説明

内燃機関の制御装置

【課題】燃料性状を検出する機能を有する制御装置において、発熱量とストイキ空燃比との関係を利用して制御を行う。
【解決手段】空燃比が目標ストイキ空燃比に近づくように燃料噴射量を制御する空燃比制御手段を有する内燃機関の制御装置において、燃料の低位発熱量を算出する手段と、低位発熱量とストイキ空燃比との既知の関係(図2)に基づいて、前記算出した低位発熱量から前記目標ストイキ空燃比を設定する手段と、を更に備える。発熱量とストイキ空燃比との関係を利用して、燃料性状に応じた空燃比制御を行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、燃料性状を検出する機能を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料の成分は多様であり、またガソリンにエタノールやメタノールを混合したアルコール混合燃料のような混合燃料を用いる内燃機関も実用化されている。このため、燃料の性状を車両側で検出できることが望ましい。
【0003】
燃料性状を車両側で検出する目的から、特許文献1に開示された装置は、始動不良が検出された場合に空燃比を補正し、その空燃比補正量から理論空燃比(ストイキ空燃比)を推定し、この理論空燃比からオクタン価を推定している。
【0004】
また、特許文献2に開示された装置は、筒内圧の検出値から筒内の発熱量を算出し、燃料の低位発熱量を求めることで燃料性状を検出している。
【0005】
また、特許文献3は、燃料中のアルコール濃度と、理論空燃比と、ガソリンの重質度との関係を示すデータを格納した記憶手段を備え、アルコール濃度および理論空燃比(ストイキ空燃比)のデータと比較することにより、ガソリンの重質度を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−170581号公報
【特許文献2】特開昭64−88153号公報
【特許文献3】特許2907594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置は、始動不良を検出した場合でないと燃料性状を検出できず、また、空燃比をストイキ空燃比に収束させるのに時間を要する。特許文献2の装置は、空燃比を制御できない。特許文献3の装置は、アルコール濃度とストイキ空燃比を何らかの手段で求める必要があり、より簡易な手段が望まれる。他方、発熱量とストイキ空燃比との関係を利用した制御装置は従来存在しない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、燃料性状を検出する機能を有する制御装置において、発熱量とストイキ空燃比との関係を利用して制御を行う新規な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、排ガスの空燃比検出値に基づいてストイキ空燃比を算出する手段を有する内燃機関の制御装置において、低位発熱量とストイキ空燃比との既知の関係に基づいて、前記算出されたストイキ空燃比から燃料の低位発熱量を算出する手段を更に備えたことを特徴とする。この態様では、発熱量とストイキ空燃比との関係を利用して、逆にストイキ空燃比から発熱量を算出することが可能になり、発熱量を算出するための新たな手段を提供できる。
【0010】
この態様では更に、筒内圧検出値に基づいて低位発熱量を算出する手段と、ストイキ空燃比に基づいて算出した低位発熱量の値と、筒内圧検出値に基づいて算出した低位発熱量の値との比較に基づいて、前記筒内圧検出値に基づいて低位発熱量を算出する手段および前記排ガスの空燃比検出値に基づいてストイキ空燃比を算出する手段のうち少なくとも一方を診断する診断手段と、を更に備えてもよい。この場合には検出システムを診断するための新たな手段を提供できる。
【0011】
筒内圧センサの検出値から熱発生量を求めるには、検出された筒内圧Pと、前記筒内圧Pの検出時点における燃焼室容積Vを供給される混合気の比熱比κ近傍の値で累乗した値との積値PVκを、前記熱発生量パラメータとして算出することが好ましい。気体の状態方程式:PV=nRT(P:圧力、V:体積、n:気体のモル数、R:気体定数(J/mol・K)、T:温度(K))から、断熱変化においてはPVκ=一定となることがわかっている。そのため、燃焼室内において燃料の燃焼が生じたときのPVκの変化量(すなわち2点間の差分)は、該燃焼により生じたエネルギーに依存する。従って、PVκは燃焼室内での熱発生量と相関が高く、このPVκを熱発生量パラメータとして燃料性状を判定することによって、より高精度で該燃料の性状を判定することができる。筒内圧Pは筒内圧センサによって直接検出することができ、体積(筒内容積)Vは所定のマップまたは関数によってクランク角から一義的に求めることができる。定数κは、燃焼室において形成される混合気の比熱比近傍の値であればよく、また予め定められた固定値であっても、吸入空気量や燃料噴射量等に応じて変更するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による制御装置が適用された内燃機関を示す概略構成図である。
【図2】ストイキ空燃比/低位発熱量比マップの構成例を示すグラフである。
【図3】第1実施形態における燃料性状判別処理を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態における空燃比フィードバック制御の実行例を示すグラフである。
【図5】第2実施形態における燃料性状判別処理を示すフローチャートである。
【図6】第3実施形態における筒内圧検出系の診断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。
【0014】
図1は、本発明による制御装置が適用された内燃機関を示す概略構成図である。同図に示される内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生するものである。内燃機関1は、ガソリンによる運転、およびガソリンとアルコールとの混合燃料による運転が可能である。内燃機関1は多気筒エンジンとして構成されると好ましく、本実施形態の内燃機関1は、例えば4気筒エンジンとして構成される。
【0015】
各燃焼室3の吸気ポートは、吸気管(吸気マニホールド)5にそれぞれ接続され、各燃焼室3の排気ポートは、排気管6(排気マニホールド)にそれぞれ接続されている。また、内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気弁Viおよび排気弁Veが燃焼室3ごとに配設されている。各吸気弁Viは対応する吸気ポートを開閉し、各排気弁Veは対応する排気ポートを開閉する。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは、可変バルブタイミング機構を含む動弁機構VMによって開閉させられる。更に、内燃機関1は、気筒数に応じた数の点火プラグ7を有し、点火プラグ7は、対応する燃焼室3内に臨むようにシリンダヘッドに配設されている。
【0016】
吸気管5は、図1に示されるように、サージタンク8に接続されている。サージタンク8には、給気ラインL1が接続されており、給気ラインL1は、エアクリーナ9を介して図示されない空気取入口に接続されている。そして、給気ラインL1の中途(サージタンク8とエアクリーナ9との間)には、スロットルバルブ(本実施形態では、電子制御式スロットルバルブ)10が組み込まれている。一方、排気管6には、図1に示されるように、例えば三元触媒を含む前段触媒装置11aおよび例えばNOx吸蔵還元触媒を含む後段触媒装置11bが接続されている。
【0017】
更に、内燃機関1は、複数のインジェクタ12を有し、各インジェクタ12は、図1に示されるように、対応する燃焼室3内に臨むようにシリンダヘッドに配置されている。また、内燃機関1の各ピストン4は、いわゆる深皿頂面型に構成されており、その上面に、凹部4aを有している。そして、内燃機関1では、各燃焼室3内に空気を吸入させた状態で、各インジェクタ12から各燃焼室3内のピストン4の凹部4aに向けてガソリン等の燃料が直接噴射される。
【0018】
これにより、内燃機関1では、点火プラグ7の近傍に燃料と空気との混合気の層が周囲の空気層と分離された状態で形成(成層化)されるので、極めて希薄な混合気を用いて安定した成層燃焼を実行することが可能となる。なお、本実施形態の内燃機関1は、いわゆる直噴エンジンとして説明されるが、これに限られるものではなく、本発明が吸気管(吸気ポート)噴射式の内燃機関に適用され得ることはいうまでもない。
【0019】
上述の各点火プラグ7、スロットルバルブ10、各インジェクタ12および動弁機構VM等は、内燃機関1の制御装置として機能するECU20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および、記憶装置等を含むものである。ECU20には、図1に示されるように、内燃機関1のクランク角センサ14を始めとした各種センサが電気的に接続されている。ECU20は、記憶装置に記憶されている各種マップ等を用いると共に各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12、動弁機構VM等を制御する。
【0020】
また、内燃機関1は、半導体素子、圧電素子、磁歪素子あるいは光ファイバ検出素子等を含む筒内圧センサ(筒内圧検出手段)15を気筒数に応じた数だけ有している。各筒内圧センサ15は、対応する燃焼室3内に受圧面が臨むようにシリンダヘッドに配設されており、図示されないA/D変換器等を介してECU20に電気的に接続されている。各筒内圧センサ15は、燃焼室3内でその受圧面に加わる圧力(筒内圧力)を大気圧に対する相対値として出力するものであり、その受圧面に加わる圧力(筒内圧力)に応じた電圧信号(検出値を示す信号)をECU20に与える。
【0021】
更に、内燃機関1は、サージタンク8内の吸入空気の圧力(吸気圧)を絶対圧力として検出する吸気圧センサ16を有している。吸気圧センサ16も、図示されないA/D変換器等を介してECU20に電気的に接続されており、検出したサージタンク8内の吸入空気の絶対圧力を示す信号をECU20に与える。なお、クランク角センサ14、吸気圧センサ16の検出値は、微小時間おきにECU20に順次与えられ、ECU20の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。また、各筒内圧センサ15の検出値(筒内圧力)は、吸気圧センサ16の検出値に基づいて絶対圧補正された上で、ECU20の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。
【0022】
更に内燃機関1は、排気管6内の空燃比を検出するA/Fセンサ17と、排気管6内の酸素濃度を検出するO2センサ18とを前段触媒装置11aの前段に有しており、これらA/Fセンサ17およびO2センサ18は、検出信号をそれぞれECU20に与える。A
/Fセンサ17は、内燃機関1で燃焼された混合気の空燃比に比例した出力電圧を発生する全域空燃比センサ(リニア空燃比センサ)である。O2センサ18は、内燃機関1で燃焼された混合気の空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかをオン−オフ的に検出する。
【0023】
ECU20のROMには、予め作成された図2に示されるようなストイキ空燃比/低位発熱量比マップが格納されている。同マップは、ストイキ空燃比と低位発熱量比との既知の関係を記憶したものであり、これらの一方の値から他方の値を検索可能に構成されている。ここにいうストイキ空燃比とは、空気中の酸素と燃料が過不足なく反応し完全燃焼するときの空燃比である。ここにいう低位発熱量比とは、燃料の低位発熱量が規範ガソリン燃料の低位発熱量に対してなす比率である。図2に示されるように、ストイキ空燃比と低位発熱量比とは概ね比例関係にある。
【0024】
ECU20のROMには、予め作成された2種類の燃料噴射量マップ、2種類の噴射時期マップ、および2種類の点火時期マップが格納されている。各2種類のマップのうちの
一方はガソリン燃料に、また他方はガソリン・アルコール混合燃料に対応している。なお、各マップは、例えば吸入空気量およびエンジン回転数を入力変数とし、これらの値に対応して、燃料噴射量、噴射時期および点火時期を読み出すことができるように構成されている。またECU20のROMには更に、これら各マップから読み出された燃料噴射量、噴射時期および点火時期に対して、吸気温、スロットル開度、およびエンジン水温などの運転状態を示す他の各種パラメータに基づいて補正を行うための関数およびプログラムが格納されている。
【0025】
本実施形態では、空燃比が目標ストイキ空燃比に近づくように燃料噴射量を制御する空燃比フィードバック制御が行われる。この空燃比フィードバック制御は、具体的には、予め設定されている目標ストイキ空燃比A/Ftgtと、A/Fセンサ17の検出値との偏差を求め、偏差に応じた量、燃料噴射量を偏差が0に近づく方向に変更することで実行される。
【0026】
次に、図3を参照しながら、上述の内燃機関1において燃料性状を判別する手順について説明する。内燃機関1を始動させるように不図示のイグニッションキーが操作されると、ECU20によって図3に示される燃料性状判別処理が所定期間おきに繰返し実行される。図3において、ECU20は、まず、エンジン条件を示すパラメータを読み込む(S10)。ここで読み込まれるパラメータは、筒内圧P、クランク角θ及び燃料噴射量Tauである。これらのパラメータは、気筒ごとに、予め定められた複数のクランク角θについて取得され、ECU20の所定の記憶領域に格納される。
【0027】
次にECU20は、熱発生量パラメータとして、所定の基準クランク角における筒内圧P、筒内容積V、および上述のとおり予め定められた比熱比κまたはその近傍の値から、PVκの値を各気筒について算出し(S20)、ECU20の所定の記憶領域に格納する。
【0028】
全気筒についての検出および演算が終了すると、ECU20は、低位発熱量比RQを算出する(S30)。ここにいう低位発熱量比は、検出対象となる燃料の低位発熱量が、規範ガソリン燃料の低位発熱量に対してなす比である。具体的には、ECU20は次の数式
(1)により、ステップS40で算出したPVκの吸気下死点からの上昇量ΔPVκを当該燃料の図示発熱量Qindとみなし、これを規範ガソリン燃料の所定単位あたりの低位発熱量Qref、検出期間における燃料噴射量Tau、および低位発熱量に換算するための換算係数xで除して、低位発熱量比RQを算出する。
【0029】
【数1】

【0030】
この低位発熱量比RQの値は燃料の性状に応じて異なり、アルコール混合燃料の場合には、ガソリン燃料の場合よりも小さい値となる。
【0031】
そして、低位発熱量比RQによって、上述したストイキ空燃比/低位発熱量比マップ(図2)を参照し、これに対応するストイキ空燃比AFtgtを算出する(S40)。ここで算出されたストイキ空燃比AFtgtは、後述する空燃比フィードバック制御において目標ストイキ値として用いられる。
【0032】
次に、ECU20は算出されたストイキ空燃比AFtgtを、規範ガソリン燃料に対応する値として予め定められたしきい値と比較し(S50)、しきい値より小さい場合には、アルコール混合燃料と判定して、所定の混合燃料使用フラグをセットする(S60)。またストイキ空燃比AFtgtがしきい値以上である場合には、ガソリン燃料と判定して、混合燃料使用フラグをリセットする(S80)。
【0033】
そしてこれらの燃料着火性判断(S60,S80)に応答して、ECU20は運転マップの切替を行う(S70)。具体的には、上記混合燃料使用フラグの参照に応じて、各2種類の燃料噴射量マップ、燃料噴射時期マップおよび点火時期マップのうち、アルコール混合燃料が使用されている場合にはアルコール混合燃料用のものが選択され、ガソリン燃料が使用されている場合にはガソリン燃料用のものが選択されて、燃料噴射量・噴射時期および点火時期の制御にそれぞれ使用される。
【0034】
以上の処理の結果、ストイキ空燃比AFtgtがしきい値よりも小さい場合に、アルコール混合燃料用の制御マップが選択され、エンジンの制御に使用されることになる。
【0035】
他方、ステップS40で算出されたストイキ空燃比AFtgtは、空燃比フィードバック制御において目標値として用いられる。空燃比フィードバック制御は、排気通路中に設置されたA/Fセンサ17の検出値AFが目標ストイキ空燃比AFtgtに一致するように燃料噴射量を制御するものであり、具体的には、目標ストイキ空燃比AFtgtと検出値AFとの偏差に比例ゲインKcを乗じて補正量を算出し、この補正量を現在の燃料噴射量に加算又は減算するものである。なお、この空燃比フィードバック制御における制御系は、フィードバック補正量を算出する調節部の動作が比例(P)動作(P項)だけではなく、定常偏差をなくする作用を有する積分(I)動作(I項)、積分動作の導入による制御の不安定性を回避する微分(D)動作(D項)を有することとしてもよい(いわゆるPID制御)。しかして本実施形態では、目標ストイキ空燃比AFtgtが燃料性状に応じて変更されるので(S40)、燃料性状に応じた適正なストイキ空燃比で運転が行われることになる。
【0036】
以上のとおり、本実施形態では、燃料の低位発熱量Qindを算出し、算出した低位発熱量に基づいて目標ストイキ空燃比AFtgtを設定するので(S40)、発熱量とストイキ空燃比との関係を利用して、燃料性状に応じた空燃比制御を行うことが可能になる。
【0037】
また、本実施形態では燃料の低位発熱量Qindを、筒内圧センサの検出値Pから得られる熱発生量を用いて算出するので、簡易な構成によって本発明に所期の効果を得ることができる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の装置は、排ガス中の成分に基づいてストイキ空燃比を算出する手段を有する内燃機関の制御装置において、ストイキ空燃比に基づいて低位発熱量を算出する手段を更に備えたことを特徴とする。第2実施形態の機械的構成は第1実施形態と同様であるため、その詳細の説明は省略する。
【0039】
本実施形態では、本発明に係る燃料性状判定処理とは別途に、O2センサ18の検出値に基づいて燃料噴射量を制御することで、空燃比をリーン側とリッチ側とに所定時間ごとに反転させながら、空燃比をストイキ空燃比に維持するO2フィードバック制御が行われる。そして、同制御の実行中におけるO2センサ18の検出値とA/Fセンサ17の検出値とに基づいてストイキ空燃比を算出し、このストイキ空燃比に基づいて燃料性状を判定する。
【0040】
図5の処理ルーチンはO2フィードバック制御が実行中であることを条件に実行される。まずECU20はO2センサ18の出力を読み込み(S110)、メモリに格納する。次にECU20は、A/Fセンサ17出力を読み込み(S120)、メモリに格納する。これらステップS110,120の処理は、O2センサの出力信号の反転の所定周期にわたって(S130)繰返し実行される。周期のカウントは、インジェクタ12に対する動作指令出力を利用して行ってもよく、O2センサの出力信号自体を解析して行ってもよい。
【0041】
所定周期のO2センサ出力及びA/Fセンサ出力が得られると、次にECU20は、格納されている複数周期分のO2センサ18の出力値を、最大値を1とし最小値を0として0〜1に正規化する(S140)。
【0042】
次にECU20は、このようにして正規化されたO2センサ18の出力値O2i(i=1
〜k)と、これに対応するタイミングで取得されたA/Fセンサ17の出力値AFi(i
=1〜k)とを用い、次の数式(2)により、O2iで重み付けされたAFiの重み付き平均(加重平均)である重み付き平均ストイキ空燃比AFstを算出する(S150)。
【0043】
【数2】

【0044】
そしてECU20は、算出された重み付き平均ストイキ空燃比AFstによって、上述したストイキ空燃比/低位発熱量比マップ(図2)を参照し、これに対応する低位発熱量比RQを算出する(S160)。
【0045】
次に、ECU20は算出された低位発熱量比RQを、規範ガソリン燃料に対応する値として予め定められたしきい値と比較し(S170)、しきい値より小さい場合には、アルコール混合燃料と判定して、所定の混合燃料使用フラグをセットする(S180)。また低位発熱量比RQがしきい値以上である場合には、ガソリン燃料と判定して、混合燃料使用フラグをリセットする(S200)。
【0046】
そしてこれらの燃料着火性判断(S180,S200)に応答して、ECU20は運転マップの切替を行う(S190)。具体的には、上記混合燃料使用フラグの参照に応じて、各2種類の燃料噴射量マップ、燃料噴射時期マップおよび点火時期マップのうち、アルコール混合燃料が使用されている場合にはアルコール混合燃料用のものが選択され、ガソリン燃料が使用されている場合にはガソリン燃料用のものが選択されて、燃料噴射量・噴射時期および点火時期の制御にそれぞれ使用される。以上の処理の結果、低位発熱量比R
Qがしきい値よりも小さい場合に、アルコール混合燃料用の制御マップが選択され、エンジンの制御に使用されることになる。
【0047】
他方、ステップS150で算出された重み付き平均ストイキ空燃比AFstは、空燃比フィードバック制御において目標値として用いられ、排気通路中に設置されたA/Fセンサ17の検出値AFが目標値であるストイキ空燃比AFstに一致するように燃料噴射量が制御される。
【0048】
以上のとおり、第2実施形態では、発熱量とストイキ空燃比との関係を利用して、逆にストイキ空燃比から発熱量を算出することが可能になり、発熱量を算出するための新たな手段を提供できる。したがって、筒内圧センサ15を用いた発熱量の算出自体を不要にすることも可能になる。また、本実施形態ではA/Fセンサ17の出力の単純平均でなく、酸素濃度で重み付けされた重み付き平均を用いるため、O2フィードバック制御による安定したストイキ点が得られていない状態であっても、重み付き平均ストイキ空燃比を算出できるという利点がある。
【0049】
次に、第3実施形態について説明する。上述した第2実施形態ではストイキ空燃比に基づいて低位発熱量を算出したが、第3実施形態は当該処理に係る部分(ステップS110
〜S160)と同様の処理を利用し、更に、ストイキ空燃比に基づいて算出した低位発熱量の値(低位発熱量比RQ1)と、筒内圧に基づいて算出した低位発熱量の値(低位発熱量比RQ2)との比較に基づいて、筒内圧検出系を診断するものである。ここにいう筒内圧検出系とは、筒内圧センサ15および同センサからECU20への伝送経路、ならびに筒内圧検出値を用いて燃料性状を判定する一連の処理を行うプログラム及び各種基準値を含む。第3実施形態の機械的構成は第1実施形態と同様であるため、その詳細の説明は省略する。
【0050】
第3実施形態の制御について説明する。図6において、まずECU20は、ストイキ空燃比に基づいて低位発熱量の値(低位発熱量比RQ1)を算出する(S210)。このステップS210における処理は、上記ステップS110〜S160と同様である。
【0051】
次にECU20は、筒内圧に基づいて低位発熱量の値(低位発熱量比RQ2)を算出する
(S220)。このステップS220における処理は、上記第1実施形態におけるステップS10〜S30のものと同様である。
【0052】
そしてECU20は、筒内圧に基づいて算出した低位発熱量比RQ2が、ストイキ空燃比に基づいて算出した低位発熱量比RQ1と所定範囲内で一致するかを判定し(S230)、肯定の場合には、筒内圧検出系が正常と判定して、所定の筒内圧検出系異常フラグをリセットする(S240)。またステップS230で否定の場合には、筒内圧検出系が異常と判定して、筒内圧検出系異常フラグをセットする(S250)。この筒内圧検出系異常フラグは、筒内圧検出値または同検出値を用いて行われた演算結果を用いる他の制御において参照され、同フラグがセットされている場合には筒内圧検出値または同検出値を用いて行われた演算結果を用いる制御自体が中止されるか、あるいは筒内圧検出値または同検出値を用いて行われた演算結果として所定の代用値が用いられる。
【0053】
以上のとおり、第3実施形態では、筒内圧検出系を診断することが可能になる。
【0054】
なお、第3実施形態では筒内圧検出系を診断する構成について説明したが、このような構成に代えて、低位発熱量比RQ2が低位発熱量比RQ1と所定範囲内で一致しない場合に、空燃比検出系を異常と判定してもよい。ここにいう空燃比検出系とは、A/Fセンサ17および同センサからECU20への伝送経路、ならびに空燃比検出値を用いてストイキ空燃比を算出する一連の処理を行うプログラム及び各種基準値を含む。
【0055】
また、低位発熱量比RQ2が低位発熱量比RQ1と所定範囲内で一致しない場合に、筒内圧検出系と空燃比検出系の両者を異常と判定することにより、両者の診断を行う構成としてもよい。さらに、低位発熱量比RQ2が低位発熱量比RQ1と所定範囲内で一致しない場合に、他の診断手段(例えば、燃料の屈折率から粘度および比重を判定する性状センサを燃料系に配置し、この性状センサの検出値から算出した低位発熱量と筒内圧から算出した低位発熱量との比較により筒内圧検出系を診断する処理プログラム)による筒内圧検出系および/または空燃比検出系の診断結果を参照することにより、筒内圧検出系と空燃比検出系とのいずれが異常であるかを多数決論理で判定する構成としてもよい。
【0056】
なお、上記実施形態では、本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明は特許請求の範囲およびその等価物の範囲および趣旨に含まれる修正および変更を包含するものである。例えば、A/Fセンサ17の検出値からストイキ空燃比を求める手法は、上記各実施形態に示したもの以外にも各種の手法を採用することができる。また、上記各実施形態ではガソリン・アルコール混合燃料を使用可能な車両の内燃機関に本発明を適用した例について説明したが、本発明は単一種類の燃料を含む他の種類の燃料を用いる内燃機関、あるいは各種内燃機関を駆動源として含むハイブリッド車についても適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 内燃機関3 燃焼室14 クランク角センサ15 筒内圧センサ16 吸気圧センサ20 ECUVe 排気弁Vi 吸気弁VM 動弁機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの空燃比検出値に基づいてストイキ空燃比を算出する手段を有する内燃機関の制御装置において、
低位発熱量とストイキ空燃比との既知の関係に基づいて、前記算出されたストイキ空燃比から燃料の低位発熱量を算出する手段を更に備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
筒内圧検出値に基づいて低位発熱量を算出する手段と、
ストイキ空燃比に基づいて算出した低位発熱量の値と、筒内圧検出値に基づいて算出した低位発熱量の値との比較に基づいて、前記筒内圧検出値に基づいて低位発熱量を算出する手段および前記排ガスの空燃比検出値に基づいてストイキ空燃比を算出する手段のうち少なくとも一方を診断する診断手段と、を更に備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−7620(P2012−7620A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193176(P2011−193176)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2007−120949(P2007−120949)の分割
【原出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】