説明

内燃機関のエンジンブレーキシステム及びその制御方法

【課題】機関中速回転域から機関高速回転域の範囲で最大吸収トルクを増加させることができる内燃機関のエンジンブレーキシステム及びその制御方法を提供する。
【解決手段】内燃機関10の吸気通路12の吸気スロットル24と機械式過給機21と排気通路16の排気ブレーキバルブ25を備えると共に、前記機械式過給機21を迂回するバイパス通路22を設けて、該バイパス通路22に流量制御バルブ23を備えた内燃機関のエンジンブレーキシステム20において、エンジンブレーキ作動の際に、前記機械式過給機21の作動圧力比が限界を超えないように、前記流量制御バルブ23の弁開度を制御して前記機械式過給機21の駆動損失を増加させる過給運転を行い、前記吸気スロットル24の弁開度をポンプ損失が最大となる吸排気圧力差となる過給圧になるように調整制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式過給機と排気ブレーキバルブを併用すると共に吸気スロットルを用いて、機関中速回転域及び機関高速回転域における最大吸収トルクを増加させることができる内燃機関のエンジンブレーキシステム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型トラックを中心に、ブレーキのランニングコストの低減、フェード現象等による制動力の低下の回避などを目的に、補助ブレーキシステムとして、排気ブレーキ、圧縮開放ブレーキ、リターダー等を使用することが一般化している。特に、近年では法規規制により、必要とされるエンジンブレーキ力の大きさが大きくなってきており、エンジンブレーキ力の強化が強く求められている。
【0003】
一方で、燃費改善という観点からは内燃機関の排気量の低減が求められているが、この排気量がエンジンブレーキ力に大きな影響を与える。そのため、排気量の低減を伴う内燃機関のダウンサイジング、即ち、エンジン小型化の実現には、少ない排気量であっても大きなエンジンブレーキ力を確保できることが重要となる。
【0004】
ディーゼル機関では、エンジンブレーキ力を効果的に強化する手段として、排気ブレーキを用いて吸排気圧力差(排気圧>吸気圧)を増加させてポンプ損失を高める方法や、圧縮開放ブレーキを使用して内燃機関の圧縮・膨張行程で負の仕事を得る方法等が一般化している。また、内燃機関の外部に設ける動力吸収装置としては、リターダーなどが実用化している。
【0005】
圧縮開放ブレーキは、大きな制動力を確保し易いので採用が進んでいるが、内燃機関の動弁系部品を追加する必要があり、この動弁系部品の追設に当たって、ヘッド本体の強度を確保することが必須であることから、ヘッド周りの再設計が必要になることが多い。その結果、採用には多額のコストが必要となるという問題や、圧縮開放ブレーキ自体はエンジンブレーキ力の強化にしか貢献しないため、このシステムの採用にかかる多額のコストに対して得られるメリットが少ないという問題がある。
【0006】
そのため、商用車のためのエンジンブレーキシステムとしては、コスト的に安価であり、排気ブレーキシステムを使用することが最も一般的となっている。この排気ブレーキシステムでは、ブレーキ力が必要なときに、排気管に設けた排気ブレーキバルブを閉じて、排気管の流路面積を減少させることで、排気マニホールドの内部の圧力を上げて、内燃機関におけるポンプ損失(ポンピングロス)を増加させ、エンジンブレーキ力を増加させている。この排気ブレーキシステムでは、排気マニホールドの内部の圧力を上げれば上げるほどポンプ損失が増加してエンジンブレーキ力は高まる。
【0007】
しかしながら、排気絞り用に使用される排気ブレーキに使用するシャッターは、排気管に配置されるために高温高圧の排気ガスに晒されるので、コストや作動の確実性や耐久性を考慮すると複雑な形状にすることは困難となる。そのため、一般的な吸気スロットルに用いられているような、多段階で流量を変化できる調圧型の流量調整バルブは使用されず、一部の例外を除き、ON/OFF動作のみの一定の漏れ開口有効面積を有する開閉バルブが使用される。
【0008】
そのため、排気ブレーキシステムを用いる場合には、機関低速回転域から機関高速回転域までの間で、流路面積を調整せずに流路面積の内の一定面積を絞るということが条件となる。この開口有効直径は、機関最大回転速度(定格回転速度)で、構造的に許容できる最大排気圧力となるように設定されるため、機関低速回転域では十分な排気圧力が得られないという問題がある。
【0009】
この問題に対して、エンジンブレーキ力を機関低速回転域から確保するためには、排気ブレーキに加えて機械式過給機を併用するシステムが非常に効果的である。この機械式過給機の作動により機関低速回転域から吸気量を増加させて排気圧力を高め、吸排気圧力差を増加させることでポンプ損失を増大させると共に、機械式過給機の駆動損失が軸出力に加わるため、その分エンジンブレーキとしての吸収動力を高めるからである。
【0010】
この機械式過給機と排気ブレーキを併用する例として、機械式過給機を内燃機関のクランク軸に無段階変速装置を介して駆動し、エンジンブレーキ力を確保したい場合に無段階変速装置の増速比をあげて過給圧を上昇させることで排気ブレーキ力の効果を高める過給機付きエンジンが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平09−104259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、この機械式過給機と排気ブレーキを併用する場合でも、排気管に設けられている排気ターボ式過給機(ターボチャージャ)のタービンの耐圧性や耐熱性の問題があり、また、排気系ガスケット・EGR冷却系等においても圧力限界が存在するため、排気マニホールドの内部の圧力を極端に増加することは困難であり、排気ブレーキによるエンジンブレーキ力の増強には限界が存在する。
【0013】
つまり、最高排気圧力は構造限界によって決まっているため、過給圧が高くなる分、吸排気圧力差が減少する。その結果、ポンプ損失が減少し、得られる制動トルクが目減りする。そして、機関高速回転域では吸気量の増加により排気圧力が容易に最大排気圧まで達する。そのため、過給圧を低下させるために、機械式過給機の作動圧力比を低下させる必要が生じる。
【0014】
これに対して、本発明者は、より低コストで多目的に利用可能なエンジンブレーキ力増強システムを提供することを目的に、エンジンブレーキ作動の際に、排気ブレーキバルブを閉鎖して、機械式過給機による過給運転を行って、エンジンブレーキ力を増加する制御を行うと共に、機械式過給機を迂回するバイパス通路に設けた可変流量バルブ(流量制御バルブ)の弁開度を、機械式過給機の出口側に配設された圧力センサ、又は、過給圧センサの検出値が、内燃機関の回転速度に対して予め設定された目標値となるように制御して、この流量制御バルブの弁開度調整によって、排気圧力が構造(耐久)限界を超えないように機械式過給機の作動圧力比を制御しつつ、エンジンブレーキ力を増加させる内燃機関のエンジンブレーキシステムとその制御方法を考えた。
【0015】
この内燃機関のエンジンブレーキシステムとその制御方法を用いることで、エンジンブレーキの際に、ポンプ損失を大幅に増加でき、特に機関低速回転域でエンジンブレーキ力を大幅に増加できる。また、バイパス通路の可変流量バルブの弁開度を調整しながら、機関中速回転域でも機械式過給機による過給運転を行うことで、機械式過給機の駆動損失をエンジン吸収動力の一部にして、エンジンブレーキ力を増加させることができる。
しかしながら、このシステムとその制御方法では、機関高速回転域では機械式過給機の作動圧力比が低下して駆動損失量が低下するため、機関高速回転域の条件下では制動トルクの絶対量を大幅に増加させることが困難であるという問題がある。
【0016】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、最大制動トルクをより増加させるために、機関中速回転域におけるポンプ損失の目減り分を無くすと共に、機関中速回転域及び機関高速回転域における機械式過給機駆動力を増加させることで、機関中速回転域及び機関高速回転域の範囲の最大吸収トルクを増加させることができる内燃機関のエンジンブレーキシステム及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記のような目的を達成するための本発明の内燃機関のエンジンブレーキシステムは、内燃機関の吸気通路に機械式過給機を備え、排気通路に排気ブレーキバルブを備えると共に、前記機械式過給機を迂回するバイパス通路を設けて、該バイパス通路に流量制御バルブを備えた内燃機関のエンジンブレーキシステムにおいて、前記吸気通路の内燃機関の吸気マニホールドと前記機械式過給機との間に吸気スロットルを設けると共に、前記機械式過給機、前記排気ブレーキバルブ、前記流量制御バルブ、前記吸気スロットルを制御する制御装置が、エンジンブレーキ作動の際に、前記機械式過給機の作動圧力比が限界を超えないように、前記流量制御バルブの弁開度を制御して前記機械式過給機の駆動損失を増加させる過給運転を行い、更に、前記吸気スロットルの弁開度をポンプ損失が最大となる吸排気圧力差となる過給圧になるように調整制御するように構成される。
【0018】
また、上記のような目的を達成するための本発明の内燃機関のエンジンブレーキシステムの制御方法は、内燃機関の吸気通路に機械式過給機を備え、排気通路に排気ブレーキバルブを備えると共に、前記機械式過給機を迂回するバイパス通路を設けて、該バイパス通路に流量制御バルブを備えた内燃機関のエンジンブレーキシステムの制御方法において、前記吸気通路の内燃機関の吸気マニホールドと前記機械式過給機との間に吸気スロットルを設けると共に、エンジンブレーキ作動の際に、前記機械式過給機の作動圧力比が限界を超えないように、前記流量制御バルブの弁開度を制御して前記機械式過給機の駆動損失を増加させる過給運転を行い、更に、前記吸気スロットルの弁開度をポンプ損失が最大となる吸排気圧力差となる過給圧になるように調整制御することを特徴とする方法である。
【0019】
これらの構成によれば、エンジンブレーキ作動の際に、過給圧を高めて吸気量を増加し、排気圧力を上昇して、ポンプ損失(ポンピングロス)を増加でき、制動トルクを高めることができる。つまり、一定開度の排気ブレーキバルブ(排気シャッター)を用いた排気ブレーキシステムにおいて、ポンプ損失つまりエンジンブレーキ力を、機械式過給機による過給運転によって高めて制動トルクを高めることができる。
【0020】
特に、エンジンブレーキ作動の際に、機械式過給機を駆動することにより、機関中速回転域や機関高速回転域でのポンプ損失の目減り分を低減すると共に、バイパス通路の流量制御バルブ(圧力比制御バルブ)の弁開度を制御することにより、機関式過給機の駆動力を増加させることで駆動損失を確保して最大吸収トルクを増加させることができる。それと共に、吸気スロットルにより過給圧を制御して、最大圧力が規定される排気圧力条件下で、過給圧力増加による吸排気圧力差減少とそれに伴うポンプ損失減少が最小となるようにする。この二つの組み合わせにより制動トルクを増加させる。
【0021】
その上、上記の内燃機関のエンジンブレーキシステムにおいて、前記機械式過給機と内燃機関の出力軸との間を増減速比が一定の変速装置を介して接続すると、また、上記の内燃機関のエンジンブレーキシステムの制御方法において、前記機械式過給機を内燃機関の出力軸に対して一定の増減速比で駆動すると、複雑な増速比機構を有する無段階変速装置が不必要になるので、無段階変速装置を採用する場合に比べて、変速機の配置スペースが楽になり、コストが低減する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る内燃機関の排気ブレーキシステム及びその制御方法によれば、エンジンブレーキ作動の際に、最大制動トルクをより増加させるために、機関中速回転域におけるポンプ損失の目減り分を無くすと共に、機関中速回転域および機関高速回転域での機械式過給機駆動力を増加させることで、機関中速回転域から機関高速回転域の範囲で最大吸収トルクを増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関のエンジンブレーキシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関のエンジンブレーキシステムの構成の他の例を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の内燃機関のエンジンブレーキシステムの構成の他の例を示す図である。
【図4】機関回転数とエンジンブレーキの吸収トルクの関係を示す図である。
【図5】機関中速回転域における各損失分を示す図である。
【図6】機関高速回転域における各損失分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜図3に示すように、本発明の実施の形態の内燃機関のエンジンブレーキシステム20は、エンジン10の吸気マニホールド11に連結されている吸気通路12に上流側から機械式過給機21とこの機械式過給機21を迂回するバイパス通路22と、このバイパス通路22に設けられた流量制御バルブ23と、機械式過給機21と吸気マニホールド11の間に設けられた吸気スロットル24と、排気マニホールド15に連結されている排気通路16に設けた排気ブレーキバルブ25とを有して構成される。
【0025】
この機械式過給機21は、エンジン10と、通常のギア、あるいはベルト等(図1〜図3ではベルト21a)で接続して駆動されたり、またはエンジン側発電機と電動モータによって駆動されたりする。この図1〜図3の実施の形態では、機械式過給機21とエンジン10の出力軸10aとの間の増減速比を一定とする固定増速比にして構成され、特に複雑な遊星ギアや無段階変速機などは使用しない。なお、機械式過給機21とエンジン10の出力軸10aとの間にクラッチ(図示しない)を設けて、機械式過給機21をON/OFF可能に構成する。
【0026】
また、流量バルブ制御23は、バイパス通路22を通過する吸気Aの流量を調整できるように流量調整可能なバルブで形成し、一方、排気ブレーキバルブ25は高温高圧の排気ガスGに耐えるように比較的単純な構成の流量調整しないON/OFF動作の開閉バルブで形成する。
【0027】
吸気スロットル24は、吸気通路12を通過する吸気量を調整できるような流量制御バルブで形成される。
【0028】
また、吸気通路12には、排気ターボ式過給機13のコンプレッサ13aと吸気冷却器(インタークーラー)14が配置される。このコンプレッサ13aは、図1に示すように、機械式過給機21の下流側に配置しても、図2及び図3に示すように、上流側に配置してもよい。
【0029】
また、吸気冷却器(インタークーラー)14は、図1及び図3に示すように、機械式過給機21とコンプレッサ13aの両方の下流側となる位置に配置しても、図2に示すように、機械式過給機21とコンプレッサ13aの間に配置してもよい。
【0030】
また、図1〜図3の構成では、吸気スロットル24は、吸気マニホールド11の直前に配置しているが、この吸気スロットル24は、吸気マニホールド11と機械式過給機21の間に配設しさえすればよい。
【0031】
更に、排気流路16には、排気ブレーキバルブ25の上流側に排気ターボ式過給機13のタービン(ウェストゲートタービン)13bが配置される。また、必要に応じて圧力センサ26が機械式過給機21の出口側に取り付けられ、過給圧センサ27が吸気マニホールド11又はその近傍に設けられる。
【0032】
そして、圧力センサ26と過給圧センサ27の検出値が入力され、機械式過給機21のON/OFF動作、流量制御バルブ23の弁開度調整、吸気スロットル24の弁開度調整、排気ブレーキバルブ25のON/OFF動作を制御する制御装置(図示しない)を設ける。通常は、この制御装置は、エンジン10の運転全般を制御するECU(エンジンコントロールユニット)と呼ばれる制御装置に組み込まれて構成される。
【0033】
なお、EGRシステムに関しては、図1〜図3には特に図示していないが、必要に応じて設けられる。本発明は、EGRシステムがある内燃機関にも、EGRシステムがない内燃機関にも適用できる。また、EGRシステムを備える場合においても、EGRガスの取り出し位置と吸気系への戻し位置は特に限定しない。
【0034】
次に、上記の構成の内燃機関のエンジンブレーキシステム20における制御方法について説明する。
【0035】
この内燃機関のエンジンブレーキシステム20では、排気ブレーキ作動時には、従来技術通りのスキームに則り、排気通路16に装備された排気ブレーキバルブ25を閉鎖する。続いて、機械式過給機21のクラッチを接続して機械式過給機21を作動させる。
【0036】
このエンジンブレーキ作動の際に、機械式過給機21による過給運転を行うと、排気流量が増加し過ぎて排気系の圧力がエンジン10の構造的限界を超える可能性が生じる。この可能性は、特に機関高速回転域で高くなる。そのため、流量制御バルブ23の弁開度の制御と、吸気スロットル24の制御を組み合わせる。つまり、この機械式過給機21の作動後に、流量制御バルブ23と吸気スロットル24の弁開度を制御して機械式過給機21による過給運転を実施する。
【0037】
機関低速回転域では、流量制御バルブ23の弁開度を制御して機械式過給機21を許容最大圧力比で作動させて過給運転を行う。このときは、吸気スロットル24は開状態とし、吸気スロットル24による過給圧調整は行わない。これにより、過給圧を最大にし、吸気量を増加し、排気圧力を上昇させて、ポンプ損失(ポンピングロス)を増加し、制動トルクを高める。つまり、不足しているポンプ損失つまりはエンジンブレーキ力を、機械式過給機による過給運転によって高めて制動トルクを高める。
【0038】
また、機関中速回転域では、流量制御バルブ23の弁開度を制御して、機械式過給機21の作動圧力比が限界を超えないようにしながら、機械式過給機21の駆動損失を増加する。それと共に、吸気スロットル24を絞り、その弁開度を調整して、過給圧を調整し、吸排気圧力差が最適となるような、即ち、ポンプ損失が最大となるような最適制御を実施する。つまり、機械式過給機の過給運転によって駆動損失を確保すると共に、最大圧力が規定される排気圧力条件下で、過給圧力の増加による吸排気圧力差の減少とそれに伴うポンプ損失の減少が最小となるように、吸気スロットル24にて過給圧を制御する。
【0039】
更に、機関高速回転域では、流量制御バルブ23の弁開度を制御して、機械式過給機21の作動圧力比が限界を超えないようにしながら、機械式過給機21の駆動損失を増加する。それと共に、吸気スロットル24を絞り、その弁開度を調整して、過給圧を調整し、排気圧力が構造限界を超えないように過給圧を制御する。つまり、機関高回転域では、排気圧力の上限に伴い、ポンプ損失量が規定されてしまう。これに対して、吸気スロットル24を併用することで、機械式過給機21を過給機の作動限界圧力比の範囲内で駆動させ、駆動損失を最大限確保しながら、過給圧を適時調整し、排気圧力が限界以下となるように制御する。
【0040】
これにより、排気ブレーキによるエンジンブレーキ力に機械式過給機の駆動損失を上乗せさせて、制動トルク量の絶対量を大幅に増加させることができる。
【0041】
この流量制御バルブ23の制御では、流量制御バルブ23の弁開度を制御して、機械式過給機21に流入する吸気Aの流量を調整することで、機械式過給機21の作動圧力比を調整し、これにより過給圧を制御する。この制御では、流量制御バルブ23の開度を、機械式過給機21の出口側に取り付けられた圧力センサ26の検出値(信号)、あるいは、吸気マニホールド11又はその近傍に設けた過給圧センサ27の検出値(信号)を元に、いずれかの圧力値が機関回転速度に対して予め設定された目標値となるように制御する。
【0042】
なお、この流量制御バルブ23の弁開度の制御については、予め用意したマップデータに基づいて決まる値にする制御と、吸気量センサ(MAFセンサ:図示しない)から得た測定吸気量が機関回転速度に対して予め設定された目標吸気量とするような制御のいずれか一方又は両方を、上記の吸気側の圧力による制御に組み合わせることで、より安全性を確保できるようになる。
【0043】
これにより、機械式過給機21の過給仕事がエンジンブレーキ力に上乗せされると共に、機械式過給機21による過給によって、機関低速回転域から吸気流量及び排気流量を確保することが可能となるため、排気ブレーキバルブ25が一定開度を有する開閉バルブであっても、より機関低速回転域から高い排気圧力を確保することが可能となる。その結果、より機関低速回転域から高い排気ブレーキ力を確保できるようになる。
【0044】
これらの制御により、機械式過給機21と排気ブレーキバルブ25を併用して、大幅な排気ブレーキ力の増加を可能とすると共に、吸気スロットル24を用いて機械式過給機21に流入する吸気量を調整する制御を導入することによって、吸気圧力を調整して排気圧力が過剰になることを防止しながら、機関低速回転域から大きなエンジンブレーキ力を確保することができるようになる。
【0045】
図4に、クラッチをOFFにして機械式過給機21を併用しない場合(従来例:点線A)と、クラッチをONにして機械式過給機21を使用するが、吸気スロットル24は開状態のままとした場合(参考例:点線B)と、クラッチをONにして機械式過給機21を併用すると共に吸気スロットル24の弁開度を調整制御する場合(実施例:実線C)との、機関回転数とエンジンブレーキの吸収トルクの関係を例示する。図4では、図面の上の方が吸収トルクが大きく、エンジンブレーキ力が大きいことを示す。この図4によれば、機関高速回転域では、実施例Cでは参考例Bよりも吸収トルクが17%程度増加している。
【0046】
図5及び図6に、上記の制御の従来例A、参考例B、実施例Cの場合における、機関中速回転域および機関高速回転域における制動トルクの内訳の変化を示す。R1はポンプ損失を、R2は摩擦損失を、R3は熱損失を示し、R4は機械式過給機21の駆動損失を示す。図5のX1は、機械式過給機21による排気圧力の増加とそれに伴うポンプ損失の増加を示す。また、図5のX2は、ポンプ損失の最適化による制動トルクの増加を示し、図5のX3は、吸気スロットル24の制御による制動トルクの増加を示す。更に、図6のX4は、吸気スロットル24による機械式過給機21の作動圧力比の向上に伴う制動トルクの増加を示す。
【0047】
従って、上記の構成の内燃機関のエンジンブレーキシステム及びその制御方法によれば、エンジンブレーキ作動の際に、最大制動トルクをより増加させるために、機関中速回転域におけるポンプ損失の目減り分を無くすと共に、機関中速回転域及び機関高速回転域での機械式過給機の駆動力を増加させることで、機関中速回転域及び機関高速回転域の範囲で最大吸収トルクを増加させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の内燃機関の排気ブレーキシステム及びその制御方法は、エンジンブレーキ作動の際に、機関中速域回転でのポンプ損失の目減り分を無くすと共に、機関中速回転域及び機関高速回転域での機械式過給機の駆動力を増加させて、機関中速回転域及び機関高速回転域における最大吸収トルクを増加させることができるので、自動車搭載等のディーゼルエンジンなどの内燃機関の排気ブレーキシステム及びその制御方法に適用できる。
【符号の説明】
【0049】
10 エンジン(内燃機関)
12 吸気通路
13 排気ターボ式過給機
16 排気通路
20 エンジンブレーキシステム
21 機械式過給機
22 バイパス通路
23 流量制御バルブ
24 吸気スロットル
25 排気ブレーキバルブ
26 圧力センサ
27 過給圧センサ
A 吸気
G 排気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に機械式過給機を備え、排気通路に排気ブレーキバルブを備えると共に、前記機械式過給機を迂回するバイパス通路を設けて、該バイパス通路に流量制御バルブを備えた内燃機関のエンジンブレーキシステムにおいて、
前記吸気通路の内燃機関の吸気マニホールドと前記機械式過給機との間に吸気スロットルを設けると共に、
前記機械式過給機、前記排気ブレーキバルブ、前記流量制御バルブ、前記吸気スロットルを制御する制御装置が、
エンジンブレーキ作動の際に、
前記機械式過給機の作動圧力比が限界を超えないように、前記流量制御バルブの弁開度を制御して前記機械式過給機の駆動損失を増加させる過給運転を行い、
更に、前記吸気スロットルの弁開度をポンプ損失が最大となる吸排気圧力差となる過給圧になるように調整制御することを特徴とする内燃機関のエンジンブレーキシステム。
【請求項2】
前記機械式過給機と内燃機関の出力軸との間を増減速比が一定の変速装置を介して接続することを特徴とする請求項1記載の内燃機関のエンジンブレーキシステム。
【請求項3】
内燃機関の吸気通路に機械式過給機を備え、排気通路に排気ブレーキバルブを備えると共に、前記機械式過給機を迂回するバイパス通路を設けて、該バイパス通路に流量制御バルブを備えた内燃機関のエンジンブレーキシステムの制御方法において、
前記吸気通路の内燃機関の吸気マニホールドと前記機械式過給機との間に吸気スロットルを設けると共に、
エンジンブレーキ作動の際に、
前記機械式過給機の作動圧力比が限界を超えないように、前記流量制御バルブの弁開度を制御して前記機械式過給機の駆動損失を増加させる過給運転を行い、
更に、前記吸気スロットルの弁開度をポンプ損失が最大となる吸排気圧力差となる過給圧になるように調整制御することを特徴とする内燃機関のエンジンブレーキシステムの制御方法。
【請求項4】
前記機械式過給機を内燃機関の出力軸に対して一定の増減速比で駆動することを特徴とする請求項3記載の内燃機関のエンジンブレーキシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97631(P2012−97631A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244958(P2010−244958)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】