六方晶系チタン酸バリウム粉末および誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討したところ、誘電磁器組成物の主相を、特定の組成を有する六方晶系チタン酸バリウムにより構成することで、誘電体層の比誘電率が著しく向上し、また絶縁抵抗にも優れ、十分な信頼性が確保されたセラミックコンデンサ等の電子部品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末は、
一般式(Ba1−αα(Ti1−βMnβで表され、結晶構造が六方晶であるチタン酸バリウムを主成分として含むチタン酸バリウム粉末であって、
前記Mの12配位時の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0.003≦α≦0.05、0.03≦β≦0.2の関係を満足することを特徴とする。
【0015】
本発明に係るチタン酸バリウム粉末においては、六方晶構造を有するチタン酸バリウム(六方晶チタン酸バリウム)粉末が主成分として含まれている。具体的には、本発明に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末100質量%に対して、六方晶チタン酸バリウムが50質量%以上含有されていればよい。
【0016】
チタン酸バリウムの結晶構造において、六方晶構造は高温安定相であり、1460℃以上でしか存在し得ない。そのため、室温において六方晶構造を維持するには、1460℃以上から室温付近まで急冷する必要がある。このような広い温度範囲において急冷すると、急冷後に得られる六方晶チタン酸バリウム粉末は粗くなってしまい、その比表面積はたとえば1m/g以下となってしまう。
【0017】
粉末の比表面積と平均粒子径とは反比例の関係にあり、この比表面積を粉末の平均粒子径に換算すると、たとえば1μm以上となる。一方、電子部品としての信頼性を十分に確保するためには、誘電体層の層間に2つ以上の誘電体粒子が配置されていることが好ましい。したがって、比表面積が小さい粉末を用いた場合、誘電体層の薄層化が困難となる。
【0018】
ところが、上記のように、結晶構造において、Tiが占める位置(Bサイト)をMnにより特定の割合で置換することで、六方晶構造への変態温度を下げることができる。すなわち、1460℃よりも低い温度であっても、六方晶構造が維持された状態とすることができ、その結果、比較的に比表面積値を大きくすることができる。
【0019】
一方、Baが占める位置(Aサイト)は、元素Mにより特定の割合で置換されている。このような元素が含有されていることで、所望の特性を有する粉末を得ることができる。たとえば、元素Mとして、La等の希土類元素が含有されている場合、非常に高い比誘電率(たとえば10000以上)を示すことができる。
【0020】
これに加え、本発明においては、結晶構造において、Baが占める位置(Aサイト)に存在する元素と、Tiが占める位置(Bサイト)に存在する元素と、の存在比(A/B)の範囲を上記のようにしている。
【0021】
A/Bを上記の範囲に制御することで、チタン酸バリウム粒子の粒成長が抑制される。その結果、得られる六方晶チタン酸バリウム粉末の比表面積をさらに大きくすることができる。具体的には、比表面積が2m/g以上である六方晶チタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0022】
好ましくは、前記αと前記βとの比(α/β)が、(α/β)≦0.40の関係を満足する。元素MがAサイトを置換した量(Aサイト置換量)と、MnがBサイトを置換した量(Bサイト置換量)と、の比を示すα/βをこのような範囲とすることで、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0023】
また、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
一般式(Ba1−αα(Ti1−βMnβで表され、結晶構造が六方晶であって、前記Mの12配位時の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して±20%以内であり、前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0.003≦α≦0.05、0.03≦β≦0.2の関係を満足する六方晶系チタン酸バリウムを主成分とし、該主成分100モルに対し、副成分として、
MgO、CaOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ土類酸化物を、各酸化物換算で1〜3モル、かつ該アルカリ土類酸化物の合計量を9モル以下、
Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alとを、それぞれ、各金属元素換算で0.1〜1モル、
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、HoおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物を、希土類元素換算の合計で0.1〜1モル、および
SiOを含むガラス成分を、SiO換算で0.1〜1モル含む。
【0024】
また、本発明に係る電子部品は、上記に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、内部電極層を有する。
【0025】
また、本発明に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末を製造する方法は、
上記のいずれかに記載の六方晶系チタン酸バリウム粉末を製造する方法であって、
チタン酸バリウムの原料、元素Mの原料およびMnの原料を準備する工程と、
前記チタン酸バリウムの原料、前記Mの原料および前記Mnの原料を熱処理する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、著しく高い比誘電率を示すと共に、絶縁抵抗にも優れ、十分な信頼性が確保されたセラミックコンデンサ等の電子部品の誘電体層を製造するのに好適な六方晶系チタン酸バリウム粉末および誘電体磁器組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサである。
【図2】図2(A)〜(C)は、本発明の実施例および比較例に係る試料のX線回折チャートである。
【図3】図3は、本発明の実施例および比較例に係る試料の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を、以下に示す実施形態に基づき説明する。
【0029】
<積層セラミックコンデンサ>
図1に示すように、電子部品の代表例である積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0030】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0031】
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を含有する。 本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、六方晶系チタン酸バリウムを主相とし、特定の副成分を含む。なお、下記において、各種酸化物の組成式が示されるが、酸素(O)量は、化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0032】
まず、本実施形態に係る誘電体磁器組成物において主成分であって、主相を構成する六方晶系チタン酸バリウムについて説明する。六方晶系チタン酸バリウムからなる主相は、原料として下記の六方晶系チタン酸バリウム粉末を用い、これを副成分とともに焼成することで形成される。
【0033】
<六方晶系チタン酸バリウム粉末>
本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末は、六方晶構造を有するチタン酸バリウム(六方晶チタン酸バリウム)粉末を主成分としている。具体的には、本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末100質量%に対して、50質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上含有されている。
【0034】
なお、本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末には、六方晶チタン酸バリウム以外に、正方晶構造あるいは立方晶構造を有するチタン酸バリウムが含まれていてもよい。
【0035】
本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末は、一般式を用いて、(Ba1−αα(Ti1−βMnβと表すことができる。
【0036】
上記式中のαは、Baに対する元素Mの置換割合(六方晶系チタン酸バリウム粉末中のMの含有量)を示しており、0.003≦α≦0.05、好ましくは0.008≦α≦0.03、より好ましくは0.01≦α≦0.03である。Mの含有量が少なすぎると、所望の特性が得られない傾向にある。逆に、Mの含有量が多すぎると、六方晶構造への変態温度が高くなってしまい、比表面積の大きい粉末が得られない傾向にある。
【0037】
Baは六方晶構造においてBa2+としてAサイト位置を占めているが、本実施形態では、Mが上記の範囲でBaを置換し、Aサイト位置に存在している。すなわち、元素Mはチタン酸バリウムに固溶している。MがAサイト位置に存在することで、所望の特性を得ることができる。
【0038】
元素Mは、12配位時のBa2+の有効イオン半径(1.61pm)に対して、±20%以内の有効イオン半径(12配位時)を有する。Mがこのような有効イオン半径を有することで、Baを容易に置換することができる。
【0039】
具体的には、元素Mとして、Dy、Gd、Ho、Y、Er、Yb、La、CeおよびBiから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。元素Mは所望の特性に応じて選べばよい。具体的には、非常に高い比誘電率を発現させるには、La、Ce、Biから少なくとも1つを選ぶのが好ましい。
【0040】
上記式中のβは、Tiに対するMnの置換割合(六方晶系チタン酸バリウム粉末中のMnの含有量)を示しており、0.03≦β≦0.20、好ましくは0.05≦β≦0.15、より好ましくは0.08≦β≦0.12である。Mnの含有量が少なすぎても多すぎても、六方晶構造への変態温度が高くなってしまい、比表面積の大きい粉末が得られない傾向にある。
【0041】
Tiは六方晶構造においてTi4+としてBサイト位置を占めているが、本実施形態では、Mnが上記の範囲でTiを置換し、Bサイト位置に存在している。すなわち、Mnはチタン酸バリウムに固溶している。MnがBサイト位置に存在することで、チタン酸バリウムにおいて正方晶・立方晶構造から六方晶構造への変態温度を下げることができる。
【0042】
上記式中のAとBとは、それぞれ、Aサイトを占める元素(BaおよびM)の割合と、Bサイトを占める元素(TiおよびMn)の割合とを示している。本実施形態では、0.900≦A/B≦1.040、好ましくは0.958≦A/B≦1.036である。
【0043】
A/Bが小さすぎると、チタン酸バリウム生成時における反応性が高くなり、温度に対して粒成長しやすくなる。そのため、細かい粒子が得られにくく、所望の比表面積が得られない傾向にある。逆に、A/Bが大きすぎると、Baが占める割合が多くなるため、Baリッチなオルソチタン酸バリウム(BaTiO)が異相として生成する傾向にあるため好ましくない。
【0044】
本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末は、上述の構成を有し、後述する方法により製造されることで、製造直後においてBET法により測定される比表面積は2m/g以上、好ましくは3m/g以上、より好ましくは4m/g以上となる。
【0045】
その結果、たとえば積層セラミック電子部品の誘電体層を薄層化した場合(たとえば層間厚み1μm)であっても、層間に配置されるチタン酸バリウム粒子の数を少なくとも2個以上とすることができ、十分な信頼性(高温負荷寿命)を確保することができる。
【0046】
なお、得られる粉末を、ボールミル等を用いて粉砕することで、比表面積を大きくすることはできるが、この場合、粒度分布がブロードになってしまう。その結果、粒子径にバラツキが生じ、信頼性にもバラツキが生じるため好ましくない。また、粉砕時に粉末に加わる衝撃(エネルギー)等が悪影響を与えるため好ましくない。したがって、六方晶チタン酸バリウムが生成した状態において、その比表面積が大きいことが好ましい。
【0047】
なお、本明細書に記載の有効イオン半径は、文献「R.D.Shannon,Acta Crystallogr.,A32,751(1976)」に基づく値である。
【0048】
<六方晶系チタン酸バリウム粉末の製造方法>
次に、本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末を製造する方法について説明する。
【0049】
まず、チタン酸バリウムの原料、元素Mの原料およびMnの原料を準備する。
【0050】
チタン酸バリウムの原料としては、チタン酸バリウム(BaTiO)や、チタン酸バリウムを構成する酸化物(BaO、TiO)やその混合物を用いることができる。さらに、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。具体的には、チタン酸バリウムの原料として、BaTiOを用いてもよいし、BaCOおよびTiOを用いてもよい。本実施形態では、BaCOおよびTiOを用いることが好ましい。
【0051】
なお、チタン酸バリウムの原料としてBaTiOを用いる場合、正方晶構造を有するチタン酸バリウムであってもよいし、立方晶構造を有するチタン酸バリウムであってもよいし、六方晶構造を有するチタン酸バリウムであってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
【0052】
上記原料の比表面積は、好ましくは5〜100m/g、より好ましくは10〜50m/gである。比表面積を測定する方法としては、特に制限されないが、たとえばBET法などが挙げられる。
【0053】
また、元素Mの原料としては、元素Mの化合物、たとえば、酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。Mnの原料も、元素Mの原料と同様にすればよい。
【0054】
これらの原料の比表面積は、好ましくは5〜50m/g、より好ましくは10〜20m/gである。
【0055】
次に準備した原料を、所定の組成比となるように秤量して混合、必要に応じて粉砕し、原料混合物を得る。混合・粉砕する方法としては、たとえば、水等の溶媒とともに原料をボールミル等の公知の粉砕容器に投入し、混合・粉砕する湿式法が挙げられる。また、乾式ミキサーなどを用いて行う乾式法により、混合・粉砕してもよい。このとき、投入した原料の分散性を向上させるために、分散剤を添加するのが好ましい。分散剤としては公知のものを用いればよい。
【0056】
次に、得られた原料混合物を、必要に応じて乾燥した後、熱処理を行う。熱処理における昇温速度は、好ましくは50〜900℃/時間である。また、熱処理における保持温度は、六方晶構造への変態温度よりも高くすればよい。本実施形態では、六方晶構造への変態温度は1460℃よりも低くなっており、しかもA/B、Aサイト置換量(α)およびBサイト置換量(β)等により変化するため、保持温度もそれに応じて変化させればよい。粉末の比表面積を大きくするために、たとえば1000〜1300℃とすることが好ましい。保持時間は、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは2〜4時間である。
【0057】
このような熱処理を行うことで、MnがBaTiOに固溶し、Bサイトに位置するTiをMnで置換することができる。その結果、六方晶構造への変態温度を熱処理時の保持温度よりも低くできるため、六方晶系チタン酸バリウムが容易に生成する。また、元素MはBaTiOに固溶し、Aサイト位置のBaを置換することで、所望の特性を発現させる。
【0058】
なお、保持温度が低すぎると、反応しきれない原料(たとえばBaCOなど)が異相として生成する傾向にある。
【0059】
そして、熱処理での保持時間を経過した後、六方晶構造を維持するために、熱処理時の保持温度から室温まで冷却する。具体的には、冷却速度を好ましくは200℃/時間以上とする。
【0060】
このようにすることで、室温においても六方晶構造が維持された六方晶チタン酸バリウムを主成分として含む六方晶系チタン酸バリウム粉末が得られる。得られる粉末が、六方晶系チタン酸バリウム粉末であるか否かを判断する方法は特に制限されないが、本実施形態では、X線回折測定により判断する。
【0061】
まず、X線回折測定により得られるX線回折チャートより、チタン酸バリウム(六方晶、立方晶、正方晶)に由来するピーク以外のピークが存在するか否かを判断する。このようなピークが存在していると、得られる粉末において異相(BaTiO、BaCO等)が生じていることとなり、好ましくない。
【0062】
異相が生じていない場合、すなわち得られる粉末がチタン酸バリウム(BaTiO)のみで構成されている場合、六方晶チタン酸バリウムが生成した比率を算出して判断する。具体的には、六方晶チタン酸バリウム、正方晶チタン酸バリウムおよび立方晶チタン酸バリウムの最大ピーク強度の合計を100%として、六方晶チタン酸バリウムの最大ピーク強度が占める比率を、六方晶チタン酸バリウムの生成比率(存在比率)とする。この比率が50%以上の場合に、六方晶チタン酸バリウムを主成分として含む六方晶系チタン酸バリウム粉末が得られることになる。
【0063】
この六方晶系チタン酸バリウム粉末は、通常六方晶チタン酸バリウムが安定に存在する温度(1460℃以上)よりも低い温度から急冷されて得られるため、細かい粒子として得られる。しかも、六方晶系チタン酸バリウム粉末の組成やA/B比などを上記の範囲に制御しているため、より細かい粒子が得られる。具体的には、本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末の比表面積は、好ましくは2m/g以上、より好ましくは3m/g以上、さらに好ましくは4m/g以上である。
【0064】
なお、上記の比表面積は、得られる六方晶系チタン酸バリウム粉末が生成した状態での値であり、しかも極めて粒度分布がシャープで単一のピークを有している。
【0065】
このようにして得られる六方晶系チタン酸バリウム粉末と下記副成分とを用いて、誘電体層および電極層を有する電子部品を製造する。
【0066】
<副成分>
副成分としては、
MgO、CaOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ土類酸化物、
金属酸化物として、Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alと、
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、HoおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物、および
SiOを含むガラス成分が用いられる。
【0067】
MgO等は容量温度特性を平坦化し、誘電損失を低下し、絶縁抵抗を向上させる効果がある。本実施形態においては、主成分100モルに対して、MgO、CaOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ土類酸化物を、各酸化物換算で1〜3モル、好ましくは1〜2モル、ここで、アルカリ土類酸化物の使用量は、各酸化物の合計ではなく、それぞれの酸化物の使用量を意味している。また、MgO、CaOおよびBaOは、それぞれを酸化物換算で1〜3モルの量で使用する限り、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。たとえば、MgOを3モル、CaOを3モルおよびBaOを3モルの実施態様も本発明の範囲に含まれる。一方、MgOを0.5モル、CaOを0.5モルおよびBaOを0.5モルの使用態様は、合計量が1〜3モルの範囲にあるが、本発明の実施態様には含まれない。また、MgOを0モル、CaOを3モルおよびBaOを3モルの実施態様は、CaOおよびBaOの使用量が1〜3モルの範囲にあるため、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
さらに、上記の範囲を満足することに加え、MgO、CaOおよびBaOの合計量が、酸化物換算で、9モル以下、好ましくは4〜8モル、さらに好ましくは3〜5モルの範囲にある。たとえば、MgOを3モル、CaOを3モルおよびBaOを4モルの使用態様は、MgOの使用量およびCaOの使用量が1〜3モルの範囲にあるが、MgO、CaOおよびBaOの合計量が10モルとなるため、本発明の実施態様には含まれない。
【0069】
Mn等の金属酸化物は、焼結を促進する効果と、絶縁抵抗(IR)を高くする効果と、IR寿命を向上させる効果とがある。本実施形態においては、主成分100モルに対して、Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alとを、それぞれ、金属元素換算で0.1〜1モル、好ましくは0.2〜0.8モル、さらに好ましくは0.4〜0.5モル用いる。ここで、上記金属酸化物の使用量は、各酸化物の合計ではなく、それぞれの酸化物の使用量を意味し、かつその使用量を酸化物換算ではなく、金属元素換算で定義したものである。たとえば、Alを0.1モル用いた場合には、Al元素換算では0.2モル使用したことを意味している。また、上記のアルカリ土類酸化物の場合とは異なり、Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alとは、それぞれを金属元素換算で0.1〜1モルの量で使用する。たとえば、Mnを1モル(Mn元素で3モル)、CuOを0.2モル(Cu元素で0.2モル)、およびAlを0.1モル(Al元素で0.2モル)の実施態様は、Mnの使用量が本願規定の範囲を外れるため、この実施態様は本発明の範囲に含まれない。
【0070】
Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alとの合計量は、特に限定はされないが、好ましくは0.5〜3モル、さらに好ましくは1〜2モルの範囲にある。
【0071】
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、HoおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物を、希土類元素換算の合計で0.1〜1モル、好ましくは0.2〜0.8モル、さらに好ましくは0.3〜0.6モル用いる。希土類元素酸化物としては、Y、Gd、Tb、Dy、HoまたはYbの酸化物が好ましく用いられる。これら希土類元素は1種単独で使用しても、また組み合わせて使用してもよく、同様の効果が得られる。希土類元素の酸化物の含有量が0.1モル未満では、絶縁抵抗や信頼性(加速寿命)向上、誘電損失の低下の効果は得られない。また、希土類酸化物の含有量が1モルを超える比誘電率が低下する傾向にある。
【0072】
SiOを含むガラス成分は、焼結助剤として添加される。該ガラス成分は、SiOを含む限り特に限定はされないが、ZnO,B,Alの何れかと複合化されたアモルファス状の複酸化物であってもよい。
【0073】
SiOを含むガラス成分は、主成分100モルに対し、SiO換算で0.1〜1モル、好ましくは0.2〜0.8モル、さらに好ましくは0.3〜0.6モル用いる。ガラス成分の含有量が0.1モル未満では、焼結助剤としての役割を果たさない。また、ガラス成分の含有量が1モルを超えると、比誘電率が低下すると共に、耐圧性も悪化する。また、絶縁抵抗の電圧依存性が大きくなる傾向にある。
【0074】
また、本発明の目的を達成できる範囲において、上記誘電体磁器組成物には、その他の副成分を添加してもよい。
【0075】
<積層セラミックコンデンサ>
図1に示した、電子部品の代表例である積層セラミックコンデンサ1における誘電体層2の厚さは、特に限定されないが、一層あたり5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下である。厚さの下限は、特に限定されないが、たとえば1μm程度である。本実施形態に係る誘電体磁器組成物によれば、層厚1μm以上で比誘電率が50以上を示す。誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、200以上であることが好ましい。
【0076】
誘電体層2に含まれる誘電体粒子の平均結晶粒径は、特に限定されず、誘電体層2の厚さなどに応じて、例えば0.1〜1.0μmの範囲から適宜決定すればよく、好ましくは0.1〜0.5μmである。なお、誘電体層中に含まれる誘電体粒子の平均結晶粒径は、次のように測定される。まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨する。そして、その研磨面にケミカルエッチングを施し、その後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行い、コード法により誘電体粒子の形状を球と仮定して算出する。
【0077】
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。
【0078】
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0079】
本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0080】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体磁器組成物粉末を準備する。具体的には、主成分の原料と副成分の原料とを、ボールミル等により混合し、誘電体磁器組成物粉末を得る。
【0081】
主成分の原料としては、上記の六方晶系チタン酸バリウム粉末を用いる。副成分の原料としては、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0082】
得られる誘電体磁器組成物粉末中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0083】
上記の主成分および副成分には、さらに仮焼成などを行っても良い。なお、仮焼き条件としては、たとえば、仮焼き温度を、好ましくは800〜1100℃、仮焼き時間を、好ましくは1〜4時間とすれば良い。
【0084】
次いで、得られた誘電体磁器組成物粉末を塗料化して、誘電体層用ペーストを調整する。誘電体層用ペーストは、誘電体磁器組成物粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0085】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0086】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0087】
内部電極層用ペーストは、各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0088】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0089】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0090】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0091】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0092】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理は、内部電極層ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、脱バインダ雰囲気中の酸素分圧を10−45〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると、脱バインダ効果が低下する。また酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0093】
また、それ以外の脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、より好ましくは200〜350℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは2〜20時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とすることが好ましく、還元性雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0094】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−4Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0095】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは900〜1200℃、より好ましくは1000〜1100℃である。保持温度が前記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層を構成する材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0096】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0097】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0098】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−3Pa以上、特に10−2〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0099】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜900℃とすることが好ましい。保持温度が前記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0100】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0101】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0102】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0103】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0104】
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0106】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。また、上述した実施形態では、本発明に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末をいわゆる固相法により製造したが、シュウ酸塩法、ゾル−ゲル法などにより製造してもよい。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下の実施例、比較例において、「比誘電率ε」、「絶縁抵抗」および「誘電損失tanδ」は以下のように測定した。
【0108】
<比誘電率ε、絶縁抵抗および誘電損失tanδ>
コンデンサ試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量、積層セラミックコンデンサの誘電体厚みおよび内部電極同士の重なり面積から、比誘電率(単位なし)を算出した。
【0109】
その後、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、25℃においてDC50Vを、コンデンサ試料に60秒間印加した後の絶縁抵抗IRを測定した。
【0110】
誘電損失(tanδ)は、コンデンサ試料に対し、25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定した。
【0111】
<実験例1>
<六方晶系チタン酸バリウム粉末の調製>
まず、チタン酸バリウムの原料として、BaCO(比表面積:25m/g)およびTiO(比表面積:50m/g)を準備した。また、元素Mの原料として、La(OH)(比表面積:10m/g)、Mnの原料として、Mn(比表面積:20m/g)を準備した。
【0112】
これらの原料を、一般式(Ba1−αα(Ti1−βMnβにおけるα、β、A/Bが、それぞれ表1に示す値となるように秤量して、水および分散剤とともにボールミルにて混合した。得られた混合粉を、以下の熱処理条件で処理し、六方晶系チタン酸バリウム粉末を作製した。
【0113】
熱処理条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:表1に示す温度、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:大気とした。
【0114】
得られた六方晶系チタン酸バリウム粉末に対して、下記に示すX線回折を行った。また、BET法による比表面積を測定した。比表面積の結果を表3に示す。
【0115】
<X線回折>
X線回折は、X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、電流40mAで、2θ=20°〜90°の範囲を、走査速度4.0deg/min、積算時間30secであった。
【0116】
測定により得られたX線回折チャートから、2θ=45°付近において、各ピークを同定し、チタン酸バリウム(六方晶、正方晶、立方晶)や異相が存在しているかどうかを評価した。結果を表1に示す。試料番号18、試料番号5および試料番号9についてのX線回折チャートを図2(A)〜図2(C)に示す。
【0117】
次いで、チタン酸バリウムのピークのみが観察された試料については、さらに六方晶チタン酸バリウム(h−BaTiO)、正方晶チタン酸バリウム(t−BaTiO)および立方晶チタン酸バリウム(c−BaTiO)の最大ピーク強度を算出した。そして、h−BaTiO、t−BaTiOおよびc−BaTiOの最大ピーク強度の合計に対するh−BaTiOの最大ピーク強度が占める比率を算出し、六方晶チタン酸バリウム(h−BaTiO)の比率を求めた。得られた比率の結果を表2に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
図2(A)〜(C)より、試料番号18(実施例)では、h−BaTiOとt−BaTiOおよびc−BaTiOとが確認された。なお、t−BaTiOおよびc−BaTiOはピークが近いため、区別していない。また、試料番号5(実施例)では、六方晶チタン酸バリウムの相のみが確認された。
【0122】
これに対し、試料番号9(比較例)では、2θ=29°近傍において、オルソチタン酸バリウムの相が確認され、チタン酸バリウム以外の相が生成していることが確認できた。
【0123】
表1より、熱処理温度が低い場合、図2(C)に示すように、チタン酸バリウム以外の相(炭酸バリウム、オルソチタン酸バリウム等)が同定され、好ましくない傾向にあることが確認できた。
【0124】
また、A/Bが大きすぎる場合、Aサイト置換量が多すぎる場合およびBサイト置換量が少なすぎる場合には、熱処理温度を上げても、チタン酸バリウム以外相が同定され、好ましくない傾向にあることが確認できた。
【0125】
表2においては、h−BaTiO生成率を測定しなかった試料は斜線で示した。表2より、Aサイト置換量が多いほど、あるいはBサイト置換量が少なすぎるほど、h−BaTiO生成率が低くなり、好ましくない傾向にあることが確認できた。
【0126】
表3より、Aサイト置換量が0の場合には、六方晶系チタン酸バリウム粉末の比表面積が2m/gより小さくなってしまい、好ましくない傾向にあることが確認できた。また、Aサイト置換量およびBサイト置換量を本発明の範囲内とし、熱処理温度を適切に制御することで、比表面積が2m/g以上の六方晶系チタン酸バリウム粉末が得られることが確認できた。
【0127】
図3に、試料番号5(実施例)の試料および六方晶チタン酸バリウムを1500℃で熱処理して製造した粉末をさらに粉砕した試料の粒度分布を示す。試料番号5の比表面積は5.5m/gであった。一方、熱処理後粉砕した試料は、粉砕前(製造直後)の比表面積は0.9m/gであり、粉砕後の比表面積は5.4m/gであった。
【0128】
図3から明らかなように、両者の比表面積は同程度であるが、粒度分布は大きく異なり、実施例の試料はシャープな分布が得られていることが確認できた。これに対し、製造直後の粉末を粉砕して、比表面積を大きくしても、粉砕により粒度分布がブロードとなり好ましくないことが確認できた。
【0129】
<実験例2>
Aサイト置換量αとBサイト置換量βとの比(α/β)を表4に示す値とした以外は、実験例1と同様にして、粉末を作製し、比表面積およびX線回折測定を行った。結果を表4〜6に示す。
【0130】
【表4】

【0131】
【表5】

【0132】
【表6】

【0133】
表4〜6より、Aサイト置換量とBサイト置換量との比(α/β)を変化させた場合、α/βが大きすぎると、比表面積が2m/g以上の六方晶系チタン酸バリウム粉末が得られにくい傾向にあることが確認できた。
【0134】
<実験例3>
元素Mの原料としてLa(OH)の代わりに表7に示す元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物を用いた以外は、実験例1と同様にして、粉末を作製し、比表面積およびX線回折測定を行った。結果を表7〜9に示す。
【0135】
【表7】

【0136】
【表8】

【0137】
【表9】

【0138】
以上より、本発明に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末は、六方晶チタン酸バリウムを主成分として含んでおり、その比表面積が2m/g以上であり、その粒度分布が狭いことが確認できた。
【0139】
<実験例4>
六方晶系チタン酸バリウム粉末および平均粒径0.1〜1.5μmの副成分原料粉末(MgO、CaO、BaO、Mn、CuO、Al、Y、Dy、Gd、Ho、Yb、TbおよびSiO−ZnO−Bガラス)を、焼成後の組成が下記の表10に示す組成となるように秤量した後、この原料に媒体として水を加えて5時間ボールミルで混合した。その後に、この混合物を乾燥させ、混合粉末を得た。
【0140】
なお、上記の六方晶系チタン酸バリウム粉末は、一般式において、元素MをLa、α=0.01、β=0.06、およびA/B=1.008とした以外は、実験例1と同様にして作製した。また、この六方晶系チタン酸バリウム粉末のBET法による比表面積は、5m/gであり、また六方晶チタン酸バリウムの比率は70%であった。
【0141】
このようにして得られた乾燥後の混合粉末100重量部と、アクリル樹脂4.8重量部と、塩化メチレン40重量部と、酢酸エチル20重量部と、ミネラルスピリット6重量部と、アセトン4重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0142】
別に、Ni粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練してペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0143】
また別に、Cu粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)35重量部およびブチルカルビトール7重量部とを混練してペースト化し、外部電極用ペーストを得た。
【0144】
次いで、上記誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ2.5μmのグリーンシートを形成し、グリーンシート上に内部電極層用ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着してグリーン積層体を得た。内部電極を有するシートの積層数は100層とした。
【0145】
また別に、上記誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ6.5μmのグリーンシートを形成し、グリーンシート上に内部電極層用ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着してグリーン積層体を得た。内部電極を有するシートの積層数は100層とした。
【0146】
次いで、グリーン積層体を所定サイズに切断し、グリーンチップを得て、脱バインダ処理、焼成および再酸化処理(アニール)を行って、積層セラミック焼成体を得た。脱バインダ処理は、昇温時間25℃/時間、保持温度200℃、保持時間8時間、空気雰囲気の条件で行った。また、焼成は、昇温速度200℃/時間、保持温度1000℃、保持時間2時間、冷却速度200℃/時間、加湿したN+H混合ガス雰囲気(酸素分圧は1×10−8〜1×10−6Pa内に調節)の条件で行った。再酸化処理は、保持温度900℃、温度保持時間2時間、冷却速度200℃/時間、加湿したNガス雰囲気(酸素分圧は1×10−2〜1Pa)の条件で行った。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、水温を35℃としたウェッターを用いた。
【0147】
次いで、積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、外部電極用ペーストを端面に転写し、加湿したN+H雰囲気中において、900℃にて60分間焼成して外部電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンサのサンプルを得た。次いでSnメッキ膜、Niメッキ膜を外部電極表面に形成し、測定用サンプルを得た。
【0148】
このようにして得られた各サンプルのサイズは、3.2mm×1.6mm×1.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は100、内部電極層の厚さは2μmであった。各サンプルについて上記特性の評価を行った。
【0149】
【表10】

【0150】
比較例78では、焼結不良のため、コンデンサの特性評価はできなかった。
【0151】
<実験例5>
副成分の組成を、主成分100モルに対して、希土類を0.1モル、MgOを1.0モル、CaOを1.0モル、BaOを1.0モル、Mnを0.1モル、CuOを0.1モル、Alを0.1モル、ガラス成分を0.1モルとし、一般式における元素Mの種類、α、βおよびA/Bを表11に示す値とした以外は、実験例4と同様にして、コンデンサを作製し、上記の特性評価を行った。結果を表11に示す。
【0152】
<実験例6>
副成分の組成を、主成分100モルに対して、希土類を1.0モル、MgOを3.0モル、CaOを3.0モル、BaOを3.0モル、Mnを1.0モル、CuOを1.0モル、Alを1.0モル、ガラス成分を1.0モルとし、一般式における元素Mの種類、α、βおよびA/Bを表12に示す値とした以外は、実験例4と同様にして、コンデンサを作製し、上記の特性評価を行った。結果を表12に示す。
【0153】
【表11】

【0154】
【表12】

【0155】
以上より、本発明に係る六方晶系チタン酸バリウムを主相とする誘電体磁器組成物によれば、高い比誘電率を示すと共に、絶縁抵抗にも優れ、十分な信頼性が確保されたセラミックコンデンサ等の電子部品を得ることができる。
【符号の説明】
【0156】
1…積層セラミックコンデンサ
2…誘電体層
3…内部電極層
4…外部電極
10…コンデンサ素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Ba1−αα(Ti1−βMnβで表され、結晶構造が六方晶であるチタン酸バリウムを主成分として含むチタン酸バリウム粉末であって、
前記Mの12配位時の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0.003≦α≦0.05、0.03≦β≦0.2の関係を満足することを特徴とする六方晶系チタン酸バリウム粉末。
【請求項2】
前記αと前記βとの比(α/β)が、(α/β)≦0.40の関係を満足する請求項1に記載の六方晶系チタン酸バリウム粉末。
【請求項3】
一般式(Ba1−αα(Ti1−βMnβで表され、結晶構造が六方晶であって、前記Mの12配位時の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して±20%以内であり、前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0.003≦α≦0.05、0.03≦β≦0.2の関係を満足する六方晶系チタン酸バリウムを主成分とし、該主成分100モルに対し、副成分として、
MgO、CaOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ土類酸化物を、各酸化物換算で1〜3モル、かつ該アルカリ土類酸化物の合計量を9モル以下、
Mnおよび/またはCrと、CuOと、Alとを、それぞれ、各金属元素換算で0.1〜1モル、
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、HoおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物を、希土類元素換算の合計で0.1〜1モル、および
SiOを含むガラス成分を、SiO換算で0.1〜1モル含む誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、内部電極層を有する電子部品。
【請求項5】
請求項1または2に記載の六方晶系チタン酸バリウム粉末を製造する方法であって、
チタン酸バリウムの原料、元素Mの原料およびMnの原料を準備する工程と、
前記チタン酸バリウムの原料、元素Mの原料および前記Mnの原料を熱処理する工程と、を有する六方晶系チタン酸バリウム粉末の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−116629(P2011−116629A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222705(P2010−222705)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】