説明

内燃機関の制御装置

【課題】低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構のベーンがハウジングに衝突してしまうことを抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】この発明に係る内燃機関の制御装置である電子制御装置100が制御する内燃機関には、収容室25をロータ23から径方向に突出しているベーン24によって区画することにより進角用油圧室26と遅角用油圧室27とを形成したバルブタイミング変更機構200が設けられている。電子制御装置100は、オイル循環システム400を制御して需要部におけるオイルの需要が少ないときにオイルの循環量を低減させる低圧制御を実行し、オイルポンプ40の駆動負荷を低減させる。電子制御装置100は、高圧制御と低圧制御との切り替え前後にあっては、ロータ23を可動限界位置まで回動させないようにロータ23の回動範囲を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオイルポンプの駆動負荷を軽減する低圧制御を実行することのできるオイル循環システムと、カムシャフトに連結されたロータをハウジング内で回動させることによりバルブタイミングを変更する油圧駆動式のバルブタイミング変更機構とを備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、需要部に供給するオイルの循環量を低減する低圧制御を実行することにより、オイルポンプの駆動負荷を軽減して低燃費に貢献することのできるオイル循環システムを備える内燃機関が記載されている。
【0003】
こうしたオイル循環システムにあっては、オイルの需要量が少ないときにはオイルの循環量を制限し、不必要にオイルポンプが駆動されることを抑制することによってオイルポンプの駆動負荷を軽減する。こうしてオイルポンプの駆動負荷を軽減することにより、必要とされるオイルの量に応じてオイルポンプの仕事量を調整することができるため、内燃機関の燃料消費量を抑制することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐41445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献1に記載の内燃機関は、油圧駆動式のバルブタイミング変更機構を備えている。油圧駆動式のバルブタイミング変更機構にあっては、タイミングチェーンを介して内燃機関の出力軸に連結されるスプロケットと一体に形成されたハウジングの中に、カムシャフトの先端に固定されたロータが収容されている。このロータにはその径方向に向かって突出する複数のベーンが設けられている一方、ハウジングにはこれらベーンをそれぞれ収容する収容室が設けられている。これにより、各収容室はベーンを介して進角用油圧室と遅角用油圧室とにそれぞれ区画されている。
【0006】
このように構成されたバルブタイミング変更機構を備える内燃機関にあっては、進角用油圧室及び遅角用油圧室内の油圧を調整することによりハウジング内でロータを回動させ、スプロケットに対するロータ及びカムシャフトの相対回転位相を変更する。こうしてカムシャフトの相対回転位相を進角側又は遅角側に変更することにより、吸気バルブや排気バルブのバルブタイミングを機関運転状態に応じた適切なタイミングに変更する。
【0007】
ところで、バルブタイミング変更機構は、タイミングチェーンを介してクランクシャフトに連結されているため、内燃機関の出力トルクが変動すると、そのトルク変動がタイミングチェーンを介してバルブタイミング変更機構にも入力されるようになる。すなわち、トルク変動が生じた場合には、タイミングチェーンを介してクランクシャフトに連結されているハウジングにそのトルク変動が伝達されるため、ハウジングとロータとの間にはハウジング内でロータを相対回動させるような力が作用することになる。
【0008】
また、オイルの循環量を制限する低圧制御とオイルの循環量を制限しない高圧制御とを切り替えたときには、バルブタイミング変更機構の各油圧室に供給される油圧も変動する。そのため、その油圧の変動やその影響による油圧の脈動によってもハウジングとロータとの間にはハウジング内でロータを相対回動させるような力が作用することになる。
【0009】
したがって、オイルの循環量を変更すべく低圧制御と高圧制御を切り替えた場合には、油圧の変動による力とトルク変動による力が重なってハウジング内でロータが回動してしまいしやすく、ベーンがハウジングに衝突してしまうおそれがある。
【0010】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構のベーンがハウジングに衝突してしまうことを抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、ハウジング内に形成された収容室をカムシャフトに連結されたロータから径方向に突出しているベーンによって区画することにより進角用油圧室と遅角用油圧室とを形成し、これら各油圧室内の油圧を制御することによって前記ハウジング内で前記ロータを回動させてバルブタイミングを変更するバルブタイミング変更機構と、前記各油圧室を含む需要部へのオイルの循環量を低減させる低圧制御を実行することのできるオイル循環システムとを備え、前記需要部におけるオイルの需要が少ないときに前記低圧制御を実行して内燃機関に作用するオイルポンプの駆動負荷を低減させる内燃機関の制御装置において、前記低圧制御を実行しない高圧制御と前記低圧制御との切り替え前後にあっては、前記ロータを可動限界位置まで回動させないように前記ロータの回動範囲を制限することをその要旨とする。
【0012】
上記構成のようにロータから径方向に突出するベーンによって収容室を進角用油圧室と遅角用油圧室とに区画したバルブタイミング変更機構にあっては、収容室の進角側の側壁にベーンが当接する位置がロータの進角側の可動限界位置になっており、収容室の遅角側の側壁にベーンが当接する位置がロータの遅角側の可動限界位置になっている。すなわち、ロータの可動範囲は収容室内でベーンが変位できる範囲によって決まっている。
【0013】
上記構成によれば、高圧制御と低圧制御との切り替え前後は、ロータを可動限界位置まで回動させないようにロータの回動範囲が制限されるようになる。これにより、低圧制御と高圧制御との切り替えが行われる前にベーンを収容室の進角側の側壁及び収容室の遅角側の側壁から離間した位置に退避させることができ、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動の影響によってハウジング内でロータが回動してしまった場合であってもベーンがハウジングに衝突しにくくなる。
【0014】
したがって上記請求項1に記載の発明によれば、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構のベーンがハウジングに衝突してしまうことを抑制することができるようになる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記低圧制御を実行する低圧制御領域と前記低圧制御を実行しない高圧制御領域とが区分されている切り替えマップを参照して現在の運転状態が前記低圧制御領域にあるか前記高圧制御領域にあるかを判定し、前記低圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに前記低圧制御の実行を開始する一方、前記高圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに前記低圧制御の実行を終了する請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、前記低圧制御領域から前記高圧制御領域に移行したとき及び前記高圧制御領域から前記低圧制御領域に移行したときに、前記ロータの回動範囲の制限を開始することをその要旨とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記低圧制御領域にある状態又は前記高圧制御領域にある状態が所定の期間以上継続したときに、前記ロータの回動範囲の制限を解除する請求項2に記載の内燃機関の制御装置である。
【0017】
低圧制御と高圧制御とを切り替える具体的な方法としては、上記請求項2に記載されているように切り替えマップを参照する方法を採用することができる。そして、上記請求項2に記載されているように低圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに低圧制御の実行を開始する一方、高圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに低圧制御の実行を終了して高圧制御に切り替える構成を採用している場合には、低圧制御領域から高圧制御領域に移行したとき及び高圧制御領域から低圧制御領域に移行したときに、ロータの回動範囲の制限を開始する構成を採用することが望ましい。
【0018】
こうした構成を採用すれば、運転状態が低圧制御領域から高圧制御領域に移行したこと又は高圧制御領域から低圧制御領域に移行したことに基づいてオイルの循環態様が実際に切り替えられる前に切り替えが行われる可能性が高いことを推定し、それに基づいてロータの回動範囲の制限を事前に開始することができるようになる。
【0019】
したがって、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構のベーンがハウジングに衝突してしまうことをより的確に抑制することができるようになる。
【0020】
また、上記請求項3に記載されているように低圧制御領域にある状態又は高圧制御領域にある状態が所定の期間以上継続したときに、ロータの回動範囲の制限を解除する構成を採用すれば、オイルの循環態様が切り替えられたあとも回動範囲の制限が所定の期間継続されて、高圧制御と低圧制御との切り替えによる油圧の変動の影響が小さくなってから回動範囲の制限が解除されるようになる。
【0021】
したがって、切り替えマップを参照することによって高圧制御と低圧制御との切り替え前後にロータの回動範囲を制限する構成を容易に具現化することができ、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構のベーンがハウジングに衝突してしまうことをより適切に抑制することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、オイルの温度が高いときほど、前記回動範囲を狭くするように同回動範囲を制限する際の制限の度合いを大きくすることをその要旨とする。
【0023】
オイルの温度が高いときほど、オイルの粘性が低くなり、ロータがハウジング内で相対回動しやすくなる。これに対して、上記請求項4に記載の発明のように、オイルの温度が高いときほどロータの回動範囲を狭くするように同回動範囲を制限する際の制限の度合いを大きくする構成を採用すれば、オイルの温度が高く、ロータが相対回動しやすいときほど、ロータの回動範囲が可動限界位置からより離れた位置まで制限されるようになる。したがって、オイルの粘性が低く、油圧の変動やトルク変動の影響によってロータが相対回動しやすくなっているときであっても、ベーンがハウジングに衝突してしまうことを好適に抑制することができるようになる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、オイルの温度を機関冷却水温に基づいて推定する請求項4に記載の内燃機関の制御装置である。
内燃機関の各部を循環しているオイルの温度は、機関温度が高いときほど、高くなる。これに対して、機関冷却水温は機関温度と高い相関を有しているため、オイルの温度は、機関冷却水温に基づいて推定することができる。
【0025】
機関冷却水温は機関温度を推定するための指標として広く用いられているため、多くの内燃機関には水温センサが設けられている。そのため、上記請求項5に記載されているようにオイルの温度を機関冷却水温に基づいて推定する構成を採用すれば、水温センサによって検出される機関冷却水温に基づいてオイルの温度を推定することにより、オイルの温度を検出するための油温センサを新たに設けることなくオイルの温度を推定することができるようになる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、機関冷却水温が低いときほどオイルの温度が低い旨を判定する請求項5に記載の内燃機関の制御装置である。
機関冷却水温が低いときほど、機関温度が低いことが推定されるため、内燃機関の内部を循環するオイルの温度も低いことが予想される。そのため、機関冷却水温に基づいてオイルの温度を推定する上では、請求項6に記載されているように機関冷却水温が低いときほどオイルの温度が低い旨を推定する構成を採用することが望ましい。
【0027】
尚、機関冷却水温に加えて、内燃機関における燃焼によって発生する熱量を推定する値として、燃料噴射量の積算値や吸入空気量の積算値等を参照し、これらの値に基づいてオイルの温度を推定する構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態に係る電子制御装置と、その制御対象であるバルブタイミング変更機構及びオイル循環システムの関係を示す模式図。
【図2】同実施形態に係るオイル循環システムの高リリーフ圧状態における動作態様を示す模式図。
【図3】同実施形態に係るオイル循環システムの低リリーフ圧状態における動作態様を示す模式図。
【図4】低圧制御の実行領域を示すマップ。
【図5】ロータの回動範囲を制限するか否かを判定するルーチンの処理の流れを示すフローチャート。
【図6】制限された回動範囲を示すバルブタイミング変更機構の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明に係る内燃機関の制御装置を、内燃機関を統括的に制御する電子制御装置100として具体化した一実施形態について、図1〜6を参照して説明する。
図1の上方に示されるように内燃機関のカムシャフト12には、バルブタイミング変更機構200が取り付けられている。このバルブタイミング変更機構200の外周部分に形成されたスプロケット21には、クランクシャフトに巻き掛けられたタイミングチェーンが巻き掛けられる。これにより、機関運転に伴いクランクシャフトが回転するとその駆動力がタイミングチェーンを介してバルブタイミング変更機構200に伝達され、バルブタイミング変更機構200とともにカムシャフト12が回転するようになっている。
【0030】
図1に示されるようにスプロケット21と一体に形成されたハウジング22の中には、カムシャフト12に固定されたロータ23が回動可能に収容されている。そして、このロータ23には、外側に向かって径方向に突出する4つのベーン24が設けられている一方、ハウジング22にはこれらベーン24をそれぞれ収容する4つの収容室25が設けられている。
【0031】
これにより、図1に示されるようにハウジング22内にロータ23が収容された状態において、収容室25はベーン24によって進角用油圧室26と遅角用油圧室27とに区画されている。
【0032】
このようにベーン24を挟むように形成された進角用油圧室26及び遅角用油圧室27内の油圧を調整することにより、ベーン24が収容室25内で移動し、ロータ23がハウジング22に対して相対回動するようになる。
【0033】
進角用油圧室26及び遅角用油圧室27へのオイルの供給量は、図1の中央に示されるオイルコントロールバルブ300によって制御される。尚、このオイルコントロールバルブ300を介してバルブタイミング変更機構200に導入されるオイルは図1の下方に示されるオイル循環システム400を介して供給される。
【0034】
図1の下方に示されるようにオイル循環システム400のオイルポンプ40には、供給通路41が接続されている。尚、オイルポンプ40は内燃機関のクランクシャフトに連結されており、機関運転に伴って駆動されるようになっている。
【0035】
オイル循環システム400は、オイルパン42に貯留されたオイルをオイルポンプ40によってくみ上げ、供給通路41を通じて機関各部の需要部へ供給する。尚、内燃機関の各部に供給されて潤滑等に供されたオイルは、内燃機関の内部を伝い落ちて内燃機関の下部に取り付けられたオイルパン42に再び貯留されるようになっている。
【0036】
図1に示されるように供給通路41におけるオイルポンプ40よりも下流側の部分には、リリーフバルブ50が設けられている。このリリーフバルブ50には、供給通路41におけるオイルポンプ40よりも上流側の部位に接続する還流通路43が接続されている。
【0037】
これにより、供給通路41内の油圧がリリーフバルブ50の開弁する圧力であるリリーフ圧以上になったときには、リリーフバルブ50が開弁し、供給通路41内のオイルの一部が、還流通路43を通じて供給通路41におけるオイルポンプ40よりも上流側の部位に還流されるようになっている。
【0038】
リリーフバルブ50は、後述するように、油圧切り替えバルブ60を制御することによってリリーフ圧を2段階に変更することができるように構成されている。尚、油圧切り替えバルブ60は、電子制御装置100からの駆動指令に基づいて駆動される。
【0039】
また、電子制御装置100は、オイルコントロールバルブ300にも接続されており、上述したようにオイルコントロールバルブ300を制御することによって進角用油圧室26及び遅角用油圧室27へのオイルの供給量を制御する。
【0040】
図1の中央に示されるようにバルブタイミング変更機構200の進角用油圧室26には進角用通路44が接続されており、遅角用油圧室27には遅角用通路45が接続されている。進角用通路44及び遅角用通路45は、オイルコントロールバルブ300を介して供給通路41及び排出通路46に接続されている。尚、図1にあっては、説明の便宜上、4つある収容室25のうち、1つの収容室25にのみ進角用通路44及び遅角用通路45が接続されている様子を図示しているが、実際には各収容室25の進角用油圧室26には進角用通路44がそれぞれ接続されており、各収容室25の遅角用油圧室27には遅角用通路45がそれぞれ接続されている。
【0041】
オイルポンプ40によってオイルパン42からくみ上げられたオイルは、供給通路41を通じて各油圧室26,27に選択的に供給される。また、ロータ23の回動に伴い各油圧室26,27から排出されるオイルは排出通路46を通じてオイルパン42に戻される。
【0042】
オイルコントロールバルブ300は電気的な駆動信号に基づいて駆動されるソレノイドバルブからなり、駆動信号のデューティー比の大小に応じて供給通路41及び排出通路46と進角用通路44及び遅角用通路45との接続態様を切り替える。
【0043】
例えば、オイルコントロールバルブ300は、デューティー比が50%のときに図1に示されるように上記各通路41,44,45,46の連通を全て遮断する状態になる。そして、デューティー比が50%よりも大きいときには、供給通路41と進角用通路44とを連通するとともに排出通路46と遅角用通路45とを連通する状態になり、デューティー比が大きくなるほど進角用油圧室26に供給されるオイルの量を増大させる。一方、デューティー比が50%よりも小さいときには、供給通路41と遅角用通路45とを連通するとともに排出通路46と進角用通路44とを連通する状態になり、デューティー比が小さくなるほど遅角用油圧室27に供給されるオイルの量を増大させる。
【0044】
これにより、デューティー比が50%よりも大きいときには、オイルポンプ40によってくみ上げられたオイルが供給通路41及び進角用通路44を通じて進角用油圧室26へと供給されるとともに、遅角用油圧室27内のオイルが遅角用通路45及び排出通路46を通じてオイルパン42へと戻されるようになる。こうして進角用油圧室26内の油圧が増大すると、ロータ23がハウジング22内で図1における右回り、すなわち破線矢印で示される進角側に回動する。これに伴いカムシャフト12が進角側に回動し、クランクシャフトに対するカムシャフト12の相対回転位相がバルブタイミングを進角させる方向に変位する。
【0045】
一方で、デューティー比が50%よりも小さいときには、オイルポンプ40によってくみ上げられたオイルが供給通路41及び遅角用通路45を通じて遅角用油圧室27へと供給されるとともに、進角用油圧室26内のオイルが進角用通路44及び排出通路46を通じてオイルパン42へと戻されるようになる。こうして遅角用油圧室27内の油圧が増大すると、ロータ23がハウジング22内で図1における左回り、すなわち破線矢印で示される遅角側に回動する。これに伴いカムシャフト12が遅角側に回動し、クランクシャフトに対するカムシャフト12の相対回転位相がバルブタイミングを遅角させる方向に変位する。
【0046】
また、デューティー比が50%に設定されたときには、上述したように各通路41,44,45,46が全て遮断された状態になり、各油圧室26,27内のオイルの給排が停止されるため、各油圧室26,27内の油圧によってハウジング22内でのロータ23の回動が規制され、バルブタイミングが保持される。
【0047】
こうしたバルブタイミング変更機構200によるバルブタイミングの変更は電子制御装置100によって実行される。電子制御装置100には、内燃機関のクランクシャフトの回転角CA、及びクランクシャフトの回転速度である機関回転速度NEを検出するクランク角センサ101、カムシャフト12の回転角CAMAを検出するカムポジションセンサ102が接続されている。また、機関冷却水温THWを検出する水温センサ103、内燃機関の吸入空気量GAを検出するエアフロメータ104、運転者によるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルポジションセンサ105等も接続されている。電子制御装置100は、これら各種センサから出力される信号を取り込み、各種演算処理を実行してその結果に基づいて機関各部を制御する。
【0048】
例えば、アクセル操作量ACCPに基づいて要求出力の大きさを推定し、要求出力の大きさに見合った出力を発生するように内燃機関の燃料噴射量Qを制御する。また、クランクシャフトの回転角CAと、カムシャフト12の回転角CAMAとに基づいてバルブタイミング変更機構200における現在の相対回転位相を算出する。そして、機関回転速度NEや、吸入空気量GAに基づいて最適なバルブタイミングとなるように目標位相を算出し、実際の相対回転位相がこの目標位相に一致するようにオイルコントロールバルブ300に出力する駆動信号のデューティー比を設定する。こうしてオイルコントロールバルブ300を制御することによって進角用油圧室26及び遅角用油圧室27に供給するオイルの量を調整し、クランクシャフトとカムシャフト12の相対回転位相を変更する位相変更制御を実行することにより、吸気バルブや排気バルブのバルブタイミングを機関運転状態に応じた適切なタイミングに変更する。
【0049】
また、電子制御装置100は、供給通路41を通じて内燃機関の需要部に供給されるオイルの油圧及び循環量を制御するために油圧切り替えバルブ60を操作する。
以下、本実施形態に係るオイル循環システム400におけるリリーフバルブ50の構成並びに動作について図2及び図3を参照して詳しく説明する。
【0050】
上述したように供給通路41におけるオイルポンプ40よりも下流側の部分には、リリーフバルブ50が設けられている。図2に示されるようにリリーフバルブ50にあっては、そのハウジング内に、円筒状のスリーブ51が軸方向に摺動可能に収容されている。そして、このスリーブ51の径方向の側壁には、同側壁を貫通するリリーフポート52が形成されている。また、スリーブ51の内部には、このリリーフポート52を開閉するようにスリーブ51の軸方向、すなわち図2における上下方向に摺動可能に有底円筒状の弁体55が収容されている。
【0051】
リリーフバルブ50のハウジングの図2における下方の底面には支持部材57が固定されている。そして、この支持部材57と弁体55との間には圧縮されたスプリング56が収容されている。これにより、弁体55は、スプリング56によって図2における上方、すなわちリリーフポート52を閉塞する方向に常に付勢されている。
【0052】
そのため、リリーフバルブ50にあっては、供給通路41を流れるオイルの油圧が増大して弁体55に作用する油圧が増大したときに、矢印で示されるように弁体55がスプリング56の付勢力に抗して図2における下方に変位し、リリーフポート52が開口するようになっている。
【0053】
図2の右側に示されるようにリリーフポート52は、還流通路43内に開口するように形成されている。そのため、弁体55が開弁位置、すなわちリリーフポート52が開口される位置まで変位することにより、リリーフポート52を介して供給通路41と還流通路43とが連通されるようになる。
【0054】
そして、こうしてリリーフポート52を介して供給通路41と還流通路43とが連通されると、供給通路41を流れるオイルの一部が還流通路43を通じてオイルポンプ40の上流側に還流されるようになる。
【0055】
要するに、このリリーフバルブ50にあっては、スプリング56の付勢力の大きさによってリリーフ圧が決定されている。すなわち、供給通路41を流れるオイルが弁体55を図2における下方に付勢する付勢力が、スプリング56の付勢力よりも大きくなったときにリリーフポート52が開口されて供給通路41を流れるオイルの一部がオイルポンプ40の上流側に還流されるようになる。
【0056】
図2の下方に示されるようにスリーブ51の底面51aと、支持部材57が固定されているハウジングの底面との間には背圧室58が形成されている。この背圧室58には、供給通路41を流れるオイルの一部が分岐通路61及び背圧通路62を通じて導かれるようになっている。
【0057】
上述したようにスリーブ51は、リリーフバルブ50のハウジング内において、その軸方向に摺動可能に支持されている。これにより、このリリーフバルブ50にあっては、スリーブ51の底面51aに作用する油圧に起因して同スリーブ51を図2における上方へ付勢する付勢力と、頂面51bに作用する油圧に起因して同スリーブ51を下方へ付勢する力とが発生し、その大小関係に応じてスリーブ51がハウジング内で上下方向に変位するようになっている。
【0058】
尚、スリーブ51は、背圧室58内の油圧が作用する底面51aの面積が、供給通路41を流れるオイルの油圧が作用する頂面51bの面積よりも大きくなるようにその形状が設計されている。そのため、背圧室58が分岐通路61及び背圧通路62を通じて供給通路41と連通され、スリーブ51の底面51a及び頂面51bに等しい油圧が作用するようになったときには、底面51aの受圧面積が頂面51bの受圧面積よりも大きい分だけスリーブ51を上方に付勢する力が大きくなる。その結果、スリーブ51が上方に変位し、図3に示されるようにハウジング内の上方に位置するようになる。
【0059】
図2の左側に示されるように供給通路41に接続されている分岐通路61と、背圧室58に接続されている背圧通路62との間には油圧切り替えバルブ60が設けられている。この油圧切り替えバルブ60には、更にドレン通路63が接続されており、油圧切り替えバルブ60は、図3に示されるように分岐通路61と背圧通路62とを連通する状態と、図2に示されるように背圧通路62とドレン通路63とを連通する状態とを切り替えることができるようになっている。
【0060】
ドレン通路63は供給通路41におけるオイルポンプ40よりも上流側の部位に接続されており、油圧切り替えバルブ60が背圧通路62とドレン通路63とを連通する状態に切り替えられているときに背圧室58内のオイルを供給通路41におけるオイルポンプ40よりも上流側の部分に還流させる。
【0061】
本実施形態のオイル循環システム400にあっては、油圧切り替えバルブ60を操作することにより、背圧室58内の油圧を制御し、ハウジング内におけるスリーブ51の位置を変更することによってリリーフ圧を変更する。
【0062】
具体的には、図3に示されるように分岐通路61と背圧通路62とを連通するように油圧切り替えバルブ60を操作し、供給通路41内のオイルの一部を背圧室58に導入するようにした場合には、スリーブ51の底面51aに供給通路41内のオイルの油圧と等しい油圧が作用するようになる。その結果、スリーブ51の底面51aに作用する油圧に起因してスリーブ51を図3における上方に付勢する力が、スリーブ51の頂面51bに作用する油圧に起因してスリーブ51を図3における下方に付勢する力よりも大きくなり、スリーブ51が上方に変位して図3に示されるように上方に位置するようになる。
【0063】
一方で、図2に示されるように背圧通路62とドレン通路63とを連通するように油圧切り替えバルブ60を操作した場合には、背圧室58内のオイルがドレン通路63を通じて供給通路41におけるオイルポンプ40よりも上流側の部分に還流されるようになり、背圧室58内の油圧が低下する。その結果、スリーブ51の頂面51bに作用する油圧に起因してスリーブ51を図2における下方に付勢する力が、スリーブ51の底面51aに作用する油圧に起因してスリーブ51を図2における上方に付勢する力よりも大きくなり、スリーブ51が下方に変位して図2に示されるように下方に位置するようになる。
【0064】
このようにスリーブ51がハウジング内において下方に位置している場合には、スリーブ51が図3に示されるように上方に位置している場合よりも、弁体55を開弁位置まで変位させたときのスプリング56の圧縮量が多くなる。すなわち、このときには、スリーブ51が上方に位置している場合と比較して弁体55がスプリング56から受ける付勢力が大きくなり、リリーフポート52が開口するときの供給通路41内のオイルの油圧、すなわちリリーフ圧が高くなる。
【0065】
一方で、図3に示されるようにスリーブ51がハウジング内において上方に位置している場合には、スリーブ51が下方に位置している場合よりも、弁体55を開弁位置まで変位させたときのスプリング56の圧縮量が少なくなる。すなわち、このときには、スリーブ51が下方に位置している場合と比較して弁体55がスプリング56から受ける付勢力が小さくなり、リリーフ圧が低くなる。
【0066】
このように本実施形態のオイル循環システム400によれば、油圧切り替えバルブ60を操作することによって背圧室58内の油圧を制御することができる。これにより、スリーブ51をスプリング56の伸縮方向に変位させ、リリーフ圧が高くなる高リリーフ圧状態(図2に示される状態)と、リリーフ圧が低くなる低リリーフ圧状態(図3に示される状態)とを切り替えることができる。
【0067】
本実施形態の電子制御装置100は、機関冷却水温THW、燃料噴射量Q、そして機関回転速度NEに基づいて内燃機関におけるオイルの需要の大きさを推定し、オイルの需要がそれほど大きくないときには、油圧切り替えバルブ60を操作して低リリーフ圧状態に切り替える低圧制御を実行する。
【0068】
具体的には、図4に示されるような制御切り替えマップを参照して低圧制御を実行する。この制御切り替えマップにあっては、機関回転速度NE及び燃料噴射量Qをパラメータとして境界ラインLを境に運転領域が2つに区画されている。境界ラインLを境に区画された2つの運転領域は、図4に示されるように境界ラインLよりも低回転速度側且つ低噴射量側の領域が低圧制御を実行する低圧制御領域にされている一方、境界ラインLよりも高回転速度側且つ高噴射量側の領域が低圧制御を実行しない高圧制御領域にされている。
【0069】
尚、境界ラインLは機関冷却水温THWに応じて変位するようになっている。具体的には、図4に矢印で示されるように機関冷却水温THWが低いときほど低圧制御領域が広くなる一方、機関冷却水温THWが高いときほど低圧制御領域が狭くなるように変位する。例えば、機関冷却水温THWが低いときには、境界ラインLが実線で示される位置から破線L1で示される位置に変位する。そして、それよりも更に機関冷却水温THWが低いときには境界ラインLが破線L2で示される位置に変位する。
【0070】
電子制御装置100は、この切り替えマップを参照し、そのときの機関冷却水温THW、燃料噴射量Q、そして機関回転速度NEに基づいて現在の運転状態が低圧制御領域に属するのか高圧制御領域に属するのかを判定する。そして、低圧制御領域に属している状態が所定の期間、例えば1秒間継続したときには、それに基づいて油圧切り替えバルブ60を操作して低リリーフ圧状態に切り替える低圧制御を実行する。また、低圧制御を実行しているときに高圧制御領域に属している状態が所定の期間、例えば1秒間継続したときには、それに基づいて油圧切り替えバルブ60を操作して高リリーフ圧状態に切り替え、低圧制御を終了させる。
【0071】
尚、低回転速度側且つ低噴射量側の低圧制御領域に属しているときに低圧制御を実行するのは、機関回転速度NEが低いときや燃料噴射量Qが少ないときには、ピストンやクランクシャフトを潤滑するために必要とされるオイルの量が少なくてすむためである。すなわち、低圧制御領域に属しているときには、ピストンやクランクシャフトの運動速度が低く、燃焼室で発生する燃焼熱も小さいため、オイルの需要がそれほど大きくないことが推定される。そこで、本実施形態の電子制御装置100は、低圧制御領域に属している状態が所定の期間継続していることに基づいてオイルの需要がそれほど大きくないことを判定し、低圧制御を実行するようにしているのである。
【0072】
このようにオイルの需要が小さいときに、低リリーフ圧状態に切り替えて供給通路41内を流れるオイルの油圧を低下させる低圧制御を実行すれば、オイルの循環量を制限し、内燃機関に作用するオイルポンプ40の駆動負荷を低減して内燃機関の燃料消費量を抑制することができるようになる。すなわち、必要な量に合わせてオイルの循環量を制限し、必要以上にオイルを圧送することによるオイルポンプ40の余分な駆動を抑制して、燃料を節約することができるようになる。
【0073】
また、内燃機関の暖機が完了していない機関冷間時に、低圧制御を実行することにより、機関各部の冷却に供されるオイルの循環量が低減されて機関各部の温度が内燃機関の燃焼熱によって速やかに上昇するようになり、暖機の早期完了を図ることもできるようになる。
【0074】
ところで、バルブタイミング変更機構200は、タイミングチェーンを介してクランクシャフトに連結されているため、内燃機関の出力トルクが変動すると、そのトルク変動がタイミングチェーンを介してバルブタイミング変更機構200にも入力されるようになる。すなわち、トルク変動が生じた場合には、タイミングチェーンを介してクランクシャフトに連結されているバルブタイミング変更機構200のハウジング22にそのトルク変動が伝達されるため、ハウジング22とロータ23との間にはハウジング22内でロータ23を相対回動させるような力が作用することになる。
【0075】
また、オイルの循環量を制限する低圧制御とオイルの循環量を制限しない高圧制御とを切り替えたときには、バルブタイミング変更機構200の各油圧室26,27に供給される油圧も変動する。そのため、その油圧の変動やその影響による油圧の脈動によってもハウジング22とロータ23との間にはハウジング22内でロータ23を相対回動させるような力が作用することになる。
【0076】
したがって、オイルの循環量を変更すべく低圧制御と高圧制御とを切り替えた場合には、油圧の変動による力とトルク変動による力が重なってハウジング22内でロータ23が回動してしまいしやすく、ベーン24がハウジング22に衝突してしまうおそれがある。
【0077】
そこで、本実施形態の電子制御装置100にあっては、高圧制御と低圧制御との切り替え前後にロータ23の回動範囲を制限し、ベーン24をハウジング22と衝突しない位置まで退避させるようにしている。
【0078】
以下、図5のフローチャートを参照してロータ23の回動範囲を制限するか否かを判定するためのルーチンの処理の流れを説明する。尚、このルーチンは、電子制御装置100によって機関運転中に所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0079】
このルーチンを開始すると電子制御装置100は、まずステップS100において、低圧制御と高圧制御との切り替え前後であるか否かを判定する。
ステップS100において低圧制御と高圧制御との切り替え前後ではない旨の判定がなされた場合(ステップS100:NO)には、ステップS200へと進み、電子制御装置100は上述したように図4に示した切り替えマップを参照して通常の制御を実行する。
【0080】
一方、ステップS100において低圧制御と高圧制御の切り替え前後である旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)には、ステップS300へと進み、電子制御装置100はバルブタイミング変更機構200を操作してクランクシャフトとカムシャフト12の相対回転位相を変更する位相変更制御におけるロータ23の回動範囲を制限する。
【0081】
図6に示されるようにベーン24が収容室25内に収容されているため、通常のロータ23の可動範囲は、ベーン24が収容室25の進角側の側壁25aに当接する位置からベーン24が遅角側の側壁25bに当接する位置までの間の範囲、すなわち図6における「R1」と「R3」と「R2」とを全て加えた範囲になっている。
【0082】
これに対して、このステップS300にあっては、位相変更制御における目標位相の設定範囲を通常よりも狭めることによってバルブタイミングの進角量及び遅角量を制限し、ロータ23を可動限界位置まで変位させないようにする。
【0083】
具体的には、ロータ23の回動範囲を図6における「R3」のみに制限するように目標位相の設定範囲を制限する。これにより、図6に実線で示されるように最も進角側に変位させた場合であってもベーン24が進角側の側壁25aから離間した状態になり、図6に破線で示されるように最も遅角側に変位させた場合であってもベーン24が遅角側の側壁25bから離間した状態になるようにする。
【0084】
尚、ロータ23の回動範囲を制限した状態において最低限確保される各側壁25a、25bとベーン24との離間量、すなわち図6における「R1」及び「R2」の大きさは、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動量に基づいて設定されている。具体的には低圧制御と高圧制御が切り替えられて油圧が変動した場合であっても、ベーン24がハウジング22に衝突しなくなるようにその大きさが設定されている。すなわち、「R3」の範囲内でベーン24を変位させている限り、低圧制御と高圧制御が切り替えられて油圧が変動した場合であっても、ベーン24がハウジング22に衝突しなくなるようにその大きさが設定されている。
【0085】
このように本実施形態の電子制御装置100にあっては、機関運転中に図5に示されるルーチンを繰り返し実行することにより、低圧制御と高圧制御との切り替え前後のときに、ロータ23の回動範囲を制限するようにしている。
【0086】
尚、本実施形態では、上述した切り替えマップを参照することにより、低圧制御と高圧制御との切り替え前後であることを判定するようにしている。
具体的には、運転状態が低圧制御領域から高圧制御領域に移行したとき及び高圧制御領域から低圧制御領域に移行したときにそのことに基づいて低圧制御と高圧制御との切り替えが実行される直前の状態である旨を判定するようにしている。そして、低圧制御領域にある状態又は高圧制御領域にある状態が所定の期間以上継続したときに、低圧制御と高圧制御との切り替え後の状態を脱した旨を判定し、ロータの回動範囲の制限を解除するようにしている。
【0087】
次に上記のように構成された電子制御装置100の作用について説明する。
上記実施形態によれば、高圧制御と低圧制御との切り替え前後は、ロータ23を可動限界位置、すなわちベーン24が進角側の側壁25aに当接する位置や遅角側の側壁25bに当接する位置まで回動しないようにロータ23の回動範囲が制限されるようになる。これにより、低圧制御と高圧制御との切り替えが行われる前にベーン24を収容室25の進角側の側壁25a及び収容室25の遅角側の側壁25bから離間した位置に退避させることができる。
【0088】
これにより、上記の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)低圧制御と高圧制御との切り替えが行われる前にベーン24を収容室25の進角側の側壁25a及び収容室25の遅角側の側壁25bから離間した位置に退避させることができる。そのため、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動の影響によってハウジング22内でロータ23が回動してしまった場合であってもベーン24がハウジング22に衝突しにくくなる。
【0089】
したがって、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構200のベーン24がハウジング22に衝突してしまうことを抑制することができる。
【0090】
(2)低圧制御と高圧制御とを切り替える具体的な方法としては、上記実施形態のように切り替えマップを参照する方法を採用することができる。
そして、上記実施形態にあっては、低圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに低圧制御の実行を開始する一方、高圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに低圧制御の実行を終了して高圧制御に切り替える構成を採用している。そして、低圧制御領域から高圧制御領域に移行したとき及び高圧制御領域から低圧制御領域に移行したときに、ロータ23の回動範囲の制限を開始する構成を採用している。
【0091】
そのため、運転状態が低圧制御領域から高圧制御領域に移行したこと又は高圧制御領域から低圧制御領域に移行したことに基づいてオイルの循環態様が実際に切り替えられる前に切り替えが行われる可能性が高いことを推定し、それに基づいてロータ23の回動範囲の制限を事前に開始することができる。
【0092】
したがって、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構200のベーン24がハウジング22に衝突してしまうことを的確に抑制することができる。
【0093】
(3)低圧制御領域にある状態又は高圧制御領域にある状態が所定の期間以上継続したときに、ロータ23の回動範囲の制限を解除する構成を採用している。そのため、オイルの循環態様が切り替えられたあとも回動範囲の制限が所定の期間継続されて、高圧制御と低圧制御との切り替えによる油圧の変動の影響が小さくなってから回動範囲の制限が解除されるようになる。
【0094】
したがって、切り替えマップを参照することによって高圧制御と低圧制御との切り替え前後にロータ23の回動範囲を制限する構成を容易に具現化することができ、低圧制御と高圧制御との切り替えに伴う油圧の変動によってバルブタイミング変更機構200のベーン24がハウジング22に衝突してしまうことをより適切に抑制することができる。
【0095】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・オイルの温度が高いときほど、オイルの粘性が低くなり、ロータ23がハウジング22内で相対回動しやすくなる。そのため、オイルの温度が高いときほどロータ23の回動範囲を狭くするように同回動範囲を制限する際の制限の度合いを大きくする構成を採用すれば、オイルの温度が高く、ロータ23が相対回動しやすいときほど、ロータ23の回動範囲が可動限界位置からより離れた位置まで制限されるようになる。したがって、上記実施形態の構成に加えて、オイルの温度が高いときほどロータ23の回動範囲の制限の度合いを大きくする構成を採用すれば、上記(1)〜(3)の効果に加えて下記の(4)の効果を得ることができる。
【0096】
(4)オイルの温度が高く、ロータ23が相対回動しやすいときほど、ロータ23の回動範囲が可動限界位置からより離れた位置まで制限されるようになる。したがって、オイルの粘性が低く、油圧の変動やトルク変動の影響によってロータ23が相対回動しやすくなっているときであっても、ベーン24がハウジング22に衝突してしまうことを好適に抑制することができる。
【0097】
・また、内燃機関の各部を循環しているオイルの温度は、機関温度が高いときほど、高くなる。これに対して、機関冷却水温THWは機関温度と高い相関を有しているため、オイルの温度は、機関冷却水温THWに基づいて推定することが望ましい。
【0098】
機関冷却水温THWは機関温度を推定するための指標として広く用いられているため、多くの内燃機関には水温センサ103が設けられている。そのため、オイルの温度を機関冷却水温THWに基づいて推定する構成を採用すれば、水温センサ103によって検出される機関冷却水温THWに基づいてオイルの温度を推定することにより、オイルの温度を検出するための油温センサを新たに設けることなく、オイルの温度を推定することができるようになる。
【0099】
・機関冷却水温THWが低いときほど、機関温度が低いことが推定されるため、内燃機関の内部を循環するオイルの温度も低いことが予想される。そのため、機関冷却水温THWに基づいてオイルの温度を推定する上では、機関冷却水温THWが低いときほどオイルの温度が低い旨を推定する構成を採用することが望ましい。
【0100】
尚、機関冷却水温THWに加えて、内燃機関における燃焼によって発生する熱量を推定する値として、燃料噴射量Qの積算値や吸入空気量GAの積算値等を参照し、これらの値に基づいてオイルの温度を推定する構成を採用することもできる。
【0101】
・もちろんオイルの温度を直接検出する油温センサを設け、オイルの温度を直接検出する構成を採用することもできる。
・上記実施形態にあっては、デューティー比が大きくなるほど進角用油圧室26へのオイルの供給量が増大するように構成されたオイルコントロールバルブ300を示したが、本願発明はこうした構成のオイルコントロールバルブ300を備えるものに限定されるものではない。
【0102】
例えば、上記の実施形態とは反対にデューティー比が小さくなるほど進角用油圧室26へのオイルの供給量が増大するように構成されたオイルコントロールバルブを備える内縁機関を制御する制御装置として本願発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0103】
12…カムシャフト、21…スプロケット、22…ハウジング、23…ロータ、24…ベーン、25…収容室、25a,25b…側壁、26…進角用油圧室、27…遅角用油圧室、40…オイルポンプ、41…供給通路、42…オイルパン、43…還流通路、44…進角用通路、45…遅角用通路、46…排出通路、50…リリーフバルブ、51…スリーブ、51a…底面、51b…頂面、52…リリーフポート、55…弁体、56…スプリング、57…支持部材、58…背圧室、60…油圧切り替えバルブ、61…分岐通路、62…背圧通路、63…ドレン通路、100…電子制御装置、101…クランク角センサ、102…カムポジションセンサ、103…水温センサ、104…エアフロメータ、105…アクセルポジションセンサ、200…バルブタイミング変更機構、300…オイルコントロールバルブ、400…オイル循環システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に形成された収容室をカムシャフトに連結されたロータから径方向に突出しているベーンによって区画することにより進角用油圧室と遅角用油圧室とを形成し、これら各油圧室内の油圧を制御することによって前記ハウジング内で前記ロータを回動させてバルブタイミングを変更するバルブタイミング変更機構と、前記各油圧室を含む需要部へのオイルの循環量を低減させる低圧制御を実行することのできるオイル循環システムとを備え、前記需要部におけるオイルの需要が少ないときに前記低圧制御を実行して内燃機関に作用するオイルポンプの駆動負荷を低減させる内燃機関の制御装置において、
前記低圧制御を実行しない高圧制御と前記低圧制御との切り替え前後にあっては、前記ロータを可動限界位置まで回動させないように前記ロータの回動範囲を制限する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記低圧制御を実行する低圧制御領域と前記低圧制御を実行しない高圧制御領域とが区分されている切り替えマップを参照して現在の運転状態が前記低圧制御領域にあるか前記高圧制御領域にあるかを判定し、前記低圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに前記低圧制御の実行を開始する一方、前記高圧制御領域にある旨の判定が所定の期間継続したときに前記低圧制御の実行を終了する請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記低圧制御領域から前記高圧制御領域に移行したとき及び前記高圧制御領域から前記低圧制御領域に移行したときに、前記ロータの回動範囲の制限を開始する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記低圧制御領域にある状態又は前記高圧制御領域にある状態が所定の期間以上継続したときに、前記ロータの回動範囲の制限を解除する
請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、
オイルの温度が高いときほど、前記回動範囲を狭くするように同回動範囲を制限する際の制限の度合いを大きくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
オイルの温度を機関冷却水温に基づいて推定する
請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
機関冷却水温が低いときほどオイルの温度が低い旨を判定する
請求項5に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−184675(P2012−184675A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46668(P2011−46668)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】